政府・自民党、近代刑法を根本的に改悪する滅茶苦茶な新「治安立法」審議を密かに始める
新「治安立法」=「共謀罪」新設に断固反対する
――他人事じゃない!まずは関心を喚起し、内容を広めよう−−


【1】 はじめに−−警察・検察による未曾有の弾圧手段。「実行行為」なしに犯罪者に仕立てる

(1)小泉の軍国主義化・反動化の流れの一環
 前代未聞の治安立法の審議が、郵政改革法案をめぐるドタバタ劇に隠されて密かに始まりました。
 国境を越えた組織犯罪やインターネットを利用した犯罪に対応するためと称する刑法などの「改正」案(共謀罪・サイバー犯罪法案;提出法案の正式名称『犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対応するための刑法等の一部を改正する法律案』)が、6月24日、南野法務大臣の趣旨説明で審議入りしたのです。
※ 「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対応するための刑法等の一部を改正する法律案」
※ 24日衆議院法務委員会の会議録 http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000416220050624025.h...

 審議の入り口から、この共謀罪の危険性と矛盾が露わになりました。7月12日の衆院法務委員会では、共謀罪があてはまる罪が615種にのぼることが政府答弁でわかり、修正要求が相次ぎました。また、同罪の要件に「組織的犯罪集団が関与するもの」という制限をかけられるとしていますが、法案では明文化されていません。これに対し法務省は「一般の市民団体や労働組合、会社には適用されない」と繰り返しましたが、こんなものは「答弁」次第でどうにでもなるものであり、政省令でどうにでもなることは常識です。
※「共謀罪」衆院で実質審議開始 与野党の修正要求相次ぐ(朝日新聞)
http://news.goo.ne.jp/news/asahi/seiji/20050712/K2005071204360.html

 この法案では、実際に行動を起こさなくとも、犯罪行為を話し合っただけで罰せられるという、悪名高き「共謀罪」の導入が目玉となっています。後述しますが、共謀罪は「捜査当局が謀議とみなしさえすれば訴追できる」という大変な代物なのです。

 この間いわゆる「立川テント村」事件、公務員のビラ配り・「国家公務員法違反」事件、「マンション侵入事件」等、およそこれまで逮捕など問題にもなり得なかったビラ配りなどが、住居不法侵入等の名目で警察の弾圧の対象となっています。これらは明らかにイラク反戦、憲法改悪反対の市民運動・政党活動に対する弾圧・嫌がらせに他なりません。小泉政権下で警察・検察はこれらの活動に神経をとがらせ、法律上の無理が相当あっても逮捕をも狙ってきたのです。
 ところが、これらの「事件」にしても、警察に言わせれば自衛隊官舎に不法に侵入した、あるいはビラ配布をした、マンションに立ち入ったといういわば「実行行為」があった上で逮捕にまで至っています。しかし、今こそこそと審議が始まった共謀罪はそんなものではありません。刑法に定められているものに限らず、4年以上の刑が定められている罪に関して、ある団体、組織内で構成員が話し合った、「合意」しあっただけで逮捕できるというとんでもないものなのです。「実行行為」が問題となるのではありません、いわば話し合い、極論すればその人物の考え方、思想、感情まで処罰の対象となるということです。これを「治安立法」といわずして何と言うのでしょう。共謀罪の創設は、警察・検察による市民団体・政党等の正当な活動へのこれまでの弾圧を合法化するのみならず、質的に異なる弾圧手段を彼らに与えることになるのです。


(2)政府・自民党、こそこそ隠れて審議を開始。内容が暴露されれば廃案は確実。
 政府は共謀罪について03年の国会に一旦提出しましたが廃案となりました。04年、今度は共謀罪とサイバー犯罪対策を併せて提案しましたが、内容に疑問が多いとして野党の反発が強く審議入りさえできませんでした。今回は民主党が、共謀罪審議入りの政府・自民党の強硬姿勢に対して断固拒否することができなかったということです。

