日本弁護士連合会主催の電磁波シンポジウムに参加して

報告者:電磁波問題市民研究会・会員

 2012年12月15日に東京日比谷のコンベンションホールで行われた、日本弁護士連合会(日弁連)が主催した催しに参加したので、概要を報告する。日弁連では、すでに2010年4月に「身の回りの電磁波とその問題」というシンポジウムを行っていて、今回のシンポジウムは電磁波問題について2回目にあたる。催しは、4人の方の基調講演や報告から成る第1部と、少しの休憩をはさんで、6人のパネリストによるパネルディスカッションの第2部という構成で行われた。

 第1部。高峰真・弁護士による基調報告、「日本弁護士連合会電磁波問題に関する意見書について」。2012年9月13日にまとめられ、環境大臣、経済産業大臣、厚生労働大臣、総務大臣宛に提出された日弁連の意見書の概要が述べられた。意見書では、予防原則の観点に立ち、「将来の健康被害の発生、特に影響を受けやすいと思われる子どもたちや病人の健康被害の発生を防止するため」、(1)中立、公平な電磁波安全委員会(仮称)の設置、(2)センシティブエリアでの暫定的規制の実施、(3)電磁波放出施設に関する手続き規制と情報開示、(4)実態調査の実施、また、人権保障の観点から、(5)電磁波過敏症への一定の対策、などを求めている。

スウェーデン:自治体等が過敏症対策
 中西良一・弁護士による海外調査報告、「電磁波問題に関するスウェーデン・スイス調査報告」。上の意見書にも例示が書かれている海外の状況のもとになるもののひとつが、この2011年3月に行われたスウェーデン、スイスでの調査であり、その報告。スウェーデンは意外なことに、政府の電磁波問題に関する考え方は日本とそれほど違いがない。ただし、民間企業や自治体レベルで自主的に規制や保護を行っていることは参考になる。スウェーデンの報告は、電磁波問題を冷静に考えるための示唆に富むものであると感じた。カロリンスカ研究所の准教授であるオッレ・ヨハンソン氏の意見の一部を紹介しておくと、研究の優先順位として、希であるガンよりも、免疫の低下、睡眠障害・頭痛、その他ありふれていて訴える人の多い病気との関連をこそ重視すべきである、というものがあった。

スイス:予防原則により規制
 さて、スイスである。前記のヨハンソン氏をして、「スイスは自分たちの国民でギャンブルをするつもりがない」と言わせるだけあって、健康影響が断定できないものであっても技術的・運営の面・経済的な可能性があれば、予防原則の観点から規制を行うようにしている国であった。電磁波過敏症についても正式な疾患と認められているわけではないが、様々な福祉や援助が与えられているとのこと。また携帯基地局は、設置のための電磁波暴露状況の提示や設置に関する異議申立制度などがある。  坂部貢・東海大学医学部教授による基調講演、「電磁波の健康影響に関する最新の研究」。医学的な面からの話をわかりやすく解説していた。ここでは、印象深かったことのみいくつか紹介する。多くは混同されているが、電磁波のエネルギーの強さに依存する物理的な健康影響と過敏反応は別で、例えば発がん性と電磁波過敏症は医学的解釈、対応が異なってくる。化学物質過敏症患者は有害化学物質を回避するため、総暴露量が減り、結果的に発がんリスクは低くなる。電磁波過敏症の標準化に向けた調査が始められているが、そのひとつとして、英国と日本の症状は共通で、同じ問診票で評価できることがわかってきている。電磁波と一言で言うが、周波数によって、また強さによって影響も異なるので、整理して考えないといけない。さらに個人の感受性も異なるので、健常者向けの短時間被爆、小児のがん予備軍の少し低い桁の長時間被爆、さらに低いレベルの過敏症などと、それぞれに規制値を設けることが大事である、等々。

子どもへの対応を急ぐべき
 近藤加代子・九州大学芸術工学院准教授による、「小学校における電磁環境と子どもたちの健康について」。福岡県太宰府市の娘さんが通っている小学校での調査をもとに報告があった。校舎から100メートルのところに携帯基地局アンテナがあり、情報を伝え合うことで何人もの子どもたちにいろんな症状が出ていることがわかり、アンケート調査等を実施した。その結果、日本の基準以下であるが、欧州評議会勧告基準の数倍の電磁波密度があった。症状は、学校の要因、自宅の要因、無線機器の要因などと相関関係が出た。環境基準があるから安全とはいえない、子どもへのリスク対応を急ぐべきとの指摘があった。

ドイツ:低周波のみ予防原則
 第2部は、第1部での発表者のうちの3人に、さらに3人が加わり、コーディネーターの進行のもと、およそ(1)現状について、(2)予防原則とセンシティブエリア、(3)過敏な人への対策をどうするか、(4)まとめといった順序で話が進められた。
 ここでは詳細は書けないので、以下は加わった3人の話と、まとめのみ報告する。戸部真澄・大阪経済大学准教授は、「ドイツの法令と訴訟、予防原則について」を紹介した。ドイツは裁判が起こる中で、裁判官が独自に調査したものを個別に判断材料にしてきたのだが、1997年以降基準ができてきて、そこでは「危険」と「リスク」を分けた判断をしている。前者は、科学的によくわかっているもので、危険だから規制しようという未然防止の考えが適用される。後者は、科学的には不確実性のもので、わからないから規制しようという予防原則の考えが適用される。具体的にはドイツは危険領域では低周波・高周波とも規制値があるが、リスクに関する対応では、低周波はセンシティブエリアについてはかなり厳しい規制値を適用しているが、高周波については非熱作用に関して規制はないということである。そういえばドイツのルフトハンザ航空が機内Wi−Fiに熱心なのも、そういうことかと気づかされた。
 石川寿美・鎌倉市市議会議員は、携帯基地局条例が全会一致でできるまでの経緯と、その後の運用の不備について話をした。
 また、加藤やすこ・環境ジャーナリストは、文部科学省による学校のデジタル化(無線LANなど)の今後の進展について、スマートメーターの問題、地下街の電磁波環境が悪化していることなどを話した。
 まとめとして、過敏症については診断のガイドラインができればかなり変わること、科学的なことがすべてわかっていなくとも予防原則の適用という政策・価値判断でできることはあるということ、人権を守るという立場でさらに世に訴えること、公正な調査をいろいろなレベルで行うべき、等々が強調された。
 この催しは様々な情報が得られたとても有意義な会であったが、今回会場の都合で定員200名、事前申し込みを要したということや宣伝不足なのか、参加者が85名程度であったことはもったいない。また、会場参加者は質問や意見を言う機会は設けられていなかった。実際、最後に一人発言しようとした人もそっけなく対応されていた。後から聞くと、時間的な理由ということであるが、これらは改善してほしいものである。


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