IARCがEMFを「2B」に全会一致で決める

6月27日に仏リヨンで発表。
極低周波電磁場の発がんリスク「可能性あり」

□極低周波電磁場が対象
 国連機関であるWHO(世界保健機関)の下部機関であるIARC(国際がん研究機関)が画期的な発表を行った。フランス・リオン市に本部のあるIARCは6月19日〜26日まで静電磁場とELF−EMF(極低周波電磁場)の発がんリスク評価のためのワ−キンググル−プ会合を開催していたが、6月27日、グル−プメンバ−は全会一致で極低周波電磁場を発がんリスク「2B」(可能性あり=possible)に正式にランク付けしたことを発表した。

□21人のメンバ−には日本も参加
 ワ−キンググル−プは世界10ヵ国から21名の専門家によって構成されているが、日本からも京都大学の宮腰順二氏が参加している。
 すでに1998年6月にNIEHS(米国立環境健康科学研究所)のワ−キンググル−プが同じIARCのがんリスク評価表を使って極低周波電磁場を今回同様「2B」と評価したが、この時は28名のメンバ−中19名の多数で可決された。これに対しIARCはがん問題で最も権威ある機関であり、そこが全会一致で「2B」(可能性あり)としたことの影響は大きい。

□なぜ沈黙する日本の行政
 IARCのワ−キンググル−プのメンバ−表とランク別表は次ぺ−ジに掲載したがグル−プの構成は、電磁場(EMF)はがんを促進すると主張する人からその関連性に懐疑的な企業側コンサルタントまでいろんな立場の人が含まれており、そこでの全会一致の意味は大きい。
 今年1月30日に総務省の「生体電磁環境研究推進委員会」中間報告は「電波は健康に悪影響を及ぼすという確固たる証拠は認められない」とする見解を発表したが、今回のIARCの発表は電波(高周波)ではないが50〜60ヘルツの極低周波電磁場に対し「人体への発がんリスクは可能性がある」としたのである。高周波よりパワ−の弱い極低周波で人体に影響ありとすれば、当然高周波の評価にも影響せざるをえないだろう。このIARC評価に日本の総務省はどう応えるのか注目したい。

□7人が動物実験にも「限定証拠」と支持
 今回、メンバ−のうち7人が動物被曝実験に基づくがんリスクに「限定つきで証拠あり」の票を投じた。98年のNIEHSの時は一人もこれに票を投じなかったことからすると大きな変化である。


IARCの発ガンランク表

ランクカテゴリー対象物質
発ガンありアスベスト・ベンゼン・ダイオキシン・塩化ビニール・C型肝炎ウィルス・ラドンなど87種
2A発ガンの可能性あり
(probable)
PCB・ベンツピレン・紫外線・ホルムアルデヒドなど63種
2B発ガンの可能性あり
(possible)
クロロフォルム・鉛・電磁場・DDT・PBB・四塩化炭素など231種
分類できない炭塵・水銀・キシレン・蛍光塗料・サッカリンなど483種
発ガンの可能性なしカプロラクタム(ナイロンの原料)



