通常国会の閉会にあたって−−−−−−−−−−
秋の臨時国会で3悪法案を廃案に追い込もう!
−−憲法改悪反対=国民投票法案反対運動、教育基本法「改正」反対運動、共謀罪新設法案反対運動、反米軍再編=反基地運動を結合しよう−−
◎運動の力を結集すれば力関係は変えられる。継続審議を勝ち取った反対運動と世論の力
◎行き詰まりと矛盾が顕在化してきた小泉の新自由主義的「構造改革」


(1)国会閉会にあたって、3悪法案の成立を断念させた政治的力関係を確認することが重要

 6月18日に国会が閉会し、教育基本法「改正」法案、共謀罪新設法案、国民投票法案の3悪法案が継続審議となりました。私たちは、今国会での成立断念に追い込んだ反対運動の力をまずは確認したいと思います。
 今回の通常国会では、政府・与党と反対する運動・世論との間で激しい攻防が繰り広げられました。これら法案は、いずれも衆議院では圧倒的多数を、参議院でも過半数を握る自公両党が今通常国会で成立させることを目論んでいたものです。
 「共謀罪」を軸に総力戦で闘われたことによって生じた力関係の変化−−国会内の力関係の変化、市民運動及びメディアや言論の変化、世論の変化、財界での小泉支持の乱れ、与党内の混乱−−は、次期首相がだれになるにせよ、国会議席数での与党の圧倒的な有利な状況の下で、「小泉的なもの」「小泉構造改革」の継承・強行を押しとどめるための重要な条件になり、反対運動がより前にでていく条件になります。


(2)小泉の新自由主義的「構造改革」と対米最優先政策の行き詰まりと矛盾が顕在化

 今年の通常国会の冒頭では、ライブドア問題、米輸入牛肉BSE問題、防衛施設庁談合問題、マンション耐震強度偽装疑惑のいわゆる「4点セット」で、小泉政権は勢いを失っていました。これらの事件は、株価不正操作の経済犯罪企業と自民党の深い結びつき、建築基準規制緩和、防衛庁・自衛隊を巻き込んだ構造汚職問題、食の安全を無視した牛肉輸入という小泉政権の新自由主義的「構造改革」と対米最優先政策の結果そのものでした。さらに若者失業問題、格差問題の深刻化などの矛盾と結びついて小泉政権は危機に陥りました。それは昨年の選挙で衆議院での圧倒的多数を得たにもかかわらず、自公与党を足下から動揺させ、自信を失わせ始めていたのです。
しかし、「対案路線」を掲げた前原民主党執行部はこれを徹底して追及できず、逆にメール問題で自滅し、茫然自失状態に陥ることで与党を助け、事実上何の追及もできずに2006年度予算案を早々と通過させました。この3月27日の時点で国会は3ヶ月近い会期を残していました。最悪の状態でした。


(3)政局と国会情勢の転換−−共謀罪法案をめぐる激しい闘いに競り勝つ

 4月はじめ、前原民主党執行部の辞任受けて民主党の代表になった小沢氏は、政府への「対決姿勢」を前に出し、千葉補選や地方での選挙で自民党を敗北させます。さらに自民党を含む地方からの小泉改革への反発が強まりました。小泉政権のアジア蔑視・強硬外交、市場原理主義に対して財界有力者の一部から公然と反対の声が起こるようになりました。こうした状況の下で、自民、公明両党の執行部は小泉政権のうちに共謀罪法案、教育基本法改悪案、国民投票法案など重大法案を強行可決する政治判断をし、一挙に国会に上程しようとしました。
 政府与党がまずターゲットにしたのは共謀罪法案でした。4月はじめ、政府は2度も廃案に追い込まれた共謀罪法案の審議再開の方針を突如打ち出し、4月中の成立さえ強行しようとしました。共謀罪が与野党対決の最前線に躍り出ました。


(4)反対運動と世論の力が、メディアにも影響を及ぼし始める

 これを機に、一部にとどまっていた共謀罪反対の市民運動の取り組みが全国的に広がりました。国会内の劣勢にもかかわらず、院外での市民運動の反対の力が院内の力と結びついて抵抗闘争を繰り広げました。弁護士会の声明やリーフレット、反戦平和や環境保護など、本当に多種多様な草の根の市民運動の拡大、与党に対する全国からの抗議ファックスやメール、全国各地での集会やデモなど、さらには教基法改悪反対、国民投票法反対の運動との連携と協力が広がっていきました。

