[投稿]〈番組紹介〉NHKスペシャル『ファンドマネーが食を操る−−穀物高騰の裏で−−』
ブッシュのバイオエタノール戦略がもたらす破壊作用

対中東政策の一環としてのバイオエタノール戦略

 ブッシュがイラク戦争の泥沼化の中で、中東に対する軍事外交戦略の一環、脱石油戦略として打ち出してきたバイオエタノール戦略が世界の食糧供給に異常事態を生み出している。ブッシュ政権が「米包括エネルギー法」として、アメリカ国内全体でのエタノール使用量を6年間で2倍にするとの政策を提起したのは、まさにファルージャの大虐殺直後の2005年の春であった。それ以降、イラク戦争・占領支配の泥沼化と歩調を合わすようにエタノールブームは加速した。イラクからの石油略奪の絵図を描けなくなったブッシュがバイオエタノールに大きく傾斜したのだ。現在もイラクではブッシュが強く促す石油法成立のめどさえ立たず、外国資本との契約をめぐるクルド自治政府とイラク石油省との対立、産油都市キルクークの帰属問題をめぐる対立などが続いている。
 その破壊作用は計り知れない。キューバ・カストロ議長は2007年3月、『世界の30億人以上の人々が、飢えと渇きで早すぎる死を運命づけられる』という論評でブッシュが地球温暖化対策と称して進めるバイオエタノール戦略が、とりわけ途上国の食糧危機を拡大し、環境・生態系を破壊する危険を強く非難した。全世界の4分の1の石油を消費し、さらに人々の食糧であり家畜のエサである穀物生産さえエネルギー需要のために破壊していくというアメリカ帝国主義のあり方に対する痛烈な批判である。また、ベネズエラのチャベス大統領は2007年4月に開催された「南米エネルギー・サミット」において、エタノール・ブームを「自動車を食わせるために、貧しき人民を飢えさせことと同じではないか」と批判している。
※More than three billion people in the world condemned to premature death from hunger and thirst
http://www.granma.cu/ingles/2007/marzo/juev29/14reflex.html

 ここで紹介する番組、NHKスペシャル『ファンドマネーが食を操る−−穀物高騰の裏で−−』は、アメリカ農業と日本の商社という限られた枠内であるが、アメリカではすでにバイオエタノール専用に遺伝子組み換えされたトウモロコシが席巻し、大豆や食用・飼料用トウモロコシ、小麦などを駆逐していっていること、サブプライム危機によって行き場を失った投機マネーがコモディティファンドとして穀物市場に大量に流れ込みかつてない価格高騰を生み出していること、ファンドマネーだけでなく農業生産者自身が農場に行くのではではなくパソコンの前に座ってネット取引に夢中になるなど異常な光景が生み出されていることなどを明らかにする。
 すでに日本の私たちの生活の中でも、灯油やパン、麺類から雑貨に至るまで日用製品の値上げが相次ぎ、暮らし向きの悪化を実感するようになっている。日本の商社が小麦や大豆の買い付けに汲々とする様子は、サブプライム危機と、またバイオエタノール問題と私たちの生活が深く結びついていることを感じさせる。しかし問題はまだ始まったばかりである。このままバイオエタノール戦略が強行推進されたらどうなるのか。とりわけ途上国の人民に対して破壊的な作用をもたらすことになる。

穀物市場への投機で巨利を得るファンドマネー

 トウモロコシ、大豆などの穀物価格はこの1年間で2倍になり、かつてないほどの上昇局面を迎えている。この穀物市場の急騰の裏で誰が利益を得ているのか。
 エタノール工場で全米第3位のベラサン。同社のここ2、3年の工場建設はファンドマネーの出資によって賄われている。ビル・ゲイツが出資した会社パシフィックエタノールは投資家の話題を呼んだ。今ではアメリカで生産されるトウモロコシの実に4分の1がエタノール生産にまわされているという。
 ファンドマネーの流入は、エタノール生産設備への投資にとどまらない。穀物相場そのものに対する投資がさらに急速に拡大している。2000年から2007年の5年間で、穀物市場に流入するファンドマネーは5倍にも跳ね上がった。そしてこれまでは穀物生産の変動に連動して上下していた穀物相場であったが、大量のファンドマネーが流入することで、かつてない価格変動がもたらされた。この秋、空前の大豊作が発表されたその日にトウモロコシの価格が上がり始めるという、150年の穀物市場の常識を覆す動きをした。激しい価格変動が格好の投機の機会を提供することで、とりわけサブプライム危機によって株式や債券市場から逃避してきた資金が大量に流入してきている。ファンドマネーばかりでなく、穀物市場の規模をはるかに上回る年金基金さえも呼び込み始めた。番組では約27兆円という世界最大規模の年金基金=カリフォルニア州公務員退職年金基金カルパースの参入を取り上げる。担当者が投資対象として関心を寄せいてるのは、わずか4兆円規模の大豆市場だ。トウモロコシ市場にしても現物と先物をあわせて15兆円規模程度である。このような小規模市場に巨額の資金が流れ込んだら何が起こるのか、そのインパクトは計り知れない。
 ファンドマネーにすれば、穀物が食物になろうが燃料になろうが知ったことではない。投機の対象となるかどうかだ。番組に登場するトレーダーはトウモロコシから大豆、石油からレアメタルまで、利益が得られそうな投機対象から投機対象へ、次々と資金を動かしていく。この番組に紹介された1ファンドだけで、1日3億ドルもの利益をあげている。彼は、「ホームランしか狙わない」と豪語し、自分たちこそが市場を活性化させているのだとうそぶき、しかし最後には「自分たちなんかいなくても別にいいのだけれどね」と本音を語るのである。

