「対テロ戦争」への加担に反対し、イラク・インド洋からの自衛隊撤退を求めるシリーズ(その6)
[ビデオ紹介]
「テロリスト」とは誰か、「テロとの闘い」と何か?
ネオコンが作り上げた、壮大な虚構

国際テロネットワーク、アル・カイダは存在しない


(1)「テロの脅威」は、侵略戦争を正当化するために作られた虚構

 ここに紹介する番組、NHK BS世界のドキュメンタリー『「テロとの戦い」の真相』は、アメリカが行っている「対テロ戦争」の欺瞞を暴露するものである。
 「テロとの戦いで国際的責務を果たすため引き続き活動していく必要がある」−−日本政府は、テロ特措法と給油継続を正当化するために、「テロとの闘い」を最大の根拠として国会答弁でも再三繰り返している。しかし、そもそもテロとは何か、テロリストとは誰のことか、テロとの闘いとは何かが全く明かではない。とにかく米艦船への給油を続けなければならない、福田政権はそれ以外のことを言っていない。
 「テロの撲滅」、「対テロ戦争」とは、中東での軍事的プレゼンスを獲得し、石油利権を維持するためにアメリカが作り出した壮大な虚構である。反米勢力や反米国家を時々の都合に合わせて「テロリスト」「テロ支援国家」などとレッテルを貼り、実体のない脅威を煽ることで侵略戦争と軍事作戦正当化の根拠としてきたのだ。それは、ある時には「アル・カイダ」であり、タリバンであり、アブサヤフであり、ハマスであり、フセイン政権そのものであった。しかしそれらは、「アル・カイダ」を除けば、アフガニスタンの当時の政権政党であり、フィリピンの伝統的な反政府武装勢力であり、パレスチナでの対イスラエル強硬派であり、イラクの政権政党なのである。
※『テロとの戦い 再考』−−「『死語』に固執 日本だけ」/「国家の脅威 すべてテロ」(東京新聞朝刊 9月連載)

 そしてここで紹介する番組こそ、「オサマ・ビンラディン率いる国際テロ組織アル・カイダ」や「世界に張り巡らされた国際テロ・ネットワーク」なるものが、実はネオコンが作り出した幻想、デマゴギーでしかないことを明らかにしているのである。この番組自身は2004年にイギリスで作られて大きな反響を巻き起こし、日本では2005年に放映された。すでに2年前、3年前のことであるが、かつて冷戦時代にソ連の脅威を捏造したのと同じ手法、嘘と誇張によって、アメリカが世界の悪と戦う使命を持つ唯一の国であるという神話を作り、国民に真実と偽って信じさせようとしたことを明らかにした傑作である。

(2)米国内からも「テロとの闘い」に疑問が噴出

 「テロリストとは何か」という問題は、昨年あたりからアメリカ国内でも大きな議論を巻き起こしている。これさえ持ち出せば皆が黙り込み、あらゆる軍事行動や人権抑圧が正当化できるという「黄門の印籠」では無くなり始めているのだ。政権内のタカ派からも、「敵をアルカイダに絞るなり、明確にすべきだ」という声が出ているほどである。そもそも「テロリスト」「テロ」をどう規定するのかという問題は、米政権にとっても古くて新しい問題であり、全く明確になっていない。イギリスではすでに、昨年末頃から、この言葉が封印されるようになったという。「テロの脅威」なるものが、戦争を正当化するための虚像であるというだけでなく、米軍が誰と戦うべきかを曖昧にし、泥沼化を深めて行くという危機感が支配層内部から出てきているのである。
※明確な「テロ」の定義は無い。従って「テロとの戦争」も不明確である。「テロ」とは歴史的概念であり、主張する立場によって全く正反対の意味を持つようになる。一般に、“国家や団体、個人が、市民に対して恐怖心を引き起こすことにより、特定の政治的あるいはイデオロギー的な目的を達成しようとする組織的暴力、威嚇行為、またはその手段”などとされるが、テロの主体に国家を含むのか、テロと犯罪行為はどのように区別されるのかなど、全くあいまいである。実際アメリカでは80年代にレーガン政権が、「対テロ戦争」としてエルサルバドルやニカラグアなどとりわけ中南米に対する反革命介入を行ったが、レーガンの政策そのものが国家テロではないかという非難にさらされた。また、アメリカ政府やCIAが世界の反革命勢力に資金や武器を流す闇の構造こそが「国際テロネットワーク」であるという批判は根強くある。
The CIA as a Terrorist Organization(Serendipity)
http://www.serendipity.li/cia/cia_terr.html

