小泉政権の冒険主義への道−−
意図的に演出された「東シナ海不審船事件」
「不審船の航行は無数にある」(海上自衛隊幹部)−−
それではなぜ政府・マスコミは今回だけ「事件」に仕立てたのか?



 私たちは昨年末、「小泉政権による公海での不法な武力行使、北朝鮮敵視政策を糾弾する!」という論評を明らかにしました。「事件」は政府により意図的に作られたものであり、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)敵視政策が扇動されている、と批判したわけです。
 年初早々、私たちのこの見方を裏付けるTV番組がありました。1月6日のJNNの「報道特集」で放送された「荒れる海の壮絶攻防!極秘の電波情報とは?不審船沈没の一部始終」です。この番組自体は、「不審船事件」を批判するものではなく、むしろ防衛庁と海上保安庁の連携のなさを批判し、もっと体制強化をと訴えているのですが、同時に今回の「不審船事件」が「政治的に演出された事件」であったことを証明するものでもありました。つまり、米軍・防衛庁が「不審船」の存在を「電波情報」により十分掌握していたこと、米軍・防衛庁はそのような「電波情報」の内容は諜報活動の秘匿性を守るために公開しないのが普通なのに今回はあえて「摘発した」ことを明らかにしたのです。この問題についてもう一度考えてみたいと思います。

■「起こった」のではなく「起こされた」“不審船事件”
 「報道特集」を見るまでもなく、年末から年始にかけて新聞や雑誌やTVで報道された様々な「検証」によれば、「不審船」情報の情報源は米軍です。スパイ衛星が北朝鮮の「工作船」の出港を発見し、日本側に行動を取るように事実上「指示・命令」したのです。自衛隊はこの情報を受け、喜界が島等の電波傍受施設で追跡しました。そしてP3Cが確認のために飛び立ち、「発見」したのです。初めから「そこ」にいること、「漁業が目的ではないこと」を知っていて追跡し、臨検あるいは拿捕を目的に行動したのです。
 今回の「報道特集」で取材を受けた海上自衛隊の幹部によれば、「不審船事件は数え切れないほどある。ほとんどの場合、見逃したり、追い出したりするだけにとどまっている。」と言います。それが今回に限ってなぜ「漁業法違反」で、「検査拒否」程度のことで、徹底的に追跡し、威嚇射撃ばかりか船体射撃にまで踏み込んだのか?そして反撃に遭うや自衛射撃として相手を沈没させるまでの本格的な武力行使をしたのか?しかも日本の領海からはるかに離れた経済水域の外れで「発見」し、すでに中国側の経済水域に入ってしまっているにも関わらず執拗に武力行使を続けたのか?
 政府とマスコミによって、まるで「事件」が偶発的なものであるかのように大々的に宣伝されましたが、それは全くのウソです。北朝鮮非難、誹謗・中傷を煽ることで、国民全体を好戦的なナショナリズムで洗脳し、民族差別を植え付けようとしているのです。私たちは、政府・マスコミのこの対応の陰に、本当の政治的意図を見抜かなければなりません。

■「不審船追い出し政策」から「不審船攻撃政策」へ転換
 「報道特集」によれば、日本政府は「電波情報」のキャッチを通じて北朝鮮の「工作船」の使う周波数や通信形式や暗号を知っていて、どこでどんな活動をしているか把握しています。米軍の「衛星情報」と「電波情報」を組み合わせれば取れない情報はほとんどないと言います。もしこれらの情報を使って今回の「不審船」の行動を割り出したのならば、当然相手は無線の使用周波数などを変えてしまうでしょう。これは1999年の日本海での「不審船」事件のときに現実に起こったことです。北朝鮮の工作船は一斉に使用周波数や暗号等を変えたので、しばらく日本側にはそれらの船の動向が全くわからなくなったようなのです。もう一度一から情報を積み上げるには大変な手間がかかったと言います。したがって通常は、これまで手に入れた情報を失ってしまう危険を避けるために、これらの「工作船」には、よほど相手側が違法行為をするのでなければ、あからさまな形では手を出さないというのが通常の領海警備情報のあり方だというのです。要するに、自分の傍受能力や傍受技術を知られるのを避けるのが普通なのです。

