<海外情報>

極低周波電磁波は弱くても遺伝子発現を変える影響をもつ(ミシガン大学トゥロスコ博士の研究)

マイクロウェ-ブニュ-ス2000年11・12月号より
(抄訳・TOKAI)

40〜50ミリガウスレベルの磁場で
 「極低周波電磁場(ELF・EMF)は40〜50mG(ミリガウス)のレベルで遺伝子発現を変更し、なんらかの方法で発がん(腫瘍)プロモ−タ−(がん・腫瘍の発生を促進する役割のもの)のように振舞う」と米国ミシガン大のジェイムズ・トゥロスコ(James Trosko)博士の研究所が新研究論文を出した。
 マイクロウェ-ブニュ-スに対して、トゥロスコはこう語っている。「私は極低周波が生物学的な影響をもつことに懐疑的な立場だったが、25回も実験を繰り返した結果、極低周波電磁場はTPAのような化学的な発がんプロモ−タ−と似た属性をもつことがわかった」。そして、彼は電磁場が発がんプロモ−タ−として確定するにはなお多くの研究が必要であることも強調した。

今回の研究は注目されている
 トゥロスコは遺伝子発現に電磁場が影響を与えていることを認めた。もしトゥロスコの研究が追試でも確認されれば長年争われてきた「電磁波の生体への影響論争」を静研究をめる方向に向かうかもしれない。
 トゥロスコの研究が多くの研究者に注目されているのは二つの理由からである。一つは、今回の遺伝子発現への影響が40〜50mGという低いレベルで生じたこと。もう一つは、トゥロスコの研究チ−ムが国際的にも知られたメンバ−だからである。トゥロスコは日本の広島にある「放射線影響研究財団」の前研究チ−フで、がん研究者では有名な人物だ。チ−ムメンバ−の山崎ひろし博士(関西学院大)はフランス・リオンにあるIARC(国際がん研究所)の段階的発がんに関する研究班の前チ−フであった。

レパチョリ博士もコメントを行った
 WHO(世界保健機関)EMFプロジェクト責任者のマイケル・レパチョリ博士は「これは重要な研究であり、確証が欲しい。そのために同じように信望のある研究所で追試が必要だ。2001年6月に『EMFのがんリスク』を検討するIARC(国際がん研究所)の委員会が開催されるが、それまでに追試が完成される必要がある」と語った。

当然疑問派もいる
 しかし早くもこのトゥロスコの研究に疑問を呈している人たちも何人かいる。米国サン・アントニオのブルック空軍基地のRF/MW(高周波電磁波=ラジオ波/マイクロ波)研究チ−ムのジョナサン・キ−ル(Johnathan Kiel)博士は『生物電磁学会報』(Bioelectromagnetics Society Newsletter)7・8月号の意見欄で「トゥロスコ研究は“見せかけの現象”の一例」として紹介している。

米国内に追試をする研究所はあるのか?
 トゥロスコの研究はカリフォルニア州パロ・アルトのEPRI(電力研究所)がスポンサーだった。レパチョリ博士はEPRIがこの研究を継続するのがいい、と言っているが、EPRIが引き受けるかどうかはわからない。
訳者注:トゥロスコは実験前は電生体への影響を信じない人物だったからEPRIが研究資金を提供したのであろう)
 米メリ−ランド州ロックヴィルにあるFDA(食品医薬品局)放射線生物学部門の責任者ラッセル・オ−ウェン(Russell Owen)博士は「今はどんな極低周波研究も行わない」と語った。
 トゥロスコ達は、未熟で異常な赤血球細胞に10mG〜10Gの60ヘルツ磁場を4日間照射し細胞分化の過程を監視する実験をした。発がんプロモ−タ−が細胞分化を妨げる能力があるからだ。(結果はクロ)


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