「戦争の大義」、派兵の前提は崩れた!
−ケイ証言を否定するなら、小泉首相はイラク大量破壊兵器の“決定的証拠”を見せよ−


T.「戦争の大義」は崩れた。再び大量破壊兵器問題が政治争点に浮上。

(1)再び窮地に陥るブッシュとブレア。責任回避を許してはならない。
 昨年末、“フセイン拘束”でブッシュ政権は巻き返しに成功したかに見えた。リビアが大量破壊兵器開発計画放棄を決定すると表明したことで、ブッシュの「力の外交」に弾みが付いたかに見えた。しかしこの「逆流」も、再び行き詰まりを迎えつつある。
※「“フセイン拘束”後の反戦運動の課題」(署名事務局)参照。


(Fox News via AP)
 イラク戦争で大量破壊兵器(以下WMD)の脅威をでっち上げた米英政府が、再び窮地に陥り始めた。特に米でWMD捜索チームを指揮したデビッド・ケイ団長がチームの一部を帰国させた上で辞任し「WMDはない」と爆弾証言を行ったのである。この事実は、ブッシュとブレアにこれまでにない衝撃を与えた。以来、メディアはこれを大きく取り上げ、両政権を揺さぶっている。
 2月1日のニュースでは、米政府が、民主党や議会が要求していた独立の調査委員会の設置を認めるとの報道が流れた。秋の大統領選挙に不利だと考え、時間稼ぎを狙ったものだ。ブッシュは必死になって、フセインの非道性とイラク解放の意義を訴えて問題をすり替えようとするだろうし、ケイ氏の発言を逆手にとって「自分も知らなかった」とシラを切り情報機関の欠陥に問題をすり替えようとするだろう。こんな言い逃れを許してはならない。要は、反戦運動側がどこまで攻勢に打って出れるか、である。

 ブッシュは1月30日、「私も事実を知りたい」と述べ、まるで第三者のような顔をした。今後、ケイ氏の「我々は皆間違った」発言をブッシュ自身が逃げ口上に使う可能性だってある。今更何を言うか、である。彼は、自らが殺し傷付け、生活を破壊し生存を脅かしたイラク民衆に面と向かってそう言えるのか。何万人の無実の市民と兵士を殺し、何十万の人々の手足をもぎ取り傷を負わせたのか。「掃討作戦」という名で今なおどれだけ大勢の人々を殺し傷付け抑圧しているのか。劣化ウラン弾をばらまき、イラクの住民を被曝させ全土を放射能で汚染したのである。すでに取り返しの付かないことをしでかした。一個の主権国家を再起できないほど滅茶苦茶に破壊したのである。−−世界の反対を押し切ってイラク侵略を行った米国大統領であり米軍最高司令官であるブッシュが「我々は間違っていた」を発した途端、開戦責任、戦争責任の一切を負わねばならない。何よりもまず米英侵略=占領軍を無条件に撤退させ、イラク民衆に公式に謝罪し、全てを原状回復させねばならない。犠牲者に補償しなければならない。そして潔く辞任すべきである。

(2)「戦争の大義」は完全に崩れた。
 ブッシュは昨年3月17日、開戦に当たっての「戦争の大義」で一体何を言ったのか、もう一度聞いてみよう。はっきりと大量破壊兵器の保有の故に、またイラクがそれをアルカイダに渡しテロを行う故に「最後通告」を発したのである。
−−「米国やその他の国が収集した情報によると、イラクが最も破壊的な武器のいくつかを保有し隠ぺいし続けていることは疑いがない。」
−−「イラクは・・・アルカイダの工作員を含むテロリストを支援し、訓練し、かくまってきた。」
−−「危機は明白である。テロリストたちは、イラクの支援により手に入れた生物・化学兵器や核兵器を使用することにより、米国その他の国々の数千あるいは数十万の罪の無い市民を殺害するという野望を遂げる可能性がある。」
−−「恐怖の日がやってくる前に、あるいは手遅れになる前に、危険は取り除かれなければならない。」
−−「今日、イラクが武装解除したと主張できる国はひとつも無い。フセインが権力の座にとどまる限り、イラクの武装解除は実現できないであろう。・・・国連安保理はその責務を果たしていない。だからこそ米国が立ち上がるのである。」等々。
※「ブッシュ大統領、サダム・フセインに対し、48時間以内の国外退去を通告」(在日米国大使館)
http://japan.usembassy.gov/j/p/tpj-j20030319a1.html