IARCのEMFに関する結論

マイクロウェ-ブ・ニュ-ス2001年7〜8月号より

 10ヵ国(米・英・仏・独・加・日・スイス・ス・フ・デ)から21名の科学専門家を集めたワ−キンググル−プが、静電磁場と極低周波電磁場の曝露による人間の発がんハザ−ドの可能性を評価するためリヨンで会合した。この報告書は可視光線以下の周波数の非電離放射線についての二つ用意されているIARC小論集の最初の一冊である。
 ELF(極低周波=extremely low frequency)磁場曝露は送電線や家庭内配線や電気器具の近くにいると生じる。そして地球磁場による曝露もそれに付加される。磁場はマイクロテスラ(μT)単位で計測される。地球の静磁場は赤道付近の25μTから極地方の65μTまで幅がある。
 居住環境における電磁場と小児がん(とりわけ小児白血病)の関係を初めて提示した論文が1979年に発表されてから何十もの研究が行われてきた。総合的にみると、0.4μT(4mG)以下の極低周波磁場を居住環境で曝露する多くの子どもたちに白血病が増大する証拠はほとんどみられない。電場が小児白血病に関係しているという証拠については全くないし、小児脳腫瘍や他の小児腫瘍と居住環境上の極低周波電磁場との一定した関係を示すものもない。しかしながら、しっかり実施された多数の研究デ−タの分析では、小児白血病と電力周波数つまり極低周波で、かつ居住環境上での0.4μT(4mG)以上の磁場にかなり一定した統計上の関係がみられる。そのリスクはおよそ2倍である。これは偶然によるものとは思えない。だが選択バイアスの影響はありえる。それゆえ小児白血病と居住上での高い磁場との関係は「曝露された人間のがんリスクの限定的証拠」と断された。
 居住環境及び職業上の成人への曝露はどの場所でもがんリスクと関係するとする一定した証拠はない。ただし居住上と職業上を結合したスウェ−デンの研究だけは、慢性リンパ性白血病を除くすべての白血病とそれに類似した型の病気において有意にリスクが増大する関係にあるとしている。子どもも成人もすべての種類のがんリスクの証拠は、極低周波電磁場の曝露結果として不十分(inadequate)とみなされた。
 磁場の発がん性を調査した数多くの研究は動物実験でも行われた。その中には磁場のみの曝露での長期間バイオアッセ−(生物検定法)や、発がん物質として知られている物質と一緒にラットやマウスに磁場曝露するバイオアッセ−も含まれている。
 磁場だけのバイオアッセ−は一般的に否定的な結果だったが、マウスとラットのオスとメスの両方を対象として行なった研究で一つだけオスのラットの甲状腺C細胞の腫瘍増加と非曝露とに関係がみられた。多段階的な発がん研究は、化学的に引き起こされたラットの乳がんやマウスの皮膚がんには一定した増加は示されなかった。磁場は、化学的に引き起こされたラットの肝臓がんやマウスやラットの白血病やリンパ腫での効果はなかった。結局、動物実験研究での極低周波磁場の発がん証拠は不十分と判断された。静磁場の動物への発がん性、あるいは静電場と極低周波電場の動物への発がん性に関するデ−タはワ−キンググル−プで利用されなかった。
 多くの仮説は極低周波電場及び磁場の発がん効果の可能性を説明するのに貢献したが、発がん性の科学的証明の確立までには至らなかった。
 したがって結局のところ、極低周波磁場について「人間の発がん性の可能性あり」つまり「2B]と評価された。その根拠は、居住環境においてある高さのレベルの極低周波磁場と小児白血病のリスク増大は統計的に関連することのためだ。静磁場と静電場および極低周波電場は「グル−プ3」にランクされなかった。


IARCの評価メンバ−一欄

評価には、一覧表に示されている21名のメンバーの他に、票決権ないオブザ−バ−が3人参加した。
ラリ−・アンダ−ソン
(Larry Anderson)
米国・バッテル太平洋北西国立研究所
ウィリアム・ベイリ−
(William Bailey)
米国・ニュ−ヨ−ク市代表
カ−ル・ブラックマン
(Carl Blackman)
米国・EPA(環境保護庁)
ニック・デイ
(Nick Day)
英国・ケンブリッジ大学
ヴィンセント・デルピッツォ
(Vincennt Delpizzo)
米国・カリフォルニアEPA計画
パスカル・ゲネル
(Pascal Guenel)
仏・国立病院
エリザベス・ハッチ
(Elizabeth Hatch)
米国・ボストン大学
ユッカ・ユ−テライネン
(Jukka Juutilainenn)
フィンランド・クオピオ大学
リ−カ・カイフェッツ
(Leeka Kheifets)
米国・EPRI(電力研究所)
10アブラハム・リボフ
(Abraham Liboff)
米国・オ−クランド大学
11デイビッド・マコ−ミック
(David McCormick)
米国・IIT調査研究所
12マイケ・メヴィッセン
(Meike Mevissen)
スイス・ベルン大学
13クジェル・ハンソン・ミルド
(Kjell Hansson Mild)
スウェ−デン・ウメオ大学
14宮腰順二日本・京都大学
15ヨルゲン・オルセン
(Yorgen Olsen)
デンマ−ク・デンマ−クがん学会
16クリストファ−・ポ−ティエ
(Christopher Portier)
米国・EHIES(国立環境健康科学研究所)
17リチャ−ド・ソ−ンダ−ズ
(Richard Saunders)
英国・国立放射線防護局(NRPB)
18ジョアシム・シュ−ツ
(Joachim Schuz)
ドイツ・マインツ大学
19ヤン・スト−ルイック
(Yan Stolwijk)
米国・エ−ル大学
20マリア・スタッチリ−
(Maria Stuchly)
カナダ・ヴィクトリア大学
21ベルナルド・ヴェイレ
(Bernard Veyret)
仏・ボルド−大学


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