熱き温泉で、図書館の明日を熱く語れ!
図書館問題研究会
第34回研究集会発表要綱
2008
会場:草津町役場・ホテル一井
2008年2月24日(日)〜25日(月)
図書館問題研究会


PROGRAM 日程

第1日 2月24日(日)
会場:草津町役場4階大会議室
12:30―13:30 受付
13:30―13:40 開会式

13:40―15:30  講演 塩見昇(日本図書館協会理事長)
「教基法・図書館法改正とこれからの図書館」

15:40−17:50 研究発表・討論(1発表=討議含め30分)
嶋田学(東近江市立八日市図書館)「市民自治やコミュニティ再生に寄与する公共図書館モデルの研究」
井東順一(墨田区立あずま図書館)「墨田区立図書館の業務委託」
楠本昌信(元明石市立図書館)「明石市立図書館の指定管理者制度導入」
鈴木裕子「一関市立川崎図書館の成功の秘訣を探る」

18:00 送迎バスにてホテル一井に移動
19:00―21:00 懇親会
21:00― 研究集会個別集会(語りの部屋、酒飲みの部屋など)

第2日 2月25日(月)
会場:ホテル一井
7:30 朝食

9:00―11:50 研究発表・討論(1発表=討議含め30分)
竹内ひとみ(国立国会図書館)「議会・法律情報へのアクセス」
高橋敏一(大阪市立図書)「図書館学の対象と方法−1978年の仮説について」
星野盾(沼田市立図書館)「ワンストップサービス検索エンジンとしての司書技能と物流について」
西河内靖泰(荒川区)「図書館の非常勤職員、その現状と課題-荒川区の非常勤職員制度改革の取り組みから」
山家篤夫(東京都立中央図書館)「「図書館の自由」を構成するもの」

11:50―12:00 閉会式


第1日 13:40―15:30
草津町役場4階大会議室
講演
「教基法・図書館法改正とこれからの図書館」
塩見昇(日本図書館協会理事長)


2008.2.24
教基法・図書館法改正とこれからの図書館
塩見昇(日本図書館協会理事長)

はじめに

教育制度改革の進行
「戦後レジームからの転換」といううたい文句
国を愛する心、憲法第9条
新自由主義、競争・市場原理に則った教育改革

教育基本法改正への胎動

憲法「改正」と表裏一体の動き

教育基本法の強行「改正」(2006.12.15)
変える必要があったのか

何がどう変わったのか(後述)

基本法改正後の動き
教育三法の強行採決(6.20)
教育再生会議 第1〜3次報告
中教審生涯学習分科会 制度問題小委員会を設置(6.18)
社会教育関連法制の見直しについて検討 ⇒ (後述)

文部科学省 これからの図書館の在り方検討協力者会議(2006年9月〜)
⇒科目検討WG(2007年5月〜)

教育基本法「改正」が投じたもの
教育目標の法定、国定規範教育への強化

生涯学習の位置づけ

教育行政と「不当な支配」の変質
教育振興基本計画の策定

教育振興基本計画策定と図書館
計画策定の手法と国の主導性

基本計画における図書館の位置づけ

自治体レベルの基本計画づくりとその内容

図書館法改正
(図書館)法改正のパターン
a 理念の強調など法の精神を活かす積極改正
b 規制の強化 
c 他の法規の改変に連動した改正
これまでの改定はc がほとんどで、積極的なa パターンは皆無。国の審議会レベルで図書館法の改正が検討、論議されるのは初めてのことで、その意味では重要な機会。
   
文科省の改定論点まとめ
【資料】生涯学習・社会教育関係制度の検討の方向性について(11.30)
2 図書館法関係 <別紙@参照>

日図協としての考え方
日図協の図書館法へのこれまでの基本スタンス <別紙A参照>

今回の「改正」に向けて <別紙B参照>

改正案づくりのいま 08.1.23 答申素案で骨格まとまる?
社教法の改定を合わせてみておく必要 

図書館のこれから
新自由主義的施策・手法の強まりとそれへの対置

管理運営問題、職員問題、図書館サービスの充実と普及、格差是正

【参考】 Shiomi
年表・教育制度改革と図書館法をめぐる近年/最近の動向

1987.08 臨時教育審議会最終答申
1999.08 国旗・国歌法制定 *ナショナルシンボルに法的根拠づけ
2000.12.22 教育改革国民会議報告 教育を変える17の提案
*「新しい時代にふさわしい教育基本法を」を提言
2003.03.20 中教審答申「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」
*中教審が基本法改正の必要、振興基本計画の構想を具体的に提起
2004.01.21 政府与党の検討会、教育基本法改正、基本理念全面見直しで合意
06.16 与党教育基本法改正に関する協議会「中間報告」
2005.03.02 与党教育基本法改正検討会、文科省に「教育基本法改正案」作成作業を指示
2005後半 *郵政民営化問題の混迷で与党の法案作成作業が一時ストップ
2006.01 与党協議会半年振りで再開
*このあたりの改正案づくりは与党のまったく密室の作業
04.13 与党協議会「最終報告」
04.28 政府、「教育基本法改正案」を閣議決定、国会へ提出
05.16 政府、衆議院本会議で改正案の趣旨説明
08.27 日本教育学会歴代会長・事務局長有志、継続審議に向けての見解発表
09     安倍内閣発足、基本法改正に意欲を強調
09.09 基本法改正案に対する日本社会教育学会長の意見表明
11.11 日図研・図書館学セミナー「教育基本法と図書館」⇒『図書館界』58巻6号
12.15 教育基本法強行採決、基本法制定後最初の「改正」
12.22 新教育基本法公布・施行
文部科学事務次官「教育基本法の施行について」(通知)
2007.01.24  教育再生会議第1次報告 七つの提言、四つの緊急提言
01.30 中教審「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について」(中間報告)
03.10 中教審「教育基本法の改正を受けて緊急に必要とされる教育制度の改正について」(答申) *教育三法の改正すべき点を提起
05.18 日本国憲法の改正手続きに関する法律公布(3年後に施行)
06.01 教育再生会議第2次報告
06.18 中教審生涯学習分科会に「制度問題小委員会」設置を決める
06.20 教育三法改正案強行採決、可決
07.23 図問研、制度問題小委員長宛文書で、公立図書館の無料制維持を要望
07.27 制度問題小委員会、図書館法について審議(第5回)
09.05 常務理事会に糸賀委員出席、状況の説明を聞き協議
10.02 日図協、図書館法見直しにあたっての意見をまとめ、文科省に提出
⇒全国図書館大会参加者に資料として配布
11.14 文科省、協会に来訪し、法改正の作業状況等を説明、協議
11.16 中教審教育振興基本計画特別部会
「検討に当たっての基本的な考え方について」(案)を公開し、意見を募る
⇒日図協にも部会長から意見陳述の依頼状届く 
11.19 特別部会公聴会(千葉) 山本宏義さん陳述
11.30 文科省、制度問題小委員会での検討のまとめを作成(委員会に提出)
「生涯学習・社会教育関係制度の検討の方向性について」
*図書館法関係を含む 【別紙資料】
12.05 特別部会(第10回)ヒヤリング 日図協も求めに応じて意見具申
34団体中12団体から図書館、学校図書館についての言及あり
*年度内に答申案をまとめる予定(部会長依頼文書にあり)
12.06 常務理事会に文科省出席し、法改正につき状況説明と協議
12.25 教育再生会議第3次報告
12.26 生涯学習分科会に「答申に盛り込むべき事項案」が出される
2008.01.10 日図協「図書館法の見直しについての意見」を文科省に伝える
(10月2日提出分の追加修正版)
01.23 中教審答申素案公表、素案についての意見募集(意見締切り2月3日)
*このなかに社会教育三法の改正要点ももりこまれている
社教法等三法の改正案の骨格が明らかになる
01.24 日図協、法改正について公表素案等を基に文科省と協議
―社全協常任委員会 社教法改正に対する意見と要望(たたき台)作成
02.10 社全協・図問研主催シンポジウム「これからの社会教育はどう変わるか!

 <別紙@>
平成19年11月30日
生涯学習分科会
生涯学習・社会教育関係制度の今後の検討の方向性について

○ 中央教育審議会・生涯学習分科会(以下「分科会」)の下に設置された制度問題小委員会(以下「小委員会」)では、平成19年6月より、今後の生涯学 習・社会教育関係制度の在り方の検討を行い、9月12日に開催された第44回分科会において、それまでの小委員会における審議の内容を整理した「制度問題 小委員会における検討状況について」について報告を行った。
○ 本資料は、これまで小委員会で課題として挙げられた事項について、小委員会で出された意見やその後の事務局における技術的な検討等を踏まえ、それぞれ どのような対応が考えられるか、その見直しの方向性について、より具体的に整理することを目的とするものである。各事項についてそれぞれ、例えば、法令等 の制度の改正を視野に入れて今後見直しを行うことが考えられるもの、具体的な事業等に取り組むことによって仕組みを構築していくことが考えられるもの、あ るいは、制度の在り方の問題としてではなく、制度が十分に機能していないことが問題であるため、そのための考え方の整理や、制度の趣旨を今一度明確にする こと等を通じて改善を図るべきもの等、様々な対応の在り方を念頭に置き、検討を行った。
○ もとより、これらの実現については、今後の分科会等における審議、関係者の意見、法制上の技術的な検討、他省庁との関係等の諸要素により、更に検討を 重ねた上で決定されるものである。実現の時期についても各事項の対応のあり方により異なるものである。しかしながら、本報告は、小委員会として、これまで の検討状況を踏まえ、今後の分科会等において行われる審議・検討に資するよう、できる限り今後の検討の方向性を示し、報告するものである。
○ また、これらの事項は特に制度の観点から検討を行ったものであるため、これまで生涯学習分科会の中間報告等で提言された生涯学習・社会教育行政の全て の課題等について検討を行ったものではない。生涯学習の振興方策全般については、今後の分科会の議論に委ねることとする。
[略]

2. 図書館法関係
○ 図書館法は、昭和25年の制定以来大きな改正を行っておらず、時代の変化や図書館活動の実態等に応じて、図書館法の目的や図書館奉仕等について見直す ことが関係者の間で長年の課題となっている。このような中、平成16年9月に文部科学省に設けられた「これからの図書館の在り方検討協力者会議」において は、新たな課題等に対応したこれからの図書館運営に必要な新たな視点や方策等について検討を行い、平成18年3月に「これからの図書館像」と題する報告書 を取りまとめた。本委員会においては、同報告書における提言も踏まえつつ、社会教育施設全般についてその法制度の在り方等を含め多角的な検討を行った。
(1)図書館法の目的及び図書館奉仕
○ 基本法や、文字・活字文化振興法、子どもの読書活動の推進に関する法律の制定等を受け、図書館法の目的等について審議がなされた。
○ 近年の家庭の教育力の低下に関する指摘等を踏まえ、図書館を地域課題の解決や家庭教育を支援する場として位置付ける文言を追加してはどうかとの指摘が なされた。また、図書館奉仕に関して、例えば、資料のデジタル化等情報通信技術の発展等に対応した見直しが必要ではないかとの指摘がなされた。これらの指 摘については、生涯学習社会の実現に向けて重要なことであることを踏まえつつ引き続き検討する必要がある。
(2)大学における司書の養成に関する科目
○ 小委員会では、司書となる資格に関し、大学における「図書館に関する科目」について省令で定めることについて審議がなされた。従来、大学における司書 の養成に関する科目については、大学が文部科学大臣の委嘱を受けて行う講習に関する規定(図書館法第6条第2項)を基に運用してきたが、司書の有資格者の 約7割が大学で単位を取得しており、司書講習の受講者は3割に満たないという現状(平成18年度調査)にある。
○ 小委員会では、大学における司書養成の在り方について検討が必要であるとの指摘もあり、司書等の多くが大学で資格を取得していることに鑑みれば、むし ろ法令上明記することを否定する理由はないものと考える。したがって、司書及び司書補(以下「司書等」)の資格に関する規定(図書館法第5条第1項第2 号)を改正することについて引き続き検討する必要がある。
○ また、司書等が現代的課題に対応し、より実践力を備えた質の高い人材として育成されるよう、司書講習及び大学における司書養成課程等において履修すべ き科目、単位について見直しが必要であり、引き続き検討する必要がある。
(3)司書補の学歴要件
○ 司書補となる資格の学齢要件について整理することについて審議がなされた。従来、司書補の学歴要件については、「高等学校若しくは中等教育学校を卒業 した者又は高等専門学校第三学年を修了した者」(図書館法第5条第2項第2号)としているが、同等程度とされている高等学校卒業程度認定試験の合格者等に ついては含まれていない。
○ 幅広く多様な人材を育成する観点からは、資格要件を緩和することが適当である。同様の資格試験において受験資格として高等学校卒業程度認定試験の合格 者を対象としていない例は存在しないことからも、博物館法の学芸員補の資格要件と同様、司書補についても高等学校卒業程度認定試験の合格者も学歴要件を満 たせるよう制度改正を行うことについて引き続き検討する必要がある。
(4)司書研修
○ 司書等の研修については、その充実方策等について審議がなされた。研修に関しては、社会教育主事については社会教育法第9条の6、公民館の職員につい ては同条を準用する第28条の2で規定されているが、図書館に関しては「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(平成13年7月18日文部科学省告 示第132号)に「職員の資質・能力の向上等」として研修の機会の拡充等に関する努力義務が規定されているのみである。
○ 小委員会では、職員の意識改革や司書等の資格取得後のキャリアパス形成のため司書等の研修の充実が必要であり、研修を法律に規定することを検討すべき との指摘がなされた。この指摘については、多様化、高度化する人々の学習ニーズや現代的課題に対応し、専門的な知識・技術等の一層の高度化と資質の向上を 図ることが必要であることを踏まえつつ、図書館法に新たに司書及び司書補の研修に関する規定を新設することについて引き続き検討する必要がある。
○ また、司書等の研修や再教育の実効性を高め、現代的課題に対応し、より実践力を備えた質の高い人材の育成に向けた方策が必要であり、引き続き検討する 必要がある。
(5)図書館の自己点検・評価
○ 図書館の自己点検・評価に関しては、既に「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」に、「図書館サービスの計画的実施及び自己評価等」の規定が設 けられているが、実態としては、自己点検・評価を行っている都道府県立図書館は26.1%、市町村立図書館は28.6%に止まっており、図書館法に規定す ること及びその実効性を担保する方策を検討することが必要である。また、少数とはいえ私立図書館もその対象とするかどうかについて引き続き検討する必要が ある。
(6)その他
○ 小委員会においては、公立図書館をどのように維持・向上するかということに現場の実務者が苦慮しているとの指摘がなされた。この指摘については、「公 立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」の規定や「これからの図書館像」における指摘等の趣旨を生かしていくとともに、国は具体的な事例に関する情報の 提供等を推進することに引き続き努めることが適当である。
[略]