 これまで私たちが繰り返し主張してきたように、仮にイラクにWMDがあったとしても、国連憲章と国際法はイラクに対する戦争行為を認めてはいない。イラクによる如何なる他国への侵攻もその切迫性もなかったからである。開戦前から開戦後に至る1441などの国連決議も、米英の侵略行為を合法化するものではなかった。

 しかしこのブッシュの「最後通告」が、全くのウソ、でっち上げであることが明らかになったのである。どう考えても米英のイラク侵攻は正真正銘の侵略行為になる。大義名分を偽造・ねつ造によりでっち上げ、一個の主権国家を侵略し、木っ端微塵にこれを瓦解させ、多数の犠牲者を生み出した。これは単に人道上の問題ではない。れっきとした戦争犯罪である。
 世界の反戦平和運動も国際世論も、また私たちも、開戦前の一昨年の国連でのイラクWMDをめぐる安保理での議論以降、一貫して米英の「証拠」に重大な疑惑があると批判してきた。大多数の安保理理事国、国連加盟国、UNMOVCブリクス委員長とIAEAエルバラダイ事務局長は、「決定的証拠がない」として国連査察の継続を主張したが、米英はこれら反対派・慎重派を「生ぬるい」「何週間も待てば大変な事態になる」などと世界中を脅し、口汚くののしり非難して、強引に開戦に持ち込んだ。
 これら米英による国連と世界に対する「イラクの切迫した脅威」の恫喝は一体何だったのか。ウソを付いてまで世界を脅し侵略するなど言語道断、断じて許せない詐欺行為、無法行為である。
※「国連安保理決議1441に抗議する−−ブッシュは「強制査察」を開戦の口実にするな」(署名事務局)

 そしてこのWMDの偽造・ねつ造を支持し、侵略行為、無法行為を何の根拠もなしに支持し、憲法違反をしてまで自衛隊派兵を強行し全面協力までしている小泉政権の責任も重大だ。追及さるべきはブッシュとブレアだけではない。私たち日本の民衆、日本の運動の力で再び小泉政権をWMD問題、侵略行為、無法行為への加担の罪で徹底的に追及しなければならない。



U.ケイ証言の衝撃。ブッシュが任命した正式の調査団長が「ない」と断定。−−言い逃れできなくなった「イラク大量破壊兵器」のウソ。

(1)デビッド・ケイ前団長の爆弾証言とWMD捜索チームの事実上の解散状態。
 爆弾発言を行ったデビッド・ケイ氏は、わざわざブッシュ政権自らが米WMD捜索チームの責任者に抜擢したCIA特別顧問である。その政府の捜索責任者が、占領下で米軍が自由自在に捜索し、関係者を自由自在に逮捕・拘束し尋問できる状態で徹底捜索した結果、「なかった」と断定したのである。
 しかもケイ氏は、1月23日に抗議の意味とも受け取られる辞任を申し出て、CIAのテネット長官に受理されている。また1月8日付のニューヨーク・タイムズ紙は、ケイ氏が率いた捜索チーム(ISG)の400人が、発見の可能性がないとして密かに帰国していたことをすっぱ抜いた。表向きケイ氏の後任者は任命されたが、ケイ団長辞任を併せて、捜索チームは事実上解散状況に陥っている。「捜索を続行中」とは全くのウソ・デタラメである。

 ケイ氏の発言をざっと見てみよう。それはこの1月23日の辞任以降、各種メディアとのインタビューや1/28上院軍事委員会証言で多岐に渡っている。そして昨年2月5日、パウエル長官が大見得を切って国連と世界に向かって提示したWMDの「決定的証拠」をことごとく反駁するものとなっている。
−−「私も含めて、我々皆が間違っていた。」
−−「イラクの大量破壊兵器計画の主要な要素の85%は恐らく明らかになっている。」「イラクに生物・化学兵器の大量備蓄は存在しない。」
−−今後の発見の可能性については「これまでの努力は十分に緊密なものであり、配備され軍事化された化学生物兵器が大量に貯蔵されているというのは、とてもありそうにないことだと思う。」ごく少量の備蓄が発見される可能性も「極めて低い。」
−−「核兵器開発計画はなかった。」「核兵器製造の濃縮ウラン用遠心分離器のアルミ管はミサイル用であって遠心分離器用ではない。」
−−「化学兵器の証拠はなかった。」「(原料の)化学剤もなかった。」
−−「移動式トレーラーは生物兵器用のものではなかった。」「生物兵器散布用の無人兵器は未完成だった。」
−−「フセイン政権は1990年代半ばに生物化学兵器を密かに廃棄していた新たな証拠がある。」「イラクは湾岸戦争後WMDを削減し始めた。国連査察が有能だと思ったからだ。95年には義理の息子が亡命したため、更に削減を進め、2001年にかけて兵器の備蓄は削減された。」インタビュアーの「先制攻撃は完全な情報なしには成り立ち得ない。だとすれば先制攻撃は不適切だと思わないか」との質問にケイ氏は「完全な情報などあり得ない」と、これを認めた。(1/28ABCテレビ)
※<米上院公聴会>大量破壊兵器「大量備蓄ない」ケイ氏証言(毎日新聞)。
 もちろん氏はイラク戦争そのものを否定したわけではなく、むしろ肯定している。「皆が間違っていた」と大統領の戦争責任を相対化している。CIA特別顧問としてCIAの情報能力の欠陥を問題視し、その是正を狙い目にしての発言であることも事実である。しかし彼の爆弾証言はとてつもなく重いものだ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040129-00001037-mai-int
※「大量破壊兵器 保有判断『米の誤り』前イラク調査団長認める」(東京新聞)
http://www.chunichi.co.jp/iraq/040129T1550.html

