[映画紹介]歴史の一コマに立ち会った普通の人
〜マンデラの名もなき看守

 南アフリカの変革は、英雄だけのものではない、何十万、何百万の普通の人々が作り上げたものである。そして、黒人だけでなくカラードも白人も、新しい時代を求める全ての人の力が時代を動かした結果なのだということを、改めて実感させてくれる映画であった。主人公は白人の看守。決して裕福ではなく、官舎に住み、妻が働かねばならない給料しか得ていない。それでもやはり白人としてアパルトヘイトを自然に受け入れ、黒人を蔑視してきた。「白人と黒人は違うの。ツバメとスズメ、アヒルとガチョウが違うようにね。」その彼がマンデラに出会って変わった。
 彼は決して強くない。看守として職務を全うすることへの誇りと、そのせいで黒人が死ぬことへの罪の意識で動揺し、マンデラに惹かれる一方、家族のために昇進を望む。迷いの中で心は引き裂かれ、ロペン島から逃げ出すことを選択する。
 それから15年、一度は現実から逃げ出した彼も激化する時代の中で自ら何かをなしたいと思うようになった。貧しい看守の名もなき彼が時代の一コマになった。
 映画はマンデラが解放された歴史的瞬間で終わる。しかしそれが歴史的であればあるほど、一人の英雄が時代を作るのではなく、多くの人たちの思い・力が世界を動かすのだということをこの映画でもう一度思い出させてくれた。
 ロベン島での主人公の心の葛藤は、今の我々も同様だと感じずにはいられない。間違いだらけの世界に対して、目をつぶるという選択肢を取らざるを得ない人もたくさんいる。すべての人が英雄ではないのだ。しかし英雄でなくても闘士でなくても、時代を動かす力になる。いや、普通の人がともに生きる世界を求める心を意識し、思いをあわせることこそが、本当に時代を動かす力なのだ。
 アパルトヘイトができて60年、そして黒人も含めた総選挙が実施されてから既に14年が経つ。南アフリカを含め、今アフリカ大陸は困難を極めている。飢餓・貧困・暴力・専制、これらはすべて「先進国」がもたらしたものだ。しかしそれが隠され、黒人のせいにされている。日本に住む我々にとって、目をそむけてはならない事実である。しかし真実を追究する心を持ち続けることが、時代を動かし、歴史の一コマになることができる。これがこの映画の本当のメッセージではないだろうか。
(2008.7.23.ERIKO)

■京都シネマ  
 7/26〜8/8/  10:20/17:25(終映〜19:28)
■三重 伊勢進富座
8/23〜8/28まで   →11:00〜/15:30〜17:30
     8/30     →13:15〜/20:00〜22:00
     8/31     →13:15〜/17:45〜19:45
     9/1から    →13:15〜/20:00〜22:00
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