米軍のイラク向け過小兵力の顕在化と海外過剰兵力展開の危機
−−イラク戦争の泥沼化・ベトナム化、米兵の士気低下と厭戦気分が一挙に露呈させた米軍の根本的弱点−−

(1)はじめに−−米軍の過小兵力=海外への過剰兵力展開。
 米政府、米軍内部で、米軍の海外展開の「延び切り」「過剰拡大」がここへきて急速に大問題になっている。問題になっているのは地上部隊である陸軍である。占領と「治安維持」、換言すれば「権益」と「勢力圏」の制圧の任に当たる陸軍である。
 まだ日本のメディアではイラク戦争の泥沼化という形で、イラク現地の米兵の犠牲者が増え続けていることを報道するにとどまっているが、実はその同じ問題が、米軍のローテーションの限界を示す重大事態を反映していることについてはほとんど報道されていない。なぜ第三歩兵師団を中心に1年近くも現地で作戦に従事する兵士たちを帰還させることができないのか、なぜ「早く米国へ帰還したい」と不満を爆発させる兵士たちにこれまで帰還時期を示すことができなかったのか。
 背景には、あまりにも世界中に戦争と軍事介入を拡大しすぎた現在のブッシュ政権の下での米陸軍の過小兵力問題、あるいは過剰拡大問題が存在する。侵略国家アメリカの軍事的限界であり、空爆を主体とするクリントン政権時には露呈しなかった矛盾である。


 交代要員が決定的に不足しているが故に、疲れ切った兵士たちがいつまで経っても本国へ帰還できない−−このことがイラクでのゲリラ戦の勃発と意外な苦戦で一挙に顕在化したのである。戦場も知らず軍務経験もなくベトナム戦争時には兵役から逃げ回っていた米の札付きのネオコンたち、彼らはラムズフェルド国防長官、ウォルフォウィッツやフェイスらを筆頭に国防総省で主導権を握り、アフガニスタンやイラクや世界中への戦争拡大と軍事介入を指揮してきた。彼らは軍事覇権の野望に取り憑かれ、机上で思い付いたまま、まるでチェスの駒を動かすように戦争ゲームをやり始めた。また抵抗する陸軍司令官を更迭させてまで米陸軍を世界中に派兵する一大再編計画を断行し始めた。
 ところがこれまで順風満帆、行くところ敵なしだった彼らの侵略計画と軍事覇権構想がここへきて一挙に破綻の兆しを見せ始めたのである。要するに戦争拡大のしすぎ、軍事介入のやりすぎが、現有軍事力のキャパシティを越えてしまったのだ。


(2)イラク戦争の泥沼化、ベトナム化が矛盾爆発のきっかけ。生身の兵士たちの不満の爆発。
 きっかけになったのはイラク戦争の泥沼化。最近では若い米兵士の声「なぜ我々がここにいるか分からない」、「国防長官がここにいれば辞任を要求する」、「なぜ本国へ帰還できないのか」等々、不満が爆発寸前にまで来ていることを、メディアも政府も認めざるを得なくなっている。彼らは40度、50度の灼熱とどこから襲われるか分からない24時間の緊張状況の中で、毎日平均1人が戦死し、6人が負傷する占領下での「治安維持」に嫌気がさしているのだ。しかもイラク国民の解放もウソ、大量破壊兵器もイラクの脅威もでっち上げだったことが明らかになり始め、「大義なき戦争」であったことが政治問題化している。兵士の士気の低下と厭戦気分が否が応でも高まってくるのは当然と言えよう。
 しかしなぜ彼ら兵士は、約束された帰還時期を過ぎてもイラクから帰れないのか。実はそこに現在の米軍の根本的な弱点が現れているのである。1師団、1旅団すら交代部隊を派遣できない状況が露わになったのである。
※「イラク戦争の泥沼化、ブッシュ・ブレアの窮地の下でのイラク特措法廃案の闘い」(署名事務局)。最近のイラク情勢を国際情勢との関連で詳しく問題にした。ぜひ併せてご覧頂きたい。


(3)7月23日のキーン陸軍参謀総長代行の苦しい弁明、画餅の「部隊交代計画」。
 米国防総省は7月23日、キーン陸軍参謀総長代行が記者会見を行い、最も強い不満が出ている部隊を中心に駐留部隊を交代させる計画を発表した。少なくとも言葉の上ではこれで帰還時期を示したことにはなる。しかし後で詳しく述べるように、この発表にはまだ確かな裏付けはない。とにかく爆発し始めたイラク現地兵士の不満と怒りをなだめすかすためアリバイ的に発表したのが事実のようだ。

 英BBCの報道によれば、要点は3つ。
−−急遽対応せざるを得なかったのは、ローテーションの時期を明らかにしないと兵士の士気が崩壊し、何をするかわからないこと。
−−今の過剰拡大状態は陸軍には重荷であること。
−−ローテーションは有りそうもない外国の部隊の参加を前提にしていること。
※「US Army unveils Iraq troop plan」(米陸軍はイラクの部隊のローテーションの計画を発表した)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/3091699.stm
※このBBC報道の元になっているのは国防総省のブリーフィングである。
「Gen. Keane Press Briefing on Plans to Rotate Forces in Iraq」
http://www.dod.mil/transcripts/2003/tr20030723-0444.html
※「Keane announces overseas unit rotation schedule」(キーンが海外部隊のローテーションスケジュールを発表)Army News Service By Spc. Bill Putnam  July 23, 2003
http://www4.army.mil/ocpa/read.php?story_id_key=5072