 共謀罪は継続審議に継ぐ継続審議で、今国会でなんと4会期に及んでいます。これは一方で民主党の法務委員のなかに共謀罪の審議入りは許さないと頑張ってきた議員もいた証拠にはなります。逆に政府・自民党はこれ以上の共謀罪の継続審議は、同罪の廃案に直結しかねないとの危機感から強行突破姿勢に出てきたということを意味します。東京都議選での自民党の「敗北」とはいえない一応の勝利、さらに郵政民営化法案が本当の僅差で衆議院可決されたことは、参議院での同法案の行方、今後の政局運営をどのようなものにしていくのかを、きわめて不透明、不安定なものにしています。
 そのような事態、さらに後半国会の日程からすれば、確かに本法案の可決成立は難しいかもしれません。しかし、ミサイル防衛のための自衛隊法改正案等を含めて、一連の反動化・軍国主義化法案を民主党も巻き込みながら、小泉政権が遮二無二成立させないという保証はどこにもありません。この法案にしても民主党を利用しながら成立させかねないのです。予断は許しません。

 イラクに自衛隊が居座り続け、それをテコとしながら日本の全般的な軍国主義化・反動化が推し進められています。共謀罪制定策動はその有力な一環と見ることができます。それが制定されれば、憲法改悪・教育基本法改悪につながる軍国主義化・反動化に反対するさまざまな反戦運動、市民運動、人民運動を担う組織・団体への予防弾圧、弾圧のためのものとなるのはもはや明白です。
 共謀罪に対しては、最初の法案が提案されて以来、共謀罪に批判的な立場からの弁護士団体や弁護士会の各種声明が発され、さらにさまざまな市民運動、反戦運動の立ち上がりがあります。しかし、まだまだ十分な力になっているとは言えません。私たちも様々な平和と民主主義運動と連帯しながら共謀罪を葬り去る運動を推進したいと思います。

 私たちが警戒するのは、この悪法が、新聞やテレビなど、マスコミでほとんど取り上げられていないことです。マスコミがまともに扱えば、こんな危険な法案は廃案になることは目に見えています。だから政府・自民党はこそこそ審議を始めたのです。とにかく一人でも多くの国民に、この法案の中身を知らせること、暴露することです。危険極まるこの法案の成立を何としても阻止するため、法案の危険性そのものの暴露からもう一度始めたいと思います。



【2】 ありとあらゆる運動を弾圧する全く新しい「治安立法」、その危険性

(1)共謀罪とは何か−−その曖昧さに隠されている凶暴さ
 共謀罪の本質は、共謀することだけで犯罪になるという点にあります。共謀とは何かというと、人と人が話し合う、相談する、意見を交わすという行為です。相談した行為そのものが犯罪にされる、つまり犯罪をしようと会話を交わすこと自体、いや極端に言えば犯罪を口に出すこと、それに「合意」すること自体を犯罪行為にするというのが、共謀罪です。

 現在、国会に提出されている政府案の具体的な中身は次の通りです。(『犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案』中の『組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部改正』第六条の二)
(犯罪の要件)
1 「死刑又は無期若しくは長期十年を越える懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪」、「長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められている罪」について、(これは、合計で約560にもなる。いわゆる犯罪である刑法犯に限らず、商法や消費税法、水道法、道路交通法など、日常生活に直接関係ある法律の違反も対象となっています)
2 団体の活動として、
3 当該行為を実行するための組織により行われるものの
4 遂行を共謀すること
(刑期)
死刑、無期又は長期十年を越える法定刑が定められている犯罪の共謀をした者は、五年以下の懲役又は禁錮
長期四年以上の刑が定められている罪は、二年以下の懲役又は禁錮
(自首)
実行に着手する以前に自首した者は、刑が軽減又は免除される

 話し合った内容、「合意」した内容が犯罪になるかどうかは、実はそれほど明確なものではないのです。そこには、その話し合った内容を解釈することが必要になります。
 つまり、共謀があったのかどうかは、まず警察官や検察官が判断し、最終的には裁判所が判断するのです。逆に言えば、最終的に裁判所が、共謀罪が成立すると判断するまでははっきりしないのです。そういった意味で、一体どのような場合に共謀罪が成立するか否かというのは、非常に不明確です。


