女性国際戦犯法廷番組、改ざん強制問題(2)
安倍・中川・NHKと右翼メディア総掛かりの開き直りと幕引きを許すな!
−−日本の軍国主義化・反動化の歴史的流れ中で、改ざん問題、女性国際戦犯法廷の意義を再確認する−−


【1】 安倍・中川・自民党・NHK側に右翼系メディア・雑誌が加勢し、安倍・中川の開き直りと「NHK自主規制論」で幕引きを図る。

(1) 「日本軍『慰安婦』問題を裁く、女性国際戦犯法廷」を扱ったNHK番組に、当時「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」代表であった中川昭一衆議院議員と、同会事務局長で官房副長官であった安倍晋三議員が政治的介入、圧力をかけ、結果番組が大幅な改編を余儀なくされた事件が朝日新聞のスクープによって明らかにされたのは1月12日。その事実は翌日のNHKプロデューサーの記者会見によっても確認された。

 しかし危機感を感じた自民党と右翼勢力は、右翼系新聞・雑誌の加勢を得て、問題の本質をねじ曲げ、すり替え、安倍・中川両氏の居直りと「NHK自主規制論」で幕引きを図ろうと動き始めた。今回のNHKに対する政府自民党の政治介入を追及する闘いは、今重大な岐路に立っている。権力側の開き直り・幕引きをここで許せば、政治権力によるメディア介入の悪しき前例を作りかねない。彼らの逃げ切りを許さず、更に徹底追及しよう!


(2) 安倍氏は、番組が「偏った内容だ」などと当初指摘した事実を引っ込め、自分の発言そのものを否定しにかかっている。中川氏は番組放送前にあったとしていたものを、番組放送後に出会ったなどと、前言を翻した上、訂正まで求めている。NHKはNHKで、両議員に出会い「圧力とは感じた」と言っていた松尾元放送総局長に会見を行わせ、これもまた前言を翻えさせている。三者は共謀し結託しながら、逃げ切り、居直り、開き直りを決め込もうとしているのだ。
 更に自民党は、この問題に関する「NHK改変チーム」なるものを作り、安倍・中川両議員、NHK、朝日新聞を呼んで公開討論会を開催するとしている。朝日新聞に、よってたかって集中砲火を浴びせる魂胆が見え見えである。さらに名前を出すまでもないが低俗で有名な右翼的週刊誌、右翼系新聞なども、待ってましたとばかりに朝日攻撃を開始した。彼らは、この問題はNHKの政治依存体質から出てきたものであり、番組改変はNHK自らがやったものだ、安倍・中川両氏のやったことは政治介入でも圧力でもなんでもなく、いわば「日常的」な出来事である、朝日が悪い、朝日は謝罪すべきだ、この問題は山を越した、という世論誘導を大々的に始めた。つまり政府自民党からの政治的圧力ではなく、NHKの側が自ら進んでやった「自主規制」だというわけである。


(3) 事の発端、本質を見誤ってはいけない。今回の事件は、安倍・中川等国家権力中枢にいる人間が、NHKという「公共放送」に政治的に介入し、圧力をかけ、自らが問題視する番組の内容を大幅に改変させたという問題なのである。現在種々の右翼系メディアが誘導している「NHKvs朝日新聞」といったマスコミ同士の争いの構図では決してない。問題を「政府自民党vsNHK」の構図に引き戻さねばならない。

 色々はぐらかしやごまかしが行われているが、つまるところ安倍・中川両氏と政治権力による、誰もが分かる政治介入の決定的証拠は、NHK側の改ざんが、安倍・中川両氏がNHKの人物と会った前なのか後なのか、にある。極右翼勢力とつながり副官房長官として政治権力の中枢にあった極右政治家安倍氏と会うことが、それだけで「圧力」であるのは明々白々だ。だとすれば、会った後に改ざんが行われていれば、それはそのまま権力による政治介入を論証することになるのだ。現に、安倍・中川両氏とNHKの人物が会った後に番組を改ざんした事実はすでに証明されている。以下、もう一度当時の事情を振り返ってみよう。

