劣化ウラン弾による被害の実態と人体影響について

2003年2月


はじめに

 米ブッシュ政権は、対イラク戦争に向けた最終準備を着々と進めています。アメリカは、90年代以降の戦争で必ず劣化ウランを使用してきました。1991年の湾岸戦争、1995年のボスニア軍事介入、1999年の旧ユーゴ空爆、2001年の対アフガニスタン戦争。イラクに対する戦争でも必ず使用するに違いありません。戦車砲弾だけでなく、誘導爆弾や巡航ミサイルにも劣化ウランが使われているという重大な疑惑も浮上しています。
 報じられているように、アメリカの対イラク攻撃は、最初の1日で300〜400発の巡航ミサイルを打ち込むなど、高密度の集中した空爆を加え、極短期間でイラクを徹底的に破壊・崩壊させるというものです。当然、貫通爆弾も大量に集中的に投下されることになるでしょう。もし疑惑の通り、貫通爆弾が劣化ウラン製であれば、対イラク戦争でまきちらされる劣化ウランの量は、前回とは比較にならないほど膨大なものになります。さらに重要なのは、湾岸戦争の場合、南部の砂漠地帯が主戦場でしたが、今回は首都バグダットとその周辺が主戦場になると予想されることです。貫通爆弾は、バクダットを中心に地下施設を破壊するために使用されます。また、戦車部隊を中心とした陸上部隊もバグダット近郊まで押し寄せ、劣化ウラン弾を使うでしょう。直接の死傷者数・被害が増大するだけではありません。人口が密集している都市部に劣化ウランがばらまかれることになるのです。たとえ同じ量の劣化ウランでも、その被害の大きさは前回の比ではないでしょう。
 劣化ウラン弾は、45億年の半減期を持つ放射性物質であり、環境中にまきちらされれば、その影響は極めて広範囲に及び、長期間持続します。また、劣化ウランのような放射能が、ひとたび環境中に拡散させられれば、汚染の除去も環境の回復も不可能であり、その被害は不可逆的なものとなります。劣化ウランは、アルファ放射線と呼ばれる強い放射線を出し、体内に蓄積されることで、癌・白血病、先天性の奇形・異常、そしてその他、全身にわたる様々な疾病・障害を引き起こします。特に癌・白血病や先天性の奇形・異常といった惨たらしい被害に襲われているのは、何の罪もない子供達です。劣化ウラン弾は、その被害の持続性、不可逆性、無差別性からして、明らかな非人道兵器であり、その使用は戦争犯罪に他なりません。
 アメリカはすでに劣化ウランによる被害に苦しんでいるイラクの人々と子ども達の上に、再びより大規模に劣化ウランをまきちらし、さらなる苦しみを与えようとしています。私たちは、アメリカの対イラク戦争と日本の参戦に断固反対します。最悪の非人道兵器=劣化ウラン兵器の使用は断じて許せません。
 この資料は、劣化ウラン弾による被害の実態と、劣化ウランの人体影響について、簡単にまとめたものです。アメリカの対イラク戦争を押しとどめることが差し迫った課題となっている中、湾岸戦争=劣化ウラン戦争による被害の実態と劣化ウランの危険性を明らかにし、アメリカの戦争犯罪を再度問い直すことは重要な意味を持つと考えます。


[T]劣化ウラン・劣化ウラン弾とは何か

@劣化ウランとは、原発で使う核燃料を製造(濃縮)する過程で出てくるゴミ
 天然ウラン(ウラン235:0.7%)を濃縮して核燃料(ウラン235:3〜5%)は作られますが、その過程で大量の低濃度ウランが発生します。一般に核燃料1kgを製造するために、0.2〜0.3%という天然ウランよりもウラン235の含有率が低いウランが5〜10kg生み出されると言われています。これがいわゆる劣化ウランです。この劣化ウランには全く使い途がありません。つまり核のゴミに他ならないのです。