(2)労働組合運動、反戦平和運動、反公害運動、民主主義運動への弾圧は共謀罪の最大の狙い目
−−Aさんが同僚のBさんに、横暴な上司を殴ってやろうと持ちかけ、これにBさんも合意したとします。2人とも共通の団体に所属しているので、AさんとBさんには、この段階で傷害の共謀罪が成立します。−−なんだ、個人同士のけんかか、とバカに出来ません。何故なら個人同士の争い事が真の対象ではないからです。形を変えれば、団体交渉を控えた労組活動の話の中で組合員同士の冗談が、これに該当しないとは言えないからです。
 労働組合に適用される可能性のある条項としては、例えば、組織的強要、組織的逮捕・監禁の共謀罪の規定があります。「社長の譲歩が得られるまで、徹夜も辞さない手厳しい団交をやる」と決めたとしたら、組織的強要の共謀罪になりかねないのです。

−−市民団体に適用される可能性のある対象犯罪は、例えばテロ資金供与罪の共謀です。イスラエル軍の爆撃で破壊されたパレスチナの病院の復興資金を集めるといった活動も、政府機関に背後にテロ組織が関与しているなどと決めつけられて、お金を集め始めただけでテロ資金供与罪の共謀罪に問われる可能性だってあるのです。

−−こうして見ていくと、相談しただけで処罰できるのですから、公害被害者団体や支援する会などでも企業に対する抗議行動を計画すれば「組織的な威力業務妨害罪」とされるおそれがあります。国際的な組織犯罪集団の取り締まりといいながら、今回提出されている「共謀罪」は、これと全く関係のない多くの犯罪、労働組合・市民団体など広範で無際限な集団を取り締まりの対象とできるものになっているのです。
※ どんなことが共謀罪の対象になるかについては、以下を参照のこと。
パンフレット『<<冗談も言えない「共謀罪」入門 話し合うことが罪になる!って知ってますか?』(編集・発行 フォーラム平和・人権・環境 盗聴法(組対法)に反対する市民連絡会 2004年10月)p.4、5等
 「共謀罪―5つの質問―」(自由法曹団警察問題委員会 2003年12月)


(3)単なる「共謀」だけで犯罪の成立を認める――刑法の人権保障的機能を失わせる――刑法の根幹にかかわる大改悪を特別法の改正でやる姑息さ
 これまで近代的な刑法の考え方では、犯罪というのは法律が保護しようとする利益(法益)が侵害されたという結果が発生してはじめてそれを処罰することができるというのが原則でした。確かに時代と共に、重大な法益を侵害するおそれがある場合には、結果が発生していない未遂犯も処罰することになってきてはいます。しかしそれでも重大な法益を侵害する犯罪について、何らかの具体的な行為(実行行為)が行われ、たまたま結果が発生しなかった場合に、その未遂についても処罰することにしています。さらに、きわめて重大な法益を侵害する犯罪については、未遂でもない「予備行為」という準備行為を処罰することにしています。ただし、予備行為を処罰するのはあくまで例外であり、法益侵害という結果を発生させた行為を処罰するというのが刑法の原則です。

 こうした観点から見ると、たんに共謀しただけで犯罪として処罰しようとする共謀罪というのは、予備行為よりもはるかに手前の段階で処罰しようとするものであり、現在の刑法の考え方から見てもきわめて異例、それどころか刑法の考え方を根本的にくつがえすものであるとさえいうことができます。ここに、共謀罪の本質があるのです。

 さらにいえば、近代的な刑法の考え方の中には、「責任がなければ刑罰はない」という責任主義があります。現在では行為者に責任能力や故意・過失がある場合で、行為者の行った個人的行為についてのみ責任を認めることができると考えられています。ところが共謀罪は、いわば団体責任を認めようとするものであるとともに、客観的な行為がなくても、たんに「共謀」のみがあれば、共謀に加わった者が誰一人として実行行為に着手しなくても、犯罪が成立するとして処罰しようとするのです。

 わが国で判例実務上認められている「共謀共同正犯」の理論(たんに共謀しただけの者についても犯罪の実行をした者と同じ刑事責任を認める考え方)ですら、共犯者の誰かが実行行為に着手することをその要件としていました。それでも学説からは強い批判にさらされていたのです。ところが、この共謀罪は、そのような要件すらはずして、単に「共謀」さえあればそれだけで犯罪が成立するというのです。