■政府が「経済水域」政策を変えた2つの理由
 しかし今回は全く違いました。「電波情報」によると分かってもいいという前提で初めから終わりまで行動しました。「経済水域」での「無国籍船」の航行は普通よくあることなのに、それを意図的に「疑似領海侵犯事件」に仕立てたのです。政治的な効果と演出を最優先したと言えるでしょう。その後の動きを見ればこの「不審船事件」を誰が最大限に利用しているかは明らかです。政府はマスコミを大動員して国内で反北朝鮮キャンペーン、排外主義的煽動を繰り返し行い、まるで日本の領海が危機に瀕し、一触即発の準戦時状態であるかのような作為的な扇動をしました。「不審船事件」は「起こった」のではなく「起こした」のです。
 小泉政権は、来る通常国会で有事法制を強行しようとしています。「不審船事件」は、その雰囲気作りに恰好の宣伝材料、舞台回しなのです。小泉政権は、図に乗って「領海」ではなく「経済水域」にすぎないところで、海上保安庁が先制的な武力行使ができるようにする法律作りを企てています。領海(12海里)にかぎられる自衛隊の「領域警備」を、はるかに離れた経済水域(200海里)にまで拡張し、「不審船」に対して自衛艦が大砲を撃って追っかけ回す戦争挑発行為までも可能にしようとしているのです。
 もう一つ事件から政治的利益を得ているのはアメリカです。そもそも今回の「事件」は、対アフガン戦争に総力を集中している米軍が、手薄になっている極東、東アジア、朝鮮半島で勝手なことをするなというメッセージを北朝鮮に与えるために、日本に指示・命令してやらせた疑いが極めて強いのです。

■小泉政権は北朝鮮との国際紛争を煽り軍事的緊張を高めようとしている
 それだけではありません。「事件」後明らかになったもう一つのことは、「経済水域」で緊張を弄ぶことの危険性です。政府が、このまま武力行使や挑発行為をエスカレートさせていけば一体どうなるかということです。
 もしそうなれば今後日本周辺での領海紛争や経済水域でのトラブルで、今回のような武力行使や戦闘が頻発するでしょう。一旦武力行使をやると次は双方がもっと重装備で対応するからです。武力行使は更なる武力行使を呼び起こします。エスカレーションの芽を内包しているのです。朝鮮半島情勢、東アジア情勢はますます緊迫化し不安定になるでしょう。現に政府・海上保安庁は、相手が対戦車ロケットや携行対空ミサイルなどで武装してくることを前提に更なる重武装で対処すると公言しています。追跡と経済水域外への追い出しの道を取るのでなければ、今回のような攻撃と撃沈しかないでしょう。こんなことが続けば、仮に停船させることができても、武器による反撃の可能性を考えれば立ち入り検査などできるはずがありません。まさしく今回のように「怪しい」というだけで撃沈させる危険性が大きいのです。先の「報道特集」の中で出ていた自衛隊幹部は「海保の航空機はよくあそこまで近づいたものだ。スティンガーを持っていたら撃墜されていた」と無知な海上保安庁を揶揄し呆れ返っていました。この幹部が言うように、もしあそこで本当にスティンガーが当たり墜落していれば・・・、と考えると背筋が寒くなります。正真正銘の「国際紛争」に一気に発展していたかも知れなかったのです。更に、もしこのまま武力行使を前に出して、検査より撃沈を優先し、海上保安庁じゃなくすぐに自衛隊を出動させる、そんな法整備がなされると一体どうなるかを考えてみて下さい。
 国際紛争、特に国境紛争や経済水域を巡る紛争は戦争と軍事的緊張をエスカレートさせる非常に危険な道です。絶対に避けなければなりません。今回の「事件」で小泉政権が取った対応と今後取ろうとしている「領海警備」強化対策は、専ら武力行使をエスカレートさせるだけであり、戦争と軍事的危険を増幅させるだけの、全く間違った政策です。仮に「不審船」が北朝鮮のものであったとすれば、事件を予防する唯一の道は、北朝鮮との政治的な緊張緩和しかありません。まずは北朝鮮に対する敵視政策をやめ、国交回復を実現し、政治的緊張緩和と軍事的緊張緩和を着実に進めることです。しかし小泉首相がやっているのは、これと全く正反対のことです。政治的対話を一切抜きにして一方的に武力行使をエスカレートし民族排外主義を煽ることこそ、東アジアと極東の政治的・軍事的緊張を激化させ、戦争の危険を高める冒険主義の道なのです。
 

2002年1月14日
アメリカの「報復戦争」と日本の参戦に反対する署名運動事務局




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