(2)ブッシュ政権は昨年の開戦前の国連査察を恐れた。「WMDはない」との結論が出る可能性があったからだ。
 国連査察UNMOVICの前委員長ブリクス氏は、1月30日のBSニュース「今日の世界」に出演しNHKのインタビューに答えて、国連査察チームの責任者であった立場から極めて重要な発言を行った。
−−「核保有の疑いがある」とか「開発計画がありそうだ」では不十分。「具体的に決定的証拠がまず必要」。
−−はじめから「開発していた疑いがある」とか「腐敗した政権だから」としていたら別だが、しかし議会から武力行使の承認を得る際には、そういう理由ではなく、WMDが存在しているからだとした。まるで魔女狩りのようだった。米英はそうした兵器の存在を勝手に思い込み、どんな些細なことでも保有の証拠に結び付けようとした。それが世界を間違った方向へと導いた。
−−今回は査察が有効な方法だった。91年に生物化学兵器の廃棄に関わった人物の名簿など、我々は貴重な資料を手にしていた。そして監視人なしで多くの人に聞き取り調査をした。あと少し時間があれば事実が明らかになっていただろう。
※NHK・BS「今日の世界」2004年1月30日付特集。

 ブリクス氏のこの最後の「あと少し時間があれば」発言は決定的に重要だ。なぜ米英が開戦を急いだのか。その大きな理由の一つが、国連査察UNMOVICが「WMDはない」あるいは「ない可能性が高い」との報告書を出せば、イラクを攻撃できなくなるからであった。

 米英には、これと同様の前科がすでにある。1998年のイラク空爆だ。米欧のメディアは、空爆はやむを得ない、悪いのはイラクだ、イラクが国連査察を拒否したことがその理由だと本末転倒の報道をした。だがその真相は全く逆であり、米英の陰謀だったのである。元国連査察団長スコット・リッター氏の証言がそれを物語っている。「アメリカの国連大使とUNSCOMの委員長が、査察団の団長である私に、イラクに行って衝突を起こせ、そうすれば、安保理の承認がなくてもアメリカはイラクを空爆できると言ったのです。」
 1997年以降、それまでの国連査察が順調に進んだ結果、国連制裁解除の動きが加速するかも知れないと危機感を抱いた米英が、無理矢理国連査察UNSCOMに介入し、「中立」化した委員長を解任し、米の以降通りに動く新委員長を就任させ、以後一直線に空爆に向けて突っ走ったのである。最後は米英の政治的道具と化したUNSCOMは「中立性」と信頼性を失い自滅し解散した。米英は、この時も国連査察の成功、経済制裁解除が恐かったのである。

 これが、ブッシュ、ブレアの当事者はもちろん、小泉首相など日本政府もごまかしているかつてのUNSCOM国連査察における白を黒と言いくるめる「国連査察イラク非協力」の真実なのである。どこまでウソとデマを繰り返せば気が済むのであろうか。
※NHK・BS「イラク・査察の真実」制作:ファイブ・リバース・プロダクション(アメリカ 2001年)。このドキュメンタリーは、米の介入で国連査察が陰謀集団に変わっていった経緯が当時の関係者の証言で作られた。署名事務局の紹介記事
※『イラク戦争:スコット・リッターの証言−ブッシュ政権が隠したい真実』(星川淳訳、合同出版)には、UNSCOMでのスコット・リッター氏の活動と評価が書かれている。 署名事務局の紹介記事

