予算・人事 自由度増す

朝日新聞連載「!大学はどこへ 独立行政法人化の波」C

2000年5月26日


私立大も「独法化」が有効


ありま・あきと

75年から東京大理学部教授(原子核物理学)。

89-93年、東大学長。95-98年、中央教育審議会会長。

98年7月に自民党から参院選比例区に出馬し当選。

 国立大学の独立行政法人化は、大学や日本の将来に何をもたらすのだろう。禍根を残す心配はないか。文部大臣在任中の昨年9月、法人化容認を念頭にその検討入りを表明した、元東京大学長の有馬朗人氏(参院議員・自民)に聞いた。

(社会部・高橋庄太郎)


―生粋の大学人である有馬さんが法人化を容認したのはなぜか。

 「国立大の独立行政法人化の議論はもともと、財政負担を減らす目的から起こり、大学に軽量化を求めるものだった。将来の『民営化』さえ視野に入れていた。だから、私も当初は絶対反対という立場だった」

 「ただし、国立大をあくまで国立のままで維持し、さらに予算を増やすことができるなら、法人化もあり得るとは思っていた。その後できた法律によると、組織は引き続き国費で運営し、職員は国家公務員の身分も維持できるとされた。これで考えは変わった」

 「海外には、国立や州立であっても独立した法人格をもつ大学が多い。私は特殊法人である理化学研究所の理事長も経験しているが、東大にいた時より運営ははるかに自由だった。いったん予算をもらえば、当初の目的以外のことにもお金を振り分けられた」

 「法人化すれば、人事の自由度が増すことも重要な点だ。今の国立大は文部省の1機関という位置づけだから、事務職員の人事は文部省の判断にかかっている。私が東大学長の時には、事務局長(大学事務職員のトップ。文部官僚が就任する)が4年間で3人も交代した。これでは何かをやろうとしても腰が落ち着かない。法人化すれば、大学が独自の判断で事務職員の配置を決められる」

一口に国立大学といっても、事情はまちまちだ。法人化して外部からお金を集めろと言っても、地元に大企業がない大学では限度がある。

 「そういった考え方には賛成できない。弱気すぎる。米国では、田舎町の大学でも大変な努力をして運営している。日本でできないはずはない。大学は、地元の自治体や産業界を過小評価していないか。連携を密にして、例えば寄付講座(外部のスポンサーの寄付金で運営する講義や研究)などをどんどん広げていけばいい。政策的には、自治体による国立大の助成を禁止していることを見直し、法整備をしなければならないと考えている」

―文部省は「国立大も競争の時代」と言うが、旧帝国大をトップに序列化してきたのは当の文部省だ。予算要求で新しい取り組みを示しても、「7大学(旧帝大)でやっていない」とはねつけられた経験をもつ大学は多い。追い越せない枠組みをつくっておいて、「さあ法人化です」といっても、多くの大学は納得できないだろう。

 「そうは思わない。文部省も反省すべき点はあるが、光るものはどこにいたって光る。地方大学でも、例えば足元の雑草の研究から始めて、砂漢の緑化に貢献しようとしている研究者もいる。大変独創的な研究だ。法人化しても、そうした地道な取り組みは大切にしたい」

―法人化で効率性が重視され、短期的な成果が求められたら、派手さのない研究分野は衰退する恐れがある。 「インド哲学の危機」という人もいる。

 「文部省は長年、個々の講座に対して定額の予算を保証し、振り分けてきた。その効用で、派手さのない学問でも何とか維持された。法人化してもそれはやめるなと言っているし、文部省も理解していると思う。そういう最低線は保った上で、それにプラスして、実力ある研究者に交付する競争的な予算を大幅に増やすべきだと考えている」

―国立大をめぐっては、とかく「ぬるま湯体質」と批判されるが。

 「経済界の人たちは、口を開けば『日本の大学は得に立たない』とおっしゃる。その人たちの尺度に従えば、今すぐ、明日にでもお金になる研究成果を出さないと評価してもらえないことになる。しかし、超伝導でも何でも、一つの分野の基礎研究が実用にごぎつけるのに50年はかかる。そうしたことは我々は十分わかっているし、守っていかなければならない」

 「ただし、大学に対する不信感が企業に強いことも、大学は認識しなければならない。例えば、日本の企業は社員を海外の大学には留学させるが、日本の大学では学ばせたがらない。誤解も多いと思うが、日本の大学に『画期的』と言える発見が少ないのも事実だ」

―有馬さんは、国立大のみならず、私立大も独立行政法人にすべきだという論者だと聞いている。

 「国が高等教育、特に私立大学にかけるお金が少な過ぎる。私学への助成を増やすには、日本私立学校振興・共済事業団を通して交付している今の枠組みだけではなく、『独法化』して国から直接お金を流す仕組みにするのが有効だ。一足飛びには難しいのなら、研究費がかさむ大学院だけでも先行して法人化すればいい。そうした制度を整備すベきだと考えている。要するに日本の大学を優れたものにしなければならない。


【国立大学の財政】

国立大学の運営をまかなう国立学校特別会計の歳入は2兆7261億円(昨年度)。このうち、一般会計から出される国の負担は6割弱で、残りが国立大の自已収入などでやりくりされる。法人化された場合、各国立大は産学連携で、企業などからの収入を増やす方向で動くとみられる。国立大の授業料は、今は私学よりも安く同額に設定されているが、法人化後に国が財政負担を減らせば、高騰する可能性もある。


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