ブッシュの東アジア歴訪と「悪の枢軸」戦略
アジアと世界中に戦争の火種をまき散らす
アメリカの軍事覇権主義



T.「悪の枢軸」戦略を押し付けるための東アジア歴訪

(1)日米軍事同盟が東アジア戦略の根幹であることを表明
 ブッシュ大統領の東アジア歴訪は、終始一貫して戦争の論理、軍事の論理を前面に押し出した危険で挑発的なものでした。歴訪全体を通じて「悪の枢軸」論を基調にしました。歴訪最初の訪問国を、対中・対北朝鮮で最前線に立つ日米軍事同盟を組む日本に決めたことにも軍事的意味があります。戦争好きで軽くてお調子者の小泉首相なら「テロとの戦争の第二段階」「悪の枢軸」論に二つ返事で「支持」「理解」することが分かっていました。

訪日前日にアラスカの米空軍基地に立ち寄り、「悪の枢軸」演説するブッシュ大統領(2/16)

 韓国では北朝鮮に対して厳しい態度を打ち出しました。中国では歴代政権の「戦略的曖昧」戦略を捨てて有事の際の台湾防衛を明言しました。これらを全体としてみれば、世界中に空爆を仕掛けてきたクリントン政権さえ顔負け。クリントン政権時代の東アジア外交とも明確に一線を画すものです。
 つまり軍事覇権主義を前に押し立て、強圧・高慢・傲慢の基本姿勢でやるというのです。世界中が反対する戦略ミサイル防衛と核戦力の近代化、軍事介入と大軍拡を柱にしたアメリカ軍国主義、絶対的なアメリカの軍事的優位を誇示しようというのです。

(2)「悪の枢軸」戦略の脆さも見せつけた
 しかしブッシュ大統領の狙い目は貫徹したわけではありません。訪韓では、北朝鮮を「世界でもっとも危険な政権」と決めつけ対北朝鮮敵視を前に出したブッシュに対して、金大中大統領は「太陽政策」を再確認することで牽制しました。南北対話と平和共存への努力を台無しにするブッシュ路線に韓国の労働者や市民から強い反対の声が上がりました。3ヶ国歴訪の中でブッシュ反対で最大の大衆行動が行われたのも韓国でした。中国でも江主席、胡副主席の訪米や「戦略対話」が決まったものの、FBI職員の北京駐在、中国の弾道ミサイル部品・技術の輸出問題では合意に至りませんでした。
 ブッシュ大統領は、「悪の枢軸」という基本姿勢こそ打ち出しましたが、その実現や貫徹には大きな壁があることをも思い知らされたはずです。米の対北朝鮮政策も、対中国政策も、まだ鞘当ての段階に過ぎません。もしごり押しすればアメリカ自身の東アジア戦略そのものを窮地に陥れることになるでしょう。


U.世界中に戦争の火種をまき散らす「悪の枢軸」戦略

(1)対イラク戦争を本気で準備し始める
 「悪の枢軸」−−これはブッシュ大統領が先の「一般教書」演説で使った挑発的な表現ですが、単なる言葉の遊びであったなら嘲笑で済みます。しかしブッシュとその側近たちは本気なのです。北朝鮮・イラン・イラクの3ヶ国を、ありもしない「枢軸」と位置付け、戦争で打倒する対象、軍事的圧力で屈服させる対象に据えたのです。「悪の枢軸」とは、今やブッシュの軍事外交戦略の基本路線なのです。
 「次はイラクか?」−−世界中が震えました。ブッシュ大統領は、アジア歴訪直前にイラクへの軍事行動を示唆し世界中を不安に陥れたのです。それ以前にもソマリアやイエメン、スーダンやフィリピンを攻撃すると示唆し、それぞれの攻撃対象にされた国々で不安と脅威が増大しました。「お前はアフガンのような目に遭いたいのか」と言いたいのでしょう。これでアフガニスタンが見せしめ、生け贄にされたことがはっきりしてきました。
 しかしこんなことがあって良いのでしょうか。飢餓に苦しみ国土と民衆が疲弊しきっている貧しい途上諸国に武力行使をちらつかせ相手が怖がるのを面白がる。どこが「自由の国」、どこが「正義」なのでしょうか。いい加減にして欲しいものです。貧しく抵抗もできない人間を殺し破壊し尽くされた途上国を更に微塵にまで破壊する。自分より貧しい者に抵抗されれば異常に興奮し徹底的に踏みつぶす。こんな唾棄すべき存在に転落したのが今のアメリカなのです。圧倒的絶対的な軍事力を持ってしまったアメリカ帝国の腐敗と頽廃の極致と言えるのではないでしょうか。

