<イラク戦争と「民営軍事請負会社」(3)>
寄生と腐朽の極みとしての「民営軍事請負会社」(PMF)


[はじめに]PMFの寄生と腐敗・腐朽の側面

 「民営軍事請負会社」(PMFまたはPMC)についての今シリーズでは、すでに第一弾で、イラク戦争によるPMF業界の未曾有の活況を中心にその基本的な特徴を報告し、第二弾で、PMF研究の第一人者P・W・シンガー氏の著作『戦争請負会社』の書評を通してPMFの重要な諸側面を考察した。
 シリーズ第三弾の今回は、PMFの寄生的性格と腐敗・腐朽の側面に焦点をあて、そのことによって、米国を中心とする帝国主義的軍事覇権の強さと表裏一体となっている弱さ・もろさの側面にも光をあてる。

 なお、主だったPMFについての独自に作成した一覧表を後に添付した。ここには、『戦争請負会社』に登場するPMFだけでなく、ヒート事件で“脚光を浴びた”ハート・セキュリティー社や、サマワの自衛隊宿営地で雇われているというセキュリティーフォース・インターナショナル社、バグダッド日本大使館とサマワ宿営地内の外務省職員の警護に雇われているコントロール・リスク社も収録した。PMFと自衛隊、外務省、日本政府との関係については、国会での追及もほとんどなく、またマスコミもまともな調査報道をしていないため、秘密のベールに包まれている。この点については、別途検討することにしたい。

2005年7月6日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局



[1]“イラク・バブル”:国家への寄生とボロ儲けの構造

(1)退役軍人だけでなく現役の軍人・警察官も「余剰労働力」
 PMFが必要としている人材は、既に考察してきたように、まずは冷戦終結に伴って世界中で“軍人失業者”が大量にあふれたことによって提供された。PMFにとって、従業員は必要なだけ安価にいくらでも見つかるという状況であった。その後もPMFが人手不足になることはなかった。それは、「余剰労働力」が退役軍人という形で持続的に供給されるからというだけではない。現役の将兵や警察官からも供給されるからである。
 「PMF業の構造の鍵となっているのは労働力が比較的安価で入手先が広いことである。その市場は国の内外にある。余剰労働力の背後にあって継続的な供給の推進力となっているのは、多くの国の軍隊において給与と社会的地位がやや低いことである。PMFの従業員は、正規の軍隊や警察の2倍から10倍といった賃金を支払われる。このため正規軍の最優秀兵士が誘われる。」(『戦争請負会社』p.156)

 ここで明らかなことは、PMFは、その従業員の職業訓練費用を国民の税金でまかなっているということである。PMFに雇われる元兵士たちは、軍隊で必要な技能を身に付け、訓練を受けてきている。その費用は国家予算から支出されている。PMFはその恩恵をほとんど無償で享受している。さらにすぐ後で考察する過剰見積もり・過剰請求などのボロ儲けと合わせて、また戦争を食いものにしているという根本的な性格とも合わせて、PMFは二重にも三重にも国家と社会に寄生しているのである。


(2)「イラク・バブル」に沸くPMF業界
 PMF業界は、今「イラク・バブル」に沸いていると言われている。『戦争請負会社』では、イラク戦争前の段階で、この業界の年間の市場規模が1,000億ドルぐらい(10兆円以上)と見積もられていた。「イラク・バブル」に沸く現状について、正確なところはわからないが、イラク戦争では「軍事の外注化」がかつてなく大きく進んだことからすると、イラク戦費のかなり大きな部分がPMF業界に流れたにちがいない。米国の2006年度予算教書の検討から明らかになったイラク戦費は、年間900〜1,000億ドルのレベルである。
※「ブッシュの軍事予算:真の実態、急膨張構造、財政赤字急増の主因、社会的諸矛盾」(署名事務局)