−−中川氏は、1月30日の放送日前日の1月29日にNHK側と会っている。(1月18日朝日新聞朝刊で報じられた「中川氏との一問一答」より)
※放送内容がどうして事前に分かったか、との問いに「同じような問題意識をもっている我々の仲間が知らせてくれた」。1月30日の放送前日の1月29日に、NHKの野島、松尾両氏に会われたのか、との問いには「会った、会った。議員会館でね。」何と言われたのか、と問われて「番組が偏向していると言った。それでも『放送する』と言うから、おかしいじゃないかと言ったんだ。だって(民衆法廷は)『天皇死刑』と言っている」。「天皇有罪」では、と糾されて「おれはそう聞いた。何をやろうと勝手だが、その偏向した内容を公共放送のNHKが流すのは、放送法上の公正の面から言ってもおかしい。向こう(NHK)は教育テレビでやりますからとか、あそこを直します、ここを直しますから、やりたいと。それで『だめだ』と」。挙げ句は、放送中止を求めたのか、の問いに「まあそりゃあそうだ」。

−−確かにNHKは、安倍・中川両氏と会見したとされる1月29日以前から、この番組に対しては度重なる改ざんを行っていた。
 1月19日には、吉岡民夫教養部長による部長試写が行われ(異例のこと)、ここでいきなり部長は「法廷との距離が近すぎる」「企画とは違う」「ボタンの掛け違いは修正できない」、果ては「お前らにはめられた」「このままではアウトだ」と言い募ったあげく、具体的にどこを改善しろということも検討せずに席を立ったと言われている。やむなく関係者たちは部長の意向を忖度(そんたく)しながら修正を始めた。そして度重なる新たな指示、最後は「業務命令」。26日には、民衆法廷に批判的な秦郁彦氏をインタビューすることを決めた。そしてNHK幹部の動きと呼応するように20日すぎから右翼団体による放送中止を求める電話、メールの殺到。27日には右翼街宣車がNHKに突入したのである。教養番組部長からOKが出たのは28日。この時番組は44分だった。

−−問題は29日に何が起こったかである。まさに安倍・中川とNHKが面談したその日、しかも面談の後に、番組内容が再び大幅に変更されたのである。
 番組制作局の局長室で、松尾放送総局長と野島直樹担当局長も参加して「異例の局長試写」があった。そして試写後松尾、野島氏は修正点を具体的に指示した。この両氏こそ、安倍・中川に面談した張本人たちである。これが何を意味するのか、もはや明らかだ。

−−改ざんはここに止まらなかった。放送当日の30日に完成した43分版に更に変更指示が下された。
 番組放送当日の1月30日、松尾氏は、「自分が全責任を取る」からと、さらに3分のカットを命じた。そして実に放送3時間前から再編集が再開され、無惨にも改ざんされた40分版が完成したのである。放送直前の異常な編集劇。よほどの圧力でもない限り考えられないことである。中川氏のインタビューと重ね合わせて考えると、安倍・中川両人の圧力の結果としか考えられない。


(4) この「女性国際戦犯法廷番組、改ざん強制問題(2)」では、今回の問題は如何なる意味で重要なのか、その意味、位置づけを検討してみたい。
 今回の番組改変問題は、政治権力による「公共放送」への政治介入といった形式からいっても、日本軍「慰安婦」問題=過去の日本の戦争犯罪、戦争責任・戦後責任の隠蔽、問題顕在化への圧力といった内容の点からいっても、きわめて重大な問題である。
 さらに、この問題を小渕、森、小泉政権の下での、新たな日本の軍国主義と反動化の流れの中に置いて考えた場合、問題がどこまで追及されたのか否か、反動的潮流をどこまで押しとどめたか否かが、大きく言えば今後の日本政治のあり方を左右するといっても良いほどの重大な問題を含んでいる。後述するが、それは国内的な問題だけではない。ことに日韓・日朝・日中というアジアとの関係を含む国際的な問題でもあるのだ。

