後藤田訴訟、東京地裁が不当判決

 講談社が1998年に発行した『情と理──後藤田正晴回顧録(下)」』の記述について、死刑廃止国際条約の批准を求める四国フォーラム(四国フォーラム)が、後藤田元法務大臣に対して損害賠償ならびに、国立国会図書館および全国688ヶ所の公立図書館、104ヶ所の大学等学校関係の図書館に掲示されている書籍に対して、記述の削除・訂正を求めていた裁判に対し、5月25日、東京地裁は原告の訴えを全面的に棄却する判決を出した。
 1989年12月15日、第44回国連総会で「死刑廃止国際条約」が採択された後、約3年4ヶ月続いていた死刑執行停止状態は、当時の法務大臣・後藤田正晴によってやぶられ、1993年3月26日、3人に対して死刑執行が再開された。執行再開の理由について、後藤田元法務大臣は、『情と理』の中で、以下のように述べている。
 「少なくともいま死刑制度がある以上、裁判官だって現行制度をきちんと守って判決をしなければならないと思って、敢えて判決をしているわけですね。それを行政の長官である法務大臣が、執行命令に判を捺さないということがあり得るのか。それが僕の考え方です。(略)同時に僕は、それだけでもいかんだろうと、世論調査ではどうなっているか調べたんです。そうしますと、政府の世論調査では7割ぐらいが死刑賛成論者ですね。死刑執行反対は少ないんです。しかしこういうものはそうした結果が出ることが多いんですね。だから僕は、これだけではいかんと思っていたところ、たまたまその前年か前々年ぐらいに、四国四県の県庁所在地、高松、松山、高知、徳島の街なかの繁華街で、通行人に何の選択もなしに世論調査をやっている結果があったんです。それがまた同じなんだ。死刑廃止に反対なんだ。これは政府がった世論調査ではなくて、民間がやったんじゃないですかね。ちょっとはっきりしないんですけれど。それでも、そういう結果だから、これではまだ、日本では死刑廃止は早過ぎるという気がしたんですね」。
 つまり、政府が行った世論調査だけではなく、「民間」が行った世論調査でも「死刑廃止に反対」の結果が出たことから、「日本では死刑廃止は早過ぎる」と判断したというのである。
 ところが、四国フォーラムが行ったアンケートの結果は、「廃止」が「存置」を上回っていた。1992年10月と11月、四国フォーラムは、四国四県の県庁所在地で、市民に対し死刑の存廃について意見を問う街頭アンケートを実施した。その結果は、1955人の回答中、「(死刑制度が)いる」(存置)が687人(35%)「いらない」(廃止)が759人(39%)、「わからない」が509人(26%)であり、「廃止」が「賛成」を上回っているという結果だったのである。四国フォーラムは、後藤田元法務大臣がアンケート結果を改ざんしたとして、著作権の侵害、人格権の侵害、名誉権の侵害、プライバシー権(自己情報コントロール権)の侵害、幸福追求権の侵害(名誉感情の侵害)、思想・信条・良心の自由の侵害等を理由に、損害賠償及び記述の削除もしくは訂正を求めていた。
 東京地裁判決(斎藤清文裁判長)は、「当時本件アンケート以外には四国四県の県庁所在地で死刑制度についての世論調査が実施された形跡が窺えないことを考えると、本件記述中の四国四県の県庁所在地での世論調査は四国フォーラムが実施した本件アンケートを指していると認める余地がある」との前提に立って判断しているが、原告の法的権利を違法に侵害したかどうかについては、一切、具体的な内容を示さずに棄却した。また、今回の訴訟は、四国フォーラムにとっては、出版社・インタビュアーに対する裁判も含めると、『情と理』に対する第3次訴訟になるが、第1次訴訟と共通する原告13人に対しては、前訴の「蒸し返し」であるとの判断を示した。
 しかし、第3次訴訟は、第1次訴訟で認定された後藤田元法務大臣の侵害行為に対する事実認定に基づいて起こされた新たな訴訟であり、四国フォーラムは、控訴して、あくまでも記述の削除・訂正を求めていく構えだ。 (島谷直子)

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