 キーンが記者会見で用いたスライドを見れば米陸軍の過剰展開が分かりやすい形で図示されている。
http://www.defenselink.mil/news/Jul2003/030723-D-6570X-001.pdf

−−このスライドの2ページ目を見ると、陸軍の現役師団(Active)の兵力48万5000人の内、何と半分近くの23万2759人がすでに海外に派兵されているのだ。現役の旅団数33のうちの24旅団(3分の2以上)が海外配備中ということになる。さすが「世界の憲兵」、世界最大の侵略国家だ。
−−さらに、予備役(Reserve)も20万6千人の内、3分の1近い6万1590人が海外配備され、州兵(National Guard)さえすでに5分の1以上が派遣されている。現役師団を含めてこれらの総数は36万8900人にのぼる。
−−4ページ目でローテーションの計画が書かれている。最優先はバグダッドに突入した第3歩兵師団である。この部隊は昨年の9月以来配備され、配備期間が1年に及ぼうとしている。しかも、いつ帰れるかわからないうえ、いつ攻撃されるかわからない極度の緊張状態におかれているのだ。著しく士気が低下し、やけになったり不満を爆発させたり、もうコントロールできない事態になりかねないのかも知れない。この間、米英メディアに一般兵士たちが登場し、最も激しく不満を爆発させている部隊である。何が何でも帰還計画を明らかにして不満を沈静化する必要があったのだろう。
−−しかし元々米陸軍には、海外派兵を前提にした師団編成の部隊(現役師団)は10個しかない。そのうち5個がイラクに、1個がアフガニスタンに派遣されているのである。さらに韓国に1個師団が配備されている。どこから交代部隊を連れてくるのかが大問題なのである。
−−ローテーション表によると、第3歩兵師団は今年9月に第82空挺師団と交代するとある。ところがこの第82空挺師団は、第2旅団がイラク占領に参加しているばかりか、残りはアフガニスタン占領の主力部隊なのだ。そのため本土からアフガニスタンに第10山岳師団を送ることにならざるを得ない。交代を急ぐのはこの第3歩兵師団と第1海兵遠征軍1MEFであるという。この2つの部隊だけを今年の9月に交代させ、後の部隊には期間は1年と宣言し、来年の1〜4月までイラクに釘付けにするつもりだ。第1海兵遠征軍はまだ1年には満たないが、もしも次に世界のどこかで戦争を起こす事態になったときには一番先に突撃部隊として必要なので、一旦帰国させるつもりなのだろう。(これまでも突撃部隊である海兵隊は、上陸作戦が終わった後は引き揚げるのが普通)。
−−問題は交代部隊をどこから引っ張ってくるかである。まず最初に第1海兵遠征軍の交代がポーランド指揮下の多国籍師団となっている。さらにモスルなど北部を占領している101空挺師団(ウダイらを襲撃した部隊)の交代も多国籍師団だ。BBCによれば3個師団を外国の部隊で埋めるという。(この表の中には英国軍は入っていない。おそらくこれが含まれる)
−−戦力的には5個師団相当(4個+3旅団)+海兵隊1個師団+英陸軍1個師団を5個師団+1個旅団(師団の3分の1)+英1個師団にするわけで、総兵力で7個師団を6個1/3に、米軍の割合を6個師団相当から3個1/3に半減するというものである。こんな話がうまくいくはずがない。インドの派兵正式拒否以来、キリキリ舞いする米軍に参加する国など、属国日本以外はないのが実情だからである。喉から手が出るほど米兵に代わって戦死してもらえる交代部隊が欲しい米政府・米軍は、日本だからと言って特別扱いしてくれる保証はどこにもないのだ。そんな余裕はないというのが現実だろう。行けば間違いなく銃を持って戦闘に立てと要求されるだろう。
−−いずれにせよ、今のところ米軍の交代部隊には確かなメドはない。キーン代行が発表した予定は画餅に過ぎないのが実態なのである。これから日本や海外に猛烈な圧力を掛けて間に合わせの軍隊を引っ張ってくるか、急遽米の予備役部隊や州兵部隊を動員して再編成して送り込むか、これからかき集めることを前提としているのだ。さもなくば現地部隊の派遣期間を伸ばすしかない。すでに現在の計画でさえ、朝鮮半島向け応援師団と指定されている第1騎兵師団まで根こそぎ動員するものである。それこそ今後一層、ゲリラ作戦が活発化、先鋭化すれば、駐留の長期化、交代部隊の動員拡大、州兵・予備役の招集、外国の部隊の派兵圧力は避けられないだろう。


(4)すでに7月初めから露呈していた米軍の交代要員不足問題。
 アビザイド新中東軍司令官は7月16日、就任議初めての会見を行った。会見では「古典的なゲリラ戦争が起こっている」「イラク全土が戦場である」と認めたことが日本でも大きく報道された。しかし会見の英文ブリーフィングを読むと、実は「ゲリラ戦争」云々の部分は極めて短く、会見での記者との質疑応答の圧倒的部分は、イラク現地の兵士たちはいつ帰れるのか等々の、イラク現地に行きっ放しになっている部隊の交代要員の派兵、ローテーションについての疑問と質問だったのである。
※「DoD News Briefing - Mr. Di Rita and Gen. Abizaid」
http://www.dod.mil/transcripts/2003/tr20030716-0401.html