 私たちは、次々明らかにされる事実に基づいて(明らかにされるかどうかも運動の進展如何にかかっている)安倍・中川・NHK幹部の責任を、追及し続ける必要がある。反戦運動の力を結集して是が非でも国会での証人喚問を実現させよう。



【2】 軍国主義、反動化の流れの中で改ざん問題発覚が持つ意味−−自民党=改憲の次のリーダーたる極右政治家安倍をどこまで追い詰めるかが、今後日本の軍国主義化・反動化の動向を左右する。

(1) 小渕、森、小泉と連なる歴代の自民党=公明党政権は、日本の政治・軍事・外交政策の大転換、一層の軍国主義化・反動化を進行させてきた。大きな転機になったのは1999年。周辺事態法、国旗・国歌法、盗聴法、住民基本台帳改悪法案、憲法調査会設置法案など軍国主義・反動法案を、自公らの暴挙で一気に国会を通過させた6年前にさかのぼる。
 そして今通常国会はことに法制面ではその完成に向かうものとさえ位置づけられる。昨年末の「防衛大綱」「中期防」では、小泉政権は日本がブッシュの先制攻撃戦争戦略と一体となることを表明した。それを受けて今通常国会で自衛隊海外派兵「本務化」のための自衛隊法改悪法案、与党と民主党が馴れ合った結果としての「緊急事態基本法案」、そして憲法改悪の地均し法案「国民投票法案」など、軍国主義・反動諸法案をまとめてごり押ししようというのである。


(2) さらに今年、政府与党は憲法改悪に大きく踏み出すことを目論んでいる。国のあり方、有り様を最終的に変えてしまうものとしての憲法改悪論議を与党側は憲法記念日前後に本格化させるつもりだ。
 改憲の強力な応援団も登場した。財界の司令塔・日本経済団体連合会は憲法9条と96条の根本改悪を焦眉の課題に置いた提言「わが国の基本問題を考える〜これからの日本を展望して」を、ついに1月18日に発表したのである。経団連はこの中で、日本を小泉流の対米追随路線に置くことにはっきり承認を与え、さらに右へシフトする軍国主義・反動化路線を提言している。まるで米国市場なしに生きて行けないトヨタを筆頭とするグローバル企業が自らの個別の“資本の論理”を振りかざし、日本の未来をねじ曲げた方向へ引っ張っていこうとしているのである。

 また森喜郎元首相を起草委員長とする自民党新憲法制定推進本部が動き始めた。その小委員会の顔ぶれは、前文担当に中曽根康弘、天皇担当に宮沢喜一等。「森院政」と称される所以である。自民党は挙党態勢で本気だ。そして私たちが何より注目しておかねばならないのは、その前文担当中曽根委員長の代理が当の安倍晋三だ、という事実である。中曽根も宮沢も生理的に政治生命そのものの後がない。ということは、自民党における改憲の実質的な推進者は次の世代のリーダーである安倍晋三に託されたということである。
 要するに安倍氏は、任期中の憲法改悪はないと言明した小泉の後がま、「ポスト小泉」の筆頭候補だということだ。通常国会を迎えた政界は、もはや「ポスト小泉」を見据えて動き始めているといって過言ではない。それは恐らく政界再編や民主党・岡田をも巻き込むようなものになるだろう。

