イラク戦争劣化ウラン情報 No.27      2006年11月24日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局 吉田正弘

別の研究所もキアムのサンプルから濃縮ウランを検出
イタリア国営放送「ライニュース24」がレバノンで検出された濃縮ウランの特集番組を放送

 前回紹介したダイ・ウィリアムズ氏とクリス・バズビー博士がレバノンのバンカーバスターによると思われる爆撃クレーターから濃縮ウランを検出したという報告に引き続いて、11月9日にイタリアの国営放送RAIのニュース番組「ライニュース24」(http://www.rainews24.rai.it/)はこの問題の特集を放送した。この番組は以下に紹介するようにインターネットで見ることができる。

 このニュース報道は非常に重要なものだ。まず第1に、バズビー博士たちの分析がハーウェル研究所(ここは最も優れた分析機関の一つだが)だけではなく、別の研究所(The School of Oceanographic Sciences)でも行われ、そこでも濃縮ウランの検出という結果を確認したことである。いよいよレバノンで濃縮ウランを含む兵器が使用された可能性が確実なものとなった。さらに同じサンプルはレバノンのフェラーラ大学の研究所でも分析され、表面に自然過程ではできない非常に特異な構造ができていることが報告されている。

 第2に、番組はこの問題にかかわる主要な人物すべてからインタビューを行っている。すなわち、レバノンで最初に爆撃クレーターを測定して異常な高さの放射能を検出したクバイシ氏やラシディ氏らレバノンの物理学者、そしてクバイシ氏に案内されてサンプルの採取を行ったウラン兵器の研究者ダイ・ウィリアムズ氏、ECRR(欧州放射線リスク委員会)の有力メンバーでDUOB(イギリスの劣化ウラン監督委員会)のメンバーでもある有名な科学者クリス・バズビー氏らである。これらの分析にかかわったすべての科学者、研究者がはっきりと爆撃クレーターから濃縮ウランが検出されたことと、イスラエル軍が何らかの濃縮ウランを含む(あるいは生成する)兵器を使用していると主張している。もちろん、今のところ濃縮ウラン(しかも濃縮度は低い)をどのような形で含んでいるのかは不明である。番組の中でも、(1)バンカーバスター爆弾の貫通材としてはじめから含まれている可能性、(2)ウランによる全く新しい秘密の物理現象を利用した新しいタイプの兵器の可能性(ウィリアムズ氏)、あるいは(3)濃縮ウランを焼夷材として使った爆弾の可能性(バズビー氏)など、さまざまな推測が出されている。しかし、この検出された濃縮ウランは自然のものではなく、爆弾によるものであることは確実である。

 第3に、番組はこれらのサンプルが採取されたレバノン南部の爆撃地点を詳細に撮影している。レバノン南部の現地はまるで瓦礫の荒野のような状態にされている。爆撃地点はいずれも大きなクレーターになっており、爆撃直後には更に大きく深いクレーターであったこと、爆弾の破片の本体は地下深く(10mにも達する)に埋まっていることを画像は示している。アフガニスタンでUMRC(ウラニウム医療研究センター)が非劣化ウランを検出したクレーターと同様のバンカーバスタータイプの爆弾クレーターの中の放射線レベルが高く、その中から非劣化ウランとは異なるとはいえ濃縮ウランが検出されたことは非常に重要である。

 第4に、番組はダイ・ウィリアムズ氏やバズビー氏らの分析結果を意図的に否定しようとする動き、グループが存在することを示している。イスラエル軍はウランの使用を否定し、レバノンの国立科学研究評議会(National Counsil Scientific Research of Lebanon/国際放射線防護委員会ICRPと関わりがあると思われる)の所長は放射能を確認できないと発表し、国連環境計画UNEPの調査チームも放射能は検出されていないと発表した。一部の劣化ウラン反対運動の活動家はこれらの発表に依拠してあたかもレバノンではウラン兵器が使われた証拠はないかのような主張を行っているが、バズビーらが行った複数の研究機関による濃縮ウランの検出はこれらの否定的見解を決定的に覆すものである。逆に、なぜUNEPが検出できないのかが問題であり、その信頼性が問題なのである。当初11月末に分析結果が出ると言っておきながら、バズビーらの報告がでるやいなやなぜ、そして何を根拠に検出できないと突然発表したのか。30ものサンプルを取りながら、なぜ何一つ具体的な分析データを示さないのか。レバノンだけではない、いつまで経ってもイラクの汚染調査を行わず、緊急の必要があると思われる人体のウラン汚染の調査をイラク人スタッフを使ってでも行わないのは何故か。アフガニスタンではウラン兵器の可能性を指摘されながらなぜウラン汚染の調査を拒否したのか。ウラン兵器の問題では、国際機関の調査のサボタージュこそ問題にされなければならない。国際世論の圧力をかけることによって、否定できない証拠を突きつけることによって、彼らに全面的な調査の必要性を認めさせなければならない。

