アメリカの「携帯と脳腫瘍」訴訟が大詰に

ハ−デルの未刊行疫学研究報告を判事はどう判断するか?

□クロ、シロ両陣営が証人合戦
 ボルチモアの42歳の医者クリストファ−・ニュ−マンがモトロ−ラなど多くの携帯会社を相手取って「脳腫瘍は携帯電話使用が原因」と訴えた裁判で5日間にわたる聴聞会が開かれ、原告側のピ−タ−・アンジェロス事務所は5人の専門家を立て、被告の携帯会社側は負けじと6人の専門家を立て、互いの正当性をぶっつけ合った。

□鍵はハ−デルの疫学研究が握る
 連邦判事キャサリン・ブレイクは、「携帯電話と脳腫瘍の因果関係」を巡る科学的証拠は信頼するに足るか否かをまもなく判断する裁決をする。裁決は米国内で争われている多くの総額数億万ドルに及ぶ携帯電話損害賠償訴訟に大きな影響を及ぼすであろう。
 科学的証拠として注目されているのが、スウェ−デン・オレブロ医学センタ−のがん学者レナ−ト・ハ−デル(Lennart Hardell)の「アナログ電話の使用は脳腫瘍リスクを高める」とした未刊行の疫学研究報告である。昨年発表(未刊行)されたハ−デルの二つの研究論文の一つは、アナログ電話を1年以上使用した人は脳腫瘍が26%有意で増加し、5年使うと35%、10年使うと79%、それぞれリスクが高くなる、としている。
 もう一つの論文は星状細胞腫が有意ではないが9%高まるし、電話に一番近い脳の部分に限定すると有意で9倍リスクが増加する、という内容だ。

□携帯会社側の反論は
 これに対し携帯会社側の弁護人は、ハ−デル論文は欠陥があり信頼ができないことを示そうと専門家を証人に立てた。反論は、(1)ハ−デルの二つの論文はどんな種類の論文が法廷で許可されるか明確化した“ド−ベルト基準”(未刊行や審査前の証拠は一般的に受け入れない)に適合しない(2)権威ある『ランセット』の論文審査員3人のうち2人がハ−デル論文を載せないとしている、ことを挙げている。

□判事ブレイクはどう判断するか
 一応両陣営の主張合戦は終わった。しかし裁決にたどりつく期限は特別ない。モトロ−ラの弁護人ギャレット・ジョンソンは「ブレイク判事はなにもそのことに触れていない」と語った。さあ、どうなるか。


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