新刊案内

『年報死刑廃止2000-2001 終身刑を考える』

インパクト出版会 二〇〇〇円

 発行が一年遅れ、二年分の合併号となった。第一特集は「終身刑を考える」。
 メインテーマが「終身刑」に切り替えられたのは、二〇〇〇年九月、与党三党が「終身刑検討プロジェクトチーム」を設置したことが大きい。廃止運動内で、代替刑としての終身刑論議が躊躇されているうちに、死刑と無期刑の落差を埋めるための終身刑導入が、突如浮上したのだ。プロジェクトチーム設置を提案した公明党は、段階的死刑廃止を射程に入れているが、果たして運動側はじっと見ているだけでよいのだろうか。
 東西論客六名による座談会では、「廃止論者が終身刑を口にするのは論外」「日本の現状を分析すれば終身刑導入が廃止への近道」「国家権力は決して死刑は手放さず、無期との間に終身刑が新設されるだけ」「それでも死刑判決は確実に減る」と白熱する。

 近年、被害者問題が注目され、いくつかの法改正も実施された。その結果、裁判が厳罰化の方向に振れるのではないかと懸念されている。その流れに沿って、無期刑の仮釈放資格取得年限を20年とする「重無期刑」の新設も秘かに議論されている。
 廃止論者は、「死刑廃止」だけを言い続けていればよいのか、刑罰制度変革の流れに正面から切り結んで行くべきなのか、特集を熟読の上、それぞれが考え、結論を出す時期に来ている。
 第二特集は「死刑の時代へどう踏み込んできたか」だ。99年12月、法務省は再審請求中並びに人身保護請求中の死刑囚を執行した。これまで避けてきた再審請求者の執行は、何が何でも死刑判決を執行するぞとの、強い決意表明と受け取らざるを得ない。執行阻止の有力な手段となっていた「再審請求」の力が薄められた。
 死刑以外に、組対法、ガイドライン、国旗・国歌法など悪法が成立した99年を、福田雅章、海渡雄一、笹原恵が分析する。

 ほか二年分の資料も満載。一家に一冊、必需品と心得られよ。


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