 第5に、イタリアでなぜこの問題が大きく取り上げられているのか考える必要がある。イタリア軍はレバノンとイスラエルの間に軍隊を派遣し、停戦違反の監視を行っている。兵士を送り込んでいるが故に、兵士が放射能の危険に晒されないかとの関心がこの番組を生み出しているのである。それだけでなく、イタリア軍では軍隊内部も含んで兵士の劣化ウラン被曝による被害を問題にする運動が粘り強く行われており、一部では補償も勝ち取っている。しかし、ウラン兵器のダストを吸い込んむ(だ)かも知れないのはイタリア兵だけではない。レバノン南部に隣接し、イスラエル軍の爆撃を間近で目撃していたゴラン高原の停戦監視団には日本の自衛隊員もいたはずである。残念ながら彼らの健康を危惧する声を日本の政府関係者やマスコミからは聞かない。さらに劣化ウラン弾の攻撃の嵐にさらされ汚染が広がるイラクに派遣された多数の自衛隊員の健康被害も闇の中に包まれたままで、まともな検査さえ行われていない。自衛隊員も含めて派遣兵士の汚染調査をきちんと行うことが必要である。

 以下に番組について2つ翻訳して紹介する。一つはライニュース24のウェブサイトに掲載されたモーリス・トレアルタらによる報告文書である。もう一つは番組そのものの内容の紹介である。番組は英文であるがぜひ一度ご覧頂きたい。なお、番組の翻訳にあたっては「ピースニュース」のスタッフに全面的に協力していただいた。(キアムの地名について、前回のニュースではカイムと紹介したが、現地の発音に基づいてキアムと改めた)


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モーリス・トレアルタは新しいドキュメンタリーを示します。

キアム・レバノン南部
爆弾の解剖


フラビアーノ・マセラ、アンジェロ・サソ、モーリス・トレアルタ
http://www.rainews24.rai.it/ran24/inchieste/09112006_bomba_ing.asp

 その特別報告は、レバノン南部のキアム村でおそらくイスラエルのバンカーバスター爆弾によって作られた爆発クレーター上での放射能測定の報告が引き金となって行われました。測定は2人のレバノン人の物理学の教授−−モハマド・アリ・クバイシ氏とイブラヒム・ラシディ氏−−よって行なわれました。毎時700ナノシーベルトという測定データはその地域の平均(ベイルートでは毎時35ナノシーベルト)より著しく高い放射能を示しました。その後、9月17日に、アリ・クバイシ氏はイギリスの研究者で環境保護論者の組織からきたダイ・ウィリアムズ氏を同じ爆撃地点に案内しました。そしてサンプルが採取され、イギリス国防省に報告を行う劣化ウラン監督委員会の技術アドバイザーであるクリス・バスビー博士に送られました。サンプルは、世界で最も権威のある研究センターの1つであるハーウェル原子力研究所によって分析されました。10月17日に、ハーウェルは分析結果を公表しました。それは10個のサンプルのうち2つが放射能を含んでいるというものでした。

 11月2日に、イギリスの別の研究所(The School of Oceanographic Sciences)が「キアムの爆発クレーターはわずかに濃縮ウランを含んでいる」というハーウェルの結果を確認しました。ライニュース24(イタリアの国営放送)は、ダイ・ウィリアムズ氏が採取したサンプルを、フェラーラ大学の地球科学部によってテストしてもらいました。テスト(それはまだ進行中です)は異例の構造を見つけました:サンプルの表面はアルミニウムおよび鉄のケイ酸塩を含んでいます。それは通常の土壌の構成元素です。しかし、内側を見ると、高濃度の鉄を含む非常にに小さな泡を見つけることができます。さらにテストを続ければこれらの構造の起源を明確にすることができるでしょう:今のところ確かに思われるのは、それらが自然の過程によって引き起こされたのではないということです。

 これはどんな種類の兵器ですか。どんな兵器が放射線の痕跡を残し、またこのような致死的で限定された結果をもたらすでしょうか?。

 研究者であるダイ・ウィリアムズ氏は、これが濃縮ウランを使用する、核分裂反応ではなく、少なくとも20年間は秘密にされてきた新しい物理過程を使った新しいクラスの兵器であると信じています。

 国立核物理学研究所の物理学者エミリオ・デル・ガウディスは同じ結論に達しました:「キアムで見つかった濃縮ウランの起源について説明する二つの方法があります:

 濃縮ウランの起源に関して、二つの可能性があります:

(1)この材料が既に爆弾の素材として使われていた場合。しかし、イスラエルの軍隊の軍関係者を含めてそれを扱う人々に、その増強された放射能のために危険であり高価な材料を使用する論理的根拠を説明するべきであるので、私は困ってしまいます。

