<海外情報>
VINI G. KHURANA, LENNART HARDELL, JORIS EVERAERT, ALICJA BORTKIEWICZ,MICHAEL CARLBERG, MIKKO AHONEN "Epidemiological Evidence for a Health Risk from Mobile Phone Base Stations" INTERNATIONAL JOURNAL OF OCCUPATIONAL AND ENVIRONMENTAL HEALTH VOL.16, NO.3 (2010)
http://www.brain-surgery.us/Khurana_et_al_IJOEH-Base_Station_RV.pdf

基地局による健康リスクの疫学的証拠

 無線通信技術(携帯電話や基地局等)による、マイクロ波や無線周波数波(RF)の人への曝露は増加している。そこで私たちは、PubMed(医学関係学術文献検索サービス)を検索した結果、携帯電話基地局の健康影響の可能性を扱った疫学研究は、全部で10あることを確認した。10の内7つの研究は、基地局周辺住民と神経行動学上の影響との関係を取り扱い、残りの3研究は、周辺住民とがんの関係を取り扱うものであった。
 10研究のうち8つは、基地局から500メートル以内に住む住民に、神経行動学的症状とがんが増加しているというものだった。それらの中で、国際ガイドラインの値を超える曝露の研究は一つもなかった。国際ガイドライン値以下の曝露で影響が出るということは、住民の健康を守るには、現行の国際ガイドライン値は不十分であるのかもしれない。私たちは以下のように考える。基地局の健康影響をもっと明確に把握するには、基地局曝露に関する長期間で大規模な疫学研究が緊急に必要である。

イントロダクション
 携帯電話基地局は、現在、世界中の至る所にある。しばしば、基地局は店や家や学校や福祉施設や病院の近くや建物の上に建っている。そうした基地局から出る無線周波数(RF)電磁放射線は、出力は小さいが、放射線を持続的に出し続けている。このように、出力は小さいが持続的に放射線が出ることは、基地局の近くで住んでいる人や働いている人の健康に、どのようなリスクが生じるのかという問題を提起する。

方法
 PubMedを検索し、基地局、マスト(塔)、電磁場(EMF)、無線周波数(RF)、疫学、健康影響、携帯電話、セルフォン、といったキーワード、あるいは主要な発生源といったキーワードを開くと、基地局の健康影響を調査した7つの国におよぶ、10の住民対象研究に辿り着く。10のうち7つは、基地局周辺住民と神経行動学的症状の関係を、住民アンケートによって調べた研究である。その他の3つは、それぞれ基地局周辺住民とがんの関係を、医学データを使って調べた研究である、こうした文献をベースにしたメタ分析は、研究デザイン、統計方法やリスク評価、曝露カテゴリー、エンドポイントやアウトカム、などの違いに左右される可能性は無い。それ故に、10の研究は年代配列順で概括できる。

結果と討論
 携帯電話基地局によるRF照射の健康影響と関係する疫学研究は、一貫して健康に悪影響を与えると指摘していると私達は理解している。
 10の研究のうち8つは、基地局から500メートル以内に住む住民に、神経行動学的症状あるいはがんが増加していると報告している。ナバーロら、サンティニら、ガジッカら、およびヒュッテルらの研究は、頭痛、集中力欠如、いらいら等が、基地局からの距離に応じて違いが出ていると報告している。一方、アブデル-ラソールらの研究は、基地局から10メートル以内の住民と10メートル以遠の住民とを比較すると、前者は認知パフォーマンスが低下すると報告している。イーガらやウルフ夫妻の研究は、基地局から400メートル以内に数年居住する住民に、がんが増加すると報告している。反対に、メイヤーらの過去に遡って調べた大規模研究は、ババリアの基地局周辺ではがんの増加はなかったと報告している。ブレットナーらの研究では、第1段階に研究では基地局周辺で健康問題が生じているとしているが、第2段階の研究ではEMF測定値と健康悪影響は関係しないと結論した。
 私たちが検討した10の研究は、それぞれ概括したように、電磁波の強度にしても条件上の制約にしてもマチマチである。それら基地局研究では、基地局から発するEMFの測定はしていないので、RF-EMFの曝露に関して、基地局からの距離が分析指標として最もふさわしいとは認められないであろう。家屋や樹木あるいはその他の地形状の妨害物もあるが、アンテナの数や配置が曝露レベルに影響を与えているのであろう。また、最も近い基地局からの距離が、曝露指標として最もふさわしいわけではない。その理由は、曝露量と関係して、どれが最も近い基地局なのかは必ずしもわかってはいないからだ。そのような曝露に関する誤判断が、不可避的にバイアス(先入観)を生む。多角的な試験は、試験参加者の年齢や性別を調整しないと、誤った結果になる可能性がある。また、今後起こるがんとか、推定上の環境曝露といった文脈からすると、潜伏期間がとても重要な意味合いを持つ。この点からすると、メイヤーらの研究は、基地局とがんの関係はないとしているが、2年間だけという比較的限定された期間での観察だといえる。他方、イーガらやウルフ夫妻の研究は、携帯基地局とがん増加に有意な関係があるとしたが、その二つの研究では、基地局とがんとの関係には約5年間の潜伏期間があるとしている。二つの研究が潜伏期間としている5年間は、潜伏期間としては意外に短いように思えるが。
 住民対象アンケート調査の他の問題点は、バイアスの可能性があることだ。とりわけ選択バイアスと、参加バイアスと、使用された評価方法と、関係するアンケート対象者自身が結果を報告する点がバイアスとなりうる。たとえば、曝露評価の制約(問題点)としては、ドイツの二つの基地局研究で見た場合、ともに神経行動学症状を扱っているが、一つの研究は参加者が30047人と多いが、もう一つ研究は1326人を対象にして、寝室という場所を限定してEMF測定しているといったように、評価における同一性をどこに置くのかという問題が出てくる。さらに、すべてのEMF発生源から起こる健康影響と、EMF以外の環境因子から起こる健康影響を、考慮に入れねばならないという問題もある。
 曝露と関係ない懸念や不安感が、健康を害する要因の引き金となることを、私達は知っている。しかし、こうしたノセボ効果(思い込みで起こる健康障害)で、研究結果をすべて説明できるとは思えない。さらに、健康悪影響全般の生物学的関係は、以下の事実が根拠となる。それは、基地局研究で示されるいくつかの症例は、頭痛、集中力欠如、不眠など、携帯電話によって起こる症例と同じであるという事実だ。
 結局、基地局による健康悪影響は、国際ガイドライン値を超えるRF曝露で起こるという研究は一つもないということがわかった。すなわち、10の研究は国際ガイドライン値以下のレベルの高周波で、健康悪影響が出るという研究である。このことは、もしこのような研究結果が今後も出続けるのであれば、現行の曝露基準値は人間の健康を守るには不十分であることを示唆するものである。

