シリーズ:自衛隊派兵のウソと危険
シリーズ3: 自衛隊の「給水活動」のウソ・ごまかしA
民間NGOと比べ貧弱極まりない自衛隊の「浄水・給水活動」
真の主権国家なくしてインフラ基盤の復興なし。インフラ基盤の復興なくして浄水・給水システムの復興なし。


1.侵略者はいつも美辞麗句でカモフラージュする−−「浄水・給水活動」「人道復興支援」という名の新しい“侵略の論理”
 侵略者はいつの時代も「これから侵略行為を行う」とは言わない。いつもその真の狙いを隠しごまかす。戦前・戦中の天皇制日本軍国主義の露骨な侵略戦争でさえ、時の政府や軍閥は一度も「我々は侵略する」とは言わなかった。自国民を助ける(居留民保護)、アジアの民衆を米英の植民地支配から解放する(大東亜共栄圏、八紘一宇)等々、いつも侵略行為を隠す歯が浮くような大げさなスローガンが持ち出された。
 今回の自衛隊のイラク派兵でもそうだ。「人道復興支援」、中でも「浄水・給水活動」、あるいは「国際貢献」−−これは21世紀の日本軍国主義の新しい“侵略の論理”である。騙されたでは済まない。一度ならず、二度までも。過去にアジアにおいて重大な侵略行為を犯した私たち日本人は、二度と侵略者のデマゴギーに絶対騙されてはならない。騙されてはならない責務がある。軍国主義の論理、侵略の論理を見抜かねばならない。

 シリーズ前回は、<自衛隊の「給水活動」のウソ・ごまかし@>として、「浄水・給水活動」が持ち出された当初、その目的は米軍給水支援であり、市民への給水支援は眼中になかったこと、その後世論の反発が強まったため本当の狙いをカモフラージュするためにサマワ市民への給水支援に方針転換したこと、しかしこのようにコロコロ変わる方針の中で一貫しているのが自衛隊派兵という基本目的に他ならないことを批判した。

 今回は、憲法を踏みにじり国論を二分してまで強行した自衛隊の大げさな「浄水・給水活動」の中身そのものが、カモフラージュにもならないくらいお粗末なものでしかないこと、サマワ市民を単に派兵のために政治利用したに過ぎないこと、しかし利用したそのツケが過剰期待の破綻となって早くも回って来ようとしていることを明らかにしたい。

 皆さんは昨年のことなど覚えておられないかと思うが、派兵を正当化するために、政府与党は、とんでもない大ウソを付いたのである。話をそこから始めることにしよう。


2.大ボラを吹いて派兵を決定−−当初政府与党が豪語した浄水・給水活動は8000d/日、実際は70〜80d/日。何と1/100にまで縮小。
 派兵のためならウソでも、はったりでも付く。それが小泉政権の本質である。昨年6月頃、派兵問題が国会で審議されていたとき自民党議員と防衛長官は何と言ったか。「自衛隊の能力は1日8000dある、そしてこれを現地展開できる。」そう国会で言い切ったのである。ところが現在イラクで活動する自衛隊にはどれほどの給水能力があるのか。1日70〜80d。何と1/100にまでトーンダウンしたのである!!
 あれほどまで、「目の前にいる困っている人を見捨てるのか」「人道復興支援を批判するとは何事か」と豪語したのではなかったか。なぜそこまで規模を縮小するのか。決して私たちは自衛隊の活動をもっと拡大しろと言っているのではない。日本の、自衛隊の「人道復興支援」の真意を疑っているのである。

 実際の審議を振り返ってみよう。昨年の「イラク復興特別委員会」で、石破長官に質問したのは自民党の岩屋委員。浄水・給水支援への積極的な言質、従って自衛隊派兵の結論を引き出そうとする意図がありありと漂っている。
※「イラク人道復興支援並びに国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動等に関する特別委員会」2003年6月27日参照。:http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kaigiroku.htm

