シリーズ<マスコミが伝えないイラク戦争・占領の現実>その2
2005年4月〜6月:イラク戦争・占領の“泥沼化”が遂に米国内で撤退論に火を付ける
−−米議会で撤退論が焦点に。9月には米の2大反戦団体が撤退を求める大行動を計画−−


============= 目  次 =================
[1]はじめに−−新しい傀儡=「移行政府」樹立後、米軍事占領の“泥沼化”(Quagmire)は新しい段階に。遂に米議会で撤退論が議論の焦点に
[2]駐留米軍の軍事占領支配の新しい危機と動揺−−反米武装勢力の対米軍攻撃が復活の傾向を見せている
(1)4月に入って反米武装勢力による米軍への襲撃が再び急増
a.「武装勢力は市民を標的にしている」「内戦に入りつつある」−−この米軍プロパガンダの持つ意味
b.誰が誰と戦っているのか−−再び増大傾向を示す米軍への襲撃回数
c.米兵の死傷者・負傷者の数も再び急増
d.パートタイム兵である州兵と予備役の犠牲者の急増
(2)カイム侵攻で明らかになった米軍の脆弱さ
a.小規模の部隊による包囲作戦地と空爆。しかし返って残虐さを増す
b.組織的抵抗と肩すかし。きりきり舞の米軍
c.「過小兵力」「延び切り」状態の米軍。イラク西北部の作戦では特にそれが顕著であった
(3)米軍制服組、イラク軍事占領と米軍襲撃の長期化を認めざるを得なくなり、グローバルな軍事介入能力を懸念し始める
(4)一向に進まないイラク軍の再建。「出口戦略」のメド立たず
(5)イラク占領「泥沼化」の国内への跳ね返り−−米国内世論の変化と米国社会での厭戦気分の高まり 
(6)議会と支配層内部から撤退論が再浮上。米国の2大反戦組織が9月に撤退を要求する大行動を計画


2005年6月15日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局



[1]はじめに−−新しい傀儡=「移行政府」樹立後、米軍事占領の“泥沼化”(Quagmire)は新しい段階に。遂に米議会で撤退論が議論の焦点に
(1) イラク情勢が新しい変化の兆候を見せ始めている。この4〜6月にかけて、反米武装勢力の抵抗運動、米の軍事占領支配の危機が共に新しい段階に入り、米国内の厭戦気分がかつてなく高まった結果、遂に米議会で撤退論が勢いを増し始めたのである−−これから秋にかけて、イラク撤退論が再び世界情勢の中心課題に押し出されるだろう。

 米国防総省は6月14日、2003年3月のイラク戦争開戦以来の米軍の死者数が1703人に達したと発表した。ここ数ヶ月米軍兵士の犠牲者は減少していたが、再び増え始めた。このことが撤退論に拍車を掛けている。米国内では撤退時期明確化を求める世論が強まり、与党共和党の下院議員が撤退期限設定を求める法案提出を表明するところまで事態は煮詰まっている。しかし、ラムズフェルド国防長官は、イラクでは8月の憲法制定をめぐる国民投票や次の議会選挙を控えている、駐留米軍の削減・撤退の見通しは全く立っていないと発言、撤退論を強く牽制した。(1-1)
 一方、9月24日には、米の2大反戦団体が駐留米軍の撤退を要求して全米で一大反戦行動を計画している。
※(1-1) 「イラクの米軍死者、1700人超える=部隊削減の見通し立たず−国防長官」(時事通信)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050615-00000737-jij-int


(2) 米軍は、この5月から再び大規模な掃討作戦を強化している。昨年の2度に渡るファルージャ作戦以来の大攻勢をシリア国境の小さな町カイムを初めバグダッド西部一帯で展開している。シリーズ<マスコミが伝えないイラク戦争・占領の現実>1回目では、このカイムでの「マタドール作戦」の失敗が現すイラク国内の最新の軍事的力関係について分析した。
 そして今また米占領軍は、4万のイラク軍と1万の米軍を動員してバグダッドを包囲し、首都としては初めての大規模な反米勢力の掃討を強行している。(1-2) 欧米のサイトをくまなく探しても、この「稲妻作戦」の詳細情報はほとんど見当たらない。作戦そのものがうまくいっていないのか、それとも報道統制が効いているのか。私たちは、非常に懸念している。
 シリーズ2回目の今回は、こうした個々の作戦の評価・分析ではなく、「移行政府」樹立後、新段階に入ったイラク情勢について、特にこの4〜6月の転換点を浮きだたせる形で概観してみたい。(上)では軍事情勢、(下)では政治情勢を中心に展開する。
※(1-2) 「米軍=イラク軍はバグダッドでの大規模掃討作戦を即刻中止せよ!」(署名事務局)

 米軍は、スンニ派三角地帯であるバグダッド西部一帯の掃討作戦を再び強化している。それでは、米軍はイラク全土における軍事占領支配を強化しつつあるのか。今年1月のイラク総選挙直前と比較して4月までの数ヶ月は米軍兵士の犠牲が大幅に減少した。それでは、治安が回復し、反米勢力による米軍襲撃の数が減ったのか。総選挙を受けて「移行政府」の閣僚人事が発表された。それでは、米によるイラクの傀儡政権造りはうまく進行しているのか。米軍がバグダッドを陥落させてから、今年4月9日でまる2年が経過した。それでは、ブッシュ政権は明瞭な「出口戦略」を描くことができるようになったのか。−−ブッシュ政権と大手メディアは全体としてこれに“イエス”と答える。しかし本当の答えは全て“ノー”である。