<別紙A>
図書館法についての日図協の基本スタンス

1 これまでの経緯
1945〜50年(法制定まで)
法の強い規制力で図書館の整備・振興を求める運動に傾注  法制定運動を展開
期待を達成できなかったことへの失望は大きかった
「消え去った虹」(志智嘉九郎)
1950〜59年
法成立に際し、中井正一理事長 われらの理想の橋頭堡として生かそう、と主張
大勢は、規制力の乏しい図書館法の「改正」を求めてその検討を進めた
⇒1957年12月 図書館法改正委員会による改正草案
それに反対する若手会員の声も高まり、法改正論争展開 図書館界の世代交代へ
⇒法改正委員会の終結を決定
有山ッ「何からはじめるべきか―遵法の提唱」(1961.6)
改正の主張は60年を迎える頃にはほぼ収束
昭和36年度全国図書館大会で法改正問題の打ち切りを決定(1961.11)
1961〜70年 図書館サービスの追求を通して法の精神を具現化する、という方向
(実態として、図書館法そのものを意識することは比較的希薄?)
1970〜2年
「社会教育法改正にあたって検討すべき問題点」問題の顕在化
社会教育法の改正で図書館法を巻き込もうという文部省若手官僚の検討の動きを受けて、図書館法を守ろう、という考え方が支持を集め、図書館記念日の決定に 帰着
「守るに値する図書館法」⇒法の精神の具現化をめざす
図書館雑誌・座談会「守りぬくに値するもの、図書館法」1971.8
1980年代〜
1978年 図書議員連盟発足 
80年代初期に、図書館事業基本法策定の動きに協会も参加(事務局役)
⇒合意得られず、拡散⇒協会としての政策づくりを
図書館政策特別委員会の再編(1983年)
「公立図書館の任務と目標」策定(1987年、解説冊子1989年)
1990年代
規制緩和の政策動向に抗して、館長資格などを主に法の精神を遵守する主張
さらに、委託問題、国・自治体の公的責任の根拠として図書館法の精神を教育法体
系全体を通して捉える考え方を重視
1998年〜99年
生涯学習審議会答申(9月)、同図書館専門委員会の報告(10月)の17条見直しの提起、解釈改正の見解をめぐって図書館大会等で論議高まる
「図書館資料」の選別、基本サービスと拡張サービスの区分、などが有料を許容する考え方として登場、論議を呼ぶ
1999.7 地方分権推進一括法による図書館法改正
⇒一括法による図書館法改正についての見解を公表(1999.10)

2 現時点の図書館法に対する基本姿勢とその関係資料
 第3条の西崎解説をベースに、規制力の乏しい図書館法を、限りないサービス拡大への根拠として法の精神をトータルに把握し、活かそうという考え方を基調 に、「社会教育法の精神」、第17条の遵守を重視。
 図書館法を日常の図書館活動に活かし、その理念を実現する、というスタンス
 規制緩和・分権推進一括法による最低基準の削除にみられる国の図書館振興への責任放棄を批判し、公的責任の履行を求める立場を主張
 司書の必置、専門的の「的」削除、司書養成が講習主体になっている制度の是正、大学における科目の省令化、にはおおむね合意があると理解

【根拠資料】
塩見昇・山口源治郎編著『図書館法と現代の図書館』2001年
日図協 公立図書館の無料原則についての見解『図書館雑誌』 1998年9月
『公立図書館の任務と目標 解説』改訂版 2004年
【参考】
第5回国際図書館学セミナー(上海)における塩見発表
図書館整備の法的根拠:その意義と現況、課題
『図書館立法と制度建設:図書館法を考える』上海図書館学会 2007.10

3 改定へのスタンスと意見
<別紙B資料 日図協意見書>参照
*図書館の理念、役割を補強する
「社会教育法の精神に基づき」は遵守する
情報アクセス、知る自由の保障、情報格差を生まない手立てなど、補強
第17条は変えない
*専門職員について改正、補強
・13条1項 公立図書館に館長並びに司書の配置を明確に
・5条−2 司書養成科目 「省令で定める」の挿入
・研修について規定(以下略)

 <別紙B>
2008年1月10日
図書館法の見直しについての意見
社団法人日本図書館協会

 日本図書館協会は、先に図書館法の見直しについての意見を出しましたが、その後の中教審生涯学習分科会等の検討状況、および文部科学省の説明等を踏ま え、再度意見を提出します。
 図書館法はこれまで、他の法律が制定、改正されることにより、幾度も余儀なく変えられてきました。今回はそれとは異なり、政府の審議機関の場で図書館法 を採り上げ、様々な角度から検討されており、その意義は大きいものがあります。法公布後60年近く経ていますが、図書館法は豊かな図書館サービス創造の根 拠となる優れた内容をもっていることを再確認するとともに、法改正が社会や時代の変化に応じて、図書館をさらに発展させるよりどころとなるよう改めて求め るものです。
 また生涯学習分科会では、法令等の制度改正のほか、事業等を取組むことによってより良い仕組みを構築していくこと、制度の趣旨を明確にして制度を十分に 機能させることなども視野に入れて検討が行われていると聞いております。これは法令改正だけでなく、図書館法の理念実現のための具体的な施策が検討されて いることであり、法の理念とは相容れない図書館の管理運営の問題など、現場で苦慮している状況がある現在、大いに期待するものです。

1 図書館の基本的原理を明確に示す内容を加える。
 図書館は、人々が多様な資料、情報にアクセスすること、知る自由を保障する役割をもつ。このことを法に明示することは図書館サービスの意義を深めること につながり、その遂行を励ますことになる。さらに情報格差を生じない施策、バリアフリーの考えを推し進めることにもなる。
 例えば、次のような趣旨の条文を加える。
 第1条 この法律は、社会教育法の精神に基づき、人々の知る自由、多様な情報への自由なアクセスを保障する図書館の設置及び運営に関して必要な事項を定 め、…
または
 第3条 図書館は、人々の知る自由、多様な情報への自由なアクセスを保障する図書館奉仕のため、土地の事情及び一般公衆の希望にそい、…

2 図書館は生涯学習を進める上の中核的施設であることに留意する。
 条文に生涯学習の理念を加えるにあたっては、単なる字句の挿入にとどめることなく、「図書館は生涯学習を進める上で最も基本的、かつ重要な中核的施設で あること」を留意事項として喚起する内容とする。
 「すべての国民があらゆる機会、あらゆる場所を利用して、自ら実際生活に即する文化的教養を高め得るような環境を醸成する」という社会教育法の精神を踏 まえ、さらに現に人々の生涯にわたる学習を支援している図書館の重要な役割を捉えた表現を求める。

3 司書を置くことを明確にする。
 司書は図書館運営の主要な担い手であり、法は図書館に司書を置くことを当然の前提として構成されているが、現状はそれとは異なる状況がみられる。現行法 第13条第1項の内容を、専門的職員を置くことの必要性自体を教育委員会が判断するという解釈がなされることも現にある。そうした誤った読み取りがなされ ないよう、例えば次のように表現を改め、司書の必置をより明確にすることがとりわけ現在必要である。
 第13条第1項 公立図書館に館長並びに専門的職員、及び当該図書館を設置する地方公共団体の教育委員会が必要と認める事務職員及び技術職員を置く。

4 館長は司書資格を有することを明確にする。
 館長は図書館の管理運営に必要な知識・経験を有し、専門職員である司書を監督する必置の職である。かつて司書有資格の館長を国庫補助の要件とすることに より、国としての姿勢を示していた。これが削除されたことにより、そのよりどころを欠く事態となっている。
 「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」に「館長となる者は司書となる資格を有する者が望ましい」との記述はあるが、法の上でそのことを明確にす べきである。

5 大学における司書の養成に関する科目を省令で定める。
 大学における司書の養成に関する科目を省令で定めることは、社会教育主事、学芸員の場合との整合性を図ることであり、大学で履修してきた司書が現場で多 数になっている現状、およびその科目、単位の拡充を図る上で意義がある。
 講習を履修方式の上位におくのは、法の制定当時、まずは現職者が資格を取得する場合を主要に考えたことに対応しており、現在では第5条第1号と第2号を 入れ替えて、大学での履修を上位に位置づけることが実態にもかなうし、適切である。

6 司書等に対する研修の実施を義務付ける。
 社会の変化に応じた図書館サービスを実施するために、司書および司書補の資質向上を図ることは重要であり、そのために研修の実施を国、任命権者等に課す ことは必要である。さらに法に明示するだけでなく、かつて措置をしていた研修事業補助の実施のほか、図書館関係団体の研修事業への支援など、それを実体化 するための方策も併せて提起すべきである。

7 司書、司書補を専門職員とする。
 法第4条、第13条には司書等を「専門的職員」と表現しているが、他の例からみてもあえて「的」とする必要はない。「専門職員」と明記する。

8 図書館の自己点検、評価に関する努力義務規定を設けることについて
 図書館サービスの拡充を図り、その社会的使命を達成するためにサービス計画を立案し、そのサービス状況について自己点検、評価し、改善につなげていくこ とは重要なことである。現場の関心は高く、貴重な取組みもなされ、また研修の重要なテーマのひとつとなっている。
 その実効性を保障するためには、法に規定するだけでなく、図書館関係団体などの行っている活動、例えばその手法の追究、指標や数値目標の標準化を図る調 査研究などに対する支援をすることなども併せて提起される必要がある。
 私立図書館に、この努力義務を課すことは、より自主性と自由が尊重されるべき視点から好ましくない。

9 第3条図書館奉仕について
(1) 第3条冒頭の「土地の事情及び一般公衆の希望にそい」との文言は、地域性や多様な要求に応えてサービスを展開する積極的な内容をもっており、これを減じる ような表現に変えるべきではない。
(2) 電子資料の収集、情報通信技術の発展に対応したサービスを加える。
(3) 法には歴史性や制定当時の事情、趣意もあり、「時代にそぐわなくなった用語」との理由のみで削除、もしくは言い換えることについては慎重であるべきであ る。

10 図書館協議会の委員に「家庭教育関係者」を加えることについて
 図書館協議会の委員に学校教育、社会教育の関係者に加えて、「家庭教育の関係者」を規定することは、その定義が明確ではなく好ましくない。また第15条 が大綱化弾力化して改正された経緯に照らして逆行すると考える。

11 資格取得の学歴要件の緩和について
 司書補の資格要件として、高等学校卒業程度認定試験合格者を対象とするのは妥当であるが、それに加えて、大学を卒業せずに大学院に進みその課程を修了し た者の司書資格取得も可能とするよう、資格取得要件の緩和を求める。


第1日 15:40―17:50
草津町役場4階大会議室

研究発表

「市民自治やコミュニティ再生に寄与する公共図書館モデルの研究」
嶋田学(東近江市立八日市図書館)

「墨田区立図書館の業務委託」
井東順一(墨田区立あずま図書館)

「明石市立図書館の指定管理者制度導入」
楠本昌信(元明石市立図書館)

「一関市立川崎図書館の成功の秘訣を探る」
鈴木裕子


「市民自治やコミュニティ再生に寄与する公共図書館モデルの研究」
〜ソーシャル・キャピタル形成における図書館の可能性〜
嶋田学(滋賀県東近江市立八日市図書館)

 1.本研究の問題意識と目的(注1 本研究は、筆者の同志社大学大学院総合政策科学研究科における修士論文「市民自治を支える公共政策として の図書館−ソーシャル・キャピタルを形成するネットワーク・ハブ機能の研究−」もとに、ソーシャル・キャピタル形成に寄与する図書館モデルとその理論的前 提部分を中心に抽出したものである。)
 分権時代における地方自治を実質あるものにするためには、自立した住民による自主的主体的な自治、つまり「市民自治」が必要であり、そのためには、これ までの近代化の過程で軽視され、失われてきた、人間的な結びつきを基盤とした地域社会における信頼関係や規範意識、つまりソーシャル・キャピタル(社会関 係資本)の形成が求められるのではないかというのが本研究における問題意識である。そして、ソーシャル・キャピタルを形成するには、地域の多様なアクター が相互に交流を深め、信頼関係を結ぶことによって一種の社会ネットワークを構築する必要があり、そうしたネットワークの形成に、図書館の機能が効果的であ ることを実証することが本研究の目的である。