結論
 これら10の研究はデザイン、規模、質が様々にもかかわらず、これらの異なる国(ナバーロら研究=スペイン、サンティニら研究=フランス、イーガら研究=ドイツ、ウルフ夫妻研究=イスラエル、ガジッカら研究=ポーランド、ヒュッテルら研究=オーストリア、メイヤーら研究=ドイツ、アブデル-ラソールら研究=エジプト、ブレットナーら研究=ドイツ、ベルグ-ベックホッフら=ドイツ)による、基地局疫学研究には一貫性があることを、私たちは明確に見出した。特に、利用した研究の80%で、基地局から500メートル以内に住む住民に、神経行動学的症状またはがんに関して、健康悪影響が増加し拡大していることがわかった。基地局と関係する健康問題の研究は、全体的に方法論的な欠点を有する可能性があると指摘されねばならない。RF電磁放射線曝露の測定が行われているとは限らないからだ。
 低レベルのEMFが、動物や人間の健康に影響を与えるメカニズム(仕組み)が提起されている。しかし、全体的にしっかりしたメカニズムは、まだ確立していない。それにもかかわらず、携帯電話と基地局の健康影響に関係する、これまでに集められた疫学研究文献は、EMFの熱作用を根拠にしてつくられた、これまでの曝露基準がもはや支持されないことを示唆している。
 2007年8月に、科学者、研究者、公衆衛生政策担当者で構成された国際ワーキンググループ(バイオイニシアティブ・ワーキンググループ)が、EMFと健康に関する報告を発表した。この報告は、送電線、携帯電話、基地局、その他の日常生活におけるEMF発生源から出るEMFを規制している現行の基準値について、証拠にもとづいて懸念を表明した。これがバイオイニシアティブ報告だが、バイオイニシアティブ報告は、FCC(アメリカ通信委員会)やICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)によって策定された、現行の基準値より数百倍や数千倍も低いレベルの電磁放射線を浴びると、健康影響が出るとする詳細な科学的情報を提供した。
 バイオイニシアティブ報告の執筆者は、2000以上の科学的研究やレビューを検討し、以下の結論を下した。

(1)現行の公衆に対する安全基準は、公衆衛生を守る上では不十分である。
(2)公衆衛生政策の観点からすれば、新しい公衆安全基準あるいはリスキ―な技術がますます発展することに対応する基準は、すべての証拠に重きを置いて決められるのが正当である。予防的基準値1mW/m2(0.1μW/cm2または0.614V/m)は、バイオイニシアティブ報告第17章で、屋外における累積RF曝露基準として提案されている。この値は、0.5〜1mW/m2以下の電力密度という低レベル曝露で、健康な体に重大ではない程度の健康悪影響が生じるという、いくつかの研究結果に基づいた慎重な見積もり値である。今回私たちが検討した、基地局から500メートル以内の住民へのRF-EMF曝露は、0.614V/mの予防的基準値以下とすべきだ。


会報第74号インデックスページに戻る