イラク戦争劣化ウラン情報 No.10      2003年12月24日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局 吉田正弘

イラクでの劣化ウラン使用を否定し続ける政府答弁
自衛隊の「放射能測定器」携行のごまかし

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(1)政府はイラクへの自衛隊派兵を更に加速しようとしています。派兵そのものの正否とあわせて劣化ウランによる汚染問題が焦点化しています。特に南部のサマワに対する陸上自衛隊の派兵については、今回のイラク戦争でも米軍による劣化ウランの使用が報告されており、そこに派遣されれば当然劣化ウランによる汚染と被曝の危険が問題になります。

 先日来日したUMRCのドラコビッチ博士は、UMRCのイラク調査チームがバスラからバグダッドまで2週間かけて調査を行い、サマワ付近も劣化ウランによって汚染されていることを確認したと述べました。写真家の森住卓氏はサマワ近郊にでかけ劣化ウランによって破壊された大砲が高い放射能を出していることを確認しました。この地域の治安を担当しているオランダ軍についても、オランダ政府の「この地域では劣化ウランは使われていない」と説明しながら、それがウソであったことがわかって政治問題化しています。
http://nucnews.net/nucnews/2003nn/0308nn/030804nn.htm#010

 陸上自衛隊の部隊がイラクに送られる北海道では、市民の間で劣化ウラン弾の危険性についての関心と心配が広がっており、とりわけ自衛隊員とその家族の間で心配と不安が強まっています。当然の不安です。
 ところが、自衛隊を派兵する日本政府はこの問題に対して驚くほどでたらめで無責任な態度をとり続けています。自衛隊のイラク派兵をめぐって衆議院の「イラク復興支援」特別委員会で閉会中審議が行われました。その中で渡辺周議員(民主党・無所属クラブ)の劣化ウラン弾の危険についての質問に対する石破防衛庁長官の答弁は、彼らがいかに自衛隊員の命と健康を軽んじているかをはっきり示しています。「劣化ウラン弾が使用されたと認識しているか」「当然被害が懸念されるがどう考えているのか」という渡辺議員の質問に対して、石破防衛庁長官は、@「劣化ウラン弾の被曝とガンその他の重大な健康上あるいは環境上の影響の増大について、信頼できる科学的証拠に基づいて証明された関連はない」、A米軍は「劣化ウラン弾を使っていない、少なくとも使ったと言っていない」というまたも驚くべき答弁を厚顔無恥にも行いました。

 第1に、Aの論点について言えば、どこまで人々を騙し、シラを切るつもりなのでしょうか。あきれ果てます。劣化ウラン弾はイラク全土に転がっています。ドラコビッチ博士や森住氏の報告にあるように劣化ウランで破壊された軍装備が未だに各地に放置され、命中した場所からは強い放射線が出続けているのです。サマワはユーフラテス川に架かる橋のある要衝の地で、イラク市民120人が戦闘に巻き込まれて殺されるほどの激戦地でした。米軍が対地攻撃機や戦車、ブラッドレー戦闘車から劣化ウランを発射したことは明かです。戦闘に参加した米兵の証言も紹介されています。
http://nucnews.net/nucnews/2003nn/0308nn/030804nn.htm#010

 ここまで明らかで、誰もが使われていると知っているのになぜ政府は否定するのでしょうか。劣化ウランは核燃料物質であり、もちろん危険な物質です。通常は危険な物質がある可能性が有れば、まずは調査をするのが当たり前です。ところが、政府は米国に問い合わせることもしない、サマワに送り込まれた先遣隊が調査を行ったという報告もありません。あるかどうか確かめることさえ拒否しているのです。異常と言うほかありません。
 調査してもし劣化ウランがあれば派兵に差し支える、米国への派兵約束の障害になると考えているのでしょう。否、米が非人道兵器・大量破壊兵器を使ったとは口が裂けても言えないということなのでしょう。なぜならそれは明らかに戦争犯罪になるからです。何が何でも派兵する、米国に追随・協力する、その障害になるなら自衛隊員の健康などどうでもいいと考えていることがあまりに露骨です。