A劣化ウランの放射能は、原発で使う核燃料とほぼ同じ
 ウランは、言うまでもなく放射性物質です。しかし劣化ウランというと何か、放射能が少なく、あまり害のないウランであるかのように思われています。
 劣化ウランは、英語の"Depleted Uranium"の日本語訳です。"depleted"とは"激減された""枯渇された"あるいは"空っぽにされた"という意味です。"激減された""空っぽにされた"ウランとは、すなわち濃縮によって、「有用な(核分裂する)」ウラン235が少し取り出されてしまったという意味に過ぎず、日本語の「劣化」とは、ウラン235の純度が悪いという程の意味です。
 ウラン238も当然放射能を持っており(単位質量当たりのU238の放射能はU235の約17%)、単位質量あたりの劣化ウラン(ウラン238:99.8%+ウラン235:0.2%)の放射能は、核燃料(ウラン238:97%+ウラン235:3%)に対して、約88%にしか下がりません。放射能という点ではほとんど核燃料と一緒なのです。日本の法律でも、劣化ウランは核燃料物質に分類されています。放射能という点では、原発で燃やす核燃料を環境中にまき散らしているといっても良いかも知れません。


B劣化ウラン弾とは、その「核のゴミ」から作った兵器
 劣化ウランは、原発の燃料としては使えないのですが、鉛より1.7倍も大きい、非常に大きい密度を持ち、また非常に堅いため、放射能による被害を考えなければ、戦車や装甲車両の装甲を打ち抜くための砲弾(装弾筒付有翼徹甲弾(APFSDS)という特殊な砲弾)の材料としては最適な物質です。1991年の湾岸戦争では、劣化ウランは戦車砲弾や航空機の機銃弾として使用されていましたが、1997年以降アメリカは、貫通爆弾や巡航ミサイルなど、さまざまな兵器に劣化ウランを大量に使うようになっていると言われています。

C劣化ウランを兵器に使うのは、その安さと廃棄物処分の一石二鳥が狙い
 実は劣化ウランと同じような比重を持ち、戦車砲弾に使うのに最適な金属としてはタングステンがあります。劣化ウランと違って放射能を出さないのですから、このタングステンの方が良いように思います。実際、日本やドイツでは劣化ウランではなくタングステンが使われています。しかし、アメリカは劣化ウランを使っています。その理由は単純です。
 タングステンは原材料費と加工費が高くつき、これに対して劣化ウランは「ただ」同然に安い値段で手に入るからなのです。濃縮業務のトップリーダーであり最大手であるアメリカでは、過去50年間にすでに50万dという膨大な量の劣化ウランが作り出されて、廃棄物として貯まり続けており、非常に安い値段で材料を入手することができます。また、劣化ウランという核廃棄物を他の国にばらまくことで処分もできてしまうという一石二鳥の効果があるのです。
 この安さと廃棄物処分というメリットの前には、放射能による被害がどれほど出ようが知ったことではないというのが、アメリカ政府と軍の考えなのです。



[U]米軍帰還兵とその家族を苦しめている湾岸戦争症候群

 湾岸戦争に従軍した兵士の間で、癌・白血病、免疫不全をはじめ、全身にわたる様々な疾患が多発しており、総称して湾岸戦争症候群と呼ばれています。

@湾岸線帰還兵の半数近くが何らかの症状を訴えている。
 全米湾岸戦争リソース・センター(NGWRC)の調査では、戦争後退役し、復員軍人局の給付の有資格者となっている50万4,047人の内、52%に当たる26万3,000人以上もの帰還兵が、体調の異変を訴え、政府・復員軍人局に医療を要求しています。また、37%に当たる18万5,780人が、病気や障害にる就労等の不能に対する補償を要求しています。帰還兵のおよそ半数近くが、何らかの健康被害を訴え、すでに9600人以上の帰還兵が死亡しています。(2002 Gulf War Statistics − NGWRC)


