報告「京都大学基礎物理学研究所・研究会:電磁波と生体への影響」

電磁波問題市民研究会代表・野村修身


2003年5月30日〜31日に行われたこの研究会は、物理学者、生態学者、統計研究者、医者、市民運動者など、電磁波障害問題に関わっているあらゆる人々が集まって、実質的な討議を行いました。今まで、このような研究会は空前のことです。

電磁波は「21世紀の公害」と言われています。タバコと比較されますが、その害を確定することははるかに困難です。それは、一般的に人間の五感で感知できないにもかかわらず、きわめて生活の隅々までに浸透しているからです。このような被害を確定するには、あらゆる分野の人々の総力を結集して取り組まなくてはならないことは容易に想像できます。今まで、このような検討会合が無かったのが不思議と言えるでしょう。今後の発展を期待するものです。研究会の趣旨とプログラムを以下に転載します。


京都大学基礎物理学研究所・研究会「電磁波と生体への影響」
主催:京都大学基礎物理学研究所
場所:湯川記念館8階大講演室
日時:2003年5月30日(金)〜31日(土)
内容:
 これまで物理学では、電磁波の生体への影響は単純にエネルギーに依存して現れると考えられてきた。この考えに基づけば、極めてエネルギーレベルが高い放射線は、生体の内部組織にまで到達し、その組織における正常細胞をがん細胞へと悪性化すること、およびそれよりエネルギーレベルが低い紫外線は、生体の表層組織にとどまり、その表層組織における正常細胞をがん化することが理解できる。それては、エネルギーレベルが極めて低い電磁波の生体への影響は本当に存在しないのだろうか。
 生命の起源以来、数十億年におよぶ進化の過程で、生物は電磁波スペクトルの2つの領域一すなわち、低周波電磁波(〜数十へルツ)と可視光線一をうまく利用してきた。これらの電磁波は海水中をよく透過する性質があり、海で誕生した生命には欠かすないエネルギー源てあり情報源であった。現存する水棲生物が餌を見つける時に使う電磁波が低周波であり、わたしたちの脳波に現れている電磁波も低周波である。一方、わたしたちの目は可視光線を感知するすぐれた機能をもっている。ところが、この可視光を10へルツ程度の低周波で聞欠的に遮光すると、数秒も経たないうちに被験者の脳波がいっせいに同期しはじめ、てんかん発作を引き起こしてしまう。この観点に立つと、電磁波の生体への影響は、エネルギーレベルで単純に理解できると言うよりも、生体反応を特異的に引き起こす情報源という意味から、周波数に基づいて捉え直す必要があるように思われる。つまり、冒頭の「電磁波の生体への影響は単純にエネルギーに依存して現れる」という前提自体を生物学の知見を交えてもう一度、物理学的に再検討することが必裏である。
 今日使用されている携帯電話のマイクロ波は低周波で変調されていることを考えると、その電磁波の影響は家庭送電線などから受ける低周波電磁波の場合とも共通した、低周波成分による影響発見のメカニズムが普遍的に存在する可能性がある。逆に、電磁波の生体への影響を情報源という意味から周波数に基づいて考察することによって、生命現象の基本的な情報統合メカニズムを解明できるのではないだろうか。研究会では、物理学者、工学者、生物学者、医学者、哲学者などが多角的に意見を交わしながら、電磁浪が生体へ与える影響について、その問題点を学術約・学際的に明らかにしていきたい。

<プログラム>

5月30日
 1:00 はじめに
      村瀬雅敏(京部大学基礎物理学研究所)
 1:10 太陽光過敏症の分子メカニズム
      松田外志郎(大阪大学大学院生命機能研究科〉
 2:10 原生生物における電磁場の影響
      中岡保夫(大坂大学大学院基礎工学研究科)
 3:10 休憩
 3:30 痛み・温度感覚の分子生物学
      富永真琴(三重大学医学部生理学第一講座)
 4:30 磁界感受性とメラトニン
      石堂正美(独立行政法人国立環境研究所)
 5:30 閉鎖空間における携帯電話の影響
      本堂敦(東北大学大学院物理学研究科)

5月31日
10:00 電磁波問題と予防原則
      荻野晃也(電磁波環境研究所)
11:00 ゲーム脳の現状
      森明雄(日本大学文理学部)
12:00 昼食
 1:00 低周波電磁波の疫学について
      兜真徳(独立行政法人国立環境研究所)
 2:00 化学物質過敏症と電磁波過敏症
      宮田幹夫(北上研究所病院)
 3:00 広義の環境ホルモンとしての電磁波
      村瀬雅敏(京都大学基礎物理学研究所)


私は、このすばらしい研究会に出席することが出来、各界の著名な人々の講演を聞き、意見交換を行う幸運にめぐまれました。各講演者の報告を全てお伝えすることは不可能なので、私の記憶に残った発言を記します。もちろん、私の聞き取り間違いがあると思います。

これらの中には、電磁波問題に関係ないことが含まれていると思われるかもしれませんが、それだけ、電磁波問題は広い分野にまたがっていることをあらわしていると思います。

●DNAの損傷は常に起こっているが常に修復されている。

●人体の内部に発生している電気の周波数は、宇宙の背景放射スペクトルのシューマン共振の間に位置する周波数である。言い換えれば、宇宙で最も少ない周波数を利用して、人類は発生/発達してきた。最近はこのような領域の電磁波を使っているので、薄い「毒ガス」の中で生活しているような状況ではないか。