 ブッシュ政権と駐留米軍によるイラク占領支配は、表向きは、1月末の国民議会選挙、4月末の「移行政権」の発足など、政治的環境は大きく変化したように見える。日本のメディアは、「イラクは良い方向に向かっている」という大統領やブッシュ政権高官、各報道官、あるいはイラク「移行政府」の「大本営発表」をただ垂れ流すだけである。しかし現実は全く逆の様相を呈しているのだ。米の軍事占領支配は、軍事的にも政治的にも全く進展しないどころか、逆に“泥沼化”が新しい段階に入ったのである。ベトナム戦争が泥沼に入った時に使われた用語"quagmire"(泥沼化)が再びメディアで頻繁に使われるようになっている。


(3) 私たちは、昨年末から今春にかけてホームページに掲載した<米軍の危機シリーズ>において、軍事的側面における米軍の占領支配が限界に達していることを、米軍の「過剰展開」、部隊の過酷なローテンション体制に注目し取り上げた。しかしこの旧シリーズは議会選挙直後までの状況をまとめたものであった。(1-3)
 「米軍の危機」はその後どうなったのか。後で詳しく報告するが、この軍事的弱点は解消される目途もなく、国民会議選挙後も全く変化していない。否むしろ、その解決策の柱となるイラク治安部隊=イラク軍の再建の展望も見えず、来年までに現在の兵力を10万人まで段階的に縮小するとの「出口戦略」(もちろん「全面撤退戦略」ではなく「部分撤退戦略」)は、その第一歩から崩れ去ろうとしている。
※(1-3) 「ベトナム戦争以来のゲリラ戦・市街戦、二巡目の派兵をきっかけに顕在化した過小戦力、急激に深刻化し増大し始めた損害」(署名事務局)


 軍事占領の行き詰まりだけではない。米国の意に沿う政権=傀儡政権を樹立するといった政治的側面においても、手詰まり感が明白になっている。行政機能は麻痺したままであり、インフラ基盤復興のメドも立っていない。マスコミは、極めて疑わしく欺瞞的な、そして不正だらけの米軍占領下での選挙、戒厳令下での選挙、ファルージャでの大量虐殺を断行してまで強行した選挙プロセスとその結果を諸手をあげて支持した。しかし、選挙は「民主的」でも「明るい未来」を保証するものでも何でもなかった。そして今、米英に亡命していた親米派議員たちが造った「移行政府」の化けの皮も剥がれ落ちた。傀儡たちは、イラク人民から浮き上がり、石油利権や経済権益の争奪戦や地域・宗派・部族支配を巡る各党派間の激しい権力闘争に終始している。また自らの手の内を離れ、「移行政権」の中枢をしめる「イスラム統一同盟」が米国の宿敵であるイランと接近するといった米国にとって許容しがたい動きも見られるようになった。

 こうして今や、イラク占領支配の破綻は、軍事的にも、政治的にも、新たな段階に入った。今、私たちの目の前で進行している事態は、まさにブッシュ政権と米占領軍が支配を続ける限り、決してイラクには平和が訪れないこと、民族の独立も民主国家も造り得ないことを明らかにしている。だからこそ、イラク国内だけではなく、米国内でも再び駐留米軍の撤退が焦点になっているのである。
そして遂にイラクの米軍高官の間で、軍事行動では武装攻撃を止めることは出来ない、との声が急速に高まり始めた。彼らは、ゲリラ戦を終結させる唯一の方法は軍事行動ではなくイラク政治であると主張している。軍事的解決の破綻を現地の軍トップが告白し始めたのである。(1-4)
※(1-4) 「Military Action Won't End Insurgency, Growing Number of US Officers Believe」by Tom Lasseter June 13, 2005 by Knight-Ridder http://www.commondreams.org/headlines05/0613-01.htm



[2]駐留米軍の軍事占領支配の新しい危機と動揺−−反米武装勢力の対米軍攻撃が復活の傾向を見せている

(1)4月に入って反米武装勢力による米軍への襲撃が再び急増

a.「武装勢力は市民を標的にしている」「内戦に入りつつある」−−この米軍プロパガンダの持つ意味
今年1月の総選挙以後、反米武装勢力の攻勢が一時的に沈静化したような兆候が見られた。しかし、4月以降、再び反米武装勢力の活動が激しくなっている。ところがマスコミが報道する図式は、大きくねじ曲げられている。
 第一に、「反米武装勢力の残忍さ」の意図的な誇張である。イラクにおいて武装組織が無差別に民間人を狙い殺戮している、そのような攻撃があたかも意図的組織的に実行されている、というものである。この5月だけを見ても、新聞紙面、インターネット上に掲載された事件を羅列すれば、ざっと次のようなものがある。

5月4日 アルビルで、クルド民主党事務所を狙った自爆攻撃 60人以上が死亡
  6日 バグダットのゴミ捨て場でスンニ派農民の遺体が発見
     バグダッド南方スウェイラのシーア派住民居住地域の市場で自爆攻撃。31人死亡。
 11日 北部ティクリートにおいて、人込みの中で車が爆発 33人死亡
     キルクークにおいて軍の採用受付施設に近づいて自爆攻撃。32人死亡(大半がシーア派)
 15日 16日 バグダッドの5ヶ所で遺体が発見。計54体。いずれもゴミ捨て場に捨てられており、ほと     んどは後ろ手に縛られたり、目隠しされて射殺されたものという。 
 17日 スンニ派指導者の遺体が発見される。全身に拷問の跡が残されていたことが報道されている。
 19日 モスルで国民会議議員が襲撃。10人死亡。
 23日 バグダッドで車が爆発。多数の死傷者。負傷者が113人を超えたとも。
 24日 バグダッド中心部で車が爆発。少なくとも6人死亡。
 26日 テロ攻撃で9人死亡。子供も1人死亡。

