安聖民 プロフィール

1966年大阪市生野区生まれ。在日3世。私立関西大学文学部史学・地理学科卒。
 大学卒業後、公立小学校の民族学級講師として在日同胞の民族教育に献身するかたわら、在日同胞文化牌・マダンの活動においても中心的役割を担う。
 1998年より韓国に留学。漢陽大学音楽大学院国楽科修士課程を修了。また、人間文化財第5号指定の南海星に師事(水宮歌・興甫歌)し、パンソリを習得。2006年に大阪で水宮歌の完唱公演を行い、話題となった。2007年 第77回南原春香国楽大典にて海外同胞賞受賞。在日のパンソリ唱者として注目を集めている。パンソリ、民謡、チャングの文化教室で指導にあたるほか、在日同胞文化牌・マダンの代表として後進の育成にも力を注ぐ。また大阪産業大学、立命館大学等で韓国語の非常勤講師を務めるなど多忙な日々を送っている。

 初めて耳にした時、血がザワザワと騒ぎ、私もこんな風に歌ってみたいと心惹かれたパンソリ。しかし、「一人前になるには10年かかる」と言われ、半ば諦めていたパンソリ・・・。比較的同胞が多く暮らす町で育ち、在日韓国人であるということを別段意識もせず、"日本で暮らしていくのだから"を言い訳に、受け継ぐべき名前も、言葉も、歴史も置き去りにして大人になった私は、大学生になって初めて民族と向き合う機会を得て、少しずつ自分が何者なのかを考えるようになりました。歴史や言葉を学ぶうちに、置き去りにしたと思っていたのに、なんだか少しだけ私の中に残っているものを発見しました。それが歌です。ほんの少しだけれど、私の中にも民族の文化はちゃんと育っていたのです。「おとちゃんは漢江水タリョンが好きやった」と、洗い物をしつつ民謡を歌う母の背中を見ながら。「韓国の歌手は歌が上手い」と、車を運転しながら流行歌のテープをかける父の真後ろに座って、歌詞の意味も分からず、聞えたままにその歌を真似ながら。血が騒ぐというのは、遠いDNAの記憶などではなく、どうしようもなく受け継がれていく日々のなんでもないシーンに匂う民族の香りを思い出すからなのかもしれません。
 1998年に一大決心をして留学し、今もなお終着点の見えない"ソリの道"をエッチラオッチラ歩いています。パンソリの真髄は演じる者と観る者が中味をともに造っていく創作性にあると考えます。唱者が語る"自分自身の話"に、観衆たちは怒って、泣いて、笑って、楽しみました。今回発表する『水宮歌』をはじめ、古典の名作にはそんな当時の人々の想いがいっぱい詰まっています。古典の作品をしっかりと学び、いつの日か、日本に暮らす自分たち、在日同胞の話を創作パンソリにしたいというのが私の夢です。