憲法改悪、教育基本法改悪に反対する連続講座第6回報告
「戦う国家は、祀る国家」=侵略戦争の遂行のためには、戦死者の顕彰と教育による洗脳が不可欠
−−台湾植民地支配の生々しい史実から、靖国神社の犯罪性を語る−−


「当たり前」で「画期的」な司法判断−−反動化の流れの中で、日本国憲法、教育基本法の原点に立ち返る意義

 9月24日、大阪府社会福祉会館において、憲法改悪、教育基本法改悪に反対する連続講座第6回「靖国参拝=政教分離原則の形骸化と思想統制への途」を、弁護士で台湾靖国訴訟弁護団事務局長の中島光孝さんを講師として迎えておこないました。
 中島さんの講演は、その3日前、9月21日に東京地裁で出されたばかりの日の丸・君が代の押し付けに対する違憲判決についての言及から始まりました。
 その違憲判決は、今日の反動化の進行にあって画期的な判決であったわけですが、「個人の尊重」を基本理念とする憲法の原則からすると、「内面の自由」を侵害する国家権力の行為に対してそれが違憲であるという判決が出るのはまったく当然なのです。さらに、教基法10条は、国家権力の介入によって教基法が教育の目的としている「人格の完成」が妨げられるということを想定して作られた規定であって、東京都教育委員会の行為はまさに「不当な介入」として違法であることが認定されました。したがって、憲法や教基法の勉強をすれば、このような判決が出て当り前なのですが、それを「画期的」とか「まさかの判決」と捉えること自体が、今日の反動化がいかに進行しているかを示しています。中島さんは、法曹界に反動化に対する危機感がひろがっていて、その様な「反対バネ」が、日本国憲法、教育基本法の原点に立ち返る「画期的判決」を出させているかもしれないという法曹界の状況の微妙な変化を語りました。
※東京地裁の違憲判決については、署名事務局の声明参照(「日の丸・君が代強制は憲法違反 東京地裁で画期的判決!」)


軍施設としての靖国神社の性格を暴いた台湾靖国訴訟の大阪高裁違憲判決

 中島弁護士がその弁護団事務局長を務めた台湾靖国訴訟では、大阪高裁での違憲判決を勝ち取りました。その裁判闘争の過程において、靖国神社の実態、日本の台湾に対する植民地支配と、台湾原住民の人々の抵抗が、かつてなく具体的に明らかにされてきました。中島弁護士が生々しく語るそれらの実態は、ほとんどの参加者にとっては、初めて聞く内容ばかりでした。
 例えば、靖国神社は、戦死者、しかも天皇のために死んだ者を神として祀っているわけですが、実は、一般の戦死者と皇族の戦死者との間には歴然とした区別があるのです。台湾の植民地化のための戦争に従事した北白川能久およびその孫の2人だけでひとつの霊璽を構成し、残りの246万余名でもうひとつの霊璽を構成しているのです。死して後も厳然たる身分差別をする。こういうところにも靖国神社の性格が現れています。
 この靖国神社は、1879年以来、陸海軍省の所管となりました。靖国神社とは、戦前は、国家それも軍の施設そのものだったのです。靖国神社は宗教ではなく、したがって、参拝を強要しても信教の自由を侵すことにはならないとされたのです。しかしながら、戦後、靖国神社自ら、宗教団体であると主張することで延命を図り、マッカーサーの軍施設の解体・接収の命令を逃れました。


初めて日本の司法の場で明らかにされた、台湾植民地支配の実態

 台湾の植民地支配の実態が日本の司法の場で明らかにされたのは、この裁判が初めてのことでした。1895年、日本は日清戦争の結果台湾を領有することになりましたが、台湾の住民はこれに抵抗しました。漢民族の抵抗が鎮圧された後も、山岳部に住む原住民族は激しい抵抗を続けました。1930年、台湾原住民は過酷な植民地支配に対して決起しました。いわゆる「霧社事件」です。この時日本軍は毒ガスまで使って徹底的に弾圧し、殺戮の限りを尽くしました。そして、生き残った原住民族の子どもたちに対して、「神社参拝を励行する」「御真影の礼拝」など徹底した皇民化教育を行いました。弾圧と殺戮ではなく教育によって支配する−−日本軍が「霧社事件」から得た教訓でした。そしてわずか10年後、その子どもたちは自ら高砂義勇隊として日本の戦争に志願するまでになったのです。靖国神社に祀られている246万名のうち、2万6576人が台湾出身者であり、その中には多数の原住民族が含まれています。中島さんは、教育の持つ圧倒的な力を指摘しました。