 4月28日の「移行政府」樹立後だけでも、自爆攻撃に伴う一般市民の犠牲者数を加算すると5月末時点で600人を超えたと報じられている。自爆攻撃の数は、バグダッドだけをとっても、昨年1年を通じて25件であったのに対して、今年は5月中旬の時点ですでに21件にも上り、倍増の勢いである。(2-1)
※(2-1) 「Analysis : Bad week in Iraq」 May19 2005 http://www.washtimes.com/upi-breaking/20050519-025541-7294r.htm

 第二に、あたかも内戦に突入しているかのような扇動である。スンニ派−シーア派間、スンニ派−クルド勢力間といった異なる宗派間、民族間での緊張の高まり、対立が一線を越えたかのような報道である。「移行政府は5月に入りスンニ派武装勢力の摘発を強化」、「双方の『報復』とも見られる殺戮も発生」、「スンニ派は、イスラム革命最高評議会(SCIRI)の民兵組織『パドル旅団』を名指しで批判」等々。(2-2) とりわけ5月15日、16日にかけて、後ろ手に縛られたり、目隠しされたりして殺害されたスンニ派住民と見られる遺体が発見され、シーア派の報復との見方が出た時は緊張がピークに達したかの観があった。しかし、このような情報にのみ依拠しイラクに関する絵図を描こうとするならば、それは内戦の危機を一面的に誇張するものとなるだろう。
※(2-2) 朝日新聞 2005/05/21  

 確かに、武装勢力の攻撃に巻き込まれ一般市民が犠牲になるケースは増えている。内戦につながるような宗派間、民族間の衝突も増えている。しかし、どれもこれも著しく誇張されている。反米武装勢力を巡る評価に関わる部分は、基本的には米軍と傀儡政府のプロパガンダと見なければならない。なぜか? 答えは簡単だ。この構図には、残忍でイラク民衆を殺戮しイラク全体を破壊しまくる米軍の姿が全く出てこないからである。否、むしろ米軍はテロリストと戦う「解放者」として美化されている。イラク軍・警察には治安維持能力がない、イラク人だけでは国家を統治できない、イラク人に成り代わって米軍がイラクの内戦と国家分裂を阻止している、米軍はいわば救世主である、だから駐留米軍の撤退など論外だ、との印象を刷り込もうとしているのである。−−私たちがなすべき作業は、こうした米軍のプロパガンダを暴くことである。

 こうしたプロパガンダには、米と傀儡政府にとって都合のいい二重のカラクリが隠されている。一つは、あくまでも打撃を受けているのはイラク民衆、イラクの宗派であることを強調し、米軍への打撃を隠蔽していることである。もう一つは、イラクに当事者能力がないことを強調し、米軍駐留の必要性を印象付けていることである。
 しかしそれは真実ではない。反米武装勢=テロリスト集団による民間人の無差別殺戮、宗派間対立を煽る組織的攻撃。私たちはこのような断片的な情報の洪水の中、占領支配を続ける米軍とイラク傀儡政権の掃討作戦を後押しするような誤った印象に染められようとしているのである。すべての武装勢力は残忍である、彼らを鎮圧することこそ正義である、と。そしてこのような報道に、テロリスト「ザルカウィ」の消息に関する情報が意図的に重ねられているのである。
 以下、反米武装勢力による米軍攻撃が再び激しくなっていること、民間人犠牲者や宗派間・民族間の衝突は現在の所はまだ付随的現象であること、結局はイラク民衆による米軍への武装攻撃こそイラクにおける衝突事件の本質であることを確認したい。


b.誰が誰と戦っているのか−−再び増大傾向を示す米軍への襲撃回数
 武装勢力による米軍への攻撃回数が増えている。5月に入って一日当たりの襲撃回数が70回を超えることも珍しくない。上述したプロパガンダとは裏腹に、また大規模な掃討作戦を拡大しているにもかかわらず米軍は予想を超える襲撃を受け、イラク国内の軍事的主導権を握ることが出来ていないのである。
 図表1「一日当たりの標的別襲撃回数」を見てほしい。このグラフが示しているように、武装勢力の攻撃回数は、昨年のファルージャやナジャフ攻撃の時期と比較しても明らかに増加している。米軍が掃討作戦を拡大する、イラク民衆の支持を喪失する、焦った米軍が更に武力弾圧を強める、更に反米武装勢力が成長する−−このような悪循環に駐留米軍は直面している。このことをグラフは物語っているのである。



図1 一日当りの標的別攻撃回数
(参照:http://www.gao.gov/new.items/d05431t.pdf 中のデータを加工)


 また、図表1のグラフを標的別に見た時、米軍とイラク軍への攻撃回数がずば抜けて高いことが分かる(5月のデータは推定値)。上述した米軍のプロパガンダは、武装勢力の攻撃があたかもイラク民衆そのものをターゲットにした残忍な戦術であるかの如くねじ曲げているが、実際には、攻撃の8〜9割が米軍を標的にしたものなのである。
 確かに民間人犠牲者の中には、米軍やイラク治安機関が攻撃された際に巻き込まれた者、宗派間・民族内の抗争に巻きこまれた者もいる。しかし最初から意図的に無差別殺戮戦略を採用しているのは、一部のイスラム原理主義と結びついている勢力、あるいは米軍やイラク傀儡政府の特殊部隊などである。反米武装勢力による攻撃のほとんどは、米軍と傀儡軍に対する反米・反帝、民族解放的・民族独立的な性格を持つ攻撃なのである。