●ゾウリムシに、60ヘルツ交流磁界0.6テスラを重力と平行に加えたところ、水面近くに集合した。

●重力と直角方向に磁界をかけると、磁場に直角方向に泳ぐゾウリムシが多くなる。

●人間の温度受容体は痛覚も感じる。すなわち、温度は痛みとして感じることになる。15℃以下では冷痛、45℃以上では熱痛となる。

●人間は温度42℃で痛みを感じ始め、48℃で最高となる。しかし、プラジキニンが存在すると37℃で活性化する。つまり、低い温度を感じることが出来るようになる。

●100マイクロテスラの電磁界暴露により、生体の神経系統の情報伝達機構の消失が見られた。

●電磁界曝露を1週間行って遺伝子変化を観察した。その結果、変化を起こしたのは、1.2マイクロテスラでは4個、100マイクロテスラでは5個であった。

●細胞が死ぬことで遺伝子の変化が影響しなくなるので、生体全体としては、プラスの結果をもたらすこともある。

●電車内のような閉鎖空間では、複数の携帯電話から発射される電磁波が壁面で反射されるため、電磁波が強くなる恐れがある。具体的な例として報告したのは、東急3000系の電車のみであるが、他の種類の車両でも同じようなものと思われる。

●電磁工学の専門家や担当省庁の担当者は「電波の強さは距離の2乗に反比例するから、反射壁が遠ければ反射の効果は無視できる」と言っている。この主張は、電車内のような閉鎖空間では成り立たない。電磁気学の基本を忘れている。

●「携帯電話端末を埋め込み型心臓ペースメーカーから22センチメートル以上離すこと」という公的指針は、例えて言うならば、広大な牧場で一人さびしく携帯電話を使っているときに成り立つ。このドグマを「牧歌的パラダイム」と名づける。

●国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)の被爆制限は、熱的影響のみを根拠としている。非熱的相互作用は電磁波本来の性質なので、熱的作用よりも強く働きうる可能性がある。

●人類の電気利用は、200年前にイタリアで始まったと言える。ガルバニーが生体電気、ボルタが金属電気と対立し、ナポレオンの恣意的な扱いにより、後者のみが生き残って現在に続いている。これが、人類にとっての悲劇の始まりかもしれない。

●さらに100年前には、エジソン(直流電気)とテスラ(交流電気)の争いがあり、後者が勝利をおさめて、現在の電気利用方式が確立した。これも人類にとって良かったかどうか分からない。

●高圧線下で蛍光灯が光ったことを1996.9.10朝日新聞で報道したが、この記事は関西と四国版にしか掲載されなかった。最近、再実験をしたら光らなかった。電磁波強度が下がったのかと思ったが、そうではなくて、インバーター型蛍光灯を使ったためであったようだ。

●アメリカのEPA報告書を、電力企業を後ろ盾にしているブッシュ(父)大統領がつぶした。このありさまが、エディ・マーフィー主演の映画「ホワイトハウス狂想曲」で画いている。

●ニワトリの卵に電磁波をあてると死産が増えるとの報告がある。

●ゲーム脳から出る脳波は、痴呆症の人と同じである。脳のネットワークが電磁波により影響されるのかもしれない。

●国立環境研究所の疫学調査の最終結果は、2002.8.24朝日新聞に掲載した中間発表と変わっていない。国際保健機関(WHO)の国際磁界プロジェクトでは、日本とイタリアの調査結果に期待している。この結果は近いうちに、文部科学省のウェブサイトで公表される。

●この疫学調査では、磁界の測定に一週間かけて確かめた。一点のデータ測定には5分間を要した。高圧線からの距離や部屋内外のガンマ線の強さも測定した。さらに、寝室での電気機器の配置も考慮している。若い人が移動が多いので、結果を集めるのに苦労した。

●2003年9月15日に、シンポジウム「生活環境の電磁界リスクとガバナンス」が東京で行われるが、200人程度は傍聴できるだろう。関連して、9月16日〜18日に専門家によるワークショップが筑波で行われる。

●世界中の疫学調査において、対象を小児白血病にするのが多いのは、最も調査がしやすいからである。その他に、小児ガンの調査は10例ほどがある。

●一般人を対象にして、電磁波対策をどのように考えているかについて、一万人にアンケート調査をしたことがある。約2千人から回答が来て、その集約の結果、知識が少なく対策が必要と示したのが約7割であった。

●医者の立場で、電磁波過敏症と化学物質過敏症を見た感想では、両方の症状を兼ねている人は全体の約一割である。

●過敏症は精神的疾患でなく肉体的疾患である。外観上は精神病との違いが分かりにくいので注意を要する。

●電磁波被爆によるカルシウムの沈着は関連がありそうだ。カルシウム沈着が目に起これば白内障となる。

●電磁波に対する感受性が大きいことの説明としては、生体というものは高エネルギー状態にあるので、低レベルの電気信号でも選択的に増幅して、大きな影響をもたらすと考えられる。

●電磁波によりストレスたんぱくができる。これは、温度を上げた場合と同じ現象である。

●同じ原因でもまったく違う結果を生じることがあるので、生体の反応は再現性が確保できない場合があることになる。これを科学的に捉えるためには、その反応過程の履歴を考慮すると、ある程度の説明が出来ると思われる。


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