私立大、冬の時代
2001年1月29日 読売新聞 朝刊
生き残り戦略2極化 強まる都心指向
私立の大学、短期大学が冬の時代を迎えている。少子化で定員割れや廃校にまで追い込まれる例が増え、過去の投資の負担も経営を圧迫している。学生が大学を選ぶ新たな環境下で、人気回復策などを講じて学生の確保や受験生の増加を図ろうとする大学もある一方、人員削減などによる経費節減で収支均衡を目指す大学もあり、生き残り戦略が2極化しはじめている。
アングルJ 学生確保
「交通アクセスの悪いキャンパスでは若者を引きつけられず、将来的に不安が大きい。都心に近い場所に移して、生き残りを図りたい」(青山学院大学の半田正夫学長)
青山学院大は、主に文系の教養課程を置く神奈川県厚木市郊外のキャンパスを撤収し、2003年4月に同県相模原市に移転する。厚木キャンパスは82年に開設されたが、東京・渋谷の本部から2時間近くかかり、「青学」ブランドのイメージとかけ離れた立地が学生離れを招いた。
理系も含めた志願者はピークだった89年度の6万1000人から2000年度は3万3000人にほぼ半減した。本部と1時間で行き来できる新キャンパスヘの移転で人気回復を狙う。
私立大は受験生が急増した80年代に、広いキャンパスを求めて郊外へと次々に移転した。だが、学生獲得競争が激しくなるとともに、アルバイトや遊びに便利な立地を求める学生の「ニーズ」を無視できなくなってきた。不況も影響して、地方の受験生が、郊外の私大より学費、生活費の安い地元国公立大を選ぶ傾向も強まっている。
都心に残った大学も、地の利を生かして受験生を引きつけようと懸命だ。郊外への移転計画を撤回し、98年に本拠地の東京・神田駿河台に23階建ての「リバティタワー」を建設した明治大は2000年度の志願者数が前年度を約1万1000人も上回った。「タワーで都市型大学のイメージが高まった」(小野塚喜紀広報部長)ことが入試改革とともに人気を高めた。
4年制大学にも増して短大には学生確保が死活問題だ。80年開校の洗足学園魚津短大(富山県魚津市)は97年度から定員を割る学科が出て、2000年度を最後に募集停止に追い込まれた。アレン国際短大(岩手県久慈市)は、2000年度に入学金の免除に踏み切った。奥の手ともいえるのが、新規入学者が減っても在学生を増やせる4年制大学への改組だ。短大人気の低下もあって改組ラッシュとなっている。
| 年度末で廃校 | 洗足学園魚津短大(富山) |
| 東京電気短大(東京) | |
| 東京女学館短大(東京、4年制大学設置を準備中) | |
| 4年制大学への改組など | 長岡短大→長岡大産業経営学部(新潟) |
| 熊本音楽短大→平成音楽大音楽学部(熊本) | |
| 道都大短大部→道都大経営・美術学部(北海道) | |
| 慶応義塾看護短大(東京)→慶応義塾大看護医療学部(神奈川) | |
| 四日市大短大部→四日市大総合政策学部(三重) | |
| 関西国際大短大部→関西国際大人間学部(兵庫) | |
| 甲南女子大短大部→甲南女子大人間科学部(兵庫) | |
| 近畿大青踏女子短大(和歌山)→近畿大文芸学部(大阪) |
【定員割れ】 日本私立学校振興・共済事業団の昨年5月末の集計によると、2000年度は、私立大で全体の28.2%に当たる133校、短大は58.5%の265校が入学定員を割り込んだ。私立の大学・短大を助成する私立学校等経常費補助金は、定員の半数を割り込むと交付が打ち切られる。99年度は私立大1校1学部、短大52校64学科が不交付となった。文部科学省と同事業団は2000年度から交付基準を緩和する。
アングルK リストラ 教員任期制を導入
「コストを削るためにいろいろな改革を試みてはいるが、対症療法では効果がない。有名大学もふんぞり返っていてはだめだ」(日本私立大学連盟・日塔喜一事務局長)
文部省(現在の文部科学省)は、97年に大学教員の任期に関する法律を施行し任期制を導入しやすくした。人件費は大学のコストの6−8割を占め、とくに教員は定年が65−70歳と高い大学が多い。流通科学大(神戸市)、東京家政大(東京都板橋区)など5大学が新たに教員任期制を導入した。東京家政大は助手の任期を3年で区切り、延長する場合も2年間にして、最長でも5年にとどめている。
非常勤講師の拡大や一般教養課程の教員の相互融通で人件費削減を図る大学も多い。早期退職制度を導入した大学も少なくない。
アウトソーシングで経費節減に取り組む大学もある。芝浦工業大(東京都港区)は、98年に全額出資で警備、清掃などの業務の窓口となる会社を作り、費用を節減している。大学OBの技術者を企業などへ派遣する業務も行い、収益の一部を大学の研究費に寄付している。「授業料を安易に値上げできなくなった」大学を収支両面で支援する。
日本私立大学連盟も加盟校に、パソコン、書籍などの共同購入や経理事務などを請け負う会社の設立を検討している。
●スコープ 少子化進み、環境厳しく
92年度の受験生は延べ240万人、私立大・短大の名目的な競争率は単純平均で10倍にも上ったと推計されている。しかし、それから10年足らずで私立大・短大は、構造不況業種に一変してしまった。
進学率の上昇による受験生の増加を当て込み、経営努力を怠ってきた「殿様商売」と、郊外への移転や校舎の新設への過大投資のつけが、関係者の予想を上回る早さで回ってきた。
リクルートが発行する大学経営雑誌「カレッジマネジメント」の中津井泉編集長は「銀行のように護送船団方式で行政に守られ、対策が遅れた。IT(情報技術)化への投資も必要だが、リストラは進まず、財政的に打つ手がなくなってきた」と指摘する。
現在は「臨時的定員」による入学定員の水増しが認められ、収入面で有名大学の経営をサポートしているが、18歳人口は2008年以降10年間は現在より2割程度少ない120万人程度にとどまる。大学にはさらに厳しい時代が待ち受けている。
受験生だけでなく企業も大学を厳しい目で選び始めている。有名校といえども、経営的に強く、教育内容も魅力的な大学へと改革していかなければ、生き残りは難しい。企業と同じように大学の再編、淘汰の時代が迫っている。
(吉見淳一、小野田徹史)
【臨時的定員増】 文部省(現文部科学省)は、18歳人口が第2次ピークを越えた93年度から大学の定員抑制に転じた。その一方で、例外措置として既存校には7年間の「臨時的定員」を認め、施設、教員を拡充しなくても学生を増やせる措置を取った。学生を集められる私立大は増収を図れ、借入金などによる経営圧迫を軽減できる恩恵を受けている。2000年度以降も5年間の延長が認められることになったが、人気のない大学はしわ寄せを受けやすい面もある。