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  死刑の現状

死刑執行状況や死刑判決等、主に日本国内における死刑制度の現状を整理して報告します。

冨山常喜さんの獄死の責任は法務省にある

●波崎事件・冨山さん獄死
 9月3日、東京拘置所で波崎事件の冨山常喜さんが獄死させられた。享年86歳だった。一貫して無実を訴え続けて40年、獄死という形で再審無罪の望みは絶たれたのだ。平沢貞通さん、佐藤誠さんらに続き、またもや無実を晴らすことなく、長期の獄中生活の末、無念の死を遂げたのである。
 波崎事件とは1963年8月、茨城県鹿島郡波崎町で起きた「毒殺事件」といわれる事件で、冨山常喜さんが別件で逮捕され、一貫して無実を訴える彼を状況証拠のみで66年12月水戸地裁で死刑判決、73年7月東京地裁で控訴棄却・死刑判決、76年4月最高裁で上告棄却・死刑確定した。二度にわたる再審請求は却下されている。
 昨年夏以降、高齢と腎不全による病状悪化に伴い、命を最優先するため12月に恩赦出願を提出、東京弁護士会から「病状及び治療の照会」をする。保坂展人衆議院議員が森山眞弓法相に「冨山さんに対する緊急救済措置」を要請、新葛飾病院の清水陽一院長が冨山さんを診て、東京拘置所長に意見書を提出、同時に適切な医療が受けられるように「拘置所外病院移送」を申請。こうした冨山さんの命を救う努力をすべて無視して、東京拘置所の劣悪な医療体制の下で獄死されられたのだ。今年に入って確定死刑囚の獄死は2月の上田大さんに続いて二人目である。

●抗議し、追悼する会開催
 「拘置所側は慢性腎不全が死因だと発表しました。支援の私たちは、この死亡の真の原因は、既に数年前から不調を訴えていたのに、十分な治療を行わず、昨年12月に提出した恩赦出願書を無視したために発生した、間接的な死刑執行であると判断します」として、波崎事件対策連絡会議と波崎事件の再審を考える会は、9月27日、日本キリスト教会館にて「波崎事件 無実の冨山さんの獄死に抗議し、追悼する会」を開催。多数の人がやりきれない思いを抱えて集まり、冨山さんを偲んだ。
 会は、経過説明に続いて冨山さんへの面会や国会質問を積極的に行ってきた保坂議員から、つづいて事件の概要となぜ冨山さんが無実なのかを佐竹俊之弁護士がアピールした。抗議声明文採択後、黙祷・弔辞・献花・奏楽、第2部の偲ぶ会に移った。
 本誌では、冨山さんの獄死の本質を最も的確に話された保坂議員のアピールを要約して掲載する。