(2)アフガンで戦争を続けながらコロンビアやグルジアにも軍事介入
 ブッシュ政権は、当面イラク攻撃は難しいとみたのか、叩き潰しやすい相手を選んで、腹いせのように次々と軍事介入を開始しました。ブッシュ大統領の東アジア歴訪の真最中に、米比共同軍事演習「バリカタン02−1」が本格化し、17日米特殊部隊30人がフィリピン南部のバシラン島に初めて入り、アブサヤフとの本格的戦闘が始まりました。それに続いて20日にはコロンビアでも米を強力な後ろ盾とした国軍による空爆とゲリラ掃討作戦が始まりました。27日にはグルジアでも米軍事顧問団の介入に続いて特殊部隊投入も計画されていると暴露されました。アフガニスタンでは、米軍の軍事行動は未だに続き、空爆と殺戮が続いています。まるでアフガン全体が生身の人間を相手にした狩り場、あるいは生身の人間を狙い撃ちにする実弾演習場のようになっているのです。腹立たしくてなりません。
 シャロン政権はパレスチナ自治政府との全面戦争に入りました。ブッシュはイスラエルを全面的にバックアップしてパレスチナ住民の抵抗を軍事的に圧殺し占領地に封じ込めようとするシャロンの残忍さを増幅させています。
 フィリピンなど東南アジア、アフガンやグルジアなど中央アジア、パレスチナなど中東、コロンビアなど中南米−−すでに「対テロ作戦」という名の米の軍事介入が今行われている国と地域だけでも地球全体にグローバルに広がっています。戦争の脅しを加えているイラクやイランや北朝鮮を含めると、もっとグローバルになります。ブッシュ大統領自身が「対テロ作戦の第二段階」と言っているように、アメリカの侵略戦争は、アフガン一国から全世界へグローバルに拡大するという全く新しい段階に入りつつあります。


V.非難と攻撃にさらされる「悪の枢軸」戦略

(1)孤立するブッシュ政権。「悪の枢軸」戦略のごり押しが最大の弱点に浮上。
 ブッシュ政権がごり押しする「悪の枢軸」戦略が政権最大の弱点、最大の急所に急浮上しています。「悪の枢軸」論が世界中から非難と攻撃の嵐に見舞われているのです。ブッシュ政権が「悪の枢軸」戦略を世界中に押し付ければ押し付けるほど反米の国際世論が高まるでしょう。
 名指しされたイラク、イラン、北朝鮮は即座に反撃しました。北朝鮮はブッシュのアジア歴訪を「戦争行脚」と呼びブッシュ大統領を「人類を常に脅かしている最も危険で最も残忍な殺人悪魔」と非難しました。フランス、ドイツをはじめヨーロッパ諸国が米を批判し、特にイラクへの軍事行動を非難しています。「単純すぎる」(仏外相)、「同盟諸国は米国の衛星国ではない」(独外相)、「米国だけが絶対だと考えている」(対外関係担当欧州委員)等々。遅れてロシアも反対を表明し始めました。更に遅れて米国内からカーター元大統領やクリントン政権時代の閣僚など民主党内からも反発が出始めています。
 この勇み足を徹底的に突けば、アメリカの突出を押し込めることが可能になっているのです。これは全世界の国々が雪崩式にアメリカの対アフガン侵略に同調していった昨年の9.11事件以降の状況、「テロ国際包囲網」が形成された異常な「翼賛体制」の頃と比較すれば全くの様変わりです。