 つい先頃、ヒートでの事件をきっかけにPMFについての報道が数多く行われるようになったが、6月26日(日)にNHKでテレビ放映された特集番組「“戦争”請負人・イラク民間軍事会社の実態」では、イラク戦争をきっかけに起業した英国のPMFが取材されていた。元英国特殊部隊将校が、元兵士を雇って一定の再訓練をほどこしてイラクに送り込むのである。要人警護などを担当する従業員1人1日当たりの「売り上げ」は何と11万円。そのうち7万円が本人に支払われ、4万円がこのPMFの起業家のものになり、1人につき1年で約1,500万円の儲けになるという。この2年間に130人あまりをイラクに送り込んだというから、10〜20億円というレベルの儲けである。1人でやっているらしいこの経営者は、夢にも想像できなかったほど儲かっていると、インタビューに答えていた。この番組では、さらに、米国での「軍事の外注化」がどこまですすんでいるかを紹介し、南アでの取材では、現職の警察官が長期休暇をとってイラクに稼ぎに行く実態が明らかにされていた。


(3)過大見積もり・不正請求の横行
 PMFのボロ儲けは、実際の経費を過大に見積もって請求したり、ありもしない業務をでっち上げたりすることによっても生じている。既に「イラク・バブル」以前から、過大見積もりや架空業務などによる不正請求が問題となっていた。典型的な実例としては、ダインコープ社の人件費詐取事件がある。ダインコープ社は、米軍との間に航空支援契約を結んだが、「同社が米国の戦闘機用航空機の整備に任命した社員の前職は、ウエイトレス、ガードマン、調理師、現金出納係だった。(中略)敵の攻撃ではなく整備の欠陥から墜落した多くの航空機の元をたどっていけば、整備したのが民間企業のこんな無資格な従業員だったという事実にまでさかのぼることができるかもしれない。」(『戦争請負会社』p.306)

 このような事態が「イラク・バブル」の中にあっては、どれほどのモラルハザードを引き起こしているか定かではないが、『戦争請負会社』の2004年9月に書かれた「日本語版刊行によせて/イラクと民営軍事請負業」では、シンガー氏は次のように書いている。
 「契約によって委任する場合の一般的概念(過大請求、時間の過大申告、未熟人員の供与、品質保証の問題等々)が、軍事領域に入り込んでくる。これがBRS社、すなわちハリバートン社のような企業に向けられた戦時不当利得の申し立ての中心にあった問題である。これらの企業は、乱用してくださいと言わんばかりの原価加算契約(原価に所定の利益を加算する契約)の下に活動しているから、イラクの例では、過大価格のガソリンとか実際には行われなかった業務への請求などが起きていた(つくってもいない食事の料金請求や「帆船の燃料」輸送などで、これは企業のトラック運転手が笑って言うには、何も乗せていないパレット(フォークリフト用荷台)をあちこち移動することだ)。」(『戦争請負会社』P.11)

 PMFのボロ儲けについて、もうひとつ指摘しておかねばならないのは、国連の諸機関
やNGOなどがPMFを雇う場合のことである。「PMFにとって大いに気をそそるもう一つの『金のなる木』は、国連の機関やNGO(非政府組織)のような人道的義務を有する団
体のために働くことである。」「国際組織やNGOからの度重なる支援要請は、この業界の収入の流れを多角化し確固たるものにする。さらに良い点は人道的活動は長期にわたる傾向があり、仕事が長引くので企業の利益も増えるということである。」(『戦争請負会社』P.170-171)
 その典型的な例として地雷撤去がある。これはPMFの積極活用を提唱する人々の論拠のひとつになっているものであるが、その実態はひどいものである。「たとえばPMFによる地雷除去活動に共通する苦情は、彼らは主要道路(除去が簡単であるうえに、契約の成功を判定する共通の尺度だから)だけを除去することが多く、必要な活動であるにもかかわらず、田舎の小道や学校周辺の地域を除去するような危険なことは概して無視されてしまうというものである。」(『戦争請負会社』P.308)
 PMFは、人道的活動までも食いものにしているのである。



