<携帯基地局設置計画を白紙撤回させるまで>

2003年3月

某携帯電話会社(以下●●)より、マンションの管理会社に、マンション屋上へ携帯電話の中継基地アンテナ設置の申し入れがあった。

2003年4月

マンション各戸の郵便受けに●●のアンテナ設置計画の資料と説明会の知らせが配布された。(マンション住民はこの時点で初めてこの計画を知った。)

2003年5月

●●側よりマンション住民への説明会が実施された。マンション戸数の1/4が出席した。席上では住民からアンテナ設置に伴うさまざまな問題(例えば、アンテナを設置したときの建物の強度の問題、アンテナ設置に伴う電磁波による健康被害、電波障害)が指摘された。●●は住民側の様々な指摘に対し、ビデオや用意してきた資料などで説明した。

マンション管理組合理事会が開催された。理事会は設置賛成の意向で住民にアンケートを実施し、同時に採決を行う事を決定。

2003年6月

携帯電話中継基地局アンテナ設置についてマンション各戸に対し記名式アンケートとともに、採決のための臨時総会開催のお知らせが配付された。

その中には「理事会にて、無線基地局の設置については検討の結果設置する事で、皆様にお諮りすべきとの結論に達した」と明記されていた。また、アンケートと、採決のための委任状や議決権行使書が同時に添付されており、アンケートの結果が検討されたり生かされることがないような決定方法であった。

上記2点を疑問に思った住民有志が、インターネットや地域図書館など、さらにネットワーク運動の市議会議員さんらの協力で、電磁波やアンテナ設置の問題について情報を得た。また、地域住民への説明が全くなされていない事、●●側の説明を鵜呑みにしている事にも不安を覚え、理事長に説明を伺いたいと連絡した。

翌日話し合い(理事長他3名)。この席で、アンケート結果を参考にするために採決を延ばす事、マンションだけでなく地域の問題として考える事、様々な不安を解消するためにもう少し調査をする事などを要望したが、採決を延ばす事は出来ない、地域に知らせるのは採決後の工事着工前でよい国や●●が安全だといっているし、マンションには修繕のための積立金が必要なのでいい話だ、などの理事長の意向が明らかになる。最終的に採決前に一度住民のみの話し合いを持つ事になった。

前日の話し合いでの、理事長の強硬な態度に不安を覚えたため、住民有志が、マンションの資産価値や強度、電磁波などについての基地局についての情報提供(住民より)のビラを作り各戸に配付した。

基地局設置についての話し合い。1/4世帯が参加。決断が早すぎる、基地局の安全性・マンションの資産価値についてなどの意見がでるが、理事長はやはり予定通り採決を行うと表明。

臨時総会が開かれる。2度目の説明会で当初予定されていた重量がさらに重いものに訂正される。説明会後採決の予定だったが、理事長が言を翻し、検討のための委員会を作る(結局は何もしなかったが)などして、もう少し考えてから改めて採決をすることに。この時集計されたアンケート結果では反対が1/4で、もし採決をとっていれば、反対に決定だった。(このアンケート結果は今でも住民には知らされていない。)