 米軍の現在の過剰な海外展開については7月初めから米系メディアで、“overstretch”“overextention”、つまり兵力が“伸び切っている”“拡大しすぎている”という表現で政治問題化し始めていた。クリスチャン・サイエンスモニター紙は7月11日にリベリアへの派兵問題で米は「過剰拡大の危険にさらされるかも知れない」と報じた。7月3日にはワシントン・ポスト紙が、キーン代行がブリーフィングで説明したのと同じ内容、イラク現地の交代要員のローテーションが行き詰まっている様子を報じた。フィナンシャル・タイムズ紙は7月18日、「軍の士気をめぐる懸念が高まっている」という記事を載せた。
※「US force nears limit of its global stretch」By Peter Grier and Faye Bowers | Staff writers of The Christian Science Monitor July 11, 2003 http://search.csmonitor.com/search_content/0711/p01s01-usmi.html
※「IRAQ: US occupation troops losing morale」BY ROHAN PEARCE  Green Left Weekly, Australia's socialist newspaper Issue #545 July 9, 2003  http://www.greenleft.org.au/
※「Concern over army morale mounts 」Financial Times, Jul 18, 2003 By Peter Spiegel in London

 なぜインドの派兵拒否で米政府が大慌てしているのか。なぜ日本に大量の部隊の派兵を強要しているのか。なぜ一旦押し返し越境した兵士の逮捕まで踏み切ったトルコ軍にさえなりふり構わず派兵を要請するまでになったのか。ポーランドやハンガリーなど中東欧や中米などの弱小諸国からなぜここまで兵士をかき集めているのか。等々。−−最近の報道のほとんどは全てこのイラクでの米軍の兵力不足、交代要員不足問題に帰着する。

 なぜ突如パウエル国務長官が、国連の新決議を模索し始めたのか。なぜ米の州兵や予備役を緊急召集してまで、兵士をかき集めなければならなくなっているのか。なぜイラク国内で急遽民兵を組織化しなければならなくなっているのか。これらにも全て同じ背景がある。


(5)すでに破綻しつつあるラムズフェルドの「米軍事力の国際的再編」構想。
 米軍当局はイラク戦争終結後、「米軍事力の国際的再編」という新しい構想を打ち出した。ラムズフェルドの米軍再編戦略である。「テロとの戦い」のためには、対中国よりは「不安定アーク(arc of instability)」(カリブ海、アフリカ、中央アジア、中東、南アジア、北朝鮮などの経済的に貧しい地域を指す)に対して、特殊部隊を中心に急襲作戦を展開できるように、海外駐留米軍を過去50年で最大規模に再配置するという。イラクでの短期圧勝を踏まえて、ラムズフェルド国防長官が自らの「軍事革命」を完成させるために、世界中に展開する米の海外展開部隊を根本的に再編するというのだ。当初それは、「次なる獲物」への軍事的脅迫と一体のものとして、いわば「強さ」の現れとして、私たちも危機感を持って注目してきた。
※「米、海外駐留米軍の再配備でテロ対処に焦点」MAY 27, 2003 東亜日報。
http://japan.donga.com/srv/service.php3?bicode=060000&biid=2003052878768

 しかし今では、それは米軍そのものを破綻させかねない危険な動きとして米軍内外から非難の対象になり始めている。ラムズフェルドから事実上解任されたシンセキ氏との間で争われた大論争、政治抗争の意味が、ここで初めて真実味を持って再論争の俎上に乗ろうとしている。いわゆる「陸軍12個師団論争」(10個師団で12個師団の任務を過剰に担わせようというラムズフェルドと、そんなことは不可能であり現場兵士が持たないと反対するシンセキ氏との間の論争)である。


(6)米国内、世界中で高まるイラクへの派兵反対の動き。
 インドは猛烈な米からの圧力にも関わらず、イラクへの出兵を拒否した。国内の反米・反戦世論を踏まえてのことである。フィリピンもイラク戦争支持に続いて4月10日には500人の軍隊の出兵を表明したが、国内での反発を受けて実施が遅れている。中米・カリブ海諸国でも米の圧力を受けてドミニカ、ホンジュラス、ニカラグア、エルサルバドル4ヶ国が出兵を決めているが、それぞれの国内で野党や民衆の間から派兵反対の運動が起こっている。

 州兵や予備役をイラク現地で酷使すればするほど、見通しのない占領支配に幅広く動員すればするほど、米国内の世論はブッシュ批判、ラムズフェルド批判を強めるだろう。更には他国の軍隊をかき集めてイラク現地で酷使すればするほど、米の世界覇権への批判と不満は一層拡大し高まるだろう。


(7)米の短期圧勝の幻惑と虚構に未だに心酔し崇拝する小泉政権と保守論壇の日本版ネオコンたち。
 4月9日のバグダッド陥落から5月1日のブッシュの戦争終結宣言前後にかけて、米政府やネオコンたちは、完全に自分の見通しと力を過信した。短期圧勝に陶酔し自らの力の限界を全く忘れてしまった。「次はシリアだ」「いや、次はイランだ」「北朝鮮の核兵器開発は放置できない」等々、先制攻撃の次の獲物探しを翼賛メディアと一緒になって騒ぎ立てた。