[2]カネ目当てなら何でもする−−“戦争の民営化”とPMFのモラル崩壊

(1)正規軍をも蝕みはじめたモラルの崩壊
 PMFの道徳的腐敗・退廃は、不正請求などによるボロ儲けだけにとどまらない。より重大なのは、モラルの崩壊である。もちろん国軍、正規軍でもモラル崩壊は避けられない。旧日本軍の中国や朝鮮で行った蛮行、ベトナムや今回のイラクで米軍が行った戦争犯罪や金品の略奪を取り上げるまでもない。
 しかし、“戦争の民営化”とPMFによる軍規の紊乱、腐敗・退廃ぶりは、カネ目当てなら何でもするというところにある。例えば、アブグレイブ刑務所で生じた事態に端的に表れている。あのおぞましい拷問・虐待事件に関わった通訳の全員と尋問者の半数が、タイタン社とCACI社という2つのPMFの従業員であった。カネ目当てに雇われた元兵士が、危険と背中合わせで高額の報酬を手にし、軍規にも縛られずやりたい放題の振る舞いができる。そのような状況が現出しているのである。そして、その腐敗はどんどん蔓延して、正規軍をも蝕みはじめているのである。

 このようなモラル・ハザードは、今回の「イラク・バブル」の中で腐熟した形で現れたのであるが、それ以前にも既に生じていたことである。『戦争請負会社』の中では、「バルカン半島の作戦活動において、数多くのダインコープ社の社員が性犯罪(12歳の若い娘を「所有する」などということを含む)、売春騒ぎ、不法な武器取引などにかかわった」ことが紹介されている。「ダインコープ社のボスニアの現場の管理担当者は、自分が二人の若い女性を強姦するところをビデオにとっていた。しかし刑事訴追された者は一人もいなかった。現地当局の目の届かない国外に容疑者が連れ出されただけであった。そのうえ、同社は犯罪行為を『内部告発した』社員を解雇した」のである(p.432)。

 PMFのモラル・ハザードは、敵味方の双方に通じて仕事をして暴利をむさぼるということにもあらわれる。
 「最も罪深い主張の一つは、ある企業が紛争の敵味方双方に通じて仕事をし、自社の商業的利益を確保しているというものだ。ライフガード社はシエラレオネの反乱軍に武器を供給したとされる。同時に、鉱山会社数社に雇われ、その事業を反乱軍の攻撃から守る仕事を請け負っていた。ライフガード社は、戦乱地帯で邪魔されずに採掘が続けられるよう代償を用意しただけだと主張した。ライフガード社は、サンドライン社と兄弟会社であり、サンドライン社は政府に雇われ、反乱分子の掃討をやっていた。同様に、スカイ・エアカーゴ社は、サンドライン社の契約の一部としてシエラレオネ政府に空からの物資の供給を行なっていたが、反乱軍側にも兵器を供給していたことが報道されている。」(『戦争請負会社』p.310)


(2)軍全体の道徳的腐敗と、軍に対する国民の信頼が崩壊する危険
 PMFが暴利をむさぼり、その従業員に現役兵士の数倍もの給与を払い、道徳的腐敗をまきちらしながら、かつて軍が行なっていた業務の多くを担うようになってきたというこの事態は、重大な諸結果をもたらす可能性をはらんでいる。つまり、軍全体の道徳的腐敗や軍に対する国民の信頼の崩壊という恐るべき事態を懸念する声があがるようになってきているのである。
 『戦争請負会社』では、2つの代表的な意見が紹介されている。ある軍事アナリストは、軍隊内での軍事業務が後にPMFに雇われたときのための訓練という位置づけがなされるようになることを懸念している。また現役の陸軍大佐は、「元将校が国際市場で金儲けのためその技能を売るとき、職業軍人全体がアメリカ国民に対して持つ高い道徳的地位を失
う」と述べている。そして著者シンガー氏は、こうまとめている。「こうしたことの最終的な結果は今後に残されている。しかし、確かに民営軍事活動は軍人という職業を利得動機に結びつける。それが大衆の尊敬を得ている価値観に反することは明白である。軍の元将校が公金で得られた専門知識や訓練をタネに金儲けしているのを見て、今軍隊にいる多くの人々が心配するのは、軍の指導者が持つ動機の善良さに対する大衆の信頼や、軍に対する尊敬が先細りすることである。」(p.400)と。