 与党の強硬姿勢はこのような激しい抵抗を受け、じりじりと後退していきました。また、「話合うだけで罪になる」というとんでもない内容にマスコミも批判を強め、時間が経つにつれて反対の世論が急速に広がりました。5月12日には与党が再修正案を出すことを余儀なくされ、さらに法務省は国民の中に浸透する危機感に対して「御懸念について」「Q&A」など共謀罪法案の正当性を宣伝するための記事をホームページで公開する異例の事態にまで追い込まれたのです。
 しかし、どうあがいても話し合っただけで犯罪と言うことには世論の支持は得られず、小泉首相が国会会期を延長しない下で、自民党案での成立の見込みを失うに至りました。そしてついに6月1日、民主党案の丸飲みという奇策にまで踏み出しながら、党内の不一致から「臨時国会で再修正」という露骨な本音が丸見えになり当の民主党に拒否され、今国会成立の意図は破綻しました。この過程で、自民党内部での戦略と司令塔の不在、総裁選を見越した党内の対立が少なからぬ役割を果たしました。もちろんこの最後的な断念を後押ししたのは、全国からの抗議の声に他なりません。


(5)共謀罪の膠着状態が悪法全ての審議を停滞させる−−客観的に結び付いた3つの悪法

 この共謀罪反対の闘いがキーポイントとなり国会情勢全体を規定していくことになりました。共謀罪反対の闘いは国会議員、弁護士会、市民運動の総力戦で闘われました。院内での追及は与党をひるませ、世論の中での批判の強まりは強行突破に出ることを封じました。与党は審議に時間をかけざるを得ず、それが共謀罪だけでなく教育基本法、国民投票法など他の重要法案の審議にも跳ね返り、強行突破を許さないだけでなく、審議の大幅なずれ込みと全体の遅れを作り出しました。

 政府・与党は、国民の批判が高まり共謀罪の審議が大幅に遅れる見通しが出てくる中で、自公合意からわずか2週間後の4月28日には教育基本法改悪法案を閣議決定しました。しかし、3月31日の「教育基本法の改悪をとめよう!全国集会」など大規模な大衆抗議行動や国会行動を展開してきた運動が、国会前での抗議集会や座り込み行動などで共謀罪に反対する闘いとの事実上の共同行動を生み出し、政府の強行手段を押さえ込みました。そして、実に2ヶ月に渡って共謀罪法案の審議が膠着状態に陥り与野党が対立を深め、教育基本法改悪に関する特別委員会を開催する条件が奪われ、教基法の実質審議入りを会期末の2週間前までずれ込ませました。

 また、国民投票法案は、当初の与野党共同提出という目論見が全く破綻しました。「対案路線」という名の与党協調路線を掲げた民主前原執行部の辞任が共同提案をできなくしました。共謀罪、教育基本法改悪法案を巡る審議の遅れは国民投票法の審議にも大幅な遅延をもたらしました。結局、与党案と民主党案が別々に提出されただけで、事実上審議入りさえしていない状況にとどまっています。


(6)訪米土産のための小泉政権による強引な米軍基地再編、沖縄の普天間基地移設と地元の反発

 さらに、ここで忘れてはならないのは、米軍基地再編、沖縄の普天間基地移設に対する辺野古と沖縄の人々の闘いです。更に岩国など全国各地で闘われている米軍再編に反対する闘いです。沖縄の反基地闘争は4月に提出されたキャンプシュワブのV字滑走路案にノーを突きつけ、闘いの意思を強めています。5月30日の閣議決定では、政府は普天間基地の移設先も移設時期も明記することが出来ませんでした。移転費用に3兆円という政府自身が目をむくような日米合意についても、国民に対しては何一つまともな説明を行うことができず、国会での説明も関連法案の提出も臨時国会以降に先延ばしにせざるを得ませんでした。そんな状態で日米軍事同盟をグローバルな途上国介入同盟へと変える重大な動きが易々と進められるわけがありません。これは、私たち反戦平和運動にとっても新たな反撃のチャンスです。このような沖縄と全国の反基地闘争が、政府から重要法案審議に集中する余裕を奪ったのです。