 このブッシュ政権の軍事冒険主義を神様のように崇め奉り、米のネオコンに心酔し大賛辞を贈った小泉首相と外務省・防衛庁、同政権を牛耳る日本版ネオコンたちは、この勝利の幻惑と米軍事力の超過大評価の上に自分たちの軍事外交戦略や政策を立てた。野党民主党の腰砕けと馴れ合い、国会での多数支配を背景にイラク特措法や「恒久法」のごり押しを進めている。

 ブッシュと米軍の強さに畏怖しこれを崇拝する保守層や保守論壇、読売・産経某紙などの保守系紙もまた有頂天と陶酔状態の中にあり、「米の軍事革命」、「ラムズフェルド戦略」、「米軍事力の新世紀」、「帝国の新時代」、「国連の死」、「国連の限界」等々、進軍ラッパを吹き鳴らしている。しかし自らは戦争の現場も体験しないし、他人事としか考えない小泉首相や石破防衛長官や福田官房長官や政府閣僚や自民党防衛族の面々には、全く理解できない、想像もできないであろう深刻な事態が今、まさに彼らが心酔し崇拝する米軍の中で起こっているのである。


(8)米兵力不足問題、加重負担問題の真っ只中に飛び込もうとするイラクへの「自衛隊」出兵。
 日本は当初、イラク特措法に基づく自衛隊のイラク派兵の場所を南部バスラ周辺に想定していた。ところが英兵士6人が一度に戦死したため、急遽米英に懇願し場所の変更を打診した。そこで出てきたのがバグダッド近郊の「国際空港」だった。ところがまたまたそこで米軍のC130輸送機を狙ったゲリラによるミサイル攻撃が起こった。米軍機はミサイル防衛対策機であったために撃墜されずに済んだと思われるが、その防護策がなされていない自衛隊C130機の派遣を想定していた空自は衝撃を受けた。再び日本政府は「国際空港」以外のところを懇願した。そこで米側から嫌みと挑発を込めて提示されたのがバラドへの出兵である。バラドはスンニ派、バース党の本拠地の一つであり、ゲリラ戦の「激戦地」でもある。自衛隊はそこでの“米兵へのお茶くみ”を実質的指揮権を持つ米軍から命令されたのだ。小泉首相のこれまでの忠犬ぶりを見ているとどこまで突っ張れるのか。どこまで逃げ回るのか。いずれは、いい加減にせよ、自衛隊員戦死の覚悟を決めよと脅されるのは間違いない。政府は困惑している。

 いずれにしても、米兵がゲリラの襲撃で苛立ち不満を爆発させている中で、小泉首相を初め政府与党の連中は一体何を考えているのか。“安全”な“駐屯地”の中で“お茶くみ”だけやっていれば許してもらえるとでも思っているのか。信じがたい幼稚で呆れ返る現状認識である。仮に“お茶くみ”で許してもらってもなし崩し的に周辺地域へ単独でピストン“お茶くみ”をさせられることは避けられないだろうし、「治安維持」の真正面に立たされるのも避けられないだろう。

 小泉首相は23日の党首討論で、ついにこれ以上ない無責任発言をした。イラクの非戦闘地域について「私に聞かれたって分かるわけない」と大声で開き直ったのである。図らずもイラクに「非戦闘地域」などないことを自己暴露したのだ。しかし殺し殺されに行くのである。自衛隊員はこんな無責任でデタラメな首相のために戦死することを良しとするだろうか。
 まだまだある。防衛庁は22日、陸上自衛隊のイラク派遣について、バグダッドでの給水・給油など米軍支援を中心の計画案をいったん白紙に戻す方針を決めた。自衛隊が「米軍と一体」とみなされて攻撃対象となる危険を回避するのが狙いという。また政府は、自衛隊員の戦死の有無を問題にするのではなく、戦死を総選挙の後に回す姑息な計算をしている。実際の派兵は来年にずれ込む可能性もあると。甘く考えていた政府与党のイラク特措法の思惑は次々と破綻している。
※自衛隊派遣、総選挙後に=年内は見送りも−政府方針(時事通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030724-00000967-jij-pol
※小泉首相「分かるわけがない」=イラク非戦闘地域、地名迫られ−党首討論(時事通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030723-00000654-jij-pol
※<イラク派遣>米軍支援を再検討 防衛庁(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030723-00002176-mai-pol

 イラク民衆を虐殺せず、自衛隊員も戦死しない唯一の道−−それはイラク特措法を廃案にするしかない。

2003年7月25日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局



ペンタゴン
軍の士気に対する懸念が高まっている
フィナンシャル・タイムズ 2003/07/18
byピーター・シュピーゲル/ロンドンにて

 軍事評論家の間では、今週、米中央軍新司令官ジョン・アビザイド将軍によって下級の一歩兵に与えられた叱責は、意味深長なものと受けとめられた。

 中央軍司令官は、全国の聴衆を前にして次のことを指摘する必要性を感じたのである。ドナルド・ラムズフェルド国防長官に辞任を求めると述べることは、制服を着た者=軍人として容認できるものではない、と。

 この公の叱責は、ペンタゴンが兵士の士気について、特にますます伸びきっている軍での士気について、いかに懸念しているかということをのぞき見る窓であった。

 「彼(中央軍司令官)は、もしそこに重大な問題があると感じなければ、そのような一兵士をたしなめてしつけようとはしないだろう。」とブルッキングス研究所のマイケル・オハンロンは述べた。「彼が部下の兵士の言動の後追いをする必要性を感じたということは、注目に値する。」と。