 ちなみに共謀罪の原型であるアメリカの共謀(コンスピィラシー)についても、大部分の州では、「何らかの外的な行為」(顕示行為、合意成立後の打ち合わせ、電話での連絡、犯行手段や逃走手段の準備等の行為)があることを要件としているといわれます。しかし、現在提案されている政府案による共謀罪はそのような行為すら要求されていません。

 与党では、政府案に対して、共謀した者の一人が準備のためにする行為を行った場合に処罰できるとする修正案を検討していると伝えられています。また民主党内には、与党側に大幅修正を求める意見と、あくまで廃棄を求める意見の二つがあり、今後の国会審議は民主党の対応が焦点になるといわれています。

 与野党が修正協議に入る場合、
▽ 共謀罪が成立するには、単に共謀するだけでなく、犯罪を推進するための何らかの「準備行為」を必要とする
▽ 共謀罪の対象となる「団体の活動」を明確にし、市民団体や労働組合などへの不当な適用を防止する
▽ 適用対象を国際的な犯罪に限る
 等々が論点になると伝えられ、今後の国会審議において政府案に対する修正が行われる可能性がないとはいえませんが、共謀罪の本質や危険性はそのような修正をしたところで何ら変わるものではありません。

 いずれにしても共謀罪は、日本国憲法に基づく現在の刑法の人権保障的機能を失わせ、国連条約の国内法化に名をかりた特別法の形で、刑法の根幹にかかわる大改悪をなすものであることに間違いはありません。これこそ小泉政権のやり方です。戦争放棄、武力不行使の九条を持つ憲法を有事法制で骨抜きにするといったように。これほど姑息なやり方はありません。


(4)国連条約の国内法化は単なる口実
 共謀罪は、国連「越境的組織犯罪防止条約」5条を国内法化するための規定とされています。同条約3条は、条約の適用範囲として、「性質上越境的であり、かつ、組織的な犯罪集団が関与するもの」と規定しています。言うまでもなく、ここでいう「越境性」とは、国境を越えるような犯罪であることであり、「組織性」とは犯罪組織であるということです。
 ところが、共謀罪については、上記の「性質上越境的なもの」との要件は全く規定されておらず、すべての純粋な国内犯罪に適用可能な一般的規定となっています。
 また、共謀罪の構成要件は、「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者」とされていますが、条約で規定されている「金銭的、物質的な利益を得る目的」「重大犯罪や条約に規定された犯罪を行うことを目的として、協力して行動する」ものであるという限定が全くありません。
 共謀罪の要件が上のような限定もなく、「団体性」と「組織性」であるため、政治的・宗教的目的行為などが規制対象から除外されず、共謀罪の適用範囲は団体性のある共犯事件のすべてに拡大してしまいます。

 したがって共謀罪は、国連「越境的組織犯罪防止条約」が要求する範囲を完全に逸脱し、極めて広い範囲の処罰を可能とします。日本国内で広範な共謀罪処罰を必要とする立法事実がないことは、日本政府でさえ認めていたのです。
※ 例えば、日本政府は、この条約審議の際、日本の法体系から見て、共謀罪の成立は不可能と考え、そのような意見を表明していました。審議の際、日本政府が提出した書類にはこうあります。
 (前略)このように、すべての重大犯罪の共謀と準備の行為を犯罪化することは我々の法原則と両立しない。さらに、我々の法制度は具体的な犯罪への関与と無関係に、一定の犯罪集団への参加そのものを犯罪化する如何なる規定も持っていない。
※ なお、国連「越境的組織犯罪防止条約」は、http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty156_7/html



【3】共謀罪が生み出す恐ろしい近未来社会−−「監視社会」と「弾圧社会」。軍国主義化・反動化と一対のもの

(1) 捜査のあり方が一変。日常化するスパイ・おとり・盗聴行為
 立法事実もないこの国で、それでは今なぜ共謀罪が必要なのか。それは、共謀罪が実現したあかつきの社会を想像してみることから逆に推し量ることができます。