 例えば、『ローリング・ストーン』誌に掲載されたロバート・ドレイファス氏は、次のような区分を行い、主流はやはりイラク人による反米闘争であることを指摘している。「現在、米国の占領に対して戦っている数十のスンニ派組織が存在し、それは大きく2つの陣営に分けられる:主流派はサダムの下で軍人将校や旧バース党のリーダーとして使えてきた世俗的なアラブ民族主義者であり、もう一つはアブ・ムサ・ザルカウイとに関係する過激派を含むイスラム原理主義者である。・・・・・米軍に対するほとんどの攻撃−−道路わきのIED(簡易爆破装置)、自動車攻撃、と全面攻撃−−は、米国の追い出しを意図する主流派抵抗組織によって指揮されている。彼らはヘリコプターを撃墜し、米国の占領の支えであるエイブラム戦車を最低80台は破壊し、4月のアブグレイブ刑務所や、シリア国境のカイムへの攻撃のような大規模な攻撃を計画した。」
 「スンニ派の反乱は、ブッシュ政権が認めるよりもより大規模で、地元色が強い。米軍は最初、抵抗運動は5千人以下のアルカイダと結びついた外国戦士によるものだと固執していたが、その後現在は、アブグレイブ、キャンプ・ブッカ、キャンプ・クロッパーなどにその2倍以上になる多くの囚人を拘束しているのに、資金が潤沢な戦士がまだ2万人以上もいるということを認めている。」その上で、駐留米軍の少佐の発言を引用する。「我々は地域住民の支援を得た非常に発達し成熟した反乱に直面している」と。(2-3)

 このような現状に対して現地司令官は、次のように語っている。「同盟軍兵士への攻撃は決して止むことはない。我々は、一日に70回もの攻撃を受けている。このような攻撃をいつ受けるのかが問題であって、珍しいことでは決してないのだ」と。(2-4) そして武装勢力は、米国の撤退、多国籍軍の撤退を求め、異なる勢力間で糾合する動きも見られるようになっている。「武装勢力(過激派と言われる部分を除く)は、アイルランド共和国軍が軍事的および政治的部隊を持つように、彼らの代表する政治勢力を創出するかについて議論している」のである。イラクにおける主要な戦闘形態は、まさにこの地元の部族勢力による反米武装抵抗なのである。
※(2-3) 「The Quagmire: As the Iraq War Drags on, it's Beginning to Look a Lot Like Vietnam」by Robert Dreyfuss May 7, 2005 by Rolling Ston Common Dreams NewsCenter より http://www.commondreams.org/views05/0507-23.htm
※(2-4) 「Surge in U.S. Deaths in Iraq Draws Concern」AP May24,2005 http://news.yahoo.com/s/ap/20050524/ap_on_re_mi_ea/iraq_in_the_firing_line


c.米兵の死傷者・負傷者の数も再び急増
 米軍兵士、多国籍軍兵士の犠牲者数も再び増大し始めている。国民議会選挙終了後、米軍兵士の犠牲者は一時的に減少した。しかし、4月、5月にかけて、再び増加傾向に転じている。(図表2 一日当たりの米・同盟軍の犠牲者数推移)特に5月に入ってからは武装勢力からの組織的攻撃によって一度に複数の犠牲者が出るケースが増えている。自爆攻撃、自動車爆弾、道路脇に仕掛けられた爆弾等々、ますます米軍に対する攻撃は巧妙かつ組織的になっていると言われている。5月だけで80人が死亡、これは今年1月、昨年11月の100人を超える数字に次ぐ多さである。(2-5) そしてついに、米軍の総犠牲者数が5月末で1667人になった。冒頭に述べたように6月14日には1703人に達した。この半年以内にも、総犠牲者数が2000人を突破する勢いである。
※(2-5) 月別の犠牲者数は「Military Fatalities: By Month」(http://icasualties.org/oif/)参照。



図表2 1日当たりの米・同盟軍の犠牲者数推移 (参照:http://icasualties.org/oif/


 すでに現地司令官からは、増え続ける犠牲に手の施しようもない実態を嘆く声が上がっている。最近の「米軍への攻撃回数は、戦闘期間中のそれと同じである。しかし、異なる主要な点は、武装勢力の能力が増大していることである」。(2-6)
 ブッシュ政権内、米軍内には、米軍の犠牲者を減らす対策、「出口戦略」の不可欠の条件としてのイラク軍の早急な育成を望む声が再び高まっているが、中東軍司令官のアビザイドは先週、「イラク警察は、米軍司令官が期待している速さでは整備されていない。どれほど早く米軍部隊が帰国できるのかといった疑問が生まれている」と述べ、そのような展望が簡単には実現され得ないことを公式に認めた。(2-7) そして軍事専門家の中には、現在「米軍部隊が前線に展開し続けているこのイラクを完全に支配する能力を備えたイラク治安部隊を作り上げることなど米軍当局にはできないと確信している」と語る者も出てきており、イラク軍育成計画が画餅に過ぎないと評価する議論も散見され始めている。(2-8)
 「出口戦略」の前提となるイラク治安部隊の育成の展望が開けない中、撤退しようにも撤退できない米軍は、日々犠牲を拡大し、消耗し続けているのである。
※(2-6) 「Surge in U.S. Deaths in Iraq Draws Concern」AP May 24,05 http://news.yahoo.com/s/ap/20050524/ap_on_re_mi_ea/iraq_in_the_firing_line
※(2-7) 同上
※(2-8) 同上


d.パートタイム兵である州兵と予備役の犠牲者の急増
 米軍兵士の中でも、特に米軍の州兵と予備役の犠牲が増大している。最近、イラク戦争・占領期間全体を通して、最大の犠牲者を記録するようになっている。5月だけでも、21人のパートタイム兵が犠牲となった。この数値は、5月の米軍全体の犠牲者数58人のおよそ3分の1に相当する。(2-9) 州兵と予備役は、主要には、後方の輸送部門、警備部門を担っている。そのような彼らの犠牲が多い点に、前方と後方の違いのないイラク戦争の特徴が色濃く反映されている。
※(2-9) 「Guard and Reserve troops dying in Iraq at fastest rate since January」http://www.boston.com/dailynews/144/wash/G//// 関連記事 「Deaths of Guard and Reserve troops at fastest rate in months」 http://www.wstm.com/Global/story.asp?S=3387066