(3)それ以外にも相次ぐWMD問題でのウソ・でっち上げの発覚。
 ブッシュ大統領は、これまで「いずれ見つかる」と逃げ回ってきたのだが、ケイ氏の発言を受け、記者の質問をはぐらかすしか出来なくなっている。冒頭の「私も事実を知りたい」というふざけた発言もその一つだ。パウエル国務長官も、WMDは「結論が出ない問題」「ゼロかも知れない」と言い出す始末。パウエルはイラク開戦で世界を脅しつけた2月5日の国連演説を忘れたのであろうか。無責任も甚だしい。
※「結論出ない」と立場後退 イラク大量兵器で米長官(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040125-00000038-kyodo-int
※<ブッシュ大統領>大量破壊兵器、記者質問にうやむや釈明(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040128-00001016-mai-int

 それだけではない。その前には、オニール前財務長官は、自分が閣僚であったときに「WMDの証拠など見たことがない」「ブッシュ政権誕生直後から、フセイン政権打倒計画があった」などと、これまた爆弾発言を行った。国連査察がイラク戦争の単なる口実に過ぎなかったことが、当時の閣僚の発言から判明したのである。
※イラクの大量破壊兵器の証拠は見たことがない=米前財務長官(ロイター)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040112-00000002-reu-int

 更に、米の有力シンクタンクのカーネギー平和研究所でさえ、「米国や世界の安全保障に差し迫った脅威はなかった」「ブッシュ米政権は組織ぐるみで誤った脅威を伝えていた」と、ブッシュ政権の組織的な情報操作を厳しく批判した。でっち上げ疑惑はもはや疑うべくもない。
※米政権、組織的にわい曲 イラク大量破壊兵器で報告(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040109-00000038-kyodo-int



U.ブレアを免罪し問題の本質をわざと隠したハットン調査報告書−−イラク大量破壊兵器のウソを抹殺することはできない。

(1)英政府の情報操作の本質を隠し、ブレアを免罪にしたハットン調査報告。
 英国では1月28日、ハットン調査会が「首相に責任はない」「BBCの責任は重い」とBBC側を一方的に批判する調査報告書を提出した。ブレア首相はかろうじて目先の政治危機を脱したかに見える。しかしこんな茶番劇が通るわけがない。この報告書は、「機密漏洩疑惑」と「45分の情報操作」問題に限られたものであり、問題の本質が最初から除外されていたからだ。英政府がイラク侵略の大義名分とした「イラクの切迫した脅威」は本当に正しかったのか。「45分でイラクのWMDは攻撃可能」は本当に正しかったのか。ハットン報告書はこうした問題の本質を完全に不問に付した。盟友ブッシュと同様、ブレアもまた、どこまでもイラク侵略戦争の“正当性”の問題、WMD問題から逃れるわけにはいかないだろう。

(2)裏目に出たブレアの開き直り。WMDで窮地に立つブレア首相。
 ハットン報告を利用して、ブレアはここで一気に反転攻勢に打って出ようとしたが、今のところそれは失敗に終わっている。
 英国世論は騙されていない。英紙イブニング・スタンダード紙の1/29付の世論調査によれば、ハットン調査会の報告を「信用できない」50%、「不公平」55%と、大喜びで勝ち誇ったようなブレアの出鼻を挫く結果となった。
 BBCはハットン報告とブレアの政治介入で大揺れに揺れている。会長、経営委員長、担当記者は辞任に追い込まれた。しかし「グレッグ会長を戻せ」と職員は気勢を上げ抗議集会を開き、会長は辞任する前に職員の前で今回の調査報告書に公然と疑問を表明し政府の政治介入に抗議の意志を表明した。英インデペンデント紙は一面トップを白塗りで出し、真ん中に小さく赤字で「政府を免罪するための八百長報告か?」と書き抗議した。ガーディアン紙もWMDのウソとでっち上げの疑惑はまだ解決していないことを追及した。デイリー・ミラー紙は、「『誇張』に根拠はなかったが、大量破壊兵器の根拠もない」と主張した。
※<英独立調査委>国防省顧問死亡「ブレア首相に責任なし」(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040129-00000122-mai-int