(2)「悪の枢軸」論を支持した小泉首相の弱点にも
 ブッシュ大統領は日本と日米軍事同盟を東アジア戦略の根幹であることを表明しました。「日米関係は両国にとってだけでなく世界全体にとって重要」と語り、日米同盟の役割について、全世界的な戦争で重要な役割を持つことを確認しました。
 小泉首相は、「大統領の一般教書に感動した」と述べ、「悪の枢軸」演説に明確に支持を与え、米軍事戦略の基軸である「テロとの戦争」に支持を表明しました。これは米の全世界での戦争挑発、戦争遂行と、大軍拡予算に支持を表明したことになります。
 さらに小泉首相は、ブッシュが「悪の枢軸」論を展開し、イラク攻撃を念頭に「全ての選択肢」なる表現で武力行使を示唆したことに対して、「テロに対する毅然たる態度を示す」「テロとの闘いについては日本は米国と常にともにある」として、イラクへの侵略戦争に支持を与えました。いくら戦争好きの小泉首相といえども、戦争屋ブッシュにここまでシッポを振ることは許されません。
 しかし見方を変えれば、ここまでべったりとブッシュに媚びを呈し追随することでかえって小泉政権の危険に我が国の国民が気付くきっかけになるかもしれません。「悪の枢軸」にヨーロッパ諸国に習って距離を置くのではなく、支持を与えてしまった小泉政権にとっても、この「悪の枢軸」論に対する関係が最大の弱点、最大の急所になる可能性が出てきたのです。もちろん私たち反戦平和運動が精力的にこの問題を追及すること、野党が国会で徹底的に追及することが前提ですが。いずれにしても今国会で上程されようとしている有事立法の審議の際にこの問題を徹底的に突く必要があります。


W.有利な国内政治情勢の下で有事法制を阻止しよう

(1)小泉首相の「悪の枢軸」支持を撤回させよう
 小泉首相に対して日米首脳会談での「“悪の枢軸論”支持」発言、イラクへの武力行使「容認」発言を、国会の内外で徹底的に追及しなければなりません。国会の場で改めて「悪の枢軸」論を支持するのか否か、イラクに対する武力行使を支持するのか否か、支持するのなら米がイラク侵略を開始したときに自衛隊をどうするのか、「テロ特措法」は適用されないはずだ、だとすればまた新しい戦争法を作るのか、ヨーロッパ各国がこの論に批判的でありなおかつイラク攻撃に反対している現状で、本当に日本だけが突出して支持するのか否か等々を徹底して追及しなければなりません。「悪の枢軸」には北朝鮮も含まれています。韓国が躊躇する中で米が一方的に戦争挑発を行ったときに、朝鮮半島で火遊びをやったときに小泉首相はどうするのかを問いたださねばなりません。

(2)国内政局の急変と有利になった国内政治情勢
 今の国会情勢と国内政局、与野党の力関係は、非常に有利になっています。少なくとも8割の支持率を背景に「つくる会」教科書、靖国神社公式参拝など軍国主義的で反動的な政策をどんどん打ち出した昨年の春から夏にかけての頃、「テロ対策特措法」が強行された昨秋とは様変わりです。田中外相の更迭ではっきりと潮目が変わったのです。鈴木宗男議員の相次ぐ疑惑、証人喚問、外務省の不祥事隠し、小泉首相こそが「抵抗勢力」であるとの認識の広がり等々、小泉政権とは自民党の金権政治と構造腐敗そのものを温存する隠れ蓑、延命形態でしかないことが国民の前に明らかになったのです。それだけではありません。悪化一途のデフレと金融・経済危機の未曾有の深刻化の中で「構造改革」とは結局は国民に、特にその低所得者層、社会的弱者に窮乏状態を押し付けるだけ苦しめるだけの方便に過ぎないことが暴露されてきたのです。医療費本人3割負担などはほんの一例に過ぎません。一言でいえば、口先だけの小泉政権の化けの皮が急速に剥がれているのです。支持率は5割を切り低下し続けています。
 とはいえ、窮地に陥った小泉政権が、野党の弱点である「安保問題」「有事立法」で反転攻勢に打って出る可能性は十分あります。私たちは有事法制反対を今国会の最大の焦点として位置付け、闘いを構築しなければなりません。政府は、有事法制の法案化と国会上程について、3月中旬に法案の骨子をまとめ作業を本格化すると表明しています。アメリカの「報復戦争」と日本の参戦に反対してきた私たちの署名運動としても、早急に有事法制との闘いについて議論し共通の基本方向を打ち出したいと考えます。
 