 米の総合雑誌『ザ・ネイション』9月24日号は、特に米国内での「対テロ戦争」のデタラメを暴露している。9.11以降、ブッシュ政権は国内において8万人ものアラブ・イスラム系の外国籍の人々を拘置所へ集め、指紋をとり、「特別登録」した。さらに8000人の外国籍の人々がFBIによって捜査・尋問され、5000人を超える外国籍の人々が「予防拘留」された。実に合計93000人もの人々が、不当登録・拘束をされたのである。ところが、2007年9月時点で、これらの人々のうちのただの1人も「テロリスト」犯罪の有罪判決が下されていないという。記事は「なぜ私たちは、テロとの戦いに負けているか」と疑問を提起し、アメリカに対する「テロリストの脅威」が誇張されていることがないか、情報が正しいかどうかなど、問題の再検討を要求している。
※Why We're Losing the War on Terror
http://www.thenation.com/doc/20070924/cole_lobel/3

ブッシュの政権はまた、グアンタナモに拘束した「容疑者」たちの罪を断定する証拠をほとんど持っていない。"The Pentagon's Combatant Status Review Tribunals'によると、2006年にグァンタナモに留置された約500人の拘留者のうち、アル・カイダまたはタリバンの戦闘員として分類されたのはわずか8パーセントにすぎなかった。もちろんこの8%さえ疑わしい。そして「775人のグアンタナモ拘留者の半分以上は現時点で解放されている」。また、ジェーン・マイヤーが2006年7月3日に報告したところでは、「グアンタナモで拘束された700人を超える人々のうちの、正式に犯罪者とされたのは10人に過ぎなかった。」
 さらに驚くべきことに、米国内の25の刑務所には、18歳以下の少年たちが「テロリスト」容疑で107人も拘束されており、その一人は8歳だという。このような「テロリスト」の不当拘束は、全世界に存在している。アフガニスタン、イラクはもちろん、、ウズベキスタン、ヨルダン、エジプト、タイ、マレーシア、インドネシアおよびディエゴ・ガルシアにおける約25の収容所で「テロ容疑者」が収容されている。
※Is "Terrorist Threat" to America Another Bush-Cheney Fabrication?(Smirking Chimp)
http://www.smirkingchimp.com/thread/9971

 テロ特措法における給油問題との関わりで言えば、最大の顧客の一人であるパキスタンでは、ムシャラフ大統領のもとで、今まさに「テロリスト狩り」が大々的に進められ、実に400人を越える無実の市民が「行方不明」になり、収容施設に不当拘束されているという事態が生じている。「テロとの戦争」を根拠とすることは、虚構にしがみついて、人権侵害や侵略戦争に手を貸すことに他ならない。
※パキスタン : 「テロとの戦い」における強制失踪(アムネスティ・インターナショナル)
http://www.amnesty.or.jp/modules/news/article.php?storyid=215

(3)対テロ戦争は、反米闘争を拡大、激化させた

 アメリカは、ソ連が存在していた時代は、「ソ連の脅威像」を作り上げ、途上国での反米・民族解放革命などをソ連の代理戦争、革命輸出などとして宣伝して介入し叩きつぶし、ソ連崩壊以降は、自らの軍事覇権を正当化する「新たな敵を求め」た。そして2001年9.11事件は、「テロとの戦争」を、ブッシュの単独行動主義と侵略戦争の最大の根拠として利用することを可能にした。しかし、イラク戦争、アフガニスタン戦争の泥沼化とともに、大義への疑問が噴出し始めたのである。
 今では、フセイン政権の大量破壊兵器保有も、「アル・カイダ」との関係もでっち上げであったことが明らかになっている。そしてアフガニスタンでもイラクでも、米軍に対して武器を向けゲリラ闘争を闘っているのは、他でもない家族や親族を蹂躙され殺された現地の住民そのものなのである。決して「テロリスト」などではない。「対テロ戦争」は、米軍への憎悪と闘いを増幅させただけである。
 イギリスのシンクタンク、オックスフォード・リサーチ・グループは10月7日、世界規模でテロを封じ込めるためにはイラクからの多国籍軍の即時撤退が必要であるとする報告書を発表した。9.11以降の「テロとの戦い」が、かえって「イスラム過激派」を支持する動きを加速させ、逆効果を生んでいるというのである。報告書は、イラクから多国籍軍を撤退させて外交的解決を図ること、アフガニスタンでも軍事活動を縮小し、武装組織に政治参加を働きかける交渉に力を入れるべきだと主張している。この報告は、昨年秋のベーカー・ハミルトン報告の線を踏襲し、アメリカがいかにイラクやアフガニスタンの安定支配を続けるかという関心で書かれ、武装勢力をおしなべて「テロリスト」「アル・カイダ」として扱うなど、帝国主義的関心からのものであるが、アメリカの「対テロ戦争」が世界各地で反米闘争を激化させ、行き詰まりに陥る様子を的確に捉えている。
※Iraq After the Surge(ORG)
http://www.oxfordresearchgroup.org.uk/publications/monthly_briefings/index.html
※Report says war on terror is fuelling al Qaeda(ロイター)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idUSL037906320071007