V.ブッシュとブレアだけの問題ではない。それでも「ある」と言うなら今度は小泉政権が立証すべき番である。

(1)ケイ証言を否定し何の根拠もなく「ある」と強弁する小泉政権。
 イラクは「ない」と主張したのに攻撃され国家もろとも壊滅させられた。国連査察は途中で米英に無理矢理妨害された。そして米政府も「ある」と立証できなかった。小泉政権が、それでも「ある」と言うなら今度は自分が立証すべき番である。
 ケイ証言をめぐって小泉首相や福田官房長官は一体何を言ったか。
−−「ないとは断言できない」(1月29日、小泉首相)
−−「どういう根拠で言っているのか、(証言が)権威のあるものなのかどうか。全部を信用しなければならないと言うわけではない。」「それが今どういう立場で言っているのか、ということもあるんじゃないですか。」(1月29日、福田官房長官記者会見)
−−更には「ないという保証はない。あるという可能性が高い」(1月29日福田官房長官記者会見)とまで言い切っている。等々。のらりくらりのふざけた答弁に終始するだけでは足らず、公然と開き直ったのである。
※JNNニュース http://rnews.coara.or.jp/jnews/only/DT20040129_233518.html
※首相、大量破壊兵器「まだ可能性」=テロ攻撃で撤収直結せず−防衛長官(時事通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040126-00000895-jij-pol
※「細る大義 すがる政府」朝日新聞1/30付。

 これに対して相も変わらず記者会見での怒りのない政治部記者の質問、ご機嫌取りの「ぶらさがり」取材、攻める気迫のない野党の国会審議。いつまでこんな無責任対応に付き合っているのか。「あると思うか、それともないと思うか」などと、小泉や福田の「意見」を聞いてどうするのか!「あると思う」に決まっている。
 野党、マスコミは、もっと本気で事実調査と真相究明を具体的に迫って行くべきではないのか。大量破壊兵器について言うなら、もはや“言葉の遊び”をしている段階ではない。

(2)ケイ証言を否定し「ある」と強弁するなら、日本政府は米英に成り代わって「決定的証拠」を明らかにする義務がある。
 小泉首相、福田官房長官の言い逃れ答弁は非常に単純なものである。要するに「ある」と強弁しているだけなのだ。政府与党は「ある」ことを前提に動いているが、その「ある」根拠を私たち国民の前に、明確な形で示したことは一度もない。
 デビッド・ケイ発言を受けて、政府は最低以下の点について答える義務がある。答えられないなら、即刻派兵を中止し、小泉首相は責任をとって辞任すべきである。

<小泉首相が答えるべき数々の疑問>

@ 小泉首相、福田官房長官は、共にケイ発言を全面否定したが、その否定する根拠については何も説明していない。
 前述したように、小泉首相は「ないとは断定できない」と答えた。福田官房長官は「ないという保証はない。あるという可能性が高い」とまで言い切っている。ケイ発言を否定するなら、ケイ氏に証言を聞く必要があが、それもやらずに「ある」と開き直るとは、ふざけるにもほどがある。
 少なくともケイ氏は米政府のWMD捜索チームの団長として、フセイン政権崩壊後、昨年6月から8ヶ月に渡り1400人もの捜索を陣頭指揮してきた公的な責任者である。この責任者の発言を「信用できない」「間違い」「ウソ」と決め付けのである。ケイ発言を否定するまで確かな証拠がなければ、このような発言にならないはずである。如何なる確証があるのか。しかもブッシュ大統領もまだ公式にこのケイ発言に反論していない。このブッシュ政権に成り代わって即座に「ある」と断言したからには、それ相応の確証があるはずである。

 ところが1月26日の記者会見で福田官房長官は、記者団の「政府として兵器の存在を確認する考えはあるか」との問いに、「どう確認できるのか、教えていただきたい」と答えた。これが本当だとすればこれほどふざけた答弁はない。ならばなぜケイ発言を否定できるのか。なぜ「ある可能性が高い」と断定できるのか。明らかな矛盾である。
※「政府、薄れる大義に悩み」東京新聞1/28付。

A イラク特措法の前提条件であるイラク大量破壊兵器の脅威が「根拠なし」となったにも関わらず、なぜその法律を発動することができるのか。
 イラク特措法の第一条(目的)によれば、発動に当たっての最大の前提条件は、イラクWMDである。そのWMDについて、米の責任者ケイ氏が「ない」と断言したのに、なぜ自衛隊派兵「承認案」を強行採決し、派兵を強行するのか。自衛隊イラク派兵は「イラク特措法」に基づいて行われるが、その「目的」に重大な疑義が生じたのである。少なくとも派兵計画を中断し、その前提条件をもう一度国会で審議し直すべきではないか。
※イラク特措法の目的は第一条に記されている。それによれば日米安保条約は一言も出てこない。678、687、1441、1483の4つの国連安保理決議に依拠すると書いているだけである。このうち1483はイラクへの国連制裁解除を目的とするものである。従って1441、要するにイラクWMDを廃棄することが目的なのである。
 もちろん1441は「自動開戦」を容認した決議ではない。安保理では、1441とは別個に米英によって「武力行使容認決議」が追求され、それが安保理多数派の反対で挫折した経緯がある。だから本来的には1441を根拠にイラク派兵することは出来ない。イラク特措法は法的にもデタラメな法律なのである。
※「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」
http://www.kantei.go.jp/jp/houan/2003/iraq/030613iraq.html