A帰還兵が訴えている症状は、多岐にわたる−症状の多様性が湾岸戦争症候群の特徴
 湾岸戦争症候群に罹っている帰還兵650人を対象とした調査によれば、彼らが訴えている慢性的な症状は、脱毛や頭痛、関節痛、胃痛、下痢から記憶障害、睡眠障害等々、多岐にわたります(右図)。症状の多様性が、劣化ウラン被害=湾岸症候群の一つの特徴です。

B帰還兵の子供達の間でも先天的障害が発生
 苦しんでいるのは帰還兵本人ばかりではありません。帰還兵の子供達の間でも、先天的障害など深刻極まりない被害が発生しています。

C30万人以上の兵士が劣化ウランに被曝した。
 1999年1月、米国防総省は湾岸戦争に参加した兵員約70万人のうち、陸上戦による汚染地域へ投入された陸軍兵士・海兵隊員の総数が43万6千人にものぼることを初めて明らかにしました。「軍事用毒物プロジェクト」は、独立した二つの聞き取り調査の結果から、およそ4分の3の兵士が劣化ウランに被曝したと見積もっています。その試算に基づけば、30万人以上の兵士が劣化ウランに被曝した可能性があることになります。劣化ウランへの広範囲・大規模な被曝が、帰還兵の半数近くという異常なまでの数の健康被害を生みだしたことは疑いがありません。
 アメリカ政府・軍は「劣化ウランによる被曝量はわずかで影響が出るはずはない」とし、全帰還兵を対象とした全面的な疫学的調査と実態調査をサボタージュしています。実態調査もせず、なぜ因果関係がないなどと言えるのでしょうか。



[V]イラクの人々、子供達を苦しめている劣化ウランによる深刻な放射能被害

 米軍帰還兵の被害にも増して、その何倍も何十倍も深刻なのは、イラクにおける被害です。なぜなら、帰還兵の場合、被曝量が大きいとはいえ、被弾したイラクの戦車、装甲車輌への接触といった一時的なものであった一方、イラクは国土に320dもの劣化ウランをまきちらされたからです。

@戦場に近いイラク南部のバスラを中心とした諸都市では、癌・白血病が3倍〜7倍に増加

a)イラクの癌登録データは、戦争後、イラク南部での白血病発生率が1.5倍〜3.8倍に増加していることを示しています(右図)。

b)1998年のブリティシュ・メディカル・ジャーナルの記事は、国連癌統計に基づいてイラク南部における癌発生率が1989年から1994年にかけて7倍に増加したとしています。

c)さらに最近の報告では、1999年以降、癌・白血病がさらに急激な勢いで増大していると言われています。2002年12月1日、広島で開催された「イラクの医師を囲む集い」に講演者として招かれたバグダット大学医学部のジョルマクリー医師は、最新のデータを用いてそのことを明らかにしました。特に白血病の増加が特徴的で、バスラでの小児白血病(悪性)の発生数は、1994年〜1998年は24〜25人ですが、1999年は30人、2000年は60人、2001年は70人となっており、増加傾向が顕著に見られます。また、バスラでの15歳以下の子供における悪性腫瘍の発生率は、1994年〜1998年は10万人当たり7人前後で推移していましたが、1999年〜2001年には11人〜13人と急激に増加しています。その中でも5歳未満の乳幼児の白血病発生率の増加がはっきりとしていて、2001年度における15歳以下の子供の白血病の発生数70のうち41が5歳未満で
した。

A増加する癌・白血病=すでに1万人以上の人々が劣化ウランによって癌にされた
 イラク保健省は、政府統計として1991年の4,341件から1997年の6,158件というイラク全体での癌の年間登録件数の上昇を明らかにしています。この数字は、人口増加と比例した癌発生の自然増分を考慮に入れても、年間1000人以上の人々が過剰に癌に罹っていることを示しています。この数字は最低限の見積もりです。なぜなら、戦争と"制裁"によって破壊されたイラクの医療システムの下で、すべての癌患者が捕捉されているとはとても考えることはできないからです。政府統計にかからずに死んでいく癌患者の数も多いであろうことは容易に想像できます。1年当たり最低でも1000人程度の過剰な癌患者が発生しているということはほぼ間違いなく言えるのではないかと思われます。イラク全体で湾岸戦争後、1991年から2002年まででおよそ1万人以上の癌患者の過剰発生があったと評価しても決して言い過ぎではないでしょう。