 私たちが認識しなければならないのは、だからこそ安倍は今必死なのだということだ。ここで「スキャンダル」、世間からの何らかの批判を浴び、ミソを付けるわけにはいかないのである。私たちが逆に、安倍氏らに対する追及の手を緩めることができないのはまさにこの点にある。極右政治家安倍、改憲のリーダーを自認する安倍にとっては、日本軍性奴隷制度=日本の戦争犯罪を裁いた「女性国際法廷」及びそれを取り扱った番組などは最も攻撃を加えなければならない対象なのだ。それだけではない。現在と将来の日本軍国主義と反動化を進めようとする安倍のような人物にとっては、日本軍性奴隷制度をはじめとする忌まわしい戦争犯罪、それに伴う日本の戦争責任・戦後責任は最も忌むべき、唾棄すべき、隠蔽し葬り去りたいことなのである。
 安倍・中川・NHK幹部ら極右がよってたかってつぶしたかった日本軍性奴隷問題、そしてそれを裁いた「女性国際法廷」の本質そのもの、さらにそれらを取り扱った番組から何が消されたのか−−これをもう一度確認することが、今回の事件の重大さを再確認することにつながる。以下、もう一度振り返ってみよう。



【3】 安倍・中川が攻撃し続けているもの――「女性国際戦犯法廷」とは何なのか。

(1) 改ざんされた番組とは本来どのようなものであったのか、番組が何を伝えようとしていたのか、なぜ今なお安倍たちによって執拗に攻撃され、「異例の」改ざんまで行われたのか、「女性戦犯国際法廷」そのものの意義に立ち返って検討してみる必要がある。

 2000年12月、「日本軍『慰安婦』問題を裁く、女性戦犯国際法廷」は、「『慰安婦』制度という過去の犯罪の責任と向き合うと共に、現在も繰り返されている戦時下の性暴力の根絶という二つの目的をもって開催」(VAWW−NETジャパン共同代表・西野瑠美子さん)された。日本政府の責任だけでなく戦後日本のタブーに真っ向から挑み、「天皇裕仁有罪」の判決を下したのである。「あえて死者を裁いた」のは、まさにこの法廷の目的が「報復ではなく正義を求めること」であったことを示すものに他ならない。

 「法廷」は、「慰安婦」制度は当時すでに成立していた国際法に照らして「人道に対する罪」であることを、証拠に基づいて立証した。現在の法で過去を裁いたのではない。すなわち遡及処罰禁止に抵触するものではないのである。戦時性暴力の視点を完全に欠落させていた東京裁判では、「慰安婦」制度は裁かれなかった。すなわち一事不再理に反するものでもない。旧ユーゴ国際戦犯法廷前所長のカーク・マクドナルドさんはじめ、判事、検事に名を連ねた、国際的に著名な法律の専門家たちにとって、これらの原則を遵守することは法廷の権威を保つ上で不可欠の要素であった。

 「民衆法廷」であること、強制力、拘束力を行使できないものであることは、主催者自身が最初から明言している。それは本「法廷」の欠陥ではない。国家権力と結びつかず、政府組織の介入、思惑から離れ、真実以外の何物にも束縛されない「民衆法廷」であればこそ、政治的戦略や駆け引きに左右されずに戦時性暴力を裁くことができたのである。東京裁判で天皇が免責されたのは、ひとえに米GHQによる日本の占領支配のためであり、それに依拠して日本の支配層は延命したのではないか。これこそ戦争責任をあいまいにし今に至るまでそれを引きずらなければならない元凶ではなかったか。


(2) 強制力を持たないがゆえに「法廷」は、自らの拠って立つ民衆に国境を越えて呼びかけた。その限界・制約は、民衆自身の継続した運動を強め広げることで突き破り、補っていくという「法廷」の準備過程から一貫して全体を貫く意欲と決意は、今もなお健在である。右翼・自民党、安倍・中川らの政治介入とNHK幹部の屈服・追従によってねじ曲げられ改ざんされた番組が、4年の歳月を経て暴露され、一気に問題が再燃しているのは偶然ではない。まぎれもなく本「法廷」が今も生き続けていること、力を秘めていることの証左といえるのである。