2.市民自治とソーシャル・キャピタル
 戦後、経済発展を優先した中央政府は、自治体の主体的な発展を促す政策を十分に展開出来なかった。それぞれの地域が、その地域の特性に応じた発展をもた らすには、他ならぬ地域の住民による主体的な自治が展開されなければならない。しかし、現代のコミュニティは経済発展による生活様式や価値観の多様化によ り、住民相互の結束力や協力関係が希薄化し、様々な社会問題を生じさせている。
 そこで近年注目されている概念にソーシャル・キャピタルがある。ソーシャル・キャピタルとは、「人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を 高めることのできる、『信頼』『互酬性の規範』『ネットワーク』といった社会組織の特徴」(パットナム)、あるいは、「人々の協力関係を促進し、社会を円 滑・効率的に機能させる信頼、規範、ネットワークといった諸要素の集合体」(山内直人)などのように定義付けられている。それでは、ソーシャル・キャピタ ルは具体的にどのような社会的な効果を生み出すのだろうか。内閣府国民生活局の調査によると、ソーシャル・キャピタル指数が高いところほど、失業率が低い という傾向が明らかになっている。(注2 内閣府国民生活局『ソーシャル・キャピタル〜豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて』2003年、33- 39ページ。当該資料によると、郵送とWebによるアンケート調査によって、ソーシャル・キャピタルの定量分析を試みている。ソーシャル・キャピタルの構 成要素として、パットナムによって示された「ネットワーク」「信頼」「規範」の3つの切り口を踏まえ、「ネットワーク」に対応するものとして近隣での付き 合いや社会的な交流を捉えた「つきあい・交流」の要素、他人に対する一般的な信頼と特定の人を対象とした相互信頼・相互扶助を捉えた「信頼」の要素、「規 範」のうち、互酬性の規範のあらわれとして社会的活動への参加を捉えた「社会参加」の3つの要素を設定している。そして、ソーシャル・キャピタルの構成要 素と、実際に個人によって行われる市民活動がどのような関係にあるかを分析するというアプローチをとっている。例えば、地域でボランティア活動を行ってい ると回答する人が、近隣との付き合いをどのように考えているかという、実際の個人の活動とソーシャル・キャピタル構成要素との相関性からソーシャル・キャ ピタル指標を導き出している。)
 また、同じくソーシャル・キャピタル指数が高いところほど犯罪発生率が低くなっていることや、住民の健康増進や出生率向上にも効果があることが指摘され ている。(注3 山内直人「ソーシャル・キャピタルとNPO・市民活動」、『NIRA政策研究』Vol.18 No.5、2005年5月、16ページ)

図表1-1 ソーシャル・キャピタル指数と完全失業率の関係
出典『NIRA政策研究』Vol.18 No.5(2005)

図表1-2 ソーシャル・キャピタル指数と犯罪発生率の関係
出典『NIRA政策研究』Vol.18 No.5(2005)

 以上のようなソーシャル・キャピタル形成には、近年広がりを見せているNPO、ボランティアといった市民活動が大きな関係性を持っていることが内閣府の アンケート調査によって明らかになっている(注4 内閣府国民生活局、前掲書、33-72ページ)。市民活動参加者に、活動を通して得たものを聞いたとこ ろ、「地域のさまざまな人とのつながりができた」という回答が最も多かった。さらに、内閣府調査では、現在市民活動に参加していない人に、今後の参加意向 を尋ねている。これによると、他人を信頼している人ほど、隣人・友人・知人との付き合いの範囲が広く、交流頻度の高い人ほど、今後市民活動に参加したいと いう意向を持っていることが分かっている。
 以上のように、ソーシャル・キャピタルと市民活動の間には、正の相関関係があるものと考えられる。NPO活動が住民の間の互酬的な規範を強め、相互信頼 を高め、ネットワークを強化することを通じて、ソーシャル・キャピタルが促進されると考えられている。
 こうした機能をコミュニティ再生のための政策として展開することは国や自治体の重要な責務である(注5 山内、前掲書、20ページ)。ソーシャル・キャ ピタルと市民活動が相互に補強しあう関係性をもっているならば、NPO活動やボランティア活動を促進させるような政策によって、ソーシャル・キャピタルの 形成に役立つことが予想できる。例えば、NPOに自治体から補助金を出すとか事業委託を行なうなどが考えられるが、地域住民とNPOなどの結びつきを支援 するネットワーク化に対する施策も必要であろう。

3.英米公共図書館論にみるコミュニティーへのアプローチ
 1920年代からの公共図書館論について、網羅的な研究を発表している吉田右子によると、当時の米国は、マス・メディアを通じて文学、音楽、芸術を受容 する新しい生活スタイルが徐々に広がりつつある状況であった(注6 吉田右子、筑波大学大学院図書館情報メディア研究科助教授、博士(教育学)主著は『メ ディアとしての図書館−アメリカ公共図書館論の展開−』、日本図書館協会、2004年)。これまで、職業教育に止まっていた成人教育に、歴史、文学、科 学、芸術などの分野が登場し、図書館が成人教育に果たす役割への期待が高まっていた。カーネギー教育振興財団の研究員を務めていたW.ラーネッド (William S.Learned)は、1924年『アメリカ公共図書館と知識の普及』を発表し、コミュニティ志向型サービスをはじめて理論的に示した。ラーネッドは、 図書館サービスの対象である、コミュニティを分析し、個人や集団の知的興味を掘り起こしながら、コミュニティの教育問題にかかわっていくような能動的な図 書館の姿を描き出した。またラーネッドは、「情報サービスのスタッフは、コミュニティの社会的、知的、経済的生活にかかわる水先案内人であって、たんに特 定領域の専門家であるだけでなく、情報を求めている人間を深く理解できる存在であらねばならない」と述べ、図書館員にコミュニティの情報を総括的に選択、 調整する「知識カウンセラー」としての役割を期待した。(注7 吉田右子『メディアとしての図書館−アメリカ公共図書館論の展開−』、日本図書館協会、 2004年、114ページ)
 また、経済学者のA.ジョンソン(Alvin S.Johnson)は、1938年『公共図書館:市民の大学』を発表し、公共図書館がコミュニティの成人教育の中心機関である「市民の大学」として機能 すべきであると説いた。ジョンソンは、公共図書館が利用者の要求に応じて図書を供給するだけでは不十分であるとし、読書促進のための読書指導や講演会の必 要性を提案した。また、コミュニティに密着したサービスを実現するために、「図書館員はコミュニティの社会的、経済的状況についての知識を持つべき」であ ると説いた(注8 同書、133ページ)。このジョンソンのレポートは、当時の公共図書館設置に大きな影響力を持っていたカーネギー財団の政策転換に大き なきっかけを与えた。即ち、図書館建築への支援から、図書館サービス改革のための図書館調査へと、その支援の方向性が転換されることとなり、その調査内容 は図書館界に様々な局面において再考をもたらすこととなった。
 1943年、『国家とコミュニティの図書館』を発表したシカゴ大学のL.カーノフスキー(Leon.Carnovsky)は、サービス対象としてのコ ミュニティとの関係を、国家という存在を見据えながら明らかにしようと試みた。カーノフスキーは、「民主主義を人間の自己実現や自己発展に対する完全な自 由」としてとらえ、「民主主義における自由を他者からの物理的自由ではなく人間の自己の情動に対する優位性」と規定し、その自由の成立条件を理性によるコ ントロールであるとした。そして、「公共図書館の役割は、利用者を民主主義における自由の達成へと導くことにある」と説いた。(注9 同書、158ペー ジ)
 また、コロンビア大学のR.リー(Robert.D.Leigh)は、1950年、『アメリカ合衆国の公共図書館』を発表し、マス・メディアとコミュニ ケーションの発展における公共図書館の役割を検証した。リーは、公共図書館の役割を考えるための手がかりについて、公共図書館をパブリック・コミュニケー ション(注10 パブリック・コミュニケーションについての定義は、吉田、前掲書の、192ページを参照。)の全体的な構図の中で捉える必要があると し、マス・メディアの媒介的な機能を担う社会機関として規定することが重要であるとした(注11 吉田、前掲書、193ページ)。たとえば公共図書館は、 商業的に採算性の低い出版物や、静穏な空気を乱す批判的な意見にも焦点を当てていくべきであり、ともすればマス・メディアでは軽視されがちな少数意見の媒 介を担うことで、民主主義にとって重要な多様な思想の存在を認め合う言論環境を醸成することが肝要であると説いている。さらにリーは、「民主主義社会の保 持にとって知的基盤となる資料を扱う活動が、商業的なコミュニケーション機関によって十分に展開されることはない」とし、文化的、教育的、公共的価値を持 ちながら、パブリック・コミュニケーションにおいてその流通が十分とはいえない資料提供を図書館が中心となって行うべきであり、「信頼すべき情報センター としてコミュニティにサービスを行い、コミュニティの幅広い年齢層の利用者に、継続的な自己学習の機会を与える」とする公共図書館の発展の方向性を示し た。(注12 吉田、前掲書、197ページ)
 イギリスにおいてもブレア政権下で注目すべき図書館政策が展開されている。文化・メディア・スポーツ省は、2000年5月15日「公共図書館基準に関す る諮問文書」発表し、その前文で公共図書館が文化政策において果たすべき役割として次の5点をあげている。
@学校教育から社会教育まで,あらゆる学習環境を補助する
A世界中の情報への公共的な窓口となる
B情報弱者と強者のギャップを埋める
C公共サービスの改善を促進する
D商業・経済の発展を支える情報を提供する。
 また、政府が社会的排除対策室を設置したことを受けて、図書館情報委員会は、2000年3月に「図書館:その包含の本質」という文書を発表した。それ は、失業者、低所得者、障碍者などの社会的弱者を社会的排除から守るために図書館の機能を活かそうという政策であった。さらに文化・メディア・スポーツ省 は2003年、『将来に向けての基本的考え方−今後10年の図書館・学習・情報』を発表、「図書館の位置づけ」、「図書館の新しい使命」、「本、読書、学 習」、「ディジタル・シティズンシップ」、「コミュニティと市民的価値」、「改革の実行」の6つの章をたて、図書館の重要性とあるべき姿、これからの施策 をわかりやすくまとめている。
 上記のような研究は、現代日本の図書館の展望に際して、非常に示唆に富むものであり、本研究においても、コミュニティと図書館の関係性における理論的支 柱としたところである。

4.ソーシャル・キャピタルを形成する図書館モデル
 前出の山内は、コミュニティ機能の再生において、ソーシャル・キャピタルがより有効に構築される要素として、次の3点を指摘している。 
@先駆性あるいは課題発見力の要素
A人間関係作りを行うリーダーシップあるいはコーディネーターの要素
Bコミュニケーションのための公共空間の要素
 1の指摘であるが、まだ誰も気付いてはいない地域の課題や優れた点について、冷静かつ客観的な視座によって発見する能力は、極めて重要である。しかし、 こうした働きは、長くその地域に暮らす当事者にとっては難しい面もある。地域外の住民や行政職員、NPOなどの外部の視点によって、その地域が観察される 仕組みが構造的に作り込まれていることが、ソーシャル・キャピタル形成にとって不可欠であろう。例えば、地域自治組織によるまちづくりを考える場合にはオ ブザーバーとしてまちづくりNPOに参画要請するとか、学生による「まちづくりフィールドワーク」を開催するなどが考えられる。
 また、2についてであるが、理想的なリーダーシップとは、人物が固定化するのではなく、様々な局面で多様なアクターが適材適所にその役割を担い合い、相 互に連携しあうことで成り立つことが望ましい。ソーシャル・キャピタル形成においては、上記のようなアクター間のコーディネートによって形成される、地域 ネットワークが不可欠であり、そのファシリテーション力としてのリーダーシップが非常に重要であると考える。
 また、3つめのコミュニケーションのための公共空間の要素であるが、それは誰もが参加しやすく気兼ねなく出入りできる場として公共の施設であることが望 ましいであろう。また、議論や調査分析のための多様な資料、情報が集積していることが合理的である。 
 それでは、このような関係性のコーディネートは、誰が担うべきか。現在のところ、これが新たな公共性の創造といわれる「市民自治」の推進における行政の 役割ではないだろうか(注13 現在の公共空間における新たな行政、公務員のあり方については、スティーブン・ゴールドスミス, ウィリアム・D・エッガース、 城山英明監訳『ネットワークによるガバナンス〜公共セクターの新しいかたち〜』、学陽書房、2006年を参照。)。もちろん、コーディネート自体はNPO や地域住民でも、必要なリーダーシップさえ発揮されれば可能である。しかし、地域課題の解決には、長期的な展望や利害関係の調整、財政支援を伴うものな ど、安定性、公平性、正当性を要請する事案も少なくない。こうした視点から、これからの行政は、政策立案と執行を独占するのではなく、様々な地域課題に応 じた効果的な政策を形成するためのネットワーク作りのために、多様なアクター間のコーディネーターとして存在すべきであるとの指摘もある。(注14 同 書、20-22ページ)
 しかし、残念ながら行政はまだまだ縦割りであり、こうしたネットワークをコーディネートする役割を果たす部署は存在しない。企画調整課のような部署が行 政内の政策調整を図ることがあっても、地域の多様なアクターをネットワークする発想は充分には見られない。
 さて、地域の図書館は、暮らしや仕事に関する様々な課題や問題をもつ住民がその解決に導く資料を求めて足を運ぶ公共施設である。そこには、まだ行政が政 策化できていない、地域の重要な課題が持ち込まれる可能性がある。また、図書館で出合った資料から、地域を含む地球規模の問題に気付く人もいるだろう。そ の意味において、地域の図書館は、課題の集積地と言えなくもない。先駆的な思考や課題発見力を向上させるには、こうした多様な情報群とのチャンネルが保障 されていることが極めて重要であろう。
 また、図書館には、地域行政資料はじめ、様々な分野の資料、情報が収集、蓄積されている。そして、これらの資料提供や関連する情報の効果的なプレゼン テーション、集会事業の企画などによって、関係者を呼び込み、その関係性をコーディネートする可能性を持った図書館司書が存在する。また、図書、雑誌をは じめとした多様な資料と集会機能を持った館としての図書館が、その公共空間を提供している。以上の事は、先に述べたコミュニティ機能の再生において、ソー シャル・キャピタルがより有効に構築される要素と相当部分重なり合っている。地域住民やNPOが、様々な会合やイベントなどに図書館を活用する姿を想像す る時、図書館機能がそれらの活動に有機的な効果をもたすことは想像に難くない。同時に、ソーシャル・キャピタル形成を支援する行政職員としての果たすべき 役割を考えると、現在の図書館司書のイメージを刷新せざるを得ないのではないか。
 図表1−3は、図書館を利用する住民が必要十分な情報と、ネットワークづくりの支援を得て、市民自治が展開されるフローを示したものである。こうした 「学習する住民」によって政策形成がなされ、住民との協働によって自治が展開される自治体を「学習する自治体」と名付けた。

