「いのちの絵画展2001キャンペーン」始動

片柳弘史(カトリック・イエズス会神学生)

 カトリック教会からの呼びかけに答えて、宗教界を中心に死刑制度を問い直す ためのキャンペーンが始まった。死刑囚達が獄中で描いた絵の展覧会である「い のちの絵画展」を中心として、勉強会、講演会、シンポジウム、祈りの集いなど を日本各地で行おうというものである。このキャンペーンを「フォーラム90」 の皆さんにもご紹介し、参加、協力を呼びかけたいと思う。

一、カトリック教会と死刑制度
 はじめにこのキャンペーンの背景となっているカトリック教会の死刑廃止への 取り組みについて紹介したい。
 1995年ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世は、世界をあっと驚かせるような文書を発表した。使徒的書簡『いのちの福音』である。従来、教皇は死刑制度について肯定的な態度を取ってきた。しかし、この書簡の中で教皇は、死刑制度は社会防衛のために必要な場合もあるが「しかし、刑罰制度が着実に発展した現代においては、そのような場合はもし存在するとしてもきわめてまれである。」として、死刑廃止を求める立場をほのめかしたのである。
 その後、教皇は1998年のクリスマス・メッセージで、クリスマスが死刑廃止についての合意形成の助けとなることを願うという内容の発言をし、死刑廃止を求める立場を明白にした。教皇は引き続いて1999年には、メキシコやアメリカのセントルイスでの演説の中で死刑廃止に言及し、同年12月12日のバチカンでのお告げの祈りでは、「世界の全ての指導者達が死刑廃止に同意するよう、あらためて訴えたい。」と述べた。さらに近年教皇は、具体的な死刑囚の名前を挙げてアメリカ政府に対して助命を願うという行動すらしている。
 このような動きを受けて、日本のカトリック司教団も今年、司教団メッセージ「いのちへのまなざし」のなかで、はじめてはっきりと死刑制度について言及した。このメッセージの中で司教団は「法治国家としての体制が整いつつある現代社会にあっては、これまで死刑制度を容認してきたさまざまな根拠は、その説得力を失いつつあると私達は考えます。」と述べ、教皇のとともに死刑廃止を願う立場をあきらかにした。
 この日本カトリック司教団のメッセージが、今回のキャンペーン発足の大きな助けとなった。シスター・ヘレン・プレジャン(カトリック修道女)に代表されるようにアメリカでは教会が死刑廃止運動の先端に立ってきた。今回のキャンペーンは、日本のカトリック教会もプロテスタント諸派や仏教諸派と共に生命尊重のために立ち上がりたいという願いを込めたものである。

二.キャンペーンを構成する組織と賛同者
 このキャンペーンは、世話人会とコーディネーター、事務局、そして各イベントの実行委員会から構成されている。世話人会がキャンペーン全体の運営方針を決定し、各実行委員会がそれを現実化していくというシステムである。コーディネーターはこのシステムを円滑に機能させる役割を果たす。
 現時点で世話人となっている方々は、

の7名である。
 コーディネーターは片柳弘史(イエズス会神学生)が務めており、事務局はイエズス会社会司牧センターに置かれている。現在活動している実行委員会は、上智大学カトリックセンター・シンポジウム実行委員会、死刑制度を考える証言と祈りの集い実行委員会、新谷のり子コンサート実行委員会、広島「いのちの絵画展」実行委員会などである。
またこのキャンペーンの賛同人には、 白柳誠一(カトリック枢機卿) 池長潤(カトリック大阪大司教区大司教)
森一弘(カトリック司教) 松本紘一(イエズス会日本管区管区長)
山田經三(上智大学教授)  ホセ・ヨンパルト(上智大学名誉教授)
新谷のり子(歌手) ハビエル・ガラルダ(上智大学教授)
 などがなってくれている。先日、団藤重光先生(奥様がカトリック信者)からも賛同の内諾を得た。

三.イベントの展開状況
 このキャンペーンは今年の1月31日にカトリック麹町教会で行われた、『デッドマン・ウォーキング』の原作者、Sr.ヘレン・プレジャンの講演会をもってスタートした。この講演会に500人以上が来場したことは、死刑制度に対する人々の関心の高さを物語るものと考えている。
 2月、3月にはカトリック麹町教会で死刑制度についての連続勉強会が開かれ、市原みちえ、新谷のり子、原田正治、榑林理恵子などの方々からお話を聞いた。4月現在は上智大学のホアン・マシア教授が「いのちを語り合う会」において死刑制度についての公開意見交換をしている。
 この後、5月のゴールデンウィークには山口のザビエル記念聖堂でいよいよ「いのちの絵画展」が始まる。6月には広島のエリザベト音大、東京の上智大学などでも絵画展が行われる。夏以降も各地で開催される予定である。
絵画展の開催にあわせて、各地で講演会なども企画されている。東京では、6月30日に上智大学で加賀乙彦氏などを招いたシンポジウムが行われる。広島では原田正治氏やホアン・マシア師を招いた講演会が予定されている。また、6月末には東京でコンサートや超教派の祈りの集いも行われる予定である。超教派の祈りの集いは日本キリスト教協議会(プロテスタント)、アーユス仏教国際協力ネットワーク、イエズス会社会司牧センター(カトリック)の三者が呼びかけたものである。これまでに死刑制度について関心を持ってきた宗教者達が多数参加を表明しており、死刑制度を通していのちの尊重を中心とした諸宗教の対話も進むことが期待されている。

四.将来への展望
 このキャンペーンは今まで死刑制度廃止に向けてまとまって声をあげることのなかった日本のカトリック教会が、その組織力と施設、人材を生かして他の宗教団体と共に死刑廃止に向けて動き始めたものであることに特徴がある。従来イベントなどを行うためには会場費が大きな問題となったが、教会やカトリック系大学などの施設を利用することで会場費がまったくかからないこと、社会的影響力は大きいが今まで死刑制度について声を上げてこなかった著名なカトリック学校、信者達が死刑制度について声を上げ始めたこと、全世界にいる10億のカトリック信者達、およびローマ教皇庁との連携が可能であることなどはその具体例である。
 上に述べたように、ローマ教皇は再三にわたって死刑廃止を訴えており、日本カトリック司教団も今年2月に死刑制度廃止を求める意向を表明した。プロテスタント諸派も死刑廃止を求める声明を度々出している。しかしながら、まだ教会内ですら死刑存置派の人々が多数いるという事実は否定できない。キャンペーンの使命はまずカトリック教会、プロテスタント教会や仏教界などの宗教関係者の間で死刑制度の実情を訴え、問題提起をすることにあると考えている。この動きが、長年にわたって死刑廃止を訴えてこられた市民運動関係者の方々からも理解を得られることを願っている。将来的には、宗教界と市民運動が手を結ぶことで、死刑廃止に向けた一石を日本社会に対して投じていくことができればとも考えている。皆さんのご理解とご協力、そしてご参加をお願いしたい。
キャンペーンの連絡先
イエズス会社会司牧センター Tel. 03-3359-7655
〒162-0054 新宿区河田町7-14 pyopyo@m78.com
ホームページ  http://www.kiwi-us.com/~selasj/inochi/index.htm

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