(2)濃縮は爆弾の使用の結果であった場合;この可能性は、従来の核兵器の既知の影響にほとんど合致せず、ある新しく発見された核現象が働いていることを示唆するのかもしれません。

 イスラエル軍はレバノンにおけるウラニウムでできた兵器の使用を否定しました。そうすると、人々は、どのようにウラニウムに関連する潜在的な被害から自分を守ることができるでしょうか。その地域のUnifil(国連レバノン暫定軍)の兵士はどの予防措置を講ずるでしょうか。また、危険を防止するためにどんな種類の試験が行なわれましたか。ドキュメンタリーは直接それらの質問を取り上げます。

(デジリー・バーランギエンおよびマリア・レティツィア・テソリニ翻訳)

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爆撃の解剖(インタビューの要約)

□ロタファラー・ダヘール(カメラマン) 
 停戦後にキアムに行った。爆撃の様子を見るためだ。まず、強烈な臭いがした。ガスマスクをしなければならなかった。呼吸が出来ないほどだった。人々は、お互いに「物に触るな、煙を避けろ」と叫びあっていた。

□モハマド・アリ・クバイシ(物理学者)
 キアムの自治体の要請で、現地に行った。放射能による健康被害などを調査するためである。

□ロタファラー・ダヘール
 キアムはイスラエルの国境から6キロメーターのところにあって、集中的な攻撃を受けた。7月25日、4回連続で爆撃があった。爆撃は6時間に及んだ。国連のオブザーバーが4人死んだ。

□イブラヒム・ラシディ(レバノン大学の物理学の教授)
(現場で、建物の破壊状況を説明する)。ここで4人の国連の士官が死んだ。

□クバイシ
 爆撃の影響は恐るべきものだった。クレーターは巨大だった。いったいどんな爆弾を使ったものやら。

□ラシディ
 ここにイスラエルの爆撃で大きなクレーターが出来ています。放射線量は800nSv/hです。許容値は30〜60nSv/hであるから、いかに高いかを示しています。

□クバイシ
 ウランが使われているのは間違いない。

□ラシディ
 我々は爆弾に疑いを持ちました。

□クバイシ
 (サンプルを集めましたか?)全部で20のサンプルを集めた。このクレーターのサンプルと別の場所(南レバノン)でのサンプルの両方を採取した。

□ラシディ
 クレータの下に弾頭が入っているだろうが深さは10メートルほどもあるだろう。

□クバイシ
 もっとも高い放射線はキアム近くのクレータで観測されたが、他地区のクレータの放射線は300から400[ナノシーベルト/時]だった。

□ラシディ
 クレータの中では高い放射能が観測されるが、クレータの外では30〜40nSV程度である。

 8月21日のレバノンのデイリースター紙はキアムのクレータにおいて高濃度の放射性物質が検出されたと報道された。
 9月217日にクバイシ氏が ダイ・ウィリアム氏をキアムに連れてくる。

□ダイ
 5から6箇所のクレーターに行った。その中で一つが特に高かった。クバイシが測定をしている間、私は、住宅に入っていった。それらの破壊された住宅の屋根は爆撃で吹き飛ばされた土、岩で覆われていた。(そこにあった)サンプルを英国に持ち帰り、私の友人で環境中の放射能測定に経験に富んだクリス・バズビー博士と話し合った。

 バズビーは7個のサンプルのうち二つが高い放射能値を示していることに注目した。バズビーは10月4日、バズビーはハーウェルの研究所にその二つのサンプルを提出した。ハーウェル研究所は世界でも最も権威ある研究所の一つだ。
 10月17日に、ハーウェルは結果を公表した。

□バズビー
 劣化ウラン(DU)が検出されるだろうと思っていたのだが、濃縮ウランの存在を知りショックを受けている。
 何故、濃縮ウランを使ったのか?濃縮ウランが使用されたことは間違いない。自然界に存在し得ないものなのだから。

□バズビー
 ウランの弾頭を持ったDU誘導ミサイル爆弾と考えられる。弾頭はしかもDUではなく濃縮ウランである。もしくは、濃縮ウランを焼夷材として用いた爆弾である可能性もある。

 イスラエル軍は、ウランの使用を否定した。

 レバノンの国立科学研究所(National Counsil Scientific Research of Lebanon) の所長ははイスラエルの爆撃後、いかなる放射能を確認できないと発表した。
 しかし、11月1日、レバノン政府が大きなクレータサンプルを採取した。

 国連の環境保全チームも30箇所からサンプルを採取した。しかし、放射能の痕跡は検出されない、という結果であった。

 11月2日、school of oceanographics sciences がハーウェルに協力した。分析結果は、微量ながら濃縮ウランが検出されるものとなった。

