福岡県久留米市の基地局裁判で住民の請求が棄却される

□ドコモ主張のみ採用の不当判決
 福岡県久留米市三瀦町生岩(市町村合併で久留米市に)の住民がドコモ九州を相手取り、基地局の操業禁止と撤去を求めた裁判で、2006年2月24日、福岡地方裁判所久留米支部・田中哲郎裁判長は「原告の請求を棄却する」判決を行なった。
 裁判の争点は、
(1)基地局の電磁波による健康被害について
(2)原告側は「候補地」を提案し移転を求めていたことについて
(3)基地局建設におけるドコモの権利濫用について
の3点だ。
 これに対し今回の判決は
(1)各研究結果等があるからといって現段階で直ちに基地局電磁波で健康被害が生じる具体的危険性は認めがたい
(2)健康被害の具体的危険性が立証がなければ基地局移転は採用できない
(3)基地局電磁波の健康被害の具体的危険性も鉄塔倒壊も認められない以上、どこに基地局設置するかは被告の自由裁量で権利濫用のあたらない
としており、
ドコモ側の主張のみ採用した判決である。

 原告側はニ−ル・チェリ−博士の意見書や荻野晃也博士の意見書など最新の証拠書類を数多く提出してきた。原告は、現時点でなく将来的な危険性の可能性を主張したのに、判決はすべて斥けた。
 原告側は「アスベストの二の舞はごめんだ」とこの不当判決を批判し、直ちに控訴するを決めた。


原告の意見書および今回の判決への批判

意見陳述書

2005年5月27日 原告 ××××

 私は「ドコモ基地局移転要望の会」(以下「移転要望の会」)の世話人で、「平成14年(ワ)184号 携帯電話基地局操業禁止等請求事件」原告の一人である××××です。
 NTTドコモ九州(以下「ドコモ」)は、平成14年8月頃、私の住んでいる○○○○○○に地域の多くの住民が移転要望をしたにもかかわらず、携帯電話基地局を建設し操業を開始しました。
 私の家は現在稼働中の基地局鉄塔より作業小屋まで約27メ−トル、住居まで約40メ−トルという町道をはさんで“目と鼻の先ほど”の一番近い所で生活しています。
 これまで静かで何不自由なく生活してきた所に、平成11年8月、突然“降って湧いた”ように基地局建設問題が起こり、その移転運動に取り組む中での地域内の住民の混乱、私自身の生活のリズムの乱れや精神的ストレス等も体験してきました。
 私の家から見上げる40メ−トルの鉄塔は心理的威圧感・圧迫感を抱かざるを得ません。また、そのアンテナから発せられる“電磁波”の健康への影響を心配しつつ不安な毎日を過ごしています。
 最近、妻は作業小屋で仕事をする時間も長く、キ−ンという金属音の耳鳴りや目の痛み、皮膚の等を訴えることが多くなっています。私も毎日ではないのですが、ブ−ン、ブ−ンという耳鳴りがして寝つけない時もあります。まさか、基地局から発せられる“電磁波”の影響ではないかと疑いたくなるようになってきました。

 この“電磁波”の危険性の有無について、ここの基地局建設が発覚する6年前までは、その言葉すら聞くことはなかったのですが、この反対・移転要望の運動が経過すると同時に、テレビ・ラジオ・新聞・週刊誌等のマスコミや書籍、あるいはインタ−ネットで諸外国からの研究報告・疫学調査結果の発表で“電磁波”は「どうも白ではないらしい、限りなく灰色に近いのではないか」という報告や論文が多く発表されてきました。
 私たちと同じ考えをもつ仲間で結成した「中継塔問題を考える九州ネットワ−ク」のために、とニュ−ジ−ランドの故ニ−ル・チェリ−博士が原文で160ペ−ジ余に及ぶ貴重な意見書を作成して頂きました。その意見書を私たちで翻訳し、京大工学部(当時)の荻野晃也博士に監修して頂きました。
 その意見書では「携帯電話基地局の近くに住むことと、神経系疾患や心臓病との関係は明らかにされてきており、メラトニンの減少メカニズムとも一致している」「基地局周辺では電磁波被曝する安全な閾値は全くない…」と述べられています。このように、多くの“電磁波”の危険性についての証拠がたくさん出てくる中で、ドコモは「国が定めた基準値内であるから安全」と主張するだけでは、到底納得できません。
 この運動を行なっている私たちの年齢は40歳から50歳代と、人生の半ばを過ぎた者ですが、未来ある子どもや子孫代々に安全ではないといわれる“電磁波”を浴びさせるわけにはいきません。その思いから反対の意を強くしたのです。

 私たち「移転要望の会」は名称どおり、当初から携帯電話は利便性もあり、各人が携帯電話そのものを使用することに反対するという態度はとっていません。
 しかし、携帯電話基地局からは24時間“電磁波”が発射され、この“電磁波”の安全性が確立されていない以上、人家から離れた所に移転して下さいと基地局の移転を要望しているのです。

 私たち住民の最大の怒りは、企業・ドコモが近隣住民に何も知らせずに「自分の土地に何を建てても構わない」という態度で発覚するまで秘密裏にしてきたことと、基地局建設の進め方に問題があるからです。

 ドコモの基盤整備部長は朝日新聞記者の取材に対し「確かに話の持ち掛け方は試行錯誤中だ。だが、地権者と契約する前に打診したら、計画は必ずつぶされる」と“本音”を語ったことが、平成14年2月2日付けで報道されました。

