<海外情報>

欧州議会テレビ『action』
2009年3月17日放映
(翻訳:植田武智)

携帯電話の脅威は軽々しく否定されるべきではない

キャスタ−:今や携帯電話なしの生活は考えられないほどですが、その危険性については、実は分かっていません。
 常に持ち歩いているわけで、これまでにないほど電磁波に曝されています。
 今日、電磁波についてお話頂くのはフレデリック・リ−ス議員(注:欧州議会議員)です。この問題で欧州議会へのレポ−トを執筆されました。
 まず最初に、誰もが知りたいことですが、電磁波は有害なのでしょうか?

リ−ス議員:最初からそれが分かっていれば問題はないのですが、私には回答できませんね。専門家の間でも論争になっています。そういう意味ではまだ「噂の段階」ともいえますが、専門家は相反する研究結果を出しています。
 有害かどうかについて、今言えることは現在の政策は科学的な結論を出していません。また、司法が決定すべきことでもありません。今は多くは司法の場で争われていますけれどもね。ベルギ−での行政訴訟やフランスでの控訴審なのです。中継アンテナや送電線の建設禁止に関するものですね。
 今こそ政治が決断すべきです。分かっている範囲の情報に基づいて、予防原則を適用すべきです。それが私のレポ−トでもっとも言いたかったことです。

キャスタ−:後でもっとお話頂くとして、まずこちらをご覧ください。

(映像変わる、異音がする)

ナレ−ション:あなたの携帯電話の音ではありません。皆が知っている音です。携帯電話から出ている電磁波の音です。そうした身の回りの電磁波が人々の悩みの種になっています。
 現在、EUでは強制力のある規制値はありません。その結果、それぞれの国で基準値に違いがあります。私たちは毎日、電磁波に曝されています。
 ベノロイト・ロッペ氏です。科学技術者で、電磁波の研究に携わっています。

(画面:ベノロイト・ロッペ氏が測定器で計測している)

ロッペ:このワイヤレスフォンでも、かなり強いマイクロ波を浴びています。ちょっと測ってみましょう。こうした測定器で電磁波の強さを測ることができます。
 もう一つの発生源、携帯電話の中継基地局です。携帯電話より弱い電磁波ですが、絶え間なく出ています。ベルギ−のフレロンという所にいます。住宅地の真ん中にアンテナがあります。測定値は0.6V/mから1.0V/m(注:電力密度換算0.095〜0.27μW/cm2)です。アンテナから100m離れた地点です。
 一つのアンテナを三つの通信会社が共有しています。それと、FMラジオの電磁波も来ています。今は最大で1V/m(0.27μW/cm2)といった強さですが、まだ通話の少ない時間帯ですから、6時や7時頃になると、もっと値は強くなります。

ナレ−ション:しかし、電磁波は本当に危険なのでしょうか。EUの勧告値は41.25V/m(同450μW/cm2)です。
 いくつかの国ではもっと厳しい基準をつくっています。ベルギ−やギリシャでは基準値は3V/m(同2.4μW/cm2)です。
 実際のところ、どうなんでしょうか?アンドレ・バンデラポスト氏。ル−ベン・カトリック大学の教授です。この問題で何冊もの著書があります。

(映像、バンデラボスト教授)

バンデラポスト教授:携帯電話がこの国で普及し始めたのは1994年です。94年、95年から2000年にかけて爆発的に普及しました。
 そうですね。携帯電話の電磁波が有害かどうかはっきりするには2015年まで待つ必要があるでしょう。ガンの原因となるかどうか、統計的に明確な答を出すには2015年までかかると思います。まだ答は出ていません。研究は継続中です。
 現在もっとも期待されているのが「インタ−フォン研究」という疫学研究です。欧州委員会の資金も使われています。最終結果は年内(2009年)に出る予定ですが、いくつかの情報はすでに公開されています。
 この研究では2600人の脳腫瘍患者を調べています。特に死亡率の高い神経膠腫というガンです。最終結果はまだ出ていませんが、携帯電話を定期的に使う人たちでは、このガンの発生率が60%増えることが分かりました。北欧の調査では60%、フランスの調査では100%、ドイツでは120%増えます。無視できない値です。
 電磁波との因果関係の証明はまだ不十分ですが、事実は存在しています。明確な答がない段階では用心しておくことが大切です。電磁波の曝露量は減らすことができます。携帯電話の長電話は止めたほうが良い。短時間、1、2分の通話に止めておくべきです。
 また、携帯電話と中継基地局との間にできるだけ障害物がないようにした方が良い。通話環境が良いほど携帯電話の出力は低くなります。

