図書館の<民営化>はどこに向かうか
図書館問題研究会
第35 回研究集会発表要綱 2009
会場:アイプラザ津島
2009 年2 月15 日(日)~16 日(月)
図書館問題研究会

PROGRAM 日程
第1 日 2 月15 日(日)
12:30~13:30 受付
13:30~13:40 開会式
13:40~16:20 パネルディスカッション
図書館の<民営化>(民間委託・指定管理)はどこに向かうか
パネリスト
加藤覚(岡崎市立中央図書館)
園田俊介(津島市立図書館)
下川和彦(久留米市立図書館)
寺澤裕子(図書館の未来を考える会)
木村晋治(名古屋市立図書館)
16:20~16:30 大阪府立図書館の市場化テストの報告 清水昭治(大阪支部)
16:40~18:00 研究発表・討論(1 発表=討議含め25 分)
川越峰子(神奈川支部)「横浜市立図書館への指定管理者制度導入問題と市民の取
り組み―最近の報告を主に」
千葉裕子(江東区立城東図書館)「江東区立図書館の業務委託」
細谷洋子(北海道支部)「ワーカーズコープによる指定管理者受託の一事例」
18:30~20:30 懇親会

第2 日 2 月16 日(月)
9:00~12:00 研究発表・討論(1 発表=討議含め25 分)
豊田高広(静岡市立御幸町図書館)「非正規化を前提とした図書館経営改革の可能
性:静岡市の事例を中心に」
吉田倫子(横浜市立中央図書館)「医療情報から法情報へ~課題解決型サービスの
最前線で」
嶋田学(東近江市立能登川図書館) 「サービス計画再点検~自治体合併後における
図書館経営の視点を交えて」
若松衛(碧南市民図書館中部分館)「これからの碧南の図書館計画について」
橋本策也(目黒区立中目黒駅前図書館)「図書館員の非正規化にどう立ち向かうか」
島崎晶子・阪本和子(兵庫支部) 「連続講座「図書館で働くということ」を開催して」
山田久(名古屋市鶴舞中央図書館)「図問研愛知支部『40 年史』の編集活動につい
て」

第1 日 16:40―18:00
研究発表
「横浜市立図書館への指定管理者制度導入
問題と市民の取り組み―最近の報告を主に」
川越峰子(神奈川支部) ―― 3~4p
「江東区立図書館の業務委託」
千葉裕子(江東区立城東図書館) ― 5~8p
「ワーカーズコープによる指定管理者受託の
一事例」
細谷洋子(北海道支部) ―― 9~19p


20090215 研究集会 川越
横浜市立図書館への指定管理者制度導入問題と市民の取り組み―最近の報告を主に

1 山内図書館への指定管理者導入提案前史
H17 年度 館長プロジェクト
プロジェクト「指定管理者制度にどう対応していくのか」報告書
H17.7/7 第1 回、H18.3/2 定例館長会議報告
H18 年度 あり方懇談会
H19 年度 4ブロック提案

2 山内図書館への指定管理者制度導入提案
10/ 山内図書館への導入提案
区独自事業取次ぎサービス
5カ月の引継ぎ研修期間
11/16 横浜の図書館これでいいの?緊急集会 於アートフォーラムあざみ野
市会議員7 人くらい?参加
12 月市会
請願
「横浜市立図書館条例の一部改正について」(あり懇市民委員3 名)
市民意見を聞き慎重に審議を
「「横浜市立図書館条例の一部改正」青葉区山内図書館への指定管理者制度導入について」
(子どもを守る横浜各界連) 団体署名付
十分な市民合意を得ること
陳情
「横浜市山内図書館の指定管理者制度導入について」(個人)
市会で議決する前に市民に説明する責務を全うすること
常任委員会 12/5 大量の資料要求
12/9 山内図書館視察(前日副市長視察)
12/10 請求資料の配布17 本 閉会中継続審査に
自民党有志「図書館へ行こう!」プロジェクト・レポート教育長に提出

3 12 月市会以後
市会議員の説得と市会議員の動き
12/22 図書館
クリスマスプレゼント作戦 「横浜の本と文化」市会議員に贈呈 断った議員も
賀詞交換会、新年会への出席
青葉区選出議員との会
1/16 青葉区の図書館 こんな図書館がいいなぁ・ 青葉区選出議員と語る会
「図書館へ行こう!」レポートに参加した議員と語
2/1 青葉区の図書館 こんな図書館がいいなぁ・2 青葉区選出議員と語る会
ボランティアに関心を持つ議員と文庫の人たち
2/8 青葉区の図書館 こんな図書館がいいなぁ・3 青葉区選出議員と語る会
指定管理者制度導入のメリットデメリットなど
1/20 常任委員会 大田区立蒲田駅前図書館視察―TRC 指定管理 当局提案で
2/18 国会図書館見学 議員も参加
指定管理者の実際を知る
12/24 TRC の話を聞く TRC に知人がいる議員の紹介で
1/6 有隣堂の話を聞く(前段に12/1 神奈川支部綾瀬市立図書館見学)
1/26 熊倉さんの話を聞く会
行政に対しておよび行政の動き
12/26 元企画運営課長の話を聞く
1/14 図書館 ポスター掲示・チラシ配布
1週間くらいでメリットを強調したものに差替え
状態を説明したのみだが、市民への説明を果たしたつもり?
図書館に質問
チラシを見て
指定管理者制度導入のデメリット → 要求水準書で対応する
HP の21 年度予算について
指定管理者制度導入関連は図書館運営費か、また引継ぎ経費は
→ 3 月市会で審議されるもので現段階では回答できない
市民の提案
市民の図書館政策
2/2 プレスリリースで公開質問状とともに中間段階ではあるが公表

2 月議会
2/12 請願〆切 議員との接触の結果請願は止めに
陳情書
「「横浜市立図書館条例の一部を改正する条例案」について」(個人)
グランドデザイン、ミッションを作ってから条例の一部改正検討を
「横浜市立図書館の条例の一部を改正する条例案」の審議及び意見書の提出につい
て」(横浜の図書館の発展を願う会) 付託陳情書に
2/19 常任委員会


江東区立図書館の業務委託
江東区立城東図書館 千葉 裕子

1.はじめに
<江東区概況>
東京東部、隅田川の東側に位置する区。
人口約45万人、面積約40.。
マンション建設急増による急激な人口増加で公共施設の収容対策が大きな課題。
<江東区の図書館>
1909(明治42)年に深川図書館が2番目の東京市立図書館として開館(今年で100年)。
現在は10館と1つの分館がある。所蔵資料数は約163万点。
年間の貸出資料数は約389万点、予約受付件数は約119万件。

2.業務委託の経緯
・2002(平成14)年4月導入。
図書館業務をいわゆる「基幹的業務」「非基幹的業務」にわけ「非基幹的業務」を委託。
職員組合の反対、一部の区民からの区議会へ反対の働きかけもあったが「区長の至上命令」として導入に至る。
・2002年度~7館と1分館をA社に委託
・2003年度~全館委託
A社に6館、新たなB社に4館と1分館を委託(2008年度現在も同様)

3.委託の内容
<委託業務>
・ 貸出、返却、個人利用者登録、簡易な問い合わせへの対応
・ 配架、書架整理
・ 図書館間メールカーの処理
・ 簡易な資料修理、除籍後の資料処理
・ 所蔵分予約資料の準備、予約連絡
・ 蔵書点検 等
※初年度は資料装備込みで委託(翌年から装備は窓口等の業務とは切り離して単価契約で委託。)
<委託しない業務>
・ 経理、企画、立案
・ レファレンス
・ 児童奉仕、障害者サービス(郵送業務は委託)
・ 団体利用者登録
・ 図書館見学、体験学習、教員研修などの受入実施
・ 予約資料手配(未所蔵、未返却など通常の返却待ちでは対応できないもの)
・ 選書、発注、MARC投入、MARC作成、資料受入
・ 寄贈、賠償資料管理
・ 除架、書庫入れ
・ 督促業務(2007年度より一部の電話督促のみ委託)
・ システム管理 等
・ その他イレギュラーな仕事やトラブルの対応

4.請負契約
「請負契約」は「人材派遣」とは違う。
受託者は契約に従って自らの業務としてその仕事を完成させ、自己の最良と責任のもとで作業をし、自己の雇用する労働者を直接使用しなければならない。
(区職員が受託会社のスタッフに直接指揮監督することは違法行為)
当初「請負契約」と「人材派遣」を混同。区職員が直接受託会社のスタッフに指示を下す体制を想定していた。
→法律問題での組合の追及もあり、すべての委託業務を細かくマニュアル化し、区の職
員の指示によることなく仕事ができるように配慮。
・引継ぎ事項や指示
→受託会社の業務責任者・副責任者とやりとり。個々のスタッフへの指示は違法。
・個人情報の管理
→区が管理。コンピュータシステム改修。
5.委託後の状況
仕様書やマニュアルだけではできない判断業務も多い。
→法律を守りながら利用者にも迷惑をかけずに業務をこなすのは困難。
・職員のスキル低下の問題
「レファレンスや選書は職員の仕事だが、資料を知る機会が少ない。」
「企画立案は職員の仕事だが、利用者の声を聞く機会がない。」という状況。
→まったく経験によらずして「基幹業務」はできない。
・委託による過度の職員削減
「簡易なルーティンワークは委託し、職員にはもっと創造的な仕事をやってもらいたい」という当時の江東図書館長発言は幻想。 →現実には日々の仕事に追われる毎日。
仕様書、マニュアルにない「突発的な仕事」はすべて区職員がおこなう。
→しかし・#20154;海戦術・#12364;使えない。
・職員のモチベーションの低下
「区民の声を直接聞く機会がなくなる」ことによる問題は、
「区民の声を反映しにくくなる」ことだけではなかった。

職員が利用者に接する機会の激減
「苦情受付」「トラブル対応」「資料の紛失・汚破損の対応」がほとんど
(多くを占める・#12372;く普通の利用者・#12392;接する機会が少ない)
→利用者のマイナス面ばかりと接することに。
「図書館というのはいやな利用者ばかり」「図書館って怒られてばっかりの職場」
・受託会社のスタッフのスキルとモチベーション
「所蔵調査、簡単な書架案内は委託するがレファレンスは区の仕事。」
「配架・書架整理は委託するが除架・選書は区の仕事。」
創意工夫をこらし、図書館を変えていくという仕事は委託されていない。
→やりがいは出ない?
・お互いの仕事がわからない
受託会社のスタッフは「区の職員がしている仕事がわからない」
区の職員は「委託している仕事がわからない」
→「業務の全貌がわからない二つの集団」に

6.委託の拡大
2009年度より(予定)
・レファレンス、予約など含む奉仕業務全般にわたる委託へ。(1館のみ実施予定)
・図書サービスセンターの新設
資料の返却、予約資料の貸出しのみ取り扱い(区内1箇所) →すべて委託

7.おわりに
図書館の仕事は、「専門的な知識を持った人」が「継続的に」行わなければならない。


調査報告「ワーカーズコープによる指定管理者受託の一事例」
細谷洋子(北海道支部)

1.札幌市の図書館サービス体制
札幌市は、人口190万人(1,899,600人)、面積1,121平方kmに、条例図書館が10館(1区1館)、類似施設として区民センター図書室 7室、地区センター図書室 20室、計37の図書施設がある。
 このうち区民センター図書室 7室、地区センター図書室 20室の管理運営に、H18年度から指定管理者を導入した(図書室も含めたセンター全体の管理運営)。地区センターは、それ以前から開設と同時に概ね連合町内会を母体とする運営委員会に運営委託されており、直営から委託に移行したのは事実上7区民センターだけである。
 図書室の図書費については、中央図書館が所管しており、選書は中央図書館と現場職員がほぼ半々に行っている。
 H18年4月に開設されたはちけん地区センターの指定管理者として、NPO法人ワーカーズコープが応募、受託した。続いてH20年4月に開設された里塚・美しが丘地区センターも受託した。
 ワーカーズコープとはどのような団体なのか、これまでの受託団体とは組織体制や目的などを異にするワーカーズコープによる図書施設運営の課題や可能性を考察するための一助に、聞き取りを中心に調査を行った。

2.労働者協同組合(ワーカーズコープ) *(人事労務用語辞典による)
 Workers Co-op。労働者協同組合あるいは生産者協同組合などと訳されている。働く人自身が資金と知恵を出し合い、社会に必要な仕事を起こし、運営していく非営利組織のこと。
 コープの名前が示すとおり、いわば生協の労働版である。企業に雇われるのではなく、ワーカーズコープに集まる全員が出資、経営、労働の3つの役割を担い、雇用主と被用者という関係は存在しない。1人1人が対等な立場で責任を分かち合い、能力や技能に合った仕事をして報酬を受け取る。
 ワーカーズコープには大きく2つの流れがある。1つは生協活動に携わっていた専業主婦を中心に「ワーカーズ コレクティブ」の名称でスタートしたもので、この10年来、全国に広がり、1993年の164団体から2003年の580団体に急増。事業高は約130億 円に上る。もう1つは職を失った労働者が自ら働く場を確保しようと始めた「労働者協同組合」をルーツとするものである。こちらは組合員数4万人超、事業高220億円内外となっている(数字はいずれも推計)。
 手がける事業も地域密着の福祉・介護から、子育て支援、公共施設の管理、さらには環境や食の分野に至るまで幅広い分野に及んでいる。最近では定年 退職組など中高年男性の参加が目立つようになり、定年間近の団塊世代の中にも「定年後は地域に貢献できる仕事がしたい」という人が増えてきた。こうし た働き方が増えることは、地域社会の活性化や社会構造の変革につながると期待されている。
 しかしその一方、事業資金の調達、安定した収入の確保、社会性と事業性の両立など、取り組むべき課題も少なくない。また法的根拠となる法律が存在しないため、税法上の優遇措置が受けられなかったり、社会保障の負担が労働者個人にかかるなどのハンディもある。このため「協同労働の協同組合法」の制定を求める声が上がっている。

3.ワーカーズコープ札幌事業所の組織概要
 1987年に、直轄事業団と東京事業団が統合し、モデル労協としてのセンター事業団を設立。2001年に、NPO法人ワーカーズコープが設立された。
 北海道では、1999年に北海道労働者協同組合が旭川市に設立された。旭川、札幌、釧路、小樽、函館の5箇所に事業所がある。また、2007年にはワーカーズコープ・センター事業団が、夕張市に地域福祉事業所を設立している。
 一方、全国組織である日本労働者協同組合連合会センター事業団は、札幌で15年ほど前から勤医協病院の清掃を請負うなどの事業を実施していた。2006年4月、札幌市の地区センター施設管理の指定管理者公募参加を機に、改めてNPO法人ワーカーズコープ札幌事業所として出発した。2006年4月から、手稲老人福祉センター(手稲区)、はちけん地区センター(西区)、2008年4月から里塚・美しが丘地区センター(清田区)の指定管理者として業務を受託している。この3施設のうち、札幌市図書館施設に組み込まれている図書室を持っているのははちけん地区センターのみである。
 札幌事業所長と事務局職員が常駐する事務局(2人)―各現場責任者(3人)―各現場スタッフ(24人)で運営しているが、各現場では毎週1回現場ミーティングが開催され、事業遂行や職場環境の改善などについて話し合っているという。さらに札幌事業所全体にかかわる問題は、全体で共有し話し合う仕組みになっている。とにかく会議が多くて、それが大きなコストになっているということだが、上意下達の雇用関係ではない組織である以上,これは必要なコストだと思われる。

4.はちけん地区センター
(1)職員

 札幌市の指定管理者公募のしくみについては資料を添付するが、1月に選定結果の通知(内定)を受け取りその2週間後に、ワーカーズコープ札幌事業所は労働者公募説明会を実施した。はちけん地区センターの職員数は10名だが、説明会参加者数は150人前後に達した(里塚・美しが丘地区センターの際は100人)。
 雇用関係ではなく出資、経営、労働の3つの役割を主体的に担う労働者協同組合であること、出資などについての説明後、約半数が帰ったという。
 1次~3次面接を実施して2月初旬にスタッフを確定。はちけん地区センターは新設だったため、4月1日のオープンまでの約2ヶ月間で、スタッフ研修、学習会などの立ち上げ準備を行った。
 確定したスタッフは、ワーカーズコープの組合員としてまず1口5万円を出資する。その後、毎月の収入から月収の2か月分相当額になるまで一定額を増資する。担保となる資産がないため融資が受けられず、委託料等が支払われるまでの運転資金として、概ね2か月分の経費を出資金で賄っている。

