[映画紹介]アメリカばんざい
「自分の人生をダメにしたのは、テロリストでも、9・11でもなく、イラク戦争への派遣だ」

監督:藤本幸久
配給: 森の映画社
上映時間: 120分

 この映画は、2時間にわたり、イラクからの米軍帰還兵の証言をつづったドキュメンタリーである。表題の言葉は、ある若い帰還兵が語る言葉である−−「自分の人生をダメにしたのは、テロリストでも、9・11でもなく、イラク戦争への派遣だ」
 5年半以上にわたるイラク戦争はイラクを破壊しているだけでなく、アメリカ社会を確実にむしばんでいるという思いを強くする。いくつかの事実は日本でも断片的には伝わっているが、生の証言と映像によって描かれた、現に行われているイラク戦争の非人間的な姿は圧巻という他ない。ブートキャンプと呼ばれる親兵訓練施設からイラク現地での戦場体験、帰還兵たちのホームレス化と疾病、そして反新兵募集行動。実に「入り口から出口まで」のイラク戦争がトータルに描写されている。
 募集された新兵達は、最初に、訓練施設から、軍に決められた言葉しか話してはならない電話を家族に強制的にかけさせられる。「私は新兵です(名乗ってはいけない)」「ありがとう、さよなら」。電話の後ろで上官が、これらの文言を「scream(叫べ)!」とわめき続ける異常な光景である。 
 多くの帰還兵たちがPTSDに苦しみ、毎夜、血に染まる夢にうなされるている。外出すれば、まわりの人すべてを警戒し、自動車が何かを踏めば、「何を踏んだ?」と叫ぶという。彼らにとっては米本土に帰ってもいまだに戦争は続いている。中でも無実のイラク人を殺害してしまったという罪悪感は帰還兵たちの心に重くのしかかる。ある米兵は、自分ではイラクで人を殺さないつもりだったが、自分は迫撃砲を抱え、仲間がそれを操縦して、「100人は死んだよ」と聞かされた。また、別の米兵の例では、上官の命令は、街中で誰かが一発でも撃ってきたら、そこにいる全員を殺せというものだった。米軍が100発のトマホークを撃ち、そのうち自分が乗船した艦のトマホーク1発だけが標的に命中したことを祝って祝賀会が催された。あとの約90発は、標的ではない病院や、学校や市民に落ちたにもかかわらず、その1発を祝う米軍の異常さを告発する帰還兵の姿が印象的だ。  
 オランダ軍がヒバクするから危険とした場所にもかかわらず、上官は平然とその場所に入るよう命令していた。ある日、突然の激痛で倒れた。検査をするとお尻の骨がなくなっていて、血流がないことを知る。医者も劣化ウランの影響の可能性を診断書に書いた。この帰還兵は、毎日8〜9錠の薬を服用し、寝るとき呼吸マスクをつけたまま眠る。退役軍人病院では、「ブランドX」という副作用が不明な薬が、治験のために帰還兵に支給されているという。  
 帰還兵の生活も悲惨だ。多くの若い帰還兵が、ホームレス生活を送っている。ベトナム戦争の帰還兵がホームレス化し、その上イラクからの帰還兵もホームレスになった。映像ではホームレスは日本のそれとはかなり違う。彼らは街中ではなく森の中で生活している。ときにはホームレス同士で殺しあうこともあるという。ホームレスを救援する活動をする「ブレッド・アンド・ローズ」は1980年代から活動を続けている。 
 兵役を拒否した若者が、退役軍人の様々な支援活動とあわせて、軍に入ることを防ぐための活動を行っている。彼は、高校に出向いて、高校生に、奨学金が手に入る、職業技術が身につく等の政府の宣伝がいかにでたらめかを訴える。また、別の場面では、おばあちゃんたちが新兵募集事務所の入り口に「closed」の張り紙をし、イスに座り込む。逮捕されても、「やさしいおばあちゃんが孫達を守るんだ」と歌いながら、警察に連行される。釈放されれば、また張り紙をして座り込む。 
 アメリカにとってのイラク戦争の意味−−それを考え理解する上で必見の映画である。
(2008年9月1日 M.T.)

大阪・第七藝術劇場 http://www.nanagei.com/
2008年8月16日〜9月12日(上映時間は劇場まで)