ダラス環境医学治療センタ−調査報告(中)

緑地やスペ−スたっぷりな立地環境

□なぜ、ダラスまで取材に行ったか
 電磁波問題は大きく言って、(1)極低周波問題(送電線・変電所・電気製品・パソコン等から出る電磁波の健康影響)(2)高周波問題(携帯電話・PHS・中継基地局・通信電波タワ−・電子レンジ・無線LAN等から出る電磁波の健康影響)(3)電磁波過敏症、という3つの問題を抱えています。
 極低周波については、WHO(世界保健機関)で疫学調査など各種研究調査がすすみ、2004年中には新しい「環境健康基準」案が出される予定です。高周波については研究調査が本格化しつつあり、これもWHOで新しい「環境健康基準」案が2006年〜2007年に出る方向ですすんでいます。
 ところが電磁波過敏症についてはまだ研究が不十分で、国際的コンセンサスにはほど遠いといえます。特に日本では医者がその存在を知らず患者を“ノイロ−ゼ扱い”しているのが現状です。
 その一方で、当研究会には何人も電磁波過敏症で悩んでいる人たちが症状を訴えてきており、その数は年々増加しています。そのためなるべく情報を集めるため国内の心ある医師たちのご協力を仰ぎたいと当研究会は努めている段階です。
 ダラス環境医学治療センタ−(EHC−D)の存在は、『クロス・カレント』(ロバ−ト・ベッカ−著)の中で「世界でトップレベルの電磁波過敏症対応医療機関」と紹介されていたことから私どもも早くから知っていました。日本の過敏症治療で実績を挙げている北里大学病院がEHC−Dと協力関係にあることも知っていました。
 こうした状況から「案ずるより産むが易し」で、直接EHC−Dを取材してみようと企画するに至ったのです。

□まず、匂い嗅ぎから始まった
 ダラス環境医学治療センタ−(EHC−D)は、ダラス市の北東郊外に位置しており、駐車スペ−スや緑地スペ−スもたっぷりとった低層2階建ての建物の中にあり、他の医療機関と同居するスタイルであることは前号でも触れました。
 私たちは病院内で取材するにあたって、まず初めに病院スタッフから匂いを嗅がれました。患者やスタッフ以外の“よそ者”の存在に重度の過敏症患者はナ−バスになっています。“よそ者”が発する匂いが曲者なのです。頭髪に付ける整髪料、女性の化粧、香水、服に残った虫除け剤、はたまた前日使用した洗髪ム−ス、これらがすべて過敏症患者にとっては誘発物質になりえるのです。
 新しい家具から発する塗料の匂いや新しい本のインクの匂いも同様です。前号で紹介した家具・床・天井・椅子・壁・照明などすべてが過敏症患者を不快にさせない配慮に基づいた設計になっているのもそのためです。

□病院服は白とは限らない
 受付の女性の服の色は紫紺でした。日本では病院職員の服といえば白衣が一般的ですが、ここでは看護師の服も紫紺でした。これがとても清潔感があり眼からウロコが落ちました。
 3日間という短い取材でしたが、スタッフ同士が皆和気靄々としていて明るく働きやすそうな感じがよく伝わってきました。患者を治療する病院スタッフがギスギスしていたら良い治療などできるはずがない、と妙に納得しました。

□ベアトリックさんの電磁波過敏症症状
 患者を撮影しないよう注意されていましたが、唯一の例外がベアトリック・コ−ンフィルさんでした。
 ベアトリックさんはネバダ州の米海軍基地に勤務する47歳の野性生物学者です。元々ネバダ州に住んでいましたが、職場もネバダ州となったのです。夫は基地とは無縁の動物医者つまり獣医です。
 ベアトリックさんは基地に16年間勤めていますが勤め始めた1996年頃から疲れやすくなりました。年が経つにつれてひどくなり1996年には一日半分しか働けない状態になりました。
 ベアトリックさんの症状は、頭痛・吐き気(実際吐くこともある)・下痢・一時的記憶喪失・急に汗をかくとか急に怒こりっぽくなり、かと思うと逆に疲れやすくなるといった健康状態の急変、です。こうした従来になかった健康状態や性格変化や体質変化が起こりました。
 ベアトリックさんが勤務していた海軍基地は921人しかいない小さな基地で、彼女は野性生物学者なので電気もつけず、外で寝るといった生活でした。彼女にとってはそうした生活のほうがストレスが少なく快適です。それなのにそうした症状が出ました。もちろん海軍なのでたまに艦船に乗ることはありましたがそれが原因には思えませんでした。

□レ−ダ−が原因の一つだった
 健康検査では異常は出ませんでした。夫も彼女も科学者なので科学的合理的な理由が知りたくて、はじめロマリンダ大学の電磁波研究で有名なロス・アディ博士の元を訪ねました。そしたらロス・アディ博士がレイ博士を紹介したので、ここまで来たという訳です。
 いろいろ調べた結果、その基地が海軍レ−ダ−基地だったことからレ−ダ−が原因とわかりました。またネバダ州では、水や土壌中からウラン・砒素・水銀もされており、結局電磁波と化学物質による複合汚染の過敏症とわかりました。性格変化・体質変化は神経組織の病気から来るもので、殺虫剤や農薬と、電磁波の複合汚染が原因ではなかろうかとレイ博士は見ています。いまでは携帯電話基地局(タワ−)も感じるようになっています。しかし蛍光灯には反応しません。本当の原因はレイ博士にもわからない、と言ってました。