(2)指定管理費
 中央図書館管理課によれば、指定管理費は、施設面積や特別な事情による場合以外は、基本的に同一金額、職員は指定業務あたりの必要人数と資格などの条件が定められている。それぞれ応募団体が企画提案書を提出し、その内容に応じて選定されるという原則からすれば、内容に応じて必要経費も違ってくるのではないかと思うのだが、指定管理費は基本的に同額となっているのはなんとも納得がいかない。また、職員数についても、必要な人数が定められており、それを確保したうえで職員数を増やすこと、賃金や勤務条件などの詳細は指定管理者の裁量に任されているという。しかし、裁量に任されているというその実態はどうなっているのか、H18年度事業評価調書から、はちけん地区センターの収支決算を拾い出してみる。

H18年度収支決算(事業評価調書による)   (千円)
項目 H18年計画 H18年決算 差
収入 26,403 25,866 ▲537
指定管理費 25,375 25,375 0
講座等の収入 1,028 491 ▲537
その他 0 0 0
支出 26,403 24,797 ▲1,606
人件費 17,322 17,098 ▲224
物件費 9,081 7,699 ▲1,382
収入-支出 0 1,069 1,069

 前述したが、地区センターの職員数は10人。10人分の人件費が、17,098千円!? 札幌市の正職員2~3人分というところだろうか。個別の具体的な賃金額は聞けなかったが、社会保険は完備、賃金は某指定管理者(東京)の時給800円よりはやや高い程度とのことだった。
 また、H20年4月にオープンした里塚・美しが丘地区センターからは、利用料金収入を予測して算定しそれを見込んだ指定管理費で受託する利用料金制度になったという。
 図書室の資料費は指定管理費とは別に中央図書館が所管しているが、地区センター図書室20施設全体で33,904千円(H19年度)。単純に割れば、1図書室あたり、わずか1,700千円弱である。はちけん地区センターには、新聞3紙、雑誌13タイトルが入っているが、新聞雑誌などの逐次刊行物は、この図書費に含まれておらず、物件費の中で購入している。

(3)図書室利用統計(H19年度)
・開館日数 280日 (地区センター280~281日、条例図書館322~324日)
・蔵書冊数 20,399冊(内児童書6,164冊) 地区センター中20位
*最多 ふしこ 43,450冊(児童書は 新発寒 11,732冊)
・登録者数  2,108人(うち児童830人) 地区センター中19位
*最多 拓北・あいの里 7,517人(児童は 拓北・あいの里 7,517人)
・貸出冊数 123,364冊(内児童書46,215冊) 地区センター中5位(児童書は2位)
*最多 旭山公園通 151,036冊(児童書は 旭山公園通 48,102冊)
・調査相談件数  1,736件(地区センター中9位)

 ただし、札幌市の図書館サービスシステムは、全37施設がオンライン化されており(この統計には反映されていないが、2008年8月からインターネット予約も開始)、主としてウェブで蔵書検索し予約して受取返却に施設を利用する利用者も多く、利用実績が必ずしも蔵書の充実や職員対応のよしあしを反映していると単純には言えない面もある。
 職員の聞き取りによると、はちけん地区センターは、図書館の開設を待ち望んでいた住民の安定的な利用があり、幅広い年齢層が1日80名ほど来館利用している。
 行事は、図書室単独ではなく地区センター行事として実施されている。託児付ヨガ講座、読み聞かせボランティア養成講座などの市民講座、全国お話し隊、介護予防まつりなどの地域交流事業、スポーツ等の施設開放事業が行われており、ホール・会議室の利用率は平均53.5%に上る。新設3センターの初年度・2年目の利用率は50%を下回っており、高い利用率だといえる。利用者満足度調査による評価も総じて良く、図書室に対する満足度も高い。本が少ない、開館時間を長くして欲しいという声もあるが、蔵書や開館時間は札幌市全体の方針によって規定されており、1地区センターの裁量外である。

5.指定管理者としてのワーカーズコープの可能性と課題
(1) ワーカーズコープ札幌事業所がめざすもの
 日本労働者協同組合連合会センター事業団のパンフレットには、「協働労働の協同組合がめざすもの」として、「1.人のいのちとくらし、人間らしい労働を、最高の価値とします。 2.協働労働を通じて『よい仕事』を実現します。 3.働く人びと・市民が主人公となる『新しい事業体』をつくります。 4.すべての人びとが協働し、共に生きる『新しい福祉社会』を築きます。」となっている。
 また、こうした社会をめざすための具体的な取り組みとして、「多様な仕事の広がりを経験する中で、人と人とのつながりを深め」「地域懇談会を各地で開催して、その地域の人たちが何を必要としているのか、一緒にできることはないかを考えている」「ヘルパー講座やコミュニティ講座などの人を育てる事業」「公共のあり方を考えるシンポジウム」など、具体的な事業や事業の進め方が例記されている。
 聞き取りの際も、「公共サービスを指定管理者としてやるだけではなく、そこを拠点として新しい社会資源としての仕事起こしをしたい」「地域の人と共に地域づくりをしていく」と繰り返し話され、はちけん地区センターでは地域懇談会や利用者参加企画に取り組んでいる。H18年度事業評価調書によると、地域懇談会を12回、自由開放参加者懇談会を3回開いており、誰でも参加できる意見表明の場を仕組みとしてつくっていることは、公共施設としては画期的だといえる。しかし、年度始めと終わりの回の参加者数は10人以上だが、年度半ばの回は2~3人のこともあり、PR方法や開催時間帯、テーマの設定や進行の仕方などの工夫を期待したい。はちけん地区センターはまだそこまで至っていないが、東京では経営についても利用者と話し合っている事例もあるという。
 意地悪な質問だがと前置きして、4年後に契約更改を落とした場合、現在地区センターで働いている職員はどうなるのかを聞いた。新たな仕事をつくりだします、という迷いのない答えが返ってきた。介護や子育て、ニートや引きこもり支援などに関わる地域ニーズはまだまだ多い。事業を軌道に乗せ組合員の収入を確保していくには困難も少なくないだろうが、某指定管理企業のように1年契約、仕事を受託できなかったら即解雇というのではなく、仕事を失った職員と共に新たな仕事をつくり出していくという理念は説得力があるように思う。

(2) 当面する課題
・図書館運営のノウハウの不足
 はちけん地区センター図書室の職員のうち2名は司書資格有資格者だが、司書としての専門性は司書資格だけでは十分ではない。OJT、内部外部研修などを通して経験を蓄積していくことが欠かせないが、図書室担当職員3名の職場ではルーティンワークをこなすことには習熟できても図書館サービスを発展させていくのは難しいのではないかと感じた。
 ワーカーズコープのこれまでの事業をみても、介護、子育てなどの福祉事業の経験は厚いが、図書館運営についての事業暦はみつけられなかった。現在、苫小牧市でもコミュニティセンター図書室の運営を受託しているということだったが、公共施設の運営に携わるには図書館運営のノウハウを習得し確立することが急務ではないかと思われる。この点については、聞き取りの際に、現場職員の研修と組織運営担当者の研修が必要だと考えていると話されており、図問研に入会することができるか、どのような研修が期待できるか、などについて逆に質問された。現場職員の研修については、研修費をワーカーズコープが負担して積極的に派遣したいとのことだった。
 
・勤務条件の改善
前述したが、賃金はおそらくかなり低い。高い志を持って仕事をしていても、その仕事に見合った、その仕事が認められていると実感できる待遇なしにモチベーションを維持し続けるのは難しい。
 また、長く図書館勤務を続け経験を蓄積した職員を正当に処遇する仕組みは現在のところはない。この点について、札幌市中央図書館管理課に「経験や技能を評価し指定管理費に反映する仕組みがなければ、指定管理団体が人件費を抑えるために新人ばかりを雇用する恐れがあるのではないか」と問い合わせたところ、指定管理者制度については、市政推進室が人件費のあり方も含めたガイドラインづくりにとりくんでいるとのことだった。
 もう1つ。対等な協働労働をめざす事業体で、専門性や経験をどのように待遇に反映するのか、あるいはしないのか、この点については聞き取りの際にも聞きかねて聞けなかった。つきあいのあるワーカーズコレクティヴでは、時間単価は均等にしているところが多いが、それはそれで問題がないわけではないようだった。協働で出資し、労働し、経営する労働者事業体の最大の課題は、事業を軌道に乗せることと並んで、分配のあり方ではないかと感じている。

6.調査を終えて感じたこと、考えたこと
 今回の調査について、とりあえず図書館への指定管理者導入に対してはニュートラルなスタンスで話を聞くことを心がけた。これまで札幌市の地区センターを運営してきた連合町内会が母体の運営委員会とは異なる団体が運営に参画してきたこと、営利企業ではないワーカーズコープという新しい事業体の組織や理念とそうした団体の公共施設の運営の実際を知りたいというのが動機だった。
 やはり、契約更改できなくても解雇はしない、新たな仕事起こしをしていくという姿勢が最も印象的だった。単なる使い捨て労働者ではない、地域住民とともにコミュニティづくりをしていくという理念は、労働の質にもかかわってくるだろうと思われる。だが、指定管理費の安さ、人件費の安さが、こうした姿勢をいつか蝕んでいくのではないか、いつまで持ちこたえられるのだろうかという危惧も打ち消し難い。
 中央図書館管理課は、特殊事情に対する考慮以外は基本的に指定管理費は同額だとのことだったが、H18年度の評価調書を見ると、(単位:千円)

地区センター名 指定管理費 人件費
旭山公園通 20,575 16,786
新琴似・新川 20,751 18,287
太平百合が原 20,843 17,711
栄 19,569 16,244
北白石 20,449 17,266
厚別西 19,821 17,926
新発寒 19,932 17,092
藤野 19,203 17,182
菊水元町 20,580 16,525
はっさむ 20,578 17,520
星置 19,112 16,637
拓北・あいの里 20,950 17,909
ふしこ 20,002 17,154
苗穂・本町 19,170 16,009
白石東 20,685 18,096
厚別南 20,064 17,755
東月寒 20,692 19,076
もいわ 20,480 18,071
西野 20,609 18,096
はちけん 25,375 17,098

 あまりの低さに改めて驚かされる。指定管理者という制度は、職員を官製ワーキングプアに置き換えて人件費を節減し、事業費を削るやり方以外のなにものでもないことをあらためて実感させられる。ワーカーズコープという事業体の理念を生かして地区センターの指定管理を続けていくには、指定管理費の算定のあり方を問うていかなければならないのではないか。しかし、コミュニティの拠点としての活動実績をあげ、住民の支持を得て指定管理費増額を求めることと、契約金額のたたきあいになりかねない競争に勝っていくことの難しさを思うとため息が出る。
 図書室については、蔵書2万冊、資料購入費1,700千円弱という規模では限界があるだろうが、オンラインで背後にある全市の蔵書を常に意識し、少なくとも時の関心、時事問題に関する資料案内をするなどの工夫が欲しい。今なら、さしずめオバマ演説集というところだろうか。はちけん地区センター図書室の蔵書にはなくても、市内にはこういう本があるということを利用者に適確に案内できることが規模の小ささを超えて図書館サービスを発展させていくカギではないかと考えている。また、見学に訪れた際は、カウンター前の書架に「まちづくり」資料コーナーがつくられていた。まちづくり関連資料の背に茶色の丸シールを貼って別置してあったのだが、コミュニティづくりへの意欲を感じさせられた。
 掘り下げた調査はできなかったが、調査を終えて、図書館としての公民館図書室や地区センター図書室と、コミュニティ施設としての公民館や地区センターの活動を支える付属施設としての図書室とは、別に考える必要があるのではないかという気がしている。これについては、機会を改めて調査してみたい。

10/4 旭山公園通地区センター
札幌市旭山公園通地区センター指定管理者募集要項

 地方自治法(昭和22年法律第67号)及び札幌市公の施設に係る指定管理者の指定手続に関する条例(平成15年条例第33号)に基づき、公の施設である札幌市旭山公園通地区センター(以下「地区センター」といいます。)の管理運営を指定管理者に行わせるため、下記のとおり指定管理者の募集を行います。

1 施設の概要
施設の名称 札幌市旭山公園通地区センター  
施設の所在地 札幌中央区南9条西18丁目    
施設の設置目的 区民センターの機能を補完し、地域における住民の自主的な活動を促進することを目的とする。
建物の構造等 開設年月日:平成15年3月19日
構造・規模:鉄筋コンクリート一部鉄骨造地上2階建
      専有部分内訳   1階 1,067.66 ㎡
2階    258.21  ㎡
敷地面積:2,462.94㎡
延床面積(専有部分):1,325.87㎡
主要施設:ホール(300人収容)、集会室(2室)、和室(2室)、実習室(1室)、図書室
地区センター専有部分内にある他の施設(組織):
幌西地区福祉のまち推進センター(19.12㎡)
駐車場:18台分
建 設 費:404百万円
施設平面図:別添のとおり(資料1)

2 申込資格(以下略)
 
3 申込書類(原則、サイズはA4で統一してください。)
 (1) 申込書(様式1)(略)
 (2) 申込資格を有していることを証する書類 (略)
 (3) 管理業務の計画書(以下の点について盛り込んだものを作成すること。)(様式3)
ア 利用の公平・公正の確保について
イ 施設の効用の最大化について(管理運営方針、利用促進の方策)
ウ 市政推進の寄与について(まちづくり活動推進の工夫、札幌市内の企業等の活用計画等)
エ サービス向上について(サービス向上の工夫、利用者ニーズの把握、苦情の対応)
オ 安定した施設管理について(類似業務の実績、組織体制、職員の配置計画・採用計画・研修計画、安全管理対策、個人情報保護の対応、札幌市の「環境方針」に対する取組み等)
カ 経費縮減について
 (4) 運営事業計画書(様式4)
 (5) 管理に係る収支計画書(様式5)
 (6) 団体の経営状況を説明する書類 (略)
 (7) 団体の活動内容等を記載した書類 (略)
    
4 選定基準
指定管理者候補者の選定は、以下の選定基準(配点)に基づく総合点数方式により行います。
 (1) 地域住民の平等な利用が確保されること。(50点)
(2) 管理業務の計画書の内容が、施設の効用を最大限に発揮するものであること。(200点)
  ア 住民のコミュニティ活動の助長など、センターの設置理念に基づいた運営方針が示されているか
イ 施設の利用促進策に具体性があるか
ウ 運営事業計画が施設の設置理念に基づいた計画となっているか
 (3) 札幌市の市政推進に寄与するものであること(150点)
  ア 魅力あふれる地域のまちづくり等に寄与する工夫がされているか
  イ 再委託、物品の調達について、札幌市内の企業等の積極的な活用に配慮がなされているか
  ウ 職員の雇用、再委託、物品の調達等について、障がい者の雇用など福祉施策への取組みに配慮がなされているか
 (4) 利用者へのサービス向上が図られること(150点)
  ア サービス向上のための工夫が有効かつ具体的な内容となっているか
  イ 施設運営に対する住民の声が反映される体制となっているか
  ウ 利用者の苦情に対して適切な対応がなされるか
 (5) 管理業務の計画書に沿った管理を安定して行う人員、資産その他の経営の規模及び能力を有しており、又は確保できる見込みがあること。(250点)
  ア 類似業務の実績があるか
イ 管理を安定して行うことが可能な職員配置計画となっているか
ウ 配置職員の勤務形態及び勤務条件は適正か
エ 職員を確実に確保し得る採用計画となっているか
  オ 配置職員の人材育成・研修計画が適切か
  カ 非常事態に対応し得る防災・安全管理計画となっているか
  キ 個人情報の管理が適切か
  ク 札幌市の「環境方針」に対する理解があるか
(6) 管理に係る収支計画書の内容が、施設の管理費用の縮減が図られるものであること。
(200点)
  ア 札幌市が支払うべき管理費用が基準管理費用の範囲内であるか
  イ 札幌市が支払うべき管理費用が必要最小限に抑えられているか
  ウ 効率的運営のための具体的な計画や工夫が提案されているか