穀物相場の急騰にゆがめられる農業

 この穀物市場の急騰に踊らされ、生産者の側も利益を引き出そうと狂奔している様子も紹介されている。それが環境破壊を促進していることが明らかにされている。
 アグリビジネス独占のモンサントは、エタノールがよくとれる、デンプンの多い品種を遺伝子組み換えで開発し、従来の飼料用トウモロコシや日本向けの大豆などを栽培する農家の作付けを、次々とエタノール専用トウモロコシに転換させていく。トウモロコシ農家はこの1年間で収入が5倍になったことを受け、これまで害虫などの連作障害を避けるために隔年で生産していたトウモロコシを連続して生産することに切り替え始めている。
 自農場にサイロを建てて収穫物を貯蔵し、相場の推移を見ながら有利な値段になったところで売却する。農家の力で価格を上げられる新しい時代がきたと言い、インターネットで相場が上がったのを見ては、今日はもう畑に出る気なんかしない、相場をみて金儲けをしているほうがはるかにいい、と調子よく語るアメリカの農業生産者の姿が鮮烈である。彼は次のようにも言う、「今後も日本向けの遺伝子組み換えでない大豆を作り続けるかどうか・・・利益を上げないといけないからね」と。
 しかし相場に支えられ、また相場に左右される農業生産がどこまで今の活況を持続するのか。穀物市場への資金流入が逆転すればどうなるのか。

まやかしのエタノールブーム

 エタノールブームのために、飼料用トウモロコシや大豆、小麦の調達に苦しむ日本の商社の社員は、アメリカ国内で余った分のはけ口として日本に穀物が輸出されてきた時代は終わったのか、と落胆する姿を見せる。
 80年代から90年代にかけて、アメリカ国内での穀物の過剰生産により打撃を受けた穀物メジャーは、新たな大口の輸出先(中国)の開拓とともに、生産性の落ちた米国内での生産のリストラと南米への生産移転を進めた。特にブラジルではアマゾンを焼き払って大規模な農地開発が続けられた。これらの結果、2000年代には南米からの穀物輸出が増える一方で、高コストで補助金に支えられたアメリカの穀物は衰退した。2000年以降、バイオエタノール向けの消費は、農家・雇用対策としてアメリカ各州で手厚い補助を受けたことにより促進され、2005年のブッシュ政権のエネルギー政策発表で一気にはずみをつけた。
 ブッシュは、バイオエタノールを温暖化対策、中東戦略、農業対策の「一石三鳥」と言いたいところだろうが、事態は全く違う。トウモロコシなどからのバイオエタノール生産はエネルギー効率が低くガソリンと同じエネルギーを得るためには1.2〜1.3倍のコストが必要であること、そのために膨大な補助金がかかる金食い虫であること、さらにエタノールの発酵過程で天然ガスや石油などの化石燃料を消費することから大量のCO2を発生すること、持続的な農業の破壊をもたらすことなど、「一石三鳥」どころか「3重苦」「4重苦」なのだ。
※『National Geographic』 (2007-10  特集「バイオ燃料」)
 日経BPが発行するこの雑誌でも「米国のバイオ燃料は現状だと、農家や農業関連の巨大企業には大きな利益をもたらしても、環境にはあまり良い影響を与えない。・・・エタノールを生産する工程で、得られたエタノールで代替できるのと大差ない量の化石燃料が必要になる」ことが明らかにされている


番組で紹介されない途上国の実態の暴露こそ重要

 番組では一切触れられないが、この裏で、穀物市場の価格がつりあげられ、輸入穀物に依存させられている途上国で食料価格の上昇が貧困層に打撃を与えたり、グローバル資本の投資による輸出食料生産のために現地の人間のための農地が奪われていったりしている。特に穀物メジャーが主導してグローバルな穀物生産・輸出体制に組み入れられたブラジルでのアマゾン農地開発は広範な環境破壊を促進している。今後この実態を暴露と批判がますます重要である。