ナレ−ション:通信会社や携帯電話メ−カ−への取材は困難です。答はノ−コメントで、ただ「自社のウェブサイトを見ろ」というだけです。ウェブには自社研究結果が公表されていますが、客観性が保証されていません。ノキア社へコメントを求めましたが、電子メ−ルでの回答だけでした。ノキア社は取材に応じません。
 ベルギ−のワロン(waloon)地区では、協議会が組織されました。通信会社と住民の双方が参加しています。
 バ−ジニア・ヘス(Virgine Hess)さんです。協議会を組織した一人で、情報の非公開と管理のズサンさが問題だと指摘しています。

(映像にバ−ジニア・ヘスさん)

ヘス:電磁波について適切なチェックがされていません。住民たちが要求しているのですが、建設前と建設後の適切な管理もです。たとえば、ある所にアンテナを建てる場合でも、現在の電磁波の値はどれだけなのかとか。すでに近くに他のアンテナがあるかもしれないし、そうだと新たにアンテナを増やせば電磁波は強くなりますから。
 長期間の影響が分かるまでには、あと6年も待たねばならない。電磁波の影響には灰色の部分が残っています。

ナレ−ション:「インタ−フォン研究」が公表されて、そうした影響が判明するまでの間、欧州議会は予防原則を勧告しています。2008年9月4日の投票で、欧州議会は委員会に対して「曝露基準を厳くするよう」求めました。
 この問題はすべての人たちに関わる問題なのです。

(はじめのインタビュ−場面に戻る)

キャスタ−:ここではっきりしていることは、科学的な研究結果はまだ出ていないということです。
 1998年に着手された、非常に重要な「インタ−フォン研究」が、まだ発表されないのは何故でしょう?

リ−ス議員:それはインタ−フォン研究者に尋ねてください。
 欧州委員会はすでに400万ユ−ロも費やしているのに、結果の公表を催促しているように見えませんね。調査した国によって結果が違うということらしいですが、それは結論を引き延ばす理由になりません。
 先ほどのベルギ−のバンデラポスト教授が暫定的結果として指摘したように、すでに多くの証拠が集まっています。公表すべきです。
 テルアビブ大学では耳下腺ガンが増えるという結果が出ています。バンデラポスト教授は、600人の神経膠腫について話してましたよね。でも最初に言いましたように私自身は科学者ではありません。

キャスタ−:「WHOが定めている2015年まで待つべきだ」という意見もありますね。

リ−ス議員:WHO自身は2015年まで待っているのでしょうが、でもガンが発症するまで「15年かかる」からといって、対策をとるのを止めるべきではないでしょう。
 すでにいくつかの国では対策をとっています。専門家の意見が一致するのをただ漫然と待つのではなくて、今こそ予防的手段をとるべき時です。

キャスタ−:たとえば?

リ−ス議員:基準を厳しくするとか。現在の勧告値は、1999年に実施されたものです。

キャスタ−:この10年間で新たな技術などが大きく変化しましたね。

リ−ス議員:すべて変わったんです。インタ−ネットやWi−Fiやワイヤレスフォンなど携帯電話だけじゃないんです。私たちは「電磁波のカクテル」の中にいるんです。なのに基準値は1999年のままです。とんでもないことです。
 ベルギ−やルクセンブルグやポ−ランドやギリシャなどの例に続くべきです。地方自治体の中にはもっと進んでいる所もあります。ザルツブルグ市の基準は0.6V/m(0.1μW/cm2)ですよ。EU勧告値の41どころじゃないんです。
 政治は行動を起こすことを邪魔してはいけないんです。

キャスタ−:バロッソ氏(注:欧州委員会委員長)の欧州委員会は、この5年間たいしたことをしていませんが。

リ−ス議員:「インタ−フォン研究」の公表が遅れていることや、予算配分に一貫性がない、ことなどが問題ですよね。委員会とは緊密にしていますが、なんというか、ある種の無気力さがありますね。

キャスタ−:それでなんでも控えめになってしまう……。

リ−ス議員:無気力さはたしかに問題ですよね。

キャスタ−:産業界はいかがですか?大きな利害関係が絡むわけですが。産業界とは接触されていますか?