B先天的障害=劣化ウラン弾は、何の罪もない子供達に回復不可能な被害を与えている
 被害は癌・白血病だけではありません。湾岸戦争後に産まれた子供達の間で、眼、耳、鼻、舌および性器の変形、あるいは、欠損といった先天的障害が頻繁に現れています。極めて深刻な事態です。

a)1999年9月のAPの記事は、「公式統計によれば、イラク南部では、欠損を持った新生児の数が3倍に増加した」とし、2000年3月のガーディアンはある研究者の報告として、1989年と1997年の間にバスラにおける中絶の件数が3倍に増加したことを伝えています。

b)その他、さまざまな報道や現地ルポルタージュが、子供達の間で発生しているこの深刻な事態を伝えており、多くの医師達の証言が存在します。

・バグダットのサダム市民病院の遺伝クリニックの遺伝学者セルマ・アル-タハ博士−「戦後、私たちは2つのことに気が付きました。、第一には、奇形と遺伝疾病の数が増加していること、さらに、戦前には見なかったような新しい症例が出てきたことです....新しい奇形の多くは四肢欠損[アザラシ状奇形]です。これらの症例は、妊娠中の女性がサリドマイドを摂取した結果として50年代初期に報告されたものでした。しかし、その時以来私たちはこのような症例には出くわしていなかったのです」。

・バスラ産科小児科病院の医師−90年には37例(新生児の3%)だった先天性の奇形・異常が、2001年には254例(新生児の22%)にまで跳ね上がっている。

C癌・白血病や先天的障害は被害全体の氷山の一角にすぎない。
 癌と遺伝的影響は被害全体の氷山の一角に過ぎません。水面下には、湾岸帰還兵が示しているような、様々な姿を取った慢性的な疾病の広大な裾野が広がっているに違いないのです。その全体を捉えるようにしないと劣化ウランの被害全体を把握することはできないでしょう。
 しかし、劣化ウランによる影響だけを純粋に取り出して、これについてのみ評価するなどということは原理的に不可能です。なぜなら、劣化ウランによる健康被害は、直接の戦争による破壊と、戦後の"制裁"による荒廃と不可分に結びついた形で立ち現れているはずだからです。断続的に続く攻撃、そして制裁=兵糧攻めが、市民の生活を破壊し、衛生状態の極度の悪化と、医薬品と医療器具の決定的不足を生み出しています。医師達は「生き延びれるかもしれなかった子供の癌患者でさえ、命を救うことができる重要な薬がないために死んでいる」という悲痛な声をあげています。
 劣化ウランによる汚染は、このようなイラクの悲惨な現状を、拡大、増幅する役割を果たしているに違いありません。劣化ウランによる免疫不全は、感染症とその死亡の増大要因として働き、軽微なものも含めて様々な先天的疾患は出生後の乳幼児死亡率を引き上げていると考えられます。

Dユニセフによれば50万人以上の子供達が戦争と"制裁"によって殺された−劣化ウランもその原因の一つ
 1999年にユニセフは、全人口の約85%を対象とした調査の結果として、乳幼児死亡率の顕著な増加を明らかにしました。1000人当たりの乳児死亡率(1歳未満)は、1980年代を通じて低下し、1984年から89年までは47人でしたが、1994〜99年には108人へと増加、5歳未満の幼児死亡率も56人から131人へと増加しました。いずれも2倍以上の増加です。ユニセフの理事であるキャロル・ベラミは、1980年代の乳幼児死亡率の低下が1990年代も続いていたであろうことを考え併せると、1991年から98年までの8年間に死亡した全ての乳幼児のうち、約50万人が「制裁」のために死亡したのだとコメントし、「人道的な緊急性」を指摘しました。50万人という数字は1998年までのものです。戦争後、現在まででは、さらに多く、おそらく70万人以上の子供達が、直接には戦争と"制裁"によって、そして少なからず劣化ウランの被害によって殺されていることになるでしょう。