 にもかかわらず、日本政府はいまだに、「テロとの闘いは国際的責務」と言い続け、アメリカの侵略戦争への加担を正当化しようとしている。だが、その日本政府と支配層の本音は「活動海域は輸入原油の約9割を中東に依存する日本にとって死活的に重要な海上交通路だ」(10月10日付読売新聞社説)という言葉がもっともよく表しているのではないか。要するに、中東の「石油利権」を確保するためには、石油輸送ルートであるインド洋からアラビア海での米の軍事行動と、多国籍軍による軍事的プレゼンスに関与し続けなければならないというのである。「テロとの闘い」はそのための口実にすぎない。
※「論戦の陰の主役は民主党だった」(10月10日読売新聞社説)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20071009ig90.htm

 私たちは改めて、国際テロ組織としての「アル・カイダ」や「国際テロネットワーク」の存在を否定したこの番組を紹介したい。シリーズは、第1回「イスラム過激派とアメリカ ネオコン」、第2回「アフガン戦争 幻の勝利」、第3回「幻のテロ組織を追って」の3回に渡る。
 第1回「イスラム過激派とアメリカ ネオコン」では、「悪の帝国ソビエト」から世界を救う正義の国アメリカという虚構の世界を作り出すことに成功したネオコンが、人々の恐怖心をあおる神話を武器に次第に影響力を増していく様子が描かれている。ネオコンはソビエトの脅威について、世界各地で起こっている「テロ」や革命運動は、全てソビエトが操る秘密ネットワークと関係しているとデマを流した。第2回「アフガン戦争 幻の勝利」は、米軍の介入によってソ連軍のアフガニスタンからの撤退を余儀なくされたことが、ソ連の崩壊をもたらしたという幻想である。番組は、当時のソ連は経済も政治体制も腐敗し、内部崩壊したのだが、これをアメリカによる成果としたことが最大の神話であるとする。
 そして第3回「幻のテロ組織を追って」は、ネオコンが、2001年の9.11をきっかけに再び活発な活動を始める様子を描く。彼らは、「世界的なテロ組織アルカイダ」によってアメリカが脅かされていると主張し、「テロとの戦い」を押し進めた。それは、幻の敵を使って人々の恐怖を最も煽った者が最も強い力を持つことができる、という考えに基づいての行動であった。
 ここでは、「国際テロネットワーク」の虚像を暴露した第3回を中心に紹介する。

2007年10月13日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局



「対テロ戦争」の欺瞞を暴いた傑作
NHK BS世界のドキュメンタリー「『テロとの戦い』の真相」
「英国アカデミー賞」(BAFTA)(イギリス)シリーズドキュメンタリー部門 受賞

 このドキュメンタリー番組は、次のようなナレーションで始まる。
 「今、国際的なテロリストのネットワークが世界を脅かしていると言われています。しかし、このテロの脅威と呼ばれるものの多くは、政治家によって誇張され、捻じ曲げられた幻想だとも言われます。そして、何の疑いもなく、政府、治安機関、メディアを通して、世界中に広められているというのです。」
 以下では特に、(1)「オサマ・ビンラディン率いる国際テロ組織アル・カイダ」という虚構は、すでに9.11以前、米検察当局が、アメリカ大使館爆破事件を裁くための必要に迫られてつくりだしたものであること。(2)アフガニスタン攻撃の過程で宣伝された戦果の中身そのものがウソとハッタリであったこと、(3)イラク戦争、の3点を取り上げる。。