(2)カイム侵攻で明らかになった米軍の脆弱さ
 米軍は5月初めにシリア国境のカイムにおいて、「第二のファルージャ」と言われるまでに徹底した包囲戦、残忍な無差別攻撃を実行した。カイムを含むアンバル県内の主要幹線道路は封鎖され、徹底した空爆が行われ、多くの民間人が無差別に殺害された。空爆された民家では、多くの子供、女性が犠牲になっている。圧倒的な部隊によって小さな村落を包囲し、そこに住民を閉じこめ、掃討作戦を実行した。ファルージャと同様、病院を最初に攻撃・占拠した。負傷した患者を病院で治療することができず、何人の死傷者が出たのかも分からないまま次々と亡くなっていったことが報道されている。
 しかしこの作戦をよく見ると、特にイラク北西部における米軍の支配力低下を浮き彫りにしている。

a.小規模の部隊による包囲作戦地と空爆。しかし返って残虐さを増す
 今回の「掃討作戦」に参加した部隊は、海兵隊を中心とした1000人規模である。明らかに、これまで米軍が行ってきた軍事作戦と比較しても小規模なものである。昨年4月、ファルージャ攻撃時の米軍の規模は約1000人であった。米軍はファルージャに侵攻することができず、結局撤退を余儀なくされた。昨夏のナジャフ侵攻時の規模は2000〜3000人規模であった。この時の相手は、軍事的に練度の低いサドル師派民兵であった。そして昨秋の2度目のファルージャ攻撃が、約1万5000人の規模であった。大規模な兵力を一気に投入することで町を包囲し、徹底した空爆と市街戦を展開した。未だに犠牲者の全体像は不明ではあるが、6千人もの民間人が犠牲となったと伝えられている。
 しかし、見えない敵と闘うことを余儀なくされている現状、自らの犠牲を最小限に止めるとの思惑から、敵がいると想定される地点を広く包囲し、そこに空爆をはじめ火力を集中する荒っぽい作戦を強引に推し進めているのである。強烈に見える作戦の中身は、無慈悲な、残酷な無差別殺戮を伴ったものであるが、そのようなやり方を使用せざるを得ないのが実態である。(2-10)
※(2-10) イラク西部 カイム市民の遺体、街に転がる 「病院も破壊」院長が語る (東京新聞5月12日)
http://www.chunichi.co.jp/iraq/050512T1357003.html
「…病院が戦闘で破壊されており、代替施設で治療が続けられているという。街には負傷者が放置され。死体も転がったままの状態。「ほとんどは一般市民」という。激しい戦闘から逃れるため、住民はより危険な砂漠地帯への脱出を始めている。交通は遮断され、救急車での負傷者の搬送は不可能。医師は「それでも女性や子供、老人らが次々と運び込まれるが、水も食料も電気もない。戦闘機が飛行し、爆発が続いている」と話している」。(カイム現地の病院長との電話取材)
※その他「1週間で125人以上殺害 イラク西部、米軍作戦終了」(共同通信)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050515-00000018-kyodo-int


b.組織的抵抗と肩すかし。きりきり舞の米軍
 米統合参謀本部は5月10日、「かなりの抵抗に遭っている。これまでの敵とは明らかに違う」ことを認めた。(2-11) また反米武装勢力側は用意周到に米軍を迎え撃つ態勢を整えて反撃しており、米軍側が相当苦戦している状況が伝えられている。またこれらスンニ派三角地帯は地元住民の反米感情が特に高い地域でもあり、住民と武装勢力の連携が見られるとも言われている。このユーフラテス沿いのラマディからシリア国境一帯は、ファルージャ侵攻から逃れた武装勢力が新たに「拠点」を作り上げていたのである。要するに米軍は、ファルージャという武装勢力の「拠点」を住民もろとも殲滅したにもかかわらず、結局は武装勢力を叩き潰すこともできず、「拠点」を別の所に移しただけであり、抵抗運動を拡散させただけである。この地域一帯の戦闘におけるイニシアチブは武装勢力が握っていると見てもいいだろう。
※(2-11) 「これまでの敵とは違う」掃討作戦で米軍が認める激しい抵抗(東京新聞5月12日)
http://www.chunichi.co.jp/iraq/050512T1357002.html
※その他益岡賢氏のブログに関連記事がある。「戦闘が続く中、人々はアルカーイムから逃げ出している」http://teanotwar.blogtribe.org/entry-00157894ee62051bbec0ffed21e302b5.html 「アル=カーイム攻撃続行中」http://teanotwar.blogtribe.org/entry-d6a4983d9483589b7f24a3e7f4ea794d.html


c.「過小兵力」「延び切り」状態の米軍。イラク西北部の作戦では特にそれが顕著であった
 アンバル州、特にその西部は、イラク兵が皆無であり、米軍が直接治安を担当している。イラクに駐留する米軍は14万5000人。その半分の7万2500人が実質的な戦闘部隊。そしてアンバル州に駐留する規模は1万人程度。実際の戦闘部隊は、その半分の5000人程度。このわずか5000人の兵力で、イラクで最も激しい抵抗運動が展開されているスンニ派三角地帯の一角を担当しているのである。米軍自身が、戦闘力が不足しているとの苦情を訴えている。現地軍司令官は、「問題は、この地域が広大にもかかわらず、部隊が絶対的に少ないことである。至る所に、米軍のプレゼンスが存在しない地域がある」。(2-12)
 実際には、カイムでの「マタドール作戦」が開始された最初の二日間は、米軍の予想を裏切る形で、組織的抵抗には遭遇しなかった。武装勢力は米軍との正面衝突を避け、肩すかしを食らわしたのである。まさにゲリラ戦の原則。米軍はきりきり舞いさせられているのである。
※(2-12) 「50 Dead, 90 Wounded in Iraq Bombings on Wednesday Morning」May11, 2005 http://www.juancole.com/2005/05/50-dead-90-wounded-in-iraq-bombings-on.html 「New battle may suggest insufficient troops」 http://www.washtimes.com/upi-breaking/20050510-054624-4587r.htm