□軍は知らんぶり、でも本当は知っている
 夫が軍に「妻にこんな症状が出ているが知っているのか」と電話で訊ねても軍は全く相手にしなかったとのこと。しかし、軍関係病院に「ウォ−タ−リ−ド・ア−ミ−病院」があり、ベアトリックさんのような患者を診ているという。その病院でロス・アディ博士の存在を知り、レイ博士の存在も知ったのです。

□人工衛星もわかるという鋭敏さ
 ベアトリックさんは症状が悪化し本も読めなくなりました。しまいには偵察機や人工衛星が天空を通過してもわかるほどだそうです。偵察機はスパイ用で音も小さく高い上空を飛ぶ時は普通の人はわからないという。
 921人でこのような症状が出たのはベアトリックさんだけでした。それは外にいる時間の長い野生生物学者という特殊任務のためそれだけレ−ダ−を浴びる時間が長いのと、女性のほうが生理学的に男性より発汗しないため解毒能力が低いため、とベアトリックさんは説明しました。
 ベアトリックさんと同じような症状の人がワシントンDCにもいましたが、その人も軍で外で仕事をする人でした。
 ベアトリックさんは、サウナで150度(華氏?)位の温度の中にいても6日間汗が出ず、7日目にようやく汗が出たということです。(サウナは解毒作用がある)「神経組織がやられているから、汗をかかないのだ」とレイ博士が説明しました。

□ベアトリックさんの治療法
 ベアトリックさんの治療は、まず汚染の少ない状態の所で過ごさせ食物は有機系のものにし化学物質を避ける生活を徹底しました。空気も清浄器つきの空気で、カビにも気をつけました。一方でヒスタミン系の注射で中和させ、栄養補給のため静脈注射を打ちました。免疫力を高める注射も打ち、エネルギ−バランスを良くするため気功療法も採り入れました。頭の先から足の下まで“気”を入れるのです。身体内に帯電した電気を抜くため地面にあぐらをかくとア−ス状態になり気持がいいそうです。
 面白いのはベアトリックさんは雷が好きだそうです。「雨が降る前の雲が垂れ下がった状態はだめだが、その後の落雷と雨の時は気分が良くなる」そうです。
 歯の治療で水銀の詰め物は良くなく詰め物を取る治療中だそうです。「3ヶ月治療したらネバダに戻る」と優しい夫に抱かれながら明るく彼女は答えました。

□レイ博士のインタビュ−
 レイ博士(院長)にインタビュ−した内容を以下載せます。

[問]いつ頃から電磁波過敏症に取り組んだのか
[答]1980年からだ。きっかけは、ある患者が化学物質過敏症でなく電磁波に過敏に反応したためだ。その患者はテレビやコンピュ−タや配電線に反応した。それで電磁波過敏症の存在を知った。最近、電磁波過敏症は増えている。

[問]一日何人位、患者は来院するのか
[答]化学物質過敏症は一日約50人で、電磁波過敏症は一日2〜4人だ。1974年の開院以来、化学物質過敏症は約3万人、電磁波過敏症は約千五百人来院した。

[問]電磁波過敏症はどんな症状が多く、そして治療法はどのようにしているか
[答]記憶混乱・頭痛・筋肉痛・一時的記憶喪失・不整脈・肌に湿疹、などが症状としてある。電磁波過敏症は化学物質過敏症との複合が多いので、電磁波だけでなく、化学物質も避けることが治療上大切だ。食物はなるべく刺激がないものでオ−ガニック(有機食品)がいい。水にも気をつけ、栄養にも気を配ることだ。中和する注射も必要だし、静脈注射で栄養を摂る場合もある。ミネラル補給も大事だ。金属も要注意で骨折で身体の中に金属を入れていると電磁波過敏症になりやすい。その金属をとることも必要な場合もある。サウナやマッサ−ジや気功療法も取り入れている。

[問]電磁波過敏症と化学物質過敏症の違いはどんな点か
[答]電磁波過敏症はほとんどが化学物質過敏症との複合汚染として出る。一方、化学物質過敏症はふつうそれだけで症状が出ている。もちろん電磁波過敏症との複合もあるが。化学物質過敏症として当院に来てここで電磁波過敏症発症に気づくケ−スもある。症状はともに酷似している。

