拝啓 国会議員殿 有事関連3法案廃案へのお願い

 5月29日の署名提出行動の一環として、再開されたばかりの衆院有事法制特別委員会の傍聴を行いました。傍聴に参加された「基地はいらない!女たちの全国ネット」の加藤さんが、傍聴の感想を国会議員宛の手紙のかたちのビラにされましたので、以下にご紹介します。合わせて、当日の国会傍聴記を紹介します。




有事関連3法案廃案へのお願い


拝啓 国会議員殿
 日頃、国民・国家のためにご精勤頂きまして、感謝申し上げます。
 私たちは、平和な社会を願っている市民たちです。議員の皆様方に委員会の傍聴の感想をお伝えし、お願いしたく、したためました。
 私は、5月29日の午後、衆議院の「武力攻撃事態への対処に関する特別委員会」を傍聴しました。
 その余りのひどさに、実に情けなくなりました。中味が全く不明の法案で、野党議員たちの「こういう場合はどうするのですか」という具体的事例を挙げての質問に対して、福田官房長官をはじめ政府側は、「これから決めることですので」という答えを繰り返すばかり。これでは、野党議員が言っていたように、まさに「白紙委任状に判を押せと言っているようなもの」ではありませんか。実に、議会を馬鹿にし、主権者である国民を欺くものであると思わざるを得ません。
 国会を出たところで、質問していた議員に出会ったので聞いてみました。「こんな白紙委任状のような法案は、以前にもあったのですか?」と。「いいえ、初めてですよ」と言っていました。もしもこの法案に賛成する議員がいたとしたら、その方は、ご自分でご自分の首を絞めることになるお覚悟の上でのことだと思いますが、いかがでしょうか?
 内容のない同じ答弁を繰り返す政府側の方々には、誠意も、どうしても通したいという熱意さえも感じられなかったのは、私だけでしょうか? ひょっとすると、この人たちも、本音では、廃案になることを望んでいるのではないか、と感じさえしました。では、いったい、だれが、このような無理な法案をしゃにむに今、通そうとしているのですか。アメリカでしょうか? 官僚でしょうか? 小泉首相でしょうか?
 有事3法案がメディア法案と結びつくと、いったいどういう世の中になるのか、考えるだにそら恐ろしい思いを致します。だけでなく、今の日米地位協定のまま、この法案が通ったらどうなるか、同協定を研究なさった方々にはお分かりのことと思いますが、同協定はさらに骨抜きにされ、まさに、日本はアメリカの意のままにされてしまうことになりませんか? 私には、この法案は、日本をアメリカに売り渡そうとするものではないかと思えますが、いかがでしょう? あの、新ガイドライン・周辺事態法の折、アメリカから要求された1400余りの項目を可能にするための法整備を目的としたものではないかと、私には思えるのですが。
 この春、自民党議員たちから出された日米地位協定の改正案(社民党など各党の議員たちも参加し、沖縄や神奈川の議員が中心になって作られたもの)は、その後どうなったのでしょうか? 中には優れた改正箇所もありますが、全体としてはまだまだ主権国としての姿勢が弱いと思います。それでも現行のよりは、ずいぶんましです。どうぞ、これからもしっかり論議を重ねていってください。
 それにしても、いい加減にアメリカに対する卑屈な姿勢をとるのは止めにしませんか。一方に卑屈な態度を取ると、どこか一方では尊大な態度を取ることになるものです。私たちの隣人は、アジアの人々だということを、忘れないでください。そして、真にアジアの人々と手をつなぐには、戦後補償の問題をキチンと解決しなくてはならないことも。
 日本が唯一世界に誇れるものは、非戦・武力の不保持ならびに戦争のない国際社会をつくっていくことを決意した現憲法です。先のハーグでの世界平和会議でも評価されたではありませんか。ですから、政治しだいでは、日本は国際平和をつくっていくリーダー国となることができるわけです。
 自民党のベテラン議員の中には、今回の有事3法案に対し、懸念を持っておられる方も多いと、報道で目にします。どうか、しっかりと廃案に向けてご尽力くださいますようお願い致します。
 国会の権限を縮小し、自治権、人権、財産権等を侵害し、ひいてはわが国の主権を脅かすようなこの法案には、強く反対します。
 どうか、国会議員の皆様方には、お身体をお大切になさって、この法案を廃案としていただけますように、お願い致します。
 私たちは、心ある議員の方々、官僚の方々と手をつないでいきたいと思います。
拝復