 「法廷」の、海外での反響の大きさは主催者自身さえも驚くほどであったと言われている。アジア諸国はもとより世界各国から注目され、多くはトップニュースかそれに準ずる扱いで報道された。にもかかわらず、これとは対照的に、当の日本国内でのマス・メディアによる報道はごく限られた小さな扱いにとどまるか、あるいは完全無視、黙殺に等しい有様だった。
 そうした中で、NHK「ETV2001」シリーズ「戦争をどう裁くか」の第2回、「問われる戦時性暴力」には「法廷」関係者と支援者らの期待と注目が寄せられていた。制作者は「法廷」を丹念に取材し、「半世紀前の戦時性暴力が世界の専門家によってどのように裁かれるのかを見届ける」(番組提案票)との趣旨で取材協力を依頼し、その観点で編集され放映されるはずだったからである。


(3) 右翼による執拗な妨害と脅迫がNHKに集中したのは、他局・他紙が、この歴史的な「法廷」についてほとんどまともに取り上げようとしなかったからである。その意味で今回の事件は、天皇の問題、日本軍性奴隷制の問題をタブー視する、日本におけるマス・メディア全体の目に余る体たらく、恥ずべき自主規制がもたらした結果でもある。右翼系新聞や雑誌は論外としても、それ以外のメディアまで、なぜ今回の事件を「朝日vsNHK」という誤った枠で捉え、シニカルな姿勢に終始することができるのか、それこそが大問題である。
 他人事と考えていたら大間違いだ。いずれ増長し右傾化した政治権力による報道への介入がもっと凶暴化し、今回の事件で大人しくし傍観者になり下がったメディアにも襲いかかるだろう。気が付いたときはもう遅い。その時になって騒いでも「後の祭り」である。メディアは今、歴史的な岐路に立っている。このことを肝に銘じてほしい。


【4】 安倍・中川らが隠蔽したかったもの――昭和天皇と天皇制軍国主義の最大の“恥部”、戦争責任・戦後責任問題の集中的表現としての日本軍性奴隷制問題。

(1) 一体、何がどう変えられたのか。番組から無惨にも削り落とされた部分こそ、安倍・中川ら、自民党・極右が何としても市民の前から葬り去りたかったことである。それこそ、日本軍性奴隷制度をはじめとする日本の過去の戦争犯罪、昭和天皇裕仁の戦争責任、戦後責任、そして「公共放送」がそれらの問題を取り扱うべきものそのものだったのである。

 すでに出来上がっていたものが、オンエア直前に4分も短縮された。それだけでも異常だ。そのことに加えて、削られた内容こそが、先述のようにこの番組改ざん事件の本質を物語っている。―――それ以前の改ざんは別にしても、2001年1月30日放送直前の29日と30日当日の2度にわたって大幅に改ざんされた結果、番組はズタズタにされ体をなさないものにされてしまった。

 一体何が、どう改ざんされたのか−−−。
 第一に、天皇有罪判決場面。静まり返った会場が一気に沸き立ち、歓声とどよめきの波があふれたあの瞬間。半世紀もの間、屈辱と沈黙を強いられてきた被害者たちが待ち望んだ瞬間。番組制作にあたっていた現場スタッフはこれを全身で受け止め、この光景を伝えようとした。
 第二に、「慰安婦」被害者の証言。中国人被害者の紹介と証言、東ティモールの慰安所の紹介と被害者の証言である。およそ被害者の切なる訴えなしに、裁判などありえるだろうか。告発した長井さんが苦渋に満ちて語った「被害者の声だけはなんとしても守りたかった」という言葉は、この「法廷」にかかわった現場スタッフの視点、姿勢を代弁している。それこそが彼らを突き動かしてきたものなのだ。
 第三に、元日本軍加害兵士の告白。おそらく右翼と侵略戦争を美化したい連中にとっては、最も見たくない聞きたくない衝撃的な証言であった。だが元日本軍兵士の証言は、他ならぬ被害女性たちを何よりも感動させたのである。「私はこのような証言集会のたび、必ずこの中には体験者がいるに違いないと確信しており、その人々に口を開いてほしいと思っている。だからこそ、あの二人の男性の証言がどんなにありがたかったか知れない」(韓国人被害女性)。
 そして第四に、主催者代表のインタビュー。これが削られたために、誰がなぜどのようにして何のためにこの「法廷」を準備し実現させたのか、その基本的な経緯すらも、「法廷」の正式名称や主催団体、被告が誰なのかも伝えられなかった。等々。
 以上、すなわち削られたのはすべて、「法廷」の核心部分だったのである。