(3)政治的隠れ蓑として利用されるPMF−−米政府は最初にバルカンとコロンビアで活用
 米国は世界各地で軍事介入を行い続けてきたが、それを正当化する論拠として、米国は人権を護り、人道支援を行い、民主主義を守っているという虚構を駆使してきた。しかし、その虚構の立て前が逆に米国政府・国防総省の手を縛るという側面も生じている。つまり、議会や人権団体などによる監視や政府の説明責任である。PMFは、90年代を通じた急速な発展の中で、政府がそのような制約からのがれる手段として使われるようになった。

 さまざまな国際的・国内的制約をかかえた米国政府の代理としてPMFが活用された最初は、おそらくバルカンでのMPRI社であろう。既に『戦争請負会社』の書評で紹介したが、1994-5年当時、武器禁輸や軍事訓練禁止などで米国政府が表立って活動することができなかった中で、MPRI社がクロアチア共和国の軍事訓練を担ったのである。
 もうひとつ大きな実例は、南米コロンビアである。石油をはじめとする資源に加えて地理的にも重要な位置にあるコロンビアには、「フォーチュン500社」のうちの400社以上が進出している。しかしコロンビア政府は、反政府軍の鎮圧に40年以上にわたって失敗してきた。第二期クリントン政権のもとで「麻薬撲滅」を口実に「コロンビア計画」が策定され、MPRI社やダインコープ社が雇われて動員された。ここで問題となっていたのは、議会が政府に課した制約である。
 「それは主として米国兵士への危険性を懸念したためと、とんでもない人権蹂躙記録を持つ現地軍を支持することへの懸念からだった。とりわけ準軍隊組織の暗殺隊を是認したことが祟った。結果として、コロンビアは米国の軍事援助の第三番目に大きな受領国だったが、米国兵士が訓練できるコロンビア軍の部隊は法的に制限されていた(人権侵害を犯した者のいない部隊だけだったのだ)。またどのタイプの作戦を手伝っていいかも決まっていた。米国兵士は麻薬撲滅作戦ではコロンビア人を援助できたが、内乱鎮圧の援助は禁止された。」(『戦争請負会社』p.403-404)
 つまり、立て前の口実は認められたが、本当の目的の方は議会によって法的に禁止されてしまったのである。PMFは、こうした制約を回避するために使われた。


[3]軍にとって不可欠になればなるほど制約・弱点にもなるという矛盾

(1)PMF従業員の比率は第一次湾岸戦争の10倍に
 民間の軍事要員は、これまでの戦争でも存在していた。だが、今回のイラク戦争では、それがかつてないほどの規模に飛躍した。1991年の第一次湾岸戦争と比較して、米軍将兵と民間の請負会社従業員との比率は、およそ10倍になった。60以上のPMFが2万人以上をイラクに派遣していて、これが事実上米軍に次ぐ「二番目に大きな兵員」であることは既に報告したとおりである。この点では、予備役の動員が政府の思うようにはいかなくなってきているという事情が大きい。米国では、ソマリア介入失敗以来、特にその困難性が増したといわれている。そのことから、かつては予備役が主として扱った兵站部門が大規模にPMFに外注されているのである。


(2)軍とPMFとの一体化とそのリスク
 シンガー氏は、PMF従業員の死傷者について、2004年夏までに115人が死亡し300〜400人が負傷したと推定している(正確なところはわからない)。そして、このイラク戦争でPMFが果たした役割について、次のように述べている。
 「死傷者数よりももっと重要だったのが、民間兵士が果たした役割で、そのどれもが作戦の成否にとって決定的なものだった。戦争が始まる前に、民営軍事請負企業は図上演習と野外演習を米軍に対して実施した。侵攻の際、これがきわめて有効であったことが証明された。企業はまた、作戦用のミサイル発射台やクウェート砂漠の巨大なドーハ基地を建設し、これを運営した。戦争中には、兵站を運営し、またF-117ステルス戦闘爆撃機、アパッチ攻撃ヘリコプター、F-15戦闘機、U-2偵察機のような非常に高度な兵器の維持管理、燃料補給、武器搭載などで同盟軍の支援を行うなど、民間企業社員はさまざまに重要な役割を担った。また、グローバルホーク無人偵察機、パトリオットミサイル発射台および種々の艦載用防空兵器のような高度な技術を必要とする戦闘装置の運用支援も行った。」「しかし、企業の役割がさらに拡大することになるのは、引き続いた占領期においてだった。」「端的に言えば、イラクの作戦は、民間の軍事支援がなければ維持できなかったのである。」(『戦争請負会社』p.9-10「日本語版刊行によせて」)