図表1-3 市民自治の形成とソーシャル・キャピタルの関連図(筆者作成)

 それではこの図を参照しながら、具体的なソーシャル・キャピタル形成を醸成する図書館モデルを示したい。
@図書館による基本的なサービス
 住民は、普段の生活において、自分の必要や嗜好に則って図書館を利用する。そこで入手した資料や司書からのアドバイス、また図書館がカレントなテーマに 即して展示した資料などから、個人としての気付きを得るというレベルにおいて、自己発見や地域の問題や課題を発見するというプロセスを図書館が提供でき る。このような機能を「図書館による基本的なサービス」と名付ける。
A図書館による発展的なサービス
 さらに、図書館が住民の利用動向や社会的な状況を踏まえて様々な講演会やシンポジウムを企画し、共通の関心事項を持つ住民が会する機会を作る。また、そ うしたテーマについての関連資料の文献目録やパスファインダーを作成し、住民がさらに独自の調査や研究など学習を深められる支援をする。あるいは、住民自 身が関心を持つテーマや地域課題をベースに、図書館との連携で事業企画を展開する。こうした活動の中で、関連する行政各部局を巻き込んで、課題の解決方策 について議論することが可能となる。このような図書館の活動を「図書館による発展的なサービス」と名付ける。
B図書館によるコーディネート
 このような活動が単発的に終わることのないよう、住民相互の継続的な活動を支援するためのコーディネートを行いワークショップなどにより議論を深めた り、図書、雑誌、Webなどから得た関連情報の提供を行いつつ、こうした住民の動きを行政各部局にも紹介することで、住民と行政と接点を作り出すことがで きる。こうした図書館活動を「図書館によるコーディネート」と呼ぶ。
C学習する住民
 以上のような活動を展開することで、「学習する住民」が図書館という公共空間に集い、常に新鮮な情報を入手しながら相互に信頼関係を醸成しつつ、課題を 共有し、解決策を模索していくという姿が浮かび上がる。こうした活動を通じて、さらに住民相互の規範意識が形成され、そこに行政各部局の職員が参加し、住 民とともに政策立案のシミュレーションを行うことで、市民自治の萌芽が生まれることが期待できる。
D学習する自治体からE学習するコミュニティへ
 そうした草の根自治とでも言うべき、社会ネットワークによる学習の繰り返しが、質の高い政策形成過程を育成することになる。このようプロセスが住民発意 の政策を生むようになれば、行政はその政策を実際の政策展開に反映する制度を構築する必要が生じてくる。学習する住民による政策提案を常に受ける行政や議 会、そして首長は、常に緊張の中で自治体経営を展開することが求められる。このような関係性によって、「学習する自治体」が生まれる。さらに、そうした住 民相互の主体的な学びによる課題解決が、地域社会に応用されれば、コミュニティ再生に大きな影響を与えることが期待できる。こうしたコミュニティのあり方 を「学習するコミュニティ」と位置付けたい。
 以上のような政策プロセスに、図書館の機能は極めて重要な役割を果たす。図書館は、上記のような実質的な情報提供をするとともに、住民の精神的な安寧や 文化的な充実感を満たす資料、生活に役立ち、暮らしを豊かにする幅広い資料の提供によって住民に支持され、資料相談や調査援助、リクエストへの徹底的な対 応などによって住民から信頼される必要がある。そうした図書館への信頼が、住民のポテンシャルを引き出すことにつながり、図書館と住民の関係性自体が一種 のソーシャル・キャピタルを形成することになる。そして、図書館に集う住民相互の信頼関係が、ソーシャル・キャピタルとして機能し、市民自治へと発展する というのが本研究おける主張である。


(パワーポイントを印刷したレジュメ)
墨田区立図書館の業務委託
墨田区立あずま図書館 井東順一

本日の予定
・自己紹介と図書館紹介
面積13ku・人口23万人
図書館5館・図書室3室
・業務委託までの状況
人員削減・公社化検討
・6年間の委託の状況
・現在の状況

ア 貸出冊数(団体貸出を含む)

イ 登録者数

ウ 資料購入費(図書・雑誌)

図書館指標

利用統計 平成19年度

業務委託までの過程
・開館時間延長と職員数削減 正規職員の限界
開館時間延長への対応 M区・K区と墨田区
・大都市図書館の特徴
流動的で情報収集能力の高い利用者
・非専門職正規職員の限界
・政策としての委託推進と指定管理者

委託をめぐる論議
・公務労働万能論の限界
・カウンター万能論の限界
・どのような仕事をしていて
どのような能力が必要で
どういう勤務形態が望ましいか
・新しい図書館像とその担い手
NPM(行政、企業、住民、職能集団)
・コンサルティングと評価

業務委託の問題点
・巨大な情報と物流のシステムとしての図書館は一体的運営が不可欠であるため複数の会社への委託は好ましくない。
・収集においてもサービスにおいても長期的継続的計画性の必要な図書館に短期間に担い手が交替するアウトソーシングは不向きである。
・現状で本当の意味で受託能力のある会社が少ない。
・自治体がコスト削減を目的にするため委託料が安く労働条件が悪い。

委託先を選ぶ条件
・職員の社保・有給等の制度があり雇用に安定性があること。
・公立図書館の運営に実績があり、図書館業務に精通していること。
・図書館業務に必要な研修を行う能力があること。
・会社及び業務先での責任体制を明確にできること。
・個人情報保護の規定を遵守できること。

業務委託後の運営
・定期的な委託会社との協議
・責任者を通じての連絡体制
・カウンターでの協同作業
・レファレンス処理
・業務研修
・新しい図書館事業の展開 学校図書館など

個別の業務
・窓口業務
・相談参考・ILL
・事業(障害者・学校支援・子育て支援など)
・蔵書構成(電子媒体を含む)
・企画
・管理経営
・広報

今後の課題(1)
・委託費の上昇
・職員の知識・技能の低下
・契約の継続性
・指定管理者制度
・書誌管理
・各種事業(HS・児童・地域資料・学校支援)

今後の課題(2)
・計画的運営(基本計画策定・協議会)
・組織的運営
・研修計画
・評価


公立図書館への指定管理者制度導入について
―明石市立図書館の事例から―
兵庫支部  楠本昌信(元明石市立図書館)

1.明石市立図書館の概要
@明石市の概況
 明石市は、兵庫県南部中央に位置し、神戸市の西側に隣接する阪神間のベッドタウンとして歩んできた。
 面積は49km2余りで、人口は図書館開館当初は23万人弱であったが、現在29万人余りに増加している。

A施設の概要
 明石市立図書館(2,000m2余り)は、1974(昭和49)年10月に開館し、現在33年余りが経過した。
 この間、開館25年目にして、漸く1999年に分館(700m2弱)が開館した。
 現在、図書館2館と移動図書館1台でサービスを行っているが、人口規模からすると図書館設置数は少なく、整備が遅れている。
 また蔵書冊数は、開館当初の3万冊余りから約37万冊余りに増加したが、市民1人当たりでは1.3冊と非常に少ない。

B利用状況
 開館当初、貸出冊数は30万冊余りであったが、分館の開館もあって、現在は約134万冊余りと4倍以上に増加した。しかし市民1人当たりでは4.5冊と 決して多くない。
 また市民の登録率は、図書館が身近に設置されていないということで15〜16%と低迷している。

C職員
 開館当初は司書採用を実施し、全職員17名(内正規13名)中6名の司書が配置されていた。しかし1977(昭和52)年を最後に司書の採用がなくな り、その後、司書の退職が相次ぎ、司書資格を保有する職員の異動や司書資格取得により補充が行われたが、最終的には正規職員の司書数は僅か4名にまで減少 していた。
 指定管理導入前の職員数は、分館の開館もあり、33名(内正規13名)と増加しているが、正規職員数は全く変わらなかった。利用増や業務量の増加に対し ては、すべて非正規職員で補ってきたということであり、最終的には非正規職員が6割を占めていた。

2.制度導入の経緯
 指定管理者制度が、2003年6月の地方自治法の一部改正により導入されたが、明石市においては、以前からの財政事情の悪化の中で、経費削減、人員削減 を柱にした行財政改革の一つの方策として、2006年4月に導入された。
 指定管理者制度導入の検討が始められたのは、2004年度に入ってからで、それまでは、各種業務の民間委託化等により、行革を進めようとしていた。
 図書館に対しても、2003年度に入って、窓口業務の委託化を検討するよう指示があった。
 その当時の明石市立図書館の人員体制は、正規職員13名に対して、非正規職員が20名と、全体の6割を占めており、窓口に関する業務は、概ねこの非正規 職員によって担われていた。そこで非正規職員の賃金と経費の試算を民間事業者数社に依頼したところ、その額は民間各社の方が2割程度高かった。このため窓 口業務の委託化は取り敢えず見送られた。
 その後、2004年度早々に、明石市での指定管理者制度導入ついて、すべての「公の施設」を対象に、プロジェクトチームにより検討が始められた。
 そして2004年11月に明石市としての「指定管理者制度の導入、移行に向けた基本的な考え方」が庁内において示され、初年度の導入施設に図書館が候補 として上げられていた。
 この結果に至った検討の経過が明らかでなかったため、図書館として、公立図書館はその性格上、指定管理者制度には馴染まない旨の意見を示したが、市とし ての方針は変わらなかった。
 指定管理者制度導入の主目的は、住民サービスの向上と経費の削減であり、明石市においても同様であるが、力点はやはり経費の削減であったと思われる。
 図書館への指定管理者制度導入を検討するに際して、図書館に詳しい関係者が不在の中で行われ、方針が決められたということは、図書館が趣旨的に指定管理 者制度に相応しいかどうかの検討が十分になされたとは思われないし、また当時、明石市における公の施設の中で、図書館の職員数が最も多かったということ で、厳しい財政状況の中で経費削減、人員削減を強力に推し進めようとする市当局側にとっては、図書館に指定管理者制度を導入することは、効率的に行革が推 し進められると考えられたのではないかと推測する。
 ただ図書館に指定管理者制度を全面的に導入するに当たって、「選書」業務は市が直接、担当すべきではないかという当局側からの打診があったが、図書館と しては、「選書」業務は日々の窓口業務での利用者との応対やレファレンス業務、予約業務、また日々の書架整理や除架作業等と密接に関連した業務であるの で、選書だけを切り離して業務を行うことはできないという考え方を示し、最終的には全面的な指定管理者制度の導入となった。

3.指定管理者による管理・運営
@組織、職員
 指定管理者は、3社(NTTデータ、大新東ヒューマンサービス、NTTファシリティーズ)からなる共同事業体であり、協定により業務分担を定めている。
 代表はNTTデータで、コンピュータシステム管理と経理を、大新東ヒューマンサービスは窓口部門を、またNTTファシリティーズは施設管理を主に担当し ている。
 各社が担当する業務に従事する職員は、各社がそれぞれ雇用する社員であり、人事権は各社にある。館長は意見を述べられるが、裁量権はない。ただ代表企業 の意向は無視できない。
 全職員の内、窓口業務に従事する職員が多数のため、大半が大新東ヒューマンサービスの社員であり、NTTデータの社員は館長と管理係長(館長補佐)と事 務員の3名で、NTTファシリティーズの社員は常駐せず、委託職員1名が施設管理を行っている。
 館長をはじめ各職員は、図書館職員としての意識より、所属各社の社員意識が強く、会社との結び付きが緊密である。
 窓口担当職員は30名で、内フルタイム職員は13名、あと半数以上がパートタイム職員である。フルタイムの内、責任者(資料係長及び分館長)が各館1 名、副責任者が各館2名配置されている。

A人材
 司書資格保有者は、明石市との協定の中で窓口担当職員の70%以上を求められており、現状で約80%が司書資格保有者である。
 館長は、元公立図書館の経験者であり、フルタイムの窓口担当職員も元公立図書館での経験者が多い。
ただ、司書資格保有者や経験者といっても、大半が嘱託または臨時的な或いはアルバイトとしての経験であったため、基幹的な業務である選書やレファレンスの 経験の蓄積が十分でない。

B職員の待遇
 窓口担当の職員は、基本的には1年間の契約社員である。賃金は、フルタイムが月給制であり、パートタイムは時給制である。責任者(資料係長及び分館長) と副責任者の賃金はそれぞれ高く設定されている。フルタイムについては、社会保険料負担等の福利厚生制度があるが、ボーナスや昇給はない。
勤務体制は、フルタイムは早出と遅出の2シフトで、パートは1日4,5時間程度の交代シフトである。また休暇は、フルタイムは週休2日を交代で、パートは 週休2〜4日の交代で取得する。このため全員が揃うことはほとんどない。