B 小泉首相は昨年、米英のイラク開戦を支持した際に、米英が「大義名分」としたイラク大量破壊兵器の有無について、如何なる「決定的証拠」を持っていたのか。それともただブッシュの言いなりになっただけなのか。まだ一言も説明がない。
 そもそも小泉首相は、2003年3月20日の米英のイラクに侵攻をいち早く支持した「大義名分」をイラクのWMD、その武装解除であると断言していた。その米英のイラク開戦時点で、小泉首相と日本政府が、イラクにWMDがある、「決定的証拠がある」と断定したその根拠は何か。この基本的問題について、首相は何も説明していない。
 ここで問題にしているのは、フセイン政権崩壊後の捜索で見つかったかどうかの問題でも、将来見つかるだろうという問題でもない。「いずれ見つかるでしょう」「ないとは言えない」という言い訳を聞いているのではない。
 昨年3月20日時点で首相がイラク開戦を支持した時、首相自身がどんな「決定的証拠」「物的根拠」をつかんでいたのかを問い質しているのである。
※小泉首相は確かに、米英のイラク侵略の「大義名分」をイラク大量破壊兵器の“武装解除”と言明した。
 3月18日の首相インタビュー:「大量破壊兵器、或いは毒ガス等の化学兵器、或いは炭素菌等の生物兵器、これがもし独裁者とかテロリストの手に渡った場合、何十人何百人の規模で生命が失われるということではない、何千人何万人、或いは何十万人という生命が脅かされるということを考えますと、これは人ごとではないなと、極めて危険なフセイン政権に武装解除の意思がないということが断定された以上、私(総理)は、アメリカの武力行使を支持するのが妥当ではないかと思っております。」小泉首相インタビュー(首相官邸)http://www.kantei.go.jp/jp/koizumispeech/2003/03/18interview.html
 3月20日の小泉総理大臣記者会見:「もしも、今後、危険な大量破壊兵器が、危険な独裁者の手に渡ったら、どのような危険な目に遭うか、それはアメリカ国民だけではありません。日本も人ごとではありません。危険な兵器を危険な独裁者に渡したら、我々は大きな危険に直面するということをすべての人々が今感じていると思います。これをどのように防ぐか、これは全世界の関心事であります。/私はそういうことから、今回、最後まで平和的努力を続けなければならないと思いつつも、現在、残念ながらそれに至らなかった。武力の圧力をかけないとイラクは協力してこなかった。しかも、かけ続けても十分な協力をしなかった。/今回ブッシュ大統領いわく、これはイラクの武装解除を求めるものであり、・・・」「武装解除が目的であります。」 http://www.kantei.go.jp/jp/koizumispeech/2003/03/20kaiken.html
 3月27日小泉内閣メールマガジン:「この問題の核心は、イラクが自ら保有する大量破壊兵器、生物兵器、化学兵器を廃棄しようとしないこと、国連の査察に無条件、無制限に協力しようとしないところにあります。
 もしも危険な大量破壊兵器が危険な独裁者の手に渡ったら、どのような危険な目にあうか。それはアメリカ国民だけではありません、日本も他人事(ひとごと)ではありません。危険な兵器を危険な独裁者に渡したら、私たちは大きな危険に直面するということをすべての人がいま感じていると思います。これをどのように防ぐか、これは全世界の関心事です。」
小泉内閣メールマガジン。http://www.kantei.go.jp/jp/m-magazine/backnumber/2003/0327.html

 小泉首相らは間違いなく、WMDに関して独自の調査も真相究明も何もやっていない。ただブッシュに従っただけ、は通用しないはずだ。単に米英の「主張」「意見」を鵜呑みにしただけ、は通用しないはずだ。そもそもおよそ独立主権国家である日本の政権が、自国の憲法を破壊する重大事であり、国際的な地位と威信に関わる最も重大な国際紛争であるイラク戦争への賛否に当たって、自国で独立したイラクWMDに関する事実調査と真相究明をしなかった、しかもウソか本当か分からない他国の判断を基礎に自衛隊を派兵する重大な決断をするなど、国家の最高責任者として失格である。
※「見つからぬイラク大量破壊兵器(その1)」(毎日新聞2003年7月4日)
http://www.mainichi.co.jp/news/article/200307/04m/100.html
この記事によれば、日本政府は、2003年1月に米政府関係者からイラクWMDに関するブリーフィングを受け、米の主張を鵜呑みにした経緯を詳しく報道している。しかも「外務省も防衛庁も責任ある調査なんてしていない。パウエルがどんな証拠を出そうとも、同じコメントを出したんじゃないか」という首相官邸関係者の証言も取っている。

