11.27福井県「国民保護」実動訓練の監視行動報告−−
戦争準備訓練への第一歩:自衛隊の軽装甲車両が「住民避難」に出動
−−政府、自衛隊、海上保安庁、自治体、民間バス会社、医師会らが一元化・一体化−−

 11月27日、福井県で「国民保護法」に基づく全国初の実動訓練が行われた。今回の実動訓練は「ゲリラ」による「原発テロ」を想定し、政府、県、市町村、公共機関、民間会社など約140機関、約1400人を動員し連動、一元化させた。美浜町原子力防災センターに「緊急対処事態現地対策本部」が設置された。福井県・敦賀市・美浜町がそれぞれ現地対策本部を設けた。福井県西川知事は美浜町の「緊急対処事態現地対策本部」にヘリで乗り込み、首相官邸の野田・危機管理監と衛星通信のTV会議をし関係機関に指令した。なんと言っても最大の眼目はこれまでの「防災訓練」とは根本的に異なり、戦争や「テロ攻撃」を想定し、政府と自衛隊が計画全体を仕切り、実際に自衛隊が作戦行動として参加したことである。


200人が参加した前夜の反対集会
 この全国初の「国民保護」実動訓練に対して、地元を中心に全国各地から参加して反対集会と監視活動が行われた。実動訓練の前夜には「異議あり、国民保護法実動訓練」を掲げた集会が福井平和環境人権センター、原発反対福井県民会議、原水禁国民会議、原子力資料情報室の主催で敦賀市勤労福祉センターに全国各地から約200人が集まって行われた。主催者あいさつの中で、原発反対福井県民会議の吉村さんは「この実動訓練には反対する。チェルノブイリ事故以降、防災訓練を実施してきたが、それと比べると今回の規模は小さい。しかし、とにかく自衛隊を出すところに主眼がある。原子力防災と国民保護法には乖離がある。国民保護法と言いながら、住民を排除し権利を侵害するものだ」と批判した。その後、もんじゅ裁判の島田弁護士が「国民保護法の問題点」について報告された。福井県の危機対策室にも元自衛官が入っているとのことだった。原水禁国民会議の福山事務局長は「小泉政権はそんなに強いのか。先の選挙でも自公51%対野党49%の票で拮抗していた」と指摘していた。集会は短時間ではあったが、初の実動訓練を前に、緊張が伝わるものだった。

 集会終了後、近くのホテルに移動して翌日の監視行動の打ち合わせを行った。約60名が11班に分かれて監視行動を行う。私は白木地区担当になり、地元の若い労組員や、新潟や石川等からの参加者と一緒になった。白木地区は、美浜原発の膝元の丹生地区の住民がバスで到着して、海上保安庁の船で輸送される場所だ。また、要介護者がヘリ・巡視船で輸送される場所で、非常に重要なポイントであった。


当日の監視行動−−海上保安庁の巡視艇にはサブマシンガンで武装した乗組員
 朝5時半起床、6時に宿舎を出発し白木に6時半頃に着く。7時「テロ攻撃」ということなので、7時前から監視体制に入る。8時にあの「武力攻撃」の不気味なサイレンが聞こえるかと待ちかまえたが、白木地区は敦賀市なので実際には鳴らさずに「鳴った」という想定だけだった。「もんじゅ」ゲート前に行くと、朝はいなかった警察車両がゲートの向こうに待機している。「もんじゅ」の警備が強化されていたが、その理由は後でわかることになる。「もんじゅ」も実動計画に組み入れられ、重要な役割を割り当てられていたのだ。

 白木地区では午前中は目立った動きはなかった。12時半から丹生地区住民の移動が始まった。丹生では自衛隊の装甲車が出たらしいが、私は直接見ていない。丹生地区の人々を乗せたバスや消防だけが白木漁協に来た。港には多くのマスコミが待機していたため自衛隊の装甲車はかなり手前で引き返したようだ。12時半には海上保安庁の巡視艇3隻が白木漁港に横付けされた。船上にはサブマシンガンを構え防弾チョッキで武装した乗組員、盾を持った2人の乗組員が立ち、あたりを睨みつけていた。とても異様な光景だった。丹生からの「避難住民」は救命胴衣を着けさせられ、2隻に分けて乗り込んだ。「避難住民」で参加した住民の表情には困惑と戸惑いが見て取れた。
 このころ急に天候が悪くなり、冷たい雨が降り波も荒れてきた。沖には海上保安庁のヘリ搭載巡視船など10隻以上が結集し待機していた。波止場には沓掛防災・有事担当大臣が役人やマスコミを引き連れて視察にきた。上空には、海上保安庁のヘリが飛び回り、ものすごい勢いで「もんじゅ」のサイトへ向っていた。海上保安庁の広報担当者が「テロリスト対策に万全の態勢で訓練しています」とマスコミに答えていた。

 シナリオでは要介護者をヘリで運ぶため白木に臨時ヘリポートを設置する予定だった。しかし、それらしいものは見あたらない。結局、「もんじゅ」の専用港にヘリ発着場を設置したことがわかった。「避難民」は正面ゲートから入り、専用港でヘリに乗り沖にいる海上保安庁の巡視船「みうら」に移る。巡視船は別の漁協に入りそこからまたヘリで町役場近くの臨時ヘリポートに住民を送り、そこで被曝していないかの測定が始まるという段取りだった。マスコミに聞くと、この「もんじゅ」専用港での取材は許可が出ず、マスコミも取材できないということだった。白木での訓練終了後、美浜町の保健福祉センターでの「避難住民」のスクリーニング訓練の様子を見に行った。