 戦争が終わっても原住民族は解放されませんでした。国民党に支配され、19877年まで戒厳令が敷かれていた中で、原住民族は自らの歴史すら教えられてこなかったのです。原住民族が自らの歴史と文化が抹殺されていることを意識し、それを掘り起こす運動が始まったのは、1999年のことでした。わずか7年前のことです。その年に起こった台湾地震に対する救援のボランティア活動部隊が組織され、その部隊が中心となったのです。そこで日本の原住民族に対する植民地支配の実態が明らかにされました。日本は漢民族を“人”として支配したのに対し、原住民族を“物”として支配したこと、原住民族に対しては裁判なしに処刑してもかまわなかったこと、しかも、彼らの若者たちを日本のために戦わせ、殺した者と殺された者を一緒に靖国神社に祀ったこと等々。中島さんは、「日本とは一体何なのか」と、日本の侵略戦争と植民地支配の異常さを強調しました。
[映画紹介]『出草之歌 台湾原住民の吶喊 背山一戦』人間の魂とは何か、人間の尊厳とは何かを問う (署名事務局)


靖国神社に祀られている親族の名前を霊璽簿から取り消させる新しい裁判

 加害者と被害者がともに祀られていることには耐え難い。そう認識した人々は、2002年8月、初めて靖国神社を訪れ、台湾原住民の霊魂を取り戻す要求をしました。しかし、靖国神社側は拒絶しました。
 こうした経緯から、小泉首相の靖国参拝に対する訴訟に台湾原住民が原告として関わることになったのです。中島弁護士自身、それまで台湾の植民地支配や原住民族の運動については白紙の状態でしたが、台湾を何度も訪問し、原住民族の人々の意思を十分に確認することで、自信を持って裁判に踏み切ることができたといいます。
 さらに、小泉首相が8月15日の参拝を行なう直前の8月11日、原住民族の遺族は、日本人の遺族と共に、靖国神社に祀られている親族の名前を霊璽簿(靖国神社で神として祀っている戦死者の名簿)から取り消せという要求を行なう裁判を開始しました。これは全く新しく、また難しい裁判でもあります。戦前は確かに国家機関であり、戦後も国家との深い癒着のもとに大勢の戦死者の合祀を行なってきた(大半の戦死者は戦後合祀された)靖国神社ですが、現在は、その信教の自由が憲法によって守られている一宗教法人となってしまいました。この靖国神社の二重性をどう突き崩し、遺族の権利を守ることができるか。これはまだ誰も経験したことのない裁判なのです。
[投稿]「靖国合祀イヤです訴訟」提訴!靖国神社を相手取ったまったく新しい裁判が始まる(署名事務局)

 中島弁護士は、自らが勝ち取った2005年の大阪高裁違憲判決とともに、憲法判断に踏み込まずに棄却したとされる2006年6月23日の小泉靖国アジア訴訟の最高裁判決における滝井繁男裁判官の補足意見にも注目しました。そこには、「何人も公権力が自己の信じる宗教によって静謐な環境の下で特別な関係のある個人の霊を追悼することを拒否することを妨げたり、その意に反して別の宗旨で人を追悼することを拒否することができる」と明確に書かれています。これは、靖国神社が戦死者勝手に合祀したことを遺族が拒否する権利を意味しており、新しい訴訟にとっては非常に重要な見地です。


教基法改悪の動きは、皇民化教育に酷似

 中島弁護士は、自衛軍を認め海外派兵やアメリカの侵略戦争に加担しようという憲法9条の「改正」、靖国神社を合法化しようという憲法20条3項の「改正」、そして権力に従順な国民をつくる教育基本法「改正」−−これらは一体のものであるとし、それを一言で「戦う国家は祭る(祀る)国家」と表現しました。国の戦争で死ぬ、死ぬのは誰でもいやなこと、この悲しみを喜びに、不幸を幸福に転化するのが、教育の力であり、戦死者を祀る靖国神社であると言います。まさに、高橋哲哉さんが「感情の錬金術」と名付けたものです。
書評『靖国問題』高橋哲哉 (署名事務局)