(2007.12.20.HS)





フィデル・カストロ議長の考察(2007.3.28)
世界の30億人以上の人々が飢えと渇きで早すぎる死を運命づけられる
http://www.granma.cu/ingles/2007/marzo/juev29/14reflex.html
「グランマ・インタナショナル」英語版 2007.3.29)

 これは誇張した数字ではなく、むしろ控えめなものである。私がこのことについて大いに熟考したのは、ブッシュ大統領が米国の自動車製造業者と会談したすぐ後のことである。
 食糧を燃料に転換するという邪悪な考えが、先週の月曜日、3月26日に、米国の対外政策の経済戦略として最終的に確立された。
 世界の隅々にまでいきわたっている米国のニュース代理業者APの外電は、次のように述べている。
 言葉通りに引用すれば:
 「ワシントン、3月26日(AP)。ブッシュ大統領は、月曜日、彼のエネルギー計画への支持を高めるために自動車生産業者と会談し、エタノールとバイオディーゼルで走る‘フレッキシブル燃料’車の効用を押し売りした。
 「ブッシュが言うには、フレッキシブル燃料車の生産を倍増するという国内の自動車産業のリーダー諸氏による言明は、車に乗っている人々がガソリンから転換していくのを助けるだろうし、輸入オイルへの依存を減らすことができるだろう。
 「『それはこの国にとって非常に大きな技術上の躍進だ』と、3つの代替車を視察した後にブッシュは述べた。国民がガソリン使用を減らしたいと望んでいるのなら、『消費者が合理的な選択をするような状況にしなければならない。』と彼は述べた。
 「大統領は、議会に立法で‘迅速に動く’ように促した。政府が最近提案した法案のことで、2017年までに350億ガロンの代替燃料の使用を要求し、自動車についてのより高度の燃料効率基準を追求している。
 「ブッシュは、GMの会長で最高責任者のリック・ワゴナー、フォードの最高責任者アラン・ムラリー、ダイムラークライスラーのクライスラーグループ最高責任者トム・ラソーダらと会談した。
 「彼らは、フレッキシブル燃料車に対する支持、スイッチグラス草や木屑のような代替原料からのエタノール開発の試み、10年でガソリン消費を20%削減するという政府の提案などを議論した。
 「この議論は、ガソリン価格が高騰する中で出てきたものである。最新のランドバーグ調査によれば、この2週間でガソリン価格の全国平均は1ガロン当たり6セント上昇して2.61ドルになった。」