5 管理の基準(地区センターの適正な管理の観点から必要不可欠である業務運営の基本的事項)
 (1) 開館時間及び休館日
開館時間 午前8時45分から午後9時まで
休館日 12月29日から翌年1月3日まで
  ※ 利用者からの希望がある場合には、開館時間を午後10時まで延長し、使用時間の超過を認めることとします。
※ 特に必要があると認めるときは、札幌市と協議のうえ変更し、又は臨時に休館日を設けることができます。(例:施設改修時等)   
  (2) 地区センターの使用の承認について
  ア 施設(有料施設)の使用の承認は、札幌市区民センター条例(昭和48年条例第49号。以下「条例」といいます。)、札幌市区民センター条例施行規則(昭和49年規則第2号)及び札幌市区民センター等使用承認取扱要領に定めるところにより行うこととします。
  イ ロビー(無料施設)の使用の承認については、札幌市区民センター等ロビー使用基準により行うこととします。
 (3) 使用の制限に関する事項
  ア 条例第9条各号に定める場合には、使用を認めないこととします。
  イ 条例第10条各号に定める場合には、使用承認等の条件を変更し、又は使用の停止を命じ、若しくは使用承認等を取り消すことができます。
  ウ 条例第10条の2各号に定める場合には、地区センターに入館しようとする者の入館を禁じ、又は入館している者に地区センターの使用の停止若しくは地区センターからの退館を命じることができます。
 (4) 札幌市個人情報保護条例の適用について
   指定管理者には、札幌市個人情報保護条例(平成16年条例第35号)第46条の規定により、施設の管理を行うに当たって保有する個人情報の取扱いに関しては、札幌市と同等の責務(収集の制限、利用及び提供の制限、電子計算機処理の制限、電子計算機結合の制限等)が課せられるほか、後日、札幌市と締結する協定において、札幌市から利用者に関する個人情報の開示の要求等があった場合には、これに応じなければならない義務が課せられます。
 (5) 札幌市情報公開条例の適用について
   指定管理者には、札幌市情報公開条例(平成11年条例第41号)第22条の2の規定により、情報公開の努力義務が課せられるほか、後日、札幌市と締結する協定において、札幌市から管理業務に関する文書等の提出の要求があった場合には、これに応じなければならない義務が課せられます。
 (6) 札幌市行政手続条例の適用について
   指定管理者は札幌市行政手続条例(平成7年条例第1号)第2条第4号の「行政庁」に該当するため、使用承認等は同条例の定めに従って行うこととなります。
 (7) 札幌市オンブズマン条例の適用について
   指定管理者は札幌市オンブズマン条例(平成12年条例第53号)第20条の規定により、オンブズマンが、苦情等の調査のため必要があると認めたときに実施する質問、事情聴取、又は実地の調査について協力するよう努めることとなります。
 (8) 環境への配慮について
   管理業務を行うに当たっては、札幌市が取得した環境マネジメントシステム(ISO14001)に準じ、次のような環境への配慮に留意してください。
  ア 電気・水道等の使用に当たっては、極力節約に努めること。
  イ ごみ減量・リサイクルに努めること。
  ウ 清掃に使用する洗剤等は、環境に配慮したものを使用し、極力節約に努めること。
  エ 管理業務の履行において使用する商品・材料等は、極力環境に配慮したものを使用すること。
(9) その他
ア 管理業務を行うに当たっては、関係法令、条例、規則等の規定を遵守してください。
  イ 指定管理者は、施設の管理運営に関する業務の全部又は一部について第三者に委託(再委託)し、又は請け負わせてはなりません。ただし、清掃、警備等の管理運営業務の目的を損なわない業務についてはこの限りではありません。
なお、再委託を行う場合は、札幌市の承認が必要となります。
  ウ 管理業務を行うに当たり、再委託、物品の調達等を行う場合は、札幌市内の企業等の積極的な活用に努めてください。
  エ 管理業務を行うに当たり、職員の雇用、再委託、物品の調達等を行う場合は、障がい者の雇用など福祉施策への取組みに努めてください。

6 業務内容
  指定管理者の行う業務は下記のとおりとし、業務の具体的な内容は、別紙「札幌市旭山公園通地区センター指定管理者業務仕様書」(以下「仕様書」といいます。)のとおりとします。
 (1) 施設の維持管理に関する業務
 (2) 施設における事業の計画及び実施に関する業務
 (3) 施設の使用承認等に関する業務
 (4) 上記業務に付随する業務

7 利用料金に関する事項
  地区センターにおいては、地方自治法第244条の2第8項に定める利用料金制度は採用しません。従って、施設の利用に係る使用料は、すべて札幌市の収入となります。
指定管理者は、指定管理業務とは別に、使用料徴収事務を業務委託契約に基づき実施することとします。
  なお、使用料徴収事務に係る経費等については、管理業務の計画書(様式3)及び管理に係る収支計画書(様式5)に含めて作成してください。
   
8 管理運営に要する経費
 (1) 管理経費の支払について
   施設の管理運営に関する一切の費用(指定管理者の交代に伴う引継ぎ、研修等の実施を含む。)は、札幌市が支払う管理費用及びその他の収入(講座事業の参加料等)をもって充てるものとします。管理費用の金額は、札幌市が適正であると認める金額の範囲内とし、支払方法については、協定に定めるところにより、分割払いとします(詳細は、協議により協定で定めます。)。
 (2) 修繕・改修等    
   管理施設の修繕、改造、増築等に係る費用、施設に付随する消耗品(蛍光灯等)及び光熱水費については、札幌市の負担とします。
(3) 備品等
  ア 札幌市が備え付ける備品は、備品一覧表(仕様書の別紙○)で定めるとおりとし、指定管理者に無償で貸与します。また、経年劣化等による備品の更新は、札幌市が利用状況や予算状況を勘案して行います。
指定管理者の責任により滅失し、又は毀損した備品の補充については、指定管理者が負担することとします。この場合、当該備品は札幌市に帰属するものとします。
イ 備品一覧表(仕様書の別紙○)に記載されている備品以外の物品で指定管理者が必要とするもの、及び事務用品等は、指定管理者の負担で調達していただきます。(「札幌市旭山公園通地区センター図書室業務仕様書」で札幌市が提供する物品とした消耗品を除く)。なお、調達した物品については、指定管理者に帰属するものとします。
(4) 電話、ファクス、インターネット通信費(プロバイダー料含む)、郵便料金の経費は指定管理者の負担とします。(管理運営に要する経費等の資料  資料18)
(5) 事故・火災等
  ア 施設そのものの欠陥や地震等の天災により事故・火災等が発生した場合は、当該事故等の処理に要する費用については、札幌市の負担とします。
  イ 指定管理者の故意又は過失により、札幌市又は第三者に損害を与えた場合は、その賠償費用は、指定管理者の負担とします。
  ウ 指定期間中の物価変動、金利変動、税制改正その他の法令改正等に伴う経費の増加等は、指定管理者の負担とします。
 (6) 行政財産の目的外使用について
札幌市は、施設の設置目的を損なわないことを条件に、行政財産(施設)の目的外使用について許可を与えることができます。現在、幌西地区福祉のまち推進センターは、この行政財産の目的外使用の許可により、地区センター内に、事務室を設置しております。
また、自動販売機を設置する場合についても、設置数、設置場所について、別途、市の許可及び市が定める使用料を支払うことが必要になります。
なお、現在、設置している自動販売機(1台)については、社団法人札幌市中央区母子寡婦福祉連合会に対して、その設置を認めております。
 (8) 税について
  指定管理者は、会社等の法人に係る市民税、事業を行う者に係る事業所税、指定管理者が設置した償却資産に係る固定資産税等の納税義務者となる場合があります。詳しくは、会社等の法人に係る市民税及び事業を行う者に係る事業所税については札幌市財政局諸税課に、償却資産に係る固定資産税については区役所課税課にお問い合せください。
  なお、国税については税務署に、道税については道税事務所にお問い合わせください。
(9)その他の事項については、別に締結する協定に定めるところによります。

9 指定期間
  平成18年4月1日から平成22年3月31日までとします。

10 申込方法・スケジュール (略)

11 指定管理者候補者の選定及び指定
 (1) 選定方法
   札幌市が設置する選定委員会において、申込資格を有する申込者の中から、選定基準に照らして最も適当と認める団体を指定管理者候補者として選定します。選定に当たり、平成17年12月中旬までに選定委員会による面接等を予定しています。
   なお、審査の結果、候補者なしとする場合もあります。
 (2) 選定結果のお知らせ
   選定の結果については、平成18年1月中旬までに申込者全員に文書で通知します。また、平成18年2月中旬までに中央区のホームページに選定結果の概要を掲載し、公表します。
なお、選定結果については、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)に基づく異議申立て又は行政事件訴訟法(昭和37年法律第139号)に基づく訴えの提起をすることができません。
 (3) 指定管理者の指定
   指定管理者候補者として選定された団体は、平成18年2月下旬に招集予定の平成18年第1回定例市議会における札幌市議会の議決を経て指定管理者として指定される予定です。ただし、議決を経るまでの間に、指定管理者候補者を指定管理者に指定することが著しく不適当と認められる事情が生じた場合は、指定管理者候補者としての資格を取り消すことがあります。
   また、指定管理者の指定を受けられないことにおいて生じる一切の損害の賠償等に関する請求はできないものとします。
 (4) 指定の取消し等
指定管理者が札幌市の指示に従わないときその他指定管理者による管理を継続することが適当でないと認められるときは、指定を取り消し、又は期間を定めて管理業務の全部若しくは一部の停止を命ずることがあります。この場合、札幌市に生じた損害は、指定管理者が賠償するものとします。

12 協定の締結
 (1) 協定の締結 (略)
 (2) 協定で定める事項
  ア 管理業務の計画書に記載された事項
  イ 利用料金に関する事項
  ウ 札幌市が支払うべき管理費用に関する事項
  エ 管理業務を行うに当たって保有する個人情報の保護に関する事項
  オ 事業報告に関する事項
  カ 指定の取消し及び管理業務の停止に関する事項
  キ 管理業務の第三者への委託に関する事項
  ク 施設内での事故発生時の対応、札幌市への報告等に関する事項
  ケ 指定管理者が札幌市に損害を与えた場合の賠償に関する事項
  コ 指定管理者が施設・備付物件を使用する場合の取扱いに関する事項
  サ 管理業務を行うに当たって作成する帳簿等の保管・整備等に関する事項
  シ 情報公開に関する事項
  ス 札幌市行政手続条例の適用に関する事項
  セ 札幌市オンブズマンから調査の協力依頼があった場合の協力義務に関する事項
  ソ リスク分担に関する事項
  タ 管理業務上知り得た個人情報以外の秘密の保持に関する事項
  チ 管理業務に伴う施設の修繕費の負担に関する事項
  ツ 管理業務を行うに当たって購入する物品の所有権の帰属等に関する事項
  テ 地方自治法第238条の4第4項の規定に基づく目的外使用許可の取扱いに関する事項
  ト 指定期間満了等に伴う引継義務に関する事項
  ナ 協定の改定に関する事項
  ニ その他札幌市が必要と認める事項
 (3) 協定の改定
  指定期間中に、本業務の前提条件や内容が変更したとき、又は特別な事情が生じたときは、協議の上、協定を改定することとします(例:施設の大改修による長期閉館となる場合に、閉館中に不要となる施設管理費、事業費相当分を指定管理費から減額する場合等)。
 
13 参考資料 (略)
14 その他 (略)


第2 日 9:00―12:00
研究発表
「非正規化を前提とした図書館経営改革の可能性:静岡市の事例を中心に」
豊田高広(静岡市立御幸町図書館) ―― 21~24p
「医療情報から法情報へ~課題解決型サービスの最前線で」
吉田倫子(横浜市立中央図書館) ― 25~27p
「サービス計画再点検~自治体合併後における図書館経営の視点を交えて」
嶋田学(東近江市立能登川図書館) ―― 28~36p
「これからの碧南の図書館計画について」
若松衛(碧南市民図書館中部分館)―― 37~42p
「図書館員の非正規化にどう立ち向かうか」
橋本策也(目黒区立中目黒駅前図書館) ‐43~49p
「連続講座「図書館で働くということ」を開催して」
島崎晶子・阪本和子(兵庫支部) ―― 50~53p
「図問研愛知支部『40 年史』の編集活動について」
山田久(名古屋市鶴舞中央図書館) ―― 54~55p


非正規化を前提とした図書館経営改革の可能性:静岡市の事例を中心に
豊田高広(静岡市立御幸町図書館)

1 「非正規化を前提とした図書館経営改革」とは
 平成18年、静岡市立図書館への指定管理者制度の導入の凍結が決まった。しかし、平成20年度と21年度の2ヵ年度にわたって正規職員の約三分の一に及ぶ定数削減を行うという定員管理計画はそのまま実施されることとなった。その結果生じる人員の不足は非常勤嘱託(司書)の採用によって補う、というのが平成19年度以降の静岡市の方針となったのである。この計画が予定通り実施された場合、全職員の約三分の二を非常勤嘱託が占める見込みである。
 本稿において「非正規化を前提とした図書館経営改革」とは、図書館の直営の維持と公務員定数の削減を両立させるために相当数の正規職員を非正規職員に置き換えるという方策を選んだ自治体が、そのような状況においてなお現在のサービス水準を維持し、あるいは向上させるために取り組まなければならない組織及びその運営の改革を指す。非正規社員を主力とする民間企業・団体による指定管理や委託請負、あるいは派遣労働者の受け入れによる、いわば間接的な非正規化については、ここでは言及しない。
 近年は、静岡市以外にも、指定管理や委託によらず、直接、非常勤嘱託等の比率を増やすことで定数削減に対応する自治体が少なくないようである。東京都荒川区、岐阜市などは、いわばその先駆けともいえるだろうが、両市において特徴的なのは、正規職員が管理的業務に自らの役割を限定し、サービスをはじめとする専門的業務はほとんど非正規職員に委ねるという選択をしたことである。これに対し、静岡市の場合は、後で述べるように、正規職員と非正規職員がそれぞれ管理的業務も専門的業務も担う。したがって、正規職員にも多数の司書有資格者が残ることになる(実際、正規職員に占める司書有資格者の比率は非正規化を実施する以前よりも増大している)。非正規化の下でこうした改革が成果をあげれば、直営による「図書館サバイバル」の選択肢を増やすことにつながるかも知れない。今回、未だ改革の途上にある静岡市立図書館の事例をここに紹介する由縁である。