 今回の掃討作戦は、活発化し始めた武装勢力に対する泥縄式の対処療法である。しかし現地住民の支持を全く受けない米軍は、今後もこのような右往左往を繰り返すしかない。米軍は、外国人武装勢力、ザルカウィをターゲットにした攻撃と言うが、全く疑わしい。作戦に従事した下士官は、次のように語っている。「見えない敵と戦っているようなものだ。やつらは、CIAのような存在だ・・・」。(2-13) 
 ただ明らかなことは、米軍のこうした掃討作戦による最大の被害者が現地住民であるということである。米軍が「戦果」を誇示すればするほど、反米感情が高まるだけであり、イラク民衆の怒りと復讐への渇望は押しとどめることは出来ない。にもかかわらず米軍は、このような攻撃スタイルを繰り返すしかない。まさに「泥沼化」である。
※(2-13) 「An Unseen Enemy」May12/2005 http://fairuse.1accesshot.com/news2/latimes629.html
※武装勢力の戦術と組織性の高度化、攻撃の効率化などについては以下の記事参照。「Iraqi insurgents take U.S. troops by surprise」By Rick Jervis, USA TODAY http://www.usatoday.com/news/world/iraq/2005-05-10-iraq-usat_x.htm 「New battle may suggest insufficient troops」UPI http://washingtontimes.com/upi-breaking/20050510-054624-4587r.htm
※米軍兵士の急増する死亡原因の中で最大のものは、IED(簡易爆破装置)を使った攻撃である。このことは武装勢力がより大規模に、より組織的になり、より性能の高い爆弾を使っていることを示している。「More Americans Dying from Roadside Bombs in Iraq 」by Mark Washburn June 10, 2005 by Knight-Ridder http://www.commondreams.org/headlines05/0610-05.htm


(3)米軍制服組、イラク軍事占領と米軍襲撃の長期化を認めざるを得なくなり、グローバルな軍事介入能力を懸念し始める
 統合参謀本部議長マイヤーズは、武装勢力の攻撃について次のように語っている。「忍耐が必要である」、「これは、考えられた、適応した敵である。・・・武装勢力について分かっていることは、攻撃が今後3年間、4年間、9年間も継続されることである」。(2-14) このように米軍のトップは、イラクに米軍が駐留し続ける限り、自らへの攻撃が容易に収束しないことを認めざるを得なくなっている。これを泥沼と言わずして、なんと形容したらいいのか。
※(2-14) 「U.S. keeps up hunt for Iraqis insurgents」 http://www.msnbc.msn.com/id/7824952/

 そして遂に、大部隊をイラクに張り付けることを余儀なくされた結果として、米軍の軍事介入能力が大きく阻害されていることを公言し始めた。イラク占領支配の破綻と「泥沼化」がブッシュ政権の軍事外交政策を制約していることを問題にし始めたのである。統合参謀本部議長のマイヤーズは議会への秘密報告において、イラクとアフガニスタンにおける部隊の集中が、その他の潜在的な軍事行動を制約していることを認めた。(2-15) まさにイラク以外の紛争地域に対する米軍の展開能力に制約がかかっていると言うのである。
※(2-15) 「U.S. forces stretched thin, top general reports」 Financial Times


(4)一向に進まないイラク軍の再建。「出口戦略」のメド立たず
 イラク軍の再建こそが、米軍のイラクからの「出口戦略」の根幹である。1月30日の国民議会選挙終了直後の2月3日の米上院議会の公聴会においてマイヤーズは、「同盟国は反武装勢力との戦いに作戦を実行しイラク人の能力を発展させる取り組みへとシフトさせることが必要である」と語った上で、「昨年、イラク軍における偉大な発展を勝ち取った」と宣言した。しかし、その後の展開を見れば、この発言は米軍司令部のそうであって欲しいとの願望に過ぎないことが明らかになった。

 イラク軍の現状は、様々な指標が交錯しているとは言え、悲惨な状況にある。AP通信は米議会からの声として、訓練中の16万8000人のイラク軍のわずか4分の1しか戦闘できる能力とその意思を有していないことを取り上げている。(2-16) 「イラク治安部隊の問題は、訓練にあるのではなく、忠誠心にある」−−これはイラク軍の内情を良く知る専門家に共通した認識である。昨年末までのイラク軍の状況といえば、目標数に到達しないことはもとより、入隊しても武器を持って去っていく、武装勢力に脅されてやめる、スパイとして反米武装勢力に送り込まれる等々、極めて脆弱な側面が指摘されてきた。遅々として再建されないイラク軍に憤りを募らせた上院議員からは、「イラクが憲法の作成、新政府の選出、信頼できる治安部隊を育成できなければ、ワシントンはイラクへの関与を再考しなければならない」との発言があった。(2-17) イラク軍の再建についてブッシュ政権高官、米軍司令部は、事態の混沌とともに危機感を抱いていたに違いない。 