○岩屋委員  ・・・我々の調査で、さっき申し上げましたように現地で強い期待が示された、水の浄化能力ですね。自衛隊の水の浄化能力というのは現実にはいかほどのものか、それはどの程度現地で展開できそうか。
○石破国務大臣 お答えいたします。
 浄水能力でございますが、大型トラック車載型の二種類の浄水セットを、合わせまして五十一台持っております。当然、水源があることが前提でございますが、一日当たり約百五十トンの浄化能力を持ちます古いタイプのセットを三十六台、一日当たり七十トンの新しいタイプのものを十五台保有いたしております。
   (中略)
○岩屋委員 わかりました。調査に同行していただいた防衛庁の方からは、ざっとの話ですが、一日八千トンぐらいは水を浄化して配給できるんではないかというふうに聞きました。八千トンというのはかなりの量だなと思ったんでありますが、今の長官の御説明を聞いて、この浄化のための機械というのはかなりの部分、現地に持っていける、国内にそうたくさん残しておく必要もないということだろうかなと思いますので、かなりの水の浄化能力を自衛隊は有し、実際に現地で展開できるというふうに理解をさせていただきたいと思います。

 このように昨年の国会での議論では、自衛隊の高い給水能力が自慢げに語られていた。本当にイラクの人々が安全な水に困っているというのであるならば、なぜ日本は出し惜しみをするのか。「一日当たりでも70トンの給水によって、サマワの市民2万人を救える。これはすごいことだ」と、尻すぼみの援助を覆い隠す見解が堂々とまかり通っている。

 真偽のほどは分からない。元々イラク特措法を通すために、大風呂敷を広げただけなのかも知れない。あるいは最初は51台の給水車を走り回らせることを考えていたが、治安が悪化したため、「陣地」(宿営地)に閉じこもる滑稽な計画になってしまい、必要なくなったのかも知れない。いずれにしても子供だましのようなおざなりの「浄水・給水活動」になったのである。“能力面”だけから言っても自衛隊派兵は全く不必要だということ。今すぐ撤兵すべきである。結局のところ、派兵が目的なのであって、浄水・給水支援は、後から加えられた屁理屈に過ぎないのだ。


3.「自衛隊(軍隊)でしかできない」なんてウソ。フランス民間NGOの600倍以上の国民の税金を浪費して、5分の1の浄水・給水能力しかない自衛隊。派兵が目的であることは明白。
 「人道復興支援」「浄水・給水支援」など日本政府が、「まず派兵ありき」で強行してきたイラク派兵の論理が早くも破綻し始めた。「自己完結型の自衛隊でないと出来ない」「危ないからこそ自衛隊が出来る」等々、派兵論者が無責任に豪語したのはつい先日のこと。しかしウソはすぐにバレるものである。サマワでの浄水・給水支援活動が自衛隊(軍隊)でしかできないなんてウソ・デタラメであることがバレた。

 政府・自衛隊には“不運”なのだが、実は自衛隊と同じ様な浄水・給水活動を、フランスの民間NGOがすでにサマワで1998年からやってきていたのだ。しかも民間の一NGOが世界第二位の経済大国の国軍(自衛隊)を大幅に上回る能力を、大幅に下回る費用でやっているのだ。当然、自衛隊の浄水・給水活動とそのフランスNGOの浄水・給水活動との比較が問題になる。結論から言えば、自衛隊はこの一つの民間NGOに比べて、何百倍もの膨大な費用を掛けながら何分の一の支援しかできないのである。もっと頑張れと言いたいのではない。この数字一つを取って見ても、浄水・給水が口実であることが明々白々である、と言いたいのである。

 最近、日本のNGOである日本国際ボランティアセンター(JVC)が、サマワで給水活動に当たるこのフランスのNGO「ACTED」と意見交換を行い、2月22日にイラクから帰国し記者会見を行った。NGOは自衛隊は「非効率だ」「人道支援の中立性ができなくなる」「自衛隊は人道支援とは別の目的で来ているという印象を受ける」などと批判した。このフランスのNGOによれば、彼らは年間6000〜6400万円で10万人を対象に浄水・給水活動を行っている。これに対して自衛隊は2万人が対象。しかも377億円もの巨額の税金を投入する。要するにフランスNGOの600倍ものお金を使って、5分の1しかまかなえないというのだ。
※ACTED (L'Agence d'Aide a la Cooperation Technique et au Developpement) のサイト。http://www.acted.org/english でiraq あるいはMuthannaで検索すれば幾つかのプロジェクトが出てくる。詳しい数字や報告はないが、浄水・給水で20万人を対象とする目標を持っていることなどが分かる。
※「給水支援は民間で JVC代表理事 現地NGOの声紹介」朝日新聞2004年2月23日
http://www.mypress.jp/v2_writers/talkingdrum/
※「2004.02.27自衛隊でなければ」http://eunheui.cocolog-nifty.com/
※2月になって外務省はサマワ市に対して給水車12台分の購入費用として8500万円を無償提供するという。「(給水車両略奪、破損を理由とした)州当局からの要請」に応えるための援助らしいが、フランスのNGOの10万人分の活動を超えるお金をばらまくことでごまかそうとしているのである。日本が得意とする“札束攻勢”だ。
※「イラク派遣:陸自本隊と海自に派遣命令 本格活動開始へ」毎日新聞2004年1月27日。 
http://www.mainichi.co.jp/news/selection/archive/200401/27/20040127k0000m010067003c.html
※「サマワの給水量は足りるのか?」 http://kitaichi.way-nifty.com/nanda/2004/01/post_12.html