●保坂展人衆議院議員のアピール
 こういう形で報告をするのは残念です。何よりも冨山さん自身が悔しい思いを残されたことと身体の衰弱の中で命を終えられたことを、悲しく、切なく思います。
 私は、実は7月の末に最後にお会いしています。長年封印されていた死刑執行の場・刑場を、衆議院の法務委員長以下8人の国会議員で見るため東京拘置所に行ったわけです。 
 東京拘置所の中で見た刑場は大変ショッキングなものでした。藤色の絨毯、そして20畳くらいの部屋、そこに1.2メートル四方くらいの紅いラインが真四角にあり、もう一つ人がようやく立てるくらいの小さなラインがあって、そこに立つと上にロープをかけるフックがある。そしてスイッチを押すと、油圧式でかなりすごい勢いでばーんと落ちるんですね。その落ちる様子を向こう側から拘置所長、刑務部長、そして検察官、そういう人たちが1階と2階を同時にみれるバルコニーに立ち執行の様子を見る。そして上が藤色の絨毯で下が処置室、これはまさにコンクリートが打ちっ放しで最後に一番真下に真四角の汚水が入っていく鉄の格子がはめてある排水溝がありました。刑場の露と消えるというのはまさにこういうことなのか。
 刑場を見る前にICU(集中治療室)に横たわる冨山さんを見ました。ICUの中に入らずに、ガラス越しに冨山さんが寝ているのを見たわけです。私は前回会っているので一声かけさせて欲しいと言いました。東京拘置所の事務部長がそれだけはちょっと言いましたが、しかし私たちが来ているということで冨山さんを起こした。お元気ですか、とガラス越しに言いましたらうなずいているような感じで、みんな来たんだなと分かったとは思います。
 そして、3日、法務省の矯正局長から私に電話で、「実は本日未明に冨山さんが東拘で亡くなりました」というお知らせがあったんです。マスコミに発表されたのは慢性腎不全を死因としているわけですが、もっと詳しいデータを見せろ、どういう状態だったかということを言いました。それに対して、つい先般、法務省の矯正局、保安課長、医療分類課の人たちから説明を受けました。それで分かったことが新たにございますので報告をさせていただきたいと思います。
 9月18日の日付で法務省矯正局作成のペーパーがありますが、8月29日に医師団が打ち合わせをしたと書いてあります。そしていくつか検討したということですが、その中で白血球が大変増加をしてきているということと、CRP1.4が4.5になり12.4になっているんですね。これは炎症を表す値だそうです。最大値20くらいまでくると相当ひどい状態になるそうで、このデータは物的証拠だと思うんです。「我々はこの時点で感染症を疑いました」と言うので、その時点でどうしたのかと聞いたところ、「カテーテルの入れ替えを行いました」と言う。カテーテルを入れ替えた後、その後の血液検査をしなければ炎症がさらに広がっているのか収まっているのか分からないのですが、「その測定はしていません」と言うわけです。この値がどんどん上がっていってやばいからって処置をした。そのあと、この処置がうまくいったのかいかないかの検査をする前に亡くなったと言う。実にへんな話です。
 いま日本の病院で、亡くなる平均的な年齢は70歳半ばだそうです。しかし、日本全体の刑務所で亡くなっているのは52.何歳とかで、20年違うんですね。新葛飾病院の清水さんは冨山さんとの面会を実現したときに、患者さんである冨山さんの状況を見て、明日にでも引き取りましょう、この状態では絶対に回復はしませんよ、いわば緩慢に悪くなっていくだけで、このままだと必ず感染症を起こして亡くなる、と予言したんです。車で10分のうちの病院に来れば、このレベルになった患者さんに一生懸命接して、起きてみたり、口からご飯を食べるような形に戻す、トイレに行くような歩行訓練をしたり、いわゆる自立に向けた医学療養士によるサポートという機能があるというわけです。東京拘置所にはそれがない。
 名古屋刑務所事件に端を発した、あの不審死がなぜ生まれたのかということを、私が法務委員会で追求したところ、医療体制がなっとらんということなんですね。病院に行ってから亡くなるまでの間の平均が一日ないのです。3時間とか10時間とか、15分とかなんです。病院に1ヶ月入院したなんて人はいない。この法務委員会は、そのことを重々指摘しているわけですよ。100%国費で持つから、結局出し渋る。いま、受刑者多いですから、たとえ冨山さんであれ刑務官を二人貼り付けておかなければいけないとか、いろいろ理屈はあるんです。しかしこれだけ集中的に議論をして、冨山さんが東京拘置所で死んだという事実は重いと思います。だって、感染症で亡くなりますと予言してるんですから。
 私は法務省を、慢性腎不全って死因になりますかと問いつめたんです。腎不全になったから人工透析するんでしょ。人工透析しているということは腎不全なんです。人工透析によって腎臓臓器の代わりをしながら持ちこたえるというのが治療ですね。そういう意味で死因にならないじゃないかと。そこに感染症による肺炎だとか、何かなきゃおかしい。死因の特定はしたのかというと、医者がこう書きましたからこうですと言う。私の理屈どう思うかと聞きますと、それは一つの御意見としてもっともだと思いますと答えます。亡くなる直前にタイムリーに医師団会議が開かれてるじゃないですか。しかもCRPの値がここまで危険値になっている。ここでなぜ、清水医師もいつでもいいよと、うちは困難患者いっぱい抱えているよ、というところに移送しなかったんですか。
 それでも新葛飾病院で、もしかしたら亡くなってしまったかもしれない。しかし東京拘置所よりはいくらかの手だて、あるいは臨床経験があったのは違いないわけです。
 最後の最後まで機会を逸したんです。衆議院法務委員会で予告をされ、専門医からも指摘をされ、そして医師団が集まってやったのがこのカテーテルの取り替えだけで、その後検査もしませんでしたという杜撰な医療。同時に東京拘置所は3000人いて2ベッドしかありませんから、そのうち1ベットを冨山さんが特例的に、ずっとそこに横たわる。これもおかしな話です。緊急事態に対応できないわけです。3人同時に倒れたり二人同時に倒れると、ベットは一つしかないわけですから。私はこれは二重三重に医療の問題だと思います。
 冨山さん自身が再審請求し無実を語りたいという強い決意を私は直接うかがいました。ですから、40年もの長きにわたって無実を訴え続けた人をこのようにして亡くさなければいけないこの社会というのはなんとむごい社会なんだろうかということを強く思います。

●法務委員会での追及
 保坂議員は10月3日の衆議院法務委員会で、なぜ民間医療施設へ移送できなかったのか、亡くなった原因は何なのか、恩赦請求はどういう扱いになっていたのかを追及したが、答弁は、必要な医療措置が施され適切な病状管理に努めていた、死因についてはプライバシーで答えられない、恩赦請求については中央更生審議会の中立公正が損なわれるおそれがあるから答えられないというものであった。この答弁からも分かるように、まさに人権的な配慮のかけらもない法務省がこの獄死を強要したのである。    (文責・深田卓)