 イラク軍が再建されない限り、イラク駐留米軍は「出口戦略」を立てることが出来ない。米中央軍司令官アビザイドは、米軍のイラクにおける苦戦の理由について、「イラク治安機構の遅々たる整備は、イラク全土の治安の回復を遅らせている。イラク軍部隊を国内の治安組織に組織しなければならない」ことを公言している。(2-18)
イラク軍は、兵力面からも装備面からも全く不十分であり、米軍の補助的存在に過ぎない。一例では、現在7万5000人のイラク軍が訓練を受けあるいは戦いに備えていると言われている。しかし補給部隊は、わずか4000人しかいないという。米軍の場合では、これが50対50になる。現段階では、およそ独立した戦闘部隊としてのイラク軍の姿が存在しないのだ。戦力構成から見ても、米軍の補助部隊に過ぎないのである。(2-19)
 焦る米軍司令部は、訓練を急加速させようとしている。来る数ヶ月の間に、イラク軍部隊の整備、イラク全土に10個のベースキャンプの設置を目指すという。これによって米軍の14万人弱の駐留部隊を来年には10万5000人までに縮小する計画である。この成否が、ブッシュ政権の「出口戦略」、米軍の世界的な展開能力にまで影響を及ぼすのだが、現状では実現は著しく困難であろう。
※(2-16) 「US refocuses strategy in Iraq」May 9, 2005 http://www.csmonitor.com/2005/0509/dailyUpdate.html
※(2-17) 同上
※(2-18) 「US generals say Iraq outlook 'bleak'」 May 20,2005 http://www.csmonitor.com/2005/0520/dailyUpdate.html
※(2-19) 「A Report Card on Iraqi Troops」 2005年5月18日 http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/05/17/AR2005051701473_2.html

 反米武装勢力は、米軍と並んで、明確にイラク軍をターゲットにしている。図表3は、米軍・同盟軍とイラク治安部隊への攻撃回数を月別に換算したものである。他のデータと比較して、このデータに使用されている概算は全体的に低いものであるが、全攻撃に対するイラク治安部隊への割合は、それほど大きく外れた数値になっていないと思われる。
 昨秋の米軍のファルージャ侵攻後、治安部隊の要員は大きな落ち込みを記録した。しかし、国民議会選挙後、情勢が比較的安定したと喧伝されているにもかかわらず、2005年に入ってからも微増にとどまっている。その理由として、まさに治安部隊が米の手先として攻撃対象になっているといった点が挙げられる。
 だが、それだけではない。反米武装勢力にその汚名が着せられている「テロリスト」が実はイラク治安部隊そのものであるというのだ。バグダッドで取材を続けるダール・ジャマイル氏は、最近バグダッド包囲作戦に乗り出したイラク軍について次のように指摘している。「イラク治安部隊は、バグダッド全域では非常に評判が悪い。私は3人の異なる医師から聞いたことだが、彼らはイラク国軍のことを“米国の犬”と呼んでいた」。とりわけ、イラク軍の最精鋭部隊と言われている「狼旅団」(Wolf Brigade)については、残虐な国家テロ組織という評判が広がっている。(2-20) イラク軍は、米軍と一緒にイラク民衆を殺し脅す弾圧・抑圧機関として、イラク民衆の支持を喪失しているのである。
※(2-20) 「Death and 'Sketchy Details' in Iraq」May 28, 2005 http://www.antiwar.com/jamail/?articleid=6124



 ベトナム戦争においても、反米武装勢力としての南ベトナム解放民族戦線を壊滅すべく、米軍により育成された南ベトナム政府軍は、最後まで米軍に取って代わることはできなかった。米軍はズルズルと派兵を拡大し続け、最後の最後まで大部隊をベトナムに駐留させ続けざるを得なかった。そして米軍の撤退と同時に南ベトナム政府は崩壊した。人民に支持されない傀儡政府や傀儡軍とはそういうものである。
 ブッシュ政権の描く「出口戦略」は、原案の段階でもまだ表には出ていない。しかし様々な形で大ざっぱな概要はリークされている。−−米軍の命令通り意のままに動くイラク治安部隊を再建し、米軍の代わりを担わせ、米軍の主力は本国に撤退する。将来は中東随一の基地をイラクに建設しそこに数万〜10万人の米軍が残留し、20万、30万人のイラク治安部隊を指揮する。等々。
 だが、このような計画が机上の空論にすぎないことが、泥沼化する戦況とともに、ますます明らかになってきている。ブッシュ政権はいつまで経っても「出口戦略」を描けない状況に陥っている。
※イラク軍の再建が異常に困難であることについては多くの分析がある。
−−「Building Iraq's Army: Mission Improbable−Project in North Reveals Deep Divide Between U.S. and Iraqi Forces」By Anthony Shadid and Steve Fainaru Washington Post Foreign Service http://www.informationclearinghouse.info/article9106.htm
−−「As Iraqi Army Trains,Word in the Field Is It May Take Years」By Sabrina Tavernise And John F. Burns New York Times June 13, 2005 http://www.globalpolicy.org/security/issues/iraq/occupation/2005/0613years.htm


(5)イラク占領「泥沼化」の国内への跳ね返り−−米国内世論の変化と米国社会での厭戦気分の高まり 
 イラクの占領支配の「泥沼化」が長引くにつれ、米国社会でイラク戦争に対する幻滅と厭戦気分が広がり始めている。図表4は、CBSニュースによって行われた米国民の世論調査(5/20〜24)の結果である。(2-21) 国民議会選挙が「成功裏に終わった」直後の2月と直近の5月の結果を比較しても、米国民のイラク政策に対する不満が増大していることが明確に読み取れる。2月の段階で悪いと回答した割合は、やや悪い、非常に悪いを含めて47%であったが、未だに続く米メディアの「大本営発表」や米政府の楽観論の宣伝にもかかわらず、わずか3ヶ月後には57%にまで増大している。
※(2-21) 「Iraq War Going “Badly” for Most Americans」May 26, 2005 http://www.angus-reid.com/polls/index.cfm?fuseaction=viewItem&itemID=7366