C 小泉首相は、イラク大量破壊兵器の「挙証責任」問題でウソ・デタラメを繰り返している。米英が「挙証責任」を果たさないばかりか、イラクと国連の「挙証責任」を妨害した事実を隠している。
 小泉首相らはこれまでも、そしてケイ証言の後の現在も、繰り返し「挙証責任はイラクにある」と主張している。しかしこれは二重、三重に根本的な誤りである。例えば小泉首相は、1月26日の衆院予算委員会で「イラクは、大量破壊兵器を持っていないことを立証せよという国連決議を無視してきた」と主張した。しかし、これは事実に反する。イラクは具体的にどの決議のどの部分を、どう無視したのか。とりわけ米英が開戦の口実にした1441をどう破ったのか。具体的に答えるべきである。「無視してきた」と述べているのは米英と日本など侵略する側だけである。国連安保理の多数派はそんなことを言っていない。

まず第一に、そもそも米国がイラク侵略を軍事外交政策として公式に国連で発表した2002年9月以降、イラクが不法行為、犯罪行為を犯したという挙証責任は一方的に訴追しようとする側、告発しようとする側である米英の側にあった。挙証責任はイラクにはない。“WMDがないこと”をイラクが証明するのではなく、“WMDがあること”を米英が証明しなければなかったのである。ところが米英は、この責任を果たさなかった。正確に言えば、果たそうとしたが、ウソとデタラメがあまりにも多かったため、世界中から総スカンを食ったのである。
 自分には挙証責任はない。イラクにあるだけだ。もしこんな滅茶苦茶な暴論が通用すれば大変なことになる。訴追される側がいくら必死に立証しようとしても、元々納得する気のない訴追する側がその立証を否定すれば、訴追側が勝手に無法者をでっち上げることができるからである。現に米英はこのでっち上げの論理で開戦に突き進んだ。

 第二に、2002年11月に国連決議1441が議決されて以降、局面は複雑になる。米英の横暴に屈服する格好で国連が渋々、米英に成り代わって「挙証責任」を果たす役割を引き受けることになったのである。この時点で挙証責任は国連の査察団とイラクのフセイン政権の間の双方が合意の上で果たすことになった。この国連決議に基づいてUNMOVICとIAEAによる公式の国連査察が厳密にかつスムーズに行われ、イラク側もこれを全面的に受け入れていた。イラクは12月には膨大な「申告書」を提出し、自らの潔白を立証した。ところが米英は、国連査察とイラクの立証にいちゃもんを付け、嫌がらせを続け、挙げ句の果てに、3月17日の時点で米英が「最後通牒」を突き付け、この査察を妨害し、国連とイラクの「挙証責任」を潰したのである。傲慢と横暴を絵に描いたような行為である。

 第三に、2003年3月20日をもって挙証責任問題はさらに新たな局面に入った。自分が要求した国連査察を潰した上、安保理と国連の承認なしに、反対を押し切って、国連憲章と国際法で禁じられている他国に対する武力行使に踏み切ったのである。米英が一方的にイラクを攻撃し、イラクは一方的に攻撃を受けたのである。米英は自分の軍事行動が侵略戦争ではない、国際法上正当なものであることを証明する義務を全面的に負うこととなった。その義務は最低限、まずは現にイラクが大量破壊兵器を持っていることを立証することを通じて果たさねばならない。行動を開始したのである。行動した側が一方的に挙証責任を負うことは当然のことだ。それができなければ米英の側が、犯罪行為(侵略行為)を犯したことになるのである。そして米政府WMD捜索チームの前団長デビッド・ケイ氏の「なかった」「今後も見つかる可能性は小さい」という爆弾証言はその決定打となった。
※米英政府が自国の対イラク戦争を正当化するには、2つのハードルをクリアしなければならない。先ず第一に、ここで論じているWMD「保有」問題である。ケイ証言でこれは崩れた。しかし実はこれは副次的な問題であって、第一義的な問題ではない。
 第二に、より根本的な問題がある。それはメディアでも、国際政治でも、国連でも、ほとんど無視されてきた米英の軍事行動、「自衛権発動」を正当化する国際法上の根拠である。米英はこの根本的な「挙証責任」に全く答えていない。というより永遠に答えられない。なぜならイラクは、2002年3月20日の時点において、米英の「自衛権発動」を正当化するような米英に対する軍事的侵略行も、軍事的脅迫行為も働いていないからである。私たちは、この意味で、WMD保有をめぐる「挙証責任」を論じる際に、国際政治上、第一の問題の方だけが議論され、第二の、より根本的な問題が無視されるという国連や国際政治上の根本的な欠陥をよく承知しなければならない。