 自衛隊の「浄水・給水活動」は4月から始めるとのこと。今は何もやっていないからいいものの、自衛隊が活動を始めれば今後このフランスNGOの活動を邪魔することは目に見えている。(あるいは、わざわざ日本軍陣地へ行く住民などほとんどおらず、逆に何の役にも立たないかも知れない)
 しかしはっきりしているのは、米英軍支援・占領支配支援で自衛隊がサマワに陣取ることによって、サマワの治安が悪化し、日本のNGOはおろか、このフランスのNGOの活動にも支障が出てくる可能性が高まるということである。

 ここまでは、“給水車による浄水・給水支援”一つをとってみても、自衛隊のそれがフランスのNGOとは比較にならないほど「非効率」であることを示した。
 次は、“上下水道の整備・復旧”と“給水車による単発的な給水”との意図的なすり替えについて考えよう。日本政府・自衛隊は、この紛らわしい混同を利用して、日本の不勉強で無知なメディア(あるいは翼賛報道に取り込まれたメディア)を取り込んで、日本国内の世論を騙そうとしているのである。


4.給水車ではなく浄水・給水システム=社会資本の整備・復旧こそが求められている。−−しかしこれは自衛隊では不可能なこと。
 最近の東京新聞にこんな報道があった。サマワ南方のヒドルであるレストラン経営者が自衛隊員に苦情を述べた。「水道が出るのは一日一時間だけ。ほとんど川の水を飲んでいる」と。ところがこれをテレビ朝日はどう伝えたか。「陸上自衛隊派遣部隊のトップ、番匠幸一郎指揮官は、活動を行っているムサンナ州内でも開発が遅れているとされる南部のヒドル市を訪れました。この地域では、特に給水や排水事情が悪く、伝染病を引き起こしていることなどから、日本の援助に対する住民たちの期待が高まっています。」テレビがよくもこんな嘘っぱちを平気で言えるものである。
 自衛隊への「期待」を語ることで自衛隊を美化し、世論を誘導しようとしているとしか思えない。知りながら報道しているのか。知らずに垂れ流しているのか。まさにすり替えの典型的な実例である。

 ここで出されている苦情を解決するには、浄水場の整備・復旧が必要なのであり、自衛隊がやろうとしている給水車による単発的な給水活動では解決できないものである。3月1日付の朝日新聞夕刊によれば、「サマワでは、陸自が計画する給水などの活動の他にも、上下水道などの社会資本の整備を求める声も強いが、どう思うか」という記者の質問に答えて番匠氏はこう答えている。「中長期的には自衛隊がやることがすべてではない。政府、国際社会がこの仕事に取り組んでいくと思う。自衛隊はその先兵。」彼自身がこのレストランの苦情には「答えられない」「やりません」とはっきり述べているのだ。
※「『泥水飲んでる 何とかして』群衆、隊長に迫る サマワ南部」東京新聞2004/03/02
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kok/20040302/mng_____kok_____001.shtml
http://www.mypress.jp/v2_writers/talkingdrum/story/?story_id=316577
※「番匠指揮官がムサンナ州南部視察 水問題で要請も」テレビ朝日
http://www.tv-asahi.co.jp/ann/special/iraq/contents/200/0171/news/index.html