 共謀罪に関する政府案には、「実行に着手する前に自首した者は、その刑を軽減し、又は免除する」との但し書きがあります。共謀罪が新設されて運用されるようになると、その共謀に参加したと称する組織の元メンバーが共謀の事実を証言するとともに、その者については、刑が軽減又は免除されるという方向で運用されるということです。覚せい剤取締法違反事件においては、最近では捜査官が自らおとり捜査を行って売人を検挙するといった捜査が行われています。このようなことを考え合わせると、共謀罪について、いずれ捜査官自らがスパイとして組織に入り込んで潜入捜査を行い、捜査官自らが共謀の事実を証言する時代が来るということです。
 何のことはない、共謀罪が成立するということは、組織犯罪について、刑事免責する規定が新設されるということです。その結果、市民全員がスパイとなって、警察に犯罪を積極的に申告しなければならない、あるいは申告する社会が来ないと誰がいえるでしょう。

 また、共謀罪に対する捜査では、犯罪の捜査のあり方が一変します。何しろ共謀罪は「被害」のない犯罪ですから、犯罪場面からさかのぼって犯人を特定するといった従来の捜査方法では到底対応できません。結局まだ何の犯罪も犯していない人々を日常的に監視しなければならないことになります。
 「合意」が犯罪となるわけですから、人々の会話や電話・メールの内容そのものが犯罪となり、その録音・データが証拠となります。ということは、日常的な会話やメールそのものの内容の監視が共謀罪取り締まりの主要な部分になるということです。
 盗聴法が改悪されることは明白です。今の所、盗聴法では四つの重大犯罪だけを対象とし、盗聴できるのも通信(電話・FAX・メール)に限られています。しかし、適用範囲が拡大され、通信のみならず、室内会話の盗聴も可能なように法律が変えられていくことはもはや自明です。


(2)階級・階層格差社会、民族差別社会の下での弾圧体制整備強化のテコに
 それにしても、スパイ、おとり、盗聴が横行する社会とはどんな社会でしょう。何のことはない。それは「対テロ戦争」と称して日常的に世界のどこかで戦争を行い、国内では「対テロ対策」と称して市民に対する人権保障もあらばこそ、監視社会・管理社会化を強めている米欧社会そのものです。
 そして日本社会自身も小泉政権下で急速にそうしたものになっていることに私たち自身がどれだけ自覚的でいるでしょうか。9/11以降、米と同じ行動原理・発想に立ってのテロ特措法の制定とインド洋への自衛艦派遣、そしてイラク戦争が始まるや、即座の支持とイラク特措法の制定にサマワへの陸自派兵と居座り、多国籍軍への参加。国内では有事法制定、国民保護法制定に米と一体となって中国・北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を敵視し、世界中どこへでも米軍に従うという新「防衛大綱」の策定。日本は、米と同じように日常的に戦争する国へと軍国主義化を進めています。

 一方、グローバル企業最優先の構造改革路線で階級・階層間格差はとてつもなく広がりつつあります。階級・階層間格差の広がりは「負け組」の不満を確実に広げます。
 戦争と差別が当たり前の社会では、支配層は被支配層に対して管理と監視の目を一層強めなければなりません。反体制的な反支配層的な動きを芽のうちに必ず摘み取ろうとします。まさにその一つの手段として共謀罪は用意されたのではないでしょうか。共謀罪は日本の軍国主義化・反動化攻撃のまさに一環であり、一構成要素なのです。

 実行行為なしに言っただけで、あるいは考えただけで罪に問える共謀罪。これは警察当局が個々人の思想の処罰にまで踏み込む・踏み込めるということです。当然これは人民の連帯や団結を阻害するし、それは当局の狙いでもあります。組織や団体へのスパイ潜入、その挑発を容易にする、盗聴法の枠が拡大する、社会全体を警察の意のままにさせるということです。結局557もの罪を大量に新設するのと同じことといえます。
 のみならず、具体的行為がいらない以上、その立証はきわめてあいまい、従って予防的な弾圧が可能となります。弾圧の対象は選別的となり、反戦運動や戦闘的組合、消費者運動等時の権力、時の体制に手向かう組織に向かうのは必然です。
はては治安維持法がそうであったように、俳句・川柳結社にまで向かいかねないこととなります。しかも共謀罪には、かつての治安維持法のような「国体護持」「私有財産制度の保全」といった目的規定がまったくありません。何にでも使える、広範にしかも警察の裁量次第で。共謀罪は警察にとってまことに使い勝手の良い弾圧法規なのです。