リ−ス議員:ええ、当然です。でも、彼らは取材するのは難しいですよね。

キャスタ−:(映像であったように)取材は断られていましたね。

リ−ス議員:ヨ−ロッパの主要な通信会社とは話をしました。私のレポ−トは彼らのお気に召さなかったようです。何度かはっきりそう言われました。

リ−ス議員:実を言うと、脅迫状のようなものを送られてきました。この10年間、私は様々な問題に取り組んできました。REACH(注:化学物質の生産と輸入を登録制にし安全性を確保するEU内のル−ル)規制やサプリメント規制などに取り組みましたが、そこでも、強力な(業界からの)ロビ−活動がありました。農薬規制の時もありましたが、今回のような悪意に満ちた手紙を受け取ったのは初めてです。

キャスタ−:それだけ業界が大きいということなんでしょうね。20年前のアメリカのタバコ業界のやり方に、それは似ていますね。その時も、当初は、タバコが有害だとは業界は認めませんでしたね。後で撤回せざるを得なくなったわけですが。

リ−ス議員:この件に関してはこれ以上のコメントは控えます。
 この電磁波では、様々な意見の人たちとかなり激しい議論をしてきています。大多数の意見は「手遅れになるまで、ただ待っているだけではダメだ」というものです。アスベストやタバコの場合のようにしてはいけないというものです。
 しかしタバコの場合と違うのは、タバコはある種嗜好品なんですね。私は喫煙しないので分からないんですが。しかし、タバコは毒物そのものです。携帯電話は今や社会にとって必需品ですよね。特に防犯の観点からなくてはならないものでしょう。その意味ではタバコとは比べべられないですよね。
 あらゆる人たちが影響を受ける問題なのに政治は速やかに対応できていないということでは、過去の被害事例に学ぶことは多いですよね。同じ過ちを繰り返したくはありませんよね。

キャスタ−:信頼できる科学的な結論が出るまでの間、ガイドラインの制定や用心のための情報普及などを行なっておいた方が良いということでしょうか?今の所そういう動きは全くありませんね。

リ−ス議員:欧州委員会や理事会などが定める勧告に従っているわけですし、またこれは加盟国の権限に関することでもあります。さらには、ロビ−イストの反応もあります。そうしたいろんな要素を考えた上での判断が重要です。私は、特に議会の意見を反映していますが、若い人たちへの教育や情報提供を強化したいですね。子どもを対象とした「無料通話サ−ビス」などの販売促進は禁止させたい。どれだけ危険なものか分からないのに「無料通話」を子どもに提供するなんて。

キャスタ−:レポ−トにも言及されていましたが、保険会社はすでに先行しているようですね。携帯電話と関係する可能性のある病気は、民事責任の保険対象から除外したということですが。

リ−ス議員:保険会社の戦略と欧州委員会の政策を一緒にするなという意見もあります。また、保険会社は科学的観点から分析しているわけでもないです。それでも、我々より先に行っているとは言えます。これもすべて警告となっているので、今や行動を起こすべきなんです。

キャスタ−:議会では、この電磁波問題は最優先課題と言えますか?

リ−ス議員:ええ、たしかに。インタ−フォン研究が遅れているので、その結果公表は次期議会会期中となるでしょうが、闘い続けたいと思っています。それが私たちの仕事ですから。

キャスタ−:EUの基準値を3V/m(同2.4μW/cm2)にしたいですね。

リ−ス議員:すでに9ヵ国が採用しているわけですから、それに続くべきです。

キャスタ−:次期議会でも電磁波問題を取り上げるということですね。どうもありがとうございます。


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