[W]アメリカ政府と軍は、湾岸戦争前から劣化ウランの危険性を知り尽くしていた

 アメリカ政府と軍は、表向きは、劣化ウランの人体と環境への影響については否定しています。しかしこれは全くの嘘です。その実政府と軍は、兵器としての殺傷能力とそれが引き起こす被害について、綿密に検証を重ね、冷静かつ具体的に評価していたのです。米欧の帰還兵支援団体や、反核団体は、粘り強い取り組みの末、米政府の嘘を裏付けるいくつかの軍報告書の存在を暴き出しました。

@SAIC報告書は湾岸戦争の半年前に劣化ウランの人体影響について警告していた
 アメリカ軍の兵器弾薬化学司令部のためにSAIC(Science Applications International Corporation)がまとめた『運動エネルギー弾頭の環境と人体に関する考察』と題された報告書は、従来のタングステン合金製の弾芯と比較した、劣化ウラン弾の軍事的優位性について論じています。その上で同報告書は、劣化ウラン弾の人体影響について、「低摂取量の長期影響は癌を引き起こし、高摂取量の短期影響は死をもたらす」と警告し、「戦場の兵士に対するエアロゾルとなった劣化ウランの被曝は、放射線と化学的な影響の可能性の点で重要になるであろう」と述べています。この報告書が出たのは1990年7月、つまり「砂漠の嵐」作戦が開始される約半年も前のことです。

ABRL報告書も湾岸戦争の1年以上前に劣化ウランの危険性を評価していた
 さらにアメリカ軍弾道学研究所(Ballistic Research Laboratory)は、その研究報告の中で「劣化ウラン弾に撃たれた装申車輌の内部、あるいは近傍(およそ50メートル未満)に存在する人員は、劣化ウランの著しい内部被曝を受けるだろう」と述べています。また、標的となった車輌の風下で測定されたウラン粒子の平均79%が、呼吸によって吸入されやすいサイズ(直径10マイクロメーター未満)であり、もし吸入されれば肺の中に永久に捉えられたままとなるであろうとしています。この研究は、湾岸戦争の1年以上前、1989年に行われたものです。アメリカ政府と軍が、すでに戦争前から劣化ウランの危険性について知っていたことは明らかです。

B英国原子力公社は、ばらまかれた劣化ウランは700万人を死亡させる能力を持つと評価
 またアメリカだけでなく同盟国であるイギリス政府も劣化ウランの危険性をよく知っていました。英インディペンデント紙が明らかにした、英国原子力公社(UKAEA)の秘密文書(英国銃砲会社への手紙)は「[湾岸戦争で使われた]戦車砲弾だけで、劣化ウランの総量は50,000ポンド[約22.5d]を超えるだろう....戦車砲弾に含まれる劣化ウランを吸入した場合、最新のICRPのリスクファクターで....計算すると、これは50万人を死亡させる能力を持つことになる」と述べています。(実際の使用量320dでは700万人の死亡となります。また、UKAEAの定めた摂取限度(約2mg/年)に基づけば1600億人分の摂取限度量となります。)

Cアメリカ政府と軍は、劣化ウランの危険性を知りながら、何らの防護措置も警告も行わなかった
 政府・軍当局は、劣化ウランの危険性を知りながら、これを大量使用し、現地住民・兵士を大量に被曝させました。さらに、自国の兵士にすら何の防護策も講じないばかりか、警告さえ行わなかったのです。そのため、ほとんどの米兵士は、劣化ウラン弾の危険性はおろか、その存在すら認識せず、何の防護措置もなしに劣化ウランの粉塵にまみれたイラクの戦車に接触したのです。確信犯的な犯罪行為という他ありません。