(2) 削られたものに代わって、無理やりねじこまれたもの。あろうことか、南京大虐殺をはじめ歴史を歪曲し日本の侵略戦争を公然と美化・正当化する秦郁彦・日本大教授の悪質な虚偽に満ちたインタビューが、とってつけたように不意に流れをさえぎって挿入されたのである。「考え方の違い」などではない。彼は、「法廷」の厳格な審理過程は一切見もせず知りもせず、3日目の「判決」を見に会場に顔を出しただけ。事実関係さえまともに把握してもいない無知をあらわにさらけ出したのです。悪意をむき出しにした虚偽と中傷でしかないコメントを延々と、NHKは事実の確認すらしないままに垂れ流した。(放映2日前に突如取材・収録)

 差し替えられたもの。司会者・松永アナウンサーは当初この「法廷」について、「ラッセル法廷に次ぐ民衆法廷であり、規模や国際世論に与える影響力においてはラッセル法廷をはるかに上回ると言われている」と高く評価する紹介をしていた。それが放送の数日前に撮り直されたものでは「これは法廷といってもあくまでも民間のものであり法的拘束力がない」ことを不自然なまでに強調し、「さまざまな問題点がある」と全く正反対とも言える否定的なニュアンスに変えられていたのである。誰もが、そのぎこちなさに違和感を持たずにはいられなかったほどの異様な司会進行は、今となってはすべてうなずけるところだ。


(3) コメンテーター発言の寸断。出演した高橋哲哉・東京大助教授と米山リサ・カリフォルニア大学準教授は、何を言っているのか分からないほどに発言をぶつ切りにされた。高橋氏の発言では、「法廷」の意義を説明する部分を全面的に削除。米山氏は、継ぎはぎだらけの脈絡のかみ合わない支離滅裂のコメントにされた上、「裁きによる責任の明確化を通じた『慰安婦』問題解決の試み」として「法廷」を評価する、という最も肝心な主張点をカットされてしまった。彼女はBRC(放送と人権と権利に関する委員会)に、著作者人格権及び名誉権の侵害があったと2002年8月に申し立てをしたのである。

 長井氏はじめ制作現場スタッフは「女性国際戦犯法廷」のすべてを伝えようとしていた。全力で、あらん限りの誠意を尽くして。これらこそが、右翼、自民党、安倍・中川両名らが何としてもねじ伏せ、つぶそうとしたもの、視聴者の目から隠したかったものなのである。VAWW−NETジャパン・ビデオ塾が作成した「沈黙の歴史をやぶって――女性国際戦犯法廷の記録」とぜひ見比べみていただきたい。NHKが「公共放送」の威信をともにかなぐり捨てた真実がそこに映し出されている。
 かくして驚くべき改ざんの結果、番組は骨抜きにされ、「慰安婦」被害女性たちの尊厳は、日本の国家権力の極右を代表する部分と、これに屈服し追随・迎合するNHK上層部によって、またしてもまたしても踏みにじられたのである。



【5】 改ざん問題を追及する闘いは小泉の新しい軍国主義化・反動化に抵抗する“前哨戦”である。責任逃れ、開き直り、問題のすり替えを許さず徹底追求しよう!

