東大内部調査報告書の
あきれた内容
東大教授疑惑 第3弾
サンデー毎日 2000年4月2日号
本誌が、軽部征夫・東大教授(58)の疑惑を報じてから2週間たった。この間、軽部教授のいる東大先端科学技術研究センターは、調査委員会をつくったが、わずか4日後に、「問題はない」とする内部報告書をまとめていた。だがこれには、二つの真っ赤なウソがある。
1億5587万3500円。これが、1998年度の1年間に軽部教授の研究室で使われた研究費である。
「例えば原子核を破壊する電子ビームを発生させる装置を買うには何億もしますが、軽部先生が研究しているバイオ分野で年間1億5000万円を超えるというのはかなり多い。省庁も研究費の重点配分を始めていて、軽部先生くらいの大物研究者になると、研究費を申請すればすぐ通るんでしょう。でも、1億超える研究費を使える研究室はそうない」(ある大学教授)
本誌はこれまで、軽部教授が学生の通帳を管理し、架空の研究費を振り込ませていたのではないかと指摘した。
東大先端研は、本誌が最初に疑惑を報じた3月19日号が東京都内のキヨスクに並んだ3月6日、教授4人、助教授6人からなる調査委員会を発足させた。中曽根弘文文部大臣は、3月15日に開かれた衆議院の文教委員会で、民主党の肥田美代子代議士の質問に、こう答えた。
「東大内部で調査委員会を設置し、.調査を進めていると聞いています。調査結果は何らかの形で公にし、結果を見て対応に努めたい」
だが、学生の一人は、内部の調査委員会による疑惑解明というやり方に疑問を投げかける。
「僕らは3月6日の午前と午後の2回、講師から一堂に集められ、軽部先生の釈明を聞きましたが、この中で先生はこう言ったんです。『(蓮實重彦)総長と(岡部洋一)センター長には頼みました』
先生は何を頼んだか言いませんでしたし、僕らも聞きませんでしたが、先生が、
『正義は勝つ。いずれにせよ研究室存亡の危機だ』
とも話したことを考え合わせると、疑惑をないことにしようという動きだともとれたんです」
軽部教授が何を頼んだのか、そもそも本当に頼んだかは分からない。そこでまずは、調査委員会の動きを見てみよう。学内の関係者は語る。
「調査委員会は6日夕方に第1回の会合を開き、連日深夜まで会合を続けている。軽部教授は学生の通帳を預かっていたことを認め、『留学生に現金を渡すためだった』と説明している。軽部研究室から提出された研究費の支出に関する明細を見ると、確かに2万〜3万円が不定期に留学生に渡されたことになっており、留学生の帰国時に渡した浮世絵の代金数万円も研究費から支出されていました」
「留学生のため」とさえ言えば、架空の研究費の申請と目的外使用が許されるのだろうか。さらに、この関係者は続ける。
委員会設置4日後に報告書提出
「調査委員会で最も発言が多いのは岡部センター長。助教授が半数以上を占める調査委員はセンター長の話を聞いているだけで……」
証言を聞く限り、同じ東大先端研の教授と助教授がどこまで調査できるか、はなはだ疑問なのだ。
そして、やはりと言うべきか、調査委員会は設置からわずか4日後の10日付で報告書を出したというのだ。ところが、この報告書の内容を詳しく見てゆくと、明らかに事実と違う部分があった。
文書はA4版1枚。岡部センター長名で出され、調査委員会報告とある。上半分に結論が書かれ、下半分に根拠となる四つの項目が並んでいる。
結論は、「問題なし」とある。そして、四つの項目の趣旨はそれぞれ、
@ 学生25人の通帳を、学生全員から「ほぼ了解を得て」預かっていた
A 学生から預かった通帳に振り込まれ、学生に手渡された後の総残高が、95年度から97年度までがそれぞれ200万円ほど。そして98年度と99年度はゼロ。
B 通帳に振り込まれた総額は年収500万円ほど
C (本誌が指摘した)農林水産先端技術産業振興センターと軽部研究室は98、99年度に各200万円の情報調査の契約を結んでおり、200万円とは別に98年度、学生5人に対し、総額約54万円が個人口座に振り込まれたが、これらはすべて学生に渡っている
−−というものだった。
まず、気になるのはAである。95〜97年度の残高の計600万円はどう処理されたのか。この報告書では説明されていない。
また、Cについては、本誌は学生たちが「そんな団体は知らないし、カネも、受け取っていない」としている疑問を指摘したのである。報告書ではそれについて何の説明も書かれていない。
学生が明かす。
「これはひどい。僕は研究室の講師から『週刊誌が取材しているから通帳を返す』と言われ、最近になって通帳を渡されました。98年度も99年度も、先端研からの振り込みがあり、振り込まれた額は僕が交通費として手渡された額より多い。残高ゼロなら、どこに行ったんでしょうか」
また別の学生はこう語る。「僕の通帳には農林水産先端技術産業振興センターから98年度に10万円弱の振り込みがあったことになっているが、そんなカネも団体も知らないし、一銭ももらわない」
これらの証言について、本誌はそれぞれの通帳を確認したが、いずれも、学生の証言を裏付ける振り込みがあった。そして、これら学生の証言との食い違いについて報告書は全く触れていない。
では、この報告は一体何なのか。軽部教授の言い分をそのまま書いただけなのか。岡部センター長を直撃した。
まず岡部センター長に報告書にあるウソを問うと、センター長は強くかぶりを振り、
「われわれは非常に正確に調べました。多分、見解の相違だと思うんだけども、(98、99年度の残高が)ゼロという結果となっているが、それは最終的にはどうなるか分からない。(農林水産先端技術産業振興センターからの振り込みを学生が知らないと言っていることは)分かりました。学生さんの方の問題はいろいろ考えていますが、これ以上は言えないんです。(報告の)文書が出回っているようだけども、それについては一切コメントできません。調査中でまだ結果が見えないんです。私は自分を教育者だと思っているので、そういうことをいい加減にするつもりはありません」
調査委員会にかかわる学内関係者が解説する。
「あの報告書は、調査委員会の内部文書で、東大本部にはまだ承認されていない。だから、あくまでも中間報告という位置付けで、調査自体は、連日、深夜までやっています。大変なんです」
先端研は3月15日午後、緊急教授会を開いた。そこで軽部教授が釈明したという証言もある。
卒業生の一人は調査報告書の内容についてこう語る。
「軽部先生は日本化学会学術賞や市村学術賞を受賞し、文部省の学術審議会委員も務めた。それがこんなことをして、先端研自身も調査できないなんて」
肥田代議士は語る。「文部省が調査をして公表すると言っているので、きちっと見守りたい」
とかく内部調査は甘くなりがちだ。だが、東大までもがそうなのか。それとも、学生の必死の訴えに耳を貸すのか。調査委員会では学生の通帳に振り込まれたカネの使途について調査しているが、本誌が3月26日号で指摘した、軽部教授が学生の論文を勝手に特許出願していた疑惑も見逃すことはできない問題だ。いずれにせよ、3月10日付の調査報告だけでは話にならないのである。
本誌・石丸 整