(7)今国会の最大の教訓−−闘えば不利な力関係を変えられる

 教育基本法「改正」法案反対の運動、共謀罪新設法案反対の運動、憲法改悪反対と国民投票法案反対の運動、そして反基地の運動がそれぞれ前進し反対の姿勢を強めることによって、お互いに深いところで結びつき、3法案の継続審議という事態に追い込んだのです。3ヶ月近くにわたって与党を空回りさせ、重要法案を次々に先延ばしにさせ、継続審議に追い込んだのです。
 小泉首相は、昨夏の「郵政解散」に続く9月衆院総選挙で圧勝し、強大な力をその手に納めたかにみえました。事実、あれだけ反対のあった「郵政民営化法案」をすんなりと成立させました。しかし、国会内での数の力だけでは決して好き勝手にはできないということを示しました。
 私たちにとって、議会での政党の枠組みは不利ですが、その下でも反対運動は現にある条件を最大限に使って闘えるし、現に闘って運動を強めてきました。小泉首相の求心力の低下、後継選びによる混乱、何よりも「格差拡大」など新自由主義政策の矛盾が吹き出す中で、これらと運動が結びつけば悪法の成立をくい止めることができる可能性が拡大しています。


(8)小沢民主党の右翼的危険性と「妥協」を反対運動と世論の力で封じ込めていこう

 しかし私たちは、小沢代表に率いられた「最大野党」の民主党の危険性と二面性を見ておかなければなりません。現在の自公与党と小沢民主党は基本政策で根本的に対立しているわけではありません。
 教育基本法の民主党案は与党案と本質的に変わらないどころか、「愛国心教育」や教育への行政介入問題などではより露骨で悪質であることは周知の事実です。国民投票法でも改憲のための手続き法作りという与党の枠組みに乗ってしまっています。そして共謀罪では、「民主党案丸飲み」という形で、採決の瀬戸際にまでいきました。この民主党小沢の右翼的・根本的弱点は、いつ与党との妥協に応じるかも知れない危険をはらんでいます。反対運動と反対世論の拡大がなければ、民主党の「対決」路線は、逆に悪法成立を促進させるものになる可能性を含んでいます。今国会では、反対運動と世論の力が民主党に妥協をさせなかったのです。反対運動と世論の力こそが、今後も民主党の裏切りを踏みとどまらせることができる唯一の条件なのです。


(9)グローバル軍事介入と海外派兵を狙う新たな法案と体制作り−−「防衛省設置法案」及び「海外派兵恒久法案」

 これら3悪法案と米軍基地再編に加えて、日本を戦争に巻き込むための新しい反動法案が画策されています。日本を全世界での対テロ戦争、特に「不安定の弧」を想定した戦争の司令塔、出撃基地に変えるものです。
 政府・与党は、6月9日、国会の終盤の瀬戸際になって、滑り込むように防衛省設置法案を上程しました。防衛庁の「省」昇格は、防衛施設庁を解体、防衛省に統合し、予算要求などの権限を強化し、自衛隊を運用する独立した機関として国際的に米英などの国防省と対等な関係を築くことを目的としています。
 それは単に、軍事関係の巨大な官僚機構を作ることにとどまりません。本格的な海外派兵を見込んだ、グローバル軍事介入=海外派兵法案なのです。防衛省設置法案と同時に提案されている自衛隊法の改定は、「付随的任務」とされている海外派兵=国連平和維持活動(PKO)や「国際平和協力活動」を「本来任務」とし、アメリカの侵略戦争に加担するための自衛隊の海外派兵を、「本土防衛」に並ぶ主要任務に格上げしようとしています。

 これとともに、「海外派兵恒久法」制定の動きが進行しています。6月14日、石破元防衛庁長官を委員長とする自民党の防衛政策検討小委員会は、恒久法の素案を了承し、7月中にも条文化する方針を確認しました。
 この法案は、海外派兵の条件を大幅に緩和し、さらに武器使用の基準を緩和することで、イギリス並の海外派兵を可能にしようというものです。「国際貢献」さえ口にすれば、武器を持って治安活動のために堂々と海外派兵できるような体制を作り上げようとしているのです。
 さらに、有事法制の具体化が夏から秋にかけて本格的に始まります。昨年福井県だけで行われた有事実働訓練が、8月から北海道、茨城、島根において開始されます。全国化しようとしています。