Cサービス内容
 指定管理者制度導入の目的の一つである「サービスの向上」の実現の趣旨で、開館時間及び開館日数の拡大、図書返却場所の増設、宅配サービスやDVD資料 の導入等が実施された。また児童向け行事や図書リサイクルフェア等のイベントや学校との連携行事が活発に行われるようになった。
 またこれまでに実施されたアンケート調査等から、以前の直営時より窓口対応がよくなったという結果が出ている。

4.問題点と今後の課題
@組織的管理・運営の欠如
 図書館が社会的に責任ある機関として、その使命を果たしていくためには、館長の下に、館員全員が図書館のあり方や方針を共通認識して、図書館が一つの組 織として管理・運営されていなければならない。
また館長は、図書館組織の最高責任者として、業務全体を統括すると共に、業務上の指示命令、伝達は、必ず館長を通じて行われていなければならない。
 しかし、各事業社が自ら雇用する職員に直接、指示命令・伝達を行ったり、館内でも館長をはじめ各職員あるいは各職員同士が、各自それぞれの判断で業務が 進められるなど、組織を無視した管理・運営の事例が頻発している。
 これは、恐らく図書館のあり方や館長の役割、管理・運営の方針等について、指定管理業務開始当初から館長や共同事業体各社間で十分な話し合いが行われ ず、もちろん各職員への周知にも至っていないため、共同事業体各社や館長自身をはじめ大半の職員に、図書館が一つの組織として管理・運営されなければなら ないという認識がないためではないかと思われる。
 また館長はじめ図書館各職員は、業務内容に応じて各社に雇用されているため、各社への所属意識が強く、図書館組織の一員という意識が希薄となり、組織的 な管理・運営を難しくしているのではないかとも思われる。
 こうした状況の中では、館長をはじめ各職員には、指示・伝達が十分に行き渡らず、管理・運営に混乱をもたらしているが、そうした状況を館長はじめ職員自 身が元々、問題視していないためか、改善の様子が見られない。
 こうした状況が、指定管理者が1社であれば起こり得ないとすれば、共同事業体故の問題であろうかとも思われるし、明石特有の問題であるかもしれない。

A.サービス向上の内容
 指定管理者による「市民サービスの向上」への取り組みは、開館時間や開館日の拡大、資料返却受付場所の増設、宅配サービス(図書館来館困難者への限定的 対応)の実施といったハード面でのサービス内容が中心となり、図書館の基本的機能である資料、情報提供に繋がる本来的なサービスについては、その実施内容 や研修等の対応から考えても、認識度が低いようにも思われ、十分な内容に至っていない。
 民間事業者にとっては、公立図書館の業務はこれまで未経験の領域であり、当然ながらその人材やノウハウの蓄積がないため、資料、情報提供に繋がるサービ スへの対応には困難があると思われる。

B人材確保、研修
 採用された職員は、以前に図書館で嘱託や臨時的に、またアルバイトとして関わった者が大半であり、司書資格があっても、選書やレファレンス、読書案内等 の所謂、基幹的業務の経験が十分でないため、利用者からの要求に的確に対応できない事態が生じている。ただこうした事態は経験を積み重ねることにより、解 決していける可能性はあるが、現在のような雇用環境では長年、人材を繋ぎ止めておくことができるかは疑問である。
 また経験不足の職員に対しては、必要に応じて研修が実施されなければならないが、その実施内容や計画が確立されていない。
 元明石市立図書館で臨時職員として経験した人材(フルタイム職員13名中8名)を優先的に採用したため、指定管理導入開始当初から、窓口業務について は、概ねスムーズに運営ができ、以後も表向きには大きな支障もなく運営がなされてきた。こうした状況も影響したのか、研修が疎かになっているような気がす る。

C職員の厳しい待遇
 公立図書館の管理・運営による収益がほとんどない中であっても、民間事業者であれば基本的に、収益を上げることを目指すはずである。
 指定管理料は、明石市の決算状況を参考に算定されており、当然ながら、その額は市の決算額よりも低い額になっている。図書館の管理、運営に必要な経費 は、人件費を除けば、指定管理者であっても市であっても、同じサービスレベルであれば、ほぼ同様に掛かるものであり、ましてや指定管理者は、開館時間や開 館日数等、今まで以上のサービスを行っていく必要がある中で、経費は増加する。
 こうした中で、指定管理者が収益を上げるためには、人件費を抑制するしか方法がないように思われる。このため事業社直接雇用のフルタイム社員といって も、非正規職員並みの賃金であり、昇給もなく、ボーナスもない。将来の生活設計も描けないような待遇では、優秀な人材を求めても、集まるはずもなく、高く 掲げたサービス向上策も実現が難しくなるだろう。
 またフルタイム職員の人数は全体の4割程度で、あとは安上がりのパートタイム職員で占められているため、フルタイム職員への業務量がますます加重とな り、疲弊してきている。日々の配置人数もぎりぎりのところに抑えられており、有給休暇の取得も儘ならない状況に置かれている。
 待遇面においてこうした厳しい条件が続けば、特にフルタイム職員の離職率の高まることが予想される。

D指定期間の制約
 指定管理者の指定期間は、3年から5年の事例が多いようである。現在の指定期間が終了した後は、概ね再び指定管理者を公募して選定されることになるよう である。
 指定管理者制度を継続する場合、同じ指定管理者が引き続き選定されれば、従事している職員の雇用も恐らく継続され、人的経験と業務のノウハウも蓄積され るが、指定管理者が変更になった場合は、それまでの経験とノウハウの蓄積がご破算になってしまい、図書館業務にとって重要な要素である継続性や蓄積、安定 性が確保できないという不安定要素を、この制度は常に抱えていることが、大きな問題である。


E制度継続の不確実性
 一旦導入した指定管理者制度が今後、指定管理者の撤退等で、必ずしも継続されるとは限らないので、この制度が継続できない状況が生じたとき、自治体側は 人材の確保など、いつでも直営で運営できるよう、危機管理として、当然対策を考えておくべきであるが、今の段階で、具体的に対策を講じている自治体は、明 石を含め、ほとんどないのではないか。
 まだ早い段階での制度導入の中止は、人材やノウハウ面で再出発もできやすいが、制度導入の期間が長くなれば、元には戻れない状況に陥ってしまうであろ う。


「一関市立川崎図書館の成功の秘訣を探る」
鈴木裕子

はじめに
 川崎図書館はどこを見渡しても司書のセンスが光る魅力的な図書館である。木のぬくもりが溢れた館内には、季節にあわせたBGMが流れ、子ども達が自由に おもちゃで遊び、ゆったりとしたカウンターはブックトークの場として活躍している。川崎図書館がある岩手県一関市川崎町は2006年9月に近隣の市町村 (1市4町2村)と合併し、新たなスタートを切ったばかりの町である。1998年12月に図書館が開館された当初は、川崎村立川崎図書館として人口わずか 4,464人(2006年12月)の小さな村に初めて誕生した図書館としてサービスをスタートさせた。「静かでない図書館」を目指した図書館作りを中心に 様々な工夫を凝らしたサービスの中には、"図書館というものを全く知らない人々"の為にコミック本を設置して、図書館に足を運ぶきっかけを作ったり、書店 的分類をすることで利用者の読書の幅を広げるサポートをしたりと、計画の段階から利用者本位の図書館作りに力を入れてきた。その結果、2006年の大合併 を前に、人口15,000人未満の全国公共図書館の中で貸出冊数が第3位という成果をもたらした。(『日本の図書館 統計と名簿2004』)川崎図書館は 情熱を持って図書館作りに取り組んだ人々の努力の賜物であり、川崎町の子ども達は、図書館作りに想いを馳せた人々の暖かい愛情に包まれて、生涯学習を体験 し、豊かに成長している。今回私は、この小さな町で成功を収めた川崎図書館の背景を、図書館実習とアンケート調査を中心に考察し、作成した論文を紹介した いと思う。

1.川崎図書館における司書の位置づけ
 川崎村の図書館作りの動きは、公民館に頼った在来型の社会教育に限界を感じた一社会教育主事の手で1989年ごろから始められた。91年に村の教育振興 基本計画にはじめて図書館の新設が盛り込まれると、川崎村生涯学習推進構造委員会を村長の諮問機関としてスタートさせている。93年、同委員会から図書館 設置等についての答申が出ると、94年には早くも準備のための司書公募に踏み切っている。(注1 山本哲生『図書館の時代がやってきた』教育史資料出版 会,2005,p160,p168,p170)
 全国公募で選ばれた早川光彦さんは、現在の川崎図書館の方針基盤を作り上げ、また館内のレイアウトにも司書独自の視点で様々な工夫を凝らしている。完成 した図書館は生涯学習ステーション内に設置され、公民館との複合施設として、生涯学習に大きく貢献している。「公民館のような図書館、図書館のような公民 館」を目指した成果がここにある。現在の職員体制も市内で最も多く、個々が向上心をもって業務に携わっている。川崎図書館の成功の理由の一つには、役場職 員が司書という役割に対する理解が出来ていたことがあげられる。

2.司書インタビューを通じて
 実習期間中、開館当初から川崎図書館に携わってきた伊藤和代さんと、菊地繭美さんにインタビューをさせて頂いた。ここではその一部を紹介したいと思う。
・「静かでない図書館」を理解してもらうために
館内には様々なニーズを持った利用者が訪れているため、開放的な図書館の姿については賛否両論である。中でも利用者の意見が集中するのが、「利用者の声が うるさい」ということである。音に対する苦情について、児童サービスを主に担当する伊藤さんに質問した。
「やはり声の騒がしさだけでなく、いろんな形の苦情や意見は入ってきています。騒がしさについては、基本的にこの図書館が出来たときから「にぎやかな図書 館」「静かでない図書館」というのを目指してきましたので、ある程度は想定できていました。子供だけに限ったことではなく、大人の方の携帯電話のマナーや 声の大きさというものも含めて、全ての利用者に当てはまるマナーです。図書館というのはそういった公共の場のマナーを学習したり体験したりする場ですの で、本を読むだけ、調べるだけの場所ではなくて、みんなで使う場所をいかに気持ちよく使えるかというのを勉強する場として、小中学生にはどんどん来て欲し いですね。あとは図書館によってはマナーについての張り紙があるところもありますが、そういったことは川崎図書館はやらないで、職員で気がついたときに声 をかけるようにしています。張り紙を出してしまうと、そういったマナーの問題があることを逆にアピールしてしまうことになるので、職員のほうでこまめに気 をつけてやっています。」
と話してくれた。
・敷居の低い図書館を目指して
 館内にはゆったりと座れる席がいくつかあり、閲覧の場やくつろぎの場として利用されている。しかし、夕方近くになると、地元の中高生が学習の場として利 用することも多く、満席状態になってしまうことも少なくない。今回の調査でもそれに対する苦情が目立ったのだが、逆に座席数を増やして欲しいという声もあ るのが現状である。これに対して、館内全般のサービスに携わっている菊地さんにお話を伺った。
「一見冷たいようですが、図書館に本を借りに来る人にとっては、一日中勉強のために席を取られてしまうことで、座って本を読めないという様になってしまい ますし、そういった逆の苦情も来ていますので、こちらのほうを何とかしなければいけないなという思いはありますね。本を借りにくる利用者に良い様にしなけ ればならないと感じています。敷居の低い図書館ということで、昔のような勉強する人ばかりが集まるような雰囲気は脱却したいと思っています。」と答えてく れた。
 川崎図書館はワンフロアですべての利用者に対応する為、今回実施したアンケート調査でもこのような意見が殺到した。従来の「静かな図書館」というイメー ジを覆した方針への理解はまだ完全に広まったわけではないが、利用者が図書館に対して様々な思いを抱くことは、川崎図書館への期待でもあり、今後の改善に 大きく結びつく貴重な声である。利用者の多くが図書館に関心を示していることが伺える。
・指定管理者制度の導入について
 近年図書館への指定管理者制度の導入が広がりつつあり、合併し、ニーズも多様になった川崎図書館はそれについてどのように考えているのか質問した。これ に対して伊藤さんは、「効果的かどうか以前に、人件費を減らすために導入している事例が見受けられます。実際正職員の人件費はかなりのウエイトを占めてい ますので、パートやアルバイトの人を多く安く雇ったほうが単純に開館時間を長く出来たり出来るので、そういった点ではこの制度が入って来やすい状況なのか と思います。ただ、この制度は契約年数が3年間ですので、短期で人が入れ替わる不安定な状態を長い目で見ると、果たしてそれが利用者へのサービスの向上に なるかというと見えない点があります。実際、現在川崎図書館では専門職で配属していますが、他のところは一般行政職の人が2,3年でころころ変わっていま すよね。それと指定管理者制度は同じことだと思うんです。指定管理者制度は確かに人件費は安いですが、経験が蓄積されません。コンビ二的な型にはまった サービスしかできないのか、人件費はかかるが、正職員が長く勤めてそれなりのサービスの向上にしていくのかというのは、最終的には図書館の判断では決めら れません。図書館としてはそういったメリット、デメリットを提示して、最終的には市民の判断に委ねなければならないと思います。私たちに出来ることとすれ ば、情報を提供することと、今実際に正職員として司書をしていますので、お客様にいいサービスを提供すること、この2つだと思います。こちらから積極的に アピールしていかないと、指定管理者制度について市民が良く知らないまま行政のほうでしてしまうことが一番恐いので、利用者への情報提供やアピールは積極 的にしていかなければならないと思います。」と、司書の視点で回答して下さった。
 伊藤さんの回答にあるように、利用者である市民に、司書の専門性を理解してもらう必要があるのだが、これに関連した記事で、2006年11月23日の毎 日新聞に掲載された「記者の目」には、東京都の図書館意識の低さに関する記事が載っていた。記事によると、東京都立図書館は、現在配属される司書のうち半 数が今後5年間に定年を迎えるそうだ。団塊世代が大量退職する2007年問題が迫る中、石原慎太郎都知事は図書館行政に関心がなく、むしろ図書館の民営 化、つまり指定管理者制度を推している。残念なことに、行政が図書館と教育のつながりをまだ認識していないのが事実である。川崎図書館の成功は司書の専門 性を生かすことによってもたらされた。今後も行き届いたサービスを提供していくためには、専門職としての配置が欠かせないのではないかと思う。