 この間、ドコモと住民との話し合いは17回に及びました。
 この話し合いの中でドコモは「移転、移転と言われるが、移転する所はあるのか」と住民へ質問してきました。これに対して、住民側はこの問題が早期に解決できるならという思いから、ドコモが最初の話し合いの中でエリアの説明した、周辺5つの基地局(城島・下荒木・蔵数・筑後・八丁牟田)の中心近くで人家より約5百メ−トル離れた田んぼを、代替地(第1候補地)として提案しましたが、不当にも「エリアが取れない」等と言って却下しました。
 さらに、ドコモが作成した「移転可能な範囲」という“根拠が有るか無いか分からない”地図のエリア内で第2候補地、第3候補地を提案しましたが候補地の近くになる住民から「反対という声があがっている」等として、そこもドコモは却下しました。

 私たちは第1候補地が何故だめなのか、その理由を「移転可能な範囲」のエリア図との関係で説明を求めましたが、ついにドコモから明快な回答は返ってきませんでした。逆に「そのような前のこと(=エリア図の説明)を言うのであれば、移転に向けての話にならない」とドコモは不誠実な態度に終始しました。
 その後、ドコモは「予定地の地権者が孤立している」ので、あなたたち(住民)は地権者宅に行って「電磁波のことについて話してきなさい」「賃料が入らなくなることについて謝ってきなさい」等と強要し、このことを住民が拒否すると「当初の予定地で工事にかかります」と脅し、「移転して欲しい」という住民の弱みにつけこんで無理難題を押しつけてくたのでです。

 17回目の話し合いで交渉が決裂し、ドコモは工事を強行してきました。
 私たちはドコモの現建設予定地への工事を何としても中止して欲しいという思いから、説得活動を行ないました。
 このような住民の説得活動をドコモはガ−ドマンやプロカメラマンを多数動員して待ち構えて、ビデオやカメラで撮影し、事実に反する説明文までつけて仮処分という法的手段を使ってきたのです。
 私たち住民は、これまで行なってきたドコモの横暴さ、「企業の論理」を貴裁判所に分かって頂きたいのです。
 最後に、住民の権利を守り、住民の主張を認めて、道理にかなう判断をして頂くよう要望いたします。


不当判決に屈せず、控訴します

 福岡地裁久留米支部は、私たちのドコモに対する「三瀦基地局操業禁止と撤去」を求める裁判で、2006年2月24日、「原告の請求を棄却する」との不当判決を行ないました。
判決理由は、
(1)「各研究結果等があるからといって、現段階で直ちに本件基地局から放出される電磁波に健康被害が生じる具体的危険性は認めがたい」、また予防原則については「これに基づく法令上の規制もない現状において、予防原則自体を人格権に基づく差し止め請求権の有無を判断するに際して規準とすることはできないというべきである」 (2)本件基地局を移動させることについては「採用できない。…その要件となる健康被害の具体的な危険性の立証が必要なことは明らかである」
(3)基地局建設設置を一方的に決めるのはドコモの権利濫用だとする原告の主張については「そもそも、本件基地局には電磁波による健康被害の具体的危険性も…認められず、したがって、本来、どこに携帯電話基地局を設置するかは法令の範囲内で被告の自由な裁量に委ねるべきものであることも併せて考えると、権利濫用に該当するとは認められない」
としています。

 今回の裁判は15回の開かれましたが、原告側は電磁波についての第1人者である荻野晃也先生をはじめ、多くの方々の協力を得て、電磁波の健康被害や危険性を示す国内外の最新論文・資料を数多く提出してきました。特に第5回目に提出したニュ−ジ−ランドのニ−ル・チェリ−博士が「九州ネットワ−ク」のためのわざわざ書き下ろした「携帯電話タワ−周辺に及ぼす電磁波の健康影響」と題する意見書(原文160ペ−ジ)は確かな証拠物件でした。
 一方、被告側証人の野島俊雄北大教授は「(原告側提出の)電磁波問題の論文は信憑性に欠ける」とすべて否定しました。この裁判を実際に傍聴した人で、公正に判断できる人なら、原告側証言・資料と被告側証言・資料のどちらが説得力をもっていたかは、明らかだったと思います。

 今回の判決で田中哲郎裁判長は「現段階で直ちに携帯電話基地局から放出される電磁波に健康被害が生じる具体的危険性があるとは認めがたい」としましたが、私たちが訴えたのは、「現時点」でなく「将来的に危険性の可能性がある」としたのであって、そのための証拠も数多く提出したのです。その点で判決はまったく納得できません。
 判決は「携帯電話基地局を設置するかは法令の範囲内で被告の自由な裁量に委ねられるべき」としました。しかし本件は「基地局を建設するな」と主張したのではなく「移転を要望」したにすぎません。ドコモは平成13年2月4日に自ら「移転可能なエリア条件と期限を示した文書」を持ってきました。原告側はこのドコモの文書に沿った形で移転先を検討していたにもかかわらず、途中で態度を変え、工事強行へと至ったのです。このドコモの不誠実な対応について、原告側は裁判で明らかにしてきましたが、こうした点について判決は無視しています。この点でも判決は不当です。

 平成14年6月に提訴してから、今回判決を迎えた3年半の間に時代は大きく変わりました。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌等、メディアも電磁波問題を以前と比べて報道するようになってきています。私たちは「アスベストの二の舞」はごめんです。国民の健康より、企業の利益擁護を優先する今回の不当判決を許すわけにはいきません。

 私たち「移転要望の会」は3月3日、福岡高裁に控訴しました。ご支援ください。


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