(1)「テロネットワーク」の神話は、9.11以前、「アメリカ大使館爆破事件」の裁判の必要から作られた

 9.11に先立つ2001年1月、アメリカ大使館爆破事件の裁判がマンハッタンで始まった。アメリカの検察当局は、4人の被告人に加え、オサマ・ビンラディンも本人不在のまま起訴することを決めていた。しかし、実際の犯罪に手を染めていない首謀者の罪を問うには犯罪組織の存在を証明しなければならない。そのために、検察側は、かつてビンラディンの仲間だったというジャマル・アルファドルという男を利用した。
 アル・ファドルは、ビンラディンを頂点とする「巨大なテロ・ネットワーク」が存在し、このネットワークをアルカイダと名付けたのもビンラディンだったと証言した。しかし、ビンラディンに対する強烈なイメージを植え付けたアル・ファドルの証言は、殆どが事実ではなかった。
 ビンラディンとザワヒリは、新しい戦略に引きつけられたイスラム主義者たちを緩やかに束ねていたに過ぎなかった。活動家は自分たちで計画した作戦に対する資金の援助を受けていただけで、その作戦に指令を出していたのは、ビンラディンではなかった。また、ビンラディンがこのグループをアルカイダと呼んでいた証拠もない。アメリカでそう呼ばれているのをビンラディンが知ったのは同時多発テロが発生した後のことだった、等々。
 『アルカイダ』の著者 ジェイソン・バークは言う。「FBIはビンラディンがスパイやテロリストを世界中に張り巡らせた一大組織を動かしている、という話を起訴の根拠としましたが、これは、作り話でした。アルカイダの組織は、存在しなかった。指導者の命令に絶対服従する国際的なテロ・ネットワークなどそもそも無かったんです。それにも関わらず、この国際的なテロ組織が、アメリカやアフリカやヨーロッパ各地にテロリストを潜伏させ犯罪を企てていると信じたのは、大きな間違いでした。」
 番組によると、ビンラディンが西側メディアに誇示した兵力は見せかけで、ビデオに映った兵士たちは撮影のために一日だけ雇われたエキストラだった。ビンラディンは少数の取り巻きを従えていたが、組織は持っていなかった、という。

※ジェイソン・バークは以下のようにも語る。「ジャマル・アルファドルは、スーダン人で90年代始めにビンラディンと行動を共にしていました。その後、中東の情報機関を転々とし、結局、アメリカに流れ着きました。アメリカ政府はビンラディンを起訴するためにアル・ファドルの証言を必要としていました。アル・ファドルの話は、アルカイダという組織の存在を明確にするために最大限利用されました。FBIは現行の法律に沿って爆破事件の責任を問うことができる組織の存在を証明しなければならなかったんです。法律はマフィアなどの組織犯罪に対応するために作られたものですから、犯罪組織を起訴するには、そのメンバーから証言を取ることが非常に重要でした。アル・ファドルは打ってつけの人物だったわけです。他の情報源からも見方によっては組織の存在を示すと思われる証拠が数多く集まりました。アル・ファドルの証言とそれを補う証拠。この二つが合わさったことで、ビンラディンとアルカイダの神話が生み出されたんです。前例がないものだっただけにこれは大きな影響力を持つことになりました。」

 実際に存在していたのは、組織ではなく過激な思想だった。その思想を実行に移す恐ろしいテロ事件が起きたことで、マンハッタンの法廷で作り上げられた話は、世界中で信じられるようになった。「テロ攻撃」によって新保守主義者ネオコンは、権力の中枢に返り咲いた。

(2)洞窟を“高度な軍事地下要塞”と宣伝したラムズフェルド:アフガニスタン戦争

 (1)でわかるように、「国際テロ組織アル・カイダ」がでっち上げられたのは、あくまで犯罪捜査と容疑者の起訴の必要からであった。決して戦争の根拠となるものではなかった。ところがこの「テロ組織」が虚像が膨張し、侵略戦争の根拠にまで仕立てられるのである。
 アメリカは、9.11事件を受けて、この「テロ・ネットワーク」の中枢を破壊するためだとして、アフガニスタンに攻め入った。ネオコンは、アフガニスタン戦争において、「アルカイダ・ネットワーク」に関する誇張された幻想を広げた。
 CIAテロ対策責任者(1988〜90)ヴィンセント・カニストラロは言う。「ネオコンは、ソビエトとの冷戦時代に築いた考え、すなわち共産主義は悪であり私たちの国や社会を全て征服しようとしている、という考えを再び持ち込もうとしていました。誇張した悪の概念をテロ・ネットワークという新たな脅威に当てはめようとしたのです。」
 12月、北部同盟は、ビンラディンがトラボラの山岳地帯に逃げ込んだと、アメリカに報告した。