(1) 思えば安倍・中川が、番組に介入した2000年は、国内的には「慰安婦」問題を南京大虐殺と並んで「自虐史観」の最たるものとして執拗な集中攻撃の標的とした「つくる会」に終結した「草の根右翼」が、安倍・中川ら極右政治家と結託・結合し、教科書採択をめぐって、また日本の戦争責任をめぐって、巻き返しをはかりつつある時だった。
 1996年春検定を通過した中学校教科書の全てに、わずかな量で不十分な記述ながら「従軍慰安婦」についての掲載がなされたことに危機感を抱いた右翼・反動勢力は夏から激しい巻き返しを開始し、教科書攻撃を始めたのである。そして翌97年1月「新しい歴史教科書をつくる会」が発足した。
 その後の草の根の歴史改ざん「国民運動」。全国的に展開された「慰安婦」問題と加害記述削除の議会請願運動。それは、映画「ナヌムの家T・U」とその続編「息づかい」や「南京1937」などの上映妨害にまで及んだ。その意味で、この「従軍慰安婦」問題は、その他の戦争責任問題の中でも突出した、決定的な争点に押し上げられたのである。


(2) こうした脈絡の中で「女性国際法廷」に関する番組改ざん問題は発生した。安倍・中川の動きは、「つくる会」や「草の根右翼」、右翼の公然・隠然たる暗躍と結び付いていたのである。私たちが注目しなければならないのは、当時こうした活動を率先した政治家達こそが、小泉政権の誕生とブッシュの戦争政策によって日本で急速に進行した軍国主義化と反動化を推進する急先鋒であるという事実だ。それは安倍の北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と中国に対する戦争挑発や強硬発言を繰り返す好戦的姿勢を一瞥するだけで十分である。
 一方アジアでは2000年、南北朝鮮の統一会談が実現していた。それは南北の融和を意味していただけではない。日本との関係で言えば、日本の過去の侵略と植民地支配の歴史、それに伴う戦争犯罪と戦争責任、戦後責任が改めて問われる機会でもあった。ちょうどその時、日本国内では極右勢力が中心となってそれらの問題を必死に隠蔽しようとしていたのである。


(3) 折りも折り今年2005年は、日韓条約締結40周年にあたる。日本ではさほど話題とされなかったが、韓国では連日この条約締結に関わる報道がなされ、その主要な文書がほとんど未だに日本政府の手の中にあること、また過去の戦争と植民地支配に関わる国家賠償、個人賠償の放棄をめぐる話題が報道されている。この機に再び日本の過去の戦争と植民地支配そのものが問われているのである。
 従ってこのNHK番組改ざん問題の帰趨は決して韓国人民にとっても無縁なものではない。こうした問題を通じて日本人と日本政府が過去の侵略と植民地支配の歴史にどれだけ誠実に真摯に向き合っているか、反省と謝罪が本当になされるかどうか、韓国人民にとっては今後の日本の動向、軍国主義と反動化の進行の問題として注視し無関心ではおれない問題なのである。すなわちNHK番組改ざん問題は国内問題というだけではない。すぐれて国際的な問題なのである。
 一方、北朝鮮に関しては、安倍らが先頭に立って日朝国交正常化交渉をぶち壊し、両国の善隣友好関係の前進を阻んでいる。
 中国との間でも、外交関係は事実上凍結されたままである。小泉による靖国参拝強行が問題をこじらしている。
 以上全てのことが私たちに突き付けているのは、敗戦後60年の今年は、日本が改めて過去の日本の戦争責任、反省をいかになすかという歴史的問題と向き会い続けなければならないということである。

 2000年に、「従軍慰安婦」問題として集約された日本の過去の戦争犯罪、それに伴う戦争責任・戦後責任を必死に隠蔽しようとした安倍ら極右政治家たちが、敗戦60周年を迎えた2005年、小泉的な対米追随政治をさらに右へと引っ張ろうとしているということである。
 安倍=中川的な極右政治家たちの策動・妄動を許すのか否か、彼らの逃げ切りを阻止できるか否か、NHKの与党政治家との癒着・融合体質を断ち切れるか否かが、今後の日本の政治・軍事・外交動向をひたすら右派的なものに流していくのか、流されていくのか、それとも多少なりともそれに抵抗するのかどうかの“分水嶺”となり“前哨戦”となるだろう。NHK番組改変問題はその意味で決定的に重要なのである。

