営縛る単年度主義・規則

朝日新聞連載「!大学はどこへ 独立行政法人化の波」B

2000年5月25日


 「ひとことで言うと古色蒼然(そうぜん)です」。首都圏にある国立大の文系学部の教授は、約5年前、私立大から移ってきた当時に抱いた印象を、こう表現する。国立大では「官」という言葉が普通に使われる。ゼミの学生もリポートのあて名に「○○教官」と書く。

 規則がやたら多い。海外出張時などには詳細な計画書の提出を求められる。

 新参の教授にとって、何より違和感があったのは「単年度主義」だった。研究費のたぐいは年度内に使い切るという慣行だ。

 「余っても翌年度には持ち越せない。結局、研究室用の新しい備品の購入に充てて予算を消化する。毎年のようにパソコンを買い替える同僚もいる」

 時期になると事情を心得た業者がカタログを抱えて売り込みに来る、まだ使えそうな機器が校舎の隅に積まれている……。

 単年度主義は、国立大が、財政法や会計法にしばられる行政官庁の一つであることを物語っている。

■年予算2兆円超

 全国に99校ある国立大関連の年間予算はざっと2兆7千億円にのぼり、大阪府の一般会計予算に匹敵する。大学別の配分額はどうなっているのだろう。

 元締めの文部省会計課に問い合わせた。答えは「非公開」。大学の序列と関連づけて見られるのは困るから、というのが理由だ。

 大学関係者に当たっているうちに、一つの手掛かりがみつかった。ほかならぬ文部省が定期的に発行している「文部省年報」である。印刷部数が少なく、あまり存在が知られていない分厚い行政記録集の中に、国立大別の決算額が小さく載っていた。

 一番新しい「年報」に記載されている1991年度の各大学の決算額を大きい順に並べかえると、表のような結果になった。

1991年度国立大学決算額
(『文部省年報』から。大学院大学を除く)
国立大学 決算額 教職員数 山梨医科大 109.8 874
東京学芸大 109.7 1032
単位億円 埼玉大 109.7 850
東京大 1130.0 8063 岩手大 98.5 914
京都大 840.0 5631 北海道教育大 91.9 891
大阪大 798.0 4616 東京農工大 85.0 701
東北大 693.7 5261 九州工業大 84.4 632
九州大 621.1 4583 宇都宮大 83.5 757
北海道大 610.0 4364 富山大 82.9 827
名吉屋大 503.1 3505 名古屋工業大 78.6 614
広島大 501.4 3254 佐賀大 77.7 717
筑波大 490.5 3985 電気通信大 76.0 535
金沢大 363.5 2267 一橋大 70.8 619
岡山大 361.6 2786 島根大 70.1 655
神戸大 355.6 2577 宮崎大 69.7 629
千葉大 350.6 2600 香川大 69.3 709
新潟大 338.0 2517 愛知教育大 68.4 690
東京医科歯科大 320.8 1610 高知大 67.3 642
長崎大 304.4 2294 東京芸術大 65.9 326
鹿児島大 301.2 2386 福井大 64.2 564
信州大 285.6 2148 山梨大 62.9 621
熊本大 273.0 2146 京都工芸繊維大 61.0 506
山口大 256.2 1930 大分大 57.6 612
徳島大 247.9 1850 福岡教育大 54.2 483
群馬大 242.5 1745 福島大 54.0 520
三重大 241.5 1795 お茶の水女子大 50.8 415
東京工業大 241.0 1842 東京水産大 49.1 328
愛媛大 223.4 1959 豊橋技術科学大 48.8 380
山形大 221.2 1834 滋賀大 42.6 433
琉球大 221.0 1862 東京外国語大 42.3 352
弘前大 220.9 1593 京都教育大 41.9 411
鳥取大 211.3 1658 長岡技術科学大 41.6 372
岐阜大 204.1 1554 室蘭工薬大 41.4 360
秋田大 190.1 1431 和歌山大 40.5 400
大阪教育大 146.3 787 奈良女子大 39.8 351
静岡大 139.6 1276 上越教育大 36.8 355
富山医科薬科大 135.3 999 鳴門教育大 36.1 412
横浜国立大 132.9 1066 宮城教育大 35.3 332
滋賀医科大 129.3 883 兵庫教育大 35.1 371
大分医科大 125.2 888 大阪外国語大 35.0 289
浜松医科大 121.2 889 帯広蓄産大 32.8 271
佐賀医科大 121.1 899 奈良教育大 31.0 268
旭川医科大 120.9 879 東京商船大 28.7 224
高知医科大 118.8 898 北見工業大 27.5 271
香川医科大 118.2 889 神戸商船大 24.2 185
福井医科大 117.8 883 図書館情報大 22.7 148
茨城大 113.6 970 小樽商科大 21.9 198
宮崎医科大 113.1 887 九州芸術工科大 19.1 184
島根医科大 112.1 875 鹿屋体育大 14.9 159

 旧帝国大学7校が上位を占める。次が歴史の古い総合大、これに新しい総合大が続く。理科系が文科系の上にある。11の医学部単科大はみごとに横一線だ。規模も中身も異なる国立大が、護送船団さながらに、ある秩序に従って整然と並んでいる。

■しなやかさ欠く

 明治の初め以来、国立大は日本の近代化に重要な役割を果たした。長い歴史で自治の伝統がはぐくまれた半面、「行政官庁の一つ」という位置づけは大学運営の重しになり、しなやかさを欠く原因になった。

 文部省が、国立大の予算、定員をがっちり握っている。何かにつけて、各大学が「虎ノ門」(東京の文部省の異名)におうかがいをたてる仕組みなのだ。様々な国立大改革案が浮かんでは消えた。

 第2次大戦後、占領軍は米国の州立大流の管理方式を植え付けようと試みた。文相をつとめた永井道雄氏の大学公社論も旧来の管理運営方式の改造をめざしていた。経済協力開発機構(OECD)調査団は、中央集権型の計画、資金配分を改め、個別大学の自律性を高めるべきだと提案した。

■「経営」の意識も

 肝心の国立大の内部からは、改革に向けた大きな動きはついに起きなかった。外からの提案は、結局、やり過ごしてきた。

 最近でこそ、文部省主導で、学長裁量の経費を増やしたり、副学長を多数配置したりの新しい動きが出ている。学長たちも、かつてはタブーだった「経営」という言葉を口にするようになった。厚生課を「学生サービス室」に改称する大学も相次いでいる。学生に冷たいという国立大イメージをぬぐう意味があるそうだ。

 しかし、どれもが、国立大のあり方を根本から変えるものではない。

 国立大の現状を「窮屈なぬるま湯」にたとえるのは『大学淘汰の時代』の著者で、大学史に詳しい喜多村和之・元広島大教授。

 「入っていて特に気持ちいいわけではないが、一応温かい。外へ出るにはそれなりの勇気がいる」

 「行政の減量」を旗印にしたこんどの独立行政法人化の動きは、従来の改革案とは相当違う。

 思いがけない方角から飛んできた大きな石は、国立大の「一枚岩」にひび割れをもたらそうとしている。

 国立大とは何か。本当に変えるにはどうしたらいいのか。こんどこそ、各大学、そして文部省が答えを出さなければならない。

(社会部・高橋庄太郎)


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