2002年5月30日                                                
               基地はいらない!女たちの全国ネット 加藤賀津子


*読んでいただきましてありがとうございました。






2002/05/29国会傍聴記


 5月29日の署名提出行動の中で、国会「正常化」後初めての「武力攻撃事態法特別委員会」を7人で傍聴しました。傍聴してみて一番ビックリしたのは政府側答弁のずさんさ、曖昧で全く内容がないことでした。なんだ!政府はこんないいかげんな「審議」で有事法制を通そうとしているのか!とあきれかえると同時に怒りがわいてきたというのが率直な感想です。
署名事務局 吉田


■防衛庁ブラックリスト問題−−個人の責任に解消し責任逃れ
 29日の午後は民主党前原、筒井、共産党赤嶺、社民党重野議員の質問の時間に当たりました。政府側からは福田官房長官、中谷防衛庁長官、川口外相、片山総務大臣など主要閣僚が答弁に立ちました(小泉首相は欠席)。はじめに野党議員が大きな問題として取り上げたのは防衛庁による「情報公開請求人の身元・思想調査、リスト作成」問題で、筒井、赤嶺両議員が追及しました。この行為は情報公開そのものを否定する。情報公開をしたら身元調査されるのでは怖くてだれもしなくなる。この問題を政府はどう考えるのか。申請に必要な氏名、住所、連絡先などと関係ない職業、思想・信条などを調べリストにする行為は、違法行為で許されないのではないか。防衛庁長官は個人的にやったと言うが、上司が「尋ねた」(=指示した)から背景説明用に作った「公文書」であり、他の部署にも問い合わせをしており、リストを配布していて防衛庁ぐるみの犯罪ではないのか。等と追及しました。
 政府の答弁は「大変不適切であった」(柳沢防衛庁官房長)とか「情報公開法の下ではあってはならないこと」(中谷防衛長官)とか低姿勢を装いながら、明確に違法行為であることを「法違反を前提に調査中」とごまかし、責任問題についても何もいいませんでした。「官が違反したことは明らかであり、個人情報保護法の民間は処罰するが『官は間違わないから罰則はいらない』という前提は見直すべきだ」という追及に対しても何も答えませんでした。防衛庁の組織的な関与の問題についても、さすがに個人が勝手にやったと責任をすり替えるのが難しくなり、中谷防衛庁長官も思わず「私も個人的かどうか疑っている」と答弁しましたが、後であわてて「個人だけと限定せずに調査すると言う意味」とごまかすなど醜態をさらしました。
 しかし、今回の答弁を聞く限り、政府はこの問題を「自衛官個人」の行為に矮小化し、防衛庁の組織が深く関与した責任を否定、回避して、事件の政治的責任そのものから逃げようとしているように見えます。情報公開を根底から否定するだけでなく、自衛隊が反戦運動や市民運動の活動家を身元・思想調査するという重大な人権侵害事件で、有事法制や個人情報保護法そのものとも関わる重大事件です。事件の全容を徹底的な追及で明らかにさせ、政府・防衛庁の政治的な責任を取らせるとともに、有事法制や個人情報保護法がこれら無責任極まる軍・官僚・政府に独裁的な権限、権力集中を与えるという危険性を明らかにする必要があると感じました。