 軍がこれほどまでにPMFに依存するようになると、軍とPMFとの分かちがたい結びつきが生じてくる。いわば“軍とPMFとの一体化”である。しかしこれは、軍にとって重大な問題をはらんでいる。最大の問題は、PMFとその従業員が軍の命令系統や軍法から外れた存在だということである。にもかかわらず、軍事作戦の重要で不可欠の一部になっているのである。この点については、『戦争請負会社』で次のように考察されている。
 「民間従業員の戦場離脱と公的機関のそれとの本質的な違いは、脱走ならば軍法によって起訴されて死刑もあり得るが、PMFが持ち場を離れることは脱走ではなく、限定的な強制力しかない契約に単に違反するということである。PMFにはその従業員の脱走を阻止するような軍隊と同等の強制力がないというのが、単純な事情である。」「このように、雇われ部隊の義務感や責任感は、軍隊の比ではなくはるかに劣る。契約従業員は、後退したり死傷者が出たりすると簡単に意気阻喪し、戦況が悪化すると将校の命令を聞かなくなりがちである。歴史を通じて、こうした崩壊と逃亡という結末こそ雇われ部隊の最大のリスクだった。」(p.312)
 この他にも、PMFが多用されることに伴うさまざまな問題点が論じられている。すでに見たように、道徳的腐敗がPMF従業員に蔓延し、それが正規軍をも蝕みはじめているということもある。さらに外注化された部分についての技能が軍から奪われてしまい、もはやPMFに頼る以外になくなるという問題もある。そして、米軍の上級将校たちの間でもうひとつ大きな議論になっているのが、同盟諸国との軍対軍の緊密な関係がPMFの介在で大きく損なわれるのではないかという危惧である。

 これらさまざまな問題点は、軍事作戦が順調に進み勝利的前進をとげているときは表面化せず、むしろ米軍にとって「プラス」の効果の方が前に出るかもしれないが、軍事作戦が失敗し泥沼化していくときには、その「マイナス」の諸側面が次々に露呈していくにちがいない。現に戦争・占領が「泥沼化」しているイラクで露呈しているのである。



「民営軍事請負会社」(PMF)リスト(xlsファイル)


〔注〕この表は『戦争請負会社』の記述やインターネットを通じて拾い上げることのできたPMFのごく一部である。分類や特徴づけは流動的、部分的なものである。

〔色分け等について〕
・社名欄の黄色…特に注目すべき典型的な会社や大規模な会社。
・分類欄の記号
p…軍事プロバイダー会社(直接的な戦闘業務を提供)
c…軍事コンサルタント会社(軍事訓練、戦略の助言を行なう)
s…軍事サービス会社(兵站、情報収集、技術支援、補給、輸送を行なう)
・特徴欄の色分け
赤…ここ数年の注目すべき事件
灰緑…『戦争請負会社』で詳述
・その他欄の色分け
水色…エグゼクティブ・アウトカムズ社関連会社
エグゼクティブ・アウトカムズ社自体は解散したが、その元社員が作り上げた数多くの会社は、今もなおアフリカをはじめ全世界で戦闘を請け負っている。一方、この関連会社の中には、地雷撤去や動物保護、赤十字国際委員会の護衛等を受け持つ会社もある。しかしながら、こうした「人道」部門は、彼らが“傭兵”であるということをカムフラージュする役割を果たしていると同時に、やはり利益を上げる手段でもある。例えば、地雷の撤去は、簡単で成果の見えやすい幹線道路でなされることが多く、本当に必要な田舎の小道や学校の周囲は無視されてしまうことが多い。
橙色…MPRI社関連会社
米国の退役軍人で構成され、米軍と密接な関係を持っていたMPRI社がL-3コミュニケーションズ社と合併することで、ますます米軍・米政府・旧来の軍需産業との癒着融合が深まっていることがわかる。L-3社は米国の軍産複合体のトップ企業ロッキード・マーチン社の子会社なのである。
・黄緑…BRS関連会社
BRSはKBR(ケロッグ・ブラウン&ルート)社とも呼ばれるハリバートン社の子会社であり、ハリバートン社は巨大持ち株会社のカーライル・グループの投資先として深いつながりを持っている。副大統領チェイニーはハリバートン社の元最高責任者であり、ブッシュ(父)元大統領はカーライル・グループの顧問である等々、ブッシュ政権と人的にも緊密な関係を持っている。
・紫…アーマーグループ
防弾衣を扱っていたアーマー・ホールディング社が、英国のDSL社(英空軍の精鋭部隊であるSASの元隊員を雇用)と合併。元KGBの精鋭部隊アルファの隊員で構成されたアルファ社をも買収するなどして、巨大多国籍企業に成長中。