 このすり替えは、すでに昨年から、現地を訪問したジャーナリストたちによって、“現地の給水ニーズ”と“自衛隊の浄水・給水活動”とのミスマッチ問題として暴露されてきたことだ。フォト・ジャーナリスト豊田直巳氏のサマワ現地の報告では、この事情について、次のように語っている。
「自衛隊の主な任務とされている浄水や水の配給にしても、立派な浄水場はすでにある。上水道が設置されていない農村部では、ムサンナ州政府と協力してフランスのNGO(非政府組織)が給水活動を本格的に行っている。
 (昨年)7月から給水プロジェクトを始めたというNGO「ACTED」(技術と共同開発事務所)の英国人調整員によれば、州政府のタンク車だけでは足りない地域のために、民間の給水業者のタンク車50台を雇い入れ、約100の村々をそれぞれ週に二、三回巡回させて、住民に浄化された水を配っている。」

 すでにそれなりの浄水場、給水システムを持つサマワにおける水問題の根本問題とは、「慢性的な電力不足による停電、浄水場の自家発電装置の老朽化が主な原因」(豊田氏)なのである。しかし自衛隊には、新たな発電所の建設、配電網の整備、老朽化した給水システムの再建を実行する能力、意志、計画は全くない。
※『週間金曜日』12/19「イラク・サマワ最新ルポ 自衛隊はいらない」豊田直巳


5.自衛隊「人道復興支援」の化けの皮がはがれる−−サマワ現地住民の膨らむ過大要求「雇用創出=産業復興」を前に早くも破綻。
 自衛隊の「人道復興支援」−−この壮大なごまかしと虚構はどこまで通用するのであろうか。サマワ現地の住民の不満は堪忍袋の緒が切れるところまで、ギリギリのところまで来ている。「なぜ、もっと早く我々を救ってくれないのだ」「自衛隊はいつ活動を始めるのか」等々。
※「サマワ先遣隊滞在1ヶ月 『支援いつ』 漏れる嘆息」「市民『もっと早く仕事を』」(日経新聞2004/02/26)
※「政府のイラク復興策 現地調査なし・・・隣国に拠点」(読売新聞2004/01/15)。ここには政府はイラク国内に職員を派遣できず、隣国のヨルダンに調査活動の拠点を置いている。しかし中長期的な支援計画ができないことを吐露している。

 一方、「自衛隊とはどんな会社?」「日本人が古い町を壊し、代わりに高層ビル群を建ててくれる。日本企業もどんどん進出して仕事ができるはず。」住民は自衛隊をゼネコンと勘違いしている。−−こんな笑えない話がサマワ中に広がっている。
 このツケは必ず回ってくる。全責任は小泉政権と自衛隊幹部にある。自衛隊幹部が今さかんに現地で、まるでご用聞きのように有力者のところを回っている。政府・自衛隊の方は時間稼ぎのつもりだろうが、その間、どんどん期待が膨れ上がるのは当然だ。さんざん期待を抱かせ、思いっ切り煽っておいて、結局は何もできない、となれば暴動が起こってもおかしくはない。給水班はわずか30人、給水能力もごくわずか。医療支援は「ただ会議に参加するだけ」、建設も簡単な修復だけで舗装もできない。等々。
※「地元住民が“誤解” サマワの自衛隊 過大な期待に戸惑い」(東京新聞2004/02/21)ここでも、陸自の幹部隊員は言う。「給水車は現地の水問題の根本的な解決にはならず、最終的には水道の整備が必要。それは中長期の課題だが、自衛隊に出来るのは短期の取り組みだけ。」

 地元の人々が求める途方もなく巨大で広範囲なニーズは、とても自衛隊で対応できるものではない。浄水設備と給水システムの回復、排水網の整備、そして破壊された病院、学校の再建等々、公的部門・インフラ全体の復興・再建なのである。
 とりわけサマワ現地のニーズは雇用である。雇用はどうして作られるか。まずは地方都市サマワで自治体の公的部門が復興されなければならない。民間部門は産業である。産業が復興されなければならない。自衛隊にこれができるのか?絶対にできない。日本政府ができるのか。できない。

 小泉政権は国内政策でも、これまで全てが行き当たりばったり、その場その場で思い付きでやってきた。これを今回の自衛隊派兵でもやったのである。ようやく各マスコミも、現地の超過大な要望について報道し始め、自衛隊の支援能力と現地ニーズの「完全なミスマッチ」を問題視し始めた。国内世論に逆らい憲法を踏みにじってまで自衛隊を戦地イラクに送り込むための“方便”“口実”として「人道復興支援」を語ってきたツケが払わされる段階に入っているのである。
※「『過大』要望 陸自戸惑い」読売新聞2月18日
※「イラクの派遣候補地、日本に民生中心で15項目要望」朝日新聞2003年11月6日
http://www2.asahi.com/special/iraqrecovery/TKY200311050409.html
  “サマワ市評議会の日本政府調査団への要望書の主な内容(原文はアラビア語)”の要約
  (1)浄水設備と給水システムの修理・建設
  (2)排水網の整備
  (3)市中心部の小学校10校の再建・修理を最優先に、郊外の15校の再建・修理
  (4)小学校、特に郊外の学校に給食施設の整備
  以下 医療設備への支援、福祉医師設の再建、等