(3)小泉首相を追いつめ、有事法制を阻止しよう
 現在準備されている有事法制は、危険極まりないものであることは言うまでもありません。そしてまだその全体像はあきらかになっていないものの、以下の概要が浮かび上がってきています。はっきりしていることは、この法律が政府が言うように「日本に対する武力攻撃」に対処するもの、つまり「自衛」や「防衛」ではないということです。
@ この法律はまず第1に米軍の侵略戦争、特に北朝鮮に対する戦争や現在アメリカが主張する「対テロ戦争」という名の侵略戦争に自衛隊と日本全体を協力させ支援させるための法律です。そのために内閣官房文書では「日本有事」だけでなく、「有事に至らない段階」を「有事」扱いすることを加えました。誰が見てもありそうにない「日本への侵略」ではなく「周辺事態」や「対テロ戦争」など台湾海峡有事や朝鮮半島有事の際に侵略行動に打って出る米軍を全面支援することを主目的にした法律なのです。しかも政府・防衛庁はこれに更に「大規模テロ対処」や「不審船対処」なども付け加えようと動いています。アメリカに対する「テロ」で日本を「有事」と宣言するものなのです。こんな恐ろしいことを絶対許してはなりません。
A したがって有事法制は、米軍の侵略戦争遂行のために米軍や自衛隊の軍事活動を制限する一切の国内法の法的制約を取り払い、無制限に自由に行動できるようにするためのものです。これがいわゆる1類・2類・3類事項です。例えば武器弾薬など危険物を積んだ戦車などが一般道を走り回ったり、空き地に勝手に陣地や物資集積拠点を作ったりすることを可能にするのです。
B 米軍の侵略戦争のために自衛隊だけでなく、自治体や病院、民間企業、個人に協力を強制するものです。これに抵抗する自治体、団体、個人を押さえ込むために「周辺事態法」には入れられなかった「非協力の際の罰則」が含まれると言われます。侵略に加担しなければ犯罪に問われるのです!また戦争のために勝手に土地を収用する、物資を徴用するなど国民の権利を大幅に制限することが含まれています。このままいけばこの法律は必然的に首相と国家機関、軍への権力集中と独裁政治をもたらさずにはおきません。
C このように有事法制は結局は戦前の「戒厳令」「非常事態令」など緊急の軍事独裁を可能とする法的な準備、地均しになりかねないのです。
 小泉首相と内閣官房がまとめている「緊急事態基本法(安保基本法)」がくせ者です。漠然とした「包括法」によって、日本を戦時体制に持ち込む白紙委任状を取り付けるつもりです。「有事」だけでなく「有事の前段階」(その判断は、時の政府が恣意的に勝手に決める)で広範な首相の独裁権限を持たせようというのでしょうか。政府内では、対イラク戦争を想定しその支援を前提に「テロ特措法」に代わる法律を問題にし始めています。仮に対イラク戦争が日程に上り始めるとすれば、来る有事法制の問題はアメリカの対イラク戦争への支援をも念頭に置いたものになり、将来の問題ではなくまさに差し迫る戦争と一体の問題になります。数隻の艦船を期間限定で出航させるという「テロ特措法」とは比べものにならない危険なものになるのは間違いありません。
 戦力の保持と戦争を禁じた日本国憲法のもとで、再びアメリカの侵略戦争に自衛隊を動員するだけではなく、日本本土全体、国民全体を侵略戦争に動員することなど絶対に許されません。有事法制反対の運動を全国各地で取り組み、反対の声を小泉政権に集中しましょう。

2002年2月27日
アメリカの「報復戦争」と日本の参戦に反対する署名運動事務局



 アメリカの「報復戦争」と日本の参戦に反対する署名運動 事務局