■これは国会審議でも答弁でも何でもない!いい加減、ずさん、のらりくらり。
 有事法制そのものに関する審議はもっといい加減なもの、ずさん極まりないものに終始しました。新聞では小泉首相は「野党とよく議論して」と言ったとされていますが、審議を聞く限りのらりくらりとふざけた答弁を繰り返し、野党に追及されるような言質を与えないことにだけ気を遣っているとしか思えませんでした。中味で議論してなんて全く感じられませんでした。こんないい加減な審議で時間をつぶして「十分審議した」と与党賛成多数で有事法制を可決するなら、国会審議など必要なかろう、というのが実感でした。
 「憲法に定められた国民の権利・自由を制限する」というのならどの範囲で、どの程度制限し、侵害するのか明らかにすべきだ、そうでないと議論できない。(前原議員)との質問に対して、「権利制限の程度、必要性については今後検討する」「この法律は基本理念として規定するだけ」(福田官房長官)という答弁で、「憲法の枠内でやる」といくら繰り返しても、本当に憲法の枠内かどうかさえ何も分からない答弁でした。文書通告しているのになぜ「権利制限の類型化」さえ出さないのかとの追及に福田官房長官は「これから法整備する」「書いてないことも出てくるだろう」「これから法整備するから」「難しい質問だ。一つ一つ違うので類型化は難しい」と答えにならないことを繰り返したでした。市民の権利を制限し、場合によっては処罰すると明記する法律で「何が制限されるのか」は分からず、いわばブラックボックスなのに、「これは憲法の枠内だから認めてくれ」では話にならないのではないでしょうか。
 有事法制をめぐっては腹の立つことにあらゆる問題で同じような答弁が繰り返されました。武力攻撃事態や予想事態はどんなときに認定されるのかをめぐって、「『尖閣列島占領』なら認定されるのか(前原)」「93−4年の北朝鮮危機ではどうなのか(赤嶺)」など野党側からは具体的な例を挙げて回答を求めましたが、政府側は「一概には言えない」「特定に事態に対して言えない」「組織的計画的かどうか」「意図があるか、軍事態勢などから判断できるか」などによると一般論で逃げただけでした。これではいったいどんな事態が武力攻撃事態や予想事態なのか全くわからず、その妥当性について議論のしようもありません。野党側議員が「これでは質問ができない」と怒るのももっともです。

■「周辺事態」から「武力攻撃事態」に進むという最もありそうなシナリオで混乱しごまかす政府答弁。日米共同作戦=集団自衛権行使で答えに窮す。
 しかし、もっともでたらめな答弁は周辺事態法との関係を追及する筒井、赤嶺議員の質問に対して行われたものです。福田官房長官はこれまでの審議の中で「周辺事態」と「武力攻撃事態」が重なることはあり得ると答弁してきました。しかし、この日の答弁では「憲法9条では個別自衛権は保証されるが、集団自衛権はこれを越えている」と答弁した(これは政府見解でもある)こととの矛盾をつかれるのを恐れてか、「周辺事態」をきっかけに日本が「武力攻撃事態」を認定し、アメリカと共同軍事行動にでること可能性があることを躍起になってごまかそうとしていました。「周辺事態法で他国の領域で行動している自衛艦に武力行使があれば、武力攻撃事態法の発動あり得ると答弁したではないか」(筒井議員)に対して「周辺事態は戦闘区域以外のことで武力攻撃が行われることはない」(福田官房長官)「(攻撃される)地域には入らない。攻撃されても法律に一時退避、避難、中断とかいてある」(中谷防衛庁長官)「もし攻撃されても、武器防御、自己防護で対処し、集団自衛権にはならない」(中谷)と逃げの答弁を繰り返していました。それでも「万一攻撃されたらどうなるのか」との質問については「テロ特措法・周辺事態法では戦闘は想定していないが、法理論としてはあり得る」(福田)、「回避や自己防護で、武力攻撃の認定には至らない」(中谷)とこれまでの答弁とも整合しないし、官房長官と防衛庁長官でも異なる不統一の答弁まで行い、その上で福田官房長官が「武力攻撃は認定あり得ない」と答弁を変更しました。しかし、海外での武力攻撃事態があり得ないならはじめから領域を自国領域に限ればいいではないか、との問いには答えなかったのは、のらくらした答弁にもかかわらず、実際には周辺事態やテロ特措法から武力攻撃法発動に至る事態がある(大いにありそうだ)と政府が考えている証拠でしょう。この議論で明らかになったのは「周辺事態」から「武力攻撃事態」に進むという最もありそうなシナリオにはそれを支える法的根拠がなく、集団自衛権をめぐる政府見解にも反するので都合が悪いということです。日本の領域内が「攻撃」されれば「個別自衛権」でも、安保条約5条で米軍との共同軍事行動でも対応できる。公海上の自衛艦が攻撃されれば「個別自衛権」で対応できる。しかし、「周辺事態」なら「周辺事態法」は「待避、避難、中断」しか認めておらず、安保条約6条は日米の共同軍事行動を認めていない。ここではせいぜい個別自衛権しか認められないのだが、そう答弁すると米軍との共同行動の手を縛る事になって現実には根本的な不都合が生じるということなのです。しかし、ここで武力攻撃事態への行こうがあり得るとすると何の法的根拠もなく集団自衛権を認めてしまうことになるので、結局答弁不能になるのでしょう。この矛盾をごまかしたまま強引に法を通そうと考えて、のらくら答弁しているとしか思えません。

