国立大、体力強化へ連合体
合従連衡

帝大に対抗「内地留学」も

2000年5月23日 朝日新聞 朝刊(17面) 
連載「大学はどこへ 独立行政法人化の波紋」@

 東京大学を先頭に進んできた国立99大学の「護送船団」が、崩れ始めている。行政改革の波は国立大学にまで押し寄せた。文部省は今週末の26日、全国の国立大学長を集めて、法人化を正式に表明する。国に守られてきた国立大は、立ち行かなくなって消滅する可能性すら出てきた。逆に、活路を見いだせれば大きく発展することもあり得る。荒波の中を、国立大学はどこへ向かうのか。(社会部・柏木真、村上宣雄)=1面参照

 「こんなやり方があっていいのか」

 憤った顔は、大学の学長に似合わず紅潮していた。昨年6月、東京都千代田区の「如水会館」。一橋大卒業生の組織が運営する会館のレストランに、3人の学長がいた。中嶋嶺雄・東京外国語大学長が、石弘光・一橋大学長と内藤喜之・東京工業大学長を誘った。

 中嶋・東京外大学長の怒りは、直前まですぐ近くの学士会館で開かれていた国立大学協会の総会に向けられていた。

 国立大の独立行政法人化に、国大協は一貫して「絶対反対」を唱えてきたが、この日の総会で突然、会長の蓮實重彦・東大学長が一つの動きを報告した。「敵(政府)を知る意味でも、行政法人化が及ぼす影響を検討しなければならない」

 そういって法人化問題を検討したリポートを披露した。しかし、それは条件によっては法人化を認めるとも受け取れる内容だった。

 実は、このリポートは蓮實学長が内々、松尾稔・名古屋大学長に依頼したものだった。中嶋・東京外大学長は国大協の副会長だったが、そんなことは知らされていなかった。それは旧帝大系の学長を中心に進められていた。

 ■別格扱い7大学

 「旧帝大にはずっと煮え湯を飲まされてきた」。こんな思いを語る国立大関係者は少なくない。

 事実、戦後半世紀以上たった今でも、国立大の運営は、旧帝国大の7大学(北海道、東北、東京、名古屋、京都、大阪、九州)が中心だ。文部省もこの7大学を絶えず別格扱いしてきた。7大学の学長会議には、敬意を表して文部省の事務次官が出席する。予算はもともとが手厚い上に、7大学の事務局長には文部省で審議官を経験した官僚が就くため、本省とのパイプを使って予算を獲得しやすい環境がある。

 国大協総会後の如水会館で、思いを吐き出した3人の学長は、一つのアイデアに意気投合した。

 「強い連合体を組もう」

 それぞれの大学は知名度も高く、研究や教育の質には自負がある。しかし、体力不足は否めない。例えば東京外大の予算は東大の20分の1程度、東京工大は大学全体でも東大工学部より少ないとされる。しかし、まとまれば京都大の規模にまで膨れ上がる。

 話は、東京医科歯科大、東京芸術大の学長にも広がった。秋には学長たちが文部省の幹部に受け止め方をたずねた。答えは「大いに結構だ」。

■「裏切り」の声も

 連合の構想が明らかになったとき、最も衝撃を受けたのは、一橋、東京外語の両大学と、かねて学生の単位互換組織「多摩5大学」を組んでいた電気通信、東京農工、東京学芸の3大学だった。「裏切られた」という声さえ上がる。

 「多摩5大学」は、10月に府中市に移転する東京外大を合め、いずれも東京都内で都心より西にあり、地理的に近いことが結びつきの一番の理由だった。しかし、単なる学生の単位互換の枠組みだけでなく、本格的な連携を模索しようとしていた矢先でもあった。「ぼんやりしている方がバカなのか」と電通大の有山正孝・前学長は肩を落とす。「多摩5大学」は今後も続くが、単位互換以上の意味は持たなくなった。

 「強者」はつれない。一橋大の教員の一人は、「もともと他大学に対しては、『うちは格が違う』という意識があった」と語す。

■教授会に反対論

 一橋大や東京外大などの連合構想は、「合併」を意図したものではない。あくまで個々の組織は保った上で、補完しあってパワーを引き出そうというものだ。連合構想ではすでに、複数の大学をまたぐ学際的な共同コースとして、
▽医療システム開発(東京医科歯科大と東工大)
▽技術開発経営(一橋大と東工大)
など五つのプランを検討中だ。学生を他大学に1年間通わさせる「内地留学」。3年次からの編入制度。専攻の学士号に加え、他大学で学んだ内容にも「副学位」を与える案まである。

 しかし実現には、不確定な要素もある。芸大では反対論が出て、当面参加は見送られることになった。中心になってきた中嶋学長の東京外大にも反対論がある。4月の教授会で中嶋学長が「5大学連合の設置形態(1法人=5大学のケース)」と題するぺーパーを配布したとたん、一斉に拒否反応が起こった。結局、資料が議論されることはなかった。

 とはいえ、座したままでは将来の展望がないという認識も、大学関係者には広がっている。東京芸大を除いた『4大学連合」の構想は、「できる部分から始める」といら構えで、来春スタートする方向で進んでいる。「ピンチにならないと大学はなかなか改革できない。法人化が議論されている今こそ、新たな制度をつくるチャンスだ」。一橋大の石学長は、こう語った。


国立大の独立行政法人化

 国から離して法人格を与え、独自に運営させるのが狙い。引き続き国費で運営されるが、民間の経営手法を取り入れることなどで効率化できるとされる。文部省は最初は強く反対したが、政府内で圧力が強まったため、大学運営に悪影響が出ない措置をとることを条件に容認することにした。国立大が法人化すれば、企業からの研究費収入を増やしたり、高待遇で有名教授を引き抜いたりできるようになる。一方で、政府の定期的な評価にさらされ、地味な研究分野が切り捨てられる心配もある。 


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