 そして中島さんは再び、「霧社事件」以降わずか10年で台湾原住民の人々の意識を根本的に変えてしまった「皇民化教育」の意味を問い、今の教基法改悪と教育反動の流れがこれに酷似していることをあらためて指摘しました。
 最後に中島さんは、9月21日の「日の丸・君が代」強制反対予防訴訟違憲判決や台湾靖国訴訟での大阪高裁違憲判決などの成果をもとに、憲法改悪反対、教育基本法改悪反対の闘いを結合して闘っていく必要を語りました。


教基法改悪反対を軸とした、教育反動化、教員攻撃との闘い

 その後の質疑応答では、中島さんがこの台湾靖国訴訟に取り組むことになったきっかけや、「戦う国家は祀る国家」であるということの詳しい意味、教基法改悪と憲法改悪との関係、靖国に代わる新たな追悼施設という考えの危険性等々熱心な質問が会場から出されました。
 日本軍「慰安婦」被害者の名誉と尊厳回復のための韓国ソウル「戦争と女性の人権 博物館建設基金」へのカンパを求めるアピール、在韓被爆者健康手帳交付裁判への支援の呼びかけ、靖国合祀取り消しを求める訴訟の「共に闘う会」の会員からこの裁判への支援を訴えるアピールがありました。
 「日の丸君が代による人権侵害」市民オンブズパーソンのメンバーからは、9.21「日の丸君が代」強制違憲判決全面勝訴の意義について報告がありました。門前払いになるのではという危惧を吹き飛ばしたた2003年1月の提訴や、時には200ページにも及ぶ準備書面を原告団の手で次々と作り上げていったことなど訴訟を担ってきた人々の執念と意気込みを語りました。この判決は、これまでの同様の裁判闘争で2つのカベとされてきた問題、すなわち「内心の自由」の問題と「公共の福祉」の問題をクリアした画期的なものであり、東京、広島、北九州、新潟など全国に広がる闘いを勇気付け、教育委員会による強制と不当な処分を躊躇させる力を持つだろうと語りました。そして東京都と都教委による控訴の動きを厳しく批判しました

 最後に署名事務局から、まれにみる右翼政権となる安倍政権の反動諸政策との全面的な対決の呼びかけがありました。
  安倍政権は、教員の免許更新制を打ち出しており、教育反動の中でも教員への攻撃はすさまじいものがあります。東京の予防訴訟で、思想・信条のゆえに迫害を受けてきた教員への熱い連帯の思いや、「日の丸・君が代」を拒否するという自分の主義主張を貫くことが教員生命にかかわるという切羽詰った状況を、胸の中からこみ上げてくるものを何度も押さえながら語りました。
 臨時国会の最大の焦点とされている教育基本法改悪に反対する闘争に全力をつくし、安倍首相や文部科学相、教育基本法特別委員へ抗議の電話やメール、ファックスなどできることは何でもして、教基法の採択をなんとしても阻止し、廃案へ持ち込もうと力強く語りました。

2006年10月5日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局





「戦争と女性の人権 博物館建設基金」へのカンパ協力
 ありがとうございました


 「憲法改悪、教育基本法改悪に反対する連続講座」第6回で呼びかけた、日本軍「慰安婦」被害者の名誉と尊厳を回復するための「戦争と女性の人権 博物館建設基金」への協力のお願いに対し、参加者から計36,050円のカンパが集まりました。
 責任をもって韓国挺対協が設置した口座に振り込みましたので、あらためてお礼申し上げます。多額のカンパを本当にありがとうございました。
 韓国では、企業の協力や、プロバスケットボールチームが収益金を届けたり、チャリティーが開催されたりと、様々な形で支援が広がっているようです。しかし建設までにはまだまだ届きません。引き続きご協力をよろしくお願いしたします。
※戦争と女性の人権博物館建設委員会のページ http://www.whrmuseum.com/
※カンパのお願い
日本軍「慰安婦」被害者の名誉と尊厳回復のための韓国ソウル「戦争と女性の人権 博物館建設基金」にご協力下さい

2006年10月5日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局





(資料 案内文)
憲法改悪、教育基本法改悪に反対する連続講座のご案内

第6回(9月24日)
「靖国参拝=政教分離原則の
形骸化と思想統制への途」
 講師:中島光孝さん(弁護士・台湾靖国訴訟弁護団事務局長)

日時:9月24日(日) 午後1時30分〜4時30分(開場1時)
場所:社会福祉センター(地下鉄谷町6丁目下車5分)
会場費:700円
主催:アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局