 以上のような米英の横暴は、国連査察の略史を少し振り返るだけで十分である。イラク大量破壊兵器問題で、イラクと国連が、どのように立証しようとしてきたのか、米英がどのように立証を妨害しぶち壊そうとしてきたのか、について概観してみよう。
−−イラクは開戦前に「挙証責任」を果たした:
 イラクは国連決議1441で国連査察を正式に受け入れ、2002年12月8日には、膨大な「申告書」を提出した。紆余曲折はありつつも、国連査察団が退去するに至るイラク側からの妨害もなかった。基本的にイラクは自らの「挙証責任」を果たすべく、国連に全面協力した事実がある。
−−米英は開戦前の「挙証責任」を果たさなかった:
 これに対して米英側は、2003年2月5日のパウエル国務長官のWMDに関する「決定的証拠」なるものを国連に提出し、世界に向かって報告した。しかしこれに関しては根本的な疑問が提出された。@ニジェールからの核兵器開発用資材の輸入、A化学兵器を少なくとも100〜500d保有、化学兵器製造用の特殊車両開発、B化学兵器の証拠隠滅を証明する衛星写真、同じく65箇所の兵器格納庫の衛星写真、C査察前日に改造車の隠匿を指示する軍高官の会話傍受、弾薬破棄の会話傍受等々、これら全てが、国連査察団やメディアによって、疑問符が付けられ、遂にCIAや米政権内部から偽造・ねつ造疑惑が浮上した。米英はこの2月5日の疑惑だらけの灰色の「決定的証拠」を「根拠」に、国連や国際世論の反対を押し切って一方的に「最後通牒」を突き付け、開戦に及んだのである。
−−米英は開戦前に国連の「挙証責任」を潰した:
 しかも重大なのは、国連査察がまだ続いているのに、UNMOVICやIAEAが国連査察の継続を主張し、また圧倒的多数の安保理理事国や国連加盟国、国際世論が、査察の継続を主張して開戦に反対していたのに、米英が強引にこの国連査察を潰したことである。非常に重大な犯罪と言わざるを得ない。
−−イラク戦争中、イラクはWMDを使用しなかった:
 これはもはや証明する必要はない。しかも昨年末フセイン大統領が拘束されたとき、彼は「WMDはない」と証言している。
−−戦後の米英占領下でも米英は「挙証責任」を果たすことができなかった:
 デビッド・ケイ前団長のWMD捜索は、実は米による初めての真剣な捜索活動であった。それまでは米はイラクや国連の立証作業に難癖を付け混乱させ妨害し、ついには潰すことが狙いだったのだ。なぜなら「ない」ことが立証されてしまえば、戦争に突っ込めなかったからである。しかし今回は違う。一転して今度は、米英側が戦争を正当化しなければならなくなった。しかも戦後米英は、国連査察の再開を拒否した。すなわち米英が自らの有利な条件下で、国連に成り代わって「挙証責任」を果たすと決定したのであり、それに基づいて捜索をやってきたのである。それでも「ない」ということの意味は重い。

 以上のように、イラクは国連査察に協力した。米英は開戦前の「決定的証拠」をめぐる国連審議で偽造・ねつ造が次々と発覚した。国連査察を途中で妨害し潰した。国連安保理と国連全体を説得できないまま、一方的に侵略行為に踏み切った。戦争中イラクはWMDを使わなかった。拘束されたフセイン大統領もWMDの存在を否定した。戦後唯一WMDを捜索した米政府も8ヶ月にわたる大規模な捜索の結果「ある」ことを立証できなかった。−−もはや何も言うこともないだろう。

D 日本政府にも国民に対してイラク大量破壊兵器の「挙証責任」がある。
 小泉首相は、まるで日本には「挙証責任」がないかのように、他人事のように答弁している。だが、それはおかしい。日本にも自国民に対して「挙証責任」がある。イラクへの自衛隊派兵は憲法と国家の運命を左右する重大問題である。自らの事実調査と真相究明をせずして、その選択の根拠を、米政府に委ねるとは何事か。信じがたい無責任である。
 しかも日本政府がケイ発言を否定し「ある」と断言するなら、今度は、国連に成り代わった米国に成り代わって、日本政府自身が立証すべきである。もしそれが出来ないと言うなら、小泉首相は自衛隊派兵を中止し、責任をとって辞任すべきである。

2004年2月1日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
(2月6日一部訂正)