総合科学技術会議 発足1カ月
技術力回復へ重い課題
2001年1月31日 朝日新聞 夕刊
科学技術の国家戦略を担う「総合科学技術会議」が内閣府に誕生して約1カ月たった。知の創造と、それによる国際競争力を目標に掲げる。省庁の壁をも越えて総合調整機能を発揮する、真の司令塔たりうるだろうか。
(斎藤義浩)
期待先行、厚い省庁の壁
「21世紀の科学技術は産業経済や社会の発展のけん引車。同時に科学技術と人間社会との調和も重要だ。その意味で、人文・社会科学をも含んだ総合会議は意義深い」。1月18日に首相官邸で開かれた第1回本会議で、同会議の井村裕夫議員は口火を切った。
省庁再編に伴い同会議は、ほかの省庁の上位にある内閣府に置かれた。議長を務める首相のもと、有識者と閣僚ら計14人の議員が月に1回は本会議を開き、科学技術の国家戦略をとりまとめる。
米国にならう
同会議は、各省庁の科学技術施策や国際情勢を見ながら、不要な重複など縦割りの弊害がないか目を配るとともに、政策を評価する。予算編成では重点事項や規模のあり方について意見を述べる。ただし、任務はあくまでも省庁や財政当局間の調整に限られ、自前の事業予算を持たない。
森喜朗首相は、会議を掌握して首相を補佐する科学技術政策担当特命相も置いた。科学技術担当の大統領補佐官が大統領と密接に連携して国家戦略を決めている米国にならった。
会議と特命相を支えるのは、科学技術政策担当政策統括官(局長級)をトップにした80人規模の独自の事務局。スタッフは各省庁だけでなく国立研究機関、大学、民間から登用した。

背景には、日本の技術力低下への危機感がある。スイスの研究機関「国際経営開発研究所」が1989年から毎年発表している「世界競争力白書」によると、日本の総合的な国際競争力は92年までは世界1。しかし長引く不況の影響もあって急落、90年代後半には17位あたりに定着してしまった。
とくにライフサイエンスと情報通信の分野では米国に大きく水をあけられた。
「科学技術創造立国」を旗印に95年、科学技術基本法が制定され、第1期科学技術基本計画が翌年閣議決定された。研究開発投資を増やし、産学官の連携を活発にすることで、国全体の研究開発能力を引き上げるのが目的だった。
しかし駆け込みで作った計画とあって、大学などの研究環境の改善はほとんどできなかった。産業との連携も不十分だった。
国家戦略練る
総合科学技術会議の最初の仕事は、これを打開する第2期基本計画を仕上げ、それを達成するための国家戦略を明らかにすることだ。
基本計画案は目ざすべき国の姿として、
@50年に30人がノーベル賞を受賞できるほどの知の創造と活用
A公的研究機関発のベンチャー企業創設などによる国際競争力向上
Bオーダーメード医療など、安心・安全で快適な生活の基盤形成、
をあげている。
その実現のために、資金配分システムなどの改革を提言している。
| ◎研究開発の重点化=ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料の4分野に重点を置き、優先的に資源配分。エネルギー、製造技術、社会基盤など国家の基盤になる領域も重視。 |
| ◎競争的環境の整備=テーマを公募して配分する競争的資金を倍増。獲得した資金に応じて、その研究者が所属する研究機関が自由に使える間接経費を支給。 |
| ◎若手研究者の研究環境整備=30代半ばまでは任期付き任用を原則とし、公募の普及と合わせて人材の流動化を図る。若手向け資金を拡大したうえで、指導者から独立した研究ができるシステムをつくる。 |
| ◎評価システムの改革 |
| ◎産学官連携の推進=研究機関における特許の取得・管理・展開の機能を整備。発明者への還元制度を拡大。 |
| ◎大学施設・設備の重点的整備=大学院の拡充などで不足・老朽化している1100万平方bについて、5カ年の緊急施設整備計画を実施する。 |
常勤議員になった日立製作所取締役(非常勤)の桑原洋氏は「国費を投入した公的機関の技術が産業化すれば税収として還元される。国はこういう視点も持つべきだ」という。「学会も単なる論文発表会ではなく、産業側がぶつけるニーズに学者がこたえる場にしなければ」ともいい、「あれもこれも改革が必要だ」と危機感をにじませる。
だが、現実に何をどう調整していくのかは、これからの課題だ。
省庁再編で、科学技術の主要な担い手である文部省と科学技術庁が一緒になったが、融合は進んでいない。「大学は文部、原子力推進は科技庁」と既得権の壁は厚く、同会議には大所高所からの政策評価への期待もかかる。
日本への誘致問題で揺れる国際熱核融合実験炉(ITER)は、同会議の検討対象に入るが、同会議は今のところ及び腰。事務局の興直孝政策統括官は「文部科学省の検討や、原子力委員会の有識者懇談会の判断を見守っている」という。
一方、宇宙開発委員会の権限縮小で、国全体の宇宙政策が宙に浮いた形になったが、同会議がどうかかわっていくのか、まだ明確ではない。
鳴り物入りで発足したとあって、「国際競争力が回復する特効薬を生み出す」といったイメージも、各省庁や企業の関係者には生まれているという。
「5年計画が始まったばかり。他人頼りの期待が大きすぎる」と、担当者からはぼやき声も聞かれる。
予算・人材配分・研究の評価も
総合科学技術会議は首相の諮問により、科学技術の総合的かつ計画的な振興を図るための基本的な政策、必要な資源の配分方針などを調査審議する。第1回本会議で、「重点分野の推進戦略」「評価」「システム改革」など5分野の専門調査会の設置が決まった。
予算や人材の配分、国家的に重要な研究開発の評価をする点が、前身の科学技術会議と異なる。諮問がなくても首相らに意見を述べることができるなど、能動性も高まった。
また科学技術会議は年に1、2回しか本会議が開かれず、下部組織や省庁が作った政策を追認するだけだったが、今回は議員が徹底的に議論するとしている。
議員は科学技術会議の10人(有識者5人)から14人に拡充した。
うち有識者は、石井紫郎・前国際日本文化研究センター教授(法制史学)、井村裕夫・元京都大学長(内分泌学)、黒田玲子・東京大教授(生物化学)、桑原洋・日立製作所非常勤取締役、志村尚子・津田塾大学長(国際政治学)、白川英樹・筑波大名誉教授(高分子工学)、前田勝之助・東レ会長の7人。自然科学系だけでなく人文社会学系2人、産業界2人が入った。
閣僚議員は、内閣官房長官、科学技術政策特命相、総務相、財務相、文部科学相、経済産業相の6人。関係機関の長として、吉川弘之・日本学術会議会長も引き続き任命された。