 小泉首相は今年8月15日に、国内外の反対を押し切り靖国神社への参拝をまたもや強行しました。当日、その暴挙に対して、靖国神社前では日本の侵略・植民地支配の犠牲になった韓国や台湾の人たち、「捨て石」にされた沖縄の人たち、そして日本軍性奴隷の被害者たちから、激しい抗議の声が挙がりました。
 首相の靖国参拝は、憲法違反です。2005年の大阪高裁、2004年の福岡地裁で、小泉首相の参拝は宗教的意義の深い行為であり憲法の政教分離原則に違反するというはっきりした違憲判決が出て確定しています。特に大阪高裁の違憲判断の最大の根拠のひとつは、靖国参拝が小泉首相の政治公約であり、従って総理大臣の職務として行ったということでした。判決は憲法の「政教分離原則」が国家神道への批判として生まれたことを強調しています。さらに判決は、靖国神社が「国事(すなわち侵略戦争など)に殉じた軍人軍属等を神として祭っている」と靖国神社と侵略戦争との結びつきを具体的に認め、1978年にはいわゆるA級戦犯も合祀されたことを事実として確認しました。つまり天皇のために死ぬことを名誉とし、若者を侵略戦争にかり出すための精神的支柱となった靖国神社の性格が事実上問題とされたのです。

 連続講座の第6回の講師には、大阪高裁で靖国参拝違憲判決を勝ち取った台湾靖国訴訟の弁護団から事務局長の中島光孝弁護士をお招きしました。中島弁護士は、靖国神社と国を相手取って、台湾原住民の方を含む9人の原告が8月11日に大阪地裁に提訴した「靖国合祀はイヤです訴訟」(正式名称は「霊璽簿からの氏名抹消等請求事件」)においても、その弁護団として、「いよいよ本丸に迫る闘い」として、この新たな訴訟に大いに意欲を燃やしておられます。
 靖国訴訟は全国6箇所7つの訴訟が行なわれてきましたが、大阪の2つの訴訟は小泉首相と国だけでなく、初めて靖国神社も被告として法廷に立たせました。そして、日本だけでなく台湾と韓国の原告も一緒になったアジアの民衆の共同の闘いとして進められてきました。私たちは、この闘いの中で得られた成果としての大阪高裁判決を通じて、憲法における政教分離規定の意義、その歴史的背景等々について、そして何よりも憲法をないがしろにし靖国参拝を繰り返す現在の動きの危険性とその意義について学びたいと思います。

 小泉首相だけでなくポスト小泉の最有力候補とされる安倍官房長官も4月に秘密裏に靖国に参拝したことが発覚しています。安倍官房長官は総裁選での批判回避の目的であらかじめ靖国参拝を繰り上げただけでなく、今後靖国参拝を「するかしないか言わない」との態度をとり、小泉参拝違憲判決や憲法原則をないがしろにする態度を取っています。これは国民だけでなく、日本の植民地支配、戦争による被害を受けたアジア諸国を冒涜するものです。靖国参拝は、小泉政権そしてポスト小泉政権でも決定的に重要な政治課題となります。私たちは、靖国参拝とそれによる戦争美化、正当化を絶対に許してはなりません。
 安倍官房長官は総裁戦に向けて、秋の臨時国会では教育基本法改悪に全力を挙げると早々と公約しています。最も露骨な保守右翼である安倍は、「愛国心」注入(=お国のために死ぬ子ども作り)を教育の柱に据えさせるために、通常国会で失敗した教基法改悪を臨時国会の目玉、目標に設定したのです。9月末にも招集される臨時国会では、靖国参拝のみならず、教基法改悪が最大の争点となります。靖国参拝を通じた政教分離の蹂躙と憲法の空洞化、学校での愛国心強制と教基法改悪は、その双方が現在の日本軍国主義の新しい段階の主要な特徴、危険となっています。この秋に靖国参拝糾弾の闘いと教育基本法改悪阻止の闘いに全力で取り組み運動を広げていきましょう。


2006年8月28日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局



講師紹介 中島光孝さん
 台湾靖国訴訟弁護団事務局長,大阪労働者弁護団事務局長,大阪社会法律文化センター理事。沖縄日の丸焼き捨て事件,京都君が代訴訟,フィリピン従軍「慰安婦」訴訟,三菱重工長崎造船所事件等を担当。