3.アンケート調査報告
 調査では、日頃の利用傾向、利用者が日頃利用していてどのように感じているか、課題はないのか、利用者のニーズは何なのか、自分の住む町に図書館が出来 て、住民の生活はどのように変化しているのか、新しい図書館の姿を目指す川崎図書館の成果は果たしてどの程度表れているのか(公共図書館のイメージはどれ ほど変化しているのか)などを調査し、分析した。内容は『平成14年図書館利用に関する意識調査報告書』を参考とした項目(問1〜問10)と、独自の質問 (問11〜問13)を加えて作成した。
 館内で利用者に直接配布したところ、配布した301件全て有効な回答を頂き、ここからも図書館に対する関心の高さが伺えた。この調査では、川崎町内の利 用者に比べ川崎町外の利用が圧倒的に多いことや、市内のニーズは同じ傾向にあったことなどがわかったが、最も注目すべき点は図書館が住民に大きな影響をも たらしている点である。調査では図書館に対する意識の変化や従来の図書館とのイメージの変化が分かり、利用している住民の生活に大きな影響と変化をもたら していることがわかった。旧川崎村で1997年に実施された『Lプロジェクト21住民調査』によると、「これまで川崎村に図書館がなかったことを、あなた はどのように考えていましたか。」という質問項目に対して、54.5%の人が「とくに考えていなかった」と答えている。また、「図書館が出来ることで、こ の村は住みやすくなると思いますか。」という質問項目に対して「そう思う」という回答は3割にも満たなかった。これは図書館に対する知識がない住民の実態 を明らかにするもので、情報の過疎地という危機的状況にあることさえ認識されていなかったことを明らかにしている。今回のアンケートで川崎町内の72%の 人が、図書館が出来たことで日常生活が豊かになったと答えている。図書館という施設が身近に感じるようになったと答えた人は全体の91%にも上り、図書館 の認知度を高めることにも大きく貢献していることが分かる。このように、図書館がない地域は図書館がある地域に比べてそういった公共施設に対して無知であ り、そういった意味では情報の過疎地は完全に無くすべきである。よい図書館が出来ると、住民の利用知識は高まり、やがて住民の公共図書館に対するニーズは 多様になってくる。この循環を全国に広める必要性を、調査を通じて痛感した。図書館に対するイメージの変化に関しては、川崎図書館開館以来、マイナスイ メージに変化したと思われる回答は1件のみで、それ以外の回答は利用者にとってプラスに変化している。最も多かった回答が、暗いイメージから明るいイメー ジへの変化で、関連して閉鎖的なイメージから開放的なイメージへの変化も多く見られた。

4.結論 
 川崎図書館の成功の秘訣は、以下のことを調査等から導くことが出来た。
@図書館開設にあたっての行政の意識の高さ、熱意があったこと。
A司書の専門性を重要視して開設にあたったこと。
B地域性を十分に把握し、図書館を知らない住民にまず図書館に来てもらうよう工夫を凝らしたこと。
C「市民の図書館」などの基本方針に従って徹底したサービス体制を提供していること。
つまり、「静かでない図書館」「コミックのある図書館」など、一見従来の図書館像を解体した形での図書館に見えるかもしれないが、根底には、この揺ぎ無い 図書館像があってのサービスを提供しているのである。
D開館当初から利用者本位のサービスを続けていること。
E職員の学習意欲、働く楽しさを大切にする職場作り、常に向上心をもって業務にあたるよう日頃職員が心がけていること
F地域活性化への取り組みを実施していること
 調査を終えて、川崎図書館の成功は、以上のことにふまえて、現場職員の日々の努力によって成り立っていることがわかった。川崎図書館の職員の方は利用者 を時折「お客様」と呼ぶ。はじめそのことに疑問を感じていたが、実際の働きかけや調査結果をみて、その利用者本位の考え方が間違いではなかったことがわ かった。
 時代と共に社会は変化し、それと同時に人々のニーズは変わって来る。図書館は常に住民の声に耳を傾け、情報をキャッチするアンテナを張り巡らさなければ ならない。各自治体が図書館作りに積極的になれば、地域が活性化し、日本中が元気になると私は思う。教育問題が取沙汰される今、図書館が基本的なサービス をきちんと行っていくことは、結果として大きな成果をもたらすに違いない。今はなにより行政の早期理解を願う。
 蛇足ではあるが、私はこの川崎村出身であり、この発表は大学の卒業論文を基にしたものであることを申し添えておく。


第2日 9:00―11:50
ホテル一井

研究発表

「議会・法律情報へのアクセス」
竹内ひとみ(国立国会図書館)

「図書館学の対象と方法−1978年の仮説について」
高橋敏一(大阪市立図書館)

「ワンストップサービス検索エンジンとしての司書技能と物流について」
星野盾(沼田市立図書館)

「図書館の非常勤職員、その現状と課題-荒川区の非常勤職員制度改革の取り組みから」
西河内靖泰(荒川区)

「「図書館の自由」を構成するもの」
山家篤夫(東京都立中央図書館)


議会・法律情報へのアクセス
竹内ひとみ(国立国会図書館)

T.法律情報の検索

1.法律情報を探す時の注意
・「正式名称」を調べる。一つの手立てとして
@NDL「日本法令索引」略称から正式名称を調べられる。
例)横断検索⇒テロ特措法
・慶応3年10月の大政奉還から現在に至るまでに制定された法令の索引情報
・第1回国会(昭和22年)以後の法案(法律案・条約承認案件)の索引情報
・法律案・条約承認案件については、法案審議段階の国会会議録の参照も可能
A検索エンジンで「テロ特措法 正式名称」
B略されがちな法律名の一覧<http://www.ron.gr.jp/law/law_name.htm>

2.法律等関係リンク集<http://www.ron.gr.jp/law/link_law.htm>
・全国の条例
・総務省 法令データ提供システム<http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi/>(更新1回/月)
法令(憲法、法律、政令、勅令、府令、省令、規則)検索、
法令索引検索:法令名の用語、五十音、事項別、法令番号からの検索
法令用語検索:用語から検索
略称法令名一覧:正式名を検索
・法庫<http://www.houko.com/00/FS_ON.HTM>平成8年度以前に公布された法律、政令、条例は無料。それ以後は有料(省 令、規則、告示と平成9年度以降に公布された法律、政令、条約は網羅的に検索可)
・外務省・条約<http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/index.html>最新の承認された条約一 覧。最新版を知りたい時に有効。

3.判例情報
裁判例情報<http://www.courts.go.jp/>⇒裁判例情報
・最高裁判例集 高裁判例集 下級裁判例集 行政事件裁判例集 労働事件裁判例集 知的財産裁判例集 の6種類。それぞれの裁判例集の検索と、6つの裁判例集を横断的に検索する全判例検索。
・くらしの判例集 国民生活センター<http://www.kokusen.go.jp/hanrei/>
例)英会話教室の中途解約時の清算

U.議会情報

1.国会会議録情報
・第1回国会から現在開会されている第169国会まで検索可能
・会議後、平均2−3週間後に検索可能。
・法案検索が可能。検索語入力欄に「(法律案の正式名称)」と「本号末尾に掲載」を入力
・第1−144国会までのテキストには誤植が多いので、文章がおかしい時は必ず、会議録(冊子)版で確認すること。
2.帝国議会情報
・平成16年からデータベース化。現在第74回〜第92回(昭和13年12月〜22年3月)が検索可能。
・帝国議会会議録は、回次によって検索方法が異なる。 第74回〜第87回会議録については、検索条件入力画面で「目次・索引検索」と「発言者検索」ができる。しかし議事部分についてのテキスト全文検索はでき ない。第88回〜第92回会議録については、「戦後会議録」を選択して、検索。テキストの全文、法案、附則など図表以外のすべてのものが検索できる。
・平成21年度末までに第1回帝国議会まで、検索可能に。
参考文献:大山英久「帝国議会の運営と会議録をめぐって」『レファレンス』652,2005.5,pp.31-50.
3.国会審議関連情報<デジタル資料>
・雑誌『調査と情報-ISSUE BRIEF-』:国会で審議されているテーマについて簡潔にその背景、問題点、対応策、今後の展望等について10頁以内でまとめた資料
例)「第169国会の概要」、「高等学校における情報科の現状と課題」
・雑誌『レファレンス』:国政課題について、中長期的展望をもってそのテーマについて経緯、論点、関連の外国事情に関する論文 例)「電子情報と法」、 「パート労働者への厚生年金の適用問題」、「中国に対する環境協力の現状と課題」、「政府の大きさをめぐる議論」
・『外国の立法』:国政課題に直結したテーマに関する諸外国の法律の翻訳と解説
・『調査資料』:ある特定テーマに関する論文集 例)「総合調査 拡大EU-機構・政策・課題-」、「新編 靖国神社問題資料集」
・アクセス:NDLホームページ⇒刊行物⇒立法資料⇒『調査と情報-ISSUE BRIEF-』、『レファレンス』、『外国の立法』、『調査資料』

4.政治・政治家情報
・歴代内閣総理大臣、閣僚、衆参議長、最高裁判所長官等一覧⇒官邸ホームページ
・政治家、政治法律関係⇒NDL ホームページ⇒調べ方案内⇒テーマ別調べ方案内⇒政治法律行政
・官報:最近一週間分の官報
・最近の国会情報:当日の開催本会議・委員会、議員情報:名称、所属会派、選挙区等⇒衆参ホームページ⇒衆参公報


図書館学の対象と方法
高橋敏一(大阪支部)

図問研の冬季(理論)集会が始まったのは1975/2/9である。その目的について、別冊図書館評論1975.6では、
 図書館事業についての実践を整理・理論化・客観化すること
 その討議を整理して、図書館科学の領域と構造を確立してゆくこと
の2点が指摘されていた。(別冊図書館評論P.2)

この提起を受けてか、第1回目の集会では、裏田武夫が「図書館科学の領域と構造」、埜上衛が「図書館理論について」1976年に行われた第2回目の集会で は久保輝巳が「図書館学の領域と構造」を報告している。

しかし、各種の学問で、序説的に示すのは「OO学の対象と方法」といった形で仮説的に示されるものをよく見てきたので、「領域と構造」という言葉には多少 の違和感があった。事実、裏田報告などは、「図書館学といことをお話しする前提として、どうしても図書館学の図書館とは何かという話をしなくてはならな い。それから図書館学の構造、あるいは領域と構造というものを一緒にしてお話をしなくはならない。」(P.99)
としており、1、対象の確定、 2、領域仮説の設定  という順序で報告されているし、領域と構造にそれほどの区別をあたえていない。
裏田氏の場合、常任委員会からもらった演題「図書館科学の領域と構造」をそのまま使って述べた雰囲気が強い。
久保報告の場合は、領域と構造は一応区別されている。しかし、ここでは領域というのは裏田氏の対象確定であり、構造という言葉の中で仮説の設定がなされて いる。領域=土地、構造=建物と考えるなら、図書館という土地に図書館学という建物をたてるような考えであろうか?
しかし、これはまた逆に考えることも出来る。現実にあるのは図書館という構造(制度)であり、これを図書館学として認識するときには、その構造を分解して 平面図に書き写していく。そこで生まれた、一枚一枚の図面を領域として区別していくというイメージのほうが合っているともいえる。
そこで、「読者-利用者-住民」という仮説を持って議論に参加しようとしたのが第3回の冬季理論集会だった。30年たった今日、その総括をしたいという思 いに駆られて手を上げた。

方法的前提
図書館学も社会科学の一種と考える。社会は人と人の関係の集合であり、そこでどういう社会関係が取り結ばれているかによって、その学的認識の内容が変わっ てくるが、経済的関係、政治的関係、文化的関係といった分野がある。家永裁判の中で杉本裁判長が学習権を「生存権的基本権の文化的側面」と規定したが、図 書館もまたこの文化的側面を担うものと考える。

「ぼくのおとうさん」(NHKピタゴラスイッチより)では、会社へ行くと会社員という雇用関係にあり、食堂へ入ると食品衛生法の保護を受けるお客さんだ し、歯医者へいくと、医療法での保護を必要とする人と人との関係を結ぶ。そして、家に帰ると、家族法の世界が待っていて、「家に帰るとぼくのおとうさん」 となる。

この歌の場合はこの坊やの立場から僕のお父さんを眺めていて考えうる限りの社会関係を書き出したものだが、同様のことは図書館を軸にして書き出すことも出 来る。

これを試みたのが30年前の仮説である。
ある立体を理解するための平面図、側面図、立面図の3枚が最低用意されるが、わたしもこれにならって3つの領域を考えた。

第1は読者-利用者関係を軸にした読書論領域、
第2は利用者-図書館関係を軸にした資料提供論領域、
第3は住民-設置者関係を軸にした図書館行政論領域

である。ほとんど白紙の、これらの図面が、その後のいろいろな論争の中でうまく書き込んでいくことができたのかどうか、これを確かめたい。

あわせて、検証の材料として次のような系譜にある論争をとりあげたい。

1、限界図書館論争
最近、限界集落という言葉があるが、どこからどこまでが図書館かという議論はくり返されてきた。
附帯施設論争、望ましい基準論争、公立図書館論争、図書館の三要素論争
2、学習権論争
「図書館は学習権を保障する機関」という規定をめぐっての意見の分岐はいろいろあるが、この解明は教育法と図書館法、行政法と図書館法の関係を解明するこ とによってはじめて可能ではないか。