◎できる限りの情報をたぐり寄せながら、安倍、中川、NHK幹部を追及し続けよう。彼らの逃亡、逃げ切り、開き直りを許すな。
◎NHK改ざん問題の国会での徹底追求と証人喚問、裁判での証人尋問を要求しよう。
◎戦後60周年を迎え、過去の日本の戦争犯罪、戦争責任・戦後責任の問題を、中学校教科書採択に注意を払いながら、改めて問題にしよう。


2005年1月31日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局





[関連ページ]

女性国際戦犯法廷番組、改ざん強制問題(1)
中川昭一経産相、安倍自民党幹事長代理に抗議を! 国会とNHKに真相の徹底究明を要求しよう!
−−通常国会で証人喚問を行え!事実関係を明確にし責任を明らかにせよ!−−





<抗議先>

□ 安倍晋三 議員
〒100-8981 東京都千代田区永田町2-2-1 衆議院第一議員会館602号
TEL:(03)-3508-7172
FAX:(03)-3508-3602
s-abe@cybertron.co.jp
WEB投稿ページ:http://newleader.s-abe.or.jp/modules/contact/

□中川昭一 経済産業大臣
〒100-8981 東京都千代田区永田町2-2-1 衆議院第一議員会館720号
TEL:(03)-3508-7170
FAX:(03)3580-5556
shoichi@poplar.ocn.ne.jp

□NHK
・勇気ある内部告発をした長井氏への激励・応援。
・長井氏への圧力・中傷の中止、安倍・中川両氏の側に立って保身のための虚偽報道を繰り返すNHK上層部へは抗議・批判。

WEB 投稿ページ https://www.nhk.or.jp/plaza/mail/index.html
放送センター 〒150-8001 渋谷区神南2-2-1 TEL:(03)3465-1111
各地のNHK連絡先は、次のページで:http://www3.nhk.or.jp/toppage/local_program/


<要請先>

 国会で審議させ安倍・中川両氏の国会証人喚問を実現させるには、公明党や野党、特に民主党への要請が重要です。

□民主党 info@dpj.or.jp
□社民党 seisaku@sdp.or.jp (政策審議会)
□共産党 info@jcp.or.jp

□自民党 WEB投稿ページ http://www.jimin.jp/jimin/main/mono.html
□公明党 WEB投稿ページ http://www.komei.or.jp/announcement.html


□朝日新聞
・今回の事件発覚のきっかけとなるスクープ記事を出した記者への激励・応援。
【朝日新聞】 kouhou@asahi.com (広報部)

□その他新聞
・各紙に真相究明、調査報道をお願いするのも効果的です。
【読売新聞】 webmaster@yomiuri.co.jp (読者サービス室)
【毎日新聞】 simen@mbx.mainichi.co.jp
【日経新聞】 お問い合わせコーナー https://sch.nikkei.co.jp/nikkeinet/
【共同通信】 feedback@kyodonews.jp
【時事通信】 webmaster@jiji.com
【中日新聞】 center@chunichi.co.jp
【東京新聞】 「政治ホットライン」http://www.tokyo-np.co.jp/hotline/
         読者投稿コーナー http://www.tokyo-np.co.jp/dokusha/

・なお産経新聞が安倍・中川両氏の側に立って長井氏、朝日新聞攻撃を始めました。
【産経新聞】 o-dokusha@sankei-net.co.jp  (大阪)
       t-dokusha@sankei-net.co.jp (東京)

・安倍氏(山口県選出)と中川氏(北海道選出)の地元紙
【西日本新聞】 http://www.nishinippon.co.jp/  syakai@nishinippon.co.jp (社会部)
【北海道新聞】 http://www.hokkaido-np.co.jp/  info@hokkaido-np.co.jp





日本政府に対して敗戦60年を期して日本軍性奴隷制問題の解決を求める署名にご協力を

 なお、日本政府に対し日本軍性奴隷制被害者に公式謝罪と法的損害賠償を行うよう強く促す国際署名キャンペーンがますます重要になってきました。ぜひご協力をお願いします。
 <詳しくはこちら>