 この問題は、改善していく前にいっそう悪化していこうとしている。ペンタゴン当局者は、今では、軍部隊・兵士たちは予測されうる将来について1年の配属−−通常の6か月ではなく−−を予期しなければならないと認めている。

 そして、米陸軍の現役の33個師団のほぼ半分がイラクに配備されていて、−−さらにアフガニスタン、コソボ、朝鮮に追加的に関与している−−、陸軍は、ほぼ 140,000人の予備役を召集せざるをえなくなった。その多くは1年以上軍務についたことがある者である。

 ペンタゴンは、現在、州兵部隊からもっと多くの兵士を戦時体制に動員することを検討している。

 「ラムズフェルドは、後戻りできない一線を越えたかもしれない。」と、予備役兵の間での士気に関連して、ある政府高官が述べた。「我々は、まだ、私が war footing(戦時体制)と呼ぶものには到達していない。減税をしているし、まだ志願兵の軍隊にたよっている。将来の新兵補充が現実問題として浮上してくるだろう。それは誰もが知っていることだ。」

 交替要員がどこから捻出されるかは、不明瞭なままである。アビザイド司令官は、複数の高位の将官が陸軍の支援で海兵隊を当てにするかもしれない、−−近年では、海兵隊は遠征部隊としてしか用いられておらず、平和維持活動はほとんどしていない−−と、ほのめかした。そして、米国の部隊はしだいに国際部隊に置きかえられるだろうと述べた。

 しかし、ペンタゴンは、米軍の配備を減少させるのに必要とされる米国以外の軍部隊を新規調達するについて、問題をいくつも抱え込んでいるようだ。軍事計画担当者は3個師団に相当する外国軍部隊を予期していたが、今週ニューデリーからインドは新たな国連決議がなければ期待されていた 15,000人の部隊を送らないという公式発表があって、新たに到着する外国軍部隊は、専ら、南部のイギリス軍の地域かまたは北部地域のポーランド人部隊によって行なわれている作戦行動に加わって活動することになるだろう。

 「イギリス軍部隊は、ある程度、他のヨーロッパ諸国の部隊に置きかえられているが、米軍にはそれがない。」とオハンロン氏は言う。そして彼の予想では、15万人から17万5千人の米軍がおよそ2年にわたってイラクにとどまらねばならないだろう。

 この数は、陸軍参謀長を最近辞任したエリック・シンセキ将軍によってかつて示された数字であるが、ペンタゴンのシビリアンによって「ひどくかけ離れたもの」として退けられたものなのである。

 ラムズフェルド氏は、軍を大規模展開することに精力的に抵抗した。その必要はないし経費を押し上げるものだと主張した。しかし、そのような交替要員がなければ、酷使された軍部隊は危機に陥ることもありうるだろう。

 オハンロン氏は、こう述べている。「これは、ベトナム以来なかった米軍の質と基本構造を脅かす可能性をはらんだものである。」と。




米軍隊は世界的拡張の限界点に近づいている。
US forces nears limit of its global stretch

「ザ・クリスチャン・サイエンス・モニター」 2003年7月11日
ピーター・グリアー、フェイ・バウアーズ

リベリアへの部隊派遣の決定は、イラクの部隊規模が高水準にとどまっていることのような、どこか他の地域の要求に左右されている。

ワシントン−今やあまりにも多くの米軍部隊が全世界の多くの地域に派遣されており、米軍事戦略は過剰拡張(overextension)の危機にある。

その任務が、国家外交政策の関与に最も影響される陸軍の状況をよく見てみよう。未だに15万人以上の兵士がイラクにとどまり、さらにアフガニスタンの1万人が加わる。また約5千人が平和維持の任務に就いている。

韓国に基地を置く2万5千人の米兵、およびその他の海外基地を加え、海外に派遣されている総数はほぼ25万人である。

この世界規模の平和維持軍は、現役陸軍48万人に加えて予備役55万人から用意しなければならない。少なくともその伸張は、訓練と休暇に大きな損害を与える。深刻な場合、任務を離れなければならないような疲労とホームシックに襲われた要員を作り出す。

ブッシュ大統領は水曜日、懸念される負担の大きさはリベリアへの様々な米平和維持任務を制約するかもしれないと述べた。

混迷を深める西アフリカの国々への米のいかなる関与についても最終的な決定は未だ下されていないと、南アフリカ共和国タボ・ムベキ大統領との共同記者会見の場においてブッシュ大統領は語った。

しかし大統領は、ペンタゴンはすでにナイジェリア、セネガル、その他諸国からなるアフリカ人平和維持部隊の訓練を実施していることに言及した。このようにリベリアへの米のいかなる展開もアフリカ人部隊の訓練と支援を中心としているようである。「我々が決して過剰拡張にならないために、その戦略を続けることが我々の関心事である」とブッシュ大統領は述べた。

軍内外のアナリストたちが、薄く伸びきっていることを懸念する主な理由は明白である。それは、イラクにおける莫大な兵力維持の必要性である。

政権の戦前の評価では、米占領軍はわずかな期間で5万人にまで削減できると考えられていた。イラク人による官僚機構がすばやく治安維持と政権を担うであろうと、計画立案者は考えていた。

