公務員制度改革の大枠決定
「省庁再編」に魂
2001年3月28日 読売新聞 朝刊
政府が27日に決定した公務員制度改革の大枠は、半世紀以上も続いた古いシステムにメスを入れ、今年1月の中央省庁再編で生まれた新しい「器」にふさわしい「中身」を盛ろうとするものだ。人事院制度改革、労働基本権付与の検討、民間企業への天下り見直しなど6月の具体策取りまとめへ向け制度の根幹に切り込む方針だが、急激な変化を伴うだけに今秋の法案化には曲折が予想される。<改革の大枠>
| 労働基本権 労働者の基本的人権として憲法28条が定めている。労働組合を組織する権利(団結権)、組合を通じ使用者と労働条件を交渉し、労働協約を締結する権利(団体交渉権)、集団で生産や業務を停止する権利(団体行動権=スト権)の労働3権を指し、このうちスト権は一切の公務員に認めていない。 |
さらば「親方日の丸」
スト権もリストラも「民間並み」
■労働基本権の制約のあり方との関係も十分検討
「制度を白地から見直す際の当然の論理として、労働基本権にさわらないということには絶対ならない」
野中広務・自民党行革推進本部長は23日、榎本庸夫自治労委員長ら官公労幹部と会談した際、こう言い切った。
公務員の団体行動権(スト権)など労働基本権は、人事院が給与などを管理することと引き換えに制限されている。人事院の抜本改革が基本権の回復問題に直結するのは、そのためだ。野中氏は「民間企業と同じ労働法規を適用する代わりに民間並みのリストラもあり得る」と強調し、「親方日の丸」意識の払しょくと「信賞必罰」導入の一環と位置づけている。
しかし、スト権付与は霞が関周辺の風景を一変させかねない。イギリスでは96年に郵便職員が24時間ストを実施し、ほぼすべての集配業務が停止。ドイツでは99年に教師、ゴミ収集職員、公共交通職員、病院関係者ら約10万人がストを実施した。
自民党側は「公務員がストを打っても決して世論の理解は得られない」(太田誠一行革推進本部事務局長)と見ているが、スト権獲得を求める組合側は「その場になってみないと分からない」(自治労幹部)と含みをもたせている。
| 職 員 の 区 分 | 団結権 | 団体交渉権 | 団体行動権 | ||
| 国家公務員 | 非現業 | 警察・海上保安庁・監獄職員、入国警備官 | × | × | × |
| 行政職員、教育職員、医療職員など | ○ | △ | × | ||
| 現業 | 郵政、林野、印刷、造幣 | ○ | ○ | × | |
| 地方公務員 | 非現業 | 警察・消防職員 | × | × | × |
| 一般行政職員、教育公務員、福祉関係職員など | ○ | △ | X | ||
| 現 業 | ○ | ○ | × | ||
(注)△:勤務条件などで各省庁、人事院と団体交渉はできるが、その結果を労働協約として締結することはできない
「透明度」が大事
佐藤英善・早大教授「閣僚が人事を行う際には人事官など第3者的ポストを置き、透明度を高めることが大事だ。労働基本権が制約されたままでは大枠は憲法28条に抵触する可能性が高い。基本権を拡大しても、実際には国会で公務員給与を決めるため労使間の協約は効力を持たないなど課題も多い」
天下り 閣僚が承認
すべてチェックできる?
■再就職の厳格な承認基準を設け、閣僚の直接の承認を必要とする。人事院の事前承認制は廃止
批判の強い民間企業への天下りの見直しは、出身省庁の権限や予算を背景とした「押しつけ型天下り」を厳格な基準を設けて監視することが目的だ。
しかし、1人の閣僚がすべての天下りの適否を詳細に点検・判断することは不可能だし、情実人事の可能性も排除できない。「天下る」側も早くから自分の力で天下り先を探すことになり、かえって官民の癒着が強まる恐れも出てくる。
年次順より実力本位
「つい上から」の意識改革必要
■人事院の級別定数廃止。省庁が自らの判断で組織・人事制度を設計・運用できる仕組みを整備
霞が関に漂う閉そく感は、自らの人事と給与が「級別定数」によって人事院に管理されていることが大きい。級別定数は国家公務員の等級を11級に分類し、人数や昇進までの年数などを細かく定めていて、その枠内でしか昇級・昇進ができない仕組み。人事院の承認を得れば、今でも枠を飛び越えた人事が可能だが、「人事院に頭を下げる気になれず、つい年次順に上から並べてしまう」(国土交通省幹部)というわけだ。
大枠を実行に移せば、課長と補佐の年次が実力本位で入れ替わるなど、民間では当たり前の風景が霞が関でも見られるようになるかもしれない。 しかし、「人事硬直化の元凶は年功序列が染みついた官僚の意識にこそある」との指摘もあり、狙い通りに運用するには閣僚の指導力が必要となりそうだ。
官僚に先手
事前の事務次官会議もなし
各省の人事担当者に大枠が知らされたのは決定前日の26日午後。事務次官会議など事前のすり合わせも一切ない「大本営発表」(人事担当者の1人)だった。戦後間もない48年の国家公務員法改正で人事院制度が整備され、団体行動権も制限されて以来、今日までほぼ原形を保ってきた制度の変革には官僚が強い抵抗を示すことが目に見えていたからだ。
しかし、今回の改革を積極的に支えたのは大枠を策定した行政改革推進事務局に集められた各省庁の若手官僚だった。同世代の退職者が急増する中、ある若手は「思い切った抜てき人事などを可能にしなければ有能な人材の流出は止まらない。改革が実現しなければ、霞が関を去る」との決意まで口にした。
地方にも波及必至
■地方公務員制度については、地方自治の本旨に照らしつつ、国家公務員制度の抜本的な見直しに準じた見直しが必要となる
今回の改革は国家公務員を対象としているが、約440万人の全公務員の4分の3を占める地方公務員にも、影響が及ぶことは間違いない。地方公務員の人事・給与制度も、中央の人事院制度に則しているためだ。「改革が進めばこうした仕組みを地方だけ残すのは無理だ」と予測する声もあり、地方公務員法改正が将来の課題となりそうだ。