石川逸子さんの詩
ダアーちゃん

 詩人・石川逸子さんが、イラクでの劣化ウラン弾被害の告発とイラク攻撃反対の思いをこめた新しい詩を作られましたので紹介します。
 
 今も「ダアーちゃん」の悲劇がイラクで、ユーゴで、そしておそらくアフガンで生み出されていることに、思いを馳せずにはおられません。そして「ダアーちゃん」の悲劇をこれ以上生み出してはいけない、と決意を新たにさせられます。
 
 石川さんが編集発行されているニュース「ヒロシマナガサキを考える」に石川さんが掲載されている「イラクに落とされた劣化ウラン弾」も合わせて紹介します。

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 ダアーちゃん
             石川逸子
 
白いレースの襟のおしゃれな服
赤いヘアバンド
姉さんと兄さんのあいだにはさまり
少しおすまし顔の
五歳のダアーちゃん
(そのダアーちゃんはどこへ行った)

やせほそり
ふくれあがった頭
うつろな目で
じっとベッドに横たわる
六歳のダアーちゃん
(そのダアーちゃんはどこへ行った)

  湾岸戦争時つかわれた劣化ウラン弾は九十五万個
  高速で戦車にぶつかり 自然発火
  広島に落とされた原爆の
  少なくとも一万四千倍の 放射能が飛び散った
  半減期はざっと四十五億年 

そのアメリカ・イギリスの対イラク戦争を
「平和回復運動」だ といった首相もいたっけ
さしだした百十億ドルは
アメリカの金庫にちゃっかり納まり
「血をだしていない」と文句までいわれたとか
(今ごろイージス艦はインド洋でなにを探索しているだろう)

七歳になれなかった
ダアーちゃん
ダアーちゃんがなにをしたの
ただ 外遊びがすきだった
(そのダアーちゃんはどこへ行った)

 参考文献・本田勝一イラクを行く(週間金曜日・02・6・21)
       ・中国新聞編集部・知られざるヒバクシャ(02・6)
       ・森住卓・戦車の墓場(02・11・11・ネット)



縦書き(ビットマップ)


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イラクに落とされた劣化ウラン弾

 アメリカ・ブッシュ大統領は、なにがなんでも、イラクに戦争をしかける気でいるようだ。議会の支持、国民大多数の支持もえて、すでに軍隊・武器の準備もととのえ、「始め!」の命令をだすときを今か今かと待っている。なんと怖ろしい国だろうか。世界一多く核兵器ほかのありとあらゆる武器を所有し、常に「敵」を捜し求めている。
 他国民の血を吸わなければこの大国はもう、生きていけなくなっているのだろうか。
 アフガニスタンが終りかけたら、今度はイラク。
 そのイラクは、湾岸戦争時の痛手がまだ癒えぬ国だ。というより、なお続いている経済制裁によって、新生児の七〇%が栄養失調でその五十%が重症だという。浄水に必要な塩素剤も、化学兵器の材料になるといわれ、輸入できないため、赤痢・チフス・コレラが発生している。(ネット・「戦車の墓場」森住卓)
 かてて加えて、湾岸戦争時、米英軍によって劣化ウラン弾が大量に(約九十五万個)発射され、琉球大矢ヶ崎克馬教授によれば「広島に落とされた原爆の一万四千倍から三万六千倍の放射能」がばらまかれたことになるという。
 非武装地帯に外国人ジャーナリストとして始めて入った森住氏が、ころがっている三十ミリ砲弾に放射線測定器をちかづけると、通常の百倍以上の価をしめしたそうだ。
 バグダッド・マンスール小児病院白血病専門病棟では、ムハマド・アッタラ医師が「毎日四〜五人亡くなっていく」といい、「白血病患者は湾岸戦争前の十倍で、イラク全土では一日五〇〇〇人から七〇〇〇人の子どもが死んでいく」と告げる。
 また、バスラ小児・産科病院のフィラス・アブダル・アバス医師は、「中国新聞」記者に、大会議室に展示した先天性異常の赤ちゃんの写真を見せ、バスラでの先天性障害の新生児の誕生は、湾岸戦争前の三、四倍だと語る。多くは死産、あるいはきわめて短い命だとも。(「中国新聞・二〇〇〇・六・「知られざるヒバクシャ」)
 そのような国をアメリカはさらに攻撃するといっているのだ。
 劣化ウランの犠牲者は、イラク人だけでない。湾岸戦争に従事した米英軍人もまたその犠牲者だ。
 湾岸戦争に従事した退役軍人の四十三%がなんと、退役軍人省に治療をもとめ、三十一%にあたる一八万二〇〇〇人が「疾病・障害補償」をもとめている。これまでに九六〇〇人以上が亡くなり、白血病・肺ガン・腎臓・気管支障害ほか病名は多岐にわたる。
 地上戦のなかで、汚染地帯にはいり、被爆したのである。
 核兵器や原発用の濃縮ウラン製造過程で生まれ、除去せねばならない余計物の劣化ウラン。潜在的発ガン性のある放射性物質で、その半減期は四十五億年だから、「永久」といいかえてもよいだろう。
 そのような劣化ウランを使用すればどうなるか、アメリカ軍は無知で弾丸にしたのでなく、独自に研究をかさね、大きな警告がなされたにもかかわらず、製造し、使用した。
 物欲が、人間としての倫理をこえてしまったのだ。
 心のそこから「もうストップ!」といいたい。(石川逸子)