 私は、電気と燃料で動くあらゆる車両を減らし、さらにはリサイクルすることが、人類すべてにとって本質的に重要で緊急の必要であると確信している。そこにおける悲劇と困難は、そのエネルギーコストの削減にあるのではなく、食糧を燃料に転換するという考えにある。
 1トンのトウモロコシから生産できるエタノールは平均して413リットル(エタノールの濃度に応じて変わりうるが)だということは、今日においては非常に明瞭に知られている。それは109ガロンに相当する。
 米国の通関港におけるトウモロコシの平均価格は、トン当たり167ドルに上昇した。350億ガロンのエタノールを生産するためには、3億2,000万トンのトウモロコシが必要となる。
 FAOの数値によれば、米国のトウモロコシの収穫量は、2005年に2億8,020万トンであった。
  大統領は、草や木屑からエタノール燃料をつくることについても語っているが、それが総じて現実性の欠如した言葉だけのものであることは、誰にでもわかる。はっきりさせておこう。350億ガロンというのは、35のあとにゼロが9つ続くのである!
 その後には、経験豊富でよく組織された米国の農業者が1ヘクタール当たりの高い生産性のもとで達成できることについての美しい実例が続く。トウモロコシはエタノールに転換される、そのトウモロコシからつくられるまぐさが26%のタンパク質を含んでいて家畜の飼料にされる、家畜の糞はガス生産の原料にされる、等々。もちろんこれは、最も有力な諸企業によってのみ、それも多大な投資の後にやっと達成されるようなことである。そこにおいては、あらゆることが電気と燃料の消費という基礎のもとに動員されなければならない。この処方を第三世界の諸国に適用すれば、この地球上の飢えた大衆の中では、もはや誰もトウモロコシを食べることができなくなるだろう。あるいはもっと悪いことが起こるかもしれない。トウモロコシやその他の食物をベースにエタノールを生産するために貧困諸国に資金が貸し付けられれば、人類を気候変動から護っている木々が1本残らず消滅するかもしれない。
 豊かな世界の他の諸国は、燃料生産に、トウモロコシだけでなく小麦やヒマワリの種や菜種やその他の食物の使用を計画している。ヨーロッパ諸国の人々にとっては、それは例えて言えば、彼らの自動車の燃料コストを引き下げた上に、あらゆる種類のアミノ酸に富む大豆からのまぐさを家畜の飼料にするという目的で、全世界の大豆をすべて輸入するというようなことになるだろう。
 キューバでは、サトウキビの茎から砂糖を3回抽出した後の、砂糖産業の副産物としてアルコールが生産されてきた。気候変動は既に、我々の砂糖産業に影響を与えつつある。とても長い干ばつの期間と記録的な降雨とが交互に起こり、そのことによって、とても穏やかな冬の100日の間に十分な収穫量を伴う砂糖産業がかろうじて可能だという状況になっている。かくして、作付けと耕作の時期の長びく干ばつのために、サトウキビ1トン当たりの砂糖は減少し、1ヘクタール当たりのサトウキビ収穫量も減少している。
 私の理解しているところでは、ベネズエラは、輸出のためではなく彼ら自身の燃料の環境的質を改善するためにアルコールを使用している。そういう理由からすれば、アルコールを生産するブラジルの技術にはすばらしいものがあるが、キューバでは、サトウキビから直接アルコールを生産するためにそのような技術を利用することは、単なる夢に過ぎないか、または、そのような考えに夢中になる人々の気まぐれな思いつきにすぎないのである。わが国では、アルコールの直接的な生産のために利用されるような土地があるなら、それは人民大衆の食糧生産と環境保護のほうに大いに利用されることになるだろう。
 豊かな国も貧しい国も例外なく世界のすべての国々が、投資と燃料において何兆ドルもの節約ができるだろう、単にすべての白熱電球を蛍光電球に替えるだけで。それは、キューバが国中の家庭で行なってきたことである。それは、貧困な大衆を飢えで死なせることなく気候変動に対処していくための、いわば息つぎを提供するだろう。
 見られるとおり、私は、この地球の今のシステムとその支配者を描き出すのに、形容詞を用いてはいない。そのような仕事は、我々人類の現在と未来を絶えず深く掘り下げて調べようとしている誠実な社会学者、経済学者、政治学者たちやニュース専門家たち、世界中にたくさんいるそのような人たちによって、首尾よく行われるだろう。コンピューターとますます増大するインターネット・ネットワークは、そのために十分な手段を提供している。
 今日、我々は、古代ローマ帝国とは全く異なった、真にグローバル化した経済と経済的政治的軍事的領域における支配的パワーを、はじめて目の当たりにしている。
 私がなぜ飢えと渇きについて語っているのかと、疑問に思う人がいるかもしれない。それに対する私の返答は、こうである。それは、コインの他の側面というものではなく、たとえば6面をもったサイコロのような、あるいはもっと多くの面をもった多面体のような、そういう多様な側面をもったもののいくつかの側面について語っているのだということである。
 この問題では、1945年に設立されて世界の経済問題と社会問題をおおむねよく報じている公的ニュース機関TELAMから引用しよう。
 「ここ18年のうちに、水が遠い記憶になってしまうような国や地域に20億人近い人々が暮らすようになるだろう。世界の人口の3分の2が、この貴重な‘青い金(blue gold)’のために諸国民を戦争へと導くようなレベルの社会的経済的緊張を生み出す地域に住むことになるだろう。
 「過去100年にわたって、水の使用量は、人口の増加の2倍の率で増加してきた。
 「WWC(World Water Council)の統計によれば、2015年までに、この重大な状況によって影響を受ける住民の数は35億人にものぼるだろうと見積もられている。
 「国連は3月23日に『世界の水の日(World Water Day)』の祝典を行い、まさにその日に、国際的な水不足に立ち向かうことを開始するよう呼びかけた。それは、国連食糧農業機関(FAO)の協力のもとに行われ、全地球規模での水不足のますます増大する重要性と、水資源の持続可能で効果的な管理を保証するようなより大きい統合と協力とを、きわだたせることを目的としている。
 「この地球上の多くの地域が、年1人当たり500立方メートル以下で生活するという深刻な水不足で苦しんでいる。この死活的に重要な水の慢性的不足に苦しむ地域の数は、ますます増加しつつある。
 「水不足の主要な諸結果は、食料生産のための水の不足、工業発展の阻害、都市の発展や観光業の発展の阻害、健康問題などである。」
 以上がTELAMの報じたことである。

 ここでは、私は、他の重要な諸事実について述べることを控えている。グリーンランドや南極で氷が解けてきていること、オゾン層の破壊、一般によく消費されている多くの種類の魚に蓄積している水銀の量の増大などである。
 述べるべき問題は他にもまだ多くあるが、ブッシュ大統領が米国の自動車メーカーの主要な責任者たちと会談したことに関して、ここに若干のコメントを試みた次第である。

2007年3月28日
フィデル・カストロ


(翻訳 K)