狙いは、政府、自衛隊、海上保安庁、自治体、民間バス会社、医師会らが一元化、一体化すること
 午後3時半から、敦賀の勤労福祉センターで報告会を持ち、各班からの報告があった。道路の検問はほとんどないに等しい状況だった。数台止めて、訓練をやっているというチラシを渡しているくらいだった。当初の計画では厳しい封鎖が想定されていたが、きっと初めての実動訓練であり、原発の立地点でもあるので、自衛隊が前面に出て住民やマスコミを刺激するのを避けたのだろう。住民避難の集落では、やはり自衛隊の装甲車が10両ほど出ていたとのことだった。報告会では「テロと原発事故とまったく異なるものが同時平行して起きるというシナリオの異常さ。有事訓練のために無理矢理くっつけただけだ。こんな訓練そのもの意味がない。放射能漏れ事故の危険と言いながら、住民避難がとにかく遅い。また関電職員も今回避難したが、原発事故回復の最後の一線をだれが守るのかと不安になった」という原発反対福井県民会議の小木曽さんの発言がとても印象的だった。

 今回の実動訓練は、全体としては交通規制もゆるく、自衛隊の治安出動訓練はなかった。自衛隊の出番を限定する等で軍事訓練色を薄めようという意図が出ていた。露骨な軍事的要請を前に出せば住民の反発が目に見えている。しかも、現地はカニの最盛期で民宿は満杯、美浜原発の近くでは多くのサーファーがいるという地元の事情に配慮したのだろう。しかし、住民避難に自衛隊の銃座付き軽装甲車を出動させるなど、要所ではやはり自衛隊が前にでていた。原発防災訓練では着ない迷彩服で自衛隊が動き回った。自衛隊と海上保安庁、民間バス会社等が協力して「住民避難」を行い、自治体、医師会等も参加して、それらが一体となって動いたことに今回の実動訓練の狙いがあった。「助けてもらうのだから、自衛隊に協力しなければ」との意識を住民に植え付けるものだった。初めはそういうものからやってくる。
 しかし、忘れてはならないのは、防災訓練と有事訓練とは決定的に違うということ。有事訓練は米軍・自衛隊の軍事行動のために住民を統制するためのものだということ、住民にとっての義務だということである。銃座付き軽装甲車が前と後ろに張り付いて住民避難を誘導する−−一見テロリストから住民を守っているように見える、しかし実際には、住民が戦争に異議をとなえたり、別行動をしたりしないよう厳しく統制しているのである。


福井県の訓練は全国に向けた第一歩 
 すでに政府は10月28日に「国民保護法」に基づく机上演習を行った。これは4県で同時多発爆破テロが行われたという想定であった。そしてそれに続くものが福井での「国民保護」実動訓練であったのであり、これで自衛隊が中心となった実動訓練に第1歩が踏み出されたのだ。「国民保護法」の訓練は戦争が想定され、軍事上の要請から自衛隊が全体の計画を支配する。各地の行政や民間の動きも自衛隊がリードして作った計画の中で、その指揮の下に動かされるのだ。確かに各地の実施本部は各県レベルの危機対策部局におかれるが、机上演習さえ不慣れな自治体職員に代わって元自衛隊員が現場の指揮を執っている。防衛庁から各県自治体の危機対策課に「天下った」自衛官は今年9月には76人、38都道府県、28市町村に及んでいる。彼らが中央の計画と連動して地方の行政と民間を戦争計画に組み込む役割を果たしているのだ。

 政府は今回福井で行った訓練を全国各地に広げようとしている。今回500もの自治体から担当者が視察に来ていたのは、次は自分のところで戦争体制の訓練を迫られるからに他ならない。国民保護法に基づく自治体などの戦時体制への組み込みは、都道府県レベル、市町村レベルにまで「国民保護計画」作成を迫っている。福井に続いて各地で実動演習を行っていく中で、自衛隊が前に出た国家の戦争準備態勢に地方自治体や民間企業を組み込んでいこうとしているのである。


北朝鮮敵視、戦争準備体制への組み込みにNOを!
 今回福井で行われた反対闘争と監視行動を各地で引き継いでいこう。「国民保護」実動訓練によって、われわれが住む場所で、地方自治体と住民が政府の戦争体制に組み込まれていくことに反対し続けよう。今回の福井の訓練でも明らかなように、政府のシナリオは荒唐無稽なものである。中心は北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を想定した「武装ゲリラ」である。しかし、政府はわざと日本と米国の強大な軍事力を無視している。こんな攻撃を行えば、それこそそれを口実に一国家を滅ぼされかねない。そんな現実にあり得ない想定に基づいて国民に恐怖心を植え付けて訓練を繰り返すことで、戦争体制に組み込んで行こうとしているのである。今日の極東の軍事的力関係と政治的関係の中で、日本を攻撃する国家など有るはずがない。それを無視して戦争の体制を築こうとし、話し合いと対話による平和外交を軍事力による脅しに変えようとする小泉政権のやり方に対して闘っていかねばならない。

「国民保護」実動訓練監視行動参加者 KB