[X]劣化ウランはどのようにして環境を汚染し、人々を被曝させるか

@劣化ウランのエアロゾル(浮遊する微粒子)は何十キロメートルも拡散する
 湾岸戦争では総量約320dの劣化ウランが、5〜6千発の戦車砲弾、95万発の機銃砲弾として使用されました。劣化ウラン弾は、優れた装甲貫徹能力だけでなく、激しい燃焼性を持つ徹甲焼夷弾です。ターゲットとなった戦車、あるいは装甲車輌に当たると瞬時に燃焼し、車輌内の兵員を殺傷し、車輌を炎上させます。そして、弾芯の金属ウランは燃焼の結果、二酸化ウランや八酸化三ウランなどの酸化物の微粒子(エアロゾル)となります。これらの微粒子は大気中に浮遊し、風に乗って広く拡散します。現地調査等から、最低でも40km、あるいはもっと遠距離まで劣化ウランのエアロゾルが到達すると指摘されています。そしてゆっくりと土壌へと降下した劣化ウランの微粒子は、土壌を汚染し、水を汚染し、食物連鎖を通じて食料を汚染します。また、風が吹けば土壌中の劣化ウランは粉塵として再度大気中に巻き上げられます。イラクの人々、戦闘区域周辺の住民は、微粒子となった劣化ウランを呼気を通して吸入し続け、汚染された水や、食物を摂取し続けなければならないのです。しかもウランの半減期は45億年です。太陽も燃え尽きてしまうような遠い未来でも、まきちらされた劣化ウランの半分は残り続けるのです。

A劣化ウランのエアロゾル(浮遊する微粒子)は呼吸と共に吸入され肺に長期間残留する
 エアロゾル化した劣化ウランは非常に危険です。なぜなら、それはマイクロメーター(1mmの千分の1)単位の小さな微粒子であり、呼吸を通して容易に肺に取り込まれるからです。劣化ウランが体内に入り込む経路は、呼気からの吸入、経口摂取、傷口から血流への侵入の3つがありますが、その最大のものは、呼吸を通しての肺への吸入だと考えられています。肺に入った劣化ウランの微粒子は、まず肺組織に付着します。エアロゾル化した劣化ウランは、そのほとんどが不溶性の酸化ウランの形態を取っていますので、血液に非常に溶け難く、そのため長期間残留します。残留した劣化ウランはアルファ線と呼ばれる放射線で周囲の肺の細胞を損傷し続けます。
 陸軍兵器研究開発技術センター(ARDEC)報告書は、吸入に適したサイズのほとんど(52%から83%)は肺の血流中に溶けず、肺に残留するとしています。また、衝突時の燃焼による熱で焼結され、セラミック形態となった劣化ウランの特別の危険性も指摘されています。NRPB(英国放射線防護庁)のマウスを使った実験によると、セラミック形態のウラン酸化物は、通常の酸化ウランよりも2倍長く、肺に残留することが分かっています。

B血流に乗って劣化ウランは全身の臓器・組織を汚染する
 これまで、ウラニウムは比較的早く、尿または糞便に排出され、一時的な被曝後も速やかに体内のウラニウム濃度は下がるとされてきました。しかし、帰還兵の追跡調査の結果、体内に劣化ウランの破片が残されたままの帰還兵はもちろんのこと、戦争時に被曝しただけの帰還兵からも、被曝から7年が経過した後でも、通常よりも高い濃度で尿中、あるいは精液からウラニウムが検出されるのです。 おそらく、肺に残留した劣化ウランの微粒子が、徐々に血流に入りこみ続けることで、慢性的な体内組織の汚染を引き起こしているものと考えられます。
 従来からの知見ではウランはもっぱら腎臓および骨に蓄積し、化学的毒性による腎障害のみが問題であるとされてきました。しかし、最近の動物実験の結果、身体のあらゆる組織、睾丸や胎盤、リンパ節、脳髄にまでウランが蓄積され、免疫の低下を引き起こしたり、脳活動に影響を与えたりする可能性があることが分かってきました。また、胎盤を通して胎児にも蓄積し、骨変形等の奇形を引き起こすことが明らかにされています。