さて、戦争直後の略奪と治安悪化、さらに破れたサダム・フセイン政権の残党による抵抗の継続、このような状況が到来した。

水曜日(7/9)の議会公聴会の場においてイラク戦争での米軍部隊司令官トミー・フランクス将軍は、現在の15万人の部隊は「予測しうる将来」までイラク国内にとどまり続けるであろうと述べた。

この新たな事実は驚くようなことではない。それにもかかわらず、政府が今なおそのようなイラク平和維持計画を考えていることに上院議員たちは不満を漏らしている。「陸軍とその他の任務において、我々は危険なまでに薄く伸びきっている」とロードアイランド州のジャック・リード上院議員(民主党)は述べている。

見込みの裏切り

バグダット攻略時のように危機が継続する間、能力の限界まで米軍が伸びる切ることは驚くことではないとあるアナリストは語った。

問題はその後におとずれる事態である。多くの在外米軍部隊には、数ヶ月間も家族や仕事から引き離されている予備役が含まれている。陸軍の現役兵士の半数は結婚しており、同様に家庭の団欒から引き離されている。

たとえまもなく帰還できたとしても治安状況が不安定なままならば、多くの部隊は2004年、あるいは2005年にさえもイラクへの再派遣に直面するかもしれない。

「もしも男女の兵士が長期間にわたって家族から引き離され続けるならば、我々が[軍隊内に]保持している職業意識の水準を維持することができなくなるであろう」と、戦略と国際問題研究センター(Center for Strategic and International Studies)の軍事専門家アンソニー・コーデスマン氏は語っている。

今日では軍隊内の大部分の兵士たちは、(海外)派遣と戦闘は通例のことではなく例外的なことであろうとの前提に契約している。事実はそうでないと、(兵士の間に)ストレスが蓄積する。人々は任務からはなれ、少数の者は非難しさえする。

「強度に派遣された諸集団のパターンを調べてみると・・・自殺と暴行が増大していることが分かった」と政府のハーバードのジョン・F・ケネディ・スクールの軍事戦略家であるジョン・レペート退役准将は語っている。

解決の模索

新しいNATO諸国の軍隊の共同軍への統合のように、今日の(部隊)展開は長期にわたる派遣のための訓練もまた軽視されることを意味しそうだ。

軍隊を酷使することへの解決法は、これまで求められてこなかった「週末の兵士」の動員を含むかもしれない。

「検討すべき一つの選択肢は、保有する多くの州兵のいくらかを動員する事である」と防衛情報センターの上級アナリストのマーカス・コービン氏は述べている。

ペンタゴンはまた、陸軍平和維持部隊を補充するために海兵隊にさらに依存することになり、さらにおそらく1万から2万人の陸軍兵力の増員を議会に要望するであろう。また当然のこと、米はイラク戦争に反対した同盟国からの部隊を要請するであろう。

「私にとって不可思議なのは、明らかに、機関としてのNATOや国連と接触しようとしなかったのはなぜかということである」とミシガン州のカール・レビン上院議員(民主党)は水曜日に語った。「彼らの(NATO、国連の)支援は、重要な追加的兵力をもたらすであろう」。



米国は代替部隊を見出すのに苦闘している
U.S. struggling to find replacement troops

by ジョセフ・ギャロウェイ
Knight Ridder Newspapers Jul. 18, 2003 (sanluisobispo.com より)

http://www.sanluisobispo.com/mld/sanluisobispo/news/politics/6335469.htm?te...

 ワシントン発 −− ペンタゴンは、困った状況にあるイラクに手薄な状態で展開されている 147,000人の兵士を、順次帰還させる秩序だったローテーション計画を始めるために、十分な新しい部隊を急いで見つけようとしている。

 米中央軍新司令官ジョン・アビザイド将軍が、国防総省の誰もがこれまで認めようとしなかったこと−−米国軍はますますひどくなるゲリラ戦に直面しているということ−−を確認したので、疲れ果てうんざりしている米軍兵士の交替とローテーションの問題が優先課題に浮上した。

 最も簡便な彌縫策は、既にイラクに展開している 14,000人の外国軍部隊、大部分は英国軍部隊であるが、それをさらに数千数万人規模で増大させることであろう。しかし、占領を国際化する交渉は、のろのろとしか進んでおらず、また困難を極めている。

 国防総省の当局者は、トラックなしのトラック大隊を送るというハンガリーの申し出を引き合いに出すことによって困難性を強調した。おそらく米軍は、ハンガリー軍兵士が運転するトラックを提供しなければならないだろう。

 交替要員の必要性は、アフガニスタン、南朝鮮、ボスニア、コソボ、シナイ半島に加えてイラクでの軍務にもたずさわって、すでに伸びきった現役部隊と予備役部隊の両方に大きな緊張をもたらしつつある。−−さらに 5,000人程度の旅団規模の軍部隊がリベリアの平和維持活動に展開されることが予定されている。

 480,000人の米国陸軍は、現役で臨戦態勢にあるのは10個師団だけで、イラクへの展開によってほとんどギリギリのところまで伸びきってしまっている。国防総省長官ドナルド・L・ラムズフェルドと彼のトップレベルのシビリアン側近は、この陸軍からさらに2個師団を切り縮めることをかつて語ったが、議会では、陸軍現役部隊の25%増を強く迫る動きが出始めた。