[問]レイ博士自身は過敏症か
[答]私は化学物質過敏症だ。電磁波過敏症ではない。

[問]全米で何人位電磁波過敏症患者はいると思うか
[答]わからない。数が増えているのはわかるが。

[問]スウェ−デンでは電磁波過敏症患者は推定で2万人〜5万人いると言われているが。
[答]それは少なく見積もっている。もっと多いと思う。

[問]予防としてどんなことが必要か
[答]携帯電話を耳につけないようにイヤホンなど装置を使って使うことだ。携帯電話が一番問題だ。テレビは高い所に置くといい。そのほうが被曝量は減る。メタルスクリ−ン(シ−ルド用に金属を細かくまぶしてガラスに混ぜたもの)をテレビの画面につけるといい。それはパソコン画面でもいえる。白熱灯は蛍光灯より良い。それもメタルつきのものだ。パソコン画面は液晶のほうが電磁波は少ない。しかしそれもシ−ルドをつけたものにしたほうがいい。パソコンの裏側もシ−ルドが必要だ。電気製品ならワイヤ−をねじったものがいい。ホットカ−ペットは熱くなると化学物質も揮発して出るので二重に良くない。電気毛布も同じだ。日本人はホットカ−ペットや電気毛布を使っているのか?驚くね。私は使わないし私の周りでは誰も使わないがね。

[問]「電磁波で狙われている」という相談が私どもにはくるが、レイ博士はどう思われるか
[答]私のところへもそういうケ−スの人が来るが、狙われているという証拠はどこにもない。

[問]電磁波過敏症か心身症かの区別が難しいケ−スがあるが、どのように区別するか
[答]当院には電磁波過敏症か心身症かを識別する測定機器がある。電磁波をブラインドテストで照射すると過敏症の人は瞳の瞳孔が反応する。電磁波が原因と思い込んでいるだけの心身症の人は反応しない。それで識別する。

[問]電磁波過敏症についてアメリカではどのように考えられているか
[答]電磁波過敏症について、米軍は認知している。知ってはいてもどうしたらいいかわからない、というのが本当のところだ。

[問]世界的レベルでネットワ−ク提携しているときくが
[答]ここには世界中から医師が研修に来る。スウェ−デンのクジェル・ハンソン・ミルドやイギリスのジ−ン・モロ−もここへ来た。また1981年から「環境医学国際シンポジュウム」を開いており今年(2003年)で21回目だ。日本からも今年北里大学の坂部貢氏が来た。北里大学からはいままでで8人来ている。いろんな事例を交流するためだ。

□内科医スパ−ロック氏の話
 レイ博士と共同医療行為に従事しているマ−カス・スパ−ロック(Mercus Spurlock)内科医にもインタビュ−したので以下紹介します。

[問]どのような経緯でここで働くようになったのか
[答]ここから2マイル離れたリチャ−ドソンという町でホ−ムドクタ−をしていた。その前はルイジアナでエイズ患者を診ていた。従来の医療行為では患者に対応できないというジレンマがあり、そんな時ヘンリ−先生の紹介でレイ先生の所にくるようになった。ヘンリ−先生は環境医学にの医師でここにもパ−トタイムで週2回来ている。

[問]あなたの専門は何か
[答]私の得意分野は慢性の痛みにどう対処するか、ということだ。

[問]一般の病院でしないことでここでするようになったことはあるか
[答]環境医学は家や職場に限らず患者に影響すると思われる要因はすべて追跡する。たとえばここでは化学物質や電磁波をカットするよう配慮された環境になっているが、患者の家や職場はどうなのか。私は患者の家にまで出向き、電気製品の配置等を指導する。

[問]電磁波過敏症患者の特徴はあるか
[答]電磁波過敏症患者は自律神経が電荷を帯びている。体液が電気的影響を受けると自然状態でなくなり、身体が悪くなる。パルス信号(デジタル波)も身体には良くない。電荷を帯びると身体エネルギ−がブロックされ、神経をはじめいろいろ身体に悪影響を与える。

□電磁波の抜き方
 ダラス環境医学治療センタ−で「EMF(電磁場)と脳機能に役立つために」という文書をもらいました。この中身がスパ−ロック内科医やベアトリックさんの話と符号するので紹介します。

 EMF(電磁場)はアンテナのEMFように振る舞う。このアンテナ効果を最小化するには地面に身体をつけるといい。地面とは土のことでアスファルトやコンクリ−トではだめだ。車も土の地面に接地させるといい。同様の理由で天然皮が底のなっている靴もいい。反対にゴム底靴は良くないので履かないように。土の地面に接地することで地球と同じエネルギ−と一体化する。
 外国では室内でも靴を履くが、一つの方法として床と身体が直接接するように胴のワイヤ−を靴と足の上表面が繋がるようにボ−ルを巻くようにするといい。こうすることでEMFがアンテナのように振る舞わせないのに役立つ。(ア−スのように電磁波を抜き、身体に帯電させない)しかし、多くの床材はタイルやセラミックやリノリウム(床仕上げ剤の一種)など絶縁体物質なので注意が必要だ。カ−ペットも絶縁体材質の時は注意が必要だ。だから、多くの電磁波で困っている人は芝生や草の上で裸足で立ったり、寝転ぶといい。木を抱いたり、寄りかかると気分が良くなる。それは人を母なる大地に直接結びつけるからだ。


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