理事長名で経過報告会が開催され、1/4弱世帯が参加。内容は、反対派住民に対する実名をあげての中傷めいたものだった。

2003年7月

設置についての最終決断に向けての臨時総会を開催。設置見送り(白紙撤回)が3/4を占め、計画が撤回された。


以上が経緯です。こういった問題でよく言われるように、企業側の強硬な姿勢にたいへん怒りを覚えましたが、その事よりも、マンションの管理組合や理事会が、民主的に運営されていないこと(発言のマナーなどは小学生以下です)、管理会社が「善良なる管理の義務」を果たそうとしない事、また多くの人が自分の目や耳で確かめもせずに、●●や管理会社の言う事を鵜呑みにしていることや、調査やアンケート結果報告などの義務を果たさずに権限を平然と振りかざし、個人の思想や言論の自由を平気で侵害する人が存在することに驚きました。
また、もうひとつショックだったのは、アンテナ設置予定場所に比較的近い同じマンション住民に「(重量などの面で)直接影響がないあなたが、どうしてそんなに一生懸命反対するのか?」と問われた事です。同じマンションに住む住民として、一部の人が困ったり不安に思うのを承知の上で、お金が入ってくるからというだけの理由で、自分勝手に賛成するような事は私には出来ません。しかし、そういう考え方をする事が不思議に見えてしまうなんて、他の人を思い遣る気持を持つ事が珍しくなってしまったのか・・・と、とてもやりきれない気持になりました。
また、反対とか賛成とかの前に、話し合いをしたいと思っていましたが、賛成派の人は堂々と賛成意見を述べる事はなく、反対する私達への的外れな批判に終始したように思います。

私自身も、基地局が自分のマンションに建たないかわりに、どこか他に建つということや、自分が使っている携帯電話への電波もどこかの建物の上から発信されているのも事実で、自分も被害者であるだけではなく加害者でもあると自覚しました。だからこそこうやって声をあげる事で、企業が安全な技術を生み出すため、また国がもっと国民の健康や安全を考えるため、自分ができる小さな一歩を積み重ねていかねばと思いました。

マンション全体の経過とは別に、個人的に●●の社長宛に内容証明付き郵便で「●●は安全というが、信用できない。もし基地局からの電波で身体的な被害を被ったと判断された場合に、住民1人につき1億円以上の賠償と、全国の住宅地のアンテナをすみやかに撤去する事を社長の名で保証して欲しい。」という要望書を送りました。これに対して●●からの解答がないため、担当者に電話で問い合わせ、「あなたたちが言うように安全ならば、賠償などという事も起こらないはずなので、この保証書を書く事はできるはずですよね。私達も安心したいので、ぜひ書いてほしい。」と伝えたが、「こういったものは社長印では出せない。」「何かの団体(電磁派研のこと?)が一枚かんでいるのだろう。」「我々は国の基準を守っているんだから、どんなデータ(文部科学省の調査結果や、WHOやヨ−ロッパでの動きなど)を並べられても、全然相手にしていない。」などの答えが返ってきました。しかし、(●●側は認めないでしょうが)この要望書は効果があったと思います。

また今回の場合、採決の日程が知らされてから危機感を感じて、荻野晃也さんの著作や電磁波研が発行した本を読み行動を起こしましたが、もっと早く、第一回の説明会の前からいろいろな情報を持っていればよかったと後悔しています。●●の配る資料には、おかしなところがけっこうありますが、よく勉強しておけば、その部分に気づいて、反論する事が出来ます。例えば●●は「携帯電話の電波は高周波だから安全」と何回となくいいますが、変調技術が使われているので低周波も混ざっているのが事実だし、基地局を動かす電力が低周波であることにはまったく触れません。また基地局の電力量を47000Wと書かずに47KWと、嘘ではないけれどまるでわざと小さく見せるような表記をしています(47000Wは日常的に使う家電製品などではありえない数値です)。アンテナの出力も本当は96Wなのに60Wと書いてあり、それも最大出力ではないようです。
もうひとつ●●は「国の基準よりはるかに小さい値だ」ということを何度も主張しますが、日本の基準値は非熱作用が考慮されていないことは、もちろん言いません。彼らは聞かないと本当の事は言わないし、都合の悪いことは存在すら認めません。また設計図に光ファイバーの文字があるので、各戸に光ケーブルがひかれるのだと勘違いして賛成の理由にしていた住民もいましたが、●●は携帯会社なのでその光ファイバーはブロードバンドとは関係がなく、基地局設置でインターネットの接続環境がよくなったり、料金などが安くなるような事はありません。
とにかく、よく勉強しておくことが肝心だと思います。実際にアンテナが建っているマンションの写真などを用意するのもインパクトがあります。


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