2 全館レベルでの改革
 平成19年6月、中央図書館が任命した正規職員7名からなるプロジェクトチームが発足し、筆者がそのとりまとめにあたった。その目的は、前節で触れたとおり、非正規化という「危機」をいわば「好機」として、高いレベルの図書館サービスと図書館職員の働きがいを、より効率的・効果的に実現できるような組織とその運営の改革プランをつくることにあった。このチームは、平成20年2月までに15回の会議と、非正規職員を含む全職員を対象としたアンケート調査、他の自治体の図書館視察等を通じ、「静岡市立図書館の運営改革プラン」と「静岡市立図書館業務区分表」の素案を作成し、承認された。その後の図書館経営改革は、実際にこのプランに沿って進められている。
 もちろん、2年間で正規職員を三分の一削減して不足する人員は非正規職員を充てるというのは急激な変化であり、平行して、平成20年度には電算システムの更新と分館1館の新設、平成21年度にもさらにもう1館の分館の新設が予定されているという状況であってみれば、プロジェクトチームに指名された職員の思いも相当に複雑なものであった。第1回の会議で、「非正規化」は前提であってそのことの是非を問うプロジェクトではないと知り、プロジェクトの意義そのものを疑問視するメンバーの声も少なからずあった。ここで大きかったのが、プロジェクトのアドバイザーをお願いした人事・労務分野を専門とするコンサルタントの杉山孝氏(静岡市産学交流センター・プロジェクト・マネージャー、当時)の存在である。杉山氏からは、正規職員よりも非正規職員がはるかに多いという状況は、民間企業においても少なくなく、そのノウハウの多くは図書館に応用可能であることを学んだ。異業種における類似の事例を知り、自らの置かれている状況を客観視することにより、チームのメンバー全員が目の前の現実を直視して取り組む構えに移っていくことができたといえるだろう。
 非正規化(プランにおいては「非常勤化」)という条件下でも、従来にも増して効果的・効率的に図書館の使命を果たすことができるよう図書館の組織及び運営のあり方を改革するのが、静岡市立図書館の組織運営改革プランの役割である。プランでは、組織運営改革の4つの方向が指摘された。
 第一に、「知恵を生み出し、速やかに伝える」意思決定の速度と質の向上である。意思決定やコミュニケーションにもっとスピードをもたせる必要があるが、現実には、正規職員が生産性の低い会議や雑用に追われる一方、非正規化によって夜間や休日の危機管理への不安が高まる。
 第二に「誰が何を期待されているか、はっきりさせる」職員各層の役割の明確化である。正規職員は図書館運営(新事業開拓、問題解決、人材育成等を含む)のプロ、非常勤嘱託(司書)は図書館サービスのプロ、正規職員の中でも館長はマネージャとして、それぞれの役割を明らかにしなければならないが、現実には正規職員より嘱託の方がサービスに精通する一方で、正規職員は存在意義を問われ、双方共にやる気を失いがちである。非正規化が単純に正規職員の現場離れを促進することに終わるならこのような状況はさらに悪化する。
 第三に「情報を知るべき人が知り、使うべきときに使える」情報の共有化と活用である。たいせつな情報の「見える」化、「図書館の使命」の実現に向けて絶えず進化するマニュアルづくり、館や担当の垣根を超えた職員同士の交流と信頼関係の強化を進める必要があるが、現実には大事な情報ほど伝わらず、現場の非正規職員には全体が見えず、正規職員には現場が見えなくなる傾向がある。非正規化によって、市の情報ネットワークのIDを持たない嘱託が多数派になれば、この傾向はさらに強まる危険性がある。
 第四に「やってみて、気づいて、学んで、教え合う」学習する組織づくりである。「失敗」からも学べるよう業務に「仮説・実験・評価」のサイクルを取り込み、適切なときに適切な研修が受けられるような人材育成の体系を整備し、学びあう組織風土を耕していく必要があるが、現実には、サービス環境が日々変わっていくのに、教える人材の確保も、学ぶ動機づけの維持も困難な状況がある。非正規化によって、雇用が不安定な非正規職員が多数を占めるようになれば、さらに困難さが増すおそれがある。
 非正規化によって予想される困難ばかり述べたが、他方では、図書館の仕事を最初から希望する司書有資格者が集まるという好条件もある。危機をチャンスに変え、4つの方向を実現するために、平成20年度中に実施する短期アクションプランと、平成21年度から22年度にかけて実施する中期アクションプランが併せて提案された。たとえば、①職員会議の整理統合、②正規・非正規を問わず全職員が活用できる新しい情報共有のしくみづくり、③図書館独自の人材育成システムの確立である。①についてはすでに館長会議(中央図書館の各担当統括主幹と各館長で構成)と、資料・サービス担当会議(各館現場の中堅の正規職員で構成)からなる二階層の会議を軸とした、全館的な意思形成のシステムが動き始めた。②については図書館電算システムのサブシステムとしてグループウェアを試行中であり、これを補完するものとして「館内コミュニケーション・ルール・モデル」を現在、第二期のプロジェクトチームが作成している。③については、平成20年12月に全館の研修担当者からなる研修担当会議が設置され、そこで素案を作成している。以上のほか、職員各層の役割を明確化するために、「静岡市立図書館業務区分表」を作成したのは、先にも触れたとおりである。
 平成20年4月、定員管理計画の初年度として、静岡市立図書館のうち中央図書館・清水中央図書館・南部図書館・御幸町図書館の合計4館で非正規化が行われた(残り6館は平成21年度実施予定)。その年の5月から6月にかけて、電算システム更新に伴う休館時に実施した、短期アクションプランの一環としての研修の模様については既に別の機会に述べたが、その後、7月に第二期のプロジェクトチームが発足し、アクションプランに挙げられた各事業の推進と共に、「組織運営改革プラン」では取り上げなかった新たな課題にも挑んでいる。それは、静岡市長のマニフェストの一つであり窓口部門で平成21年度からの取り組みが求められている「静岡版経営品質」への取り組みと、図書館法改正の目玉の一つでもある図書館評価のためのシステムの確立である。プロジェクトチームとしては、この二つを別のものと捉えるのではなく、「静岡市立図書館の使命」に掲げられた個々のサービス方針について追求するべきサービスの品質(経営品質)を定義し、それを実現していくためのしくみとして図書館評価の実施方針を作成しようとしているところである。静岡市では本格的な行政評価システムが確立されておらず、人事評価システムが行政評価に先駆けて導入されているので、人事評価との連動も検討している。市民の動きとして、平成20年9月には静岡図書館友の会が設立され、住民の図書館運動は新しい段階を迎えているように思われる。図書館の「経営品質」に密接に結びついた図書館評価を進めていく上では、図書館協議会と共にこうした市民団体との協働が重要なポイントとなる可能性がある。

3 単館レベルでの改革
 前節で述べたとおり、平成20年4月に4つの館で最初の非正規化が実施された。筆者が館長を務める御幸町図書館の場合、正職員7、再任用嘱託(週40時間)1、司書採用嘱託(週32時間)15、派遣1というのが平成19年度までの職員構成で、他館に先駆けて、既に正職員・再任用職員は全体の4割を切っていた。それが、非正規化によって、正規職員4、再任用嘱託0、司書採用嘱託21、派遣1という構成に変わった。正規職員は全職員の2割に満たない構成であり、これは他の非正規化実施館に比べても最小の比率である。21名の嘱託職員のうち10名が新採用であり、5月から6月にかけての電算システム更新と重なったため、現場ではさまざまな課題が生じた。具体的には、チームワークの質的低下、マニュアル応用能力の低下、正規職員やベテランの嘱託の負担増大等である。
 チームワークの質的低下とは、いわゆる阿吽(あうん)の呼吸による現場運営が困難になるということである。特に、従来、誰かが気を利かせてカバーしていていた事務分掌の明確でない「隙間」の仕事や全員共通の仕事がうまく回らなくなる。また従来は口コミで伝わっていた新しい決め事が伝わらなくなったり、個人が気づいた重要なトラブルが全体に共有されなくなったりする。
 マニュアル応用能力の低下とは、マニュアルに書いていないことについてマニュアルの背景にある考え方から類推して対応することができなくなるということである。些細なことでも先輩や上司に確認するため、事務処理が滞り、正規職員やベテランの嘱託は些事に追い回される。正規職員やベテランの嘱託の中にはストレスで体調を崩したり、新人との人間関係に支障をきたしたりするケースが続出した。同様の状況は、他の実施館においてもみられたようである。
 御幸町図書館独自の取り組みとして、ここでは「御幸町図書館員に守ってほしいこと」と「御幸町図書館館内コミュニケーション・ルール」の策定を挙げよう。
 「守ってほしいこと」は、20項目にわたる館長から職員への「お願い」という形を取っているが、実は単なるお願いではなく、平成16年の開館以来、全職員が関わって積み上げ作り上げてきた組織文化の明文化である。全職員に「どんな項目を入れたらいいか」と投げかけて意見を求めたうえで筆者自身が3月末に書き上げ、4月1日、新人の御幸町図書館への赴任当日に館内研修で各項目を説明した。そのような経緯があるので、これらの項目は全職員によく浸透しているし、さまざまなトラブルが起こりながらも、チームとしての行動をとる上での基準として生かされていると思う。「守ってほしいこと」にはたとえば次のような項目が含まれている。
「1 静岡市立図書館の使命、市民の満足、職員のやりがいの三つを追求するのが図書館のサービス。 迷ったら、原則・原点に立ち返ろう。 」
「11 共通事務は、臨時職員や新人の嘱託職員が、率先してやろう。
正規職員やベテランの嘱託は、個別の業務をたくさん抱えています。(以下略)」
 「守ってほしいこと」の中には「8 御幸町図書館最強のコミュニケーション・ツール、連絡ノートを活用しよう。 」という項目があるが、他にも掲示板の利用ルールなど、館内の意思決定や情報共有の方法を明文化したのは、平成20年の8月のことである。コミュニケーションのルールを明文化することで、「こういう提案や問題提起はここに書けば(言えば)いい」ということがはっきりするので、職場内の風通しをよくする効果もある。実際、新人嘱託やパート職員を含む非正規職員からの業務改善の提案や問題提起は毎週数件ある。また、筆者を含め、正規職員の仕事として「非正規職員の相談相手となる」ことが認識されるようになっている。

4 静岡市立図書館の改革が示唆するもの
 静岡市立図書館の改革から、直営体制の下での非正規化に取り組む上での教訓を導き出すならば、以下のような点が挙げられるだろう。
(1)複数の分館を抱える大規模な図書館の場合、一つの分館や部署で試してうまくいったことを他の館に広げていくといった方法は有効である。本稿では御幸町図書館の例を取り上げたが、すべてを中央から一斉に広げていく方法はリスクが大きいし、現場の反発を招きやすいだろう。
(2)現場の中堅クラスの正規職員のプロジェクトチームが中心となり、決定権を持つ館長会議や各現場と意見のやり取りをしながら進めることで、より現実的なプランが策定できると同時に、経営的視点を持った、マネージャ(館長)候補の職員が育っていく。各層・各館をつなげるコーディネータ的な役割を果たす職員も、大規模組織の改革には欠かせない。
(3)非正規化の最大のポイントは、正規職員と非正規職員の関係の建て直しであり、それをやり遂げるためのヒントは、従来の図書館学ではなく、むしろ経営学や組織心理学、そして異業種における実際の経営のケーススタディの中に見出すことができる。そのために外部の人材に関わってもらうことも有効であった。とはいえ、本来なら図書館経営論として研究されるべき領域であろう。本稿が、現実の改革に役立つ図書館経営論の形成に資するなら、これほど喜ばしいことはない。
なお、本稿においては非正規職員の労働条件等の問題には触れなかったが、プロジェクトチームにおいて中・長期的課題として検討されていることを付け加えておきたい。


医療情報から法情報へ~課題解決型サービスの最前線で
吉田倫子(横浜市中央図書館・調査資料課)

1.はじめに
 2008年12月に、横浜市中央図書館では法情報コーナーを開設した。2年前に同フロアに開設した医療情報コーナーに続く、テーマを絞った課題解決コーナーの第2弾である。どのような実践と思考を積み上げて現在にいたったのか、二つのコーナーの概要を報告し、そこを前進基地として進める「課題解決型サービス」のあり方を考察する。

2.横浜市中央図書館の開館から現在まで~これからの図書館像との共時性
 1994年、横浜市の地域図書館17館の中核館として中央図書館が誕生した。都立中央図書館をモデルに作られたこの図書館の最大の特徴は、部門別フロア制を採用し、各フロアにレファレンス・カウンターと専門職である司書を配置する「調査研究型図書館」を目指したことにある。専門書も含めた巨大なコレクションの誕生と専門カウンターの設置は、利用者からのレファンスの多様化と高度化を呼び込んだ。対応するためには各種専門分野の知識が必要であり、勉強による情報更新が欠かせなくなった。求める情報に効率的に辿り着くためには、インターネットやデータベースといった新しいツールと活字資料を駆使した情報探索法の開発を余儀なくされた。
また、1990年代後半に赴任した企画運営課行政職の厳しい指摘が、外からの厳しい風を吹き込んだ。「図書館に、司書には何ができるのか。市民と社会のニーズを捉え、図書館ならではという事業を、費用対効果を考えて作ること。他部局との連携を考え、図書館と司書の存在意義を、外に向かって発信すること」・#27425;々に突き付けられる命題。相次ぐ予算カットの中で考えられた事業の多くは、総じて言えば「情報発信」だった。例えば1997年の「児童虐待を考える」一連の企画事業は、社会のニーズをいち早く捉え、本格的な他機関との連携とテーマ・リスト作成を行うものだった(※1)。行政支援として始められた「庁内情報拠点化事業」は、庁内での図書館の存在意義アピールも企図している(※2)。2003年度から始まった「情報検索講座」は司書のノウハウを伝授する、市民の情報リテラシー涵養を目指すものだった。2006年度には折々に発行してきたやテーマ別調べ方案内(パスファインダー)やリスト、各種目録を「調査のミカタ」シリーズとして整備した。
こうした活動をよりスムーズに行うための一連のレファレンス・システムも徐々に整備した。HPの開設やOPAC公開など情報発信の環境整備と、Eメールレファレンスの開始。高度化するレファレンスに伴って増えてきた、他機関との連携(複写取り寄せや紹介状発行)の体制づくり。職員の知識と情報の共有化をはかるマニュアルの作成と事例の蓄積、それらを生かしたレファレンス事例集公開。レファレンス・ルールの見直しとともにレファレンス要領・手順を整備し、地域館へのバックアップ体制も確立した。
 2006年に文部科学省が発表した「これからの図書館像」(※3)が提案する「<趣味や娯楽のための施設、本を無料で貸し出す場所、学生が勉強するための空間>というイメージから脱し<地域や住民の課題解決に役立つ機関>となること」は、中央図書館がカウンターで客を待つだけの<受けの姿勢>から、積極的な情報発信に打って出る<攻めの姿勢>へと転じた15年の軌跡と重なる。その延長線上にあるのが、医療と法分野における「課題解決支援型情報提供サービス」なのである。
※1 「解説「児童虐待を考える」一連の行事について」吉田倫子、みんなの図書館.(通号 251) 、教育資料出版会、1998
※2 「行政支援サービス」桑原芳哉、『課題解決型サービスの創造と展開』(図書館の最前線・3)大串夏身編著、青弓社、2008
※3 「これからの図書館像-地域を支える情報拠点をめざして-」http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/04/06032701.htm
   (文部科学省HP[accessed 2009-02-15])

3.医療情報サービスの概要
 2006年12月に中央図書館に開設した「医療情報コーナー」は、最新の情報を展示し、医療情報の探し方をナビゲーションし、図書館で病気や健康についての調べ物ができることを市民にPRするショーケースである。その効果は絶大で、医療関連レファレンスの量と質はぐんと上がった。職員に聞きにくい人や、ここで解決できる人は自分で調べている。カウンターでは、病名でOPACを検索するだけでは資料が見つからない、難しい病名について聞かれたり、簡単な解説書を読んだ「その先の」調べ物が増えた。職員にとっては、医療情報の基本資料が分かり・いつでも参照できる、初動レファレンスで頼りになる前線基地となった(コーナー資料は全て館内資料である)。このコーナーに置くことで可視化できた有用な資料は、医学生や看護師向けの教科書・患者学の本・患者会資料・闘病記・診療ガイドラインなど。所蔵していたけれどその価値や使い方を知らなかったものもあれば、新たに有効な資料であることを認識し、集めたものもある。資料とレファレンス経験の蓄積で、医療情報レファレンスの基本の型ともいうべきものができ、それを形にしたパスファインダー3点セットも作成した(「病院を探す」「薬を調べる」「病気を調べる」)。最近では、予防医学を推進したい健康福祉局や、患者会との共催事業(展示や講演会)が増えている。コーナーを作るにあたり、様々な機関と繋がりを持てた成果である。
 医療情報サービスは大規模図書館だけが行っていればよい、というものではない。むしろ資料のない身近な町の図書館こそ、情報の整理とナビゲーションを行う必要がある。資料費がなくても、インターネット情報を提供できる環境だけは整備したい。診療ガイドラインの多くは公開されていてダウンロードできるし、専門医はネット検索できる。これらネットの有用情報を精査してリンク集を作り、紹介・照会ができる地域の関連機関ファイルを作ろう。地域格差と知識の格差を埋めるカギは、職員が握っている。市民の語りを傾聴して情報を整理し、次はどこへ行って何を見ればいいか、適切なナビゲーションができるようにしておこう。詳細なコーナー(サービス)運営方法やレファレンス事例、専門資料の特徴・利用上の注意点などは下記報告を参照のこと(※4)。
※4 「横浜の医療情報サービスから」吉田倫子、みんなの図書館 (通号 360)、2007.4
「公共図書館で健康・医療情報を提供する--横浜市中央図書館の医療情報コーナー」吉田倫子、医学図書館54(3)、2007.9
「公共図書館における健康・医療情報サービスで有用な情報源の特徴と留意事項」吉田倫子、Lisn(134)、2007.11 

4.法情報サービス、そのはじめの一歩
次なる一手として中央図書館に2008年12月にオープンしたのが法情報コーナーだ。基本コンセプトは医療情報コーナーと同様である(※5)。開設記念事業(※6)を3月に控え、基本資料の購入も継続中で、レファレンスもまだまだ手探りの状態だが、いくつか分かってきたこともある。
① 基本資料 
各種法律相談(自由国民社や三修社などが発行する一般市民向けのものと、青林書院や学陽書房が発行するパラリーガル向けのものがある)、主要な法分野の小六法・概説書(基本教科書)・実務書・コンメンタール(逐条解説書。別冊法学セミナーの基本法コンメンタールなど)・判例集(別冊ジュリストの判例百選など)、各種書式集など。
② レファレンス
法情報レファレンスは、既に医者に行き病名が確定しているところから始まる医療情報と異なり、法律家への相談前の段階から始まることが多い。これは、法の世界の市民からの情報アクセスに関するシステムが様々に未整備であることに起因している。また、自身の抱えている問題が法的問題であることに気づいていない市民も多い。従って、レファレンスの際にそれが法的問題であることに気付くセンスと法分野に関する一定の知識、適切なレファレンス・インタビューによる情報の整理が重要となる。
③ 関連機関・専門家との連携の重要性
②のような理由から、法情報レファレンスはいったん情報を整理した後、専門家のいる相談機関を案内する機会が多い。従って、地元の信頼できる相談機関情報の整理(有料か無料か、問題別にどんな機関があるのか、一覧できる案内の作成)が医療情報以上に重要となる。<各機関からのパンフレット取り寄せ>は、法律問題に関する情報収集が図書館で可能であることの周知ともなるので、一石二鳥を狙って有効に行いたい(コーナー開設後、真っ先に図書館にやってきたのは消費者生活センターと中小企業支援センターの相談員だった)。また、メールや電話1本で専門家に相談できる体制を作っておくとよいだろう。
※5 「中央図書館法情報コーナー」(横浜市立図書館HP [accessed 2009-02-15])
http://www.city.yokohama.jp/me/kyoiku/library/chosa/houjouhou/
※6 「法情報コーナー開設記念イベント~法律講座、模擬裁判の評議体験などを開催!」  http://www.city.yokohama.jp/me/kyoiku/library/central/cyuou_bun090308.html
  (横浜市立図書館HP[accessed 2009-02-15])