【4】盗聴法改悪も狙いの一つ――警察が任意に日本中のコンピューターを監視下におくことが可能に

 共謀罪新設をその一つの柱とする法務省提案の「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」には、別の狙いも含まれています。そのうちの二つを簡単に問題とします。

(1)インターネットの「通信履歴の開示」−−盗聴法を更に改悪する暴挙
 一つは、「情報処理の高度化への対処」という名目に関わるものです。法案は、ここで(1)通信履歴の保全要請の新設、(2)不正指令電磁的記録作成・取得罪の新設、(3)ネットワークを介したデータ差し押さえの許可という三つを柱としています。「サイバー犯罪に関する条約」(2004年4月国会承認)に基づく国内法整備という名目です。
 中でも(1)について、多くの法律家がその危険性を指摘しています。
 これは、プロバイダーなどのサーバーに保存されている利用者の通信履歴について、警察などの捜査機関が、その管理者などに90日間、消去せずに保存するよう求めることができるというものです。この「通信履歴」には、メールの送信元・送信先・通信日時、利用者の接続履歴(「ログ」)も含まれる高度にプライベートなものです。この要請に何と裁判所の令状はおろか、書面での通知もいらず、極端な話、電話一本で行えるというのです。また要請に当たっての条件は一切なく、理由は必要ありません。さらにプロバイダーのみならず、一般企業や大学等、個人所有のサーバーも含まれますから、文字通り任意に警察が日本中のコンピューターを監視下に置くことができるのです。

 そもそも保全要請とは通信履歴を開示させるために行われるものです。これまでの判例などからすると、憲法21条が保障する「通信の秘密」には、通信内容そのものだけではなく、通信履歴も含まれるとされています。だからこそ盗聴法では、通信履歴も含む通信の秘密を開示させるゆえに、裁判所の令状を必要としました。しかし、一方の保全要請が、結果的に同じ効力を持つのに令状が不要なのは、盗聴法と比較してさえ著しく不合理です。結局、司法のチェックなしに通信履歴を開示させる仕組みというわけで、これは盗聴法の改悪といっても良いところです。


(2)「証人等買収罪」による弁護士活動への挑戦
 今一つは、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」を一部改正して加えようとしている「証人等買収」に関する罪です。
 国連「越境的組織犯罪防止条約」は、買収行為を処罰しようとしているのではなく、いわば権力の側が司法を妨害することを犯罪化しようとしています。「虚偽の証言をさせたり、証拠の提出や証言を妨害するために暴行し・威嚇し・脅迫しまたは不当な利益を約束し、申し出または供与する事」です。単なる買収とは意味が違います。
 ところが、政府提案の法案では、従来弁護人のいわば常識であった行為が摘発されるおそれが出てくるのです。例えば冤罪支援のために弁護人は証人の証言を厳しくチェックすることが責務となります。その際証人との打ち合わせが、証人の自宅を避けて喫茶店や飲食店でなされたり、その飲食の費用を弁護人が払うというのはいわば社会的常識のうちです。これが証人買収罪として摘発されかねないのです。
 国際条約と意味を異にした証人買収罪という国内法を作るなどというのは、「国家犯罪」とまで言えるのではないでしょうか。

2005年7月20日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局





*「共謀罪」の内容については、「盗聴法に反対する市民連絡会」の次の声明と記事を参照してください。

「共謀罪新設法案の廃案を求める市民団体共同声明」
http://tochoho.jca.apc.org/ut/kssss.html#honbun

「共謀罪とは何か? どうして反対するのか」
http://tochoho.jca.apc.org/nkyz.html

 (「盗聴法に反対する市民連絡会」のURL:http://tochoho.jca.apc.org/