いくつかのサイトをのぞいてみると…

 ブラックウオーター社のサイトは、まさに「戦争請負会社」の名にふさわしい。この会社が単なる「民間警備会社」などではないことは一目瞭然であろう。(ぜひ表のサイトアドレスをクリックしてみてください。)

 多くのPMFのサイトは、むしろ「傭兵」のイメージを払拭するような「さわやかな」イメージをかもし出そうと懸命になっている。本文で触れた道徳的腐敗の実例であるダインコープ社も、サイトの写真だけ見ると、まるで建設や技術、運輸系の会社のように見える。

 アブグレイブ刑務所での拷問事件に関わったタイタン社のサイトは、どのページも星条旗だらけ。同じ事件に関わったCACI社もトップページからいきなり星条旗と白頭鷲(米国の象徴)であり、顧客としては、国防総省、FAA(連邦航空局)、沿岸警備隊事務局、FBI、国務省、防衛情報システム庁といった、政府関係の省庁がずらりと並んでいる。アブグレイブ事件に関わった米軍兵士(下っ端)は裁かれたのに、これらの会社の社員が、「民間企業」であるというだけで、その責任が一切問われていないとは…?

 ヴィネル社のサイトは特にここを見てほしい。サウジアラビアとの関係の深さが一目瞭然である。http://www.vinnell.com/ArabiaRecruiting/recruiting.htm

 BRK(KBR)のサイト下方には、START(戦略兵器削減条約)に従ってICBMの解体を行なうロシアの手助けをしていることが書かれている。ロシアの核削減をアメリカの民間会社が請け負うというのは実に奇妙な印象を受ける。(一方、米国はABM(対弾道ミサイル条約)から脱退した上、STARTII条約議定書の批准を拒否しており、核軍縮をまったくやる気がないのだが…。)

 現在、イラクで日本の外務省職員の警護として雇われているコントロールリスク社は、1992年に東京支社を開設し、今までに60以上の日本の多国籍企業と契約してきたという。PMFと日本とはすでに大きな関わりを持ち始めていたのである。

 ロッキード・マーチン社、この会社はPMFとしてよりも、兵器産業としての歴史の方が長く、田中角栄元首相の「ロッキード事件」でも有名である。
(日本に関する記述はPMFとは直接関係がないが、興味深いのでその概要を示しておく。この会社と日本との関わりは、すでに1930年代から始まっている。そして今や、年間受注額が10億ドルになろうとしている日本は国際市場における同社の最大のお得意様である。その顧客は政府・自衛隊だけではない。同社は1975年以来、14個の日本の人工衛星を設計し、組み立ててきた。そのうち8個はNHKのための放送衛星である。1990年以来、同社は新型F-2支援戦闘機の共同生産を三菱重工業、富士重工業、川崎重工業とともに行なっている。またイージス艦戦闘システムも同社が日本に対して供給しているものである。)
http://www.lockheedmartin.com/wms/findPage.do?dsp=fec&ci=13088&rsbci=13151&fti=0&ti=0&sc=400