5.今後の図書館のあり方を、課題解決型サービスから考える
 課題解決サービスは従来の図書館の機能にも備わっていたものであり、決して新しいものではない。しかし、今あえて提案することには、二つの大きな意味があると思う。
一つには、逼迫した現在の財政状況の中で人と予算が削られ続ける図書館と司書は、改めて自らの有用性を社会と市民にアピールする必要がある。図書館の情報提供機能で現在の市民と社会に何ができるかを整理してみれば以下のようなものになる。
①「自己判断自己責任」社会を市民が生き残るための自立支援。
②地域・階層・情報を持てる者と持たざる者の間に広がる様々な格差を埋めること。
③玉石混交の情報が大量に氾濫する情報化社会で、より良い情報へのアクセスを助ける市民へのナビゲーションと、情報リテラシーの涵養。
「課題解決支援型情報サービス」を謳うことは、そうした機能を図書館にあることを示し、もっと使って欲しいとPRすることなのだ。中でも医療情報提供は市民の命を守るサービスであり、法情報提供は市民の暮らしを守るサービスである。図書館が社会のセーフティ・ネットであり、市民のライフラインとしてその有用性をアピールする旗印として絶好であることに異論はないだろう。
二つ目に、こうした機能を果たすには今までの図書館では不十分であることへの自覚を促し、実施館の情報環境整備を進める効果があること。横浜市中央図書館ですら、二つの課題解決に本格的に取り組む過程で、井の中の蛙だった図書館と司書の姿が見えてきた。「医療と法律の相談は行わない」とする、染みついたレファレンスの定石を変える必要があった(詳細は※7参照)。基本資料充実の過程で、今までの図書館の選書と蔵書構成の独善性が見えてきた。パスファインダーを作る過程で、自身の知識の足りなさを痛感した。「外部機関との連携」は、今までいかに繋がっていなかったか・#12434;思い知らされた。
①でみてきたように、「これからの図書館像」を先んじて実現してきた横浜市立中央図書館がどうして今、指定管理者導入の荒波にさらされているのか・#12300;やってきた」つもりであったことがまだまだ足りなかったのだ、ということだと思う。特にPRが弱い。しかし、足りないと思えばやればいいのだ。今の私は「苦しい」と思わず、むしろ拡がっていく視野と知識が見せてくれる新しい世界に喜びを感じて臨んでいる。図書館と司書は、もっと成長し、社会と市民の役に立つことができる。その喜びを少しでも全国の仲間と共有したい。それが、課題解決型サービスの最先端で旗を振っている所以なのである。
※7 「医療・法律・ビジネス情報提供の共通点とは--「医療情報・法情報およびビジネス情報に関わる参考業務のための指針」の解説」吉田倫子、みんなの図書館 (375)、2008.7


「サービス計画再点検」~自治体合併後における図書館経営の視点を交えて~     嶋田 学(滋賀県東近江市立能登川図書館)

1.本稿の問題意識と目的
 公共図書館が設置されるとき、その責任者は当該自治体について様々な視点から調査を行い、その特性やニーズに合った図書館計画をデザインする。それは、当該自治体における図書館設置の目的とその理念を示した「基本計画」の立案に始まり、その存立を担保する条例および規則の制定、設置される場所、施設の建設規模とデザイン、サービス計画とそれに見合った予算の確保、専門職員の採用と教育など多岐にわたる。しかし、いったん開館され、運営が始まると、図書館計画遂行のための個別具体的な日常業務や目標管理のための統計処理、また日々の庶務会計処理や年ごとの予算要求など、様々な業務に埋没されがちである。
 そうした状況においても、利用者からの顕在的な要求や、社会事象に対応した選書や展示、集会事業などの工夫がなされることはどの図書館でもあるだろう。しかし、開館当初において認識された当該自治体の特性や、これを基に策定された「サービス計画」の見直しを不断に実施している図書館はどのくらいあるだろうか。
 そのような疑問を抱くに至ったのは、筆者が勤務する自治体が合併することによって、サービス基盤である自治体に根本的な変革が生じたことと、人事異動によってその策定にかかわらなかった他の地域図書館を運営するに際して、そのサービス計画について確認点検する必要に迫られたからである。
 自治体規模が変わり、新しいまちのアイデンティティの醸成施策や総合計画など、自治体政策が新たに策定される場面においては、図書館政策の再編成も当然取り組まざるを得ない。しかし、各地域の諸環境や住民の思考や嗜好、あるいは地域に対する思いに、急激な変化が生じる訳ではない。従って、合併自治体としての図書館政策の編み直しと関連付けながらも、各地域の歴史的な文脈と図書館の実践を振り返った上で、個別具体的な地域の図書館のサービス計画を再検討する必要がある。
 本稿は、そうした取り組みの概要とその評価を報告することで、同じような境遇の図書館において比較対象となる実践報告を目指すものである。ただ、自治体合併という変化によらずとも、地域の経済的、社会的変化に対応するためには、一定期間において現状分析を行うべきだろう。例えば地域特性の再調査や、蔵書、選書の評価、利用動向の調査など、経営分析的な視点での「サービス計画再点検」が必要である。
 なお、本稿における「サービス計画再点検」のスタンスは、演繹的な総点検を指向するものではない。統計や書架ないし利用者の様子から課題を抽出し、その要因に働きかけることで軌道修正を行おうという帰納的なものである。次節で述べる合併後の全館的なサービス計画づくりは抜本的な取り組みであるが、3節以降の「再点検」については、上記のような姿勢であることをお断りしておく。

2.自治体合併の「図書館計画」づくり
筆者が勤務する滋賀県東近江市は、2005年2月と2006年1月の2期わたって1市6町の自治体が合併し、人口11万8千人の自治体となった 。
東近江市では、合併協議会において実務者レベルでサービス内容の統一をはじめ、ひとつの自治体図書館として整合性を図るべく調整作業を進めた上で合併を迎えた。その後、実際的な業務内容の統一や合理的な事務の調整を「奉仕委員会」という全館代表者会議によって詰めていく作業を行った。それと同時に、東近江市の図書館計画について、全職員で議論を重ね、図書館協議会の諮問を受けるべく計画案の策定にあたった。それを受け図書館協議会は「東近江市立図書館計画」(中間答申) を答申した。
計画は、5つの目標と、これを実施するための9つの指針からなっており 、各図書館の蔵書を概ね7年間で更新(参考資料については15年)することを旨とする蔵書計画やサービスの到達目標も含んでいる。
現場では、この答申の具現化するため各職場で議論を重ね、全体職員会議で意見交換をし、具体的な施策づくりを始めた。
同時期、市民参画による全庁的な「市立図書館のあり方検討員会 」が発足し、各館のあり方やサービスポイントの点検、業務のあり方や経営の方向性などが議論されていた。例えば、各館サービス地域の町別利用密度を集計することで、サービス空白地帯の特定や年齢別曜日別の利用動向などを把握し、各館のサービス評価や改善点など、今後の図書館施策についての提言がまとめられた。
職員の間でもこうした議論に応えるべく、コスト意識を持ちながらサービスの向上を図る施策の議論がなされた。例えば、過去5年間の各館利用状況を全職員で点検し、利用増減の傾向や蔵書構成、選書のあり方などについて意見を交換した。
このような議論を重ねるうち、こうしたサービスの点検や企画立案は、意図的な会議などきっかけがなくては、なかなか着手されることはなく、日常業務に埋没してしまうことになるのではなかという意見がでた。そこで、全館横断的な「サービス企画検討チーム 」を発足させ、不断に各種サービスの点検や企画立案を行う仕組みを作った。年に数回、全館職員会議で各チームの活動報告を行い、実施を検討すべき計画案ができた時点で報告をするようにしている他、業務の中で検討を要する事象が生じたときに、館長の指示で関連するチームがその作業を行うということもある。
合併後、各種サービスの業務調整から始め、図書館計画の策定、その具現化のための施策討議、そしてその実施に向けて業務を進行する中、2009年に東近江市立図書館は合併5年目を迎えた。こうした全館的な動きとは別に、次節では、個々の図書館における「サービス計画」の再点検の必要性について述べたい。

3.「サービス計画」の再点検
 東近江市立図書館では、2008年4月以降、決裁権のある館長が1名となり、役職上は7館の館長を兼務するという状況となった 。そこで、各館の副主幹、主査級の司書を「チーフ 」という名称で各館の運営を任せる体制を作り、毎月1~2回のチーフ会議によって全館的な業務調整や課題の提案や解決、予算編成や執行上の諸調整などを行うこととなった。
 2008年度当初、それぞれの館のサービス状況を振り返ろうということになり、過去5年間の利用状況、蔵書の推移、事業展開などを書類にして評価しあった。
 これをきっかけとして各館で各チーフが様々な取り組みを始めることになるのだが、ここでは、ある館の事例を紹介したい。
 その図書館の貸出統計推移には顕著な特性が見られた。2002年をピークに貸出冊数が漸減しているのだが、児童書は横ばい、つまり漸減の要因は一般書であった。そこで、開館以来の分類別貸出回転率を集計し、蔵書と貸出ニーズの相関関係を調査した。そこで特徴的な傾向として浮かび上がったのは、回転率の高い主題のうち、蔵書数が相対的に少ないものがいくつかあるということであった。
回転率の高い主題は、そのニーズに応えるように蔵書数自体を増加させ、さらに貸出を伸ばすような施策が図られると思う。しかし、そうした対策が講じられていないと思われる主題があった。それは、NDC530~549までの工業系の資料であった。実際に棚で資料を見てみると、開館当初に揃えた資料が相当回数借り出されていることが分かった。
そこで、合併以前の行政統計資料から、産業種別就業者人口を調査したところ、第二次産業、とりわけ製造業従事者が35%と最も比率が高いことが分かった。こうしたことから、当該館では工業系の資料を重点的に選書し、これを分かりやすく目立つよう表紙見せなどを行い、「がんばる日本のものづくり」という特設テーマ展示で紹介したりした。
その後、4月から9月までの6ヵ月におけるNDC530~549までの貸出前年対比を調査すると、11.4%の上昇が見られた。一般書全体の前年比が8.1%増であることから、比較優位が認められる。工業系の資料は、それほどニーズがないと考えていた当該館では、これ以後、他の分野の利用動向にも注視し、選書タイトルの多様化が進んでいる。
東近江市立図書館では、2008年11月末現在、貸出冊数で6.4%、利用人数で9.2%前年比に対して増加している。こうした背景にはどのような利用動向があるのか、各館サービスエリアの町名別の利用動向の調査も行った。この調査によって、どの地域のどの年齢層、性別の人が、どの館をどのように利用しているかが分かる。これによって、当該館の選書の評価や課題も見えてくる。
他にも、山間部の美しい景観とゆったりとした施設の特色をアピールし、選書や配架の工夫によって10%以上貸出を増やしている館や、学校との連携を深めることで団体貸出利用を伸ばしている館など、様々なサービス再点検と実践が行われている。
「サービス計画再点検」の要諦は、ニーズ(必要)やウォンツ(要求)の再調査と、投資と効果の再確認に始まり、その要因に積極的に働きかけることであろう。

4.「サービス計画」の再点検から深化へ
 『中小レポート』から『市民の図書館』を経て、私たちは「貸出し」、「児童サービス」、「全域サービス」を図書館活動の最重要課題として実践を重ねてきた。
 しかし、日本の図書館状況中で、「全域サービス」については、その深化が十分に図られているとは言えないのではないだろうか。地域館の整備完了を理由に、あるいは財政難という事情で、まだ利用者がいるにもかかわらず移動図書館サービスの廃止という事態が進んでいる。
 東近江市では、先の「市立図書館のあり方検討員会」において、厳しい財政状況を踏まえ、施設の合理的な運営という観点から厳しい意見も出た。しかし、合併以前から図書館計画がありながら、未設置であった蒲生地域へのサービスの必要性は認め、2008年11月、蒲生支所庁舎1階に5万冊の開架フロアーを持つ7つ目の図書館がオープンした。開館前から地元住民が準備を盛り上げ、開館後盛況な利用が続いているが、そうすると余計に際立つのが図書館から3キロを超えてサービスポイントのない空白地帯である。
東近江市では3台の移動図書館車が、市内63ヵ所を巡回しているが、これは旧自治体エリアでの巡回ポイントのままで、全域サービスを実施していると言い切れる状況にはない。そこで、「全域サービス検討委員会」を立ち上げ、移動図書館業務の集約化を図り、23ヵ所のポイント増設を図り、サービス空白地帯の解消を目指す計画を進めている。
 東近江市もご多分に洩れず、財政状況は厳しい。しかし、幸いにも全職員が有資格者という恵まれた体制を維持できている。指定管理者制度等による委託が進行する中で、直営での運営がよりよいサービスを実施できるという言説に説得力を持たせるのは、そうした状況で運営出来ている図書館が、「さすがは直営」と言われるようなサービスを実施し、そのことを内外にアピールしていくことである。
 現状に甘んじることなく、常に市民のニーズと社会状況への関心を持ち、謙虚に真摯にサービスの向上を図ることが、安易な民営化を阻止するもうひとつの戦い方であると信じている。
 最後に「サービス計画再点検」に際して、実施すべき調査項目をあげ、本稿を閉じさせていただく。

~サービス計画再点検項目~
《統計編》
① 貸出冊数の推移(過去5年間程度)
児童書、一般書、雑誌、AV、合計
② 利用人数の推移(過去5年間程度)
児童、中高生、一般等、年齢別
③ 実利用者の推移(過去5年間程度)
④ 分類別蔵書回転率
→最低NDC3桁で計算しないと参考 
 にはならない。
⑤ 分類別貸出冊数の前年対比
→最低NDC3桁で計算しないと参考 
   にはならない。
⑥ 各館別地区別貸出状況
→冊数の実数とともに貸出密度も集計。
⑦ 各館別地区別利用状況(年齢階層集計)
→地区別の利用回数を見ることで、利用の仕方、未利用地域の把握を行う。
⑧ 各地域別の産業種別就業人口
→開館当初と近年のものを比較
⑨ 各地域の産業種別事業所統計
  →開館当初と近年のものを比較
⑩ 資料費の推移
⑪ 蔵書・受入冊数の推移
⑫ 事業企画の変遷
《選書状況の点検》
下記の事項は、直接会議等で確認合議するのが望ましいが、移動コストが膨大となるため、データでのやりとりをしている。
① 各館別発注・受入タイトル一覧
→月間の各館の発注・受入リストを作
成し、タイトル多様性、複本数の妥
当性などを全職員で確認する。
② 買い控リスト
→予算や蔵書構成などの理由から、発注を控えたタイトルをリスト化し、他館での発注参考とする。
  ※上記については、各館で適宜補足的に
   発注する他、高価資料については、チーフ会議等で調整を図っている。

注)
1.2005年2月に、八日市市、永源寺町、湖東町、愛東町、五個荘町が合併、次いで2006年1月に能登川町、蒲生町が合併した。
2.「東近江市立図書館計画」(中間答申)2006年11月 東近江市立図書館HPに掲載。
http://www.library.higashiomi.shiga.jp/inf070310.html 最終アクセス 2009.1.13
3.~東近江市立図書館の目標~
1.豊かな暮らしにつながるための確かな情報を届けます
2.人と本、人と人との出会いの場をつくります
3.一人ひとりの居場所・憩いの場を保障します
4.思いやりのあふれるまちづくりに役立ちます
5.市民と共に育ち、市民が育てる図書館を目指しま  
  す
~9つの指針~
1.市民の求める資料、情報に、かならず応える図書
  館
2.市民の生活に役立ち、地域の課題解決に役立つ図書館
3.知る自由を保障し、利用者の秘密を守る図書館
4.市内のどこに住んでいても、だれでも利用できる図書館
5.子どもへのサービスを重視する図書館
6.市民の"広場"としての図書館
7.地球と人にやさしい図書館
8.まちづくりを進める市民が育つ図書館
9.自立した職員と市民が協働して作っていく図書館 

4.「市立図書館のあり方検討委員会」http://www.city.higashiomi.shiga.jp/subpage.php?p=11316&t=1231901885 最終アクセス 2009.1.14
5.サービス企画検討委員会は、児童、YA、一般、レファレンス、地域行政、ハンディキャップ、Web電算の7つのチームで編成。各チームでは、メール、直接会合等、様々な方法で協議を進めている。
6.2009年1月現在おいて、同様の状況である。
7.司書経験15年から25年程度の職員7名。館長は各チーフに、各館の代表、あるいは館長代理のつもりで仕事をしてほしいと指示している。