テレビで洞穴を要塞だと説明するラムズフェルド
キャスター:「オサマ・ビンラディンが逃げ込んでいるとされる洞窟について多くのアメリカ人は、山肌に小さな穴を掘ったものというイメージを持っているようですが。」
ラムズフェルド:「とんでもない。」
キャスター:「これは要塞ですね。一番上に寝室とオフィス。脇には秘密の出口がついています。一番下の階は探知されないよう深く掘ってありますが、換気システムが完備しています。入り口は広くトラックや戦車が通れますね。コンピュータや電話回線が備わった実に高度な作戦基地です。」
ラムズフェルド:「その通り。しかも、この手の要塞は数多く存在しているんです。」


 アメリカは、強力な兵器でトラボラの山岳地帯を数日間に渡って爆撃した。北部同盟は、ビンラディンの要塞を襲撃するために山に入った。
 米国防長官ラムズフェルドは、ビンラディンがアフガニスタンの設備の整った巨大な洞窟から悪のネットワークを支配しているとデマを流し、アフガニスタンを劣化ウラン弾を搭載したバンカーバスターや燃料気化爆弾など非人道兵器を使って攻撃した。アメリカ軍は幻のテロリストを追って洞窟をしらみ潰しに調べたが、見つかったのは小さな洞窟だけだった。武器庫として使われた跡が残っているものもあったが、設備の整った地下要塞などはなかった。北部同盟は、捕虜をアルカイダの戦士だと主張したが、それを裏付ける証拠はない。

「洞窟を発見 中は空だ」

 何も見つからないのは当然だった。アメリカが考えるテロ組織は、実在しなかったからだ。アメリカへの「テロ攻撃」は90年代後半にビンラディンの周りに集まった少数のグループが計画したものだった。アイマン・ザワヒリのイスラム主義をさらに過激に解釈していたグループ。メンバーの多くは、死亡、あるいは散り散りになった。
 アメリカ政府は国内に潜む、アルカイダ組織の捜索に取りかかった。警察や軍によって何千人もが拘束された。政府は徐々にネットワークに迫りつつあるかに見えた。アメリカ政府は、攻撃のチャンスをうかがう「テロリスト」を捕らえた、と主張した。しかし、逮捕された人が実際にテロ計画に関わっていたことを示す証拠は殆ど無い。アメリカは、国内各地で幻の敵を追い続けていた。

(3)イラク侵略のために、アルカイダ・ネットワークとサダム・フセインの関係をでっち上げ

 「アメリカを始めとする各国政府は、様々な要素が複雑に絡み合ったこのようなテロの脅威を巨大なテロ組織の仕業という単純化した幻想に転化させた。しかも、この幻想が多くの人々に利益をもたらすかに見えるため、疑問の声が挙がらなかった。新聞やテレビもまるで小説に出てきそうなテロ・ネットワークの話をこぞって伝えた。」
 アフガニスタンの幻の勝利に人々は浮かれた。そして、この幻想をいち早く利用したのがアメリカのネオコンだった。ネオコンはイラクに注目した。「アメリカに潜むテロの脅威」を触れ回り、アルカイダネットワークとサダム・フセインの関係を浮上させた。イラクは大量破壊兵器を保有し、アルカイダに武器を供給してテロ攻撃を仕掛けてくる、とこれまた虚偽の主張をしてイラクを侵略した。しかし、大量破壊兵器は見つからず、イラクへの侵略の根拠は虚構であることが明らかとなった。

 番組は以下の言葉で締める。「あらゆる偉大な思想が威信を失っていく中で、政治家は幻の敵を作り出す。権力を維持するためには、例え敵の存在が幻であってもその恐怖を利用するほかに道はなかった。しかし、恐怖は永遠に続くものではない。かつて、明るい未来の夢がしぼんでしまったように、この悪夢もいずれ醒めるに違いない。その時、政治家は、人々に示す展望が何一つ無いことに気付くだろう。」
 日本政府は、いつまで「幻の敵」にしがみつき、アメリカの侵略戦争に加担し続けるのか。