[Y]アルファ放射能としての劣化ウランの特別の危険性

@劣化ウランはアルファ線を出す放射能−アルファ粒子はエネルギーが高く、たった1個でも突然変異を確実に引き起こす
 劣化ウランはアルファ線とよばれる放射線を放出します。アルファ線の到達距離は短いのですが、高いエネルギーをもっており、細胞に当たると重大な影響を及ぼします。90年代以降の、細胞レベルでの放射線影響のメカニズムに関する研究の進展は、アルファ線のようなエネルギーの大きな放射線の与える生体影響が、従来考えられていたよりもはるかに大きいものであるという重大な事実を明らかにしつつあります。1992年におこなわれたイギリスの医学者グループによる研究では、たった1個のα粒子を細胞に当てただけでも、ほぼ確実に突然変異が起こるという事実が突き止められました。この研究は、アルファ放射能の内部被曝が引き起こす癌の危険性についての現在の知見の変更を迫るような、重大な意義を持つものです。

A劣化ウランの微粒子は、その周囲の細胞を激しく損傷し、発ガンの危険性を飛躍的に高める
 直径5μmの劣化ウランの微粒子が細胞に付着している場合を考えると、この微粒子は1年間に約500回のα線を放射します。アルファ線の到達距離からすると、アルファ線を受けるのは、微粒子の周辺の数十個の細胞であると考えられます。したがって、近傍の細胞はほぼ確実に遺伝子の変異を引き起こすようなα粒子による打撃を、1年間に数回から十数回程度、集中的に受けることになります。激しく遺伝子が破壊された細胞は死滅しますが、生き残った細胞は、前癌細胞へと変化する可能性を非常に高めることになります。ゴフマン博士やタンプリン博士は、ホットパーティクル仮説として、そのような前癌細胞の密集した発生が発癌の可能性を、全身平均的な直線的線量関係をはるかに越えて高める危険性を警告しています。何千、何万という微粒子を体内に取り込んだ時、劣化ウランが放射能としても極めて大きな危険性を持つことは明らかです。

B50ミリグラムの劣化ウランを吸入すれば、100%の確率で致死的な肺癌が引き起こされる
 ゴフマン博士は、もっとも控えめな試算として、25歳喫煙者に対する同じアルファ放射能であるプルトニウム239の肺癌吸入量(100%の確率で致死的な肺癌が生じる吸入量)は、0.255マイクログラムであるとしています。劣化ウランは、プルトニウムに比べて半減期がはるかに長いため単位重量当たりの放射能は弱く、またアルファ線のエネルギーも若干低いので、その点を考慮に入れて補正を行うと、少なくとも約50ミリグラムの劣化ウランを吸入すれば、プルトニウムと同じく確実に肺ガンを引き起こすことになります。

C現実の被害から、劣化ウランの危険性を再度明らかにする必要がある
 アメリカ政府・軍や、原子力擁護の学者達は、口を揃えて「たとえ被曝しても線量が低すぎて影響が出るはずはない」「こんなに早く白血病が出るはずはない」「ストレスが原因」等々と主張しています。「理論的にありえない」「従来知見で説明できない」というような、現実を否定するための従来の知見の一面化、悪用が彼らの常套手段です。確かに、劣化ウラン弾による環境と人体への影響は、想像を超えた大きさと深さを持っています。多くの点が未解明です。しかしだからこそ、現実と事実に即して、放射線の人体影響、劣化ウランの人体影響に関する知見をより正確にし、精密化し、豊富化していくことが必要なのです。それこそが、真に科学的で責任ある態度でしょう。劣化ウランによる深刻な被害は、ゴフマンをはじめとする良心的で戦闘的な科学者・研究者達が、従来から主張し続けてきたプルトニウムやウランなどのアルファ線放射体の危険性、特に内部被曝の特別の危険性を裏付けることになるでしょう。


アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会