 次に@の論点はどうか。劣化ウランが「健康に重大な被害を与えることは証明されていない」というのは許し難い言い逃れにすぎません。健康に障害がないというなら、なぜ国内では放射性物質、核燃料物質として厳重な管理下におかれているのかについて、政府は責任を持って答えるべきです。

 劣化ウランと健康被害との因果関係について、私たちは繰り返し主張してきました。ここでもう一度整理しておきます。
a)何よりもまず劣化ウラン以外には考えられない被害が現実に出ていると言うことです。なぜイラク南部でガンや先天性欠損症が湾岸戦争後に何倍にも急増したのか、なぜ湾岸戦争帰還兵の半数近くが健康被害で働けなくなっているのか。ともに同様の症状なのです。米政府は風土病やフセインのプロパガンダを原因に挙げますが、湾岸帰還兵とイラク現地の住民との共通因子は劣化ウランしかないのです。
b)米軍が湾岸戦争前に、劣化ウランを使用する前の段階で、すでにその危険性を知っていたことです。証拠文書も明らかにされています。
c)動物実験で劣化ウランの危険性が明らかになっています。劣化ウランを摂取した後の体内の挙動がこれまでのように直ぐに排出されてしまうのではなく、様々な臓器に拡散・蓄積されてしまうという新しい知見です。
d)アルファ放射能の体内被曝による人体への影響が、従来ICRPがオーソライズしてきたリスクファクターや危険性より遙かに高いという知見が積み上がっていることです。

 科学的知見の発展や実験結果、UMRCが行っているような現場でのフィールド調査などの総体が、米英や日本の政府のウソとごまかしを根底から覆すものとなっているのです。もちろんこうした科学的成果をどう政治的に押し付け認めさせていくかということは、また別の問題です。

 原子力産業に奉仕するIAEA(国際原子力機関)やWHOの都合のいい部分だけを取ってくるなど許されないことです。以前に紹介しましたが、米国がコソボやユーゴ戦争で使った劣化ウランの調査をしている国連環境計画UNEPの紛争後評価部隊は、劣化ウランが重大な被害を与える可能性を考慮して、劣化ウラン弾の使用場所の公表、撤去と清掃、周辺住民の健康調査を勧告しています。国連人権小委員会や欧州議会では使用禁止の決議が上がっています。逆に、未だに米占領軍がイラクにUNEPが調査に入ることさえ認めないことこそ問題なのです。

(2)実は石破防衛庁長官のふざけた態度は、自衛隊員も含めた市民の間であまりに不安が強まったために実際上すでに破産しています。石破長官は16日の参議院外交防衛委員会で社民党大田議員の「放射能測定器を持って行くという報道があるが本当か」という質問には「確定していない」と答えました。しかし、20日には防衛庁は派遣隊員全員に「新型線量計」を携帯させることを公表せざるを得なかったのです。
http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/kiji.php3?&d=20031221&j=0022&k=200312213429
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20031221-00000069-mai-soci

 この「新型線量計」なるものは原発の中で使われているポケット線量計と同種のものと思われます。原発労働者が浴びた放射線の量を知る(あるいはアラームが鳴って被曝限度になるまで働かせる)ために使われている計器です。これを全員に付けさせることは、サマワの環境が原発の内部と同程度に危険であることを間接的に認めたことになるのではないでしょうか。

 しかし、この発表自体が許し難いごまかしです。まるで政府と自衛隊が「万一の危険」に備えて「万全の体制」を取っているかのような演出として行われています。しかし、この計器で測定することができるのはガンマー線とベータ線だけです。ウランから出るのは主としてアルファー線であって、ガンマー線は極少しか出ません。だからこのような計器では戦車への劣化ウラン弾の貫通口のごく近くに持って行かなければ検出出来ません。これ以外の場合は、事実上劣化ウランを検出できないのです。そんなデタラメな計器を持たせて、それであたかも対策を取ったかのように宣伝し、不安に駆られた自衛隊員やその家族、そして一般の市民を騙そうとしているのです。悪質と言うほかありません。