 退任した陸軍参謀長エリック・K・シンセキ将軍は、先月の退任演説で、12個師団分の任務を10個師団に負わせることに反対して警告を発した。今年2月、シンセキは、議会の委員会でイラク戦後の安全確保には200,000人以上の陸軍兵士が必要であろうと予測して、ラムズフェルドと対立した。

 アメリカの市民兵士(citizen-soldiers)、総勢900,000人の予備役兵および州兵は、そのうち200,000人以上が現役の軍務についているのだが、この市民兵士に出された前例のない要求は、かつてない緊張を強いるものであった。彼らの中には、既に1年以上召集された者もいて、その家族に多大な財政的負担を強いている。そして、多くの場合に、彼らの市民としての経歴と職業を危険にさらしている。

 さらなる予備役と州兵のイラクへの召集がありそうだ。というのは、ラムズフェルドが、これらのパートタイムの軍勢を全面的に再編するための緊急調査と月末までの計画策定を命じたからである。それは、多大な負担を現役配備の軍部隊の中に持ち込むことになるだろう。

 ペンタゴン当局者によれば、予備役と州兵を再編成することについてのラムズフェルドの目的は、米国が世界で何らかのアクションをするたびごとに、それが自動的に多数の予備役や州兵の召集を意味するというわけではないという状態を確保することである。

 身を焦がすようなベトナムの経験の後、前国防総省長官キャスパー・ワインバーガーのようなペンタゴン当局者は、憲兵組織や空中給油機パイロットや民兵組織に関する専門家のような必須のユニットを予備役と州兵の中に組み込むことによって、将来の戦闘作戦行動にアメリカのすべてが関わりをもつという状況を確保することに大変な苦労をした。それで、理論上は、国中のほとんどすべてのコミュニティーが戦争に貢献しなければならないことになる。

 中央軍司令官はこう述べている。イラクでの1年の軍務という状況を確立しようとしている、そしてそこに最も長く滞在している軍部隊が最初に帰還することを確保しようとしている、と。

 それは、米陸軍の15,000人の兵士たち、19日間のバグダッドへの進撃の先頭に立った第3機甲歩兵師団のことであろう。この師団の中の1つの旅団が、クウェートとイラクにほぼ1年にわたってとどまっている。

 ペンタゴン当局者は、さらに多くの州兵と予備役がイラクへの配備のために召集されねばならないかもしれない、と述べた。テキサス州フード基地( Ft. Hood )の陸軍第1装甲機動師団( 1st Cavalry Division )の分隊と、ハワイに駐留している第25歩兵師団が、同様にイラクへの配備へ向けて検討されている。

 国防総省のトップクラスの高官が、イラクを安全にするために必要とされる米軍兵士の数が今までに100,000人以下に速やかに減少していることを望んでいたが、そういう事態にはなっていない。そして、バース党の中堅クラスの頑固な党員や不満をもったイラク人兵士が、アメリカ軍兵士に対していっそう洗練されたゲリラ戦を組織し遂行しつつあるということが、確かなこととして起こっているようである。

 おそらくここ1週間で最も意味深長なコメントは、インターネットで回覧された1枚の写真にあらわれていたものであろう。その写真は、ほこりっぽいイラクの道路を一台の陸軍トラックがうなりをあげて走っていくものである。見たところ鬱積した不満をもった予備役兵が運転しているようで、フロントガラスにプラカードが貼ってあって、それには「月1回の週末、私の...」とある。




ペンタゴンはイラクの平和維持に州兵を動員しようとしている
同盟諸国には大規模派遣する国なし
そのため米軍は目一杯緊張
平和維持派遣が米軍部隊・兵士を疲弊させている

ウォールストリート・ジャーナル 2003/07/17
by グレッグ・ジャフェ

 ワシントン発 −− イラクとアフガニスタンでの平和維持活動の重荷のために、ペンタゴンは、この冬にも州兵を 10,000人も召集することを余儀なくされると予測されている。それは、2001.9.11以来繰り返し動員されてきたパートタイム兵士の軍勢をさらに緊張させることになる。

 米国の同盟諸国が大規模派遣を拒絶していることから、ペンタゴンは、この州兵動員を考える方向へ向かわざるをえなくなった。ワシントンが 15,000人ものイラクへの派遣を当てにしていたインドが、今週、国連決議なしには参加できないと述べた。対イラク戦争を支持した同盟諸国でさえ、大規模な関与で追随することは差し控えている。ハンガリーは、トラック部隊をイラクに送ることを約束した。しかし、国防総省の当局者は、後になって、ハンガリーが送ろうとしているのは133人のドライバーだけで、トラックや機械工はゼロだということを知った。

 5千人規模の州兵旅団2個分の召集も、ブッシュ大統領にとって重要な政治的意味をもつことになるかもしれない。とりわけ選挙の年に突入するときだからである。イラク派兵に対する一般国民の支持は、イラクでの犠牲者が増えるにつれて、ここ数週間のうちに低下してきている。他国を説得してイラクの重荷を分担してもらうことにペンタゴンが失敗していることは、また、国連の支持なしに戦争に突入したブッシュ氏の決定に疑問を投げかけるものにもなりうる。

