総務省と電波産業会が主催する「電波の安全性に関する講演会」の問題点

□全国で「安全セミナ−」を展開
 総務省は社団法人電波産業会と共同主催で、「電波の安全性に関する講演会」(副題:安全で心な電波利用環境に向けて)を全国の主要地区で開催しています。講演メンバ−は地区によって変わりますが、講演内容はほとんど変化なく、「電波はいかに安全か」を宣伝するための講演セミナ−になっています。
 2005年11月4日に、東京都港区のホテルフロラシオン青山で上記のプログラムの講演会が開かれ、当会事務局長が参加しました。以下に、講演内容の問題点を批判します。


2005年11月4日「講演会」プログラム
□基地局への不安解消がねらいの一つ
 この講演会は、事前に一般向けにはほとんど知らされず、「電波新聞」という業界紙に掲載されていたのを、事務局スタッフが見つけたのです。参加者は140人ほどで、ほとんどがス−ツ姿の業界関係者で占められ、女性がほとんど居なかったのには驚きました。
 まず、今回の講演会の目的について、原澄雄関東総合通信局電波監理部長が「地上テレビデジタル放送が、まもなく、東京タワ−からフルパワ−で始まる」などいくつか挙げたが、その一つとして、携帯電話基地局への不安が少なからずあるので、電波の安全性について専門家からいろいろ話していただくと語りました。つまり、国民の中にある電磁波についての不安を取りのぞくために、全国各地で「いかに電波は安全か」という講演会を総務省が展開しているのです。

□電磁波の非熱作用を避ける姑息さ
 次に登場した、富永昌彦総合通信基盤局電波部電波環境課長の話で、総務省の問題点が明らかになります。同氏は「国民の間に電波利用への影響に対する懸念が増大しているが、その理由は、携帯電話が爆発的に普及したことが、懸念増大の要因だ」としています。
 具体的なことについて同氏は言及しなかったが、携帯電話使用と基地局建設を巡って、日本国内で様々な形で電磁波に対する懸念の声が総務省や業界に届いているからこそ、総務省としてもこうした「懸念増大」を表明せざるを得ないことを、示していると解釈すべきでしょう。そして、電波防護のための指針を策定したが、その中で電磁波の作用として挙げているのは「刺激作用」と「熱作用」だけで、それに十分な安全率(約50倍)をかけているから「安全だ」と強弁しています。
 現在、世界的に問題となっているのは、電磁波の非熱作用が有るのか無いのかです。刺激作用と熱作用に関しては、1990年(平成2年)の電波防護指針策定段階で、すでに明らかになっていたことです。2005年に開催された講演会で、こんな古いことをどうして強調しなければならないのでしょうか。1990年代から2005年にかけて、電磁波の非熱作用に関する研究報告は、それこそ数えきれないほど出てきているのです。

□多気氏の講演は非熱作用に言及しつつも逃げる
 首都大学東京(旧都立大学)・多気昌生教授の講演は、電磁波の熱作用と刺激作用を中心に電波の安全論を展開しつつ、さすがに研究者だけあって、防護指針の根拠は熱作用だけを考慮したものという批判を紹介しつつ、“絶対に安全”は証明できないのでさらに研究が必要と、ちょっぴり客観的な見解を出していました。そして、血液脳関門への電磁波影響(これは熱作用ばかりでなく非熱作用による影響として取り上げられている)や、オランダTNOの報告(これは携帯基地局からの電磁波の非熱作用に関する研究報告でクロと出た)などを紹介するが、いずれも紹介だけで評価は加えず、どこまでも「熱作用と刺激作用以外の電磁波影響は、再現性や信頼性が確認されていない」と逃げています。
 なお電磁波過敏症にもふれましたが、ヒエタネンの研究結果では電波の存在を患者は言いあてられなかったと否定しました。それでいて、講演資料(言及されなかった部分)では、「非常に弱い電磁界でも症状の訴え」とか「北欧で問題視」と記述してあり、電磁波過敏症が無視できない問題であることを認めています。

□一番まともだった山口氏の講演
 最後に登場した、山口直人・東京女子医科大学主任教授の講演は、疫学を中心に行なわれていて、疫学的には電磁波と健康影響を示唆するものが多く、国際がん研究機関(IARC)は極低周波磁場の発がん性可能性ありと分類したと紹介していて、最もまともなものでした。
 また、9ヵ国(米・加・英・独・デンマ−ク・フィンランド・ノルウェィ・スウェ−デン・ニュ−ジ−ランド)で実施された疫学調査のプ−ル分析では、4ミリガウスで小児白血病リスクは有意で高くなる結果が出たことを紹介していました。

□兜氏の研究が海外論文誌に掲載決定
 特に、文部科学省の研究資金で1999年〜2001年の3ヵ年に7億2千万円かけて実施した、日本初の全国電磁波疫学調査(通称:兜研究)が海外論文誌に載ることに決定したと山口氏は報告しました。
 この兜研究は、文部科学省がオ−ルC評価(最低評価)したものですが、海外論文誌に掲載されるということは、内容が科学的に評価されたことを意味します。こういうことこそ、日本政府は評価し宣伝すべきなのです。


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