 すでに周知のことですが、ウランの最大の危険性は命中によって燃焼し、ミクロン単位のダストになったものを肺などに吸い込むことにあります。危険は手で持ったり近づくことによるのではないのです。砂漠の中にダストになって飛び回る劣化ウランをこの線量計で検出することはできません。自衛隊員が被曝したかどうかは、尿に排出されるウランの濃度と核種を測定するという極めて高度な分析をしなければわからないのです。もちろんそんな検査は検討も予定もされていません(どこまで本当か分かりませんが、イギリス兵については、湾岸戦争症候群への対策として本人が希望すれば受けることができることになっています)。そして一旦肺の中に吸い込まれた劣化ウランは、周辺の細胞に、あるいは血液に入り込んで体内でウランが集まりやすい器官に長期にわたってアルファー線を浴びせ続けるのです。この体内被曝こそが最も危険なのです。

 派兵された自衛隊員や家族にもし劣化ウランによって将来、ガンや先天性欠損症が現れても、政府は「健康被害が出るはずはない」と、米英政府のように居直り続けるでしょう。何年も経って被害者が劣化ウランを吸い込んだことは証明できないだろう、無視してやろうとタカを括っているのでしょう。小泉首相は「危険だからこそ自衛隊員がいかなければならない」と戦争状態の中に自衛隊員をたたき込もうとしています。彼らが現地のレジスタンスの標的になって命を落とそうとお構いなしです。(もちろん、劣化ウラン汚染と被曝に関しても、自衛隊員が現地の住民を殺すことになっても、そもそも現地の人々の命なんか何とも思っていない)。劣化ウラン対策といい、派兵そのものといい、人の命を何とも思わない−−自衛隊派兵はこのような政府によって行われようとしているのです。
 国会答弁の関連する部分を以下に紹介します。

【資料−国会議事録】
国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動並びにイラク人道復興支援活動等に関する特別委員会 平成15年12月15日