 国防総省長官ドナルド・ラムズフェルドは、イラクに配属されている海兵隊と米陸軍の兵士たちを交替させるローテーションを確立するための計画を、今週末、非公式に承認すると予想されている、とペンタゴンのある高官が述べた。訓練の後に州兵が配備されるのは3月から4月になり、そしてそれは、おそらく訓練期間を含めて13か月から16か月の軍務になるだろう。それでも、現役配備軍の差し迫った必要性は、極度に強いままにとどまるだろう。ある国防総省高官は、最近、軍がこれほどまでに伸びきって手薄になったのをこれまでに見たことがあるかと尋ねられて、「軍事に携わった私の31年の中で、かつてなかったことだ。」と述べた。

 昨日ひとりの米軍兵士が殺され、5月1日にブッシュ氏が主要な戦闘作戦行動の終結を宣言して以来の戦闘における米兵の死者が34人になったことは、米軍が直面している危険を考えさせるもう一つの事例である。3つの別々な攻撃で、さらに6人が負傷した。それとは別に、ヒッラで、ある建物の屋上で見張りをしていた海兵隊員が落下して死亡した。AP通信のカウントによれば、この戦争が始まって以来、全部で216人の米軍要員がさまざまな原因でイラクで死んだ。−−そのうちの半数以上が、4月9日のバグダッド陥落以降である。

 さらに米軍の努力を困難なものにしていることには、アメリカ人とともに働こうとするイラク人が攻撃目標にされることが、ますます多くなってきている。バグダッドの西の町ハディサの親米市長は、息子とともに殺害された。バグダッド中でまかれるビラは、反米の怒りをいっそうかきたてているようだ。新たに任命されたイラク暫定統治評議会から除外された有名なシーア派聖職者の名で発せられたビラは、イラク人シーア派教徒に、バグダッドのモスクでの金曜礼拝に出席するように強く促している。ビラには、「特に、連合軍がイラクの人々に何を行なったか、イラクの人々の意志と意見をいかに無視したか、ということを見たからには。」と述べられている。

 この地域の米軍司令官ジョン・アビザイド将軍は、攻撃については「中堅クラスのバース党員」を非難し、「我々が政治的な成功を達成するにつれて、暴力の増大が」あるだろうと警告した。

 米国は、イラク現地に 148,000人の兵士−−陸軍と海兵隊の部隊−−を置き、クウェートに 33,000人の支援部隊兵士を置いている。さらにアフガニスタンで軍務につている米軍兵士が 11,000人いる。現在、州兵の戦闘旅団はイラクにはいない。もっとも州兵空軍要員で任務についているものはいるのだが。

 2個旅団がおそらくこの冬召集されるだろう、とペンタゴン高官が述べた。彼らは、身の回りを整理するのにおよそ30日の猶予が与えられ、それから実戦配備の前に2〜3か月の訓練が行なわれるだろう。彼らがイラクに到着するのは、最も早くて、2004年の3月か4月である。

 現在、陸軍の33個の現役臨戦態勢戦闘旅団のうち21個が、イラク、アフガニスタン、南朝鮮、バルカンに配備されている。3個の旅団は、近代化の過程にあって海外派兵できない。残るは9個旅団−−45,000人の軍部隊・兵士−−で、これが世界中に配備されている陸軍部隊全部の交替要員である。

 その中から3個旅団が、北朝鮮との緊張が高まる場合に備えて温存されている。南と北の兵士が、国境線沿いの非武装地帯で昨日短く交戦した。来年には、アフガニスタンでの交替要員として、少なくとも2個旅団が必要とされるだろう。それはイラクでの選択肢をさらに縮めることになる。

 もし他国がイラクへの大規模派兵に合意すれば、あるいは現地での状況が改善すれば、緊張度は減じることもあるだろう。そして州兵の必要性も少なくなるだろう。

 国防総省当局者は、平和維持のための大規模派兵が軍全体の準備体制をむしばむだろうということを、特に懸念している。というのも、イラクに配備しているか、これからイラクへ向かおうとしている軍部隊は、激しい戦闘訓練なしで済ませなければならないからである。繰り返し海外派兵され軍務期間も延長されて、兵士たちが軍から離れていくだろうという懸念、そしてそれが深刻な兵士不足をうみ出すだろうという懸念も大きくなってきている。

 民生方面の再建を手がける軍部隊も治安維持の軍警察の部隊も含めて、ある種の高度な専門技術を必要とする兵士たちは、最も大きなストレスを感じている。もしイラクで米軍のレベルが減少させられなければ、民生方面を担当する兵士の供給は2004年までに「底をつく」だろう、とブッツ・アルトシューラー少将は述べた。イラクで民生に携わっている兵士 1,700人のすべてが予備役兵で、だいたいは1年の配属である。配属は2年に延長されねばならないかもしれない、と彼は述べた。

 ペンタゴンの最優先事項は、この戦争を闘ってイラクに残ったままである陸軍第3歩兵師団の中の2個旅団を、9月までに帰還させることである。軍事訓練をいっそう切り縮め、さらに多くの予備役と州兵を召集することなしには、十分な交替要員を見出すことは困難であろう。ペンタゴンは、また、もっと多くの海兵隊をイラクへ派遣して平和維持にあたらせることも検討している、と昨日「ニューヨーク・タイムズ」が報じた。海兵隊は、通常、そのような長期の配備には用いられないのだが。

 ペンシルヴァニアの州兵1個旅団が、第1歩兵師団の中のコソボで実戦配備されている旅団と今年後半に交替する準備をしている。ペンタゴン当局者は、アフガン国軍を訓練するための要員として州兵または予備役を召集すべきかどうか考慮中である。この任務は、現在、第10山岳師団によって行なわれている。