[番組紹介]モンサントの犯罪の1世紀と
遺伝子組み換えによる農業支配の恐るべき実態
BS世界のドキュメンタリー <シリーズ 地球は訴える 〜大地〜>
“アグリビジネスの巨人 モンサントの世界戦略”
制作:フランス“Arte”  2008年

モンサントの犯罪の数々

 この番組は今年、フランスの放送局“Arte”が制作し、NHK「世界のドキュメンタリー」として放送された。国民の70%が遺伝子組み換え作物(以下GMO)に反対しているというフランスならではの番組である。GMOを武器に世界の種子と農業を支配しようとする巨大アグリビジネス企業・モンサントへの鋭い批判に貫かれている。番組時間は100分にものぼるが、これでもか、これでもかと突きつけられるモンサントの犯罪の数々に、新たな怒りが掻き立てられる。
※BS世界のドキュメンタリー <シリーズ 地球は訴える 〜大地〜>
http://www.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/080614a.html
 全編が、モンサントの犯罪告発である。ベトナム戦争で大量に散布された猛毒物質ダイオキシンを含む枯葉剤ラウンドアップはモンサントによって製造された。また、毒性が高く、ホルモン異常を引き起こすPCB(ポリ塩化ビフェニル)はモンサントの主力商品だった。安全性が疑われている人口甘味料アスパルテールも、モンサントによって製造されている。悪名高い遺伝子組み換え牛成長ホルモンrBGHもまた、モンサントの手になるものだ。これら製品の安全性確認では平然とデータの捏造をやってのけ、PCB製造工場近辺では住民への甚大な被害が出ているにもかかわらず訴訟を引き伸ばす。

遺伝子組み換えの種子市場独占によって世界の農業を支配

 番組の圧巻は、後編の、世界の種子市場を独占しようとするモンサントのやり方、それがもたらす災厄への警鐘である。番組中のバンダナ・シヴァの言葉が、モンサントの種子戦略の狙いを集約している。「第二の農業革命(GMOの導入)は、モンサントが主導する革命である」「それは、食糧の安全保障とは関係がない。モンサントの収益拡大があるだけである」「種子を知的財産として所有できる規範を確立してしまうと、(種子から)特許使用料を徴収できる。すべてをモンサントに依存することになる」。そしてその脅威について、「このような戦略は、爆弾よりも、銃砲よりも重要である。世界を支配するのにこれ以上の手法はない」。
 番組は、世界で繰り広げられているGMOをめぐる恐るべき実態を告発する。米国内では、モンサントの承諾なしにGMOの種子を使用する農家の告発が奨励され、その結果として、農民間の共同体意識が崩壊してしまった。

「遺伝子汚染」の脅威と農業の破壊

95年から2000年にかけてモンサントは世界の50にものぼる種子会社を買収し、世界中で、GMO栽培を拡大させている。世界三番目の綿花生産国インドでは、モンサントの手によるBtワタ以外を農家が手に入れることが困難となった。高価なBtワタの種子を購入する以外に選択肢はなく、Btワタは病気に強いわけでもない。一度不作になれば農民の没落は避けられない。Btワタを栽培する一帯の自殺率は、その他の地域と比較して群を抜いて高い。モンサントによって農民が自殺に追い込まれているのだ。
 メキシコでは、NAFTAによって補助金まみれの米国産のGMOトウモロコシが市場を席巻してしまった。そのような中、メキシコのトウモロコシ原生種にGMO遺伝子が交配によって入り始めた。遺伝子汚染である。その勢いは凄まじく、ある農民指導者は、モンサントの息のかかった何者かが、意図的にGMOの花粉を散布しているのではないかと疑っている。パラグアイ政府はGMOを認可してこなかったが、大規模な密輸によってGMO種子が持ち込まれ、開国=GMOの認可を余儀なくされた。到底納得できないことではあるが、モンサントが開発したGMOの遺伝子が入り込んだ作物は、モンサントの知的財産が使用されていると見なされ、自由な栽培は認められないのだ。当然のこと、モンサントに対して種子の使用許可を得るための、莫大ない支払いを余儀なくされる。そしてパラグアイでは今、小規模農家が次々と没落しているのである。私の知る限りでは、このような側面、モンサントの種子支配と世界戦略をこれほどまでにまとまった形で紹介した番組は、これまでになかったのではないか。この番組は、モンサントによる世界の種子市場の支配が、どれほどまでに恐ろしいことにつながるかなるかを訴えている。またモンサントの告発は、グローバル化による超巨大多国籍企業による世界市場の支配が利潤獲得の欲望にまみれたものであり、地球環境の破壊すらも省みないものであること、恐ろしい災難を人類にもたらすことの例証である。

 食糧危機をテコに莫大な利益をあげるモンサント

 “アグリビジネスの巨人 モンサントの世界戦略”の内容は、今日、非常に重要かつ実践的活動と結びついている。食糧危機が叫ばれる現在、食糧の増産が声高に叫ばれ、まさにこのような声を追い風として、GMOの急拡大が図られようとしている。モンサントにとって爆発する食糧危機は、途上国人民の飢餓を代償として莫大な利益を上げる絶好の機会でしかない。今年2月末までの3ヵ月純利益が2007年の同月比の2倍を超え11億ドル2000万ドルに上ることが発表された。現在、大豆、トウモロコシ、ワタ、ナタネを中心に、全世界でGMOは急拡大しており、2007年には、前年度の1億haから1億1430万haを突破すると推定されている。これは全世界の農地の約7%に相当する。
自然界の遺伝的多様性を守り、安全な食糧生産、安定した食糧生産の実現、食糧主権の確立のためには、モンサントの世界戦略の批判と闘いを避けて通ることはできない。

(2008年7月23日 K)