ワンストップサービス検索エンジンとしての司書技能と物流について
星野盾(沼田市立図書館)

検索エンジン:インターネットのウェブページの情報をデータベース化して、ユーザーが入力したキーワードや分類項目などから必要な情報を取り出して表示す るシステム。(『現代用語の基礎知識』より)

1 はじめに
 図書館の基本的機能は、資料を収集、整理、保存し、利用に供することであり、その構造は電算データベース(以下、電算DBという)と基本的に変わらな い。図書館はワンストップサービスを実現するデータベースである。(注1 「これからの図書館像−地域を支える情報拠点をめざして−」文部科学省編  http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/04/06032701/009.pdf 2006.3)
 本稿では、図書館における情報提供システムを便宜的に図書館システムと呼び、電算DBと対比することで図書館システムにおける司書の役割について考察す る。

2 図書館システムと電算DBの構造的比較
 両システムとも構造的に入出力部、検索部、データ部、出力準備部の4つのセクションを持つ。(第1図 電算データベースの構造)(第2図 図書館システ ムの構造)(注2 神崎洋治 西井美鷹著『体系的に学ぶ 検索エンジンのしくみ』日経BPソフトプレス,2004,275p.)
2.1 入出力部(フロントエンド部)
 電算DBにおける入出力部は、入力された検索キーワードに対し、シソーラスや辞書ファイルを参照して事前処理を行い検索部に送る。電算DBの事前処理は 限界があり、検索結果は利用者の検索キーワード選定に依存する。
図書館システムにおいては、窓口が入出力部に対応する。図書館ではヒューマン・インターフェースの特長を活かし、利用者が真に求める情報の明確化を行うこ とができる。司書は最低限インタビュー技術を持つことが必要である。
2.2 検索部
 検索部は、データベースにおいて最も重要な役割を果たす。検索部が機能しなければデータ部にある情報は利用者に提供されない。
検索部はインデックス部と検索エンジン部から構成される。インデックス部はデータ部から供給されるデータ情報から検索キーファイルを生成して管理し、検索 エンジンはインデックス部の検索キーファイルを用いてデータ所在の検索を行う。
 図書館においては、目録や資料検索のための各種ツールの整備がインデックス部、レファレンスサービスや読書案内における調査や検索が検索エンジン部にあ たる。図書館システムにおいて、コンピュータ導入により最も恩恵を受けたのは検索部である。
2.2.1 インデックス部
 検索キーファイルの生成と管理が電算DBの機能を決めるといっても過言ではない。図書館システムにおいても、図書館資料群にアクセスするためのツールや 目録の整備など、インデックス部の整備が図書館機能を左右する。
 更新型データベースは、インデックス部における検索キーファイルの継続的更新が必要である。更新型データベースである図書館システムのインデックス部を 支えるのは、目録作成などの資料組織化にかかわる物流系業務である。
2.2.2 検索エンジン部
 電算DBの検索は、検索項目に一対一で対応する検索キーファイルに対して行われる。ワンストップサービスである図書館システムでは、司書は検索項目に対 し一対多で存在する複数の検索ツールの中から最適なオプション選択する必要がある。(注3 長沢雅男 石黒祐子共著『問題解決のためのレファレンスサービス』日本図書館協会,2007,294p.)(注4 大串夏身著『チャート式情報アクセスガイド』青弓 社,2006,180p.)
 なお、検索ツールの存在が検索エンジン部の機能を担保するわけではなく、司書が複数の検索ツールから最適なオプションを選択するため、各種オプションの 特徴を把握するとともに、各種の検索ツールを使いこなせる必要がある。
2.3 データ部
 データ部は電算DBや図書館システムにおいて最も重要な存在である。データ部に蓄積された情報は、最終的に提供される情報であるとともに、検索部の検索 キーファイルや出力準備部の素材となる。
 図書館システムにおいて、図書館資料群がデータ部となる。図書館システムのデータ部を支えるのは、収集や資料組織化、配架など物流系業務である。司書に よる情報媒体単位での判断と処理の積み重ねがデータ部を形成する。
2.4 出力準備部
 電算DBにおけるマスターデータは、利用者が直接アクセスすることを前提せず、コンピュータが管理しやすい仕様で記録される。このため表示の際に出力準 備部で人間が認識しやすいように加工する必要がある。
 図書館システムにおけるデータ部の情報は、図書や雑誌など、あらかじめ人が読むことを前提に編集されているものが多く、出力準備部でデータ加工する必要 はない。その代わり情報媒体によって情報を提供するため、情報媒体の調達が必要とされる。自館所蔵のみならず図書館ネットワーク上の資料も対象となる
2.5 物流の存在
 4つのセクションを通じ、図書館システムを特徴づけるのは、情報媒体の物流の存在である。情報媒体の貸出しや閲覧によって情報提供が行われるため、図書 館システムにおける多くの事務量が物流系業務によって占められる。
 図書館へのコンピュータ導入は、インデックス部の業務を大幅に効率化させたが、物理的物流にかかわる事務量は依然として膨大である。星野はFRID技術 の導入による業務の効率化について算出を試みたが、図書館の業務の中で効率化を図れるのは一部の作業であった。(注5 星野盾「図書館の電算システム活用 による館内物流の未来像について〜中小規模図書館公共図書館における資料物流の現場から〜」『ビジネス支援図書館の展開と課題(AVCCライブラリーレ ポート2006)』高度情報映像センター,2006,p.145-147)

3 図書館システムを支える司書の技術
 司書の業務効率化が困難な理由は、利用者や資料媒体個々に判断と処理をほぼ同時に行うためと思われる。司書が行う多様な座標軸に基づく判断を、あらかじ めプログラミングされたアルゴリズムとパラメータによって機械的に判断することしかできないコンピュータで行うことは困難である。司書が現場で必要とする 技術を作業毎に列記したのが第1表である。
3.1 資料選定技術
 図書館システム全セクションに必要とされる。入出力部では利用者への資料提示のため、検索部では検索結果判断のため、データ部では配架、資料移動、除籍 のために資料選定能力は不可欠である。
 購入や物流の現場では、1冊平均4〜10秒足らずで選定する必要があり、全ての資料に対し、資料媒体単位で目録やインターネット、図書などを確認する時 間的余裕はなく、実際には経験に裏づけられた知識と状況によって判断することになる。(注6 鈴木桂子「アンケートから見た公共図書館の選書の現場」『み んなの図書館』2006.6 通巻350号 2006.5, p.83-85)
3.2 資料組織化技術
 資料組織化技術はデータ部や検索部における図書館システムの構築や調査に不可欠である。目録構造理解は効果的な検索のため、配架法は情報媒体の調達ため に必要とされる。
 資料組織化技術を育てるのはデータベースを構築してゆく作業であると思われ、媒体単位での目録作成や配架作業など日常的な物流系業務がこれにあたる。
3.3 コミュニケーション技術
 司書はインタビューによって利用者が真に求める情報を明確化してから情報検索を行う必要がある。コミュニケーション技術がなければ、インタビューによっ て利用者が求める情報の明確化はできない。いかに優れた検索技術を持っていても、コミュニケーション技術がなければレファレンスサービスや読書案内を行う ことはできない。
 コミュニケーション技術は、普段の理論的研修と現場の実践によってのみ育成される。
3.4 調査検索技術
 検索エンジン部を支えるのが調査検索技術である。検索キーワード選定や各種ツール利用など、調査にかかわる広汎な技術が調査検索技術にあたる。
検索エンジン部は資料組織化技術に支えられるインデックス部を利用して資料媒体を検索し、資料選定技術によって最適な資料媒体を絞り込む。なお、あらかじ め利用者が求める情報の明確化が前提となる。調査検索技術は、資料選定技術、資料組織化技術に加えコミュニケーション技術があって初めて活かされる。
 検索エンジン部とインデックス部が対で機能するのと同様に、調査検索技術と資料組織化技術は表裏一体の構造を持ち、検索結果を評価するため資料選定技術 が必要とされる。
調査検索技術育成には、資料組織化技術と資料選定技術が育成される業務環境が必要である。

4 検索部における司書の役割
 司書が利用者と資料を結びつけるため、最も効果的な役割を果たすのが検索部である。検索部において司書は調査検索技術を活かして検索エンジンの役割を果 たす。実際の現場における検索エンジンとしての司書の役割をみてみる。
4.1 開架フロアー
 図書館システムの中で唯一検索部(背ラベルによる排列)とデータ部がリンクした構造を持つのが開架フロアーである。開架フロアーは、図書館システムにお いて最も合理的な構造を持つが、構造上検索エンジン部は存在しない。任意の開架資料に対し利用者自らアクセスすることは容易でなく、司書が検索エンジンと なることが多い。
4.2 レファレンスと読書案内
 レファレンスサービスや読書案内の現場では、インタビューと資料検索がほぼ同時に行われ、入出力部と検索部との間で相互にデータ補完することにより求め る情報が検索される。検索部における検索エンジンと入出力部の時間的・空間的境界は、図書館システムでは曖昧なため、入力部である窓口マネージメントが重 要となる。レファレンスサービスの起点が貸出返却カウンターやフロアーであることは多く、普段から直接利用者と対応する貸出返却カウンターの職員が検索エ ンジンの機能を果たせないとき図書館システムは機能しない。
4.3 検索キーファイルとしての司書
 中小規模公共図書館の実際のサービスの中では、必ずしもコンピュータや書誌ツールによって資料が探し出されるわけではない。目録など検索ツールで検索で きない情報を探すとき、最も頼りになるのが物流系業務の際に資料媒体から取り込まれる司書の記憶である。 
 司書に取り込まれる情報は、分類体系の中で構造化されて記憶されると思われ、求める情報が存在する可能性の高い配架場所や請求番号について反射的に分か ることは多い。そのとき司書は、検索エンジンのみならず、インデックス部の検索キーファイルの役割を果たすと考えられる。
5 まとめ
 図書館システムは、4つのセクションから構成され、司書の物流系作業の積み重ねにより開発される。中でも図書館システムにおいて検索部は極めて重要な役 割を担うが、そこで司書は検索エンジンの役割をはたすとともにインデックスとして機能する。司書に必要とされる調査検索技術は、資料選定技術や資料組織化 技術、コミュニケーション技術の上に成立するものと思われ、現場で実際にサービス行う上で、技術を統合して使いこなす技能として習得する必要がある。実際 の現場での窓口経験とともに、資料選定技術や資料組織化技術を支える物流系業務が検索エンジンとしての司書育成のためのシステムとなっている可能性は高 い。
 巨大電算DBとして存在するインターネットが、Yahoo!やgoogleなど広義な意味での検索エンジンの定期的クロールによって、データベースとし て維持されるのと同じく、図書館における物流系業務にともなう資料媒体に対する恒常的なクロールが、検索エンジンとしての司書技能を維持させていると思わ れる(第1表 図書館システムにおける業務と必要技術及びクロール情報)。
 図書館がワンストップサービス機関として存在するため、図書館において課題であり、効率化と合理化の対象と考えられる物流系業務が図書館システムの根幹 である検索部を支えている事実を直視し、技能を育てる側面からあらためて物流を見直す必要がある。


「図書館の自由」を構成するもの
−船橋西図書館事件最高裁判決などを手がかりに−
山家篤夫(東京都立中央図書館)

1.はじめに
 図書館の自由への社会的認知を広げるには,図書館関連法の中でも作用法の系列である図書館法−社会教育法−(地教行法)−教育基本法を,知的自由を保障 する機関としての図書館の実践活動とともに押し出すことの重要姓が指摘されてきた.
 図書館関連法から図書館の自由原則を導けるかを,裁判所が図書館の自由を主題とする事件で示しはじめた法解釈を手がかりとして試みる.
【船橋事件最高裁判決の評釈】
@柴田健司「法学新報」113(5・6)2007.3 p171-237
A公法研究会「法学論叢」160(1)2006.10 p91-111
B本多健司「判例タイムズ」(1215)2006.9.25 p93p
C岡邦俊「JCAジャーナル」53(2)2006.2 p34-37
D竹田稔「コピライト」45(536)2005.12 p32-35
 
2.「図書館の自由」を構成するもの
 「図書館の自由に関する宣言 1979年改訂」(以下,宣言)は,@図書館サービスは価値中立性を基本にすること,A住民は図書館からサービスを受けとることに権利を持つこと(権利 性),Bその権利は住民に公平に保障されること(公平性),という3つの命題から構成されている.
 すなわち前文の副文1で図書館の憲法21条準拠原則を示した後,

 2「すべての国民は(公平性),いつでもその必  
要とする資料を(中立性)入手し利用する権利を有する(権利性).」
 3「図書館は,権力の介入または社会的圧力に左右されることなく(中立性),自らの責任にもとづき(中立性),図書館間の相互協力をふくむ図書館の総力 をあげて(公平性),収集した資料と整備された施設を国民の利用に供するものである.」
  4「わが国においては,図書館が国民の知る自由を保障するのではなく,国民に対する「思想善導」の機関として,国民の知る自由を妨げる役割さえ果たした歴 史的事実があることを忘れてはならない(中立性).」
 5「すべての国民は,図書館利用に公平な権利をもっており,人種,信条,性別,年齢やそのおかれている条件等によっていかなる差別もあってはならない (公平性).
  外国人も,その権利は保障される(公平性).」

 続く第1,2は収集,提供の実務に3命題を適用した規範.そして精神的基本権保障という図書館固有の目的から,第3読書の秘密,第4検閲・自己規制排除 (ともに権利性)を提示している.
(1)価値中立性
1)船橋事件最高裁判決は,図書館職員が嫌悪する見解を排除することは,「図書館員の基本的な義務違反」であるとした.最高裁は図書館関係法令をどのよう に解釈してこの判断を導きだしたのか.次のような指摘がある.

