経営「先細り」に危機感

地方大学の憂うつ
「ライバル校」挙げ競争戦略
朝日新聞連載「!大学はどこへ 独立行政法人化の波」A

2000年5月24日

 10年もすれば、一部の有力大学を残し、国立大学の多くが消えて無くなるかもしれない。

 会場のだれもが、そんな不安を抱いていた。この21日、東京都心のホテルに、約40人の国立大学長が集まった。

 地方の国立大の有志が呼び掛けあったため、旧帝国大学など有力大学の学長の姿はない。会の趣旨は「地方大学の存在意義」を再確認すること。話題は、おのずと独立行政法人化の「危険性」に集まった。

 「このまま法人化すれば、立ち行かなくなるのは火を見るより明らかだ」「どんな環境になろうがやっていける旧帝大とは立場が違う」。同じ境遇の学長ばかりという気安さからか、熱のこもった論議は4時間近くに及んだ。

■地域文化の中心

 東京から鉄路で約1500キロ。会合を呼びかけた学長の大学は、そこにある。九州南端の鹿児島大で、田中弘允学長は近未来の最悪のシナリオを描いている。

 法人化後に生き残るには、何を置いても経営を安定させることが必要だ。可能な限り入学定員を増やし、周辺私立大が引き受けてきた学生層に切り込む。そうすれば、私大の衰退と引き換えに当面は存続できるかもしれない。しかし、次にブロック最大の九州大学と競合すれば、逆立ちをしてもかなわない。国の予算や企業の研究費はどんどん九州大に注がれるだろう。我々は先細りになるばかりだ―。

 「地方にとっては地元の国立大は文化や人材養成の中心だ。それがない地域杜会なんて、だれにも想像できない」

 全国ブランドになった「薩摩の黒豚」は、鹿児島大の農学部と卒業生らが協力してつくったものだ。サツマイモの茎やしょうちゅうのかすをえさに使いながら、長年にわたって品種改良し、完成にこぎつけた。

 今では、地元産業を支える大きな柱になった。バイオテクノロジーや情報といった先端分野がもてはやされ、予算が偏重されたら……。田中学長の頭からは、「地方の衰退」という文字が消えない。

■国大協も割れる

 法人化の眼目は「効率化」だ。国立大学には、合わせて約12万5千人の教職員がいる。「法人化して国の管轄から外に出せば、わかりやすく行革の『手柄』を示せる」。こんな政治的な思惑が、政府や自民党にはある。

 そして国立大学には、「目に見える成果を残せないと予算を減らされ、存続の危機にさらされる」というおびえがある。

 他方、法人化には利点も大きいと言われる。例えば企業との共同研究を広げれば、現在にくらべ、企業からの研究費を大学が自由に使えるようにすることも可能だ。旧帝大など有力大学にとっては、飛躍の機会とも映る。

 今月1日に東京で開かれた国立大学長の懇談会は、法人化をめぐって賛否が入り交じった。国立大学協会会長の蓮實重彦・東京大学長は、議論を引き取ってこう述べたという。「内部が割れている実態があからさまになると、国大協の崩壊を招きかねない。外部には、まとまっていることを強調することにしたい」。それ以外の方向性は示されなかったという。

■教員は額に汗を

 <「現状に安住する」という態度でいれば、「座して死を待つ」結果にしかならないことを全員が自覚しておくことが肝要だ>

 新潟大学がこんな学内資料をまとめたのは、昨年1月のことだ。そこには、厳しい現状分析と、生き残りの戦略がつづられている。

 資料は「存続をかけての競争への登場者」と題し、27の「仮想ライバル校」を挙げている。旧帝大や一橋大などのほかに、鹿児島大の名前もある。「教員は、国民のサービス機関の一員という自覚をもつこと」「額に汗する労働者であること」。大学の威厳さえかなぐり捨て、何としても生き残ろうという構えがそこにはある。

 大きな大学と、小さな大学。都会の大学と、地方の大学。国立99大学の中で、それぞれの立場が複雑に交錯する。

 そんなことは気にもとめず、法人化に向けたスケジュールは着々と進められている。結論をまとめられない国大協をしり目に、文部省は26日に臨時の学長会議を召集し、文部大臣が法人化を正式に表明する方針だ。

 6月下旬には具体的な制度設計を話し合う「検討会議」が発足する。来年7月に中間報告を公表。12月には最終報告をまとめ、2002年の通常国会にも法人化のための法案を提出する―。文部省の内部資料には、そんな日程がすでに固められている。

(社会部・村上宣雄)

科学研究費補助金の配分状況
[2000年度、文部省調べ]
東京大学 115億2560万円
京都大学

74億5990万円

東北大学

54億4020万円

大阪大学

54億1370万円

北海道大学

39億8060万円

名古屋大学

36億8220万円

九州大学

35億9490万円

東京工業大学

27億1680万円

広島大学

18億6950万円

筑波大学

17億9380万円

神戸大学

14億1450万円

慶應義塾大学

12億3560万円

岡山大学

11億8340万円

熊本大学

11億4470万円

千葉大学

10億8010万円

  科学研究費補助金(科研費)は、文理を問わず、大学の研究者やグループなどの先進的な取り組みを助成する制度。一般の大学予算と違い、文部省などが個々の申請ごとに重要性を判断して採否を決める「競争」的な交付金だ。今年度の総額は約988億円。日本には国公私合わせて650大学あるが、配分額の上位7位には東大を始めとする旧7帝大が並び、全体の41.6%を占める。国立大学関係者には、この傾斜配分の様子を法人化後の「明日の姿」になぞらえる見方がある。


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