 米ギャラップ社が6月13日に公表した世論調査でも同じ傾向が出た。しかもCBSニュースのようにイラク情勢の悪化を巡るものではなく、具体的な米のイラク政策に踏み込んだ「撤退」論を巡る世論調査である。調査によると、イラクから全ての駐留米軍を撤退すべきだとの回答は31%、部分的撤退も28%にのぼり、計59%。米国民の6割がイラク駐留米軍の撤退を望んでいることを示した。完全撤退・部分撤退を求める割合の過去最高は2003年10月の57%。今回の数字は戦争終結後のこの2年間で最も高い割合であり、国民議会選挙直後の2月の調査より10ポイントも増加した。
 一方、現状維持は26%、追加派遣は10%にとどまった。またこれとは別に、「ブッシュ大統領がイラク増派を命じたら動揺するか」との質問には56%が「イエス」と回答、「ノー」は37%にとどまった。(2-22)



※(2-22)「Nearly 6 in 10 Americans Support Troop Reductions in Iraq−Basic support for the war near all-time low」Gallup Organization  http://gallup.com/poll/content/login.aspx?ci=16771 <米国>国民の6割、イラク駐留米軍の撤退望む 世論調査(毎日新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050614-00000021-mai-int


 米国民ですら、「民主選挙」と「移行政権」でイラク情勢が安定化するといったブッシュ政権のシナリオが、現実からかけ離れたものであることに気づき始めているのだ。すでに述べたように、米軍兵士の犠牲者は1700人を超え、2000人に向かって増え続けている。「出口戦略」が描けなくなっている下で、兵士の犠牲増大、相変わらず垂れ流されるイラク駐留費への財政負担の増大、このような悪循環に米国社会は、厳しい目を向け始めている。
 「戦費は今や1920億ドルに達し、一週間に10億ドルづつ増えつづけ、死体は積み上げられ続けている。1600人近くのアメリカ兵と10万人近くのイラク市民、177人の同盟国兵士、229人の傭兵が死んだ。ほかの国々は、米国と新しいイラク政府を支援するために結成された国際連携を断念し始めている。そのイラク政府は、4月27日に新しい内閣を派手に宣言したが、少数民族と宗派により鋭く分裂している。」(2-23)
※(2-23) 「The Quagmire: As the Iraq War Drags on, it's Beginning to Look a Lot Like Vietnam」by Robert Dreyfuss May 7, 2005 by Rolling Ston Common Dreams NewsCenter より http://www.commondreams.org/views05/0507-23.htm 関連記事「820億ドルの補正予算可決 イラク駐留などで米議会」(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050511-00000023-kyodo-int


(6)議会と支配層内部から撤退論が再浮上。米国の2大反戦組織が9月に撤退を要求する大行動を計画
 撤退論を巡り議会内で論争と対立が起こっている。共和党のウォルター・ジョーンズ(ノースカロライナ州)、民主党のネイル・アバクロムビー(ハワイ州)ら下院議員が、撤退時期明示を求める決議案提出を準備し始めた。地元の戦死者家族からの切実な要望が背景にある。米議会内から公然と撤退の時期明示を求める動きが出たのは開戦以来始めてである。
 共和党のリンゼー・グラハム議員(サウス・カロライナ州)も、テレビのトークショーで民主党議員に同調し、反米武装勢力の過小評価とイラク治安部隊の過大評価を指摘、占領統治の失敗を批判する。父親や祖父の口から出るイラク戦争批判の影響を受けて、若者たちが新兵募集に応じなくなっている。陸軍は今や募集危機と戦わねばならない、このままでは世論の支持ががた落ちになる、と危機感を表明する。(2-24)

 これに対して、チェイニーは「撤退時期を示せば反米武装勢力の火に油を注いでしまう」と、この要求を拒否した。また、ホワイトハウスのマクレラン報道官も、ギャロップの世論調査や議会での撤退論の動きを牽制し、「我々が撤退するのは、任務を完遂した時だ」と述べた。(2-25)
※(2-24) 「Republican lawmakers urge shift in U.S. Iraq plans」13 Jun 2005 Source: Reuters http://www.alertnet.org/thenews/newsdesk/N12652573.htm
※(2-25) 「White House rejects call for Iraq withdrawal」Mon Jun 13 http://news.yahoo.com/s/afp/20050613/pl_afp/usiraqwhouse_050613154040


United for Peace and Justice
(UFPJ) の呼び掛け
http://unitedforpeace.org/

International ANSWER
の呼び掛け
http://answer.pephost.org/

 反戦運動も動き始めた。米国内の世論の微妙な変化、議会での撤退論の再浮上などを踏まえて、米の2大反戦団体International ANSWERと United for Peace and Justice (UFPJ)が来る9月24〜26日にワシントンに結集しよう、と全米・全世界に呼び掛けを発した。International ANSWERは、9月24日に焦点を定めている。(2-26) 主な要求は次の通りである。
−−イラク戦争をやめよ
−−イラクからパレスチナ、ハイチに及ぶ植民地支配の中止
−−パレスチナ人民の帰還権の支持
−−ベネズエラ、キューバイラン、北朝鮮への恫喝をやめよ
−−米はフィリピンから出ていけ
−−全ての兵士を帰還させよ
−−国内での人種主義的、反移民的、反労働者的な攻撃を中止せよ。市民権を守れ。


 United for Peace and Justice (UFPJ)は、9月24〜26日を行動日に設定した。そしてこう訴えている。(2-27)
−−イラク戦争を中止せよ。今すぐ兵士を帰還させよ!
−−基地を残さず撤退せよ。イラクの企業占領をやめよ。我々の地域をつぶすな。我々の学校で軍の募集をするな、と。

※(2-26)「Mass March on Saturday, September 24 in Washington D.C.」http://answer.pephost.org/site/PageServer?pagename=ANS_S24index
※(2-27)「Sept. 24-26, 2005: End the War on Iraq! Massive Mobilization in Washington, D.C.」http://www.unitedforpeace.org/article.php?id=2854