 ダイ・ウィリアムズは新型の爆弾がアフガニスタン、イラクで米軍によって使用されたと考えている。

□ダイ
 1997年にロッキード・マーティンによって特許の出願がなされている。クレーム4は、タングステンで出来たペネトレータ(貫通体)であり、クレーム5はDUによるペネトレータである。

□バズビー
 (戦術核兵器か?)ガンマ線は検出されていない。核分裂をベースにしたものではない。

□エミリオ・デル・ガウディス(国立核物理学研究所)
 これは広島の原爆とは異なったものだ。原爆の場合、臨界質量(critical mass)のウランが必要だし,ウラン235が必要です。

□バズビー
 (絵を描いて説明)。爆弾のケーシングはスチールでできているだろう。そしてその中身は補強ために特別な放射性物質が使われている。劣化ウランであろう。爆弾のお尻の部分には、点火用の物質が配置されている。これが爆発すると高熱を発生し、中身は粉末となって飛散することになる。

 11月初旬のこと、我々はダイ・ウィリアムズが採取したサンプルをレバノンのフェラーラ大学の地球科学科の研究室に持っていった。

 スペクトル分析の結果、通常の構造であり、表面はアルミニウムと鉄の珪酸塩で出来ていた。これらは通常の土壌に含まれているものである。内部を見ると、鉄だけの穴が非常に多い。更に分析を行うことで、より詳しいことがわかるであろう。はっきり言えるのは、自然のプロセスによって出来たものではないということである。(スペクトルの図が表示される)

□エミリオ・デル・ガウディス
 ウランが高濃度の水素を含んでいると仮定してみよう。爆発の際、水素は分子としてではなく、元素として放出される。この場合、水素が非常に活性化される。そして攻撃目標の生物学的物質に含まれる酸素と高度な親和性を示す。酸素が、化学的反応で、破壊をもたらす。
 広島の原爆とは違っている。中性子によって引き起こされる核反応ではない。何故、そう言えるのか?超大国の政府・軍関係者の話では、これら超大国は小型の核爆弾を保有しているのである。ブッシュは、小型核爆弾と定義している。小型核爆弾の場合、臨界質量というのが問題となる。中性子で引き起こされる通常の核分裂では、これを取り除くことが出来ないのだが、それがある程度克服されている。

□ダイ・ウィリアムズ
 劣化ウラン弾によって、1980年以来20年にもわたって開発されてきた劣化ウラン弾よりも遥かに恐ろしい新型の兵器が公になるのを免れてきたのだ。20年にもわたって、新世代の兵器(劣化ウラン製の、そして非劣化ウラン製の)が秘密裏に開発されてきている。


 アフガニスタンでもイラクでもウランはクレータから検出されなかった。英国防省が、空中のウランの濃度が高くなったという発表を行った。2001年アフガンでの、2003年3月イラクでの空軍作戦と符号するものである。

 最高値(ピーク)が観測されたのは衝撃と畏怖作戦の実施の時だった。レバノンでウランが検出されたのはこれがはじめてであった。それは濃縮ウランであった。

□バズビー
 キアムについては、まだデータがないから私は何もいえないが、一般的なウランの影響については語れる。まずは、いろいろな疫病を引き起こす。(白血病など)DNAにも影響を及ぼす。

□ダイ・ウィリアム
 レバノンの全土を、空を、水を、攻撃目標を調べるべきだ。

□バズビー
 (イタリア兵など、国連軍の兵士は特にどんなことに気をつけるべきか?)爆撃地などでは、埃などを吸い込まないように十分気をつけなければならない。

□マウロ・ブルガレリ (イタリアの上院議員)
 事態は深刻だ。レバノン以前に44人の兵士が死んでいる。また300人以上が病気である。
これはあくまでも氷山の一角。死者の数ももっと多いのではないか。

 10月26日にマウロ・ブルガレリ議員は質問を行った。イタリア政府がレバノンに駐留しているイタリア兵に対し何らかの措置を講じているかという質問である。

□マウロ・ブルガレリ
 (レバノンにいる兵士が、(ウラン爆弾に対して)装備をしていないと考える根拠がありますか?)
イタリア兵は、特別な防護装置も着けず、シャツを着ただけで動き回ったりしている。

 イタリア兵は対NBC(対核化学生物兵器)マスクを支給されている。また各自が線量計を携行している。イタリア兵はキアム地域には配備されていない。キアムではインド兵がスペイン兵と交代するのを待っている。

□バズビー
 マスクはある程度は有効だ。微粒子はマスクを通してでも吸い込まれる。戦場で爆発したウランはその場に留まることはなく、あらゆる場所に飛んでいくのだ。誰もが汚染されるのだ。