文部科学省全国疫学調査「生活環境中電磁界による小児の健康リスク評価に関する研究」報告書のあらまし

ア−ルボムらのプ−ル分析と類似の結果「電磁界は3〜4mGでリスク可能性あり」

□日本初の全国規模疫学調査
 日常生活における極低周波磁界が健康に影響を与えるのではないかとの疫学調査が世界的にすすめられ、米国環境保健研究所(NIEHS)は98年に極低周波磁界を「発がんリスク2B(可能性あり)」と結論づけた。
 そして世界保健機関(WHO)も国際電磁プロジェクトの下、1996年〜2005年の期間をかけ電磁界の健康リスクの研究・評価を進めている。こうした背景から電磁界の高曝露人口が高いと予想される日本で小児白血病と小児脳腫瘍について疫学調査を最新の手法で行なうことは意義があり、国際貢献にもなるとして本研究は実施された。

□健康リスク評価のための3つの課題
 電磁界の健康リスクを科学的に評価するため(1)小児がんの症例・対照研究(2)電磁界及び交絡要因の暴露測定・評価(3)総合解析・評価、の3つを行なう。
 そのため研究班も3つつくり、とくに3番目の総合解析・評価については、疫学・曝露評価・がん・各種交絡因子等の専門家からなる小委員会を組織しそこがあたる。

□解析には十分時間をかけた
 疫学調査は2002年3月に終了したが、平成14年度の事後評価の時点(2002年秋)までには解析の時間が不足していた。それは本調査が極めて大きな社会的反響が予想されたことと、個別デ−タを整理統合し解析するのに時間がかかったためだ。この点が他の研究と異なる基本的制約をもつ研究なのである。(中途半端な解析ではすまされない研究ということだ)

□調査規模は世界で3番目
 疫学調査は総合事務局を国立環境研究所(茨城県)に置き、調査中央事務局は国立がんセンタ−(東京都)に設置した。そして北・南関東ブロック、関西・中部ブロック、中国・四国ブロック、九州ブロックに地域事務局を置きそれぞれのブロック内で症例と対照について訪問面接調査と磁界測定を進めた。その結果、全国245の病院のネットがつくられ、2002年3月までの実質2年3ヵ月で発生した初発の小児白血病患者1439例のリストがつくられた。
 訪問面接調査対照地域としてキャッチメントエリアが設定され、最終的には有効解析対象として症例312例、対照者603例が集まった。この数は英国の全国調査、米国の国立がん研究所の調査に次ぐ世界で3番目のサイズだ。
 そして(1)子供部屋での磁界1週間測定(2)診断日から測定調査の期間を最短化(平均1.1年)(3)症例対照の測定タイミングのマッチ(1週間以内のマッチングが80%)、など今までの調査ではなかった方法の改良でこれまでの疫学調査と比較して各種測定誤差が小さくなっていると考えられる。

□小児白血病全体のリスクは4mG以上でリスク2.63倍
 小児白血病は急性リンパ性白血病(ALL)と急性骨髄性白血病(AML)及びその他の総称で、急性リンパ性白血病(ALL)が全体の約7割を占める。
 調査では磁界の曝露量を、0.1μT、0.2μT、0.4μTをカットポイントとして分類した。結果は、小児白血病全体では子供部屋の平均磁界レベルが0.4μT(4mG)以上のみでリスクが上昇した。1mG未満を1とした場合の4mG以上のオッズ比(相対危険度)は2.63倍である。95%信頼区間(CI)は0.77−8.96で下限は1をクリアしていない。

□急性リンパ性白血病は4.73倍で有意
 小児白血病を大半を占める急性リンパ性白血病(ALL)のみでみると、0.4μT(4mG)以上でオッズ比(今回のオッズ比は母親の教育レベルを調整した“調整オッズ比”を使用している)は4.73倍となっている。95%信頼区間(CI)は1.14−19.7で統計的に有意である。
 急性骨髄性白血病(AML)は、0.4μT(4mG)以上の症例がなかった(対照は2例あった)ためリスクは認められなかった。

□脳腫瘍のリスクは10.6倍で有意
 脳腫瘍は15歳未満で全国107病院に調査期間内に登録された症例324名のうちキャッチメントエリア内の対象167名に担当医を通じて調査を以来し、承諾を得たのは72名である。この72名全員が実際に面接調査・磁界測定を受けたので参加率は100%だった。しかしその後の転居や対照とのマッチングがとれなかったりで有効症例数は55名であった。
 調査結果は、子供部屋の平均磁界が0.3あるいは0.4μT(3あるいは4mG)以上でリスクは有意に上昇するという急性リンパ性白血病(ALL)と同様なパタ−ンであった。0.4μT(4mG)以上のオッズ比は10.6倍で、95%信頼区間(CI)は1.00−111で統計的に有意。なお症例数が少ないのでバイアス(偏り)の可能性は否定できない。

□バイアス影響少なく、国際貢献できる研究調査である
 当初予想されたような「日本は高曝露者の多い国」は、キャッチメントエリア内という制約の下であるが、デ−タ上0.4μT(4mG)以上が全体の1%未満しかなくその事実はなかった。
 しかし、今回の調査で0.4μT(4mG)以上の磁界レベルで小児白血病リスクが上昇傾向を示しことは、これまでWHO(世界保健機関)が根拠にしていたスウェ−デンのア−ルボムや米国のグリ−ンランドの疫学プ−ル分析結果と極めて類似する結果であり注目される。
 さらに、今回の調査は磁界1週間測定や測定誤差を極力減らすためのマッチング精度の高さなどバイアス影響を少なくした調査として国際貢献が期待される質のものである。
 なお、10歳未満あるいは8歳未満に制限した場合、0.4μT(4mG)以上でオッズ比はそれぞれ4.32(1.00−18.7)および7.25(1.36−38.5)でリスクは高く、かつ統計的にも有意な結果だった。


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