これからの碧南の図書館計画について
若松 衛(碧南市民図書館中部分館)

1.碧南市民図書館の概要
①碧南市の概要
 碧南市は、愛知県のほぼ中央、名古屋市から40km圏内に位置している。
 人口は、74,183人(平成20年12月31日現在)、面積は35.86k㎡です。
財政規模は、一般会計歳入総額323億7,298万円、一般会計歳出総額297億239万円、うち市民図書館費1億4,561万円(19年度決算)。

②碧南市の図書館
 碧南市民図書館南部分館は、平成3年7月に南部市民プラザ内に開館、延床面積486㎡。碧南市民図書館(本館)は、平成5年7月に移転新築開館、延床面積4,327㎡。碧南市民図書館中部分館は、平成7年7月に旧図書館を改修開館、延床面積1,202㎡。
 蔵書冊数は512,327冊、市民1人当たりの蔵書冊数は6.9冊(19年度末)。

③利用状況
 登録者数は44,271人、うち児童が6,826人。市民の登録率は59.8%。貸出冊数は698,239冊、うち児童図書貸出冊数184,509冊。市民1人当たりの貸出冊数は9.4冊(19年度末)。

④職員
 平成20年4月の正規職員数は、本館7名(うち司書6名)、南部分館(兼務)2名(うち司書1名)、中部分館2名(うち司書2名)。
 臨時職員、学生土日アルバイトを含んだ全職員数は、本館23名、南部分館8名(兼務)、中部分館5名。
2.碧南市の図書館計画
 平成元年8月、『碧南市の図書館計画1989~2000』が策定された。この計画に基づき、現在の3館が整備されたわけだが、計画策定の詳しい経緯については、既に元職員である都築みさ子が第22回理論集会で報告し、『図書館評論37』に記録されているので参考とされたい。
 2007年(平成19年)3月、『碧南市の図書館サービス計画2007~2016』(以下『図書館サービス計画』と述べる)を策定した。「2001~2006」がないが、平成元年に策定した図書館計画は今も生き続けているものと考えており、一方、約20年間の時代の大きな変化を考慮し、『図書館サービス計画』を策定することになった。今回策定した計画も10年間とし、平成19年度から28年度までを考えた。

3.碧南市子ども読書活動推進計画
 国は平成12年を「子ども読書年」と定め、平成13年12月「子どもの読書活動の推進に関する法律」を定め、平成14年8月「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」を策定・公表。
愛知県においても、平成16年3月「愛知県子ども読書活動推進計画」を策定した。
 碧南市においては、平成17年12月『碧南市子ども読書活動推進計画』を策定した。
 新しい図書館計画の策定も急がれていたが、国、県の状況からも『碧南市子どもの読書活動推進計画』を先に策定することになった。
 平成16年11月に第1回策定会議(幹部会)が開かれ、懇話会設置の承認などを得た。平成17年1月、第1回懇話会。同年2月、アンケート調査実施。策定会議3回、懇話会3回、委員会3回、パブリックコメントの実施を経て、計画は同年12月策定された。
 平成19年度、教育長はモデル校として、小学校1校に学校図書館司書(有資格者)1名を臨時職員として採用。20年度には全小学校7校に臨時職員で学校図書館司書(有資格者)を採用した。21年度には中学校にも採用したかったが、財政難で実現できなかった。この教育長も平成21年3月で退職予定である。
 計画の詳細については、碧南市民図書館のホームページで公開しているので、参考とされたい。  

4.『図書館サービス計画』策定での問題点
①児童サービス
先に『子ども読書活動推進計画』を策定したことで、「学校図書館との連携」等の扱いについて、意見の対立が発生した。
実際の計画では「*学校との連携についての詳細は『碧南市子ども読書活動推進計画/平成17年度策定』を参照」と記載されている。当初は「この一文があれば詳しい記述は要らないではないか」と図書館職員側。一方、教育長側は「もっと記述してほしい」と。結果としては、少しだけ記述が増えた。
②パブリックコメント
先の『子ども読書活動推進計画』策定ではパブリックコメントが実施されたが、意見受付件数0件であった。そうしたこともあって今回はパブリックコメントが実施されなかった。

③来館者アンケート
 実際は3館でアンケートを実施したが、本館だけでの集計となった。分館でのアンケート配布・回収件数が本館と比べ極端に少なくなり、全数に占める値が小さ過ぎて、本館だけで集計しても同じような結果となったためである。

5.これまでの取り組み
①職員(専門職)の充実
 平成元年4月、私が碧南市立図書館に勤務した後、10名の司書採用が行われた(うち4名退職)。また日本図書館協会主催「中堅職員ステップアップ研修」へも職員を参加させてきた。しかし平成21年度からはこの研修への参加も予算上、中止せざるを得ない。

②分館などによる図書館網の整備
 図書館3館、公民館図書室7室をコンピュータ網でつないだシステムを稼動させた。しかし公民館図書室の充実は実現できていない。

③サービス水準
 市民1人当たりの貸出冊数でみる。平成元年度2.6冊、平成3年度3.9冊(南部分館開館)、平成5年度6.9冊(本館開館)、平成7年度8.6冊(中部分館開館)、平成10年度9.5冊(夜間開館実施)、平成15年度10.1冊(WEB予約開始)、平成19年度9.4冊である。

6.『図書館サービス計画』の主な内容
①個性的なコレクションの収集
 計画作成段階では決定していなかったが、具体的に「豆本」を収集することにした。きっかけは「名古屋豆本」版元の亀山巌さんの遺品を、平成2年に寄付していただいたことからである。
 平成18年にも寄付を頂き、現在、約440冊所蔵している。平成19年6月「碧南市民図書館特別コレクション豆本収集要綱」を作成した。
 まず収集したい豆本シリーズは『あおもり豆ほん』『珈琲豆本』『武井武雄刊本作品集』である。

②開館日・開館時間の再検討
 現在、碧南市では教育公所の月曜日開館ルールについて検討している。殆どの施設が「月曜日が振替休日の場合、休館」としているが、平成20年4月に開館した現代美術館、水族館・科学館だけは「月曜日が振替休日の場合、開館」している。
 平成18年10月に開館した商工課所管「碧南市ものづくりセンター」も現代美術館と同じで、新しい施設では月曜振替休日を開館している。
 近隣図書館では、高浜市が火曜日、岡崎市が水曜日に休館している。碧南市は図書館が3館あるので、「各館が違う曜日に休館」するほうが市民サービス向上になると思うが、教育部内では休館日を統一したいらしい。

③ホームページの充実
 ホームページは「もう一つのカウンターである」と考え、バリアフリー化などに努める。また、携帯電話からの予約・レファレンスの受付を開始する。
 さらに安城市中央図書館等が行っている「地域資料デジタルアーカイブ」を作成したい。

 平成18年3月、第1回打ち合わせ会が開かれた。同年7月、第1回図書館協議会。同年9月、アンケート調査実施。打ち合わせ会15回、図書館協議会3回、教育委員会1回を経て、計画は平成19年3月策定された。
計画の詳細については、碧南市民図書館のホームページで公開しているので、参考とされたい。 

7.現在の取り組み
①外国語資料
現在の本館(中央館)が開館した平成5年から平成13年度まで、主に英語で書かれた資料を中心に収集してきた。14年度から3年間でポルトガル語、スペイン語資料の充実を図り、英語1,623冊、ポルトガル語696冊、スペイン語383冊となった(16年度末)。ここまでの経緯については、既に大橋幹広が『愛知図書館協会会報第178号』で述べているので参考とされたい。
平成20年度、「市制60周年記念枠」として前市長が500万円を図書館資料購入費として配分した。
そこで中国語資料を約580冊ほど収集した。

②図書館システム更新
 平成21年3月、システム更新を行う。NECのLiCS-RⅡから富士通のiLiswing21に変更する。碧南の図書館にコンピュータが導入されたのは平成3年南部分館開館時であり、それ以来ずっとNECだった。
 また利用者カードをリライトカードに変更。返却期限票作成が不要となり、紙資源の削減を図る。
 さらにTRC-MARCをUタイプからTタイプに変更する。

③子ども読書活動推進計画アンケート
 平成17年に『碧南市子ども読書活動推進計画』が策定されてから3年が経過した。そこで計画の進捗状況を把握するため、現在、アンケート調査を実施している。

④選書会議
 正規職員数は後に述べるが激減している。しかし図書館として絶対に必要な仕事はして行こうということで、平成18年度から毎週1回金曜日に選書会議を本館(中央館)で実施。3館職員で購入調整を行っている。またリクエストが出された資料についても購入するかどうか、この会議で決定する。
 以前は、月1回程度、一般奉仕検討会議、児童奉仕検討会議、レファレンス検討会議等を行い、そこで選書の問題点を検討してきた。そのため、殆ど分館は分館で購入決定を行ってきた。
 予算も削減されるなか、こうした各館での購入を調整する動きは他市でも検討されることと考える。

8.今後の課題
①英語多読図書
 県内では小牧市立図書館、蒲郡市立図書館が収集していたが、最近、愛知県、一宮市、刈谷市、田原市などで収集が開始された。そこで碧南市では平成20年度「英語多読講座」を開いたが、「資料も無いのに」という意見もあった。
 「教材を収集しない」という碧南の選書方針、「子どもは英語教育よりも日本語が大事」という児童司書の意見、「ページ数が8ページ程度のパンフレットのような資料」もある。
 講座をお願いした豊田高専の西澤教授が推薦される「Oxford Reeding Tree」が本当に良いのか?職員の知識も不足している現状から、碧南での収集は要検討とした。

②レファレンスサービスの充実
 国立国会図書館の「レファレンス協同データベース」への参加に加え、新しい図書館システムでレファレンス業務での「e-レファレンス」の活用を行いたい。

9.問題点
①財政状況の悪化
 平成20年度から大規模償却資産の県課税が始まった。過去3年間の平均財政力指数が1.6を超えた場合、県の吸い上げがあり、21年度は10数億円が見込まれている。
 また、トヨタショックもあり、年頭の市長訓示では60億円の減収との発言もあった。
 さらに愛知県では、一般職員の給料を6%、ボーナスを4%カットする方針であり(中日新聞、平成21年1月17日(土)県内版)、今後の状況によっては本市への影響も心配される。
 平成21年度予算の査定結果が出た。各課で「☆市長特別指示」との名目で削減が行われた。「消耗品費」「備品購入費」は一律10%カットだった。予算要求段階で、他市でも行われているだろうが「枠指示額」が示されており、実質20%カットになってしまった。
図書は何とかやり繰りできるが、新聞・雑誌は大変。公民館では中日新聞(朝刊)1紙だけ購入しているが、10%カットでは10か月だけしか購読できない状況になる。

②派遣切り問題
 本市はトヨタ系の企業が多数ある。最近、平日に若い男性で1日中、図書館に座っているだけの人もいる。先日「人が倒れている」と利用者からの声があり、駆けつけると床に若い男性が寝ていた。以前には床にシートを敷いて寝ている男性もいた。
 平成20年4月、碧南市生活課まちの安全係に「まちの安全推進員」として警察官OBを1名配置。市内各施設を巡回している。先日、当館に来館された時に話をしたが、「賽銭泥棒、万引きが増加するから注意してね」とのことだった。
 当館には毎週木曜日「週刊求人チャンス(愛知県三河・知多版)」という無料の求人情報誌が届く。以前は次の週まで持ち帰る人がなく残っていたが、最近はすぐになくなっている。

③東部分館中止
 平成元年に策定した図書館計画では、東部地区の分館建設について「今後の人口増加、現在の3館によるサービス状況、市民の満足度等から、将来あらためて検討」とある。
 南部分館は南部市民プラザ内に設置された。平成13年、東部市民プラザが開館したが、プラザ建設段階で図書館東部分館を要望しなかった。当時、私は図書館にいなかったが、現在、東部地区の人口が増加しており、中部分館の補完施設として建設されていたらよかったのではないかとも思う。
財政状況悪化が予想された数年前から、「人口約7万人の碧南に図書館が3館も必要か?」との声が、市職員の中、或いは市議会議員の中にある。3館のうち中部分館は今年築40年を迎える建物である。「中部分館廃止」との声は以前からある。

④新市長誕生
 平成20年4月、禰宜田政信市長が誕生。昭和26年生まれの経営コンサルタント。
 新市長になり改革が始まった。まず臨時職員全員を対象に3時間の研修が行われた(第1回C・Sマナー講習会)。私も20年勤務しているが、臨時職員研修は始めてである。
 「C・S(市民満足度:CITIZENS SATISFACTION)」「働く(傍楽)」を盛んに言っている。「第1回C・S講演会」「平成20年度市長とのC・S・ミーティング」「第1回C・S経営管理者講座」が開催された。
 「平成20年度市長とのC・S・ミーティング」は、36歳から45歳までの行政職の職員(係長・主査級)94名を対象に実施。各回8名程度の参加者と市長だけのフリー・ディスカッション。私も参加したが、初めての試みのため、趣味など自己紹介するだけで終わった。部課長は普段から市長と接する機会があるが、働き盛りの中堅職員とのコミュニケーションを深めたかったとのこと。この段階までは良いことだと思ったが、「C・Sメール制度の新設」となって疑問を持った。この制度は「市長宛てに直接、職員個人がメールで提言等を行う」もの。部長・課長を飛び越して意見が言える制度である。これでは部長・課長・係長という役職制度が維持できるのか甚だ疑問である。

⑤碧南市組織改正
 平成21年4月、禰宜田新市長のマニュフェスト実現のため、組織改正を行う。福祉こども部、健康推進部、秘書情報課、経営企画課、地域協働課、防災安全課、文化創造課、文化財課を新設。農務課を「農水産課」、体育課を「スポーツ課」に改称する。体育課の名称変更は、20年9月議会の一般質問である議員から出されていたものである。長年、私も勤務しているが、これほど大きな組織改正は初めてである。今後、市長が変わる度に大組織改正が行われては大変ではないか?

⑥組織・職員問題
 平成元年4月、司書館長が誕生した。しかし平成3年7月、事故により館長が急逝。これ以降、司書館長は登場してない。一方、平成7年7月に開館した中部分館長は司書館長で継続している。
 平成9年4月、市民図書館は文化振興課の一部となる。平成16年4月、市民図書館としてまた独立。  
平成20年4月、藤井達吉現代美術館(課)が開館し、市民図書館はまた文化振興課の一部となる。平成21年4月「文化創造課」の一部となる。
また平成21年4月から市民図書館本館(中央館)館長が課長補佐職となり、約20年間課長職として存在してきた市民図書館館長にもピリオドが打たれる。
正規職員数の推移について、本館だけで見てみる。何れも4月現在。平成元年7名(うち司書5名)、平成5年13名(うち司書10名)、平成20年7名(うち司書6名)。20年前に戻ってしまった。
実際にはもっと大変なことになっている。現在2名の司書が産休・育休中であるためである。正規職員数の減員分、産休・育休2名分、何れも臨時職員(有資格者)で対応している。
 しかし最近では臨時職員(有資格者)の確保も困難になっている。平成20年9月に1名の臨時職員(有資格者)が退職したが空席が埋まらず、21年1月にようやく欠員補充ができた。既に愛知県西三河部では司書有資格者が不足してきた。碧南市では学校図書館司書を採用、民間ではTRCが大規模図書館開館を迎え、大規模な採用を行うなどしたためである。

⑦委託問題
 何度か指定管理者制度の導入について検討会が開催されたが、今のところ市民図書館への制度導入予定はない。しかし、市民プラザへの制度導入計画は残っており、南部市民プラザ内にある南部分館の扱いが心配である。というのも南部分館の職員はプラザの職員が兼務しているからである。所管も生涯学習課である。
 また、近隣では高浜市立図書館が平成21年4月、指定管理者制度を導入する。今後の運営状況を見守りたい。

10.最後に
 いくら立派な図書館計画を策定しても市の財政状況などが回復しないと、なかなか改善もできない。
 また、市長、市役所職員の市民図書館に対するコンセンサスを得ることが先ずは大切であり、それから予算、計画と続くものである。
 元市職員であった前市長は詩人でもあり、芸術・文化に関心が高く、藤井達吉現代美術館設置など 図書館にも理解があった。亀山巌氏と交友があったため、豆本の寄付も頂けた。
 新市長は男の子6人の父親であり、子育てに関心が高く、市議会議員時代には図書館を利用していた。
市民満足度が高い施設である図書館だが、今後の碧南の図書館運営は非常に厳しいものであると考える。


図書館員の非正規化にどう立ち向かうか
橋本策也(東京支部・目黒区立中目黒駅前図書館)