6.自衛隊では「人道復興支援」は不可能。主権国家の再建、崩壊したインフラ基盤全体の計画的な復興・再建が不可欠の前提。
 政府与党や派兵支持派は、あたかも全てを知っているかのように偉そうに大声で叫んできた。「自衛隊でなければ人道復興支援はできない。」「自己完結型の自衛隊だからこそ浄水・給水支援ができる。」と。−−しかしこれはウソ、デマゴギーであった。

 これまで暴いてきたように、浄水・給水活動一つを取ってみても、自衛隊の「人道復興支援」は欺瞞と虚構に満ちたものである。「浄水・給水支援」を、単に給水車で水を配りゃ良いという程度の軽い認識しかないことにも表れている。それは日本国内での地震対策の経験をそのまま当てはめたのであろうか。
 しかし国家が厳然と存在し、インフラ基盤もしっかりしている日本とイラクでは、対応・対策が根本的に異なるのだ。国内地震対策など全く役に立たない。まずイラク国民全体が信頼する国家権力が存在しない。更にイラク全土が長年の国連経済制裁と空爆、今回の米英のイラク侵略で崩壊し、産業もインフラも、基盤そのものから破壊し尽くされてしまった。この破壊には日本政府も加担した。

 結論から言えば、「給水」を復興するには、電力の復旧や浄水場のポンプや設備の修理が必要、そして電力を復旧するには、その修理と部品交換が必要、失業し殺されバラバラに散ってしまった技術者や専門家の雇用が必要・・・・等々という風に、インフラ基盤を全面的に復興・再建する必要があるのだ。当たり前のことなのだが、給水とはインフラ基盤の一部に過ぎず、給水システムの復興・再建には、インフラ全般の復興・再建を並行して進められなければ達成できないのである。そしてインフラ基盤復興のカギは何か。それはイラクに、CPA(占領軍暫定当局)のような侵略者の軍事政権でも、現在の統治評議会のような傀儡政権でもなく、イラク民衆の真の主権国家が樹立されることなのである。

 要するに、こう言えるだろう。「真の主権国家樹立なくしてインフラ基盤の復興なし。インフラ基盤の復興なくして給水システムの復興なし。」と。

 今頃になって、サマワの惨状にびっくりしてどうするのだ。現地に行った自衛隊指揮官は右往左往しているという。サマワ現地の状況は凄まじく荒廃しており、とても自衛隊の支援では手に負えない。現地を視察して回る自衛隊幹部達がそう実感し始めた様子が報道されている。読売新聞の記事「病院改修から下水道整備まで」(2月18日付)よれば、先遣隊としてサマワに派遣された佐藤隊長がサマワから少し離れたヒデル市を訪問した様子が紹介されている。

 「『見慣れたサマワの雰囲気とは全く違う』。・・・・・ヒデル市を訪ねた佐藤隊長は、劣悪な生活環境に言葉を失った。・・・・・街の中央を流れるユーフラテス川にかかる鉄橋は、湾岸戦争(1991年)の空爆で破壊されたまま。中心部の住宅地は、家々から流された汚水が水たまりを作り、強烈な異臭を放つ。先月末にはコレラが発生、数十人が感染した。・・・・・」。

 この記事の意図としては、イラク派兵を正当化しようとするものなのだが、しかし今さら現地の想像を絶する悲惨を知って驚く方に大いに疑問を感じる。湾岸戦争、イラク戦争と、さんざんイラクの国土を爆撃し破壊した米英軍に、日本は支援協力したのではなかったのか。ヒデルだけではない。サマワそのものについても、ほとんどの産業は崩壊し、街には失業者が溢れている。失業率は70%と言われている。−−途方に暮れるがいい。しかしイラクをここまで荒廃させてきたのは、何もサダム・フセインだけではない。米英とこれに追随してきた日本もまたこの取り返しの付かない荒廃の加害者なのである。

2004年3月2日