−最高裁による法令の参照の仕方を辿ってみると,公立図書館が一般公衆としての住民の利用に供するために広く開放されていること(開放性),そして,多様 な住民が開放された図書館を利用する資格を有する以上,公立図書館は,多様な思想(あるいは,価値観・ニーズ・問題関心)に対して開かれていなくてはなら ないこと(中立性),以上の二点が特に念頭に置かれているように見える.
 開放性については,図書館法における「一般公衆」(2条1項および3条)という表現,および文部省告示における「広く住民の利用に供する」という表現の 中にそれを読みとることができようし,中立性については,図書館法における「その教養,調査研究,レクリエーション等に資する」(2条1項)という表現, 文部省告示における「住民の高度化・多様化する要求に十分に配慮すること」という表現の中にそれを読みとることができよう.−(判決評釈A)

2) また,最高裁判決が「公立図書館の管理及び運営に関する望ましい基準」から引用するのは,図書館が資料の収集・提供において「住民の要求」に配慮し応える よう求める部分であるという指摘がある(判決評釈).判決は「望ましい基準」から次のように選択・引用した.

−公立図書館は,図書館資料の収集,提供等につき,@住民の学習活動等を適切に援助するため,住民の高度化・多様化する要求に十分に配慮すること,A広く 住民の利用に供するため,情報処理機能の向上を図り,有効かつ迅速なサービスを行うことができる体制を整えるよう努めること,B住民の要求に応えるため, 新刊図書及び雑誌の迅速な確保並びに他の図書館との連携・協力により図書館の機能を十分発揮できる種類及び量の資料の整備に努めることなどとされている. −

 資料・情報への「住民の要求」は多様である.従って,「住民の要求」に応える資料選択・蔵書構成の基本は価値中立性になる.
 この点,「教育的配慮」をその目的に掲げている博物館法(2条)と比べると,図書館法では「「教育性」は弱いものとなっている点が注目される」(山口源 治郎「図書館法と現代の図書館」105p)という指摘がある.(ここで教育性とは,価値伝達性の意であり価値中立性に対する.)公立博物館は「一般公衆に 説明,助言,指導等」(博物館法3条)を事業とする.また,「公立博物館の設置及び運営に関する望ましい基準」(1973年文部省告示,2003年改訂) には「住民の要求」の文言と視点が見られない.図書館が一般公衆へのサービスを専ら目的とするのに対し,博物館法がカバーする美術館は文化的創造者への助 成給付も,博物館は一般に文化的財産保護や調査研究も目的とするという違いからだろう.
 最高裁は「一般公衆の利用」を目的に掲げる図書館法と,「住民の要求」に応えることを重視する「望ましい基準」を確認・解釈して,図書館職員の基本的職 責として価値中立性を引き出したといえよう.
3) 価値中立性は,例えば,宣言第1-2-(2)「多様な対立する意見のある問題については,それぞれの観点に立つ資料を幅広く提供する.」のように,収集・ 提供の実務においては多様性の保障になる.
 なお,ALAは1980年の権利宣言改訂で価値中立性をより直裁に打ち出した(「図書館の原則 改訂版-図書館における知的自由マニュアル 6版-」69-71p).
(2)権利性
1) 旧憲法下では,国や自治体が一般市民に提供する道路や市民会館,博物館,図書館などの公共施設(営造物)について,その主体は国や自治体であり,公共施設 を利用する一般公衆は客体であって,市民が公共施設を利用して受ける利益は権利ではなく反射的利益に過ぎないとされていた.

−営造物とは,行政の主体によって直接に特定の行政の目的に供せらるる継続的の一体の施設をいふ.・・・人の利用を為し得ることは権利ではない.行政はそ の営造物を公共の利用に供し,行政の客体はただその結果として之を利用し得るのみ.即ち利用者は営造物設定の反射たる利益を享受し得るに過ぎない.−(磯 崎辰五郎「行政法」1936.日本評論社)     

 このような行政法の通念のもとで,公立図書館は国家の目的である思想戦を内在化した.
 東大和市図書館『新潮45』提供禁止事件裁判の1・2審判決は,この伝統的な解釈に軸足を置く.また「除籍基準は,職員に対して義務を課するものでは あっても,自治体自身や職員に,(蔵書の)著者との関係で何らかの法的義務を負わせたり,その著者に対して何らかの権利を付与したりするものではない」 と,公法と私法の守備範囲を厳密に区別し,住民が図書館を利用する利益の結果として生じる著者の利益は反射的利益とした船橋事件裁判1・2審判決もそのよ うに見える.
 国民主権を原理とする新憲法に対応してこの伝統的解釈を修正し,公共施設の利用について主権者・国民の主体性や権利性を確立していこうとする研究や判例 が1960年代から積み重ねられてきた.その流れの中で,市民が公共施設の利用によって受ける利益を「法的保護に値する利益」に拡大して司法救済する方策 (訴えの利益拡大論)は「現実的な理論」と評価されてきた(例えば「現代行政法大系 第9」有斐閣(1984)309-310p).
 船橋事件最高裁判決はこれによって,原告を救済したといえよう.なお,最高裁は国家賠償法1条1項を次のように解説している.

−(同項は,)公務員が個別の国民に対して負担する職務上の職務上の義務に違背して当該国民に損害を与えたときには,国または地方公共団体がこれを賠償す る責に任ずることを規定したものである.−(「民集」39(7)p1512)

2) 最高裁が認定した図書館蔵書の著者の「法的保護に値する人格的利益」とはどのようなものか.次の指摘が適当だろう.

−人格権は,人格に専属する個人の自由・名誉・身体・精神・生活等の人格的権利ないし法的利益の総称としての包括的権利概念であり,その下位に名誉権・肖 像権・氏名権・プライバシーの権利があり,これらの権利が全体として人格権を構成し,この人格権の外延に,権利製までは認められないが,不法行為法上の法 的保護に値する人格的利益が存在すると理解すべきであろう.−(判決評釈D)

 また,最高裁判決の「著作者の思想の自由,表現の自由が憲法により保障された基本的人権であることにもかんがみると」という記述については,上記・人格 的利益の「内容を充填するため」(判決評釈@)あるいは,「法的保護に値する利益といい得るための重要な判断事情」(判決評釈B)という解釈がある.
3) 船橋事件最高裁判決の効果−住民が図書館を利用して資料や情報を受領する利益
 大阪・熊取図書館の利用者が協力貸出申込みを拒否され,町に損害賠償を請求した裁判で,大阪地裁は,「公立図書館が住民に対して思想,意見その他種々の 情報を含む図書館資料その教養を高めること等を目的とする公的な場」と船橋最高裁判決を引用し,「住民も公立図書館から上記のような図書館資料の提供を受 けることにつき法的保護に値する人格的利益を有するものと解されることを考え併せると,熊取町図書館において,利用者から所蔵していない図書について利用 者から図書貸出しの申込みを受けた場合,大阪府立図書館又は他の図書館から当該図書の協力貸出しを受けて利用者に貸し出すかどうかは,その判断につき館長 の自由裁量に委ねられているものではなく,熊取図書館において所蔵している図書について利用者から図書貸出しの申込みを受けた場合に準じ,図書館法その他 の法令規定に基づいて決せられる必要があり,正当な理由がなく利用者の上記申込みを拒否するときには,利用者の上記人格的利益を侵害するものとして国家賠 償法上違法となるというべきである.」と判示して,町に5万円の賠償を命じた.控訴審で,原告・被告は,町が遺憾の意を表明するなどの大阪高裁の和解案に 同意した(「み」2008.2).
 船橋事件は事案が異例であることから,多くの評釈は最高裁判決の先例効果(射程)は極めて限定的だとしている.しかし,最高裁判決の「公的な場」規定 は,図書館と住民・利用者との関係に反射的利益論を適用せず,住民が図書館を利用する利益に法的保護を認める熊取判決を導いた.その効果と意義は重要であ る.
4)  図書館を憲法21条の権利を具体化する枠組み・制度として位置づけるには
 船橋事件最高裁判決は、悪質な権利侵害を人格的利益の侵害と構成する「絶妙なやりかた」(判例評釈@)で救済した。では、裁判所が表現の自由から図書館 利用の権利性を語る道はないのだろうか。
 参考事例2件をあげる.一つは天皇肖像コラージュ事件裁判で,住民らのコラージュの特別観覧を拒否した富山県立近代美術館の措置は21条の権利を侵害す るとして富山地裁が損害賠償を命じた判決(「現代の図書館」2003.6)である.
「知る権利は,法令による開示基準の設定と具体的開示請求権の根拠付けがあって初めて, 裁判規範性を有する」.県美術館条例上の特別観覧制度は「県立美術館に収蔵されている作品についての知る権利を具体化する趣旨のもので…正当な理由なく不 許可とするときは,憲法の保障する知る権利を不当に制限することになる」.「(特別観覧を制限する法益と制限しない法益を)較量をするに当たっては…経済 的自由に対する制限における以上に厳格な基準の下でなされねばならない」ところ,「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されたといえない」.
 だが,控訴審判決は「・・・趣旨のものとはいえない.」と断じて地裁判決を取消し,最高裁も住民らの上告を棄却した.
 もう一つは米国のクライマー事件の第3巡回区連邦控訴審裁判所判決(1992.3)である.「他者の妨害になる行動」をする利用者を退館させられるとす る館則の連邦憲法修正1条の合憲性を争う裁判で,裁判所は,@情報を受け取る権利は修正1条に基づいて成立する.A公立図書館を利用する権利は,情報を受 け取る権利の中心的位置(the quintessential locus)を占める,と判示した(前出「図書館の原則」p319).
4)利用記録−読書の秘密−の自己コントロール権
 1954年宣言の副文案で検閲反対の条項にあったものを,「中小レポート」の提言,貸出方式の改革のなか,1974年改訂で主文第3とした.
 ALAは1971年評議会で「図書館記録の秘密性に関する方針」声明を採択したが,1989年にFBIの「図書館覚醒プログラム」を憂慮し,さらに「図 書館利用者の個人識別情報の秘密性に関する方針」を1991年評議会で採択した(「図書館の原則 改訂版」229p-).
(2)公平性
1) 判決評釈Aでの前記「公開性」は、公の施設であれば公開されていることは当然であり,むしろ公平性の意であろう. 憲法14条「法の下の平等」,地自法244条3項「住民が公の施設を利用することについて,不当な差別的取扱いをしてはならない」法理としても自明だが, 子どものリクエストに関する論議(「良書主義」と年齢による規制)や,図書館利用に障害がある人へのサービス(障害者差別の克復),熊取事件(信条による 利用規制)等は実践の難しさや現実の落とし穴を示す.
 ALAが「図書館の権利宣言」の平等条項に「年齢」を入れたのは1967年.さらに1972年に激論を経て「図書館への未成年者のフリー・アクセス」方 針を評議会採択し,以後もフリー・アクセスを進める改訂を行っている(前出「図書館の原則」152p-).
2)「図書館資料の利用に対するいかなる対価をも徴収してはならない.」(図書館法17条)は,「機会の平等」理念の表明であり,それは「結果の平等」を 排する新自由主義さえも否定できない近代(資本主義)社会の基本理念である.自己責任−自己決定論も,「機会の平等」を欠けば正統性を保持できない.

3.図書館の自由を構成する命題の前提
 これらの命題は次のような事実や認識を暗黙の前提にしているように思える.
(1)資料・情報とその受容の性格
○図書館が提供する資料と情報は,人類の知的,歴史的生産物であり,社会全体の共有財産であること.
○資料と情報にアクセスした人は,内心で様々に受容・加工・再生産する.読まれ方は様々であること.
(2)表現の自由は他の基本的人権に優越すること.
 その理由は次のように説明される.「表現の自由は,自己実現(幸福追求権)の価値を基本に置いた自己統治(国民主権に基づく民主社会への参加)の価値に よって支えられている.」(芦部信喜「憲法学V人権各論(1)」1998年,258p).この説明に加え,次の2点も重要である.
・真理への到達を保障する:真理と虚偽を公開の場で組み打ちさせよ,という言論の自由市場論と同義.
・安定ある変化:論争を抑圧すれば,変化を妨げ,表現やその受容を抑圧された者による頽廃や破局的行動を促進する. (エマースン「表現の自由」1972年2p-)(3)知る自由に請求権を付与する「知る権利」の拡大−「公衆の関心事」からのアプローチ
 名誉毀損の違法性阻却事由に,「公共の利害に関する事実」(刑法230条の2)がある.これは「public interest」の誤訳と指摘され(阪本昌成「プライヴァシー権」325p),「公衆の批判にさらすことが公共の利益増進に役立つと認められる事 実」(松井「マス ・メディア法入門」p101),「社会の正当な関心事」 (竹田稔「プライバシー侵害と民事責任」p200)と説明され、表現の自由の「内在的制約」論を牽制する.
(4)その他「終わることなき対話」、コミュニケーション過程による正統化、寛容、ブリージング・スペース<息抜き>などの表現の自由論.
(5)「知る自由」があって「表現の自由」がある−これは図書館員にとってはもともと奇異ではないが,インターネットやブログの普及が広範な情報受領者= 情報発信者という状況を生み,多くの人々が情報の受容がなくては新たな発信・創造はありえないことを日々体験している(という).表現の自由に対する知る 自由の優越の進行というべきか.
以上


図書館問題研究会 第34回研究集会発表要綱2008
2008年2月24日発行
編集・発行 図書館問題研究会
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