(10)まやかしの撤退と空自の活動拡大。イラクからの自衛隊の無条件完全撤退を要求する

 これらの動きは、イラクからの陸上自衛隊の撤収と深く結びついています。日本政府は、6月20日、イラクからの陸上自衛隊の撤収を決定しましたが、アメリカのイラク戦争を支援するために、航空自衛隊の活動を強化し、イラクの特に北部で掃討作戦を展開する米兵やその戦闘物資を輸送する露骨な戦争支援に衣替えしようとしています。さらに政府は、石油、天然ガスなどエネルギー分野の開発事業を中心とした政府開発援助(ODA)を軸に「復興支援」を実施する方針を打ち出しています。
しかし、イラク戦争がもたらしたものは、破壊と混乱、殺戮と憎悪です。イラクへの自衛隊の派兵は、米・多国籍軍によるイラク人民の虐殺、イラクの破壊、生活の破壊への加担です。さらにファルージャの大虐殺をはじめとする殺戮には、沖縄海兵隊と沖縄基地が直接の責任を負っています。現在、米軍がハディーサ、イシャキ、バスラ等々で行った住民虐殺が暴露され、政治問題化しています。
 小泉首相はまず、イラク戦争への支持の根拠であった「イラクによる大量破壊兵器の保有」が間違いであったことを真正面から認めるべきです。そしてイラク戦争が誤りであったこと、イラクへの自衛隊の派兵が誤りであったことを真正面から認めるべきです。イラクの人々に謝罪し、完全撤退すべきです。

 
(11)今国会の教訓を踏まえて、3悪法案の廃案を勝ち取るべく、今すぐ臨時国会に向けた準備をしよう

 本格的な決戦の場は、秋の臨時国会と通常国会に持ち越されました。臨時国会に向けて今から運動を強めるために可能なことに全力で取り組みましょう。継続審議となった3法案は、日本の有りようを根本的に変える重要な法案です。自由に議論することを犯罪とする共謀罪法案は、盗聴法や住基法、すべての外国人に指紋押捺と顔写真提出を義務づける入管法改悪(今国会で成立)など一連の監視社会体制づくりの根幹に位置します。
 教育基本法改悪は、「愛国心」と「能力」で子どもを切り捨て・序列化、国家に有用な人材を供出するという、戦後民主主義教育の理念を根本的に否定する法案です。そして、日本国憲法を改悪するための国民投票法案があります。

 共謀罪をめぐる攻防で明らかになったことは、危険性を知らせ、多くの市民に関心と批判が広がればマスコミも取り上げ問題にし、政府・与党が強行できなくなるということです。秋の臨時国会にむけ、反対の運動と世論を強化なければなりません。徹底的な批判活動を展開しましょう。
 教育基本法改悪の危険性は、まだまだ広く知られていません。子どもたちの「心」を国が法律で決めようとしている危険をもっともっと知らせなければなりません。子どもたち一人ひとりの「国を愛する」レベルをABCで評価して点数をつけるという「愛国心通知票」問題だけでなく、できる子とできない子、できるクラスとできないクラス、できる学校とできない学校に選別し、能力によって子どもたちを振り分けていくという新自由主義的な差別と選別教育の推進、教育への国家・行政介入の全面化など、教育基本法改悪案に盛り込まれた危険性を暴露するキャンペーンが必要です。
 国民投票法案は、憲法改悪の危険性と併せて暴露する必要があります。日本を「戦争のできる国家」に変え、国家の「公益」のもとに基本的人権を制限し、個人の尊厳を踏み躙るという、現行憲法の根本的な改悪の方針を批判しなければなりません。

 教育基本法改悪法案、憲法改悪=国民投票法案、共謀罪新設法案、この3つの悪法を今度こそ廃案に追い込みましょう。私たちも全力を挙げて取り組む決意です。ともに頑張りましょう。

2006年6月23日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局