○渡辺(周)委員 (略)ちょっと時間がなくなりましたので、幾つかに絞って質問をいたします。
 実際、自衛隊が派遣をされるこの場所、今、劣化ウラン弾による被害というものが、先般ある独立の調査機関から、カナダだったでしょうか、出ました。この点について、劣化ウラン弾が使用されたという認識は、防衛庁長官はおありかどうか。そしてまた、このような汚染された土壌の上で活動するということについては、当然健康被害が懸念されるわけでありますけれども、その点についてはどのようなことを考えているのか、それが一つ。
(略)
○石破国務大臣 (略)冒頭の劣化ウラン弾のお話、お答えが逆になって恐縮ですが、劣化ウラン弾についてはどうするかということでございますが、劣化ウラン弾について、実際に被害があったかどうか。
 例えば、IAEAのウエブサイトを見てみますと、ここに、劣化ウラン弾の被曝とがんその他の重大な健康上あるいは環境上の影響の増大について、信頼できる科学的証拠に基づいて証明された関連はないという記述がIAEAのウエブサイトにございます。あるいは、WHOのファクトシートを見てみますと、劣化ウラン弾による環境への影響は着弾地点の数十メートル四方に限定される、こういうふうに記述がございます。
 今回のイラクに派遣されておりますアメリカ中央軍でございますが、アメリカ中央軍がどのように言っておるかと申しますと、劣化ウラン弾が何かに当たったとき、もし危険があるとすればその残滓からであり、それが実際の効果を生むためには直接接近し摂取されなければならない、直接接近をしてそれをとるということでなければならない、このように書かれております。
 私ども、劣化ウラン弾を有しておりませんので、実際にこれまた試してみるというお話には相なりません。しかし、このIAEA、WHO、そういうような国際機関においてそのような記述がなされておるということを考えてみましたときに、それでもなお残存する危険というのがあるとするならどのようなものなのか、それを検知するために何を持っていくかというようなことは、当然考えていかねばならないことだと思っております。
 私が申し上げたいのは、IAEAあるいはWHOにおいて、そういう国際機関において、そのような危険があるとは言われていないということが事実であるということ。そして、中央軍の見解によれば、それを直接摂取した場合には影響がある。では、どのような場合にそういうことが起こり得るのかということまできちんと考えていく必要があるだろうと思っております。
○渡辺(周)委員 今の劣化ウラン弾の問題については、これは、防衛庁長官として今現状をどう判断しているのか。つまり、これを、米軍が今回の戦争で使用したその残ったものが当然のことながら存在する危険性を排除できないというふうに考えているのかどうか。そのために、当然のことながら、自衛隊の行動については細心の注意、あるいは行動範囲においても影響を与えるわけでありますけれども、その点について、IAEAや何とかというのはわかります、防衛庁長官はどう認識していらっしゃいますか。その対策はどうしますか。
○石破国務大臣 あるいは、サマワにおきます放射能汚染の事実関係は、私どもよりも外務省にお尋ねをいただいた方がより適切なお答えが得られるのかもしれません。
 アメリカ軍として劣化ウラン弾を保有しているということは、このイラク戦争の期間も申しておったと私は記憶をいたしております。しかし、保有をしておるということは申しましたが、実際にそれを使用したというふうにアメリカの方が認めたということを、私としては確認しておりません。それが事実として申し上げられることでございます。
○渡辺(周)委員 だとすれば、これは確認をするべきじゃないですか。それは、ここで、いや、確かに使いました、このぐらい、どのぐらい使いましたと、それは公にできない部分も、米軍のも。しかし、もしここまで日本が日米同盟を基軸にやるというんであれば、自衛隊のその外敵テロ、外敵ゲリラから身を守るということ以上に、この果たして行くところが大丈夫なのかどうか。
 つまり、放射能汚染をされて被曝をするような可能性があるところで、もう既に一部そういうことが報じられているわけですね。そこで、自衛官は行かされる。果たして自分は将来大丈夫なんだろうか。将来、そういうことで自分の健康はどうかなるんではないだろうか。当然、そういうことも考えられるわけでございます。その点については、米軍に今確認していないと言いますけれども、派遣する前に確認すべきじゃないですか。どうですか、長官。
○石破国務大臣 私どもは劣化ウラン弾を持っていないということと、では、そういうような放射能による障害についての知見がないのかということは別個の議論だと思っています。
 私どもとして、そういうような放射能の影響について、それは、広島、長崎のあの悲惨な例から、いろいろな知見を私どもは得ておるということがございます。他方、劣化ウラン弾を使っていない、少なくとも使ったと言っていないということが一つある。そして、知見を持っているということがある。さらに言えば、いろいろな国際機関によって、直接摂取をした場合には影響があるということが言われている。だとした場合に、私どもとして、どのような装備を持っていき、先ほどどなたかの御質問で、bあるいはcに対する装備を持っているのかという御質問があって運用局長からお答えをいたしましたが、隊員が安んじて行動ができるようにするというのは、それは政府の責務だと思っています。したがって、直接摂取していないから大丈夫なんだ、することは想定されないから大丈夫なんだというようなことを私は申し上げるつもりはございません。どうすれば隊員が直接摂取をするようなことがないような形がとれるかどうか。
 委員お尋ねの、使ったか使わないか米軍に確認してみろということがどれぐらいの実効性を持つものかということも含めまして、隊員にそのような不安が生じないような策は、劣化ウラン弾につきましても懸念が生じないような対策はとってまいりたいと思います。
○渡辺(周)委員 確認ですが、それはアメリカに対して確認。昨日のテレビの報道番組の中で、そういう事実があった、そして、実際、何かジャーナリストが計測器を持ってそれをはかっていたわけですね。ですから、その点についてちょっと御確認いただいて、やはりそれについては、アメリカに対してその確認については全力を尽くしてその情報を共有していただきたいというふうに思うんです。ちょっともう数分しかありませんから、その点についてはぜひともやっていただきたい。

参議院外交防衛委員会 2003年12月16日

○大田昌秀君 サマワに派遣される自衛隊は放射能探知器を持参するとの報道がありますが、それは事実ですか。
○国務大臣(石破茂君) そういうことを確定をしておるわけではございません。

●衆議院
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index-kaigiroku.htm
●参議院
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kaigirok/daily/select0104/main.html