0.はじめに
1)非正規労働者が日本の図書館をになっている
 日本の図書館員の過半は「非正規労働者」です。「日本の図書館2007」によれば、正規職員13,573人に対し、非常勤職員7,265人、臨時職員6,995人、委託・派遣4,248人で、合計18,507人です。自治労の「臨時・非常勤等職員の実態調査」2008年でも、「図書館職場では職員の61.6%が臨時・非常勤職員」(委託など「民」の労働者は含まず)と集計しています。
http://www.jichiro.gr.jp/jichiken/sagyouiinnkai/32-rinsyoku.hijyokin/tyukan.pdf
 私が現在働いている目黒区立中目黒駅前図書館は、この8年間で常勤10名→常勤9名+非常勤8名→常勤6名+窓口委託と変化し、現状は常勤6人と名簿上は24名(フルタイム40時間勤務7名、パートタイム17名)の委託労働者によって運営されています。2008年4月、委託後3年で競争入札により委託業者が代わり委託スタッフは総入れ替えとなりました。その後も「責任者」「リーダー」などのフルタイムスタッフはあまり変化がありませんが、パートタイムスタッフはこの5ヶ月でも6人が入れ替わりました。常勤職員は全員男性・40代2人と50代4人、委託労働者は責任者1人のみ男性で23人は女性です。
 日本の図書館はすでにこれら非正規労働者の力を抜きには成り立たなくなっています。私は所属する目黒区職労と、東京段階の東京自治労連図書館協議会、地域の目黒地区労働組合協議会の役員をしています。
そこから見ると、自治体内の他の職場、民間の会社や社会福祉法人などと比べても、図書館の非正規の割合は極めて多いと感じています。なぜこうなったのか、どうすればいいのか、自問する毎日です。

2)図問研職員問題委員会のとりくみ
 図書館問題研究会では、2008年箱根大会での提起をうけ、非正規問題を中心とした「職員問題委員会」が10月発足しました。東京では会員4人と非会員3人(拡大中)で3回の会合を行い、2009年3月に全国での第1回会合を予定しています。この中でみんなの図書館職員問題委員会のページの連載を行っています。東京のメンバーは、数区の図書館非常勤組合組織の呼びかけで始まった「図書館非常勤職員交流会」(略称 図非交)が、委託・指定管理化の進展に伴い発展した「図書館スタッフ交流会」(略称 図ス交)と、図問研東京支部とが共済している「図書館のツボ」講座の運営委員会メンバーが母体となっています。
 私は図書館で働いて30年、図問研の会員としても4半世紀を経ていますが、研究集会は今回はじめて参加します。大会に出るようになったのも委託問題がもちあがった8年ほど前から、委託反対闘争の中で、労使関係では「抜けない」方途を、住民との連携した運動を追及するとともに、図書館のあり方から考える必要に迫られてでした。それ以前の臨時職員の大量雇用時代・非常勤職員制度導入(東京では多くは公務員の労働時間短縮=週40時間が行われた  年前後)の時など、労使交渉は取り組みましたが、それは組合員である常勤公務員の定数確保・労働の維持のためであり、委託問題が持ち上がるまでは、非常勤職員の組織化(労働組合へ加入)もあまり考えてきませんでした。30年前からある清掃委託の「おばさん」に対する態度と、図書館の非正規労移動者への態度・関心はほぼ同じだったといえます。図問研での非正規問題の発端が「会費が高くて図問研に入れない」という非正規の声から始まったようですが、会員拡大の対象として非正規図書館員を見たことはすばらしいことだと思います。なぜ現状のように非正規化が進んでしまったか、20年前にこの視点があればとも思いますが、現状では「非正規労働者が日本の図書館をになっている」、日本の図書館の未来のためには非正規の問題を図書館そのものの問題として第1といってもいい優先順位で考えていかなければならない、それが2008年図問研箱根大会で常設委員会の設置を提起した私の思いです。

1.図書館での非正規化の現状
1)さまざまな「非正規」の現在は
日本の図書館における非正規労働の現状については 練馬の小形亮さんが、「非正規職員化する図書館」(『図書館界』60巻5号)でまとめられています。自治体直接雇用の非常勤・臨時職員、請負契約による業務委託や指定管理、PFIなどさまざまな手法での「アウトソーシング」による非直接雇用の民間労働者、またそれぞれでの職名や雇用形態の違い、労働時間や待遇の違いなど文字どうり多様です。この中で、2008年後半以降、自治体直接雇用の非常勤・臨時職員の待遇改善は一定前進しつつあります。
これまで、ばらばらに、無秩序に、各自治体ごと、各所管ごとに進行してきた非正規労働者の増加が気づいてみると図書館という職場でも、ある市役所全体でも無視し得ない段階に達している、国の人事院も非常勤職員の報酬・待遇に対して2008年「ガイドライン」をださざるを得ませんでした。「官製ワーキングプア」の指摘の中で、すこしづつではありますが、自治体労働組合がこれら非正規労働者の待遇改善を自治体に要求するようになってきました。自治体労働組合は、その多くは「労働組合」をなのりつつも、正規常勤公務員の「職員団体」にすぎず、組合員たる常勤公務員の利益擁護を自治体当局との話し合いで実現する組織です。しかし近年、労働のあり方、労働者の状況が「国のあり方」、自治体の姿にとって大問題になっていることから初めて、「役所のすべての労働者の権利・待遇」が自治体労働組合の課題と自覚されるようになったといえます。
でもこの「自覚」はいわば、「派遣村のTV報道」から入ってきた世評と、労働組合でいえば上部からくる方針・指令による部分が多い。現実の職場では依然として正規常勤公務員の削減に「非常勤・臨時導入」で対応する、非正規はいわば「あごで使う」労働者で、常勤公務員図書館員はこのときばかりは「労務管理」をする役を引き受ける。いや「労務管理が難しい」から、派遣や委託など自治体直接雇用を避ける解決に向かう という傾向がかえって加速しているのではないでしょうか。
そして自治体直接雇用非正規にくらべ、委託・指定管理などによる「民間」労働者の実態は、多くのところではその人数すら「役所はつかんでいない」ため把握すらされていない状況です。特に図書館では、
指定管理や業務委託提案に対して、各組合組織が「常勤職員削減と非常勤拡大」などの対置案を提起しても無視されるケースが続き、非正規化が「民間」へのアウトソーシングで加速されている状況にあります。

2)「期間の定めのある雇用」の突破が課題
 これら様々な非正規労働に共通する問題のひとつが、「雇用機関の定め」があることです。「終身雇用」といわれる常勤公務員が「正規」であるのに対し、1年・半年といった期間を定めた労働契約により働いているのが、非常勤や委託会社の契約社員で、図書館の場合常勤公務員以外はほとんどがこれにあたります。ワーキングプア問題の中で指摘されたように、日本の労働法制や社会保障は、正社員=期間の定めのない労働者を前提にしています。例えば雇用保険は1年以上雇用される見通しの労働者が加入対象になります。「派遣切り」の事態に、労働者に対する社会保障の網が機能せず、生活保護という「最後の」保障しかなくなる問題が明らかになりました。図書館の場合、「日雇い派遣」という形態は聞こえてきませんが、すでに「半年」契約の繰り返しや、健康保険など社会保険適用を逃れるための短時間労働が拡大し、少なくない「ダブルワーカー」も生み出しています。本来、図書館の仕事は、蓄積・経験の占める割合が大きいにもかかわらず、先のない「不安定雇用」のもっとも多い職場になっていることに大きな問題があります。図書館の非正規労働に共通するこの「期間の定めのある雇用」は、自治体の「非常勤雇用のあり方」あるいは、単年度の請負委託契約による仕事、3年程度の期間を主流とする指定管理制度、いずれにせよ自治体の政策によっています。これを突破しないことには図書館員は「業」「職業」になりえない、図書館という機能そのものの成立が危うくなってくるといえます。

3)常勤職員の4分の1以下の低賃金
 右が東京での生活保護支給額上限です。生活保護には課税されませんし、医療保護が受けられるため医療・年金など社会保険料がひかれることもありません。これに対し図書館の非常勤職員は、税・保険料鋳込みの支給額で、例えば荒川で18万5500円、町田市で 18万3200円です。委託の場合、最新の「われわれの館」で大阪市立図書館を受託した会社では責任者で「月給16万円~」と、「健康で文化的な最低限度の生活」に至らない低賃金です。
 また正規常勤公務員図書館員との格差は、年収で
4倍以上に達します。
 
2.労働条件向上のために
1)ILO条約「同一労働同一賃金原則」
 私の働く中目黒駅前図書館の場合、5年前の窓口委託以前と以後で開館時間の変化はありません。レファレンスカウンターに常勤職員が1名交代ではいり、貸出返却カウンターには常勤2・非常勤1-2名が入る。今委託スタッフが行っている業務を私も行ってきました。指定管理による図書館を考えれば、総体としての1図書館の労働は変わらないはずです。それが「安上がり」になること事態がおかしいのです。
ILOの「同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約(第100号)(日本は1967年8月24日批准)」自体は男女格差を許さないとするものです。しかし日本では、非正規の大多数が女性である(私の働く図書館でもそうです)。またこの10年の自治体リストラを振り返れば、学校給食・保育園・そして図書館と、「女性専門職の多い職場」を主要なターゲットにしてきたことは明白です。年功賃金の問題や、「政策立案にあたる公務労働」などの観点を考えるとしても、現状の3-4倍もの賃金格差は、「公序良俗に反する」といえます。正社員と継続的に雇用されてきた臨時社員との賃金格差を80%以上は許容できないとした 丸子警報機事件判決は、「この(同一(価値)労働同一賃金の原則)の根底には、およそ人はその労働に対し等しく報われなければならないという均等待遇の理念が存在し、これは人格の価値を平等と見る市民法の普遍的な原理と考えるべきものだからである。」と述べています。「こんなことはおかしい」という思いを主張することが必要です。

2)国家・政策規制 最低賃金制度
 2007年の最低賃金法は最低賃金と生活保護基準の均衡を求める」改正がなされました。2008年の最低賃金改定はこれにより、東京では時給766円まで引き上げられました。低賃金・不安定雇用は、すでに「働き方の選択」などという問題でなく、「貧困」の問題であることが社会的に明白になったといえます。
残念ながら日本の図書館員の労働条件向上は、最低賃金アップが最も手っ取り早い、全国どこでもマクドナルドよりもローソンよりも図書館の時給が安く、最低賃金に張り付いている、さらには「ボランティア」の名によるワンコイン労働まで見られる状況です。すべての図書館関係者が、無条件で、最低賃金のアップを主張し応援することが必要です。
 「どんなに『効率的』でも、奴隷労働や児童労働は認められない」、社会的・国家的規制は必要です。今、日雇い派遣の禁止が話題になり、製造業での派遣労働が見直されています。図書館の場合はどうか。私はそもそも期間の定めのある雇用そのものを許容しないことが、少なくても館長職や専門的職員としての司書(たとえ一部でも)には求められると思います。

3)自治体・企業体規制 公契約条例など
 さてこれらいわば「人として」「国民として」の課題についで、特に常勤公務員図書館員にはもうひとつ、自治体の規制強化を実現することを求めたいと思います。ひとつは委託や特に指定管理の場合での、評価や選定基準に、最低賃金など順法・合法である以上に、「いたずらに短期契約を繰り返してはならない」(パート労働法)や、労働安全衛生法が求める労働安全衛生体制の確立、あるいは障害者雇用など、社会的要請や労働法体系の細かな適用を盛り込むこと。さらに社会的要請として「短時間勤務者も含め全員の雇用保険加入」「健康保険・年金などの社会保険加入」を求めること。特に被雇用者が自治体内住民であることが予定されるなら、これらセフティネットの整備がなければ、究極の負担は国保・国民年金・生活保護として自治体にかかってくるわけですから。これらは自治体の直接雇用である非常勤・臨時職員にも同様に制度的に保障すべきです。そして「町づくり」「町おこし」が課題であるなら、派遣法改正論議の中で今規制のあり方が問われている「ピンハネ率」の確認・規制を話題にすべきです。また、正規・非正規の割合も同様に発注者としての自治体がつかみ、規制すべきです。
 不安定・低賃金雇用の大本が自治体契約のありかたにある「官製ワーキングプア」の実態を、自治体内に明らかにし、「公契約条例」や「社会的に適正契約」を求めることが、委託にせよ、指定管理にせよアウトソーシングを行う場合の必須条件だと考えます。

4)労働者の権利の確認と適用―役立つ図書館(員)なら
・8ヶ月以上働けばアルバイトでも有給休暇は保障される ・就業規則の明示と文書による労働契約が必要 などの基本を、えてして常勤公務員労働者は知りません。ビジネス支援・起業支援と同様に、失業支援を課題とすべきです。もちろん自分の身近な働く仲間にとっても、あるいは自分の子どもたちから相談されるようにでも。

5)労働組合と労働協約
 ここまでは いわば蛇足かもしれません。問題の解決、図書館員の労働条件・地位向上の鍵は労働組合にあることが2008年見えてきたといえます。日雇い派遣問題でも「名ばかり管理職」問題でも、それが社会的に明らかになったのは、労動組合の取組と告発でした。「労働組合」というとつい自分の身近な(加入していたりする)自治体職員組合の姿を思い起こしがちですが、この場合それにとらわれてはいけません。非正規労働者を中心にした、あたらしい「ユニオン」が事態を牽引してきました。また日本の図書館でも、非常勤職員を中心に様々な非正規労働者の組合がうまれています。そこでは、組合を作って初めて「図書館長に意見が言えた」、発言できたという、日本の図書館にとって貴重なドラマが繰り返されています。正規常勤公務員組合も直ちに非正規図書館員の労働条件改善を要求すべきです。同時に非正規図書館員自体の「労働組合加入」の権利を保障することが、今日の眼目であると考えます。

3.図書館ユニオンにむけて
1)労働組合組織―企業別・地域ユニオン・個人加盟など
2)非正規労働運動の現状
3)労働者教育と労働組合・図問研
4)おわりに 何からはじめるか


連続講座「図書館で働くということ」を開催して
西宮市立鳴尾図書館 島崎晶子

1.はじめに
 図問研兵庫支部では、昨年9月から図問研大阪支部の協力を得て、連続講座「図書館で働くということ 図書館員の労働お役立ち講座」を開催してきました。2月23日の最終回も含め計5回にわたり、図書館員の労働条件について学び、働きやすい体制を探り、市民サービスの向上に生かすための学習会です。
自治体に雇用される正規職員、非常勤職員、臨時職員、指定管理者や委託の会社、団体のスタッフ、住民まで幅広い参加を募りましたが、実際の参加者は自治体の非正規職員と会社のスタッフが大半でした。以下は、この連続講座の内容報告とそこから見えてきた現在の図書館職員体制の問題点、その改善のためには何が必要かを考えたレポートです。
 まず最初に、なぜ兵庫支部でこのような取り組みを行なうかについて説明します。兵庫支部では毎月1回夜間の支部例会を開いていましたが、いつも一定のメンバーの参加しかありませんでした。この現状を変え、より多くの図書館員に役立つ活動をという趣旨で清水純子と阪本和子が中心になり、2006年度「児童サービス相談室」、2007年度「レファレンスいろはのい」という連続講座を開催しました。これらは支部例会と公開講座を兼ねるもので、比較的図書館の休館日が多い月曜日の午後に開き、会員、非会員を問わず毎回多くの参加がありました。私自身も夜間は家を空けられないため例会にはずっと不参加だったのですが、休みの昼間なら出られましたのでこの連続講座から図問研の活動に参加できるようになりました。
連続講座では、会員自身が講師になったり会員の人脈を通じてテーマに沿った講師を依頼して学び続けました。このような試みが可能であったのは、1983年から毎年1回支部のこども委員会が主宰し、大阪支部の協力のもとで「公共図書館の児童サービスを考える」という児童サービス中心の学習会を続けてきた蓄積があったからだと思います。(2009年には2月9日に『ここにこんな子がいます』というテーマで、ディスレクシア、少年院へのサービス、病院サービス等について学びました。)
 2年間、講座を続ける中で、そこに参加した人たちの多くが非正規(非常勤、臨時、会社スタッフ)という立場であることに気づきました。このことは正規職員の減少、高齢化と非正規職員の増加を意味し、また非正規職員の研修機会の少なさも感じさせました。さらに非正規職員の学びたい意欲、スキルを身につけて、よりよいサービスを提供していこうという意識も伝わってきました。また、2006年に加古川市立図書館の臨時職員雇い止め問題が起こり、さらに2007年夏には第55回図問研全国大会で職員問題の分科会を全国委員の阪本が担当し、関西で初の非正規職員どうしの話し合いの場が持たれました。そこで2007年11月には講座の終了後、会場を移して第1回の「わたしたちのつどい」を開き、非正規職員の交流の場を作りました。これらを受けて2008年度は労働条件に焦点をあてた連続講座を開催することになりました。

