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大久保貞利

私は「カネミ油症被害者支援センタ−(YSC)」の共同代表を務めています。この記事は、一見、電磁波とは無関係のように見えますが、健康問題という面で共通しています。カネミ油症事件で反省すべきことは、問題が大きくなる前に予防原則で対応することの重要さです。

カネミ油症事件とは何か(1/3)

□どういう事件か
 カネミ油症事件は、1968年(昭和48年)に起こった、日本最大の食品公害事件です。
 北九州市に本社のある、株式会社カネミ倉庫が製造販売した米ぬか油(カネミライスオイル)に、猛毒のPCB(ポリ塩化ビフェニ-ル)とダイオキシン類のPCDF(ジベンゾフラン)が混入し、天ぷら等を通じて経口摂取した人たちに、全身にひどい症状が出た痛ましい事件です。当初は、表面に出た塩素ニキビが特に知られる症状でしたが、実際は、病気のデパ−トといわれるほど、様々な症状に被害者は苦しめられました。

□どうして毒物が混入したのか
 ダイオキシン類のジベンゾフランが混入したことがわかったのは、比較的最近のことで、当初はPCBが主犯と思われていました。米ぬか油は植物性で品質が良く高価な油です。しかし、米ぬか油には特有の匂いがあるので、脱臭のため加熱する必要があります。直接熱すると米ぬか油が変質するので、間接的に温める方法が採用されました。脱臭塔内の金属蛇管にPCBを入れ、温度を高くしたPCBの熱で間接的に米ぬか油を温め脱臭するというやり方です。PCBが燃えない油としての特性を利用したものです。この金属蛇管からPCBが漏れて、米ぬか油を汚染したのです。本来、万一の事故を考えれば、食品工程でPCBを使うべきではなかったのです。カネミ倉庫は、PCBの製造元のカネカから危険という説明は受けていないと主張していますが、たとえば食品にミシン油が入る恐れがあるならば、それは避けるべきなのです。

□ニワトリ・ダ−ク油事件
 事件は1968年10月10日の朝日新聞報道で全国に知れ渡りました。ところが、その年の2月から3月にかけて、西日本16県でニワトリが大量死する事件が起こりました。49万羽が死ぬという事件です。大量死の原因は、配合飼料の中のダ−ク油とわかり、「ダ−ク油事件」と言われます。実は、米ぬか油もダ−ク油も原料は同じでカネミ倉庫の製造工程で生産されるのです。ダ−ク油事件の時に同じ工程で作られるので、カネミ油にまで原因究明調査を拡大すれば、カネミ油事件は防げたといわれています。ところが、飼料であるダーク油は農林省(当時)が管轄し、食品であるカネミ油は厚生省(当時)が管轄するため、農林省は厚生省に報告をしなかったのです。国のタテ割り行政が、事件発覚を大幅に後らせたのです。

□認定と未認定に被害者を振り分ける
 当初、奇病といわれましたが、朝日新聞が報道した3日後の1968年10月13日には、九州大学や福岡県等の合同で、油症研究班が結成されました。このことは、原因がカネミ倉庫のカネミ油だと、関係者は早くからわかっていたことを示しています。
 そして、1968年10月22日には油症研究班が油症患者診断基準を発表します。この基準は皮膚症状に重きを置いた暫定的なものでした。だがこれが一人歩きし、油症は皮膚症状と判断し、この基準に合わない患者は認定から除外しました。当時約1万4千人が被害を保健所に訴えにきましたが、認定されたのは約1800人です。同じ食事をしている家族なのに、ある人は皮膚症状が出ているから認定患者、別の人は重度の内臓疾患でも皮膚はそれほどではないので非認定という、理不尽な振り分けが行なわれました。

□一人でいくつも症状抱える被害者たち
 当初の皮膚症状が激甚だったため、カネミ油症といえば、塩素ニキビ(クロルアクネ)と思われがちですが、皮膚症状は年月とともに軽減されました。しかし、カネミの毒はゆっくりと全身に浸透し複雑化していきました。
 ある被害者の診断書の病名を見ると、次のように多岐にわたります。
胃がん、慢性膵炎、結膜憩室炎、慢性胃炎、C型肝炎、腸閉塞、肝障害、胃炎、胃潰瘍、肝機能障害、肝硬変、肝腫瘍、脂肪肝、肝内結石、胃不全、消化管出血、くも膜下出血、高血圧症、脳梗塞、低血圧症、不整脈、慢性心不全、狭心症、吹出物、手の湿疹、緑内障、白内障、視力低下、中耳炎、末梢神経症、自律神経失調症、糖尿病、泌尿器系疾患、膀胱炎、甲状腺腫瘍、髪の抜け毛、気管支炎、副鼻腔炎、頚部リンパ節炎、腰痛症、椎間板ヘルニア、関節リウマチ、足の冷え、手足のシビレ、疲労感、体力減退感、等々。骨や歯の異常やうつ症状など精神神経疾患の人も多い。
 水俣病で有名な原田正純医師は次のように語っています。「一つ一つの病名はどこにでもある病気で、非特異的なものではけっしてないが、一人の人がこんなに多くの病気を抱えているのが、カネミの特徴だ」。
 事件後43年経っても被害者は苦しんでいるし、黒い赤ちゃんが象徴的ですが、次世代、次次世代にも症状が出ています。まさに、カネミが地獄を連れてきたのであり、ダイオキシンの恐さです。カネミ油症被害は終わっていません。

□国が被害者救済に乗り出すべきだ
 国(厚生労働省)の考えは、(1)加害企業が救済するのが筋、(2)国に対する被害者が訴えた裁判は被害者(原告)が取り下げて終わっており国に非はない、(3)長年カネミ油症を研究してきた、油症治療研究班の報告では、被害者の症状は時の経過につれて軽減しているとしているというものです。これは実態の見ようとしない誤りです。
 カネミ倉庫は中小企業であり、水俣病におけるチッソほどの賠償能力はありません。裁判では、最高裁で逆転判決が出そうだったの原告は裁判を取り下げたのであり、国に非はないと決まったわけではありません。
 九州大学医学部を中心とした油症治療研究班は、主に皮膚科が専門であり、被害者に寄り添った治療をしていないため、多くの患者は検診に行かないのが実情であり、患者の所に出向こうとしないから、実態を知らないのです。
 水俣病や森永ひ素ミルク事件に比べて、カネミ油症被害者への補償内容は極めて貧困です。被害者は、高齢化と病気がちなため、満足に働けず収入が少ないため生活も困窮化しています。本来食品として売られた商品を購入して被害にあった被害者に、全く責任はありません。カネミ被害者救済法を成立させ、ダイオキシン被害に苦しむカネミ油症被害者の救済を実行すべきです。

(次号に続く)


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