■新たな論点−−憲法の地方自治の権利を奪う「代執行」の乱用。
 社民党の重野議員の質問からは有事法制の新たな問題が浮かび上がりました。「憲法の自治の精神、その要素を奪う法律は憲法上許されないのではないか」「仮に代執行をする場合には「訴訟」で反論するということが重大な用件になっている、それが無ければ地方自治法上の代執行に準じることも成り立たない」との追及に対して政府側法制局長は「『代わりにやる』と書いてあるだけで、地方自治法上の代執行ではない新たな措置」「措置はこれから組み立てる。緊急だから訴訟など入れなくても許される」「国と地方を対等とする地方自治法は一般原則だけ、緊急時には特殊なケースで憲法でも許される」とでたらめな答弁を繰り返し、憲法と現行法制度に何の根拠も無く、何も規定されない権限を政府が勝手に「緊急時は憲法でも許される(!)」と持ち込もうとしていることが明らかになりました。さらにこの答弁の中で、1956年以降作られていなかった「自衛隊法103条の『政令』」について、「今回の国会にあわせ、法律の改正にあわせて制定したい」と、今まで発動することができなかった「自衛隊法103条」発動の為の政令を準備していることを明らかにしました。

■おいおい民主党さん、政府を右から批判してどうするの?
 傍聴していてもう一つ気になったのは追及する野党の側、特に民主党議員の姿勢に政府と同様の危険性を感じることです。民主党は有事法制そのものの必要性は認めていると言われますが、追及の中でもそれが現れてひやりとしたり、おいおい政府を右から攻撃してどうするのと思ったりさせられました。一例を挙げると、民主党の前原議員は質問の冒頭で在中国領事館への「難民駆け込み」事件に関連して「在外公館の警備の強化、他国のガードマンでなく自国の自衛隊か警察による警備」を要求し、政府の方が逆に「強化は必要だが当面は人数の増程度。国内法の規程もないし、相手国との相互主義もある」とマイルドな答えをする場面がありました。両者が「駆け込んだのが(難民でなく)危険人物だったらどうする」との論を振りかざしているのですが、国内外で問題になり非難を浴びているのは日本政府が人道問題である難民受け入れをほとんど行わず非常に冷たい、非人道的な態度を取っていることです(今回もそのことが暴露されたのであわてて中国に難民の人道的扱いを求めたにすぎない)。にもかかわらず今以上に人が入りにくいように警備人員を増やすとか、はては武装した警官や自衛官を配置してどうするの!と思わざるを得ません。日本の公館の側で武装した自衛官を立たせれば難民は駆け込めず、中国側の警官が入ってこないから「日本の主権は守られる」と考えているとすれば、民族主義で頭に血が上ってまともにものが考えられなくなっているとしか思えません。

 国会を傍聴して、有事法制のひどさだけでなく、それを推進する政府の姿勢、あり方のひどさを身をもって感じることができました。同時に野党の中の危うさも感じました。こんな政府、与党、官僚たちが法律を作ろうとし、彼らが「武力攻撃事態」を認定したり、事実上の独裁的権限を行使するのだと思うと、何が何でも有事法制は作らせてはならない、有事法制は廃案にするしかない、と今後も署名運動を中心に反対運動を強めようと決意を固めた半日でした。
(2002年6月1日)