2.兵庫県内の図書館状況
(数値は清水純子、阪本和子作成 兵庫県図書館協会「公共図書館調査」、日本図書館協会「日本の図書館」ほか参照)
兵庫県の自治体数は41、図書館設置自治体は39です。それらの図書館運営体制はつぎのとおりです。
業務委託は2004年度は6自治体(尼崎市、伊丹市、猪名川町、篠山市、洲本市、姫路市)でしたが、2008年度には8自治体(相生市、芦屋市、尼崎市、猪名川町、篠山市、洲本市、西宮市、姫路市)に増えました。ただし、市内全館が委託になったわけでではなく地域館だけが委託になるなど導入方法は様々です。これは指定管理者の導入についても同様です。
指定管理者の導入は2005年の稲美町が最初で2006年以降は明石市、伊丹市、播磨町、加古川市が続きます。2008年には神戸市が3地域館を指定管理者に移行しました。
その他の自治体は直営だと思われますが、人口が集中し、図書館活動も比較的活発な県南部沿岸地帯(姫路~神戸~阪神間)で委託や指定管理者が導入されている特徴がみられます。
 そこに働く職員について見ていきます。
2008年度の総数は1053.7人、うち非常勤・臨時は358.8人(そのうち委託・派遣は153人)となり、総数に対する非常勤・臨時の比率は34.1%です。23年前1985年と比較すると
総数では2.9倍(1985年364人)、非常勤・臨時は8.8倍(1985年41人)に増加しています。非正規化が進んでいることがはっきりとわかります。また、非常勤・臨時の人数は短時間勤務の時間数計算が適応されているので、実際に図書館で働いている人数は500人以上になると推測されます。(『日本の図書館』に出す統計をまとめる時、各館の職員名簿も作成します。この名簿に氏名の出ない人を入れると500人以上と思われます。)自治労の2008年6月の調査では図書館に働く非正規・臨時職員の比率は61.6%になっていますが、兵庫県も実数ではこれに近いと思われます。
この非正規職員の多さをみると、私たちが連続講座で出会う職員の後ろに何十倍もの思いがあると実感します。そして、図書館の担い手が徐々に正規の司書から非正規の司書に替わりつつある現実に直面せざるをえません。今後の図書館サービスはこの現状抜きには考えられません。
非正規の雇用についてはおおむね次のような状況です。
非常勤嘱託の勤務時間は正規の3/4以下、給与は20万円前後で賞与あり、自治体によっては昇給がある場合もあります。1年更新で継続することが多いですが雇用期間が3~5年制限されているケースもあるようです。
臨時職員はフルタイムでも給与は12~13万円、賞与もないことが多いようです。雇用期間は様々ですが1年間が多いようです。
委託・指定管理者で働く人は多くは契約社員、パートやアルバイトもあるようです。給与は時給900円前後が中心ではないかと思われます。委託・指定管理の期間は雇用が継続されますが、それ以降の保証はありません。

3.連続講座の内容
 5回連続の講座で1回でも参加した人は計41人(4回終了現在)、各回20~25人の参加。内容は毎回メーンテーマのレクチャーがあり、その後「シリーズ・私の場合」として10分程度さまざまな立場で図書館に働く非正規の職員が自分の働き方を話します。そのあとで全体の討議の時間をつくりました。

 第1回 「知っていますか、あなた味方 労働条件を知る」2008年9月29日(月)
     講師 北村繁美(図問研大阪支部)
     「シリーズ・私の場合」 Aさん(臨時職員)
 図書館で働きたい一心で就職したときには、労働条件はそれほど気にならないかもしれません。でも働き続けるうちに大切な抑えるべきポイントだということが身にしみてきます。北村さんは複数自治体の図書館で働いてこられ、民間会社の勤務経験をお持ちでした。『「はけん・パート関西」ガイドブック』(アルバイト・派遣・パート関西労働組合)にそってご自身の体験をまじえて労働条件について話されました。
Aさんは、指定管理の図書館勤務をへて現在は直営館で臨時職員として働いてきた中で考えたことを話されました。

 第2回 「法律はあなたの味方 労働者の権利を知る」2008年10月27日(月)
     講師 今西清(兵庫県自治体問題研究所)
     「シリーズ・私の場合」 Bさん(嘱託職員)
 今西さんからは憲法に基づいた法律が私たちの生活と権利を守るためにあること、その中でも「労働基準法」「労働組合法」「地方公務員法」の具体的な中身を教えていただきました。なかでも労働組合で自分たちを守ることの大切さを強調しておられました。そのほかにも2008年の人事院勧告で「非常勤職員の給与ガイドライン」(給与表1級初号俸を基礎、通勤・期末手当支給)が示されたことや、中野区の非常勤保育士の雇い止めに対してこれを不当とした判決が出されたことなどは勇気づけられる内容でした。
Bさんは嘱託職員で仕事を任せられやり甲斐も感じている一方、収入を補うため他の仕事もしたいが、交代勤務のためままならないのが問題とのことでした。時間に余裕はあっても自活するならばダブルワークせざるをえない現実に考えさせられました。

 第3回 「知っていますか、あなたの仲間 雇用の実態を知る」2008年11月17日(月)
     講師 阪本和子(神戸市立中央図書館)
     清水純子(兵庫県立図書館)
     「シリーズ・私の場合」 Cさん(嘱託職員)
 まず阪本さんからは、架空のQ市の中に直営から指定管理までさまざまな運営形態の図書館が存在するとして、そこで働く人々の働きかたとその問題点をシュミレーションしてみるという話がありました。こんな複雑な運営がでも実際に各地で行われて、さまざまな問題が起こっています。お互いに相手の働き方が見えないから図書館システムがうまく機能せず、そのツケは利用する人に回って、使いにくい図書館が出来上がってしまう。
清水さんからは兵庫県内公共図書館の雇用状況をまとめた報告がありました。(2章参照)
Cさんは市立図書館で17年間、嘱託職員として働き続けておられます。正規の行政職、嘱託司書、カウンターは委託会社のスタッフという複雑な職場で、偽装請負なのではと問題になり日常会話もままならないとのこと。加えて長年勤めても賃金等はずっと変わらないという点に理不尽さを感じました。 

 第4回  「図書館で働くということ 市民サービスのために」 2009年1月26日(月)
     講師 楠本昌信(大東市立西部図書館)
     上口佐知子(豊中図書館の未来を考える会)
        清水純子(兵庫県立図書館)
 図問研兵庫支部長でもある楠本さんは、元明石市の正規職員。図書館が指定管理になってからは教育委員会事務局へ異動し指定管理者を指導監督し、その後退職されました。現在は大東市の指定管理の図書館で働いておられます。「指定管理者制度と労働環境」について話されましたが、この制度で最も問題だと思うのは1年更新の契約社員で給与改定がなく、働き続けられる保証がない。したがって長年の経験を蓄積して仕事に反映させられないところと言われました。図書館員にとって経験に学びそれを仕事に生かすことができないのは致命的であると思います。
上口さんは、長年にわたり市民として豊中市の図書館運営に大きく関わっておられる立場から発言していただきました。図書館には組織として、理念・目的を共有し、それに基づいたサービスを実施してほしいとのこと。また、職員は互いに高めあう体制であり、さらに図書館外部にサービスを発信し情報収集もおこたらないでと言われました。様々な運営形態や職員制度が混在すると、理念の共有がよりむずかしくなるように思います。また、豊中市では図書館協議会が「これからの豊中市立図書館の運営のあり方について」(2005年)の中で、図書館には指定管理者制度はなじまないとの提言を行っているとのことでした。このような使う側からの声は図書館にとって大きな支えになります。
清水さんからは「図書館の職員問題」と題した連続講座のまとめがありました。図書館政策はいうまでもなく国の政策に大きく影響されていること。そして国の政策には1995年経団連が発表した「これからの日本的経営」に代表される経済界の要請が反映されており、公務員の制度改革や現在問題になっている教育委員会の独立性も同じ流れの中にあるのではと報告されました。
そして特に図書館の労働問題は女性問題との言葉が印象的でした。たしかに自治労の調査でも図書館の臨時・非常勤職員は91.9%が女性です。振り返って20数年前の図書館を思い出すと、当時はまだ結婚退職する人が多く雇い止めを問題とは感じていませんでした。女性の働き方の変化が、図書館の職員制度の問題点を明らかにしてきたとも言えるでしょう。

 第5回 2009年2月23日(月)予定 「わたしたちのつどい 第2回」
     講師 東京から3人来神
        大阪府内の非常勤職員
        兵庫県内の非常勤職員
       それぞれ各地の取り組みを報告する予定

4.連続講座から見えてくること
 連続講座を通して参加された人あり、1回だけ参加して来られなくなった人ありさまざまです。来られなくなった人には、講座が実効性のないものと感じられたのかもしれません。意外だったのは県下で委託や指定管理を受けている大新東ヒューマンサービスの図書館担当者が続けて来られていたことです。さまざまな話を聞く中で、非正規職員の求める働き方もひとつではないと感じました。ただ、共通の願いもあると思います。まず、安心して働き続けられる継続性。賃金・待遇の改善。そして仕事のやりがい。最終回では各市の改善事例の報告から、他でも実効性のある方法がみつかればと願っています。
運営形態がひとつではないために図書館職員のつながりが切れてしまっているのは、私の働いている西宮市でも同様です。西宮市では2007年から分室を委託していますが、そこで働く職員が指定管理と誤解して職場のレポートを発表しました。普段からどこかで交流があれば、このような誤解は生まれなかったはずです。レポートには「非正規職員の労働条件を改善しなければ、長いスパンで図書館運営を見通す土壌をつくることは困難だろう。」と書かれてあり、この点は私も同感です。直営館と委託館に分かれて仕事を通した交流が無理であっても、この連続講座のような場でお互いの状況を理解しあえればと思います。兵庫支部では、来年度は職場での実務に役立つ講座を計画中です。この連続講座が図書館員の役に立ち、それが図書館サービスに反映されることが私たちの願いです。

参考資料など
「図書館で働くということ」ちらし
「公共図書館の児童サービスを考える 2009」ちらし
自治労 自治研作業委員会「臨時・非常勤等職員の実態調査」
http://www.jichiro.gr.jp/jichiken/sagyouiinnkai/32-rinsyoku.hijyokin/contents.htm
2009年1月31日確認)
阪本和子「連続講座レファレンスいろはのい開催」
   (『みんなの図書館』 2008年6月号』)
阪本和子「私たちのつどい」
   (『みんなの図書館』 2008年2月号』
清水純子「報告」 (『図問研ひょうご』no.384,385)
小田原典子「報告」 (『図問研兵庫』no.387)
中野登志美「指定管理者制度導入による図書館の現状と課題」 (『みんなの図書館』 2009年1月号)


図問研愛知支部『40年史』の編集活動について
山田 久(名古屋市鶴舞中央図書館)

0.はじめに
「みんなの図書館」2008.12月号は「図書館で働く後輩たちへ」との特集で、図問研の先輩のそれぞれのご発言があり、大変興味深く拝見した。私は特に酒川玲子氏の「図書館の歴史や関係する基本的資料を学習し、私たちの過去を理解する」(p29)という一節に共感した。我々の世代はすでに20年以上の経験がありながら、何も残してこられなかったのではないか、貸出し、返却に追いまくられ、コンピュータだインターネットだか振り回され、予約や物量、サービスの拡大にしたがい、ふりかえれば比較的好景気を背景に、右肩上がりの時代を過ごしてきた。そんな世代だが、それでも何かを語り継いでいかなくてはならない、という思いが常にあった。
今回の研究集会では、あまり芳しくない『支部40年史』の編集活動について報告したい。

1.愛知支部の結成と継承
今から5年ほど前、私は当時事務局長と全国委員を兼ねていたが、「もはや自分がやっているだけではなく、世代交替も考えないといけない」と何かの拍子に思った。愛知支部は昭和41(1966)年に発足しており、創設期の人々の相次ぐ退職、自由問題など経験の「風化」と思えることや、過去の「遺産」を受け継いでいないのではないか、そう思うことがあった。当時の支部報は月刊から隔月刊へとペースダウンしたものの、何とか継続しており、400号の到達が見えてきた。ちょうど2006年の結成40周年と同じ時期に到達することもわかってきた。そこで何か記念事業をしたいと考えたのが、A)『支部40年史』とB)『愛知の図書館2005』(白書)であった。

2.作業の計画
平成16(2004)年11月例会で検討の結果、『支部40年史』を編集、発行することになった。編集作業は2年間かけておこない、平成19(2007)年3月刊行という目標を立てた。私の勝手な構想では、①支部のOBや会員の寄稿、②40年の通史、③過去の支部報「図問研あいち」から時代を反映した記事の再録、④400号の総目次、執筆者索引、事項索引と⑤年表で構成するものであった。10年ほど前に、同じような内容で、ある団体の50年記念誌を作ったことがあったので、実は少々高をくくっていたのである。今思えば欲張りすぎたのである。
支部報「図問研あいち」392号(2005.1)で会員に寄稿協力のお願い、原稿募集を掲載した。一方、支部内に編集委員会を設け、(結果的に例会のメンバーとほぼ同じ)役割分担、作業分担を行った。幸い支部報のバックナンバー一揃いが鶴舞中央図書館研究室に保管されていたので、目次入力までは順調に進んだ。編集委員会の経過は下記の通りである。
第1回:平成16(2004)年12月22日 編集委員会立ち上げ、内容の検討
第2回:平成17(2005)年  2月 9日 作業分担、スケジュール提案
第3回:平成17(2005)年  5月19日 作業の進捗状況確認、目次の入力規則検討
第4回:平成17(2005)年  8月25日 内容の見直し(縮小)通史部分の圧縮
第5回:平成18 (2006) 年  5月30日 内容の見直し(縮小)文献と年表の割愛

3.困難さを思い知る
 ①の部分で別途OBを含む9名の方に原稿を依頼したが、思うように集まらなかった。斉藤亮氏からはお手紙をいただき貴重な当時の証言をいただくことができた。佐橋兼夫にはお電話でお話をうかがった。小木曽眞氏と髙木奈保子氏は現役なのでこころよく(無理に?)書いていただいた。他のOBの皆さんの心境はお察しするほかなく、原稿の催促はしなかった。過去の記事採録もなかなか難しく、全体がどれほどの量になるか見えないまま計画は縮小せざるを得なかった。
そうこうしているうちに、毎年のような私の異動や仕事上の諸問題に精力がそがれて、作業の余力、気力がなくなってしまった。さらに私は「通史」部分を書いていたが、「現在」を記すことの困難さ、何事もそう簡単に書くことはできないのではないか、不遜なことではないか、そう思うと「断」と「念」の二文字が誘惑してくるのであった。当初の発行目標はむなしく過ぎた。
 それでも幸いだったのは、支部報100号(1978.4)、200号(1986.7)で記念の特集が組まれていることや、小木曽眞氏が「支部略史」(2000.12)を書き残していただいていたことである。唯一これまで未着手であった「目次総覧」も、塩沢宏之氏の尽力で全体がまとまった。
現在はこの報告も一つの機会となり、編集作業を再開している。当初の計画よりも簡潔なものになってしまいそうだが、何とか「束見本」ができたので、来る福岡の全国大会までには発行したいと最終の校正段階に入っている。(別途その一部分を配布)たとえ不完全でも作成したところまで発表することが、ご協力をいただいた人びとへの礼儀であり、多少の参考資料にはなるだろうと考えている。

4.支部結成40周年を過ぎて
 もう一つの記念事業である集会を2006年11月27日に開催した。(当初は『支部40年史』発行を記念したにぎにぎしい懇親会のはずであったが)その前年に「第1回ミニ研究集会」(2005.11.28)を初めて行ったが、その第2回(2006)を支部結成40周年記念として、名古屋市ご出身の西村彩枝子氏をお招きして開催した。そもそも支部で研究集会なんて?と思われるかもしれないが、本家の研究集会の予選、地方大会でもいいので、自分たちの実践を発表し合える機会をもっと設けたいと企画したものである。図書館があるかぎりこうした活動はなくしてはならないと思う。
 さて、2009年に入り、いよいよ厳しい時代を迎えている。この名古屋・東海地方も例外なく、また「トヨタショック」といった破格のものがやってきた。支部はどのような50年を迎えるのか、これから図書館はどうなっているのか、なかなか予測がつかない。迷い、悩む後輩にどのようなことを伝えられるのか。そんなときに『支部40年史』を開けば、先輩たちはこのような足跡を残したこと、その成果として善くも悪くも現在があるということ、それを学んでもらえるのではないかと思う。 
 
<配布資料>2枚
 ・『愛知支部40年史』表紙と4p
 ・総目次の一部分